平成14年5月12日掲載
馬鹿な眼
ふつふつと別れの予感木の葉散る
火事近し血相変えて美女コスモス
侘しくて爪切れば妻も切るという
しぐるるや網膜に差す赤い文字
宰相ありて死なずにきゆる冬の虹
雪近し夜泣きの森へ受話器置く
初の雪最も辛き家に積む
いつも踏む框が冷えていたりけり
遠音鵙窓の木枠は疲れたり
文化の日無欲の嘘を吐き通す
風邪薬売りたり睫毛ばかり見て
救急車うとましくいて冬や立つ
電話の声余りに近し咳をこぼす
女に冬白髪一筋ふた筋ほど
みんないて侘しい冬を考える
冬鵙やあやうき高さあるかぎり
親不孝子不幸さらに雪が降る
防寒肌着やがては目から先に死ぬ
ストーヴに曝して馬鹿な眼になりぬ
坩堝平成3年一月号所載作品