オーディオ日記 第33章 原点への回帰(その11) 2013年8月26日


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禁断のミッドバスの続き、PARC-L11を試す。

15インチウーファーの低域と4インチダイアフラムのドライバーによる中域にミッドバスユニットを加える功罪、是非について大いに悩んでいる。周波数帯域のコントロールという面では、ミッドバスに200Hz前後から800~1400Hz辺りを受け持たせることによる効果は大きいと考えている。

1.音楽で非常に重要な要素となる帯域(200Hz前後から800~1400Hz辺り)を単一のユニットで受け持たせることができ、この帯域にクロスオーバーを持って来る必要がない。
2.低域(200Hz以下)を自在にレベル調整でき、それが300Hz~600Hzというその上の帯域に大きな影響を与えずに済む。

トレードオフとしては、

1.システムの規模、仕掛けが大きくなり音をまとめるための調整が一段と難しくなる。(特に当方の構成では3Wayから4Wayへ移行するためには8chマスターボリュームが不可欠となってしまうので、機器構成上のインパクトが大きい)
2.既存の低域、中域のユニットと同傾向にある質感を持つユニットが音楽の纏まりのためには不可欠であるが、最適なユニットに出会えるとは限らない。

当方の既存環境において対応可能な暫定構成にてミッドバスユニットを加えるテストを行ってきたが、音楽の密度感、質感(これらはユニットそのものにも依存すると思う)が、不一致と感じてしまう。また、キャラクターの差も皆無とは云えず、特にボーカルにおいてはその再生にやはり微妙な違和感を感じてきた。帯域バランス的なメリットはあっても質的な向上はこの暫定構成では実現できないとの思いに至った。

ミッドバスユニットを改めて本格的に検討しようとは思いつつも、さて肝心のユニットの選択となると、裸のユニットの音を聴けるような機会はないので、当たるか、当たらぬか、これは賭けとなる可能性が高い。この迷いのステップを越えミッドバス導入が不可欠という判断に至るためには、もう何がしかのステップが必要かもしれないと考えていた。

試聴機のPARC-L11:ミッドバステストなのでバスレフポートは塞いだ状態


そんなこんなの悶々とした日々に、掲示板にて しんたさん より非常にありがたいアドバイスをいただいた。当方の使用しているユニットを設計・開発した方が立ち上げた会社で候補となり得るユニットがある、という情報である。PARC Audioの17cmのユニットである。名前も15インチウーファーであるSony SUP-L11を由来とする PARC-L11 である。構造的にも、設計コンセプトもSUP-L11とほぼ同じ(ペーパーコーン、シンメトリカルダブルダンパー構造など)の超ド級のユニットである。17cmユニットでありながら重量は5Kgを越えている。価格も年金暮らしの当方にとっては相当なもの。ただ、感覚的には音の質感などSUP-L11、SUP-T11の両ユニットに対して、このユニット以上に整合性があるスピーカーは世の中に存在しないのでないか、というインスピレーションが沸く。

いずれにしても、まずは聴いてみなければ始まらないので、店頭試聴できるところを紹介してもらおうとPARC Audioにメールを差し上げた。SUP-L11とSUP-T11にミッドバスユニットとしてPARC-L11を加えてみたいという構想とともに。同社は試聴用貸出を基本的には行っていないのであるが、SUP-L11、SUP-T11のユーザーということもあって特別に貸し出しの対応をしていただくことになった。

PARC-L11の試聴風景:2Way用のキャビネットなので少し大きめ


頭をかすめる問題はサブスピーカーとして購入したBS403の扱い。サブスピーカーとして使用するにも置く場所に事欠くことになってしまいそう。処分するにしても購入したばかりのもの。こりゃ、家内の了解は得にくいなぁ、どうやって説得しようかなぁ、とつらつら考えながら、PARC-L11をBS403の代わりにミッドバスとして組み込んで比較試聴を始めていたところ、「あれ、音が違う。ボーカルがいいね!」と普段はあまりオーディオ機器など品評しないのであるが、こちらが驚く一言。(これは、上手くすれば購入の了解が得られるかも、、、と密かに期待も)

PARC-L11をミッドバスとして組み込んで、微調整も計測もしていない段階でのお言葉である。実は一聴して当方も同様の感触を持た。既存のSONYのユニットと全く違和感の無い音がするだけでなく、質感が高くボーカルが何とも暖かく優しいのである。それでいて音に切れがないとか、プレゼンスが悪いとかいうようなマイナスファクターがほとんど感じられないのだ。この段階で既に心は大いに動いている。

改めて周波数レスポンスを計測しながら、最適なレベル設定・バランスとなるように追い込む。クロスオーバーは280Hz~1000KHzを初期テストの固定としてみた。初めはデジイコなしで、次に低域のレスポンスを中心に主にSUP-L11の領域を補正して更に聴く。う~む、これは良い。今までのBS403のミッドバスユニットで感じていたようなもどかしさは全く無い。音の質感、密度感も充分。ボーカルはこう合ってほしいと思うように再生される。音楽全体がうまく空間にブレンドされるが、音像・フォーカスが変に分散した感じはしない。次々に声のタイプの異なるボーカルを聴くが総じて納得。BS403のユニット自体が悪いという訳ではなく、性格の違い、設計思想の違いが音楽を奏でる上での微妙な差になるのだと思う。(BS403は内臓ネットワークを経由していることもおそらくインパクトがあると思う)

となれば、ボーカル以外でも評価しなければならない。ワグナーのタンホイザー序曲を聴く。この曲は大航海時代の大きな帆船で大海原を渡って行くような勇壮な響きと官能があり、好きな曲なのだが当方所有の音源は決して第一級の録音のものではない。それにもかかわらず、とにかくこの波立つようなバイオリンにどっぷりと浸り込んでしまう。録音そのものの良し悪しではなく、この音楽をどのようなホールで何をポイントに録音したのか、そういうものがイメージできるように楽しんで聴けた。次はケルンコンサート。キースの演奏とマンフレート・アイヒヤー録音の相乗効果でこれは真に魔性のようなピアノ。その危うい響きをたっぷりと堪能できる。これはボーカル以外でも合格かもしれない。

おっとっと。まだ、あまり入れ込んではならない。3Wayに戻して聴き直す。こちらは当然ながら、ある意味で聴き慣れた音である。自画自賛ではないが、やはり質感やバランスの良さは納得できるもの。こちらにも不満点はあまりない。厳密に比較すれば現3Way構成の方が音が追い込んであるためだろうか、素直に音楽に浸れるようにも思えてくる。

となるとミッドバスユニットを導入する決定的なメリットが見出せない、ということであろうか。いや、まだ調整が不十分である、とも考えられる。一度デジイコを外し、素の音で再調整する。測定は参考にしながらも聴感をメインにする。気持ちとしてはデジイコは今後は外す方向で考えたいのだが、なかなか実際はそうも行かない(特に低域には)というもどかしさもある。

デジイコを外した状態では低域(280Hz以下)の全体レベルを2.3dBほど上げた方が塩梅が良くなる。高域(1000Hz以上)はいじる必要がない。ミッドバスは難しい。出しゃばらず、引っ込まずの加減が帯域によって多少違うのかもしれない。1m軸上での測定の結果は少し山谷がある。これは設置ポイントの制約から来ているものか?あるいはバスレフポートを塞いでいることの影響もあるかもしれない。

再度ボーカルを中心にミッドバス挿入のBefore/Afterを厳密に聴き較べる。Beforeはとてもすっきりしたボーカルなのだが、Afterでは声のある帯域に少し膨らんだ感じのようなものが乗る。これによりボーカルが概ねマイルドな方向に作用しているのだが、一部の曲ではこれが多少膨満感(あるいは声の張った感じ)にも繋がる。う~ん、難しいところだ。一日や二日で即断はできないので、これは何日かかけてもう少し多様な音源で比較する必要がありそう。

初日のこのユニットのインプレッションとしては、とにかく質感が他のユニットと一致しており、ミッドバスを入れたという違和感は皆無。素晴らしい音楽を聴かせてくれたと思う。一方で現行3Way構成も音楽の表情などで劣るところはない。むしろミッドバス挿入のAfterの方に僅かにボーカル再生での引っ掛かり(おそらくこれは微調整の範囲とは思うが)が残る。となると、ミッドバス領域を再度厳密に測定し、場合によっては(設置位置を調整することは出来ないので)、バスレフポートの調整やデジイコをかませた上で再度比較が必要ということか、、、、


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