平成20年11月3日掲載

  「特別投稿作品」

    越 前 の 秋

 秋 25題     身 に 沁 む     

         木津かずのり (鯖江市)

小面の含み笑いや夜の秋

銀漢や無理数の桁限りなし

台風の眼の真中より電話来る

いわし雲期限切れたるパスポート

稲刈りし手もて笛の音奉る

幸せはほどほどでよし稲雀

鳥渡る往く道はまた還るみち

ひそやかに宵の盛り塩小望月

月白や百幹の竹かぐわしき

かまつかのひた紅を愁いとす

粧える山は活断層の上

選外の菊の月日を思いやる

そぞろ寒休刊を告ぐ一俳誌

淹れたてのコーヒーの渦秋深し

水尾なべて末広がりや湖小春

露けしや手首で計る米の水

虚も実も映して秋の水澄めり

知らぬ顔しており梨を剥いており

秋うらら谺のこだま還りくる

指切りの指やわらかし秋夕焼

恙なき生活秋明菊咲けり

衣被生涯消えぬ国訛り

神鶏のおろおろ歩く神の留守

忽然と山霧人を攫いけり

身に沁むや使い切れざる季語いくつ

 

 

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