平成12年9月24日掲載

 

     

 

乾坤の一擲月のいずるかな

光りふと水底めきて良夜の雲

月光下寒くてならぬ貝ボタン

百渓の水気集めて月蒼き

月の水落つるべき田は有らずなり

月の句座果てて一日を失えり

刻々や月さらしなの山の邑

激白を小声に月の真暗がり

斯くも永き人の世なるか厠の月

月読の国人らしき野良帰り

かなしびのすでにきざして月の狗

ヘリコプターなども居たりし月の空

月光や鼻の先吹く風を見て

月中天逆上の瀬の微白光

月や孤や遂に灯らぬ塔なりき

月蒼し欅の鴉哭かしめて

月匂う事の次第のめでたさに

行き渡る寒さしみじみ月落ちる

 

「坩堝」平成2年・11月号所載

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