ぶどう膜炎の合併症
 ぶどう膜炎があると,様々な合併症が起こることがあります。 ぶどう膜炎による失明や高度の視力低下は, 合併症によるものが約半数を占めるため, 合併症の治療は非常に重要です。代表的な合併症について解説します。

緑内障(続発緑内障)
 緑内障とは,眼圧が高くなって視野に障害が起こった状態をいいます。 眼圧が高いと視野が次第に狭くなり,視力も低下します。失明の原因と なる重大な合併症です。

 ぶどう膜炎の人は,いくつかの原因で緑内障が起こりやすくなります。 もっとも多いのは炎症で眼内に出現した「にごり」,すなわち白血球などの 炎症細胞や破壊された組織の断片などが隅角の房水排出部に「めづまり」 を起こし,眼圧が下がらなくなるものです。

 眼圧が上がると眼のかすみ,眼痛,頭痛,電灯のまわりに虹がみえる などの症状が起こることがあります。眼圧が上がっても自覚症状はないことも 多いので,ぶどう膜炎では必ず定期的に眼圧をはかる必要があります。 眼圧が高い場合には治療が必要です。

白内障(併発白内障)
 白内障とは水晶体が濁ることです。ぶどう膜炎が1〜数年続くと, 水晶体が濁ってきます。白内障は次第に進行しますので,それにつれて視力も低下します。 白内障が進行すれば手術によって濁った水晶体を取り除きます。眼のなかに濁った水晶体が あると視力がおちるだけでなく, 医師にも眼内の異常が見えにくくなるため,硝子体や眼底 の異常を見落とす危険があります。

 ぶどう膜炎があっても,炎症が強いとき以外は,いつでも白内障の手術はできます。 手術によって視力がどれだけ回復するかは,網膜や視神経の障害の程度によって異なります。 ふつう白内障の手術をしても,ぶどう膜炎自体の程度や再発しやすさには,手術の前後で あまり変化がありません。

 白内障手術で同時に眼内レンズを挿入できるかどうかは,ぶどう膜炎の種類, 炎症の程度,眼内の変化や合併症,患者さんの年齢などで判断します。強い炎症が起こる人 に眼内レンズを挿入すると,視力をさらに障害する恐れがあるので好ましくありません。

 実際には,小児やベーチェット病のうちの一部の人を除けば,ほとんど眼内レンズを 挿入することができます。ぶどう膜炎の患者さんで人工水晶体を挿入した人は,ぶどう膜炎が 完全に治癒するまで,必ず定期的な診察を受ける必要があります。

虹彩後癒着(こうさい こうゆちゃく)
 虹彩のすぐうしろには水晶体(レンズ) があります。虹彩後癒着とは, 虹彩が瞳孔の縁 (ふち)で水晶体で癒着する(くっつく)ことです。虹彩後癒着が進行すると緑内障 になりやすく,また医師による眼球内の観察が困難になるので, 癒着の起こったときは 散瞳薬の結膜下注射で癒着をはずします。癒着してから数日以内ならほとんどはずせます。

 癒着の予防には,前眼部の炎症が強い時期に,瞳孔を大きくする点眼薬 (散瞳薬----ミドリンP,アトロピン)を使用します。

黄斑の(網膜)障害
 眼のなかで炎症が続くと,網膜の「黄斑」自体に炎症はなくても, 黄斑には浮腫(ふしゅ,はれること)が生じ,視力は徐々に低下します。

 黄斑の浮腫が続くと,黄斑の網膜には水のたまった小さな空間ができます。 この状態を嚢胞様黄斑浮腫(のうほうよう おうはん ふしゅ)と呼び, 視力はある程度低下しているのが普通です。

 嚢胞様黄斑浮腫があっても,炎症が早く軽快すると網膜は正常に近い状態に 回復しますが,そうでなければ網膜には回復できない障害が残ります。このような 回復不能の黄斑の変化を黄斑変性と呼びます。

 嚢胞様黄斑浮腫が存在するときに,黄斑の付近に強い炎症が起こると, 黄斑に孔(黄斑孔)ができることがあります。この際には視力は非常に悪くなります。

網膜表面の線維膜形成
 身体にキズや炎症があると,キズや炎症で傷んだ組織は次第に修復されます。 まずキズや炎症がある部分には血液中の線維素(せんいそ)がしみだしてきて糊状になり, 組織の損傷部分をふさぎます。そして この部分に線維が形成され,キズや損傷部分は 線維組織によって埋(う)められ,周囲組織とのつながりも回復します。

 しかし,このような身体の損傷をなおすための反応が眼の中で起こると, 網膜や硝子体のなかに線維塊(せんいかい---線維の かたまり) や線維索(ひも状の線維)ができます。

 また見掛けは炎症がなかった部分の網膜の表面にも,網膜と癒着した線維膜が できることがあります。この膜は外界から網膜に達する光を遮(さえぎ)るので, 物が見えにくくなるだけでなく, 線維膜や線維索は次第に収縮して,これらと癒着した 網膜を牽引するので,ひっぱられた網膜は障害を受けます。

 黄斑の表面にできた,このような線維膜を黄斑上膜(おうはん じょうまく)と呼びます。 黄斑上膜ができると視力が低下するほか,ものがゆがんで見えることもあります。

 この合併症は,ぶどう膜炎が発症してから1〜数年を経過してから起こるのが普通です。 膜形成の予防には,日頃から炎症を十分に抑(おさ)えることが重要です。

 線維膜や線維索ができてしまえば,状況に応じてこれらを切除する手術(網膜硝子体手術) を行わない限り,線維膜や線維索を除くことはできません。手術すれば必ず視力が 回復するわけではなく,手術する時点での膜形成からの期間・膜の状態・視力障害の 程度などによって,術後どれだけ視力が回復するかは異なります。また状況によっては, 手術により手術前よりも視力が低下してしまうこともあります。

その他の合併症
 ぶどう膜炎のある眼では, その他に硝子体出血,網膜剥離などの さまざまな合併症が起こります。このような合併症は早期に発見して, 適切な治療を行うことが望まれます。これらのなかにはレーザー治療や手術が必要 なものもあります。医師から十分説明を聞いて, 納得できれば早く治療を受けて下さい。


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