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MESは掲示板を使ったオンラインセッションです。
ツリー型掲示板をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれませんが、GMの発言に対してプレイヤーがレスという形で、各自のキャラクターのセリフや行動などを付けていきます。
今回は通常のMESと違って、GMが状況説明と行動結果を文章化する方式を取っています。
ここはどこだろう?暗い…よく見えない…夜なのか。
私はどうして、ここにいるのだろう…
しかし、私は目覚めた。そのはずだ…しかし、身体は動かない。
そもそも、身体はどこにあるのだろう?
こころは、どこにいるのだろう?
ああ…あれはなんだ、あの光、小さくて…はかなくて…そして私を…
…私を呼んでいる…
大都会の夜は、明るく、騒がしい。
そのことは判っていた…いや、知っていたのだが、男は改めて軽く驚いた。
男は今、大都会−東京−が見下ろせる場所にいた。新宿の超高層ビル街にあるビルの1つの屋上だ。ここはヘリポートになってる。
「ここが江戸とは、にわかには信じ難い事じゃ。だが、そうなのだな」
男はその場に居たもう1人の人物−膝をつき、かしこまっている−に、東京を見下ろしたまま話し掛けた。
「はい、三郎様。貴方様がお休みになられている間に…」
「ふふ…”休み”とな。わしも好きで休んでおったわけではないのだが。」
夜の東京は光に溢れている。特にこの街はそうだった。
やがて、騒音を立てながら奇妙な形の物が空を移動しているのを、三郎と呼ばれた男は見た。
「あれは…」
「ヘリコプターという機械でございます。あれで空を…」
「よい、知っておる。六郎の知る事はわしも知る事になる。聞いてなかったか?」
「失念しておりました。」
傍らの人物は、さらにかしこまった。
そして、少しの間、2人の人物は沈黙した。三郎は目を細めながら感慨深げにつぶやいた。
「変わったな…。人も妖怪も…」
そして、始めて傍らの人物に向き直ると、
「六郎はネットワークとかいうものを警戒しておるのか。よし、わしも一つ心当たりがある。やつに当たってみよう。」
「六郎様にはお会いにならないので?」
「必要もなかろう。お前も戻ってよいぞ。」
『ガチャッ、キィィ…』
突然、屋上の扉が開いた。ライトの光がぐるりとヘリポートの周りを探る。
「…うーん。話し声が聞こえたんだが、気の所為か…風の音だろうな。」
確認するように警備員はつぶやくと、扉を閉め、鍵を架け直した。屋上にはもう誰もいなくなっていた。
…やはり、私はまだ、目覚めていない。
なにもかも、はっきりしない。ぼんやりとして…
だが、もうすぐだ…もうすぐ、はっきりと目覚めるに違いない…
ある秋の日の午後4時、東京は四谷にある喫茶店”霧”では店のマスターである松宮源蔵が自分の為にコーヒーを入れていた。
ちょうど客の入りも一息つき、娘の早紀も眠っている。わずかな間の静かな時間である。
『カララン…』店の扉が開く。のっそりと現れたのは源蔵の友人−というより仲間だろうか−の土部将信であった。
「先生、いらっしゃい。」
源蔵はコーヒーを置くとそう言った。先生と呼ばれた土部であるが、実際は非常勤の講師である。だから、この時間に喫茶店に来れるのだ。
「やあ…今日は静かですね。」
土部は言いながらカウンターに座った。源蔵は注文を聞く前に、すでにコーヒーを入れる準備を始める。
「あ、いいですよ。源蔵さんのコーヒーが冷めます。」
「そうかい?じゃ、ちょっくら一休みさせてもらおうかい。」
源蔵は椅子に腰掛け、コーヒーを一口飲んだ。
「そうそう、先生、こいつを見てくれんか?」
思い出したように源蔵は一枚の皿を取り出す。だが、これはいつもの行動なのだ。
自分の気に入った食器が出来上がった時の。2人は30分程の間、陶芸談議に花を咲かせた。
『どすん!ばたばたばた…』店の2階から物音が始まる。
「早紀が起きよったな。」
源蔵はそう言った。心なしか微笑んで。
「いつもより騒がしくありませんか?」
「いや、またあのちっこいやつが来とるんじゃろ」
客もちらほらと姿を見せはじめ、店はいつもの活気を取り戻していく。
午後5時、店には数人の客がいた。
『ジリリリン…ジリリリン…』今ではすこし古臭い音を立てて、店の電話が鳴る。
「はい、喫茶”霧”」
源蔵は受話器を取るとそう言ったが、少し長い電話になってしまった。なにしろ喫茶店としてではなく、妖怪ネットワークの拠点としての用件だったからだ。
「うむ、わかった。そんじゃ。」
『チン…』電話を切ると、まだカウンターに居た土部の所に行く。
「どうしました?」
「あの…”うさぎの穴”っちゅうたっけ。そこのマスターから伝言でな。なんでも、お願いしたいことがあるが、電話じゃ話せんってことで誰かこっちに来てくれっちゅう事なんだが。」
「うーん…しかし、今は他に誰もいませんしねぇ。」
と土部は呟いた。そうなのである。この”霧”ネットワークはまだ結成されてから、そう長くはたっていない。そのため、連絡手段もこの場にいないメンバーがどの辺りに居るのか見当をつけることもできない。
「ウナギの穴? 美味しそうですぅ! 早紀、行きたいですぅ!でも、一人じゃ場所が分からないですぅ…」
突然、名乗りを挙げたのは源蔵の娘である早紀であった。
「あ、もちろん、私も行きますよ。以前に行った事もありますから。」
しかし、源蔵は渋い顔である。源蔵は早紀に対して過保護な面があるのは、2人の出生−妖怪としての−に関わる事なのだが、それだけでなく、早紀自身にも原因と思われる部分はあった。
「きゃっほう! お出かけ、お出かけ、嬉しいですぅ!そうだ! どちぇさんも一緒に行くですよねぇ?」
と、普段からこんな具合である。「どちぇ」と呼ばれたのは最近、この喫茶”霧”に出入りしている小人で、早紀の遊び友達の1人であり、霧ネットワークのメンバーの1人でもある。彼は人間の姿になることは出来ないので、一般客もいる今は、姿を消して透明になっていた。
「そうじゃな、サキじゃ心配だからついて行ってやってもいいぞ。」
声は早紀の肩の辺りから聞こえた。恐らく、偉そうにふんぞり返っているに違いない。
「それから、それから…ニャンちゃんもぉ!」
だが、早紀に言われるまでもなく、ニャンと呼ばれた少女はエプロンを外して、カウンターから出ようとしている。
「もちろん!あたしも…行く…」
元気に答えたニャンであったが、言葉はどんどん小さくなっていく。というのも店のマスターである源蔵の視線を感じたからだ。ニャンはアルバイトとして、この店に居るという事を一瞬、忘れていた。
そして、『すぅー』と静かに源蔵の指が洗い場を指す。そこには、汚れた皿が山と積まれていた。
「…早紀ちゃん、なんか面白い事があったら絶対教えてね。」
言いながら、カウンターの中へ戻っていくニャンであった。
「わ〜いっ!みんなでお出掛けですぅ〜!」
「行っていいとは言っとらんぞ。」
はしゃぐ早紀。だが、源蔵の一言でぴたりと止まった。ゆっくりと源蔵の方へ振り向く早紀、そして潤んだ目で、じっと源蔵を見つめる。
「パパリン…お願いですぅ…」
両手を胸の前でぎゅっと握る。いささか芝居掛ったポーズだが、源蔵は負けた。
「すまん先生、頼みます。」
ぱぁっと輝く早紀の顔に、言葉とは裏腹に、ちょっと嬉しい源蔵である。
渋谷は道玄坂にある雑居ビル。その”あるはずのない”5階に、うさぎの穴は”あった”。
「いらっしゃい。わざわざすまなかったね。」
と出迎えたのは”うさぎの穴”のマスターである。”うさぎの穴”は東京に数あるネットワークの内でも最大と言える規模のネットワークで、東京のネットワークの中心とも言える。常に数人のメンバーが居るはずだが、今日はマスターの他には、マスターの娘のかなたと、眼鏡をかけた小太りの高徳大樹の3人の姿しか見えないようだ。
「いえ、良いんですよ。それより、何か問題でもあったんですか?」
土部は言いながら、カウンター席に腰掛けた。
「わぁー、すっごいですぅ!テレビに出てくるようなお店ですねぇ〜」
”うさぎの穴”の内装は早紀の興味を引くらしい。騒ぎ始めた早紀に、かなたは自己紹介をして、2人はアニメの話題で盛り上がった。
その間、土部、マスター、大樹の3人は、今日”霧ネットワーク”のメンバーを呼んだ用件について話し合った。
”うさぎの穴”での用件をすませた3人は、渋谷の雑踏のなかを歩いていた。
「まだ、7時ですね。…せっかくだからなにか食べていきましょうか。」
と土部が提案すると、
「うわぁーい!賛成、賛成ですよぅ。うーんと…うーんと…どちぇさんは何が食べたいですかぁ?」
「サキ…お前、わしがクッキーとミルク以外の物を食べてる所を見た事あるか?」
透明になっているドッチェは早紀のポケットの中から話している。
「うーん…ないですぅ!」
「そういう事じゃ。」
「えー!どうゆう事ですかぁ?」
「そういう事って言ったら、そういう事なんじゃ!」
「へぇ、そういう事なんですか。」
どうやら土部は納得したらしい。早紀は『ぶぅー』と頬を膨らませて、
「あー!ずるいぃぃ!!早紀にも教えてぇ!」
と、騒ぎ出す。しかし、周囲の通行人は全く無関心のようだ。
結局、インド料理屋でカレーを食べた3人−いや、2人−は午後8時すぎに喫茶”霧”に戻ってきた。
『武田先生、外傷3号までお越しください。』
唐突に響くアナウンスに迅野武虎は、きょろきょろした。
「おい、迅野。なにきょろきょろしてんだよ? まさか、始めて病院に来たわけじゃあ、ないだろう。」
いや、実際、武虎の行動は始めて知らない所に来た子供のようだ。忙しく歩き回る看護婦(特に美人)や、薬品のニオイにいちいち反応している。
「木村のやつ、だいじょうぶかなぁ…」
先程から1人で話しているのは、武虎が働いている工事現場の同僚で田中という男だ。なぜ2人は病院にいるのか。それはほんの1時間前の事だ。
突然、倒れた鉄筋に現場の誰もが驚いた。固く縛られ、横になっていたはずなのにどうして…だが、原因の究明は後回しにされた。それは鉄筋に腕を挟まれた作業員が居たからだ。現場でも怪力でしられる武虎だが重なり合って崩れている鉄筋を持ち上げることは人間の姿ではできない。結局、助け出すのに10数分かかり、今日の作業は中断され、腕を挟まれた男−木村−は救急車で運ばれた。
現場の片付けの後、比較的親しかった田中と武虎はこの中央病院を訪れていたのである。
「なぁ、俺、ちょっと便所に行ってくる。」
武虎はそういうと立ち上がった。
「ああ、俺はここに居るからな。」
田中はそう言うと、手に持っていたパックのジュースをチューっと飲んだ。
トイレを済ませて、気分もよくなった武虎は、もとの待合室に向って歩く。
ちょうど、地下に降りる階段の近くを通り掛った、その時であった。
「キャーーーーーーー!!」
突然の悲鳴が地下から1階の廊下を駆け抜けた。
「キャーーーーー!!」
突然の悲鳴に武虎は敏感に反応し、まさに野生の獣のごとく疾走した。
手近な階段を降り、地下1階の廊下に出て、左右を見渡す…あそこか!
階段を降りた位置から右の方向、少し壁が窪んだ辺りに設置されているらしい扉が開かれ、その前に看護婦−制服から判断するに−が座り込んでいる。
「どうした?ねぇちゃん。」
しかし、看護婦は武虎の問いかけには反応せず、その開かれた扉の向こうを指差している。
武虎はその指の方向に顔を向けた。
そこは霊安室だった、4体の遺体がシーツのようなカバーに覆われて横たわっている。…しかし、その内の1体は異常な状態だった。カバーはめくられて半身が見えている。そして、その遺体は…食われていた。いや、武虎がそう判断しただけだが。遺体は無残に引き裂かれ、血は床にしたたり落ちて、腕などは骨を残すのみ、いや、腕の骨も残っているのは半分に過ぎない。
そして、その腕の骨は大時計の舌のように、ゆらゆらと揺れている…
「こりゃあ…」
その時、看護婦は突然、叫んだ!
「こ、子供よ!子供がい、遺体を…た、食べていたのよ!!」
それが精いっぱいだったのだろう。看護婦は自分を守るために気絶した。
「ちょっと、おい、あんた!」
武虎が揺さぶっても目を覚ます気配はない。だが、武虎はなにか違う気配を感じ取り、前を−つまり、階段から見て奥のほう−見た。そこには廊下を左に曲がって歩いていく子供の後ろ姿があった!
通路を左に曲がっていく子供の後ろ姿、男の子か女の子なのか区別はつかない。
今すぐ追いかければ、きっと追いつけるだろうが手の中の看護婦を放ってはおけない。名札を見ると『永坂優希』と書かれていた。
「どうしたんですかっ!」
悲鳴を聞きつけたのだろう、数人の看護婦と警備員が駆けつけてきた。
「気絶してんだ。すまねぇが、たのむぜ。」
永坂優希を看護婦に託すと、すぐさま武虎は走り出した。
通路を左に曲がると少し長い直線だ。行き止まりは扉で『ボイラー室』と書かれている。そして、例の子供はボイラー室の手前を歩いていた。
「おいっ!坊主!」
とりあえず、男ということにした武虎は叫んだが、子供は止まるつもりは無いようだ。
「ちきしょう、女の子だったのかっ!?」
仕方なく、廊下を疾走する武虎。扉の所で子供の肩に手を…
「なにっ!?」
後、わずかというところで、子供は扉の中に消えた。扉を開けて中に入ったのではない。扉をすり抜けて入ったのだ!
扉に激突してしまった武虎だが、構わず扉を開いて中に入った。弱い室内灯が部屋の中を照らしている。そこはボイラーはなく、ゴミが捨てられていた。今はゴミを集める所として使われているのだろう。
部屋の中はそこそこ広い、武虎は子供の姿を探した。そして、部屋の左奥の壁の所に、壁の中に消えていく、その子供の後ろ姿を見た。
「おいおい、なんなんだよぉ…」
子供が消えた壁の辺りを探ってみたが、仕掛けなど元よりあるはずもない。
だが、武虎は足元に1枚の破片を見つけた。それは木で出来ているらしい。なにか彫り物がされているようだが、暗くてくわしくはわからなかった。
ボイラー室から出て、元の場所に戻ろうとした武虎であったが、霊安室の前はすでに人垣が出来上がっていた。警備員も3人来ており、野次馬を近づけさせないようにと奮闘している。この分では警察も呼ばれているだろう。
厄介事はごめんだぜ、と武虎は別の階段で1階に戻ることにした。
待合室に戻る途中も、数人の人が地下での騒ぎに気付いてわさわさとしていた。
待合室に戻ってきた武虎に、田中が気付いて近寄ってきた。木村の姿は見えない。
「長かったな。」
「あ、わりぃわりぃ…クソだったんだ。」
下品なセリフだが、さらりと言ってのける。
「木村のやつは、どうした?」
気になって聞いてみると、
「いや、まだだ。こんなに時間がかかるなんて、酷いのかもな…」
田中は心配そうな顔をした。
「あ、それでよ…その…俺、ちょっと急用が出来ちまってさぁ…その…」
武虎が言い難そうに切り出すと、田中は心得た様子で、
「ああ、俺が残ってればだいじょうぶだろ。」
と言ってくれたので、すまんっ!と手を前にやってから武虎は中央病院を後にした。
駅に向って街灯の下を歩く。既に日は落ちて辺りは暗くなっていた。武虎は先程拾った木片を取り出し、街灯の下で眺めてみた。確かに、表面には唐草模様に似た彫り物がしてあり、赤茶けた色をしている。それを軽く上に放り投げ、落ちて来た所をパシッと手でつかむと、
「へへへ…なんか面白くなってきやがったな。」
と、つぶやいた。
午後5時を回って、運動部の部室からは部活の終わった生徒たちがぞろぞろと帰り始めている。飯塚闘也もその1人だ。
「飯塚ー、帰りにラーメンでも食っていかねぇー。」
同じ部の仲間達が誘いの声を上げる。
「悪い。今日はちょっと寄ってく所があるんだ。」
闘也は答える。今日は喫茶”霧”に顔を出すつもりだったからである。確かにラーメンは魅力ではあったのだが。
ずり落ちかけたバックを肩に引っかけ直して、校門に向って歩いている闘也はふと、幼なじみの河合歩美の事を考えた。
「(そういえば、あいつも今ごろ帰りだよな)」
と、その幼なじみの姿を校門の所に見つけてしまった。だが、歩美は誰か知らない男と話している。
「(誰だ?あいつ…)」
歩美と話している男は、学生ではない。すらりと背が高く(!)少し伸ばした髪をぱっと掻き上げる仕草をしている。ここからでは詳しくは良く解らないのだが、女性にとっては魅力的な男のような感じだ。
一瞬、どうしようか考えてしまった闘也であったが、
「あ、闘也ーー!」
と呼ばれてしまったので、歩美と男の所へ向う。
「なんだよ。」
「あ、この人ね。土部先生に会いに来たんだって。まだいるかな?」
ちょっといつもと違うしゃべりの歩美であった。
「土部先生? さぁ、あの人いるかどうかわかんないゼ。来る時間も帰る時間もまちまちだからな。」
闘也は無愛想に答える。どうゆう訳か分からないが、むっとしていた。
「そんな言い方したら失礼でしょ。」
『ガスッ』と歩美は闘也の足を踏みつけた。
「(なんだよ、自分はいつも土部先生の事、つちぶ〜って呼んでるくせに!)」
しかし、歩美は闘也の視線を無視しながら、辺りを見回す。
「あの、とりあえず、職員室に行ってみたらどうでしょうか?職員室は…」
歩美は丁寧に教え始め、闘也はなんだかおもしろくない。
「(なんだよ、コイツ…)」
怒りの矛先は、目の前の男に向いた。近くで見ると男はやはり背が高く、痩せ型で、顔は純和風と言った感じだ。全体的にのっぺりしていて、目は切れ長、しかし鼻はすっと通っている。長めの髪を掻き上げる動作が様になっている。
その時、男は歩美の説明を熱心に聞いていたが、一瞬ちらりと闘也を見た。むっとしていた闘也は挑戦的なものを感じて睨み返したが、さらりと流されてしまった。
「…で、そこが職員室です。ちょっと分かり難い所にあるんですよね。でも”職員室”って書いてありますから。」
「ありがとう。えと…」
「あ、河合です。河合歩美。」
慌てて答える歩美。なんだ名前も知らないんだ、と判ると闘也は少し落ち着いた。
「ありがとう、河合さん。」
男は言って、教えられた通りに職員室に向って歩き出す。が、1歩程で立ち止まった。ちょうど、闘也の位置から男の横顔が見えた。その顔は険しい。先程までの優しげな微笑みは、今は無い。その顔に闘也はなにか不審な感じを覚えた。
「あの…どうかしました?」
歩美が聞いた。自分の説明が悪かったのかと思ったのだろう。
「…いや、やっぱり後でもいいかなって。この時間に居る事は少ないみたいだしね。」
振り返ったその顔には、先程までの優しげな微笑みが戻っていた。
3人はそろって校門を出た。闘也と歩美は駅の方向に行こうとしたが、男は逆方向のようだ。最後に男と歩美は軽く挨拶をし、別れた。
「!!」
「どうしたの?闘也。」
最後に、別れ際に男が言った言葉は歩美には聞こえなかったのだろうか。あの男は確かに闘也にこう言ったのだ。
「おもしろいもの、持ってるね。」
腕時計を、ディクシオンを見て、確かにそう言ったのだ。
深真紅は職員室に向けて、廊下を歩いていた。ここの廊下は校庭に面しているので、夕焼けの名残を残した空が見える。それは紅の好きな色だ。
「あ、深真先生。さようならー」
言いながら、放課後をそれぞれ過ごした生徒たちが帰っていく。なんとなしに彼らを目で追っていると、校門の所に飯塚闘也と河合歩美の2人の姿を認めた。
「ふふふ…なんだかんだと言って、仲良いのね。」
そして紅の興味は、その場にいるもう1人の男に向いた。男は歩美に何か言うと学校内の方に向って歩き出そうとした。そして、その瞬間、男と紅はお互いの視線があった。
その時、紅は奇妙な感覚を覚えた。その男の容姿は確かに魅力的だ。その点については興味深い。だが、なにか…そう、戦慄のようなものが背中を走った。
男と紅は一瞬、見つめ合ったが、男はくるりと背をむけて立ち去る様子だ。3人は校門から出て行き、別れた。
その男の別れ際の言葉は、闘也にとって聞き捨てならないものだった。
「まてよ!」
背を向けて立ち去る男を闘也は追いかける。男を追い越して前に回り込むつもりだった。だが、それは出来なかった。なぜ出来ないのか、闘也自身も解らないだろう。なにしろ、こちらは走っているのに男に追いつけないのだ。
「くっ!?」
全力で走る。しかし、男はぐんぐん引き離していく。
「そ、そんなバカな!」
「馬鹿はあんたでしょっ!!」
突然の歩美の声に、闘也は、はっと我に帰る。見ると歩美が目の前にいた。そしてここはまだ校門の所だ。男の姿はもうない。
「なに、ぼーっとしてんのよ。『今、行けばちょうど電車がくるよ』ってのに、『そ、そんなバカな!』って。なんなの!?」
「あ、ああ…なんなんだろうな…」
そんな闘也の様子に、歩美はため息を1つ。
「もう…しっかりしてよね!」
『バシッ!』と背中を叩かれ、闘也と歩美は駅に向って歩き出した。
秋ともなれば、日が落ちた後は寒くなってくる。そのはずだが、その日はまだ暖かい風が吹いていて寒いと言う事はなかった。時間は午後8時30分ごろ、場所は四谷にある喫茶店”霧”である。
”霧”の店内には人間は1人だけ、その他には妖怪がいるのみ。全員、霧ネットワークのメンバーである。この時間はまだ一般客も居る事が多いのだが、ドッチェの妖術によって関係のない人間は無意識の内に近づく事はできなくなっている。
それぞれが思い思いの場所に座って、土部の話を待っていた。
「…と、言う事で”うさぎの穴”に行ってきたんです。で、用件はですね。ある物を確認してほしいと言う事なんです。」
少々、もったいぶった言い方。人間としての生活上、身についたのだろうか。
「で?そのある物ってのはなんなんです?」
闘也が聞いた。こういう回りくどい言い方は好みでない。だが、答えたのは土部ではなく早紀であった。
「もりおの箱ですぅ〜。…でしたよねぇー?」
話を知っているドッチェはがっくりと肩を落とす。
「もりお?誰っすか?そいつ。名字は?妖怪っすか?」
闘也は土部に質問したが、土部はかぶり振って、
「”もりお”じゃないです。”モウリョウ”ですよ。”魍魎の箱”です。」
と答える。そして、事の次第を説明した。
魍魎の箱とは中に魍魎が封じられている箱である。長い間、行方が判らなくなっていたそれが、奈良で発見された。見つかった時は既に百瀬という男が所持していたのだか、その危険性を正直に訴えた事で、百瀬は了解し、京都の陽閑寺ネットワークの元に引き取られることになった。
だが、受け取りの日に百瀬家に向ってみれば、なんと百瀬は死亡しており葬式が行われている。仕方が無い、後日改めて。と言う事になったのだが、後日、魍魎の箱について聞いてみれば遺産の分配の時に誰かの手に渡ったらしい、としか判らず困っていたと言う事だ。
「で?それがどうして私達に?」
今まで黙って聞いていた紅が土部に問う。
「ええ、どうもそれが東京に来ているんですよ。」
遺産の分配と言うからには、全く無関係の人間の手に渡ることなどない。地道な捜索の結果、どうゆう経路を辿ったのかは不明だがオークションに出ていたらしくその購入者が藤崎琢磨という男と判ったのである。
そして、藤崎琢磨という男について調べていくと、どうも住所は東京だったらしく、それで陽閑寺ネットの守綱が東京のネットワークの中心、”うさぎの穴”に連絡して来たと言う訳である。
「藤崎琢磨って、あの?」
紅が聞くと、土部はうなづいて、
「同性同名かもしれないって事で調べたみたいですが、どうやら藤崎氏には古美術品収集の趣味があるようです。恐らく間違いないでしょうな。」
「なんだよ、2人の知り合いなのか?」
武虎が口をはさむ。土部は意外という顔。紅が説明してくれた。
「国会議員よ。最近、注目されてるから知ってるの。新聞とか読まないの?」
「う…知らねぇや。大体、こっかいぎいん、てのは…」
「はいはい。後で詳しく教えますよ。」
こんどは土部が口をはさんだ。
「で、”うさぎの穴”の大樹君が少し調べてくれたんですがね。彼の自宅はどうも四谷にあるようで、それならこっちが近いと言う事で話が来たようです。」
「それで、具体的にはどうすれば良いんですか?」
単刀直入に闘也が切り出す。
「とりあえず、所在の確認が第一です。それと”魍魎の箱”は開ける気になれば人間にでも開けられます。中に魍魎がいると言っても1体とは限りません。昔、私が聞いた噂によれぱ108体、封じられているとも…」
108体…その場の全員が想像する。108体もの妖怪が東京で解き放たれれば…
「で?その魍魎とかいう妖怪はどういうものなのかしら?」
紅は元々イギリスの生まれである。日本の妖怪にはそう詳しくない。
「幽霊みたいなやつっすよね?」
闘也が言う。
「うーん…そうですね。でも正確には”死体を食べる””子供や老人の姿である事が多い”という共通点があるだけの、そう種族名のようなものです。私たちツチグモ族だって個々に違うのに一括りにツチグモと呼ばれるようなもんです。ただ、魍魎は個性というより全く違う物だったりしますが。」
土部が説明する。彼は日本の妖怪についての知識が豊富である。
「いずれにしても、人間に害をもたらすものです。もちろん、人間の世界で暮らす我々にも、です。」
武虎 「なあ、先生 その箱ってよ、開けるといきなり全部の魍魎ってのが飛び出しちまうもんなのか?」
土部 「どうでしょう?一応、話ではいきなり飛び出すようですが。そうそう、これを…」
と、言って1枚の紙を取り出します。そこには「魍魎の箱」の絵がかかれてます。
たぶん、陽閑寺の和尚が書いたんでしょうね。毛筆で描かれてて粋です。
大きさは昔のつづら位、全体に唐草模様のようなうねりが彫られていて、一応、鎖と鍵がついてます。
紙の隅っこに「色は赤ぢゃ」と書かれてます(笑)
武虎 「ふぅ〜ん、これが魍魎の箱ねぇ(・ ・)ジー なぁなぁ、この箱の模様ってこの木片のと似てねぇか? 色も赤だって言うしよ この木片が箱の一部って可能性はねぇのかな?」
武虎 「今日よ、仕事仲間の一人が現場で事故って、病院についてったんだ。そしたらよ、いきなり地下から悲鳴が聞こえてきて、行ってみたら……霊安室ってのか? そこに置いてあった死体が食われたみたいにぐちゃぐちゃになってたんだ。しかもよ、発見した看護婦が「子供が食ってた」ってうわ言みたいに言ってるんだぜ。んでよ、辺りを見回したらいかにも怪しげなガキが一人歩いててよ、まあ後ろ姿だったんでよくは覚えちゃうねぇ〜けど、そのガキがよ、なんと壁の中にスゥ〜って消えちまいやがんの。ぶったまげたぜ。死体を食う、それに子供……先生が行ってる魍魎ってやつに何か関係があるんじゃねぇか?そうそう、そのガキが消えた場所の側にこんな物が落ちてやがったぜ。気になって持ってきちまったんだが……。」
そう言って木片を皆に見せます。
土部 「ちょっと、ちょっと、武虎君!止めて下さいよ〜」
武虎 「ん?」
土部 「それ、裏を見てください。なにか書いてあるでしょう? それは封魔の呪文ですよ。たぶん、陰陽師が書いたんでしょうけど私達のような古い妖怪は、そういう物で封じられると”信じられて”いますから、触れただけで動けなくなっちゃうんです。」
武虎 「このみみずがのたくったようなやつか? ふぅ〜ん ……って事はよ この木片は何かを封じる為に作られたって事なんかな?」
土部 「うーん…古い物なのは確かです。表面が赤茶けているのは、塗料が落ちたためでしょうね。」
武虎 「この木片からわかるのはそれぐらいか まあ、触れないんじゃ仕方ねぇな(^_^;)」
土部 「そうですね…こんなものが病院のゴミとして捨てられてるのもおかしいですし、やっぱり、例の箱の一部なんでしょうか…」
武虎 「箱が病院で開けられたって事か? う〜む(・_・?) それじゃあよ、俺、明日でももう1回その病院に行ってみるわ 何か判るかもしれねぇし」
武虎 「そうだ、他にも死体が食われたって事件はおこってねぇ〜のかな? 新聞とかニュースでやってなかったか?」
土部 「私の知る限りでは無いですね。でも今日の出来事ですから、報じられるなら明日なのではないでしょうかねー」
武虎 「食われた死体ってだけじゃなく、身体の一部が無い死体が見つかったとか、そういった関連のありそうな記事も目ぇ光らせといた方が良さそうだな」
武虎 「それでよ、これからどうする? その藤崎ってやつん所、行ってみるか? 住んでる場所は分ってんだよな?」
紅 「行ってみるべきね。魍魎の箱がそこにある可能性は高いし、なくても何か手掛かりが得られるでしょう。でもその前に、そう簡単に入れるような場所じゃないわ。何か考えないとかないとねぇ」
武虎 「そんなやっかいな家なのか? こっかいぎいんの家ってやつは???」
紅 「そうねぇ、お金持ちのやることって言ったら自分の財産を守るだけだもの。警備は厳重だし、少しでも不審者としてみられてたら最悪の場合警察沙汰にもなりかねないわねぇ。……十分注意してね」
闘也 「土部先生、今日学校帰りに先生に会いに来た奴がいたッス。」
今日の出来事を詳しく報告する。
紅 「あら、もうちょっと美形だったと思うわよ。うふふ、闘也君、もしかして妬いているのかしら?」
土部 「…さあ?誰でしょう。思い当たる方はいらっしゃいませんねぇ。」
紅 「そうねぇ。確かにあの男……偶然に目があって……そしたら急に寒気に襲われたわ。まぁ、今回の『魍魎の箱』とは関係ないと思うけれど。……そう、土部先生に会いに来たって言ったのね。それなのに職員室にも来なかった……どうも私と目を合わせてすぐに方向を変えて学校から離れていったみたいなのよねぇ、おかしいわ」
土部 「うーん…しかしただ者では無いですよねぇ。心当たりはありませんが、やっぱり妖怪でしょうか?」
紅 「その可能性が高いと思うわ。でも、まだ断定はできないのよ。だって……人間の中にも、稀に私たちの正体を見破るような輩がいるでしょう。まぁ、そんな人間にはどちらにしろ注意が必要ね。これも誰か調べてくれないかしら?」
土部 「確かに…しかし私に用事があるようですし、うーん、そうですね。とりあえず身の回りに注意しておきます。」
早紀 「死んだ人を…食べるですか? 子供が? むきゅぅ…」
土部 「でも人型とも限らないんですよね…いわゆる獣人のような姿だったり、もっと意味不明な形だったりします。それに、死体を食べるだけで、積極的に死体を作るような事はしないはずです。まぁ、現代になってどうなったかは解りませんけどね。」
早紀 「そう…なんでしゅか。 しぇんせぇ…それってやっぱりお腹が減って…でも、何にも食べる物がなくって…それで、それで…そのまま死んじゃった子供達の妖怪?」
土部 「いえ、違います。昔は土葬だったんですが、恐らくその死体を山犬やなにかが掘り返して食べてしまったのを妖怪の仕業と考えたんでしょう。それで不気味さを演出するために子供や老人などの姿を想像したのだと思います。そういう想いから生まれたものです。」
早紀 「良かったですぅ…でも、やっぱりそう言うのは良くないと思うですぅ! 子供が死体を食べるなんて…駄目ですぅ!(>_<)/」
妖怪達が喫茶”霧”に集い、話し合った次の日の朝。
迅野武虎はアパート月見荘の2階から、1階へ降りていく。
「あれ?迅野さん。今日は早いんですね。」
声を掛けて来たのは、このアパートの管理人、月見耕平である。
「いやぁ、ちょこっと用事があってよぅ…」
と、大あくび。やはり慣れない事は出来ない。
「あ、土部さん。」
耕平が武虎の脇から覗き込むように土部の姿を見て、あいさつする。
「やあ、耕平くん。おはようございます。」
それから土部も1階に降りてきて、
「じゃあ、行きましょうか。武虎くん。」
見ると武虎は立ちながら、船をこいでいる。
「め、珍しいですね。2人で出かけるなんて。」
と耕平、言ってから気付いたのか、
「あ…もしかして何かあったんですか?」
などと土部に聞いてきた。
「いや、別になにもないですよ。ちょっと、武虎くん。行きましょう。」
土部は武虎を揺さぶって、手を引いて玄関から出ていった。
2人の後ろ姿を見送った耕平は珍しいコンビだなと、ちょっと可笑しかった。
中央病院へ向う途中、駅のキヨスクで新聞を購入して目を通した土部であったが、病院の事も、死体損害等の事件もないようである。
「やっぱり、ああいう事は外には出せませんか…」
独り呟く土部を周囲の人々はちらりと見た。
到着した中央病院は、特に変わった所はないように思えた。
2人は正面から入っていく。入り口の警備員が自分達を見ているのに武虎は気がついた。土部は気付いている様子は見せない。
「じゃあ、どうしましょうか。」
待合室で一応、聞いてみた。
「おう、まずは昨日の所に案内するぜ。」
昨日の話し合いの時、土部は病院内を調査する事に決めていた。それは土部の得意とする所だからである。
しかし、地下へは立ち入り禁止になっていた。
「いや、今日から地下で工事が始まりましてね。関係者以外は立ち入り禁止です。」
警備員はそう言った。もちろん嘘だろうが、2人はその場を離れて人気の少ない
所に移動する。
「ちぇ、どういう事だよ。」
武虎は納得いかないという顔だ。
「まぁ、こういう事は良くありますよ。あまりやりたくは無かったのですが、予定通りにやらせていただきましょう。」
土部は仕方ない、といった表情のまま、壁に向って階段を降りるかのように斜めに潜って行った。土部の妖力、物質透過である。
話には聞いていた武虎だが、実際に見てみると、
「…便利じゃねぇの。」
という感想だ。
「こっちはこっちで、予定通り話を聞きに行くか。」
歩き出す武虎だったが、
「あんまり、目立つと良くないかもしれません。」
いきなりの土部の声に立ち止まった。見ると足元から頭だけ出している。
「せ、先生もな…」
一応、答えた武虎であった。
受け付けで確認してみると、現場の友人、木村は入院しているらしい。病室も教えてもらった。しかし、今日の待ち合い室は年頃の男が多い。武虎はその辺が少し気になったが…
土部と別れた武虎は受け付けで教えてもらった木村の病室を目指した。
木村の病室は6人の大部屋で、入り口の名札によると今は満室のようだ。
病室は、それ独特のニオイが漂い、入院患者はそれぞれ思い思いの事をしている。
木村のベットは窓際で入り口からは一番遠い所にあった。室内には清掃係の姿も見える。
「よう、どんな具合だ?」
武虎に話し掛けられ、木村は読んでいた雑誌から目を離した。
「迅野!来てくれたのか…」
心なしか元気がないようだ。怪我をした腕は厚く包帯が巻かれ、その上からビニール製と思われるカバーのようなもので覆われていた。
「どうしたんだよ?…怪我、良くねぇのか?」
さすがに心配になった武虎は、しかし率直に聞いた。
「ああ…元のようには動かないらしくてな…」
”元のようには動かない”武虎には良く理解できなかった。武虎はたとえ手が無くなっても、やがて再生する。人間とは違うのだ。だからその気持ちを本当の意味で理解することは、武虎にはできない。しかし、同情の念が沸かない訳ではない。
「…そっか…それで、なにか欲しい物がありゃあ、買ってきてやるぜ?」
お決まりのセリフ、しかしそう言う以外になにが言えるだろう。木村もまた、武虎の気持ちを察して、無理に元気を出そうと話始めた。
2人はそれから少しの間、他愛もない会話を15分程した。武虎は事故の時の事を聞くつもりであったのだが…
少しして、武虎は意を決して木村に事故の事を聞く事に決めた。
「なぁ…昨日の事故の事なんだけどよぉ。どうも、俺、解せねぇんだ。あの鉄筋、前に見たときゃちゃんと括って転がされてたろ? それがどうして……。なぁ…木村……あん時何か見なかったか?」
一瞬、木村は沈黙した。それから語る。
「あれなぁ…。俺にもわからない。近くを通り掛った時に突然、倒れ掛かってきたんだ。それで…驚いて…鉄筋が迫ってきて…そこで気絶しちまった。そう言えば田中が、今回の事故について会社のほうでも調べるって言ってたぜ。今日の午後には会社の安全管理部の人間がくるそうだ。」
会社、というのは武虎たちが雇われている土建屋の親会社の事だ。大体において例の鉄筋は寝かされていたはずなのに、倒れてくるというのがおかしい。
それに被害者がこれほどの怪我ともなれば、こういう調査をするのは当り前である。
「そう言やぁさ、昨日、なんか騒ぎがあったんだって?」
ついでにもう一つ、聞いてみた武虎だが、返ってきた返事は、
「…この病院でか?知らないな。」
である。とりあえず、聞く事を聞いた武虎は、あいさつして病室を出た。
その後1.2時間程、病院内の人間に話を聞いてみたが、これと言って役立ちそうな話は聞く事ができなかった。この病院内では特に関係のありそうな噂もないし、昨日の事件についてもほとんどの人がなにも知らないようだった。
知っていても、なにか事故でもあったの?と、逆に武虎が質問されるぐらいだ。
結局、外来患者用の待合室まで戻ってきた。
そういえば土部はどうなっただろう。あれから姿が見えないようだが、実際、妖術での調査がどれくらい時間のかかるモノなのか武虎は知らない以上、待つしかない。
後は、昨日の事件の時に近くにいた警備員か、看護婦の永坂優希に話を聞くか、事件と関係があるか不明だが、外来患者から話を聞くぐらいか。
待合室を見渡して、武虎は少し変な事に気がついた。男性患者の内、数人の男達は顔ぶれが数時間前と変わっていない。待たされているのだろうか。しかも、それぞれ雑誌や新聞を読んだり、なんとなくボーってしている様子に見えるが、周囲に気を配っているような気配が感じられる。
”あんまり、目立つと良くないかもしれません。”土部の言葉が思い出される。
なにかに気付いていたのだろうか。しかし、思わせぶりなセリフはいつもの事でもある。
待ち合い室の男達は刑事かなにかだろうか。と、武虎は考えていたが、とりあえず永坂優希に話を聞こうと思っていたので受け付けの女性に聞いてみる事にした。
「あの、看護婦の永坂優希さん、いない?」
ぶっきらぼうな聞き方、しかし受け付けの女性は、はっとした顔をした。武虎の直感は”脈あり”だ。
「え?あ、はい…ちょっと、お待ち下さい。」
うつむき加減で静かな口調、おとなしめの性格と武虎は見た。
「どういった関係の方でしょう?」
当然といえば当然の反応だ。武虎はあらかじめ考えてあった嘘をついた。
「いやぁ、前によ、怪我した時に世話になったんで、あいさつしとこうかと思ったんだよ。」
「あの、本日は出勤しておりませんが…」
だが、信じたらしい。
「じゃあ…その…住所とかは…」
その時、突然、受け付けの女は立ち上がり身を武虎のほうに近づけてきた。何事かと思ったが、
「実は…警察の方にその辺を聞きに来たりした人がいたら知らせろって言われてて…それで教えられない…」
それだけ言うと、すっと元の位置に戻る。
「あ、ああ…そうなのか。すまねぇ、俺の事は…」
そこまで言うと、受け付けの女は、こくり、と肯いた。
「出て来た時に、伝えておきます。伝言とかありましたら、この紙にどうぞ。」
と、紙と書くものを押し出してきた。
受け付けでの用事を終えてから、武虎は数十分待つ事となった。
やがて、土部がいつもの様子で現われた。
「やあ、お待たせしてしまって、すみませんねー」
待たされていた武虎は、さっそく結果を知らせようと口を開こうとしたが、考えてみれば、ここは場所が悪い。
受付の看護婦には、『昨日の件で相談したい事があったら連絡してくれ。力になれると思う。XXXX−XXXX(霧の電話番号) 昨日の大男こと迅野武虎』と伝言メモを渡す。
武虎 「んじゃ、これ頼むな。それから、これはあんたに。よかったら連絡くれや。今度飯でも食いにいこうぜ(^_-)ミ★」
話は霧に戻ってから……という事になり、二人は病院を出る。
武虎 「なあなあ、どうだったんだよ?」
土部 「そうですねー。私に妖力感知能力が無い事が悔やまれますねぇ。まぁ、たいした事は分からなかったんです。しかし、たとえ魍魎が出てきているとしても、武虎くんがいれば問題ないでしょう。」
武虎 「おうっ 任せとけって どんな奴が出てきても俺がぶちのめしてやるぜ(^-^)」
そう言いながら土部先生の背中をバシッて叩きます。
土部はずり落ち掛けた眼鏡を直しつつ……
土部 「いや、ちょっと違う意味だったんですけど…」
話し合いの次の日の朝、喫茶”霧”に紅はバイクで赴いた。店の前に止めると店内へ入る。国会議員・藤崎琢磨の家に向うメンバーはここに集まる事になっていたからである。今、店内にはマスターの源蔵の他には早紀とドッチェが待っていた。まだ朝も早い所為か、それとも土曜だからか、店内に一般客の姿はない。
「おはよう。皆さん。」
カウンターに座る紅。その前には新聞が置かれている。
「例の事件に関係のありそうな記事はないようじゃ。」
確認したのか、源蔵が言う。
藤崎の家に向うメンバーは他に闘也がいたのだが、家から直接向うと言っていた。
昨夜から、一番、行きたがっていただけに、紅は少し心配もあった。闘也は少し直線的すぎる傾向が見られる。まぁ、そこも気に入っている理由の1つなのかもしれない。
「マスター、電話を借りられるかしら?」
紅は源蔵に確認を取ってから、”うさぎの穴”に電話する。藤崎の秘書についての情報を調べてもらうつもりだ。
「いいですよ。それじゃあ、そうですね…昼過ぎ位には判ると思います。」
と大樹は快く了解した。
「じゃ、行きましょ。早紀ちゃん、ドッチェさん。」
というわけで3人は藤崎琢磨の自宅へ向けて出発した。
藤崎琢磨の家は、確かに豪邸ではあるかもしれないが、それほど大きな屋敷というわけではなかった。家の周りは1m80程の壁で囲まれている。純和風といった感じである。
3人と闘也は無事に合流して、藤崎邸を確認した。
「だいじょうぶ?早紀ちゃん。」
「だーいじょーぶですぅ!」
早紀は乗り物に弱いので紅は心配したのだが、たいした距離でもなかったし、気候も悪くなかった所為か、乗り物酔いはしなかったようだ。
「で、どうします?」
と、闘也は誰にともなく聞いた。
藤崎家周辺の住人たちに聞き込みをしてまわる紅であったが、事件に対して関係のありそうなことはなかなか聞く事ができなかった。藤崎家は代々、あの家に住んでいる、いわゆる名家であるらしい。とはいえ昔はもっと大きな屋敷に住んでいたが、戦後の政策によりだいぶ土地を失ってしまったようだ。藤崎本人はプライベートな近所付き合いはほとんどなく、だがその替わりだろうか、夫人の藤崎良子はなかなか親しく付き合いがあるようだ。良い意味で庶民じみているのだろう。
(最近、特に変わった事もないようね…不発かしら)
紅は、あと数軒で切り上げようと考えていたのだが…
「あら?またいらっしゃったの?」
その直後、尋ねた家の主婦からはこんな発言で迎えられる事となった。
「あの、また、とはどういう…?」
「あら、やだ、また雑誌の記者さんかと思っちゃて。ごめんなさいね〜」
その主婦は、おほほ、と口に手を当て上品さをアピールしながら笑った。それとも誤魔化しか。
(記者…私たちの他に誰かが動いている?)
疑問に思った紅だが、そんな事は顔に出さず、
「いえ、私も雑誌社から来た者です。」
と答えた。
「じゃあ、やっぱり古美術品とか扱ってる雑誌なの?」
どうやら、雑誌の取材を受ける事が自慢話になると勘違いしているらしい。
(なんてこと…と、なると狙いは魍魎の箱なの?)
疑惑を強めた紅だが、せっかく話を聞きやすい相手を見つけたのだ。もう少し話を聞く事にした。
藤崎家から少し出た大通りのコンビニで、闘也、早紀、ドッチェは暇をつぶしていた。闘也としては早く事件を解決したいと気をもんでいたのだが、暇つぶしというほど暇ではなかった。少し目を離すと早紀かドッチェがなにか仕出かす。
「あー!かっこいい〜」
突然、見ず知らずの男の高級車にべたつく早紀。
「むぐむぐ…」
金も払わず、勝手にコンビニのクッキーを食べているドッチェ。
「あーっ!もう、なにしてんだよー!」
と、闘也。
そんな時間があっと言う間にたって時刻は昼に近づいた。
紅が聞き込みを大体終えて、コンビニに来た時、闘也は既にぐったりしていた。
「どうしたの?闘也くん。」
紅が聞くと、
「あー…いや、なんでもないっす。」
気丈に答えた。
「で、なにか解りました?」
続けて闘也が問う。
「ちょっと…ね。」
紅の話によれば、どうやら魍魎の箱を捜しているらしいもう一つのグループがあるらしい。妖言社という雑誌出版社である。
「聞いたことないっす。」
紅は闘也に聞いてみたが、返答はこうであった。続けて語る紅。
「ごたごたや、特別な出入りがあった様子はないわね。外で集まる情報は、他愛もない話がほとんど。」
さて、そろそろ”うさぎの穴”の大樹から連絡があっても良い頃だ。
『ピピピピピ…』
紅の携帯電話が甲高い音を立てて、着信を知らせた。
「はい。…あら大樹くん。」
電話の相手は高徳大樹である。
「頼まれていた秘書の件ですが、男の秘書は3人です。香坂藤二、上村信吾、新井勇、ですね。ですが住所までは、まだ判っていません。今日中に調べられるとは思いますが。ちなみに香坂、上村、新井の順でより藤崎本人に近い、つまり信頼されているようです。」
一気に話すと、一息ついて、また話し出した。
「藤崎のスケジュールなんですが、今ちょうど消費税関係で討議が開かれてますよね。その関係で忙しいらしいです。たぶん、家には夜遅くにならないと帰宅しないんじゃないかな。秘書連中は一緒について行くか事務所のほうにいると思います。」
紅は一言、礼を述べてから、悪いのだけど、と事情を話してからもう一つ頼み事をする。
「妖言社ねぇ……。私たちと同じ存在が、同じ目的でその名前だけを勝手に作ったんだと思うけど、一応、調べて置いてもらうわ。いいかしら?」
大樹は、特に嫌という感じはさせずに答えた。
「妖言社…僕も知りませんね。解りました。調べておきます。恐らく夜までには連絡できると思います。」
『ピッ』
電話を切ると、待ってましたと闘也が聞いてくる。
「どうっすか。なにか解りました?」
紅 「そうねぇ、秘書の名前は一応分かったけれど、住所までは無理だったわ。藤崎本人の方は消費税関係の討議で家には夜遅くでないと帰らないの。秘書も彼についているか事務所にいるかのどちらかだから、接触は難しいわね。きっと会ってくれないわよ」
紅 「これなら、本人が家にいない昼間を狙って家に忍び込んだ方が良いわね。幸い、警備も普段よりは手薄になっているでしょう。でもまあ、一度霧に戻ってみんなと相談した方が良いわ」
闘也 「じゃあ戻りましょう。」
早紀 「忍び込むですぅ! 今すぐ、今すぐ、今すぐぅぅ! 守男さんがいっぱいいるかも知れないですぅ! 日本の平和は俺が守る!ですぅ! ねっ、どちぇさん」
ドッチェ 「わしは構わん、いつでも大してやる事は変わらんからな。…しかし早紀を連れて行くのは心配じゃ(^.^; そっちのトウヤの方が良いと思うぞ」
紅 「……いえ、闘也君ではダメだわ。闘也君は妖怪じゃないでしょう。証拠が残ると大変だもの。それよりも、今はやめておいた方が良さそうだわ。とりあえずは今日得られた情報だけでも霧に持っていきましょう。誰が行くかは、その時に」
早紀 「ぷぅ〜! じゃあ、早紀はここで見張り番こするですぅ! そんで、守男さんが出てきたら”えぃやぁ〜!”ってするですぅ!○(・_・) …だから、早く帰ってきてねぇ〜ん」
紅 「ダメ、あなたも帰るの。一人で行動するのは危険よ。それに、マスターが心配するでしょう。私だけじゃとても帰れないわ」
早紀 「しゅん………」
というわけで霧に戻る。
秋の太陽は、正午であっても実際にはより傾いている。時間は12時30分。
喫茶店”霧”の店内は軽い昼食を取ろうという一般客が入っている。オープンして間もない割には盛況だ。これも源蔵の料理の腕の賜物と言えよう。
妖怪達は、日常的ではない会話の為に”霧”の地下室に集まっていた。
テーブルの上にはそれぞれの食事が並べられている。もちろん、この店で用意できるものだけであるが。
そして、それぞれ得た情報を報告しあう。
「んで?先生はどうだったんだよ?」
武虎は土部に話を振った。土部は先程からなにか言いながら黙々と食事を取っていたので、一瞬、無反応だったが、
「はいっ?ああ…病院の事ですか。」
と、箸を置いた。
「武虎君が見たという子供ですが、私も見ましたよ。正確にはゴミが見ていた訳ですけどね。確かに妖怪なのでしょうけど正体までは解りません。壁を通り抜けたのも私のような物質透過なのか幽体だからなのかも不明です。それから、その子供が死体を食べていた…というのも事実ですね。病院の方ではこの辺の事実を隠そうとしているようです。武虎君の話では刑事らしき人間もいたようですね。そういう事もあるのではと思ってはいたのですが。それと例の木片はその子供にくっ付いていたものが壁抜けの際に落ちたようです。」
また、大樹に依頼していた魍魎の調査の結果も源蔵から聞いていた。
魍魎は種類が多く、地方によって姿も違うのが普通である。今回の箱に封じられていたものは元を辿れば関東地方のものらしい。ただ数や能力に関しては、なにぶん古いものでよく解らないということである。ただ、一番気に掛る点は、箱の中で魍魎−達−がどんな状態になっている−なっていた−のか解らないという事です、と言っていたそうだ。
「まぁ、武虎くんが居れば魍魎の方は問題ないでしょうけどねー」
話の中、土部が呟く。武虎は思い出したように土部に聞いた。
「そうそう、それよぉ、どういう意味なんだ?」
土部はさも当然といった風に答えた。
「意味って…魍魎の弱点、というか苦手なものと言えば”虎”なんですよ。つまり、武虎君、君です。」
武虎 「へぇ…俺が苦手ねぇ…… んじゃ、ま、魍魎が現れた時は俺がぶちのめしてやるとしてだ その魍魎が何処にいるのかってのが1番の問題だよな 昨日みたいな事件にそうそう出くわすとも思えねぇ〜し、やっぱ魍魎の箱の行方を追ってくのが手っ取り早いかもな ローザ達の話しじゃ藤崎って野郎の家は昼間の方が忍び込みやすそうみたいだしよ。今から行ってみねぇ〜か?」
紅 「そうね。でも、だれが潜入するのかぐらい決めておいたほうがいいわ。たとえ主人がいなくても、家ががら空きになるわけじゃないから、それなりに身を隠せる人でないとね」
武虎 「あ、俺はパスな。隠れんのって苦手なんだ。表で待機してらぁ。それで潜入は誰がするかだけどよ……物質透過で潜む事が出来る先生は外せねぇだろ? 後はドッチェの力を借りて誰かもう1人ってところか……ニャンがいりゃああいつに頼むんだが、夕方にならなきゃ顔出さねえしなぁ……誰か行きてぇ奴いるか?」
紅 「私も苦手なのよねぇ。まぁ、透明化しているなら特に問題はないと思うけど」
武虎 「取り敢えず、あたりに前以って早紀かドッチェに人払いでもかけてもらっとくか? 人目は少ねぇ方がいいだろうし。」
紅 「そうね。そうしてもらったほうがいいわね。それでもし魍魎が出てきたら、武虎君にお任せするわ。いいかしら?」
武虎 「おうっ まかせとけ(^-^) そんじゃ、忍び込むのは先生と闘也、それにドッチェ 外で待機がローザと早紀と俺ってところか よっしゃ、それじゃさっさと行ってかたして来ようぜ」
午後1時56分、藤崎邸近くの路上。
妖怪達は決めておいた作戦について確認していた。藤崎邸にはディクシオンと土部が侵入する。そしてドッチェがディクシオンをサポートする。藤崎邸の外では紅と武虎が待機し、連絡は早紀の妖術”心の声”で行う。
「じゃ、やるからな。」
一言告げると、ドッチェは妖術を使った。辺りに力が行き渡る…これで無用の人間の目は避けられるだろう。
「いいっすか?じゃ…」
闘也は一応、周囲を確認してから叫んだ。
「爆焔!」
次の瞬間、そこにはディクシオンとなった闘也の姿があった。ディクシオンの肩にドッチェが飛び乗る。
「じゃあ、気を付けて。なるべく手早くお願い。」
紅の言葉にディクシオンは頷いた。
「先生、行きましょう。」
闘也に促されて土部も歩き出す。紅と武虎は2人を見送った。
ディクシオンとなった闘也にとって、藤崎邸を囲む壁など障害ではない。簡単に乗り越えると、庭に下り立った。土部は地面の下にいるはずだ。ディクシオンはすでにドッチェの妖力で透明化している。
藤崎邸は確かに一般家庭から見れば広いが、TVなどでイメージされるほどの広さではなかった。恐らく、家族が生活しているであろう2階建ての家−和風である−があり、その向かいには小さな家−これも2階建て−があった。そしてその他のスペースは庭である。庭は狭いながらも植物や池が配置され、日本庭園の情緒を醸し出していた。とは言え、闘也にはよく解らなかったが…。これは後に聞いた土部の感想である。
和風の家は生活のニオイがあった。そして恐らく古いものである事も予想できた。
だが、その向いの家は生活のための家という構造ではなく、そしてそれほど古いものでもないような感じがした。
「どうも、あっちの建物は新しいようじゃな。建ててから10年と経っていまい。」
ドッチェがささやく。10年なら結構、経ってるんじゃないかと闘也は思う。が、古い方の家から見れば新しいと言える気がする。
少しの間、このようにディクシオンが藤崎邸を観察していると、土部の声が聞こえた。
「やっぱり、カメラとか探知器のようなものがいろいろあるみたいです。地面の中にも配線とかありますよ。大体の位置は判りました。」
小さな声だが、すぐ近くで聞こえる。最初に降りた木の近くから動かなかったから土部にもディクシオンの位置が判っているのだろう。しかし、地面から顔だけ出されるのも不気味だ。いいかげんに慣れようと思うが、知っている顔だから余計に恐い。
藤崎邸の庭で、透明になったディクシオンは考えていた。
やはり、あの新しい方の家が怪しい。そちらを先に調べてみよう。と考えた時であった。
『なんか怪しい人がいますぅ…あ、こっちでなんとかしてみるそうですぅ』
早紀の”心の声”が闘也達の心に響く。闘也は一瞬驚いた。なにしろ、心に直接語り掛けられた経験など無いのだから、ごく自然な反応ではある。
「…どうしましょう…先生」
地面に向って呟く。顔を近づければ振動で伝わるはずである。そして、土部ならその振動を感じてくれる。
「そうですねー。まぁ、一応、急ぎましょう。」
かなり普通に声を返された。闘也はこれでも潜入をしているのだから、もっと気を使うものだと考えていたのに、これでは拍子抜けだ。もちろん、土部は安全だという確信を持っているのだろうが…これでは気分が出ない。そう、闘也にとってはこれこそが重要なのだ。
ま、いいか…と闘也は思った。土部先生はいつも人のペースを乱す人だと、常々考えてはいたのだし。
家への侵入は難問だった。土部が先に潜り込み、内側の鍵を外してくれれば良いと思っていたが、なんと電子ロックだったのだ。無理にこじ開ければ当然、警報が作動するはずだ。
結局、古い方の家の家具の隙間から、ドッチェの”門”を使って侵入する羽目になってしまった。これもまた、闘也のイメージとは違った。携帯コンピュータとかを利用して『ピピピッ』なんてスマートに決めたかったのに…。
古い家への侵入は容易であった。なにしろ、庭に面した縁側から障子を開ければそれで侵入成功なのだ。とりあえず、人に見られないように、音を立てないようにと注意すればよかったのだ。古い方の家はやはり生活している場のようである。
それというのも、藤崎家の恐らく娘であろう少女を見かけたからだ。その瞬間はドキッとした。身を隠そうともしてしまったが、動かなければ見つからなかったのだ。なにしろ透明なのだから。しかし、なんとなく嫌な気になる闘也であった。
新しい方の家にしたのは正解だったようだ。収集した品物はここに収められていた。中にはキチンとしたガラスケースなどで展示されているものもあれば、棚に並べられただけの物もある。さらには木箱の中に入れっぱなしというものさえあった。
「こういう物は飾るより、保存する事のほうが重要なんです。どうやら設備もなかなか整えてありますし、無造作に見えてもこれはこれで良いのではないでしょうか」
と、これは土部先生の談。そういうもんなのか、と闘也は思う。どうゆう訳か、やはり先生だからか、なんなく素直に聞いてしまう。
一通り調べてみたが、どうも見える所には”魍魎の箱”らしきものは無い。後は箱に収められているものを引っ張り出すしかないのか…。
「わざわざ出さんでも、中が見えればええんじゃろうが。トウヤ、いいか」
突然、ドッチェはそう言うと、闘也の返事も待たずに闘也に”透視”能力を付与した。
「うわわっ」
いきなり、そんな事されて驚いたが、しかし、これはおもしろい。望んだものが透けて見えるなんて闘也は経験した事はない。ドッチェはどうも、”魍魎の箱”の形を詳しく覚えていないらしい。だから闘也が調べるしかないのだ。
「お、あれかな…」
比較的、手前に積まれた箱の中に、絵で見た”魍魎の箱”らしきものを発見したディクシオンは呟いた。
「これですか?」
と、闘也の見ている箱を土部が指差す。
「ええ…たぶん、間違いないっす。他に箱らしきものは見当たらないですし」
『ばこ…』
ディクシオンは慎重に木箱を開けた。痕跡は残してはならない。
木箱の中には、絵で見た”魍魎の箱”が収められていた。
「こ、これかぁ…」
なんとなく、話に聞いていた所為か、不気味な感じがする。だがしかし、土部は首を捻った。それを不思議そうに見るディクシオン。そして土部が手を伸ばす。
「あ、先生。こういうの苦手って言ってませんでした?」
先日のやり取りを思い出して、ディクシオンはそう言った。
「あ、あれはですね。一枚の板になってたでしょう?ああいう風に”お符”っぽくなってたから駄目なんです。こういう立体なら平気なんですよ」
その説明はなんとも理不尽に闘也には聞こえたが、まぁ、妖怪に合理性を求めても仕方が無い。
…数分後。土部は”魍魎の箱”から手を離した。
「面倒な事になりましたよ。ディクシオン君」
君付けされるのも妙だが、変身後はやはりディクシオンと呼んでもらいたい。
「え?それはどうゆう?」
「はぁ…これはですね、ニセモノです。」
なんと、衝撃のセリフ! 苦労した末に見つけたのにニセモノだったなんて!
「へ?で、でも…じゃあ、俺たち、ニセモノを捜してたって事っすか?」
だが、土部はかぶり振った。
「陽閑寺の和尚が間違えたりしませんよ。あの方は妖怪のなかでも最長寿の1人ですからねー。つまり、そこが面倒、なんです」
「てことは…本物がどっかにあるって事ですか?」
ディクシオンは自分でも当り前と思えるセリフを言う。
「そう、それもどうやら…まぁ、後は外で話しましょう」
それもそうだ、こんな所に長居はできない。3人は侵入時と同じ様に、脱出を始めた。しかし、どういう事だ?と、闘也は気になってしょうがなかった。
3人を見送ってから、数分が経っていた。残った紅、武虎、早紀の3人は別れた場所よりも藤崎邸近くまで来ている。細い路地の角から、様子を伺っていた。
「うーん、まだか…」
武虎は退屈そうに壁に寄りかかる。
「ちょっと、幾らなんでも今戻ってきたら早すぎよ。トラブルがあったって事じゃない。」
紅は藤崎邸から目を離さずに答えた。早紀も一生懸命に見張っている様子だ。どうも目撃された魍魎らしき”もの”が子供の姿をしていた事が気になっているのだろう。
その時、紅と早紀の2人はほぼ同時に気が付いた。藤崎邸から見て紅達の逆の方向の道の角から、やはり同じ様に藤崎邸を見ている者がいる!
目深に帽子をかぶり、トレンチコートを着たその男は藤崎邸を凝視しているわけではないが、明らかに観察しているのが2人には見て取れた。そして、その男はまだ紅達3人の存在には気付いていないようだ!
紅 「……武虎君、早紀ちゃん。静かに聞いてね。向こうの角におかしな男がいるわ。あんまりじっと見ちゃ駄目。気づかれるから。二人とも、あの男、見たことある?」
武虎 「ん?……おかしな男?」
武虎 「う〜ん…? 知らねぇな」
武虎 「なあ、ドッチェのやつ人払いの妖術ちゃんと使ってたよなぁ? それが通用してねぇって事は、よっぽど意思の強い人間か……俺達と同じ……」
武虎「早紀ぃ あいつらの頭ん中、読めっか?」
謎の人物の出現に、しかし、妖怪達は慌てることはなかった。3人はすぐさま作戦を立て、実行に移す。早紀を背負っている武虎がその人物に忍び寄り、早紀の妖術”思考感知”で相手の思考を読むのだ。これで相手の正体に近づけるかもしれない。
武虎は音も立てずに素早く男の近くに忍び寄った。それはまさに狩人としてのものだ。武虎の存在に気付くものはそうはいまい。だからこそ、武虎は自然の中でも生き抜く事ができたのだ。目標の距離は男から8m以内である。本能に従い、武虎は男の死角、死角と着実に進み、距離を詰める。風向きまでも、考えるまでもなく、計算に入れる。
結局、武虎は地形の関係で男から7mの距離の壁沿いに身を置いた。次は早紀の出番である。武虎は完璧にその責任を果たした。
『やりますですぅ』
緊迫感のない早紀の声が武虎と紅の心に響く。だが、それとは裏腹に早紀は精神を集中した。男の心のなかに手を伸ばす…。
(まったく、面倒な仕事じゃのう…ん?むむっ!し、しまった…)
男の心の声が早紀には読み取れた。早紀にとっては問題無い成功であったが、男は早紀の妖術によって心を読まれている事に気が付いた。つまり、その男は早紀達同様、妖怪であったのだ!
(く、くそっ!ど、どこにおる!例の”ねっとわーく”のやつらか!)
男が動揺しているのが、早紀にも伝わってくる。男はまだ、思考を制御する事すら忘れているようだった。男が路地から飛び出すのを、武虎は見た。コートの下の姿−人間としての−は老人であった。もちろん、だからといってその動きまでもそうという訳ではない。
(六郎どのに警告されていたにも関わらず…わしに感づかれずに近寄るとは…)
男は周囲に気を配り、また徐々に落ち着きを取り戻していくようだ…
「よう、じいさん、なんか捜し物かい?」
突然武虎に声を掛けられ、驚き、狼狽するかと思うと逆に姿を見た事で落ち着きを取り戻していく様子が早紀には感じられた。そして、次の行動の決心がついたのも…
「小僧っ子が!」
そう叫ぶと老人は人間から本来の姿へと変貌した!
その姿は古めかしい綿入れを着た老人のような細い体…しかし頭部はまるで呪いのわら人形のような”わら”で出来ており、そこに鋭い一対の目が輝いている。
「そうくると思ったぜ!」
武虎もまた、戦闘のニオイを感じていたのか。すぐさま虎人へと姿を変える。そしてそのまま、巨大化を開始した。
▼第1ターン
・武虎…移動から大振り攻撃を攻撃回数増加分合わせて2回→成功×2→敵、よけ成功×2
・敵…武虎に妖術「針地獄(だだ針を一杯飛ばすだけです)」→成功→武虎、よけ失敗→36ダメージ(防護点その他、修正後)
・早紀…集中をやめて移動。
『武虎…HP75/111』
▼第2ターン
・武虎…攻撃×2、成功×2→敵、よけ成功×2
・敵…武虎に妖術「針地獄」、成功→武虎、よけ成功
・早紀…妖術「石弾」、成功→敵、よけ失敗→18ダメージ
『武虎…HP75/111、敵…累積ダメージ18』
▼第3ターン
・武虎…攻撃×2、成功×2→敵、よけ成功×1→19ダメージ
・敵…武虎に攻撃(武器の手)、成功→受け成功
・早紀…妖術「石弾」、成功→敵、よけ失敗→6ダメージ
『武虎…HP75/111、敵…累積ダメージ43』
▼第4ターン
・武虎…攻撃×2、成功×2→敵、よけ成功
・敵…逃走開始
『武虎…HP75/111、敵…累積ダメージ43』
「ちっ!」
老人の妖怪はそう舌打ちを残し、信じられないような(人間には)跳躍を見せると、隣の住宅の屋根の上に飛び乗った。そのまま屋根の上を疾走し、また跳躍。どんどん遠ざかっていく…
すでに日が傾きかけ、世界を朱に染め始めた。もう冬も近い。時間は午後4時5分。場所は喫茶店”霧”である。
店内には主人の源蔵の他にバイトで入っているニャンの姿も見えるが、事件を追っている妖怪達は地下室にいた。
「ちきしょう、あのジジィ、見かけによらず足、早えーんだ」
口惜しそうに武虎は言う。逃げた妖怪を追って行った武虎だが、あのように屋根の上を移動されては追撃する事もままならない。そして、途中で見失った。
「どちらの方向に逃げたか、分からないっすか」
闘也は真剣な表情で尋ねる。武虎は、うーん、と唸ると、
「あそこがあーだから…こっちに行って…むー…」
と頭の中に描いた地図を手でなぞるようにしつつ、考えこむ。
「あの妖怪は何の妖怪だか分かりません?」
紅は土部に問う。土部の知識を当てにしての事である。
「えー…どうでしょう?姿だけではねー…。有名な妖怪ではないですが、恐らくつくも神の一種でしょうね。針を操る所をみると針のつくも神ではないでしょうか」
「つくも神ねぇ…」
と、紅。土部は続ける。
「気になるのは、あの姿です。雰囲気と言いましょうか…昔、見た気がします。」
「昔?いつ頃ですか?」
これは闘也の質問。
「何百年か前ですねー。まだ江戸になっていない頃です」
それは闘也の想像のおよぶ時ではない。実際、闘也は土部がいつから存在しているのか知らない。そういった事を話した事はあまりないからである。
「もし、そうならかなり古い部類かも知れません。つくも神と言えども我々個人よりも強いかもしれませんよ。それに徒党を組む事が多いですし、今の新しいつくも神達は個人的に行動しますが、古いものは仲間意識が強いんです」
そこで闘也はなんとなく思い出した絵の題名を呟いた。
「百鬼夜行…」
「はい。そういう風に言われますね。あれはつくも神の行進を描いたものです」
土部は、いつもの学校での先生のように答える。
「ヒャッキヤコウ…ねぇ。他にはその”古いタイプのつくも神”について何かご存知?」
紅は一応、知っておいたほうがいいというように聞いてみる。
「まぁ…変わった所は他には…人肉食というくらいですかねー」
土部はいつもの調子でそう言った。
「ひゃっきやこう…ひゃっきやぎょうと言わんかったか?」
どこから聞いていたのか、源蔵が降りて来た。
「紅さんに電話じゃ、例の大樹くんからじゃぞ」
1階に戻る紅。源蔵も続いて1階に上がる。闘也は源蔵の言葉を気にして、土部のほうを振り返る。
「読み方が現代になって変わったんですよ」
質問を口にする前に土部が答えた。
やがて紅が地下室に戻ってきた。大樹は頼まれていた調査を終えていた。
まず秘書達の住所。そして妖言社についてである。
「妖言社って、実在するそうよ。ダミーかもしれないけど一応ね。1年前くらいに設立。出資者は渡部一郎とか…二郎とか。場所は水道橋ね」
突然、考え込んでいた武虎が声を上げる。
「あ、そうそう、あの野郎。水道橋のほうに逃げたんだ!」
皆が武虎のほうを見る。武虎は、どうしたんだ?という顔。
「怪しいな」
闘也が呟いた。
そして妖怪達は今後の方針について話し合う。
「秘書だけど…これはねぇ…」
紅がそこまで言うと、それを遮って、
「行った方が良いですよ。背の低い痩せた男で眼鏡を掛けている方が”箱”の本物の場所を知ってると思いますから」
と、土部が言う。
「そうそう、そう言えばなにか判ったって言ってましたよね?」
闘也は土部に言う。
「”箱”のニセモノを置いたのは、その男です。まぁ、秘書とは限らないんですけど、あの収集品を保管している場所に信頼されていない人間が入るのは無理だと思います。その時、入れ替わるように同じ様な木箱を持っていってますから、それが本物ではないかと考えてるわけです」
と、土部は自分の予想を述べた。
武虎 「秘書と妖言社ねぇ さっきの爺の事もあるしよ 別行動は拙いか……先ずはその秘書ってやつをあたって、成果がなけりゃ妖言社ってとこも行ってみっか?」
紅 「そうね。こうなってはやはり秘書をあたったほうがいいわね。でも、誰がどこにいるかどうかわからないのよ。事務所と、それから藤崎についているかのどちらかが可能性が高いらしいけど……。まぁ、何にしろ土部先生の言った人間を探さなければね……」
MESセッション『霧と闇の夜明け』 後半
年末年始があって一時中断しました。
再開後は普通のセッション形式に戻っていて、GMの説明に対してPCがレスを付ける形に戻っています。
参加者やPCに変更があります。
GM:
今、皆さんのいる場所は喫茶店、霧です。秘書の住所と妖言社についての情報が入った所ですね。バイトの時間が終わったニャンが皆さんに合流してます。
中断前の話では皆さん全員で秘書に聞き込みに行くってなってましたね。その辺から今後の方針について話し合って下さい。
闘也 「住所が分かってるなら、サクッと行きましょうよ。」
早紀 「早紀はこの人の所からがいいですですぅ」
紅 「良いわよ。どのみち私は秘書のところにはいくつもりだったから。残っていてもやることはないでしょうしね」
GM:
ところで秘書宅へ向かう人の確認ですが、
PCは早紀ちゃん、闘也くん、ローザ、小夜ちゃん、ニャン
NPCは土部先生、ドッチェ
でいいのかな?
紅 「じゃあ、私たちがしっかりしないと行けないわね、土部先生。たまにはこういうことがあっても面白いでしょう」
土部 「はい? あ、はぁ…そうですね(^-^)」
紅 「おや、土部先生、どうかしましたか? なにかお悩みのようですけど。……ふふふ、まさか恋の悩みじゃないでしょうねぇ」
土部 「いや、私を尋ねて来た方といい。武虎君と戦った妖怪といい。なんとなく引っかかるんですよ…」
紅 「すべては実は一本の線で結ばれていた、なんてよくあるパターンよね。実際には複雑に絡まってはいるんだけど…どちらにしろ、今の情報だけでは判断できないのじゃないかしら?」
GM:
とりあえず香坂藤二、上村信吾、新井勇の三人を住所で並べてみると…
香坂は四谷、上村は新小岩、新井は蒲田ですね。(分からない方、すみません)
ですので、回る順にならべると香坂→上村→新井の順が良いかと。
四谷から新小岩はまぁ近いですけど、蒲田が少し遠いですね。この3地点は結局うまくロスなしで回るのは無理でしょう。ですので結局、リスト順という事で(笑)
まずは香坂藤二の家に到着しました。四谷の坂の上にあるマンションですね。
家族で住むような所です。郵便受けには「香坂」としか書かれてないです。
部屋は4階。通路沿いに小さい窓がついてまして、たぶんキッチンがある為だと思えます。んで、電気はついてません。観た所、真っ暗です。外に回れば、部屋にはベランダがありますので、そこの大きい窓というかサッシですかね、それが見えると思いますが…確認します?
とりあえず留守っぽいです。今は玄関前に紅、闘也、土部の3人がいます。他の妖怪達は…すこし離れた所にいるんでしょ?
さてさて、どうしますか…
早紀 「ニャンちゃ〜ん。 着いたけど、お家真っ暗ぁ〜(/_;)」
人間の姿のままで猫ニャンちゃんを胸にベランダの様子を見てます。
ニャン 「にゃあにゃあにゃあ(小夜ちゃん、中に何か(妖力を)感じる?)」
GM:(判定して)とりあえず自分達以外に妖力は感じません。
土部 「しかし、ここの人とは限りませんし、あまり勝手に入るのは気が進みませんねぇ…」
ニャン 「んにゃにゃあ〜(平気、平気、ちょっとだけだって ちょこ〜っとだけ覗いて、んで、すぐ出てくるからさ ね、いこいこ(=^^=))
土部 「……そうですねぇ。…仕方ありません」
GM:
では。家の中に侵入しましょう。
扉を開けたりする必要のない2人なので、すいすいと部屋を見てまわります。
とりあえず、ざっと見た所、魍魎の箱およびそれらしき箱は見当たらないです。
押し入れの中とかも見るだけ見てます。(土部さんが頭突っ込んで)
今の所、物には触れてません。だから本格的に捜索してはいません。
部屋の中には写真盾に入った写真を発見。
右側に中肉中背の男、真ん中に幼稚園位の男の子、左に品の良い女性です。
この写真の男は土部さんの見た男とは違うようです。
ニャン「はずれかにゃ?(^_^;) ま、あと2つ残ってるもんね そえじゃ、次行ってみよ〜〜〜(^O^)/」
GM:
では上村信吾宅を目指して移動します。で、到着(笑)
彼の家は新小岩駅から歩くと15分はかかる住宅地にあります。一戸建ての2階立てで、まぁ、標準的な家ですね。家には明かりが付いていますが、車庫に車は見当たりません。
小夜のプレイヤー:〈妖力感知〉しておきます。
GM:
そうですね。妖力は感じません。
早紀 「なんかつまんないですぅ!」
ニャン 「にゃうん、うにゃにゃん(中に入る時は《心の声》を繋いどいて、何かあったらすぐに教えてにゃ(=^^=))」
『ピンポ〜ン』
闘也がチャイムを押してしまいます。
闘也 「あれ? どうしたんスか、皆さん」
ニャン 「うにゃぁ〜・・・にゃあ、うにゃあっ!!(ありゃりゃ・・・それじゃ、後は任せたにゃ!!)」
GM:
チャイムを鳴らすと、チャイムのスピーカー(一緒になってるやつですね)から返答があります。
女の声 「どちら様でしょう?」
早紀 「こんばんわですぅ! 早紀ですぅ! 守男の箱を探してますぅ!」
女の声 「…は?」
早紀ちゃんをむんずっ、とつかんでて闘也君のほうに押しやります。
紅 「申し訳ありません。近くにいた小さな子供が突然割り込んできてしまいまして…… ……あ、私、緑川と申します。藤崎様の秘書上村様に、同じく秘書の香坂様より伝言が在るのですが、上村様はご在宅でしょうか?」
女の声 「……緑川さんですね。私、上村の母です。伝言があるのでしたら私が伝えておきますので、どうぞ」
小夜 「外出しているみたいですね。それに、仕事に出ているという訳でも無いみたいです。ここは1度引き下がるべきだと思いますけど。仕事に関しての事だから、母親とはいえ部外者には頼めないとでも云えば納得されるんじゃないでしょうか。」
紅 「申し訳ありません。どうしても直接話すよう承りましたので……上村様はご在宅ではないのですね。では、また後日お伺いいたします」
女の声 「…は、はい、そうですか。わかりました。よろしくお願いいたします。失礼します…」
小夜 「土部さんにはここに残ってこの上村さんが当人かどうかを確認して貰って、私達は最後の人を当たるというのはどうでしょう。どのみち、他に人が居たら中を調べることもできないですし、時間の短縮にもなると思います。早紀さん、〈思考感知〉で土部さんの覚えている人物を覚えることは出来ませんか?」
土部 「私は構いませんよー」
早紀 「(心の声)つちぶぅしゃん、つちぶぅしゃん。 その人の顔を思い浮かべてねん!(^-^)」
土部 「はいはい。えーとですね……(声に出して)」
早紀 「(心の声)思い浮かべるだけでイイですぅ」
GM:
(判定して)成功ですね。じゃあ、土部さんが見たという男の姿(腰から上のみ)を早紀ちゃんも見る事が出来ます。
GM:
では新井勇の家を目指して移動します。
彼の家は蒲田の駅から歩くと20分近く掛ってしまいます。ちなみにこの時間では蒲田の駅前はにぎわっていて仕事帰りの人々が歩いています。彼の家はそんな
雑多からは離れているので比較的静かですね。彼も一戸建ての標準的な住まいです。表札を見ると「新井勇、幸子、登」と書かれています。家は電気が付いていて
車庫を見れば奥に一台あります。スペースからいってもう一台止まれますね。
上村宅と比べると部屋数は少ないかもしれませんが、庭は広いです。
小夜ちゃんの妖気感知に反応はありません。
早紀 「紅お姉様と闘也君は表から、早紀はお庭で見張り番子、ニャンお姉様は忍び込みでGO!ですぅ!」
ニャン 「いい? もし誰かに見つかっても慌てちゃ駄目よ そうね・・・ペットの猫がここの家の庭に逃げ込んじゃったって事にでもしとこっか(笑) それじゃ行って来るから『見張り番子』宜しくね(^_-)ミ★」
闘也のプレイヤー:とりあえず、「ピンポ〜ン」です(笑) 後ヨロシクですぅ(^-^;
GM:
侵入は成功ですね。
じゃあ、順に行きますか。
・庭……犬とかはいません。芝生ですね。小さい物置らしきものが見えます。
・庭側の部屋……ソファーやテレビがおいて有ります。広いですね。1人の男がテレビ見てます。
で、「ピンポーン」となります。男はテレビを消して、インターホンに向かって、
男の声 「はい、どちら様で?」
GM:
とりあえず、新井勇が目的の人物です(^.^;
色々やって、彼から情報を得ました。内容は……
「魍魎の箱」は新井勇が輸送を頼まれ、例の保管庫にも彼が運びこみました。ただ、そのときに箱をぶつけてしまって一部が欠けてしまいました。箱は妖魔のたぐいには強くても物理的にはただの箱なわけですね。
もう、彼はびっくり仰天です。とりあえず知り合いのところにあった似たような箱を急遽、細工してもらってそれを置いておきました。
その知り合いは宮大工とかしてて、ほかにも古い美術品の修復なども手がけているそうです。
今、箱はその人の元にあります。修復中なのです。
と、いうことです。
その知り合いの名前は「門田隆三」
住まいは奥秩父のほうの山ん中です。ちなみに今から行くなら電車で行けますけど、終電の関係で帰ってくるのは無理になります。行くのも急がないと無理でしょう。もしかしたら途中で終電になってたどり着けないかもしれません。
小夜 「急いで行ってみましょう。帰りは私の力もお役に立てるかも知れませんし。」
土部さんに連絡を入れて駅に急ぎます。
GM:
さて、移動しながら土部さんにも連絡して、皆さんは駅まで来てます。
土部さんからの折り返しの電話は入ってきません。
早くしないと電車が間に合わなくなりそうですよ。どうします?
小夜 「明日まで待つのは、避けたいです。逃げてしまった魍魎を封じられるのは、今の所これだけですし、自分達にとって危険な物を、そのままにしておくとも思えません。土部さんの事は気になりますけど………霧の方に連絡してみませんか?」
GM:
さて、電車の中。
この時間の下り方面は都内はそこそこ混んでますが、そのうち空いてきて、皆さんの乗ってる車両には皆さん以外は居なくなります。
その頃、土部さんから電話が入ります。
土部 「あ、皆さん、ごめんなさい。行けなくてなりまして……例の魍魎ですが、やはり箱が完全じゃないと封じられないそうです。ですので、今持ってる箱のかけらを使って修理してもらってください。それから魍魎を封じましょう。その方法は私も知りませんので明日にでも確認します。それから、箱。やっぱり別に狙ってる人たちがいるみたいですよ。私の……」
と、ここまでの所で向こうの車両から鉄道職員の人がバタバタと慌てて走って来ます。
小夜のプレイヤー:何が起こったのかよくわからないので、ひとまず様子を見ます。
GM:
では、特になにもしなければ、そのまま通りすぎて行きます。
皆を目指してきてるわけではないのです。
闘也のプレイヤー:通り過ぎていくならどこに行くのか、見ます。
GM:
そのまま先頭車両に向かいます。
GM:
それと車掌さんのほうのは歩き去った後、車内アナウンスが流れます。
「ただ今、車内にて具合の悪くなられたお客様がいらっしゃいます。当線は次の踏み切りで緊急停車いたします。お急ぎのお客様には大変ご迷惑をおかけいたします…。なお、車内に医師の方がご乗車になれていらっしゃれば車掌に声をおかけ下さい」
小夜のプレイヤー:野次馬みたいでちょっと嫌ですけど見に行きましょう。
GM:
おばさんが「お父さん! しっかりして!」とか言ってて、座席にはおじいさんが横になって浅い息をしてます。
GM:
そう言う訳で、列車は10分ほどの遅れで目的地の駅に到着しました。
小さい駅で、もちろんタクシーとかが常駐しているわけでもないです。
目的の家までは歩くとかなり時間がかかります。
バスはすでに終わっているようです。
辺りには駅員さんのほかには人影もなく、駅前商店街なんてのもなく(笑)
目的の家は山の中にあって、歩くと大人でも40分は覚悟しなければならないでしょう。
一応、車でも家まで行くことは出来ます。車が入れないほどの山奥ではないです。
武虎のプレイヤー:それじゃあ、タクシー呼んじゃいましょう。
GM:
では、タクシーで目的の家に到着。
タクシーはどうします?
家には明かりが点いています。
家は二棟あって、両方とも1階建てです。明かりは片方にしかついてません。
木造の古い感じの家で、なんとブザーとかが見当たりませんね(笑)
家の人を呼び出し、持ち主の使いの者で、急いでいるため様子を見に来た……というような事を説明したようです。
おじいさん 「おや、どちら様? はぁ、なるほど。しかしまだ修復が終わってないのです。せめて欠けている部分があれば…楽なのですが、中々あれに合う木がありませんで」
武虎 「なあ、爺さん その”木切れ”があったとしたらどれくらいで修復出来る?」
おじいさん 「そうですな…ただ付けるだけならすぐですが、しっかりと修復するなら1日はかかります」
武虎 「それじゃ、付けるだけでいいからよ こいつで、ちょちょちょいっと……」
おじいさん 「おお、欠けた部分が見つかったんですな。急ぎの仕事という事でしたのに、時間をかけてしまって申し訳無かった。では早速」
小夜のプレイヤー:この場所で〈妖力感知〉します。
GM:
了解。めちゃくちゃ成功してますね。
妖怪が30メートル先にいます。人数は1人。
闘也 「何っ! 妖怪がいるだって! よし、ここは俺が見張るッス!!」
武虎 「そんじゃ俺は裏の方を見張るとすっかな なんかあったら大声出せよ んじゃな」
紅 「じゃあ、二人とも任せるわね。でも、無理は禁物よ。それに、こっちからしかけるようなことはしない方が無難だわ。余計な敵は作りたくないでしょう……今は、そんな余裕はないのよ」
裏を見張る武虎のところに小夜が来て、感知した妖怪は動いていないようなので偵察に行くことを提案します。武虎は了解して、二人は偵察に行きます。
GM:
武虎くんと小夜ちゃんが忍んで行くと、来るとき通った山道に車が一台止まってます。普通のセダンです。
車の脇には1人の男が立ってます。見た目はどこかの会社の社員のようにきちっとしてます。とはいえ、あまり特徴的ではないですね。
彼はタバコに火をつけた所です。
距離は15メートル。こちらに気づいた様子はありません。
小夜のプレイヤー:まずはオーラを調べてみる、ですかね。
GM:
妖怪ですね。
武虎 「小夜坊はここで待ってな(^_-)ミ★」
小夜 「待って下さい。まだ悪い人だと決まったわけでは………」
武虎 「わかってるって」
出てくるなら、男のほうも気づいた様子で武虎くんのほうを向きます。
男 「あなたは、確か…迅野武虎さん、ですね。人間としての名は」
武虎 「へぇ…俺も有名になったもんだ 奇麗な姉ちゃんならともかく、野郎に名前を知られてるとはね ところでよ、あんただけ俺の名前を知ってるってのは不公平じゃねぇかい?」
男 「そうですね…では、私の事はキョウと呼んでください」
キョウ 「私の用件はひとつだけ。我らが主の命令をうけて来ました。…もし、皆さんが急ぎ東京に戻られるなら、私がこの車でお送りするように、と。例の箱を狙っているものがいるようですから」
武虎 「悪いが遠慮しとくぜ あんたみたいなむさい野郎と長時間ドライブに付き合う程、俺は暇じゃ無いんでね わかったら、さっさと消え
キョウ 「わかりました。しかし、私はここで待たせてもらいます。必要になればいつでも言ってください」
武虎 「へいへい そうやって一生待ってな」
小夜 「武虎さん。戻りましょう。何だかいやな感じがします。何処が、とはいえないんですけど………」
紅 「いやな予感がするわね」
とりあえず、注意深く窓から外を眺めてみます。
GM:
人影が見えました。
それは闘也くんのいる方向へ行ったようです。
闘也くんも気づきました。
闘也のプレイヤー:素早く門柱とかに隠れて待機します。
GM:
「忍び」するんですね…えーと…(判定)見つかってしまいました。
その人影は、見た目若いですね。まだ十代の今風な若者といった感じです。フッションセンスは良いかも(笑)
男 「あっれー…妖怪だと思ったんだけど人間かぁ。ん、でもなんか妖気感じるなぁ、お前(^-^)」
と、陽気な感じで話してきます。
闘也 「俺は特別だからな。」
男 「まぁ、良いや。死んでもらおう」
笑いながらこんなことを言いつつ。
男 「味も悪くないだろうしな」
闘也 「何言ってやがんだよ。やるってのか!」
男 「はははは……おもしろいな、お前。戦いにはならないよ」
と、ニヤニヤしたまま、右腕を伸ばすと、巨大なハサミになります。
男 「下手に動くと痛いかもしれないぜ?」
闘也 「マジでやらなきゃヤバイぜ。」
早速「瀑焔」
闘也 「喧嘩売るなら、相手見て売らないと怪我するぜ。」
GM:
では、爆焔の光が紅さんからも、小夜ちゃんたちからも見えます。
ちなみに紅さんは外の様子をうかがっていました。
闘也くんと男の会話までは聞き取れませんが、会話していたのはわかります。
剣呑な雰囲気だったのも分かるでしょう。そして光です。
なにか行動していたのなら、どうぞ。
小夜ちゃん。
妖気が新たに出現しました。突然に。
場所はキョウのいた場所からです。
▼1ターン
・闘也くんは恐怖判定成功。(闘也自身は人間なので恐怖判定が必要)
ハサミ男 「中途半端なやつだ。嫌いじゃないけどさ」
・ソルブレードが命中して5ダメージ。
・ハサミ男の攻撃はディクシオンが受けた。
(敵の累積ダメージは5)
▼2ターン
・ブラスターが命中して20ダメージ。
・ハサミ男の攻撃は避けられた。
ハサミ男 「いてぇー」
(敵の累積ダメージは25)
▼3ターン
・ソルブレードは避けられた。
・ハサミ男の攻撃は受けられた。
「おいおい、話が違うじゃん!」
(敵の累積ダメージは25)
▼4ターン
・ブラスターが命中して13ダメージ。
・ハサミ男の攻撃が命中して15ダメージ。
(敵の累積ダメージは38)
▼5ターン
・ソルブレードが命中して7ダメージ。
・ハサミ男の妖術『切断』。ディクシオンは抵抗できない。
(敵の累積ダメージは45)
ハサミ男の妖術『切断』は、継続している効果を全て終了させる効果があり、闘也を覆うディクシオンの効果が終了した結果……
闘也 「何だ?! どうして解けたんだ?」
変身が解除されて驚いている間に、ハサミ男は逃げる。
闘也 「ここを離れるわけにはいかないし・・・、何より、またさっきみたいのをやられたらヤバそうだから、追うのはやめよう。」
小夜 「武虎さん。先に戻っていて貰えますか? すぐに追いつきますから。」
戻る小夜。
GM:
すると、キョウと向かい合って前回武虎くんと戦ったハリ飛ばしのじいさん
がいます。
ちょっと戦った後
キョウ 「無駄ですよ」
じいさん 「ふん。裏切り者が!」
キョウ 「それはどちらでしょうね。…いまでも貴方たちは仲間意識を持っているようですが」
じいさん 「わしらは兄弟のようなもの…それを!」
と、ハリを飛ばします。キョウに当たったようですが、効いてません。正確にはハリは弾き飛ばされてしまいます。
キョウ 「…………。しかし、私も貴方を見たら始末するように言われてましてね」
始めてキョウの身体が動きます。両手をじいさんに向けました。
キョウ 「どうします? …今回限り見逃してもいいですよ…」
小夜のプレイヤー:見ているしかできませんね。
GM:
すると、キョウの車はエンジンかかってないんですが、いきなり前輪の片側だけが空転し始めます。じいさんがそこにむかって飛び込むと、すっと消えてしまいました。車輪の空転も自然に止まります。
キョウ 「……」
小夜 「なんだか争うような声がしたので………どうかしたのですか?」
キョウ 「いえ。例の箱を狙ってるものの一人が現れたのです。すぐに逃げてしまいましたが」
小夜 「………話しているのが聞こえましたけど、『裏切り者』と呼ばれていましたね。『兄弟のようなもの』とも。という事は、あなたもあの筺から解放されたのですか? それならどうして争いあって居るんですか?」
キョウ 「いえ、それは個人的な問題で箱とは関係ありません。私も自分の正体について人に話すのは抵抗ありましてね。」
小夜 「立ち入ったことを聞いてしまってすみません。でも、そちらの正体がわからないのでは、協力を申し出されても到底信用することが出来ません。私達は、箱を回収して、逃げ出した魍魎さん達を封じようとしています。場合によっては、貴方達も封じる、という事になるかも知れませんよ。それでも、協力する、というのですか?」
キョウ 「…そろそろ上のほうも片付いたようですね。あなたのお友達は強い方が多い」
小夜 「あの人達なら、大抵の事だったら切り抜けてくれます。」
キョウ 「でしょうね。」
おじいさん 「ふーむ……」
おじいさん 「一応、つけるだけはつけましたぞ」
と、周囲の木屑なんかを払います。そして、
おじいさん 「しっかり付いてるか確認しておきましょうか?」
紅 「ええ、そうですね。お願いします」
GM:
では。おじいさんは箱を開けてしまいます。
おじいさん 「ふーむ。まぁ、またぶつけたりしなければ平気でしょうな」
といって、箱を閉めます。何かが出てきたような雰囲気はありませんし、紅さんも
何も見ませんでした。
そして、「どうぞ」と箱を渡します。
GM:
んで、箱はとりあえずゲットしたわけですが、今は深夜です。
近くにホテルとかはないです。駅前のほうに戻ればあると思いますけど。
バス・電車などの交通機関はもちろん終わってます。
GM:
次の日、霧に戻ってきました。
早速待ってた土部先生が「修復」の妖力で箱を元に戻します。
土部 「ふぅ。元通りになりましたよ。さて、後は魍魎を封じ込めるだけですねー」
武虎 「お疲れ、お疲れ(^-^)」
土部 「私の知る限りでは、魍魎は鬼門の方角からしか現れません。そして去る時も同様です。ですから武虎くんに変身を解いてもらって鬼門の方角から箱へ向かって追いたててくれれば良いのではないかと思いますよ」
武虎 「おうっ 任せてくれ けど、その前によ、魍魎ってやつが何処にいるのか何かわかったのか? ただその鬼門ってところから俺が追いかければ出てくるのかよ ちょっと待て・・・ところでその鬼門って何だ?」(^_^;)
土部 「具体的には待ち伏せして…いや、もちろん私達は隠れてますよ…それで現れたら武虎くんに鬼門の方角をふさいでもらえば逃げられなくなりますから、そのまま箱に追いこんでもらえれば良いと思います」
小夜 「鬼門というのは、方角で云えば北東の事ですよ。艮(うしとら)とも云いますね。虎が苦手というのは、ここから来たのかも知れませんね。」
武虎 「へぇ、よく知ってるなぁ」
土部 「魍魎の所在については他のネットワークの方々にも協力してもらって探しているそうですが、例の病院での目撃以外には特に情報はないそうです…魍魎は1体だけなのか、もしくは数体いたのが合体してしまったのかもしれません」
武虎 「まだ見つかってねぇのか・・・ だからってここでぼぉ〜っとしてても始まらねぇよな 取り敢えず臭いとこ行って、小夜の感知で探してみっか? あ、それとよ 追い立てるにしても、箱をその辺の地面に放り出しとくわけにゃいかねぇだろ? 箱を狙ってるやつもいるみてぇだしよ 横からかっさらわれちゃたまんねぇもんな で、誰が持ってる?」
GM:
小夜ちゃんの探知を利用して魍魎を発見した皆さんは、それを封じ込める事に成功しました。
箱を届けるため、武虎、紅、小夜、土部、ドッチェが京都に向かいます。
途中で、ここまで現れた敵妖怪が再度襲撃してきて戦闘になったものの、無事に箱を納める事ができました。
どこかの室内。部屋の中はキレイに整理され、窓からは夜だというのにたくさんの明かりが見えている。
(人間たちは光によって闇を打ち消したつもりだろうか…より深い闇を生み出してしまったということに気づいているのだろうか…いずれにしても私が再び目覚めたという事は…そういう事だ)
男が1人、東京の夜景を見ながら思いにふけっていると、新たな人物が姿を見せた。
「予定通りに行きました。途中までは」
新たに現れた男は報告する。部屋にいた人物は窓の外を見たままだ。
「途中まで…か。どうなったのだ。キョウ」
キョウと呼ばれた人物は再び語る。
「例のネットワークと妖言社の連中は戦闘になったのですが、途中で妖言社の連中は敗走。双方とも犠牲者は出ませんでした。そして箱は陽閑寺へ。」
「そうか…やはりそうなるとあの2人は邪魔だな。さっさと消しておくべきだった。」
「申し訳ありません。六郎さま」
なぜかキョウは頭を下げた。
「いや、輪堂を消さなかった事にお前への思慮があったのは事実だが、山グモを消さなかったのは三郎の…いや、私の甘さだ。しかし、これであの山グモはこちらの正体に気づいたな」
「そうでしょうか? 三郎さまの変化を見破れるほど鋭いとは思いません」
男は窓の外からキョウのほうに向きなおった。
「400年だ。昔のやつとはだいぶ、変わったようだった」
キョウは黙っている。
「まぁ、お前は知らんことだ」
男が手を振る。キョウは姿を消した。そして再び、男は窓の外を見た。
『想いが、私たち妖怪を生み、そして生かすのです。』
男は土部の言葉を思い出す。そして、自分を再び目覚めさせようとしている”想い”について考える。それはやはり人間の想いだろう。
「私は私の成すべき事を成すだけだ」