6.経過・予後
 肺サルコイドーシスの多くの症例では予後良好の経過をたどるが、一部の症例では線維化の 進行から予後不良の経過をたどる。また心病変のため死亡する症例もある。
 (1)胸部X線所見の推移(図5、6)
 無症状発見群では、胸部X線所見上の異常所見は、1年目に50〜60%、 3年目に80%前後が自然消褪する。呼吸不全から不幸な転帰に至る症例は稀である。 肺野病変が出現した後、病変の消褪する症例も少なくない。肺野病変が、そのまま悪化と 評価されるわけではない。
症状発見群では、無症状発見群に比較して胸部X線異常陰影の消褪は遅い。 ステロイド薬投与の有無にかかわらず、1年目に20〜30%、3年目に50%程度で 消褪するが、10年目にも40%程度の症例では残存(不変/進展)像がみられる。
 肺野病変例は、胸部X線陰影の消褪は不良である(図6)。
 (2)呼吸不全に陥る症例
 胸部X線所見上の異常陰影が存在しても、すべての症例が呼吸困難を呈し、 呼吸不全に進行するわけではない。
 10年以上の陰影残存例は20〜25%程度であり、症例全体からみれば 5%以下である。呼吸困難を呈した多くの症例では、発症から呼吸困難出現までに 15年以上の年月を要している。
 肺サルコイドーシスによる死因としては、線維化病変の進展による呼吸不全死 に加えて、線維化病変によるブラの形成から、難治性の感染症に陥る症例が少なくない。 肺高血圧を来す場合もある。
 (3)予後因子
 本症の予後因子には、肉芽腫病変の持続に関与する因子と、線維化病変の 進展に関与する因子との2種類がある。
 肉芽腫病変持続に関与している因子としては、発見/発症時に、@高年齢患者、 A症状発見者、B肺野病変例、C肺外病変を有する症例、が消失群に比較して多いことが あげられている。しかし、症例全体としての予後不良因子は指摘できても、個々の患者が どのような経過をたどるかの予測は困難である。さらに、線維化病変への進展要因に ついては、詳細は不明である。
 (4)活動度の指標と予後の指標
 血清ACE高値、BALFリンパ球増加所見などは活動期症例に認められる ものであり、活動度の指標となるが、経過・予後の指標としては、示唆されるが、 確立されてはいない。
7.管理・治療
 [1]管理・治療の基本
 肉芽腫病変形成の阻止と、線維化病変への進展阻止が基本的目標となる。
 現在までに知られている本症に有効な主な薬剤はステロイド薬である。しかし、以下のような理由からステロイド薬は すべてのサルコイドーシス症例に用いるべきではない。
 @本症には自然寛解が多い。
 Aステロイド薬は短期間の評価では確かに症状を改善し、胸部X線所見の改善をもたらすが、長期間にわたる観察では 有効であったとの報告はない。無症状例に対するステロイド薬投与は、予後不良に作用したとの成績もある。
 B本症の発症から肺の線維化病変への進展には10〜15年の長年月を要する。これだれの長期間、線維化病変進展防止 の目的で、たとえ少量でも継続してステロイド薬を投与することは、ステロイド薬の副作用を考えると不可能である。
 サルコイドーシスにおけるステロイド薬投与は、激しい症状に対し、有効量を短期間に限って投与すべきである。
 [2]管理・治療の実際
 (1)肺病変が認められる無症状の場合は、現状では無治療で経過を観察することが多い。
 (2)咳・呼吸困難などの症状が強い場合/肺野病変の急激な憎悪による、あるいは再燃(特にステロイド薬減量後) の場合は、ステロイド薬の経口投与を行う。有効な場合、ゆるやかに減量、中止する。無効な場合、できるだけ早く投与を中止する。 一部の免疫抑制剤を使用することもある。
 (3)呼吸不全に進展した場合
 @酸素療法(在宅酸素療法)
 A感染症の評価と治療が重要
 B酸素療法導入後の余命は1〜2年であることが多い。欧米では肺移植療法の積極的適応となる。
  

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