オーディオ日記 第40章 はじめに音楽ありき(その13)2017年7月8日


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達人によるオーディオクリニックの話として、しばし聴き入った後にやおら立ち上がってスピーカーの位置をトントンと僅かに動かしただけで音が随分と改善された、ということを結構聞く。そういう現場には居合わせたことが無いので今までは、う~んそういうこともあるのかな、という程度の認識であった。今回、従来はやったことの無かった、左右のスピーカーユニット間のタイムアライメントを測定し、調整してみた結果、僅か数センチの距離調整によって、測定上ならびに聴感上でも存外の結果が得られ、いやこういうことだったのか、と思わず合点してしまった。

複数のユニットを使用するマルチウェイのスピーカーシステムにおいて、タイムアライメントの重要性は今更語るまでもない。当方の場合は基本的なタイムアライメントの調整方法として、まず左チャネルで4wayのタイムアライメントを調整した後、その設定を(各ユニットの物理的配置が同じなので)右チャネルにも施していた。この状態で右チャネルを測定し、その上で音楽を聴いて、特段の違和感がなければ概ねそれで調整完了と考えてきた。タイムアライメントの測定は実体として左右スピーカーを個別に行っていた訳である。もちろん左右のスピーカの設置位置はリスニングポイントから同距離、シンメトリーとなるように意識してはいるのだが、レーザー距離計などによるミリ単位(?)などの調整までは行っていない。そのような調整を行われている方も多いと思うのだが、、、迂闊であった。

前回、リスニングポイントにおける直接音、反射音(含む残響音)を含めたトータルな周波数レスポンスというもの主眼をおいて測定してみたが、その過程で左右のスピーカーに対するタイムアライメントを各ユニット毎に測定してみた。Omni Mic V2による測定で、テスト信号はモノラルのShort Sign Sweep、マイク位置は普段のリスニングポイントの頭の位置に出来る限り厳密に設定したのだが、その結果のインパルスレスポンス(画像左下、ここでは高域のユニットのみ音を出している)は以下の通りで、明らかに二つの山になってしまっている。 より正確に状態を把握するために、スムージングは12dBで行っている。

高域ユニットのみ、3.5cmずれている状態(スムージングは12dB)
Time Alignment

そこで、左右の高域のユニットのインパルスレスポンスが正確に一致するようにタイムアライメントを調整してみた。右側のユニットのDelayを減らす、その距離3cmである。(この結果から、右側のスピーカーが物理的には約3cm遠いところに置かれていることになる)当然ながら、インパルスレスポンス(画像左下)はひとつの山に収束していることが確認できる。

インパルスレスポンスをあわせた状態(スムージングは12dB)
Time Alignment

さらに興味深いのは、10KHzを越えた高域のレスポンスであるが、14KHzを越えた辺りで周波数レスポンスに望ましくない山谷ができてしまっていること。また、なだらかさが失われるとともに若干ののレスポンスの低下が起きる。このことは距離のずれた音を左右同時に出したケースにおいて、音が打ち消しあうことによるレスポンスの乱れであろうと推測できる。

高域用ユニットと同じパターンで、中高域用ユニット、中低域用ユニットも左右同時の信号で計測したが、同様にインパルスレスポンスが僅かにずれる結果となった。ただし、全てが同じ距離の差とはならなかった。各ユニット間では約0.5cm~1.0cm程度のズレがあるが、概ね右スピーカーがやはり3cm程度遠い。本来的には厳密に設置位置の調整をすれば良いのであるが、当方のスピーカーはかなりの重量級なので、(腰への心配もあり)一人ではほぼ動かせない。このため、物理位置調整の代わりに、これらを全て、ひとつの山のインパルスレスポンスに収束させるように、タイムアライメントの微細な調整を実施してみたというもの。以下は前回掲載したものと同じで、左右の全ユニットからのモノラルShort Sign Sweep信号の測定結果である。

前回の周波数レスポンス測定結果:
Frequency Response

この調整後の音の印象は前回も記したのであるが、当方にとっては、特に高域感に関して自然で良い方向に改善されるという印象が強い。また、4wayマルチの基本調整はマイクを近接した位置で行うことも多いが、最終的な調整結果の音が「リスニングポイントでどのように聴こえているか」については、聴感に頼ることが多かった。だが、この測定方法を使うことによって、リスニングポイントにおける反射を含めた周波数レスポンスを案外うまく把握できることが分かった。ポイントは「use long window」の設定にて、3dBのスムージングをさせた測定結果を見る、ということである。

もちろん、この実験結果から、合点するところもあれば、腑に落ちないところもある。測定結果から理論的に考えれば厳密な距離合わせが望ましいとも云えるのだが、そうだとすると、リスニングポイントの一箇所(それもかなり厳密な位置)にしか最適な場所が無い、ということにもなる。実際には僅かに頭を振れば、この程度の距離は動いている訳だし、音楽を聴く上では多少センター位置を離れていても大きな違和感にはならない。ただやはり、センターで聴いた方が総じて良い、という経験もある。

ここでの左右ユニットのタイムアライメントの調整はインパルスレスポンスに従っているので、結果的には直接音が主体となっているはず。しかし現実にはかなりの反射音も聴いている訳なので、それをどう考えるべきか。良質な残響音は音楽にとっても望ましく、スピーカーまで厳密な同距離である必要など無いはず。そして無指向性のスピーカーという存在もある。(この観点から、無指向性のスピーカーについて同様の測定をしてみたいとも思う)

また素朴な疑問もある。測定用のマイクを前後あるいは左右に動かしてみたらどう変化するのか。前後ならば理論的には影響は受けないのだが、左右であればそうは行かないはず。だが、マイクを左右に多少振ってもそれほど大きな変化は捉えられなかったことも事実。現時点では、この観点からの試行錯誤にとっかかったばかりであって、理論的なことも含めて暗中模索ではある。多少ググッてみても同種の実験(?)的なレポートは見つけられなかった。測定ツールの正しい使い方であるかどうかも定かではない。このため、改善の要素に本当になり得るのか引き続き実験をしてみたい。

(閑話休題)ひとつの時代の終わり?

iPADのiOSの更新を行っていてふと気が付いたのであるが、MPD(Music Player Daemon)用のクライアントソフトであるmPOD、mPADがApple App Storeから消えてしまっている。このため、最早新たにダウンロードすることは叶わない。本家であるmPOD、mPADの ホームページ には何も記載が無いが、既に久しく更新は行われていない様子。また、Music Player Daemonの ホームページ においてもiPHONEやiPAD系のクライアントの紹介はもう行われていない。

当方がVoyageMPDを高く評価してきたのはこのmPOD、mPADの抜群の操作性と反応速度によるところも大きいのだが、率直に云ってとても寂しい気がする。Linuxによる音楽再生へのチャレンジはネット上の情報、動きをみていると大分下火になってしまっているように感じていたが、MPD系のアドバンテージのひとつが失われてしまうことによって、この傾向が更に加速してしまうかもしれない。もちろんタブレット端末用としてアンドロイド系のMPD用クライアントソフトは存在するのだが、、、

音楽再生専用に近い形態のLinux PC(あるいはAPUやALIXなどのシングルボードコンピュータ)とタブレット端末という構成が大きく広まったのはやはりMPD自体とmPOD、mPADの存在・貢献が大きかったように思う。幸いにも我が家にあるiPOD、iPAD、iPAD miniにインストール済のものはまだちゃんと機能しているが、新たにダウンロードできないということはハードの切替は当然不可になるし、iOSのバージョンアップにも追随できないこととなる。コスト回収という経済原則と時代の流れは常に存在する故にこれも仕方の無いものとは思うが、永らくVoyageMPDを愛用している当方としては、やはり感慨深いものがある。

(注記)近々、iOS 11(現在は32bit環境のiOS 10)がリリースされる予定であるが、このiOS 11(64bit環境)ではmPOD、mPADはいずれも稼動しないのではないかとも推測される。この点はまだ未確認であるが、バージョンアップの際はこの辺りの情報に注意しておくことが肝要と思う。


4way構成の設定備忘録(2017年7月8日更新)
項目 帯域 備考
Low Mid-Low Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
FPS
2030M3P1R
Sony
SUP-T11
Scan Speak
D2908
-
スピーカーの
能率(相対差)
dB 97 (+7) 90 (0) 110 (+20) 93 (+3)
定格値
パワーアンプでの
入力絞り
dB -6.0 0.0 -12.0 -12.0
設定値
SP側での
アッテネーション
dB 0.0 0.0 -12.0 0.0
(L-PAD抵抗)
DF-55の
出力設定
dB 1.2 0.0 +2.0 +5.5
Analog Att
OFF
スピーカーの
出力(想定)
dB 92.2 90.0 88.0 86.5
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz pass

180
180

800
800

3550
4000

pass
Low Pass

High Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-12 12-12 12-24 24-flat Low Pass
High Pass
DF-55 DELAY
設定
cm 23.0 55.5 0 54.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Rev Norm Norm VoyageMPD
環境下
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない


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