ドワーフクエスト
第二章 アドバール城砦
「オーク掃討戦 双子の戦い」
●ナクルの事情
*一行はダクダの薦めに従って、遊撃隊本部まで戻ってきた。入り口には遊撃隊の隊員と思われるドワーフが腕組みで待っている。早くも話は通っているようだ。
遊撃隊員: 参られましたか
フンディン: *ひっく*
フンディン: なんだかあたまがぽーっとして…
アル: まだ酔いが抜けてないのか…
遊撃隊員: …
スキールニル : 俺はいつでも戦える
スキールニル : あとは命令を待つのみだな
フンディン: ああ、そうそう
フンディン: ナクルどのの作戦について
フンディン: お聞きしに来たところでしたね
遊撃隊員: のんびりしている時間はありません。さあ、案内しますので着いてきてください
アル: はいはい
フンディン: いた…
アル: (大丈夫かなぁ)
フンディン: あっ…
フンディン: いたた…
アル: 失礼します
*一行は案内され、ナクルの部屋を訪れた。
フンディン: ナクルどの
ナクル: む、来たか
ナクル: さあ、さっさと説明するから
ナクル: 今のうちに休むなり、くつろいで聞いてくれ
スキールニル : いつでも戦いに出れる
アル: 1人を除いてね
ナクル: まず、今回の戦いだがオークが相手なのはいつもどおり
ナクル: ただ、今回はオークだけでないという情報を得て
アル: だけでない?
ナクル: 俺の小隊が偵察に出たわけだが
ナクル: そこで敵に見つかり、他の連中は死んだか捕虜になってしまった…
アル: あちゃあ…
フンディン: それが昨日お会いしたときの状況だったのですね
エル: それはひどい
ナクル: うむ
アル: 一昨日とも言うがね
ナクル: 敵の部族は8年前に撃退したやつらだが、また増えて戻ってきたようだ
ナクル: そして、オークには協力者がついている
フンディン: その協力者とは一体…?
スキールニル : その協力者とは一体?
ナクル: 最初は人間という話だったが、俺達が確認したところ…
アル: したところ?
ナクル: ワーラットだった
アル: またネズミかぁ〜
フンディン: ワーラット??
スキールニル : 鼠人間だって?
ナクル: そうだ。ネズミに変身する元人間だ
フンディン: なんだか
フンディン: すごく最近なのですが
フンディン: どこかで見た記憶が・・
アル: ここに来る鉱山道にもいたよなぁ
スキールニル : フェルバールの地下にも巣食っていたなあ
フンディン: !
スキールニル : 硬くて刃が刺さらなかった
アル: 思い出したようだね、英雄
ナクル: むむ
ナクル: そいつは本当かね?
フンディン: まさか…
フンディン: フェルバールが危ない?!
スキールニル : 俺たちはフェルバールで鼠退治をしたんだが
スキールニル : その親玉が鼠人間だったようで・・・
スキールニル : 何とか倒したけどアレで終わりではなかったか・・・?!
ナクル: ちっ、軍議の間、お前達を待たせておくんだったな
ナクル: いや、もっと早くこの話をすべきだったか
ナクル: まあ、フェルバールの件は今回の作戦の後にしよう
ナクル: ネズミ人間どもは、ネズミを使って情報を収集しオークに提供しているらしい
ナクル: それに、ネズミ野郎の頭はずるがしこいやつのようだ
アル: なんと
フンディン: それなら尚のこと
フンディン: フェルバールを放っておくわけには行かないのではありませんか?!
スキールニル : そういえば地上にでかい鼠が
スキールニル : 這い回ってたような
アル: いたなぁ
*アドバールのあちこちで、ネズミを目撃していた。ワーラットと繋がっている確証はないが…
スキールニル : とするとまずいぞ
スキールニル : 町の様子は筒抜けか
ナクル: いや、ネズミ野郎どもが取引しているのは今のところ
ナクル: これから戦うオークの部族だけだ
ナクル: だから先手を打つ事になった
フンディン: それではフェルバールの坑道にワーラットがいたのは何故です?!
アル: 偶然じゃないのか?
スキールニル : 偶然かどうか疑わしいが
ナクル: やつらがそこまで入り込んでいるとしても、それをフェルバールの連中は知っているのか?
スキールニル : 今は俺たちには何もできない
スキールニル : 今から戻るにしても時間がかかりすぎる
ナクル: お前さんたちはネズミ人間を発見してから、誰にもそれを話していない?
スキールニル : いや坑道の労働者に話したよ
アル: あぁ話したな
ナクル: そいつはなんと言っていた?
スキールニル : なんだったかな
スキールニル : 多分調査はするだろうし平気だろう
フンディン: 調べておくことにする、と…
ナクル: なら、任せておけばいい。こちらからも連絡は取るが
ナクル: 敵が敵だけに、作戦が終わってからになるだろう
ナクル: あまり目立った動きをするのはまずい
スキールニル : ここまで関わった以上俺はここで戦うぞ
フンディン: ……
*フンディンは納得のいかない顔でうなっていたが、一応、スキールニルに同意してうなずく。
ナクル: いいか、それじゃ作戦を説明する
スキールニル : 了解!
エル: おおー
ナクル: まず遊撃隊は分散して、敵の退路になると予想される場所に待ち伏せする
ナクル: その後、軍本隊に同行している遊撃隊の一部隊が先制攻撃をしかける
ナクル: 敵が動き出したところに、アドバール軍本隊が攻撃をしかける
ナクル: 基本的にオークの殲滅はアドバール軍本隊の仕事だ
ナクル: 我々遊撃隊はネズミどもを狩る
ナクル: お前さんらは遊撃隊として動いてもらうが
ナクル: 俺の指揮下に入ってもらう
ナクル: 俺の部隊は、かなり後方の
ナクル: 予想される退路の一つを任される事になった…
*ここまで話して、ナクルは渋い顔をする。それに気付いた隊員が進言した。
スキールニル : 作戦に何か不満でも・・・?
遊撃隊員: 隊長は、小隊長の怪我を心配されて前線から外したのですよ
ナクル: わかっとるがね
フンディン: ………
ナクル: まあ、そういうわけだ
スキールニル : ひとつ質問が
ナクル: うむ
スキールニル : ネズミ人間の皮膚はかなり硬く刃が通らない
スキールニル : 何か策を練らないといけないと思うが・・・何かあるのかな?
ナクル: やつらは魔法の生き物だからな
ナクル: おそらく、我々の待ち伏せ場所に来るとしたら
ナクル: すでに散り散りになったあとだ
ナクル: 散り散りに逃げるのを予想して、待ち伏せしている
フンディン: 敗残の鼠一匹も殺せないようでは
フンディン: はなから用はないということだよ、スキーニー
*どこか冷めた物言いのフンディン。さっさとここを片付けて、フェルバールに忠告を送ってもらいたいのだろう。
スキールニル : それは俺が腰抜けだといいたいのか?
アル: 刃が通らなきゃ殺せないだろ?
ナクル: お前さんはすでにネズミ人間をやった事があるんだろう?
フンディン: ありますね
フンディン: ご心配なく
アル: (やけに自信満々だなぁ)
アル: (かえって心配だよ…)
スキールニル : まああとは命令に従うだけということか
フンディン: それで、作戦はまだ始まらないのですか?
ナクル: それでは、あと1時間で出発する。ここで休んでいけ
エル: ふむぅ
アル: それじゃお言葉に甘えて
フンディン: ZZz……
*横になるとすぐに寝息を立てるフンディン。まだ酔いが醒めてないらしい…
アル: (やれやれ…)
エル: (やれやれ)
スキールニル : ある意味図太い奴だな
スキールニル : うらやましいぜ
●遠い戦場
*ナクルに率いられた一行は出発し、2時間後には受け持ちの場所へとやってきた。雪の舞うしずかな日だ…
ナクル: ここだ
ナクル: 雪か…
ナクル: 今年最後の雪になるかもしれんな
スキールニル : 待ち伏せには格好の場所だ
ナクル: ここに隠れて待ち伏せする
*一行は、二つの小さな丘の間にある隙間に陣取った。南側の丘は斜面が崩れたのか崖のようになっていて、それが雪と冷たい風を防いでくれているせいか木と草も新芽を伸ばしている。背を低くすれば、それに隠れることも出来そうだ。
エル: こりゃ見ものだね
フンディン: うーん…
フンディン: ねえ、スキーニー
スキールニル : なんだ
スキールニル : 静かにしないか
フンディン: あのさ
フンディン: これから何をするの??
*スキールニルは本気で殴った。
フンディン: いたい!
スキールニル : 帰ればかやろう!
フンディン: どうして殴るんだ…
エル: ここで見張りだよ
フンディン: 覚えてないんだよう
ナクル: …
*ナクルは二人の様子をちらと見る。
スキールニル : 静かに隠れて敵が見えたら攻撃する
フンディン: なんだか頭が痛かったことしか…
スキールニル : わかったか
アル: (幸せなヤツだ…)
フンディン: はぁい
スキールニル : 騒いだら殺すぞ
*ナクルは一行の様子を見てか、突然口を開いた。
ナクル: 今のうちに周囲を見て回っておけ
スキールニル : 了解
ナクル: 作戦開始まで時間はあまりないから手早くな
スキールニル : 雪のおかげで足跡が消えるな
フンディン: なんだか
フンディン: どこかで座って昼ご飯でも食べたい日よりですね、エルドリックさん
エル: そうだねスキーニー。
フンディン: ??
エル: 駄目だよスキーニー、そんな言葉遣い
*少し歩いて緊張がほぐれたのか、あるいはさすがのエルもフンディンの態度にイラついたのか、フンディンの真似をしてからかうエル。ナクルが戻ってくるようにと合図する。一行はもとの待ち伏せ場所に戻った。
スキールニル : (小声)うるさいな静かにしろよ
ナクル: そろそろ始まるぞ…
*待機している一行。スキールニルとアルは、遠くで始まった戦いの気配を感じ取ったようだ。
スキールニル : はじまったようだ・・・
アル: 始まったような気がするなぁ
ナクル: 始まったようだな
エル: なにが・・・?
フンディン: ???
スキールニル : 戦闘だよ
フンディン: 何にも見えないし聞こえません
アル: とおおおくでオークの声が…
スキールニル : アドバール軍の攻撃がはじまったんだ
フンディン: スキーニーもアルドリックさんも
フンディン: よく聞こえますね
スキールニル : 酔っ払ってないからね
フンディン: ??
フンディン: 誰が酔っ払っているの?
スキールニル : 気にしなくていい
アル: 集中しよう
フンディン: 冗談をやっているような場合ではないと思うんだけど、スキーニー
フンディン: 真面目にやろう
スキールニル : (本気で殺したくなる・・・・)
*10分、20分と時間が経過していく…。やがて1時間ほど経ったが、敵の気配はない。
フンディン: …………
アル: (イライライライラ)
スキールニル : 妙だな
スキールニル : 敵が逃げてこない
フンディン: まだ何か聞こえる?
ナクル: いや、
ナクル: ここに敵がこないのは上手く行っている証拠だ
スキールニル : だといいんだが・・・
フンディン: 敵に逃げられていないということですか?
ナクル: そうだな
アル: (イライライライライラ)
スキールニル : いずれにせよ持ち場を死守するのみ
ナクル: はっきりいって、ここに敵がくる確率は極めて低い…
フンディン: どういうことです?
スキールニル : ならばはじめから兵力を分散するべきではなかったのでは?
ナクル: そういう持ち場なんだよ…安全なんだ
フンディン: ??
スキールニル : ・・・そういうことか
ナクル: 俺だって、納得しちゃいない。
フンディン: どういうこと、スキーニー?
ナクル: だが、時にはそういうことも必要なんだ
スキールニル : めんどくさいからおしえてやらん
エル: 意味わからないんだけど
フンディン: 本当は自分だってわかってないくせに
アル: (イライライライライラ)
ナクル: 俺に気を使ってるんだ。隊長は
フンディン: 気を使われている??
ナクル: おそらく、お前達にもな
フンディン: ナクルどのに??
アル: (ムキー!)
フンディン: それがなぜこうなるのですか??
ナクル: 以前の怪我が完治しているが、病み上がりという事もある
ナクル: それに信頼する部下は全員死んだか捕虜になっている
ナクル: おれに重要な拠点を守らせるわけにはいかんという事だ
フンディン: ……
スキールニル : それに俺たちは所詮よそ者だしな
フンディン: それはそうだけどさ、スキーニー
フンディン: これのどこが気を使っているの??
スキールニル : ホントにわかんないわけか?
フンディン: わからないから聞いているんじゃないか
*などと話していると、いつの間にか遊撃隊員が一人、すぐ近くまで来ていた。素早くナクルの元に駆け寄る。
遊撃隊員: ナクルどの
アル: ん?
ナクル: なんだ
遊撃隊員: すこしこちらに
スキールニル : (何かあったのか・・・・)
*呼ばれて、ナクルと遊撃隊員は少し離れた場所に移動して、何か話しているようだ。アルは気になったのか、聞き耳を立てる。しかし「作戦は成功」「一部敗走中」「援軍要請」などの言葉が断片的に聞こえただけだ。
アル: 敗走?
アル: 援軍?
フンディン: ??
スキールニル : 何?!
フンディン: どうしたんですか、アルドリックさん?
アル: いや…なんでもない
アル: (どうするつもりなんだろう?)
スキールニル : 状況がわからないのはなんとも不安だな
アル: 出番が近いかもな…
フンディン: なにが敗走で援軍なんです?
*アルが答える前に、ナクルが戻ってきた。
アル: 何の話でした?
ナクル: 喜べ。作戦は成功だということだ
フンディン: !
ナクル: だが、オークが一部集団で敗走していて
ナクル: それがこの近くの待ち伏せ場所を通過するんだが
エル: うへぇ
ナクル: そこの持ち場の戦力では不安があるそうだ
スキールニル : では合流を
アル: そこの応援に行くのですね
ナクル: うむ
フンディン: ではすぐに参りましょう!
ナクル: まあ、待て
ナクル: フンディンとスキールニルはこっちに
ナクル: 双子はこのままここで待機だ
アル: あいあいさー
エル: ほえ?
アル: やれやれ
アル: 離れ離れか
エル: 戦の場に詩人を連れて行かないとは!
フンディン: それでは行って参ります
フンディン: お二人もお気をつけて!
アル: そっちもな
スキールニル : がんばれよー
ナクル: 早く来い、フンディン
エル: なんもわかってないね、あいつらは
*フンディンとスキールニルを同行し、ナクルと遊撃隊員はその場を離れる。
ナクル: ちょっとここで待っていろ
フンディン: ??
ナクル: 双子に話がある
*ナクルは一人、駆け戻る。
アル: どうしました?
*フンディンたちに聞こえないようにか、ナクルは小さな声で話す。
ナクル: いいか、ここにお前さんらを残すのは
ナクル: 理由がある
アル: はい
ナクル: 持ち場というのはきちんと守っていないと駄目だ
ナクル: 本来なら、おれがここに残りたいところだが
ナクル: 向こうには俺の力が必要だ
アル: そうですね
ナクル: それに、フンディンとスキールニルを残すのは心配だ
エル: それはいいけど、僕ら戦いなんて出来ないよ
ナクル: もちろんだ。もし敵がやってきて
ナクル: それが手に負えないのなら、そのまま隠れてやり過ごせ
ナクル: あとで俺にだけ報告すればいい
アル: そうさせてもらいます
エル: 了解
ナクル: あの二人には、そんな判断は出来んと見た
ナクル: わかるだろ
ナクル: お前さんらなら、心得てると見て
ナクル: 信頼しておいて行くんだ。
アル: 分かりました
アル: 精一杯守ります
ナクル: わかったな。ここは安全だが
ナクル: 万が一もある
ナクル: 気をつけろよ
エル: わかった
アル: お気をつけて!
アル: 2人を宜しく!
*ナクルが双子とひそひそ話している間、待っているフンディンは気になる様子だ。
フンディン: どうしたんだろう?
スキールニル : 何か作戦があるんだろう
フンディン: それはそうだろうけどさ
フンディン: 早く行かないとオークも逃げて行ってしまうんじゃあないかな
スキールニル : 逃げ道はふさいであるから問題ない
フンディン: ふさいでって言ったって
フンディン: 突破されちゃったら意味ないじゃないか
スキールニル : そうならないように俺らが行くんだろ
フンディン: だから、それが間に合わなくなったら大変だって言ってるんだろ
フンディン: ちゃんと話聞いてよ、スキーニー
スキールニル : あいつらに作戦を説明する必要があるんだよ
スキールニル : それに少し遅れたぐらいで突破されるわけないだろう
*と、そこへナクルが戻ってきた。
ナクル: さあ、行くぞ
●初めての戦場
*ナクルに率いられたフンディンとスキールニルは援軍が必要なポイントに到着した。そこには遊撃隊員が6名ほど潜んでいる。
フンディン: ここにオークが逃げてくるわけですね
ナクル : そうだ
スキールニル : おそらくは、ね
ナクル: 気をひきしめてかかれよ
ナクル: すぐに来るぞ
フンディン: *どきどき*
フンディン: !!
*森の中から、オークの集団が走ってくる。数は5,6体ほど。こちらの待ち伏せには気がついていないようだ。全員、目の前に集団の最後尾が来るまで待つ…。完全に引きつけてから、遊撃隊は一気に飛び出しオークの集団に攻撃を開始した。矢の援護を受け、ナクルと3名ほどの遊撃隊員は武器を手に襲い掛かった!
フンディン: うああ!
*オークたちはすでに混乱しているらしく、逃げ惑う者や力任せに斧を振り回すもの、弓をやたらと撃ってくるものがいる。始めて見る集団戦闘に、フンディンは声を上げた。スキールニルは他の隊員と一緒にオークに突っ込んでいく。オークの集団は数もばらばらに、次々と森から姿をあらわした。激しい戦闘の様子に最初は戸惑ったフンディンであったが、他の隊員とともに戦闘に加わる。10数分で、ひとまず戦闘は終結した。
フンディン: !
フンディン: スキーニー
フンディン: 血が出てるよ!
ナクル : だいじょうぶか?
スキールニル : そりゃ射られれば
スキールニル : 血ぐらい出る
*フンディンは急いでスキールニルの手当てをする。
ナクル: これだけか?
*と、そこに叫び声を上げながら新たなオークの集団が飛び出してきた。完全に狂乱しており、唾を撒き散らしながら斧を振り回してくる。遊撃隊はすぐさま隊列を整え、オークを切り倒していく。10体ほどの集団を倒したが、こちらも全員怪我を負っているような状態だ。
フンディン: ふー…ふー…
フンディン: はあ…はあ…
スキールニル : やっと剣を振るえた
スキールニル : アドバール兵は強いな
ナクル: なんとか撃退したか…
フンディン: ナクルどの
ナクル: うむ
フンディン: これで… 終わりでしょうか?
スキールニル : だといいな
ナクル: お前さんらは大したケガはないようだな
スキールニル : 双子が心配だ
フンディン: 皆さんのおかげで…
ナクル: うむ…おれたちが来なければ危なかったかもしれん
ナクル: 予想以上に消耗したようだ
スキールニル : 俺ももっと腕を上げないとな
ナクル: 我々はこのまましばらくここを警戒だ
フンディン: わかりました
フンディン: く…
*フンディンはその場に肩膝をつく。
スキールニル : 何やってる
フンディン: 足が…
フンディン: スキーニーは…
フンディン: 普通すぎるよ…
スキールニル : 普通?
スキールニル : 何が?
フンディン: どうしてそんなに
フンディン: 落ち着いていられるの?
スキールニル : 落ち着いてない
スキールニル : 俺だってみんなと同じだ
スキールニル : 死ぬのは怖いし戦の前は緊張する
フンディン: そうは見えないけど…
スキールニル : そういう気持ちに負けたらそれで最後だからな
フンディン: ……
スキールニル : 多分そのときに死ぬんだ
スキールニル : だからわきにどけておくことにしている
スキールニル : ・・・いうほど楽じゃないけどな
フンディン: ……
スキールニル : それよりあいつら平気かな・・・
*遊撃隊員たちはそれぞれ治療道具を取り出し手当てを始める。その横で、スキールニルは空を見上げた。雪はまだ降り続いている。
●双子の戦い
*一方その頃。待ち伏せ場所に残された双子は…
エル: のんきだなぁ、兄者は
*二人きりになったが、それほどピリピリした様子は無い。
アル: まぁ、それが俺のいいところだと思っているよ
エル: もう守ってくれる人いないんだぞ
アル: いざとなったら本当に隠れてやり過ごすぞ
エル: はじめからそのつもりさ
アル: 熊の時のようになりたくないからな
エル: しんとしてていやだね
アル: そうだなぁ
エル: 歌でも歌うかい?兄者
アル: そりゃまずいだろ
エル: そか
アル: デイズ
アル: はあるか?
エル: デイズは使える
エル: 二回くらいあるみたい
アル: 俺はマジックミサイル持ってる
*正確には、マジックミサイルのスクロールを持っている。
エル: すごいなぁ、兄者は
アル: それである程度ダメージを与えよう
アル: 敵が1匹ならな
アル: 2匹以上なら迷わずやり過ごす
エル: わかったよ
アル: 生きてあいつらの活躍の話を聞かないとな
エル: やっと英雄嘆のネタが
アル: あいつらは無事かなぁ
エル: 大丈夫だよ
アル: ナクルさんもいるしな
エル: この地面の土の形
エル: 話に聞くレイスみたいだ
アル: やめろよ、そんな話
アル: ん?
アル: 何か見えた…ような
エル: 兄者、びびってら
アル: いや、マジだ
エル: おわ
*北の茂みから、1匹のワーラットが姿を見せた。あたりを警戒しているのかきょろきょろとしている。慌てて逃げ出してきたという風で、武器などは持っていない。
エル: (ネズミだ)
アル: (1匹か?)
エル: (みたいだ)
ワーラット: ドワーフのニオイ…
*ワーラットは鼻をヒクつかせた。気付かれた!
アル: (やるぞ!)
エル: (ほい)
*茂みから、双子の呪文が飛ぶ。ワーラットは呪文を受けつつも、軽装のドワーフが二人なのを確認して突っ込んできた。だがマジックミサイルで傷つき、さらに接近する前にアルのクロスボウをまともに受けて倒れた。
アル: ふう…
エル: すごいな、兄者!
アル: しかし、これでミサイルは終わりだ
アル: 次はもうやりすごそう
アル: 匂いで見付けられると厄介だけどな
エル: 荷物の中見てたら巻きものみたいのがあるな
アル: 巻き物?
*と、そこへさらに1匹のワーラットが現れる。
アル: うっ
アル: 来た
アル: 隠れるぞ
*だがワーラットにはすでに匂いで場所が分かっていた。気がつかないフリをして近づくと、突然方向を変えて双子の隠れ場所に飛び込んできた!
エル: わ
アル: 逃げろ!
ワーラット: 仲間の死体だ
ワーラット: お前達か…
*ワーラットは仲間の死体を確認し、顔を上げる。すでにアルは丘の向こうに回り込もうと走っている。エルは兄の後ろで、ワーラットを警戒し振り向いた。
ワーラット: む…ドワーフの双子か…?
*ワーラットの表情はわからないが、一瞬戸惑ったように見えた。その隙をエルは見逃さなかった。スクロールを使いワーラットの動きを封じると、力いっぱい両手斧を振り下ろす。
アル: 大丈夫か?
*一人、丘の反対側の方まで逃げていたアルが、エルが来ないので戻ってきた。
エル: 見てくれ、兄者
アル: おぉ
アル: やったのか!
*そこには、首の千切れかけたワーラットの死体が転がっている。
エル: 金貨を一枚持ってたぞ、ネズミのくせに
エル: (またきた)
*すぐに、また1匹のワーラットが姿をあらわす。
ワーラット: む
ワーラット: 血のニオイ…
ワーラット: ち…仲間は全滅か…?
*ワーラットは匂いを確認すると、茂みの中に隠れた。双子は対策を練っていてそれに気がつかない。
アル: (たまらんなぁ)
エル: まきびしがあるからまいておこうか
アル: いい考えだ
*ワーラットは茂みの中を迂回し、すでに双子の背後に回りこんでいた。正面から来ると、正面にまきびしを巻いていた双子だったが、完全に不意を打たれる。
アル: うわ
アル: こっちから
エル: ひょえー
ワーラット: …
ワーラット: ドワーフ…二人だけか
*ワーラットは双子を見ると、余裕を見せる。
アル: ずるいぞ!
エル: まきびしをジャンプだ兄者!
アル: 無理無理
*慌てる双子。だがワーラットは耳障りな声で話しかけてきたる
ワーラット: まあ、待て
アル: へ?
ワーラット: 双子か…ドワーフ
アル: 待てと言われて待てますかって
エル: ネズミと話す口は持ってない
ワーラット: !
*ワーラットはこの時、取引をするつもりだったのだが双子の近くに転がっている死体を見つけると、目を見開いた。驚いたのだろうか。
ワーラット: ……
ワーラット: 俺も双子だ
アル: まさか…
ワーラット: そこに転がっているのが兄貴だ
アル: はうあ!
ワーラット: お前達が殺したのか…?
アル: そうみたい…ごめんな
*ショックを受けたアル。しかしワーラットはギャッギャッギャッと不気味な声で笑った。
アル: 誤って済むとは思えないけど
エル: ネズミなんて4つ子や5つ子はあたりまえだろ
エル: 別に気にすること無いさ、兄者
*ちなみに、生まれたときからワーラットなわけではないのでそんなことはない(笑)
アル: おいおい
エル: だって襲ってきたのは向こうだしさ!
ワーラット: お前達、ここは邪魔者を消してくれたから見逃してやろう
アル: はぁ?
エル: ??
アル: 邪魔者?
ワーラット: おれの兄貴さ
アル: 仲悪かったの?
ワーラット: ほんの一瞬先に出てきたからって、兄貴面しやがって
ワーラット: めざわりだったんだよ
アル: (ドキ)
アル: そ…そういう言い方は兄貴に対して失礼なんじゃ…
エル: そんなこと思ってないぜ、安心してくれ
*アルの動揺を感じ取って、即答するエル。そしてそれが嘘ではないとアルにはわかる。
ワーラット: 双子だからって、いつも二人で一人前
アル: あっ、それは分かる
ワーラット: お前はどう思うんだ。自分は自分、兄貴とは関係ない…そう思ったことは?
ワーラット: 兄貴のいたずらで身代わりにされた事は?
ワーラット: 兄貴と仲がいいやつとは、自分も仲良くしなきゃ…なんて思ったことは?
アル: (う〜ん)
エル: 別にないなぁ
エル: そんなことないぜ
エル: おまえがひがみすぎなんだよ、キット
アル: エルぅ!
*アルは感激して目を潤ませる。アルがワーラットの言う事に対して微妙な反応なのを、エルは気にしていないようだ。
エル: まず自分を変えないと、世界は変わらないぜ
ワーラット: そりゃ、面白い
ワーラット: お前にもいずれわかる…
*ワーラットは立ち去った。
アル: いいこと言うねぇ
エル: これは歌に使おう
*思わずずっこけるアル。
エル: いっちまったね
アル: あぁ
エル: ネズミのくせにやけに哲学的だった
アル: 言いたいだけ言って消えたか
アル: ああいうネズミもいるんだな
アル: 勉強になったよ
*場面戻って、戦闘が終了し警戒待機中のフンディンたちは…
フンディン: 父上はお元気かな…
スキールニル : 双子が危険にさらされているかもしれないのにのんきな奴だな
フンディン: お師匠様も… 叔父上も…
フンディン: …やっぱりスキーニーは強いよ
スキールニル : 俺は強くなろうとしてるだけさ
フンディン: 自分のことしか頭に入らなかった
フンディン: こんな状況で
フンディン: ここにいないほかの人のことを心から心配できるなんて
スキールニル : 俺には家族と呼べるものはない
スキールニル : 双子は親友だ
フンディン: 家族?
フンディン: ミョルニル叔父上がいるじゃないか
スキールニル : 知らないのか
スキールニル : 俺も養父も
スキールニル : 互いを利用しあう仲なのさ
フンディン: ??
フンディン: どういうことだい?
スキールニル : 養父は自ら果たせなかった夢を俺に託し
スキールニル : 俺は強くなるために養父の元へ来た
スキールニル : そういうことだ
フンディン: よくわからないよ…
スキールニル : お前には多分わからないだろうな
スキールニル : 俺もお前のことはわからん
フンディン: スキーニーは叔父上のことが嫌いなの?
スキールニル : いいや
スキールニル : だが家族ではない
スキールニル : 形の上だけさ
フンディン: さっぱりわからない・・
フンディン: 嫌いじゃないのなら
フンディン: 好きなんじゃないのかい?
スキールニル : そんなに単純じゃない
フンディン: それじゃあどういうことなの?
スキールニル : お前に説明してやる義務はない
フンディン: ちぇ
スキールニル : 一つだけいっておくぞ
フンディン: ?
スキールニル : 従兄弟だってのも
スキールニル : かたちの上でのことだ
スキールニル : 血がつながってない
フンディン: そんなこと当たり前じゃないか
スキールニル : ・・・まあいい
スキールニル : それだけだ
フンディン: スキーニーは血はつながっていないけれど
フンディン: 大事な従兄弟だよ
スキールニル : ・・・・くそ いつまで見張ってればいいんだ
フンディン: ありがとう、スキーニー
スキールニル : なにが?
フンディン: スキーニーと話したおかげでだいぶ落ち着いてきた…気がするよ
スキールニル : 真面目に訓練しないからだ
*その後、作戦は無事終了し、それぞれ帰路についた。雪はもう止んでいた。
●帰還
*アドバールに戻った一行は、遊撃隊本部に出頭した。すでにそれぞれ、報告はナクルに済ませている。
アル: おつかれ〜
フンディン: ふう
スキールニル : お前ら無事だったか
フンディン: なんとか無事に戻って来れましたね
アル: まあね
スキールニル : 何かあったらしいじゃないか
スキールニル : 話して聞かせろよ
エル: ネズミが通ったんだ
フンディン: !
スキールニル : なんだって!
アル: 全部で3匹だったかな?
スキールニル : やるなお前ら
エル: オレも兄者も大剣を振り回し
フンディン: !!!
アル: お〜い
アル: 剣なんて持ってないだろ〜
エル: 次々に打ち倒したんだけど
エル: 一匹逃しちまった
フンディン: すごい!!
スキールニル : ほら話はもっとうまくやるもんだ
エル: あまりに数が多すぎてさすがのオレタチも
アル: 最後だけ本当だ
エル: ・・・
スキールニル : 逃がしちまったのか
スキールニル : 残念だな
アル: まぁ仕方ないさ
エル: (斧のほうが真実味があったか)
アル: (フレイルくらいならな〜)
ナクル: さて、今回の作戦は上手く行った
ナクル: オークは壊滅。また10年15年で元に戻ってるかもしれんがな
ナクル: ネズミの頭も倒されたようだ
フンディン: よ、よかった…
フンディン: それはなによりです!
アル: 良かったな、ホント
スキールニル : フェルバールもたぶん無事だろうそれなら
ナクル: ネズミの仲間は1人逃げたが
ナクル: 頭はやったから、やつらの計画ももう残っちゃいまい
アル: よし、勝利の歌だ
ナクル: それで、褒美についてだが
ナクル: 一応、でとる
ナクル: 今渡すからな
スキールニル : そりゃありがたい
アル: やり〜
フンディン: ありがとうございます
アル: おぉ!
アル: ありがたい〜
*一行はそれぞれ、報酬を受け取った。
ナクル: さてと、それじゃあ疲れたろう。話は明日にするか
ナクル: 今日は宿に戻って
ナクル: また明日、来るといい
アル: それじゃ宿に帰ろう
フンディン: わかりました
アル: そうさせてもらいます
アル: では
フンディン: それでは、失礼します!
*一行はまっすぐ宿に直行した。疲れているのだろう。宿はいつもと変わらぬ様子だが、人間の一行はすでに出発したらしく見当たらない。
フンディン: ふー
アル: いやいや、疲れた
スキールニル : 勝利を祝って一杯やるか
エル: 大変なおもいをしたね
アル: 俺は寝るよ
フンディン: 女将殿
フンディン: 部屋を一つお借りしたいのですが
ラミリ : はいよ
ラミリ : いつもどおりね
フンディン: よろしくおねがいします
エル: 戦士の道を歩み始めちゃったよ
スキールニル : いいことじゃないか
スキールニル : 俺より体もでかいしきっといい戦士になるぞ
アル: 頑張れよ、エル
エル: 兄者だってたたかったじゃない・・・
アル: あらら
*話しながら2階に上がる。そしていつもの部屋に入ったところで、倒れこむようにフンディンは突っ伏すと、そのまま寝てしまった。
スキールニル : 何で入り口で寝るんだよこいつ
アル: 踏むかと思った
スキールニル : ・・・というか踏んじまった
アル: それでも起きないんだからたいしたもんだ
スキールニル : すこし筋力トレーニングして寝るか
アル: 手紙書かなきゃ…ぐぅ
*その日は疲れ果て、みなすぐに眠りに落ちた。そしてアドバールでの日々はまだ続く…。