オーディオ日記 第30章 遍路(その13) 2012年7月16日


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ホーンドライバーのレベル設定をどうするか、これがこのところの悩みの種であった。

転居後半年程度をかけて、我が家のスピーカーセッティングは中低域のクロスオーバー周波数を800Hz、スロープ特性を-24dB(逆相接続)をマルチアンプシステムのベースとすることで概ね固まって来ていたが、ドライバーのレベル設定を-13dBとするか、-12dBにするかで、このところ逡巡しながら行きつ戻りつしてしまっていた。

各ユニットの公称の能率は低域が98dB、ドライバーが110dB、リボンツィータが97dBである。ちなみにホーンドライバーの高域はスルーとし、リボンツィータはクロスオーバー周波数16KHz、スロープ特性-12dB、レベルは±0dBの設定。公称の能率から判断すれば、単純にはドライバーは-12dBのレベル設定でOK(のはず)とも云えるが、低域ユニットは8Ωインピーダンスでありこれをブリッジ接続によるモノラル駆動しており、中域ドライバーは12Ωインピーダンスで、ステレオ駆動とアンプ構成の違いもあり、単純な数字合わせではなかなか美味しい音にはならない。また、マルチアンプシステムの設定が定まった上で、デジタルイコライザーにて全体の周波数補正をしていることもあって、基本となるレベル設定の逡巡というのはちょっと落ち着きを欠いてしまっていたと云える。

クラシックならば-13dBがしっとりと落ち着いているが、ボーカル系やJAZZはリアリティや音の切れも必要となるので-12dBに軍配がある。たかが1dB、されど1dBである。ならば、-12.5dBで良いではないか、と思うが、当方の使用しているアナログチャネルデバイダは-8dBまでが0.5dBの調整であり、それを超えると1dB単位の調整となってしまう。一番簡単な解決方法はゲインコントロールできるアンプへの交換であるが、現状はいろいろなプランの優先順位があり、コストの問題からもこの方法は即座には対応しかねていた。聴く曲のジャンルによりレベル設定を変えるという方法も奥の手(現状はそれに近いことをしているが)としてはあるが、これでは心安らかに聴けるとは云いがたい。
(注記)0.5dB単位で調整できるデジタルチャネルデバイダへの単純な交換という手もあるが、現在の機器環境ではAD変換・DA変換を増やすことになってしまうので、その構成では不可と考えている。 DEQX HDP-4 のようなプリアンプ、デジタルイコライザ、デジタルチャネルデバイダ機能を含んだ総合的にコントロールできる機器も視野にはあるが、さらに構成が大きく変更とならざるを得ないこともあって、こちらは別途のチャレンジと考えている状態。

もうひとつの方法はデジタルイコライザーでドライバーの受け持ち帯域を0.5dB持ち上げるか、下げるという方法になる。これは方法としては可能であるが、本来はマルチアンプシステムとして適切なスピーカユニット単位の設定(含む出力レベル)を行った後に、ルームアコースティックを最小限にて補正すべきものであるので、まずはイコライザ設定で逃げる方法とはしないように考えていた。

全体的な音のバランスを普遍的かつ客観的に再考する必要があると思い、リファレンスとなるスピーカーとしてB&W 800D(Diamondではなく、一世代前の機種)の音を我儘を云って改めてじっくりと聴かせていただいた。普段から当方の設定用のリファレンスに使用しているソースを持ち込んで。音のキャラクターや細部ははもちろん違うので、周波数バランス確認がメインである。一聴して分かることは、800Dの周波数バランスは我が家で上記の-12dB設定をした場合に近い(もしかすると高い周波数の領域ではもっとレベルが高いかもしれないと感じたが)。透明感も秀逸で、それでいて音の押し出し(特に最低域に顕著)もあり、やはり良いスピーカーである。ただし、録音状態が極上とは云えない、あるいはまた多少難のある録音のクラシック系の再生となるとやはりこの帯域バランスでは「居眠り」がしづらく感じる。持っているクラシック系のソースの全てが極上の録音であれば全く問題ないのかもしれないが、現実はそうでないものの方が多い。さりとて、録音の良いものだけを聴いていれば満足か、と云われればそれでは音楽に飽きてしまうし、いろいろな楽曲をあれこれと聴きたい。ここに悩みどころがある。

B&W 800Dでひとつ違う、と感じた点は音楽の豊穣さにある。これは周波数バランスがどうのこうのという問題ではなくスピーカーの個性であろうと思うが、この点はやや分析的すぎる様にも感じられて僅か物足りない。これは多分現代的な音であろうし、好みの問題と思うが、やはり音楽には「もののあわれ」を感じさせるような表現が欲しいな、とも思う(Diamondではそのようには感じなかったので)。なお、総体として我が家のセッティングを考えた時、若干の音の厚みをキープできれば、-12dBの方が普遍的な帯域バランスに近いように思われた。逆に-12dBとした時にどうやって-13dBの設定と同じような音の落ち着きを出すかがポイントとなる。どうしてもクラシック系のソースを聴く比率が高い(時間割合で80%くらいだろうか)し、NASに保持している録音の良否のものが混在しているモーツアルトの全曲からランダム再生させることも多いので、この点が非常に重要と考えている。とにかく心地よく居眠りできないと困るのである。

現状は、最終解ではないが、マルチアンプの基本設定であるスロープ特性を-24dBから「敢えて」-18dBに変更することで、低域ユニットから厚みを引き出すこととした。厳密にに云えば、スロープ特性はなるべく急峻にして、ユニットの美味しい周波数領域のみを使用することが音全体のトランジェントの観点からも望ましいはずであるが、そこは少し妥協してみた、ということになる。今後の予定としてスピーカーエンクロージャとホーンの交換を見込んでいるので、その段階ではまた振り出しにもどることになってしまうのだろうけれど。


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