1.概念・疫学
 サルコイドーシスとは、原因不明の非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫病変(図1)形成を主徴とする全身性疾患である。(図2)
 本症は、欧米では第2次世界大戦前後には広く知られた疾患となっていたが、我が国では1950年代までは稀な疾患とされていた。1960年〜1970年には、呼吸器外来でときに経験するようになり、1972年からは厚生省特定疾患、いわゆる「難病」に指定され、本症に対する認識が広まってきた。1990年代になってからは、 病変遷延例の増加に伴って難治症例への対策が問題視されるようになってきた。
 サルコイドーシスは、肺(縦隔・肺門リンパ節)病変が高頻度にみられること、また健康診断時に無症状で発見される症例が少なくないところから、呼吸器科領域の疾患として扱われることが多いが、基本的には全身性疾患である。主なる病変部位は、肺が95%以上、眼が30〜40%、皮膚が5〜10%である。
 本症にみられる主な臨床症状は、@肉芽腫病変による圧迫症状、A肉芽腫形成部位における機能不全、B後遺症としての瘢痕・繊維化病変、によるものであるが、加えて眼病変、結節性紅斑にみられるような発病初期の血管病変による症状もある。
 性差は少ない。好発年齢は男女ともに20歳代であるが、40歳代以降は女子症例が多い。最近、発症・発見の高齢化が認められている。
 発症頻度、病像、臨床経過・予後において人種差・民族差の大きい疾患である。例えば、米国では黒人の発症率は白人より高く、予後も悪い。日本人では眼病変の頻度が高い。
 本稿では、肺サルコイドーシスを中心に記載する。
2.病因・病態生理
 発症機序に関しては、不明の病因物質によってマクロファージの活性化、次いでTリンパ球の活性化・増殖が起こり、またTリンパ球の病変部位への移行によってマクロファージ・Tリンパ球性胞隔炎が惹起される。 これらの細胞によって産生される種々のサイトカイン、生理活性物質の作用によって単球由来のマクロファージが類上皮細胞に分化し、肉芽腫病変が形成されると説明されている。
 本症にみられる類上皮細胞肉芽腫は、多くの場合、自然消褪するが、一部の症例では遷延化が起こり、また線維化病変に進展することがある。(図3)
 サルコイドーシスの病因物質は不明であるが、単一ではなく、類上皮細胞肉芽腫を形成しやすい一定の素因を有する人に発症した病態であろうとの理解が、有力な見方である。
3.発見動機
 健康診断の普及している我が国では、健康診断時に自覚症状がなく、胸部X線上の肺門リンパ節腫張像(bilateral hilar lymphadenopathy,BHL)所見から発見される症例が多い。 半数以上の症例が無症状で発見されている。特に若年者ではこの傾向が強い。
 症状発見群の発見動機をみると、眼症状が圧倒的に多く(50%)、特に中年女子において多い。次いで、咳・ごく軽度の呼吸困難・胸痛などの呼吸器症状(10〜15%)、発熱・倦怠感などの 全身症状(10%)である。皮膚症状が発見動機となる症例の頻度は欧米に比較して低い(10%)。

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