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Home > 旅の足跡 > NIFTY-Serve > 妖魔夜行
得手、御蔭、亜矢、結花、スミレ、耕平、ニャンの7人はスキー場に来ていた。
昼頃にホテルに到着し、チェックインを済ませて、ロビーに集合ということになっている。
一方その頃の喫茶・霧。客足の途絶えた午後。
土部はカウンターでコーヒー飲んでいます。
ニャンがスキーに行っているので小夜が手伝いに来ています。
小夜 「春分の日が近いから、ぼたもち作ったんですよ。皆さんどうぞ。」
源蔵 「おぉ、小夜坊。 すまんな。 よし、普通のお客さんもひけたことだし、ちょっと休憩にしていただこうかのぉ?」
早紀 「わ〜〜〜〜〜〜〜い! お・や・つぅ!」
小夜 「これがきな粉で、その下のお重がゴマで、一番下があずきです。どれが良いですか?」
源蔵 「わしゃ胡麻じゃな」
早紀 「早紀は絶対あずきですぅぅぅ!」
早紀 「あ〜あ、早紀もスキーやってみたかったなぁ…」
源蔵 「お前が行っても迷惑かけるだけじゃからな〜。それにもしわしらまで行ってしまったら事件が有った時に困るじゃろ」
早紀 「でも、行きたかったなぁ…。 温泉も入りたいなぁ〜」
小夜 「あんまり楽しい物じゃないんですけどね………。冬山なんて寒いだけだし………。」
早紀 「う〜〜〜ん。 早紀も寒いの苦手ですぅ…」
源蔵 「なっ。 留守番で良かったろう?」
小夜 「今はどんどん開発が進んで、スキー場にも気軽に行けますけど、あんまり、冬山を甘く見ない方が良いと思うんですけどね。」
ぼたもちを頬張り、
源蔵 「んまいっ!」
小夜 「くすっ。そういって貰えると、作った甲斐があります。それにしても皆さん、お酒も甘い物も平気で良いですね。」
源蔵 「かっかっか。 お蔭でこんなんなってしもうたがな」
自分のお腹を手の平でポンポンと叩いて豪快に笑います。
土部はコーヒーに目を落として黙ってます。
良く見ればわかりますが、珍しく厳しい目付きですね。
源蔵 「ん? どうしたんじゃ、センセ…」
土部 「はい?」
と、顔を上げた時はいつもの感じです。
源蔵「いや、なんじゃ…ちょっとカップを睨んでいるような感じじゃったんで(コーヒーの)豆の挽き方か配分を間違えたかと思うてな…」
小さな声でも聞き取れるように ”ワザと”土部さんのコーヒーカップを覗き込むように顔を近付けます。「内緒話もオッケー!」って言う意思表示です。
すると、ふい、と窓の外(四谷大通りのほう)を見て、
土部 「もうすぐ春ですねー。この辺は桜もきれいですよ」
源蔵 「そうかね…。 桜…か…。 その時期になったら墓参りにでも行ってくるかのぉ」
小夜 「桜ですか。見るのも良いですけど、花びらを浮かべた桜湯や、桜餅とか、色々楽しめますよね。最近は花見の時期に合わせてますけど、その年の新しい葉っぱでくるむと、風味も増すんですよ。」
土部 「ああ、確かにそうですねー。最近のは調味料が豊富になって味自体は良くなっていると思いますが、昔のほうが風味はあったような気がします。…まぁ、比べられるほど近い時代でもないんですけどね」
小夜 「私は昔の味が好きです。素朴な感じがあって。それに、美夜お姉ちゃんの教えてくれた味だし。」
土部 「私は小夜さんの料理の味は好きですよ。素直で、味に喧嘩がありませんしね。」
ドアをバンっ!!と開けて武虎が入ってくる。
武虎 「なんでこの俺様が留守番なんだ!!」
源蔵 「こりゃ! ドアが壊れるじゃろが!」
早紀 「トラちゃんだ〜〜〜(^-^) やっほ〜〜〜」
源蔵 「なんじゃ、お主。 行きたかったんか、スキー?」
武虎 「別にスキーなんかしたかねぇけどよぉ。さっき物見坂の爺さんに聞いたら、結構女がいっぱいいるって言うじゃねーか。ニャンのやつ、スキーは男のスポーツでスキー場はむさ苦しい男ばかりだから行っても面白くないよ、なんて言いやがって。帰ってきたらピーしてピーしてピーしてやる!」
源蔵 「まぁ、勝手にしてくれ(呆れ顔)」
早紀 「パパリン…、ピーって何?」
源蔵 「お前はそんな事知らんでいい!」
早紀 「びえ〜〜〜〜〜!(ToT)」
小夜 「男しか行かないと云いながら、ニャンお姉ちゃんが行く事に疑問を覚えなかったんでしょうか?」
紅が入ってきます。今日はきっちりとしたスーツ姿です。ただ、襟元には赤い色が見えます。
紅 「あら、お久しぶりね。元気だったかしら?」
武虎 「おっ いつ戻って来たんだ?」
紅 「ふふふ、今さっきよ 戻ってきてすぐにここに来たわ。それから・・おみやげは、マスター、まだ届いてなかったかしら? 木の箱に入ったものなのだけど・・」
源蔵 「ん? ここ宛てに送ったのかな。 未だそう言うのは受け取っておらんが…」
と、その時、裏口のチャイムが
配達員 「毎度有り難う御座いますぅ。 こちらのお店名義で海外からのお届け物なんですが、印鑑かサインお願いできますかぁ?」
源蔵 「はいはい、ご苦労様…。 ん? 早紀? 何しとるんじゃ?」
早紀は、配達員の前でぼたもち持って自分のおでこ触ったり、左右の肩を触ったり、ちょっと屈んだりしてます。
源蔵 「おい、早紀。 そりゃ、”あんこ”と”野球で使うブロックサイン”じゃろ? この人が欲しいのは”はんこ”と”名前を書くサイン”なんじゃが…」
小夜 「早紀さん、食べ物を粗末にしたら駄目です。そういう事をする人には、もう作ってあげませんよ。」
早紀 「うぇ〜〜〜ん。 ご免なさいですぅ(ToT)」
紅 「あらあら・・相変わらずね これだから、ここは楽しいのよねぇ」
源蔵 「相変わらず苦労しとるよ…(苦笑い)」
届けられた木箱は紅のおみやげ。
紅 「はい、おみやげ フランスのブルゴーニュワイン。赤よ 甘めのものを買ってきたけど、未成年は飲んじゃ駄目よ。 そのかわり、他のものを用意したから。ふふふ・・」
源蔵 「ほぉ、こりゃすまんな。 早速、ワイングラスを用意しよう。武虎も呑むだろ? センセイは…どうかな?」
土部 「あ、もちろん頂きますよ。せっかくのお土産ですからねぇ」
と、ぼたもち片手に言う。
紅 「それほど苦手の人がないワインを選んできましたわ。みんなが飲めるようにね」
早紀 「なに、なに、な〜にぃ?」
紅 「あなたは飲んではいけないわ その変わり、ほら。イタリアであなたにおみやげよ」
早紀の後ろに回ると、髪を一房取り、赤いリボンを結んで付けました。
紅 「あら、やっぱり似合うわね。うふふ・・」
早紀 「有り難う…。 嬉しい(o^^o)」
早紀は姿見を見るため二階に上がりました。
紅 「どういたしまして。ふふ」
源蔵 「わざわざ早紀にまで…ありがとなぁ」
紅 「いいのよ ものには、それにふさわしいものが必要なのよ 早紀ちゃんもそうだけど、女の子には魅力を引き出す道具がないとね・・」
源蔵 「おなごの魅力…か。 戻せるものなら人に戻してやりたいもんじゃが」
紅 「そうね・・ でも、早紀ちゃんは、今でも十分魅力的よ」
源蔵 「どうやらお互い色々な物を失いながら生きてきたようじゃのぉ」
紅 「この世界に生を受けて、人間の何倍もの時を過ごしてきたわ。なのに、悲しい記憶、何かを失った記憶が消えることはないのね。・・私は、イギリスで父の墓に花束を捧げてきたのよ」
源蔵 「そうじゃな。 その悲しみや喪失感を乗り越える事が出来た時、わしら妖怪もわしらを生んだ人間の”想い”と言う物から解き放たれて、違う存在になれるのかも知れんな…」
紅 「そうね・・でも、簡単なことじゃないわ だからこそ、乗り越える意義があるのかもしれないけれど・・うふふ、しんみりしてても仕方がないわね。マスターも一杯、飲むでしょう?」
源蔵 「うむ。 いただくとしよう。 うむ、良い香りじゃな」
紅 「おや? 土部先生どうかされましたか? 元気がないようですわね。・・癒して差し上げてもよろしいですわよ」
土部 「はぁ、まぁ……」
土部 「いや、結構。お気持ちだけで十分です」
紅 「そうですわね。先生ならそう言われると思いましたわ でも、あまり悩んでいても仕方ありません 一度すべてを忘れてみるのもいいかもしれませんわ・・うふふ、でも、それぐらい先生ならわかってますわね」
土部 「そうですねぇ…。しかし、私はまだ何もわかっていないんですよ」
と、少し間を空けてから独り言のように続けます。
土部 「忘れていた過去が”今”に追いついてきて……私は……」
紅 「過去・・過ぎ去ったものを、変えることはできませんわ。大事なのは、現在とそれからつながる未来。もちろん、過去から目を背けてはいけませんけど、それに惑わされ、今やるべきことがわからなくなってもいけません」
少しばかり優しげな微笑を浮かべて続けます。
紅 「すみません。土部先生は私よりもずっと長く生きてこられていますのにね どうも、こういう職についていると・・」
土部 「いやぁ、長さはあまり関係ないかと思いますよ。紅さんは愛によって生まれました。私とは違います。……ま、あまり言っても仕様がない事です。やめときましょう」
紅 「そうですわね・・ でも、せっかくですからこれだけは言わせてくださいな 愛によって生まれた私でも、いえ、それだからこそ苦悩することもあるのですわ」