サルコイドーシスという病気を理解していただくために
     京都大学医学部附属病院呼吸器内科  間質性肺疾患診療グループ
 
◆どんな病気なのでしょう?
サルコイドーシス(sarcoidosis)というのは、ラテン語で「肉のようなものができる病気」という意味です。目に見える大きさのものから顕微鏡でやっと見えるようなものまで、大小様々な類上皮細胞肉芽腫(るいじょうひさいぼうにくげしゅ)という「肉のかたまりのような」組織ができる病気です。「肉のかたまり」といっても癌とは全くちがって悪性疾患ではないのでご安心下さい。また、感染症ではありませんので、他人に感染する心配はありません。
日本において、1年間に新たに発症するサルコイドーシス患者数は人口10万人あたり2〜3人です。喘息の人口10万人あたり約3000人に比べるとずいぶんまれです。
 
◆原因は?
サルコイドーシスの原因はまだわかっていません。体のなんらかの異常反応であることには間違いないのですが、何に対する反応なのか、どういう体質の人がそのような異常反応をおこすのか、などわからない点がたくさんあります。
 
◆遺伝するのでしょうか?
同じ家族で発症した例がごく少数これまで報告されています。しかし、ほとんどの方は血縁内に同じ病気の方がいません。一般的にはサルコイドーシスは遺伝しないと考えられています。
 
◆体のどこが病気になるのでしょう?
サルコイドーシスは、肺、心臓、肝臓、腎臓、唾液腺、涙腺、皮膚、筋肉、骨、リンパ腺、眼、神経、など全身のあらゆる臓器に起こりうる病気です。しかし、全ての患者さんが全身の臓器に病変を持っているわけではありません。病気のおこる頻度の高い臓器は、肺および胸部のリンパ腺(80%)、眼(50%)、皮膚(20%)などです。どこに病気がでるかは患者さんによって異なり、ある人は肺だけ、ある人は眼と皮膚、ある人は肺とリンパ腺、ある人は神経だけ、・・・などといったぐあいです。
 
◆どのような症状がでるのでしょう?
病気が現れた臓器によって症状が異なります。
肺および胸部リンパ腺:肺炎や喘息などとちがって、咳や息切れといった呼吸器症状がでることはむしろ少ないようです。かなり肺の病気が進んだ場合には呼吸困難を感じるようになります。
眼:多く場合は「ブドウ膜炎」です。霧がかかったようにぼやけたり、視野の中を黒い点が動いたりします。
皮膚:赤い隆起性病変であることが多く、痒みや痛みを感じないことの方が多いようです。とくに顔にできたときは美容上問題になります。
リンパ腺:首や脇の下、脚の付け根のリンパ腺が腫れることがあります。ほとんどの場合痛みがありません。
心臓:軽症では軽い心電図異常程度ですが、実際に脈がとんだり急に遅くなったり、不整脈を自覚するようになったら注意が必要です。重症になると心臓が正常に働かなかったり、突然心臓マヒをおこすことがあります。実際、サルコイドーシスによる死亡の半数以上は心臓に関係するものです。ですから、患者さんの側でも医者の側でも、心臓にかかわる症状には細心の注意が必要です。
肝臓:病変が広範囲であっても、それによって肝臓の機能が低下したり、黄疸が出たりすることはあまりありません。
腎臓:サルコイドーシスの活動性がかなり高い患者さんでは、腎機能が低下していることが少なからず見られます。
神経:多くは神経マヒの症状がでます。 そのなかでも多いのは顔面神経マヒと聴覚神経マヒです。ある日突然、顔の一部が動かなくなったり、耳が聴こえなくなっていることに気がつきます。これらの症状のほとんどは、後で述べるような治療によって治すことができます。また、脳の下垂体という部分に病変ができると、尿崩症といって、通常の5〜10倍もの尿が連日続くことがあります。
筋肉:多くの場合は腫瘤状(こぶ)になりますが、実際に感覚異常や運動障害をおこすことは多くはありません。
唾液腺涙腺:唾液や涙の分泌がそれぞれ減り、口の渇き、眼の乾きを自覚するようになります。虫歯ができやすくなったり、眼に異物感をいつも感じるようになるかもしれません。
骨:骨髄中に肉芽腫が形成されるために、骨が腫れたり破壊され、このとき痛みを伴います。しかし、骨病変の頻度は日本では1%前後と低く、実際私たちの診療経験からもまれといえましょう。
カルシウム異常:サルコイドーシスでは、体内のカルシウムのバランスが崩れることがあります。このため、血液中のカルシウム濃度の上昇や、尿中カルシウム排泄量の増加がおこり、骨が弱くなったり(骨粗鬆症)、腎結石ができる原因となります。腎臓をいためることもあります。
 
◆どのような検査をして診断するのでしょう?
血液検査:とくに「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」はこの病気の活動性の指標として重要です。
胸部CT:肺の細かい病変を調べます。
気管支鏡検査:肺の中をうすい食塩水で洗って、その成分を調べます。
組織検査:サルコイドーシスは、類上皮細胞肉芽腫という顕微鏡で確認される組織所見を確認することで診断されます。そのためには、気管支鏡検査で肺の一部をとって調べます(経気管支肺生検といいます)。もし、皮膚病変が認められるのならその一部をとって調べます。触れてみて腫れているリンパ腺があればその組織検査で診断を行うこともあります。また、これらの検査で診断がつかないときや、腫瘍性病変や他の間質性肺疾患も疑わしいときなどには、縦隔鏡検査や胸腔鏡下肺生検などの外科的処置を必要とするときがあります。
その他:尿検査、腎機能検査、肺機能検査、心電図なども欠かせない検査です。心電図で異常が見つかれば、循環器科の先生にさらに詳しく調べてもらうことになります。また、全身のサルコイドーシス病変部位を調べるために、ガリウムシンチという放射性同位元素をつかった検査をすることがあります。
・診断のために7日くらいの検査入院が必要となります。
 
◆どのような経過をたどるのでしょう?
肺の付け根にあるリンパ腺(肺門リンパ節といいます)が腫れているのが胸部レントゲン写真で発見された方で、肺そのものには異常がなく、また、肺以外の臓器にも異常がない方は、100人中およそ80人くらいのわりで、診断されてからおよそ5年以内に自然に治ります。残念ながら、それ以外の方は慢性化し、これから「上手なおつき合い」を考えねばなりません。慢性化しても症状のでない方が大部分ですが、数%の方で肺や心臓の病気が進み、ときには命にかかわる事態にいたることがあります。欧米では肺移植により元気になった方がいます。
 
◆治療はどうするのでしょう? 
サルコイドーシスは自然に治る可能性のある病気である一方で、治ったと思って治療をやめると再発することも多々ある病気でもあります。そこで、国際サルコイドーシス学会では次のような治療指針を提唱しています。
    ◇無症状ならばあえて治療はせずに、病気の自然経過を見守る。
    ◇次のような場合には治療を開始する。
    ・肺病変の進行
    ・心臓病変
    ・具体的な機能障害を伴う中枢神経病変(先に説明した、顔面神経マヒや聴覚神経マヒ、尿崩症などのことです)
    ・点眼薬で改善しない活動性眼病変
    ・美容上問題となる皮膚病変(とくに顔にできた病変に対して)
    ・持続する高カルシウム血症・尿症(結石や腎障害の原因になります)
 
◆どんな治療をするのでしょう? 
ステロイド剤
現在、サルコイドーシスに対して治療効果がはっきりわかっているのは副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤です。元々ステロイドは、副腎といって腎臓の上にある親指の先ほどの小さな臓器で造られる、生命・活力に必要不可欠なホルモンです。このホルモンは新陳代謝を活発にするだけでなく、炎症やアレルギーなどの異常な免疫反応を強くおさえることもわかっています。しかし、一方では、長期間服用すると様々な副作用が生じてきます。太る、顔が丸く腫れる、糖尿病がでる、コレステロールが上がる、骨が弱くなる、ケガが膿んだり治りにくくなる・・・、などです。一般的には「ステロイドは怖い薬だ」というイメージがあるのはこのせいです。治療を考えるときには治療効果と副作用とのバランスを常に考える必要があります。
ステロイド剤に替わる治療薬剤
ここ数年、注目を集めている薬にメソトレキセートという薬剤があります。免疫抑制剤の仲間ですが、ごく少量を使います。すでに慢性関節リウマチでは治療効果が認められ、保険適用にもなっています。この薬は1週間に1〜2回のむだけでよく、ステロイドの長期服用で出てくるような副作用が全くありません。効果はステロイドと同等あるいはそれ以上が期待されています。副作用として、白血球が減ったり、生殖細胞に影響がでたりするため、男女を問わずとくに若い方には使いにくい面があるというのが難点です。私たちは現在この薬による治療を検討中です。
 
◆生活上どんな注意が必要でしょう?
サルコイドーシスだからこうしてはいけない、ということはとくにありません。ただ、症状のある方においては、精神的、肉体的ストレスのかからない生活をする、というのが慢性疾患と上手に付き合っていくコツのようです。もちろん、家族の方の暖かいご理解が不可欠なのはいうまでもありません。
 
◆特定疾患(難病)認定について
サルコイドーシスは特定疾患いわゆる難病に指定されています。診断がついたら特定疾患申請用の診断書を主治医が準備しますので、もよりの保健機関(保健所もしくは役所の保健課)に申請して下さい。認定されれば、重症度に応じて医療費の自己負担分の全部または一部が国の負担となります。
 
◆おわりに
病気と付き合って行くためには、まず、病気を正しく理解することがとても大切です。そして、いたずらに不安にならない、悪く考えすぎない、いつも病気に対して前向きに対処して行く、という姿勢がとても大事です。私たち医療スタッフも、患者さんとの協力体制をより強固なものとするために、病気の経過や新しい治療法などについて、皆様にきちんとお話していく姿勢を守りたいと考えています。
なお、日本サルコイドーシス学会ではインターネット上にホームページを開いています。アドレスは<http://jssog.com>です。学会だけではなく、患者さんの友の会などの情報も得られます。ぜひ一度アクセスしてみて下さい。

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