平成12年10月1日掲載

 

  や ま ん ば

 

ばばの子は山墓を棄て月を棄て

窪石はとうすみの尾に打たれたり

ばばを打つ風も有りたり既の秋

棄てて来し道克明にみちおしえ

月の出へ美童を食べて肥る姥

釣舟草断腸の雲ながるるに

月に飢えて泣訴の狸踊るかな

ひとの子の事切れるまできりぎりす

足三里ほどはいよじり盗人萩

桔梗やさわさわ過ぎし一昔

芋嵐飢民は瞑るばかりにて

姥岩に片身はなさず蛹蝶

電車来ぬ山の蝗を狩るごとく

ばば臥せし磐のしとねに月の狐狸

越後・甲斐涙の種に月の姥

謙信の雲へ月夜のかねたたき

くつわむし山賊の髭押し通る

まろうどへ磐根の萩は刈られたり

葛の花汗臭く頚来つつあり

月読みのくにへ眼凝らし帰還兵

 

坩堝 平成元年10月号所載

 

戻る