平成21年5月17日掲載

  「特別投稿作品」

    越 前 の 春 

         木津かずのり (鯖江市)

    鳥 雲 に     

残雪や湖に縋りて蜑の家

雪解風さらりと人の噂など

待春や舫い舟には藻の匂い

一指だに触れざりし恋卒業す

蒲公英や看取りの長きこと言わず

灯る窓灯らざる窓春灯

チューリップ先生百の耳を持ち

春の風邪何時ひきしとも癒えしとも

梅一輪仕立下しの風に逢う

校名に残る村の名鳥雲に

山はよき谺返しぬ春日遅遅

朝寝して孟浩然の夢心地

雨垂れは癒しのリズム春障子

校庭の大き桜の知る歴史

殉国をひた讃えたる頃の花

葱坊主すでに第一反抗期

信楽の陶狸百態春の塵

春の雲ほどよく乾く濯ぎもの

産院の窓それぞれの春灯

夏隣働く髪を小さく結い

母も子も花に抱かれてしまいけり

陽炎の中へ嫁いで行きにけり

啄木忌乗り換えて聞く国訛り

摘草をして戦争を子に聞かす

輪唱の元祖蛙かも知れず

 

 

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