平成12年8月4日掲載

修 那 羅 の 四 季

 

     春の石

修那羅佛 春はやさしき物語り

誰彼に似し修那羅佛 春寒す

春嵐 鬼神に威あるわびしさよ

塞の神見て春霧と言うに入る

鬼女の指やさしき不思議 わすれ雪

峠路や足裏を掻いて木の芽吹く

おとめらに見られもの言う春の石

黒土の起伏 樹液を溜め歩く

馬頭佛 疾らぬ地虫穴を出る

糸桜 垂直に 神の鈴疲れ

黄桜や 五指もて掴む塚の風

子連れ佛 季春の人語あやつらす

火の神の背に陥つ真穹 夏近し

春霧の重さ 紛れもなき修那羅

春の嶺幾重をかぞえ疲れけり

 

     夏   草

朴の葉の濡れて広がる梅雨の声

郭公の雨に伴れ泣く子抱き佛

雨蒼き 笠被る神の笠も石

塔なべて美しすぎる梅雨の中

身じろいで阿修羅が涼む日陰哉

湯文字してすなわち女神 薄暑かな

ぶなの花穂ぽつり 生者の世迷言

鬼神の遠まなざしに山灼ける

囁き神に木魂降りても還らぬ日々

一人静に儚なの風来 日落ちたり

姫神のさびしらに 蛾の恋ゆるす

長ける夏草 歩いても歩いても

青梅雨や阿修羅が風邪の臍さらす

土蜘蛛の吐息でこぼこ修那羅佛

 

     秋 は 足 早 

口締めて八朔を冷ゆ女神

草もみじ 修那羅にもある女坂

獣神に日を食われくろずむ小柿

欠け佛に日暮 秋津の弱りもす

雁渡し愛の御像の女々しからず

この嶺の初霜見んと愚直佛

脚神に茸這いのぼす月明かり

身に咎ありて露の薄に博たれけり

くだち佛眩し 初秋まぎれなし

吹かれてばかり 楢山の蝶として

白風や秘仏が生める影の余白

みなし栗いつか妻恋うこと稀に

木枯し泣かせ鬼女にもホトのあるらしき

華すすき 魂ほとばしるごと そばえ

鵙発矢 発矢 動かぬめしい佛

秋立つや 虚実を縫うて恋の神

石恋いの愚かおろかと秋立ちぬ

秋を痩せ修那羅の鬼女をいとしめり

山霧の真中茫々 死後のこと

秋は足早 なにくれ濡るる神の山

 

     冬 の 文 目

白息の吾に縷縷たる石の声

凍てを頭に神に及ばぬ貌してみる

凍て瘤の濡れるにしかず 深雪佛

雪杉の黙見て飽かず岩屋佛

焚けば火の穂も昼の鬼火に雪地獄

湿雪の光りを量る千手佛

踊り佛 雲に輪廻の春近み

神の雪ねんごろに掃き宮司老ゆ

眼の神のいのちの目より凍て初めぬ

瞠目の像に音立て凍てわたる

凍雲に向き荒神の眼なりけり

昼月の切に翔けゆく凍修那羅

子安神垂氷斜めに風に佇つ

降る雪の隙間を呼べり 呼子神

岩篭めの神にひだるき雪おこし

人去れば雪見てばかり 岩屋佛

悲母像の頬骨匂う深雪晴

雪晴れを疾らぬと決めけもの神

凍つる日も貌さりげなき恋の神

石の父老ゆ 雪ごろも幾かさね

寒茜さめざめ被れり鬼子母神

凍修那羅 夕ざれは霧ばかり訪う

日あまねし 微塵も光る枯修那羅

枯無尽 木霊に還る日のあらず

石甕の真実泣けり 片時雨

枯萩の疲れに篭り修那羅佛

風囃す神居りて速き修那羅の冬

いつも黄泉に向く靴尖を雪の上

さめざめと女佛に汲まれ寒の雨

薄雪の悪霊像を犬が嗅ぐ

鷹の眼に射られて盛んなる霧氷

茜して雪の稚佛のわらいぐせ

小清水のきらめき殖えし二月尽

鬼女の目の情火に睦む冬日向

父子像に冬の文目の透き硝子

凍修那羅日暮は人も死にに来よ

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