ドワーフクエスト
第八章 秘密の工房
「帰り道」


●全てが終わって

*フンディンが祖父の秘密の工房に篭ってから3日が過ぎた。仲間たちは心配しつつも、待っている。

スキールニル : ここが終点・・・か
スキールニル : いろいろあったな・・・

エル: ああ・・・

スキールニル : こんな旅になるなんて思わなかったよ

エル: 歌にするのは難しいな・・・

スキールニル : 楽しい歌とはいえないよ・・・
スキールニル : 少なくとも俺にはね

エル: おいおい、フンディンはまだ動かないのか

スキールニル : 干からびて死んでるんじゃないだろうな
スキールニル : 昨日から音がしないぞ


*ふと、フンディンが部屋から出てきた。

エル: おい
エル: もう気は済んだのかい?

フンディン: うん…
フンディン: ごめん…エルドリックさん
フンディン: アルドリックさん、それにスキーニー…
フンディン: なんだか…
フンディン: おなかがすいた

スキールニル : お前食いもん持ってただろうが・・・

フンディン: いま何日?

スキールニル : アレから三日

フンディン: ……

スキールニル : フンディンゾンビの供養しないですんでよかったぜ全く

フンディン: はは…
フンディン: ずっと待っててくれたんだ
フンディン: ありがとう

スキールニル : いろいろやらなきゃいけないことがあるだろう

エル: はは

フンディン: アルドリックさん

アル: …

フンディン: なんていうか、その…
フンディン: ほら、パイがあるから…

アル: !

フンディン: ちょっと干からびてるけど…

エル: 腐ってるぜ

スキールニル : いたんでないかそれ・・・

フンディン: 大丈夫…だと思う


*アルはフンディンから(痛んでそうな)パイを受け取って食べた。

スキールニル : く・・・くった

アル: …うまい

エル: お、喋った

スキールニル : ああ

エル: うまいとは到底思えないけどな

フンディン: やっぱり食べなくちゃ
フンディン: 元気でないよ!

スキールニル : 腹が減ってると何でもうまいんだよな

フンディン: もう少しだけ…
フンディン: ここで待っててくれるかな

スキールニル : 何をするんだ?

フンディン: 遺骨を…
フンディン: 大叔父上と…
フンディン: それに祖母上を

スキールニル : 俺も付き合おう
スキールニル : 暇だし・・・まあいちおう・・・ご先祖に当たるわけだしな

フンディン: フェルバールにさ、
フンディン: 一緒に帰らなくちゃ

スキールニル : ああ
スキールニル : フェルバールに葬る気なんだな
スキールニル : どうする気なのかとずっと
スキールニル : きになってたんだ

フンディン: ありがとう、スキーニー


*フンディンとスキールニルは遺骨を納めてから、遺品や部屋の掃除を始めた。もう悲劇の跡を残しておく必要はない。二人がそんなことをしていると、エルとアルもやってきて手伝ってくれた。整理がすんで、一行は谷の上に立つ。

フンディン: いつか…
フンディン: きっとまたここへ…
フンディン: それじゃ…
フンディン: 帰ろう

エル: ああ

フンディン: お世話になった皆さんに挨拶もしたいけど…

エル: ぐるっと回って帰ってもいいぜ

フンディン: それも良いけど…
フンディン: まずは祖父上と大叔父上、それに大叔母上を
フンディン: フェルバールにお連れしたいんです

エル: わかった

フンディン: スキーニーも…
フンディン: まずは一度帰ってからだよ
フンディン: 心配してる人だっているんだから!

スキールニル : そうだな・・・
スキールニル : あのハゲのことじゃないだろうな

フンディン: またそんなこと言って…


*そうして一行は谷を後にし、フェルバールへの帰路につくのだった。

●ファイヤーアックス イン

*近くに知っているトンネルがなかったので、一行は地図を頼りに地上を歩いてフェルバールに向かっていた。途中、特に事件もなくフェルバールまであと半日も歩けば…という所までやってきた。だが、すでに日は落ちかけている。そんな一行の前に明かりが見えた。近くまで行ってみると頑丈そうな壁が見えてくる。立て札には"ファイヤーアックス イン"と書かれている。

アル: 腹減ったなぁ

フンディン: だいぶ日も暮れてきたことだし
フンディン: 今日はここで宿を取ろう

アル: それがいい

スキールニル: すぐつきそうだけどな

アル: 夜中についてもなぁ

フンディン: はは
フンディン: またエルドリックさんの家に泊めてもらうわけにもいかないし
フンディン: 今日はここで休んでから発ちましょう
フンディン: こんにちは

守衛: ファイヤーアックス インにようこそ
守衛: ここは安全な宿だ。ゆっくりしていってくれ

フンディン: 一晩泊めていただきたいのですが
フンディン: 空きはありますでしょうか?

守衛: 宿屋はそこの
守衛: 正面の建物になっているから、中で主人と話してくれ


*守衛は中の大きな建物を指差す。

フンディン: ありがとうございます

アル: ご苦労様


*一行は壁の内側に入った。中には小さな畑や厩、小さな神殿のような建物と倉庫なども見える。元は砦か何かだったのではないだろうか。一行は守衛に教えてもらった建物へと入る。

アル: なかなか良い宿だな

エル: うん

フンディン: こんにちは

ファイアーアックス: いらっしゃい、わしの宿にようこそ

フンディン: 一晩泊めていただきたいのですが
フンディン: 部屋の空きはありますでしょうか?

ファイアーアックス: まあ見ての通り、あまり混んではいない

フンディン: では…

エル: そりゃ困ったね

ファイアーアックス: 3gpで好きな部屋を使ってくれてかまわんよ

フンディン: ありがとうございます

ファイアーアックス: ドワーフの客は特別だからな
ファイアーアックス: ゆっくりしていってくれ

フンディン: では
フンディン: そうさせていただきます
フンディン: とりあえず部屋へ荷物を置いてこよう


*一行は荷物を部屋に置いて、一階に戻ってきた。先に下りてきていたアルがテーブル一杯になるほど料理や酒を注文していた。

スキールニル: えらく買い込んだな

アル: 今夜はゴージャスに行こう!

スキールニル: ここんところくなもの食ってないし
スキールニル: いいか
スキールニル: すげえたのんだな
スキールニル: どんどん料理が運ばれてくるぞ

アル: どうせ明日には着くだろうしね


*そこへフンディンが下りてきた。

フンディン: うわ
フンディン: テーブルがいっぱいだ
フンディン: こんなに頼んじゃって
フンディン: 食べきれるんですか??

スキールニル: アルが大宴会しようって言ってね

エル: 飲むほうは問題ないよ

アル: もう路銀も必要ないからね

スキールニル: アルとエルならこのくらい食うだろう

フンディン: まったく…

エル: 俺はそんな食わないって

スキールニル: 俺の1.5倍は食うぞ

アル: ははは


*というわけで、一行はテーブル上の料理と酒をやっつけ始めた。

アル: うん、うまい

フンディン: それじゃ

スキールニル: ほんとバーミル・スラルレオ出てから
スキールニル: ろくなもんくってなかったから
スキールニル: 生き返る

フンディン: スキーニーもこんな時くらい鎧脱げば良いのに…

アル: ずっと保存食を少しずつだったから
アル: 最悪だったよ

アル: 3日も出てこないんだもんなぁ
アル: 誰だよ、ニンニクなんか頼んだの…

スキールニル: おいおいなんだよこの干からびた物体は


*誰かがこっそり置いた、ファイヤービートルの肝だ。

フンディン: なんか…
フンディン: もはや食べ物じゃないものまで出てきてるんだけど…

アル: まぁ喰える物だけ喰うさ

フンディン: わっ


*突然、粉が辺り一面に舞う。

エル: こらー

フンディン: げほげほっ!

アル: げほっ

フンディン: なにこれ?!

スキールニル: 咳き込み粉しらんのか

フンディン: 目が…目が…
フンディン: ゲーホゲホッ!

アル: まったく非道いいたずらだなぁ
アル: はっはっは

スキールニル: ほとんどテロだね

エル: オークをこれで撃退したじゃないか

アル: 犯人はエルか?

エル: クラッカーがあるんだけど

アル: 痛そうな気がするぞ…


*エルはその"クラッカー"を鳴らした。

アル: うひ〜
アル: 耳いて〜

スキールニル: 雷石じゃないか

フンディン: なにもきこえない…

スキールニル: おいおい
スキールニル: さすがにたたき出されるぞそろそろ

アル: 確かに
アル: ちょっとやりすぎたね

スキールニル: 帰ったらいくらでもやれるぜ

フンディン: 帰ったら、か…
フンディン: なんか長いようであっという間な気もする
フンディン: 落ち着いたらさ、
フンディン: この旅の途中でお世話になった人たちのところに
フンディン: 挨拶に回ろうと思ってるんだ

スキールニル: ご苦労なこった

アル: ははは、まるで俺には関係ないって言い方だな

フンディン: アドバール、ミスリルホール、それにミラバール…
フンディン: スキーニーだって、ブルーノー陛下にまたお会いしたいとは思わないの?

スキールニル: 俺は挨拶回りなんて真っ平だよ
スキールニル: あーあのおっさんか

フンディン: ミラバールのブルードさんだって
フンディン: どうなったか気になるでしょ

スキールニル: ブルードか・・・
スキールニル: もう会うことはない気もするけどね

フンディン: またそんなこと言って格好つけて…

スキールニル: やらなきゃいけないことがあるしな

フンディン: …ギルフォスさん
フンディン: 結局どこへ行ってしまったんだろう?

スキールニル: ああ・・・わからんね

フンディン: 他に何かあるの?
フンディン: やらなくちゃいけないことが?

スキールニル: あるよ

フンディン: ?

スキールニル: ある場所へいって別れを言わなくちゃな

フンディン: …ラスカン?

スキールニル: ・・・まあそんなとこだ

フンディン: そっか…

スキールニル: ギルフォスのことは焦らなくていい気がする
スキールニル: いずれ出会うことになる

フンディン: そんな気がする

スキールニル: その前に腕を磨かなきゃな
スキールニル: ラスカンにいったらネヴァーウィンターにでも行こうとおもう

フンディン: ネヴァーウィンター?

アル: ふわぁ
アル: 喰ったら眠くなってきた

スキールニル: なんだもう眠くなったのか

アル: 結構歩いたからね

スキールニル: じゃあ先に休んだら?

アル: じゃ、そうさせてもらうかな?

フンディン: アルドリックさんとエルドリックさんだって
フンディン: お世話になったんだから
フンディン: 一緒に来ないと駄目れすよ!
フンディン: *ヒック


*アルは席を立って二階に上がっていった。

スキールニル: お前
スキールニル: 目が据わってる

フンディン: うーん…
フンディン: 外の風
フンディン: 当らってくる


*フンディンは席を立つ。

フンディン: スキイーニーも
フンディン: 飲み過ぎないようにね!

スキールニル: 俺は飲みすぎたことないよ


*フンディンは宿の外に出て行った。

スキールニル: エルはどうするんだコレから
スキールニル: ・・・それとアルだ
スキールニル: あいつはどうするつもりなんだろう

エル: 一緒にどっかまわるさ

スキールニル: 風の向くまま、か

エル: ああ

スキールニル: お前らには似合いだな
スキールニル: きっとまた厄介ごとに巻き込まれるぞ

エル: オレたちのせいじゃないと思うけどナァ・・・

スキールニル: まったくだね


*一方、外で夜風に当たっているフンディンは、月を見上げていた。

フンディン: 月がきれいだ…
フンディン: ……
フンディン: (祖父上…)
フンディン: *ぐすっ


*と、どこからか笛の音が聞こえてくる…

フンディン: きれいな音色…
フンディン: *ぐすっ
フンディン: どこからだろう…?


*宿の中にいる二人にも、笛の音は聞こえていた。

スキールニル: ・・・・あの音

エル: カリムシャンとか行きたいな

スキールニル: カリムシャンってだいぶ遠いんじゃないか?

エル: らしいね

スキールニル: ・・・アルはその
スキールニル: ラスカンに一緒にくる気はないかな

エル: うーむ

スキールニル: あいつには辛いことかもしれないな・・・

エル: いろいろあったようだから

スキールニル: いろいろ・・・あったな
スキールニル: ふふふ・・・ミラバールのあのおっさんとか
スキールニル: ラスカンのちび傭兵
スキールニル: まだいるかな

エル: どうだろな

スキールニル: まあ会えないか


*と、少ししんみりした所で笛の音は聞こえなくなった…。

エル: それじゃ一つ

スキールニル: ん?


*エルが楽器を取り出して、曲を奏で始めた。先ほどの笛の音と違い、愉快な曲調だ。

スキールニル: 愉快な曲だね

エル: これは兄者と別れてる時に
エル: 一人で作った曲さ

スキールニル: すごいじゃないか!
スキールニル: なんて曲だい?

エル: ・・・
エル: 決めないとな

スキールニル: 決めてなかったのか


*今まではアルが決めてくれたから。

スキールニル: お前きっとすごい作曲家になるな
スキールニル: お前が死んでも
スキールニル: 誰かがずっと
スキールニル: お前の曲を
スキールニル: 口ずさむんだ

エル: そーかな

スキールニル: すごいことだな

エル: そのために必要なのはさ
エル: 題材だよ

スキールニル: インスピレーションてヤツだな

エル: うーんと
エル: 曲はいいんだけど、詩のモチーフが欲しいのさ

スキールニル: カリムシャンにいったら
スキールニル: どんな曲になるんだろう
スキールニル: いつか題材に困ったら
スキールニル: 俺たちのことを歌えよ

エル: いや、困る前にそのつもりなんだ

スキールニル: ・・・そうなのか

エル: だからもっと冒険をしたいんだ

スキールニル: 英雄譚とはとてもいえないな・・・
スキールニル: 冒険か

エル: もっともっと、一大叙事詩にしたいんだ

スキールニル: 一大叙事詩か
スキールニル: とんでもない野望だよな
スキールニル: 俺も人のことはいえないか

エル: だから、スキールニルとフンディンが頑張ってくれれば
エル: そのぶんいい詩ができるんだ

スキールニル: 俺が一大叙事詩・・・?

エル: そうさ

スキールニル: そいつは気の長い話だなあ
スキールニル: だけどまあ・・・
スキールニル: いろいろなところへいって
スキールニル: 腕を磨くつもりだからな
スキールニル: それと・・・
スキールニル: 剣の使いみちについても
スキールニル: じっくり考えないとな
スキールニル: 今回の旅でいろいろあって、何か学んだ気がする

エル: そか

スキールニル: うまく言えねえな・・・
スキールニル: ただ・・・
スキールニル: そう、ただ剣振り回してるだけでいいのかって
スキールニル: そう思うようになった
スキールニル: オークに殺された餓鬼とか・・・ラスカンでのこと
スキールニル: ああいうことは見たくねえんだ

エル: 剣を使う以上目にしなければならないだろうね

スキールニル: 勿論そうだよ
スキールニル: だが少しでもああいうことがおきないようにできればな
スキールニル: そのことも含めて
スキールニル: 修行が必要だ

エル: スキールニルは王になれよ

スキールニル: 王?!
スキールニル: がらじゃねえよ
スキールニル: 俺に仕えたいやつなんているかなあ

エル: 向いてると思うな
エル: 自分の国を作るんだ

スキールニル: それはまた気の長い話だな

エル: それこそ最高の題材さ

スキールニル: 孤児スキールニルが王になるってか
スキールニル: 話としちゃ面白そうだな

エル: 最高だろ

スキールニル: ・・・まあ、がんばってみるよ
スキールニル: 明日早いしそろそろ
スキールニル: 寝るか?

エル: そうだな


*少し時間は戻って、夜風に当たっていたフンディンは聞こえてきた笛の音の主を探して宿の周りを歩いていた。

フンディン: あ、アルドリックさん

アル: やぁ

フンディン: ん
フンディン: いまの笛…
フンディン: アルドリックさんだったんですね

アル: うん
アル: フィオールの持っていた笛なんだ
アル: どこにでもある物だけど
アル: 良い音色だろ?

フンディン: きれいだったけど
フンディン: なんだか悲しい感じがして…
フンディン: *ぐしっ

アル: ははは
アル: まだひきづってるのかな?

フンディン: …

アル: いつかもっと明るい音色にしなくちゃね

フンディン: アルドリックさん…

アル: ん?

フンディン: フィオール…さんは
フンディン: 幸せだったんでしょうか?

アル: 幸せだったのかなぁ?
アル: 死んじゃう前は幸せそうだったよ
アル: 楽しそうだった

フンディン: ……

アル: 目がキラキラしてた

フンディン: やっぱり…死んでしまうのは、
フンディン: とても、悲しいことだけど…
フンディン: それでも幸せな時があったのなら…
フンディン: それはとても良いことだと…
フンディン: *ぐすっ

アル: はは、フンディンは相変わらず優しいな

フンディン: *ちーん
フンディン: 祖父上にとって…
フンディン: *ぐすっ
フンディン: きっと祖父上は、わたしは立派な…
フンディン: 祖父上の名を継ぐに恥じない鍛治師になることが…
フンディン: *ぐすっ

アル: うん

フンディン: きっと祖父上に幸せに思っていただけることだと…思うんです
フンディン: *ぐすっ

アル: 頑張るしかないよな

フンディン: *こっくり

アル: 今の気持ちを忘れなければ
アル: きっともっともっと上達するよ
アル: どんな物が作りたいか、
アル: 決まったら教えてくれよな

フンディン: アルドリックさんは…
フンディン: これからどうするんです?

アル: う〜ん
アル: 正直今は少し休みたいね
アル: 毎日、喰って呑んで
アル: ボンヤリ過ごしたい
アル: フィオールのことが思い出に変わるまでね

フンディン: アルドリックさん、音楽家にはならないんですか?

アル: う〜ん、どうだろう?

フンディン: それとも詩人とか…

アル: エルにその気があれば
アル: コンビを組むのは楽しいだろうね

フンディン: きっと…その、
フンディン: うまく言えないのだけど
フンディン: わたしが鍛治の仕事をする時には
フンディン: たいていそれまでどんな気持ちでいても
フンディン: 槌を叩いているうちにそのことしか考えなくなってしまうんです
フンディン: それがいいことなのか悪いことなのかはわからない

アル: 夢中になってしまうんだね

フンディン: でも音楽ってきっと違うと思う
フンディン: わたしは… フィオールさんのことは話で聞いたことしかわからないけど
フンディン: きっとアルドリックさんがその笛を持っているのも
フンディン: フィオールさんがアルドリックさんの音楽に感じるものがあったからだと思うし…
フンディン: そういうアルドリックさんがフィオールさんと一緒にすごして幸せだった時のことを
フンディン: 音楽にはこめることが…できるような気がする
フンディン: んです

アル: うん
アル: 早くそうなりたいな

フンディン: だからきっと… アルドリックさんがそうなれれば
フンディン: フィオールさんも… 幸せに… 思うと…
フンディン: *ぐすっ

アル: はは、お前が泣くことはないだろ?

フンディン: だからアルドリックさん
フンディン: もう何があっても
フンディン: 自分から死のうとするような真似は…
フンディン: *ぐすっ

アル: 大丈夫だよ
アル: フンディンが目を覚まさせてくれたんじゃないか

フンディン: …
フンディン: *ぐしっ

アル: 感謝しているよ

フンディン: そんな…そんなこと

アル: 照れ屋さんだなぁ、相変わらず
アル: フンディンは自分で思っているより、ずっと頼りになるドワーフだよ

フンディン: …

アル: ふわぁ…
アル: 本格的に眠くなってきた

フンディン: それじゃ…
フンディン: おやすみなさい

アル: おやすみ

フンディン: また明日


*そう言ってフンディンは自分の部屋へと向かった。この"また明日"が果たされない事など知る由もなく…。

フンディン: オッドアイ… こんなに大きな穴を開けてしまって
フンディン: お師匠様にお願いして直してもらわないとなぁ…
フンディン: それに父上の斧も
フンディン: ダグダ様のところへ…
フンディン: むにゃ…


*部屋に戻ったフンディンは色々と考えていたが、久しぶりのベッドに身を沈めるとあっという間に眠りに落ちてしまった。スキールニルと分かれたエルが部屋に戻ると、すでにアルが寝ていたが…

エル: なんで寝てる振りしてんだ?
エル: 疲れてるの?

アル: なかなか寝れなくてな

エル: もうすぐ家だもんな

アル: 懐かしいな
アル: 嬉しいような、寂しいような

エル: 俺は一回戻ったけれど、兄者はずいぶん久しぶりだろ

アル: そうだなぁ
アル: …


●アルの旅立ち

*夜も更けて、皆が寝静まった頃。アルは起き上がった。隣のエルが良く寝ているのを確認すると、装備を身につけ自分の荷物を担ぐ。そのまま忍び足でフンディンたちの部屋へと入っていく。フンディンの荷物を調べたが目的の"あの剣"は見当たらない。良く見るとフンディンは抱きかかえて寝ている。アルはこっそりそれに手を伸ばしたが…

フンディン: ん…

*フンディンは目を覚ましてしまった。アルは慌てて廊下の柱の影に身を潜める。(スリ判定に失敗。抱えているものを気づかれずに取るのは至難の業だ)

フンディン: ん…?
フンディン: 誰か…
フンディン: いたの?
フンディン: スキーニー…寝てる
フンディン: ああっ!


*部屋の椅子が叩き壊されている…

フンディン: なんだよ、この木片…
フンディン: ったく、しょうがないなあ
フンディン: おおかたスキーニーが訓練のためとか言って
フンディン: 叩き壊したにちがいない
フンディン: だから部屋の中で剣を降るなってあれほど言ったのに…
フンディン: 明日になったら弁償しなくちゃ
フンディン: はあ…
フンディン: ?
フンディン: 扉…
フンディン: スキーニーが開けっ放しで寝ちゃったのかな?


*扉が開きっ放しなので、不思議に思ったフンディンは廊下に顔を出して左右を見回す。ここでフンディンの視認とアルの隠れ身で対抗判定である。結果はアルの勝利で、アルは見つからなかった。

フンディン: やれやれ
フンディン: スキーニーには明日の朝しっかり言っておかなくちゃな
フンディン: ふああ…


*フンディンは再び眠りに落ちた。

アル: (ふむ…
アル: (まぁ仕方ない
アル: (エル、またな

アル: (フンディン、それは存在しちゃいけないものだと思う
アル: (なるべくなら処分してくれよな

アル: (スキールニル、ありがとな
アル: (お前は初めて出来た
アル: (騙さなくても良い友達だったよ
アル: (フィオールのこと、忘れないでくれよな


*そうして、アルはパーティーの元を離れた。宿の門を無理言って開けてもらう。まだ太陽は地平の彼方で辺りは暗い。ここから、アルは初めての一人旅に出る。明け方の冷えた空気が夏の終わりを感じさせたが、アルは怯まず歩き始めた。

●アルのいない朝

*翌日の朝。

スキールニル: ふぁああ

フンディン: あのさ、スキーニー

スキールニル: ん?

フンディン: 朝から特訓ご苦労さまなんだけど
フンディン: これ…なに?


*フンディンは壊れた椅子を指差す。

スキールニル: ああ・・・
スキールニル: 焚き付けだ

フンディン: ………………
フンディン: *はあ…

スキールニル: まあちょっと手が滑ってな
スキールニル: 弁償するから大丈夫だ

フンディン: お金は払っておくから
フンディン: 暴れるならもう外でやりなよ

スキールニル: それもそうだ

*フンディンは一階に下りてきた。テーブルにはエルが一人で座っている。とりあえずフンディンは宿の主人に声をかける。

フンディン: おはようございます
フンディン: ご主人
フンディン: その…
フンディン: まことに申し上げにくいことなのですが

ファイアーアックス: ん?

フンディン: 連れの者が誤って…その、椅子を一つ破損してしまいまして…

ファイアーアックス: …

フンディン: 本当に、申し訳ございません!
フンディン: どうか、これで

スキールニル: 弁償するよ、すまなかった


*主人はフンディンの差し出した金を見ながら、腕を組んで二人をにらむ。

ファイアーアックス: 昨晩もたいそうなランチキ騒ぎだったな…

フンディン: はっ…

ファイアーアックス: 勘弁してもらいたいもんだな

フンディン: すみません…
フンディン: 故郷も近いものでつい調子に乗り
フンディン: 浮かれすぎて羽目を外してしまいました

ファイアーアックス: まあ…この金で手を打とう


*とかなんとかフンディンが謝っている間に、スキールニルはテーブルに付く。

スキールニル: あれ
スキールニル: アルはどうした?

エル: 見てないんだ

スキールニル: もう朝飯なのに

エル: 部屋にはいなくてさ

スキールニル: 何?

ファイアーアックス: 連れなら朝早くに
ファイアーアックス: 出て行ったようだが

フンディン: へっ?

エル: 散歩でもしてるのかな

フンディン: 荷物は部屋にあるんですか?

エル: 無いよ

フンディン: えっ?!
フンディン: そんな…

ファイアーアックス: 旅用の食料も買い込んでいったようだな

エル: ??

スキールニル: ・・・・?

フンディン: アルドリックさん…

エル: 昨晩
エル: 兄者からさよならを言われた気がしたんだ
エル: 夢かと思ったんだけど

スキールニル: ・・・


*フンディンはだっと駆け出した。スキールニルもあとに続く。エルもそれを追った。

フンディン: すみません!

エル: ちょっと
エル: 朝がた、俺を見なかった?

守衛: …
守衛: ああ、
守衛: 門を開けてくれって言うから
守衛: 特別に開けてやったよ

スキールニル: どっちにいった!

エル: やっぱり!

守衛: さあ…門は朝まで閉じておくことになっているから
守衛: すぐに閉めてしまったよ

エル: 何時ごろ!?

守衛: 朝…まだ日が昇る前だったなあ

エル: じゃあ、もう4時間くらい前か

スキールニル: 今ならまだなんとか間に合うぜ
スキールニル: 追うぞ

エル: いや
エル: やめておこう

スキールニル: ?
スキールニル: なんでだよ!

エル: 危険は無い

フンディン: …

スキールニル: ・・・・わかるのか
スキールニル: どうしたって言うんだ・・・?

エル: 兄者の心にはこないだみたいな復讐心は消えてた

フンディン: うん…
フンディン: アルドリックさんは大丈夫だと思う、スキーニー
フンディン: たぶん、だけど

スキールニル: お前までカッコつけやがって・・・

フンディン: いつかまた会える気がする
フンディン: きっと

スキールニル: エルはいいのか・・・?

エル: 落ち着いてたから
エル: ちゃんと考えて行ったんだよ

スキールニル: ・・・

エル: それなら好きにさせてやりたい

スキールニル: ちぇ・・・仕方ねえな

エル: また絶対会える、そう感じるからね

スキールニル: どっちいったかもわかんねえしな


*三人は宿に戻って、テーブルに付いた。さっき頼んでおいた朝食が出ている。

フンディン: …
フンディン: ほら、スキーニー
フンディン: 朝ご飯さめちゃうよ

スキールニル: ひひひひひ

フンディン: ??
フンディン: なんだい、いきなり

スキールニル: 豚の腸捻転
スキールニル: 最高だったなあ

エル: へへ
エル: 元気ないじゃん、みんな

スキールニル: そうか?

エル: 俺に気使わなくていいよ

スキールニル: なんかこう妙なんだよ
スキールニル: 飯のとき大騒ぎするヤツがいないとな

フンディン: …
フンディン: ごちそうさま
フンディン: それじゃ荷造りしてきます

スキールニル: まだしてなかったのか

フンディン: 誰かさんが散らかしたあとの
フンディン: 片付けしてたんでね!
フンディン: *ぎろり

スキールニル: ・・・・


*フンディンが準備を済ませて下りてきた。

フンディン: おまたせ

スキールニル: とっとといって済ませよう

フンディン: ?
フンディン: なにを?

スキールニル: 帰ったら家にいかなきゃいかんだろうが

フンディン: そんな、済ませるって…
フンディン: もうちょっと他に言い方があるんじゃない?

スキールニル: 他に言い方が思いつかないな

フンディン: まあスキーニーらしいね

スキールニル: いつかあいつと試合して勝つ

フンディン: それじゃいこう
フンディン: ご主人、お騒がせしました


*といって、宿を出る。

スキールニル: いい宿だ

フンディン: なに言ってるんだか…

スキールニル: いい宿じゃねえか

フンディン: はいはい、そうですね


*三人になった一行は宿を後にして、一路フェルバールへと向かうのであった。

●ただいま、フェルバール

フンディン: ようやく見えてきた

*宿からさらに半日ほど歩いた昼過ぎに、フェルバールの城壁が見えてきた。三人の足も自然と速まる。

スキールニル: 着いた
スキールニル: よう

フンディン: こんにちは
フンディン: おやくめごくろうさまです

フェルバール兵: たしか…フンディン・アイアンビアードか

スキールニル: フェルバールは平和かい

エル: フェルバールの新しい英雄のご帰還だー

フンディン: ムンディン・アイアンビアードの息子フンディンと
フンディン: その仲間
フンディン: ただいま帰還しました

フェルバール兵: フェルバールの門は、フェルバールの者を拒まない。通行は自由だ

フンディン: ありがとうございます


*三人は懐かしい門を潜ってフェルバールの街へと入った。街の様子はかわりなく、入り口付近の衛兵詰め所前では、相変わらず新入りをどやす声が聞こえているし、工房区へ向かう職人はフンディンを見つけると遠くから手を振ってくる。

フンディン: はあ…
フンディン: わたしたちはこの前帰ってきたばかりだけど
フンディン: スキーニーはもうだいぶ久しぶりだね

エル: だね

スキールニル: まあね
スキールニル: 相変わらずだな

フンディン: それじゃ…
フンディン: まずは二人とも
フンディン: わたしの家に

スキールニル: 俺も行かなきゃ駄目か?

フンディン: 当たり前だろ!

スキールニル: あーあ


●ムンディンの真実

*というわけでアイアンビアード家前。

フンディン: ほら、入って
フンディン: 母上
フンディン: フンディン、ただいま帰りました

ジェミリ: おかえり、フンディン

スキールニル: (こそこそ

フンディン: ほら、スキーニー
フンディン: なにこそこそしてるのさ

ジェミリ: 今日は…スキールニルも一緒ね?

スキールニル: あー、はい

エル: はは

スキールニル: 戻りました

フンディン: 母上
フンディン: 急で申し訳ないのですが
フンディン: なにか食べるものを用意していただけますか?

ジェミリ: はいはい

フンディン: 父上にご報告が済んだら
フンディン: 食事をとりたいと思いますので…

スキールニル: 朝食ったばっかじゃん

フンディン: 母上
フンディン: 父上はお部屋でしょうか?

ジェミリ: ええ、いらっしゃいますよ

フンディン: わかりました


*フンディンは父の部屋の前に立ち、扉を叩く。

ムンディン: 誰だね

フンディン: フンディンです

ムンディン: そうか、入りなさい

フンディン: 失礼します
フンディン: 二人も
フンディン: どうぞ

ムンディン: スキールニルも一緒か

フンディン: 父上
フンディン: フンディン、ただいま戻りました

スキールニル: 戻りました

ムンディン: 今回は、立ち寄ったというわけではなさそうだが…

フンディン: *じわっ…
フンディン: *と涙目になる

エル: しっかりしろ

フンディン: *グスッ

スキールニル: (あーあーあー

フンディン: 父上…

ムンディン: うむ、聞こう

フンディン: 探索は…
フンディン: 終了…しまし…た…

ムンディン: …そうか!
ムンディン: それで…一族の宝は見つかったのか?

フンディン: は…はい…
フンディン: どこから…お話すればよいのか…
フンディン: まずはこれに


*フンディンは、アイアンビアード家伝来のハンマーを見せた。

ムンディン: 思ったとおり…鍛冶にまつわるものだったか

フンディン: うう…

ムンディン: これは、お前が見つけてきた、お前が受け継ぐべきものだ
ムンディン: 大切に、持っていなさい

フンディン: はい、父上

ムンディン: そうか…よく見つけられたな

フンディン: 話せば長くなることなのですが
フンディン: ひとつだけ、間違いのないことがあります
フンディン: 祖父上は…
フンディン: 大ムンディンは、確かに偉大な鍛治師でありました
フンディン: そのことは間違い…ありませ…

スキールニル: (俺いなくてもいいじゃん・・ぶつぶつ

エル: まあまあ
エル: ここまで一緒だったんだ、見届ける義務がある

スキールニル: ・・・そうかもな

ムンディン: フンディンよ
ムンディン: なにか…残っていなかったかね?
ムンディン: 何があったのか…わしはそれが知りたいのだ。
ムンディン: あくまでも
ムンディン: 氏族の宝をお前にというのが目的ではあったが
ムンディン: もし…なにか手かがりになるようなものがあったらと期待もしていた

フンディン: は…はい…
フンディン: 父上、しかし
フンディン: なにぶん、長い話なのです
フンディン: もしよろしければ
フンディン: 食堂で皆でお茶などいただきながらでも良いでしょうか?
フンディン: スキーニーとエルドリックさんを
フンディン: ずっと立たせたままというのも悪いですし…

ムンディン: フンディン、もったいつけるものではないぞ
ムンディン: 話はあとでゆっくり聞く。もしなにか
ムンディン: 手かがリになるようなものがあるなら
ムンディン: 見せて欲しい
ムンディン: その様子だと、何かあるようだが?

フンディン: はい…
フンディン: 全ては、祖父上の鍛治に対する強い情熱であったと思えます
フンディン: 父上は、
フンディン: ミョルニル叔父上、それに祖父上
フンディン: そして祖父上の弟君ニルディンさまと
フンディン: その奥方
フンディン: その五人で
フンディン: シルバーマーチの山中、バーミル・スラルレオと呼ばれた場所からそう遠くない地で暮らされていました

ムンディン: 叔父の妻…?何を言っている

フンディン: ?
フンディン: 大叔父上の奥方です
フンディン: 父上は覚えてはいらっしゃらないのですか?

ムンディン: 母と父と、叔父とわし、それにミョルニルの5人で暮らしていたはず…

フンディン: …
フンディン: 父上の母上…つまりわたしの祖母上にあたる方は
フンディン: ことが起きた時よりも前にお亡くなりになっていたようです

ムンディン: そうではない…そんなはずは…

フンディン: …?

フンディン: (そうなんだ… ひとつ気になっていたことが…
フンディン: ともかく父上
フンディン: 祖父上はその地にて、鍛治の奥義を極めるべく
フンディン: 大叔父上の手を借りて仕事に励んでおられたようです
フンディン: 祖父上の到達した境地は、武器とはすなわち他者を殺傷するためにある
フンディン: このことでした

ムンディン: その話はしたはずだ…それは覚えている

フンディン: はい
フンディン: それがために作られた…一振りの剣があります

ムンディン: ふむ…

フンディン: その剣に…
フンディン: *涙ぐむ
フンディン: 大叔父上は… 魅せられて…しまったのでしょう
フンディン: *ぐすっ

ムンディン: 剣…

フンディン: 剣の完成した暁に、大叔父上は剣を手に取り…

ムンディン: 何か…

フンディン: そして… 祖父上と…
フンディン: 大叔母上を…

ムンディン: フンディン、剣は持ってきているのか?

フンディン: は、はい…ここに…

ムンディン: それを見せなさい

フンディン: ですが父上

ムンディン: はやく!

フンディン: 王殺しを以前お見せした際にも
フンディン: ひどくお苦しみのごようすでした

ムンディン: 何か…剣…思い出せそうなのだ!

フンディン: は、はい


*ムンディンは足を引きずりながらフンディンに掴みかかってくる。フンディンは父の真剣な顔に慌てて剣を取り出して見せた。ムンディンの目が見開かれる。

ムンディン: この剣…は
ムンディン: 覚えているような気がする…

フンディン: ……

ムンディン: あの日…叔父と二人で父の帰りを待っていて…
ムンディン: 焚き火を囲んで…

フンディン: …
フンディン: (あれ…?

ムンディン: ああ!


*ムンディンの目はもはやフンディンを見ていない。遠い過去の景色を見ているようだ。

ムンディン: ああ…

*その目から頬に涙が伝うと、そのままムンディンは目を閉じてフンディンに圧し掛かるように倒れた。

フンディン: 父上…?
フンディン: ちちうえ、しっかり!
フンディン: 父上! 父上!

スキールニル: ・・・あ
スキールニル: 大変だ、ムンディン殿が!


*ジェミリが駆け込んできて、素早くムンディンの状態を確認する。(実はフンディンの母はLv8クレリックだったりする)

フンディン: は、母上
フンディン: 父上が…

ジェミリ: フンディン、気を失っているようだわ

フンディン: そ、それではお命に別状は…

ジェミリ: とにかく、ベットに。手伝って頂戴

フンディン: はい!

スキールニル: 手伝おう


*みんなでムンディンをベッドに寝かせたあと、ジェミリに外で待てと言われてしまったので、三人とも部屋の外で待つことになった。そしてそのまま数時間が経過した。

フンディン: …

*ジェミリが出てきた。

フンディン: 母上!
フンディン: 父上のお具合は…

ジェミリ: 落ち着きなさい。お体の不調ではありません
ジェミリ: もう目が覚めて、あなたを呼んでいます

フンディン: !

スキールニル: 無事なら何よりだな

フンディン: それじゃスキーニー
フンディン: それにエルドリックさんも

ジェミリ: 行ってあげなさい

フンディン: はい


*フンディンは父の部屋に入る。父は普段と変わらない様子でベッドに腰を下ろしている。

フンディン: 父上
フンディン: もうよろしいのですか…?

ムンディン: うむ…
ムンディン: 思い出した。あの日
ムンディン: 仕事場の帰り道で、叔父と焚き火を焚いて
ムンディン: 父を待っていて
ムンディン: 父は手に、この剣を持っていた

フンディン: …

ムンディン: 叔父も父もうれしそうだった
ムンディン: 最高傑作の誕生を、喜んでいた
ムンディン: その時は…何も変わった様子はなかったんだ…

フンディン: …

ムンディン: 父は疲れたのか、そのまま横になってしまって、
ムンディン: わしは毛布を取りに家に戻った
ムンディン: 家に帰るとミョルニルが騒いでいて
ムンディン: 仕方なく、わしはミョルニルを連れて一緒に戻った
ムンディン: そして丘を上がって、焚き火が見えて…

フンディン: ……

ムンディン: 見えたのは…叔父が、父を刺し貫いた瞬間だった…

フンディン: …っ…

ムンディン: わけがわからず、立ち尽くすわしらに、叔父が近づいてきた
ムンディン: 表情は、焚き火を囲んだあのときのまま
ムンディン: 何か喜んでいたように見えた

フンディン: ……

ムンディン: 恐ろしくなって…わしらは逃げ出した
ムンディン: 叔父は追ってこなかった
ムンディン: そのまま、わしらはしばらく隠れていて
ムンディン: 日が暮れて…

フンディン: …

ムンディン: 家に戻ってみると…叔母が死んでいた
ムンディン: 通路の奥の倉庫の前に叔父がいて…
ムンディン: こちらをちらりと見た
ムンディン: 血に濡れた姿にわしらは悲鳴を上げたが
ムンディン: 叔父はそのまま倉庫に入って行って…出てこなかった
ムンディン: わしは夢中で、仕事場に言ってみたが
ムンディン: 父の遺体は見つけられなかった

フンディン: ……
フンディン: 祖父上は…

フンディン: 仕事場の、秘密の部屋で…
フンディン: お休みになられていました

ムンディン: 秘密の部屋があったのか…

フンディン: つ、続けて…ください、父上

ムンディン: 惨劇に動転し、とにかく人を呼ばないといけない。怖かったし…
ムンディン: わしはそのまま、森をさまよっている間に…すべて忘れてしまっていたようだ…
ムンディン: 鍛冶場に行くと、あのむせ返る血のニオイがするような気がして…近寄れなかった

フンディン: ……

ムンディン: その理由も…すべて思い出した
ムンディン: 母だと思っていた人のは叔母だったのか…

フンディン: ……

ムンディン: ミョルニルは弟ではなくいとこであった
ムンディン: そうか…

フンディン: はっ…

ムンディン: 墓を…作ってやらんとな

フンディン: はい


*ムンディンは剣に視線を落とした。

ムンディン: この剣
ムンディン: この剣は、人の心を映しすぎる

フンディン: はい…
フンディン: そのことを、わたしも身をもって知りました

ムンディン: 心に影のない者などいない
ムンディン: たとえ神であってもな
ムンディン: だから、これはうかつに世に出してはならんものだ

フンディン: そう思います

ムンディン: この剣は…ミョルニルに頼むとしよう

フンディン: !

ムンディン: フンディン、これをミョルニルのところに持って行って
ムンディン: 人目につかぬように、守ってくれと
ムンディン: わしが言っていたと伝えてくれ
ムンディン: この剣の輝きはわしにはまぶしすぎる

フンディン: 父上、それは…
フンディン: ………
フンディン: 父上
フンディン: 分を越えたことであるということはわかっています
フンディン: ですが…
フンディン: フンディンの目には
フンディン: 父上と叔父上が…
フンディン: 祖父上と大叔父上
フンディン: この日記を読んで大叔父上の気持ちを知ったあとでは
フンディン: 遠からぬものではないかと思えます

ムンディン: お前はまだ、ミョルニルの事をわかっていないようだな…


*ムンディンは心底残念という風だ。

フンディン: 父上…

ムンディン: あやつにはスキールニル以外の家族はおらん。ゆえに、やつはいつでもわしの元を離れても良かった
ムンディン: やつは自分の意思で、わしのそばにいるのだよ…

フンディン: それは…
フンディン: けれどなおさら
フンディン: 父上も仰られたように
フンディン: 誰でも心に陰はあります
フンディン: それを映すこの武器
フンディン: 誰の手に渡ったとて危険であるとは思えませんか

ムンディン: 無論、ミョルニルもそれはあるだろう。しかしあいつは、そんなものはとうに乗り越えてきているんだよ

フンディン: ……

ムンディン: お前が生まれる前の話だ…知らんのも無理はない

フンディン: 父上がそうまで仰られるのでしたら
フンディン: フンディンには断る術はありません
フンディン: ……

ムンディン: わしが考えうる、もっとも安全な場所がミョルニルのところだ。
ムンディン: もし、何者かがこの存在を知り、奪いに来たとき、満足に戦えぬわしでは奪われてしまう
ムンディン: お前では、まだ未熟
ムンディン: やはり奪われてしまうだろう
ムンディン: たとえ災いをもたらしたものでも、父の最期の作品ならば…消し去るのは忍びないしな…

フンディン: わかりました


*フンディンは剣を受け取った。

フンディン: ではこの無銘
フンディン: 確かに叔父上に

ムンディン: 疲れた…少し一人で考えたい

フンディン: はい
フンディン: これらの書は…
フンディン: 父上がお持ちください


*これらの書=秘密の工房や谷間の家で見つけたもの。

ムンディン: ありがとう、フンディン

フンディン: それから…これも…
フンディン: 父上の…家で見つけたものです

ムンディン: …


*フンディンは、幼い頃の父が遊んでいただろう玩具を持ってきていた。それを父に渡すと、フンディンはそっと部屋を出た。

スキールニル: やっと終わったか

フンディン: うん…
フンディン: お昼はもう食べた?

エル: いや

フンディン: そ、それは
フンディン: 母上
フンディン: すみません、何かありますでしょうか?


*というわけで食事を取る三人。

フンディン: それじゃ
フンディン: スキーニー

スキールニル: ん?

フンディン: 叔父上に少し用があるんだけど
フンディン: 詰め所かな…?

スキールニル: しらんなあ

フンディン: また…
フンディン: スキーニーだってただいまの挨拶しなきゃ駄目だろう

スキールニル: じゃあまあ家にいくか

フンディン: うん

エル: ああ


●ミョルニルの真実

*三人は隣にあるミョルニル(とスキールニルの)家にやってきた。どうやらミョルニルは在宅らしい。

フンディン: 叔父上

スキールニル: 戻りました

ミョルニル: ん
ミョルニル: 結局見つからなくて戻ってきたのか?
ミョルニル: ん?

フンディン: それじゃスキーニー
フンディン: ひとまず
フンディン: エルドリックさんとわたしは外にいるから
フンディン: 話が済んだら呼んでね

スキールニル: お前用事あるんじゃないのか

フンディン: あるけど…
フンディン: まずはスキーニーがただいまの挨拶があるだろう

スキールニル: 俺はたいして話す事はないよ

フンディン: またそんなこと言って…

スキールニル: いや挨拶済んだし

ミョルニル: 用件があるなら、さっさと済ませろ。フンディン
ミョルニル: お前は無駄に時間を食いすぎる

フンディン: は、はい…

ミョルニル: 話も長いしな

スキールニル: それには賛成だな

フンディン: ちぇ…

ミョルニル: で、なんのようだ

フンディン: はい
フンディン: 実は…その…

ミョルニル: 逃げ帰ってきたのか?

フンディン: 父上より仰せつかって
フンディン: 届け物に伺いました

ミョルニル: なんだ、渡せ

フンディン: ……


*フンディンはスキールニルのほうをちらりと見たが、しらんぷりされてしまった。

フンディン: ……
フンディン: この剣を
フンディン: 叔父上に保管していただきたいと
フンディン: 父上が


*フンディンは"剣"を差し出す。

スキールニル: ・・・届けものってそれかよ!

ミョルニル: こいつは…
ミョルニル: …


*ミョルニルは受け取った剣をじっと見ている…。

エル: あれれ
エル: 兄者みたいになったらどーすんだ

フンディン: ……

スキールニル: 手がつけられないぞ

フンディン: 父上が叔父上のことを信じられている以上
フンディン: わたしが何か言うことはできないよ
フンディン: わたしも叔父上を信じます


*ミョルニルはふっとため息をつくと顔を上げた。

ミョルニル: …そうか
ミョルニル: 見つけちまったというわけか、フンディン

フンディン: 叔父上は… 覚えておいでだったのですか?

スキールニル: 見つからないほうがいいみたいな言い方ですね

ミョルニル: 兄貴に頼まれたということは、こいつも兄貴に見せちまったわけだな

フンディン: 父上は… 全てを思い出されました

スキールニル: 盛大に倒れちまって心配したぜ

ミョルニル: 俺だって、あの時もう物心はついてた年頃だ
ミョルニル: 兄貴は忘れちまってたが…俺は覚えてたさ

フンディン: !

ミョルニル: こいつが見つかれば、兄貴は全て思い出すような気がして…

スキールニル: ?

ミョルニル: 知らなくても、いいこともある
ミョルニル: おぼっちゃんのお前に、まさか見つけられるとは思っていなかった

フンディン: …

ミョルニル: だが、まあ、こうなった以上仕方がない…
ミョルニル: 兄貴は大丈夫なのか

フンディン: はい
フンディン: なんとか… 落ち着かれたようです

ミョルニル: なら、いい。

フンディン: ……

ミョルニル: しかと承った、と兄貴に言っておけ

フンディン: はい

エル: ふぅ

フンディン: 叔父上は…
フンディン: すべてを覚えておいでであったのに
フンディン: それでもなお父上のことを兄と呼ばれるのですね

ミョルニル: 血筋なんてものは、俺にはそんなもの、どうだっていいんだ
ミョルニル: 必要なのは、自分が何者で、何をしてきたかということなんだ

フンディン: …

ミョルニル: そんなこともわからんのか?だからお前はおぼっちゃんなんだよ、フンディン

エル: フンディンはおぼっちゃん卒業したよ

フンディン: わたしは、必ずしも血筋が大事でないものとは思いません
フンディン: けれど後半の部分には叔父上に賛成です
フンディン: *にっこり

ミョルニル: さっきも言ったが
ミョルニル: 話が長いんだ
ミョルニル: …

スキールニル: ああそれには賛成だな

フンディン: ちぇっ
フンディン: ではこれにて

ミョルニル: フンディン、お前は残れ
ミョルニル: エルドリックとスキールニルは、少し外にいてくれ


フンディン: ?
フンディン: ああ…

スキールニル: (このままいっちゃおうかな・・・

フンディン: 葬儀の日取りも決めないといけないし
フンディン: スキーニー
フンディン: どこか行くにしても
フンディン: 葬儀が済むまではここにいるんだよ
フンディン: いいね!
フンディン: *ぎろり

ミョルニル: スキールニル、今晩の食事は家で食え
ミョルニル: わかったな

スキールニル: え・・・
スキールニル: はあ

フンディン: はあ…


*エルとスキールニルは、スキールニルの部屋に行った。

ミョルニル: フンディン、王殺しの件、どうなったんだ
ミョルニル: スキールニルに渡したのか?

フンディン: は…
フンディン: かの斧は確かにスキーニーの手に渡りました
フンディン: けどそのことが…
フンディン: スキーニーをさらに悩ませることになったようにも思えます

ミョルニル: それで、いいんだ。それはやつが未熟者だからだ

フンディン: …

ミョルニル: 戦士としての技は教えられても、戦う心というのは教えられん

フンディン: 叔父上…
フンディン: 叔父上は、やっぱり本当に、スキーニーのことがお好きなのですね
フンディン: *にっこり

ミョルニル: もういいぞ。話は済んだな

フンディン: では失礼致します


*その頃、部屋に追いやられたエルとスキールニルは…

スキールニル: 傷だ
スキールニル: 懐かしいな
スキールニル: 背が伸びる度に傷つけたもんだ
スキールニル: あんま伸びなかったけどな

エル: まあ、エルフや人間にくらべりゃね

スキールニル: そうだな
スキールニル: ラスカンで人間と戦ったけど
スキールニル: やっぱり向こうの方がでかいからな
スキールニル: 結構大変だった

エル: そっか

スキールニル: ああ


*そこへフンディンがやってきた。

フンディン: 終わったよ
フンディン: おまたせ

スキールニル: そうか

エル: なんだったんだ

フンディン: ちょっとね
フンディン: 秘密の話です

スキールニル: まったくだ
スキールニル: まあいいや
スキールニル: 葬儀はいつなんだ

フンディン: それはもう一度家へ帰って
フンディン: 父上とも話して決めるよ

エル: この物語歌う時に秘密じゃ困るぜ

フンディン: 前も言ったけど
フンディン: 叔父上は本当にスキーニーのことを考えているんだってことだよ

スキールニル: 明日には発とうと思ってたのに
スキールニル: どう考えてるんだか
スキールニル: まあいいや

フンディン: (素直じゃないんだから…

スキールニル: 師命だから
スキールニル: 飯は家で食わなきゃならん

フンディン: まだ夕暮れまで時間があるから
フンディン: わたしは工房へ行ってくる

スキールニル: そうか

フンディン: スキーニーは家でゆっくり
フンディン: 叔父上と積もる話でもしているといいよ
フンディン: エルドリックさん

エル: うん?

フンディン: もしまだ父君と母君が戻られていないようなら
フンディン: 今夜はうちへ泊まりませんか?

エル: ああ、ありがとう
エル: でも、今日は一人で考えたいんだ

フンディン: …
フンディン: それとも、夕飯だけでも一緒に

エル: ああ、ご飯なら喜んで
エル: フンディンママのご飯はうまいから

フンディン: はい!
フンディン: それじゃまた後で
フンディン: 迎えにいきます

エル: わかった

フンディン: ありがとうございます

エル: こちらこそ

スキールニル: じゃあエル、またな

エル: ああ


*というわけでスキールニルは家に残り、エルは自分の家に、フンディンはガーリンの工房に向かった。

スキールニル: ・・・・
スキールニル: (一体何の話してやがったんだろ


●オッドアイが守ったもの

フンディン: お師匠様… いらっしゃるかな

*フンディンはガーリンの工房の扉を開けた。中にはちょうどガーリンがいた。

フンディン: お師匠様
フンディン: フンディン、ただいま帰りました

ガーリン ファイアフォージ: むむ おお
ガーリン ファイアフォージ: 戻ったのか、フンディン

フンディン: はっ

ガーリン ファイアフォージ: 今度は、ただの里帰りじゃなさそうだな?


*ガーリンは嬉しそうだ。

フンディン: はい…
フンディン: 祖父上…
フンディン: 大フンディンの…
フンディン: *じわっ
フンディン: 仕事場を…
フンディン: *ちーん

ガーリン ファイアフォージ: まあまあ、つもる話はゆっくり聞くことにしよう

フンディン: はい…
フンディン: *ぐすっ

ガーリン ファイアフォージ: それより、もう旅は終わったんじゃな?

フンディン: はい
フンディン: その…
フンディン: お師匠様
フンディン: 大変…申し上げにくいことなのですが…

ガーリン ファイアフォージ: ん?

フンディン: も、申し訳ありません!
フンディン: お師匠様に賜ったオッドアイに…


*フンディンはオッドアイを差し出した。

ガーリン ファイアフォージ: !
ガーリン ファイアフォージ: こいつにこんな傷を付けられるものがあるとはな…

フンディン: 申し開きの術もございません
フンディン: しかし… 間違いなく、この鎧のおかげで
フンディン: 命を…
フンディン: いや、わたしだけではありません
フンディン: わたしの命だけではなく
フンディン: 友達のことも助けることができました
フンディン: お師匠様のおかげです!

ガーリン ファイアフォージ: そうだろう
ガーリン ファイアフォージ: この鎧はな、フンディン、そういうものだ

フンディン: ……

ガーリン ファイアフォージ: 直すのは骨が折れるが…まあ、なんとかなる
ガーリン ファイアフォージ: 明日から工房に来れるんだろう?

フンディン: はっ
フンディン: 此度のことでこのフンディン、改めて己の未熟さを感じ入りました
フンディン: また明日よりお師匠様の元で厳しく鍛えていただければと思います

ガーリン ファイアフォージ: 明日からは、本格的に教えてやる

フンディン: ありがとうございます!

ガーリン ファイアフォージ: まあ…その前に旅の話を聞くとしようか

フンディン: はい…


*ガーリンはフンディンに椅子を勧め、二人はテーブルに付いた。そしてフンディンは旅の話をガーリンにした。ガーリンは本当に嬉しそうにその話を聞いていた。

●スキールニルとミョルニル

ミョルニル: 飯だ

*とミョルニルが呼んだのでスキールニルも席に着く。

スキールニル: 飯ですね

スキールニル: ・・・・


*無言で食事をする二人。ふと、スキールニルが話し出す。

スキールニル: 父上
スキールニル: 俺は葬儀が終わったら

ミョルニル: …

スキールニル: また旅に出ます
スキールニル: やらなければならないことがあるし
スキールニル: 腕を磨くには旅をするのが一番かと
スキールニル: ・・・・

ミョルニル: 俺は、お前をどこに行っても大丈夫なように鍛えたはずだ。
ミョルニル: だから、好きにすればいい

スキールニル: まだまだですがね
スキールニル: おかげでどうにか帰ってこれたようだ


*再び無言になって食事をする二人。今度はミョルニルが話す。

ミョルニル: 一つだけ、教えておく

スキールニル: ?

ミョルニル: 戦士とは、戦う心を持ったものの事を言う
ミョルニル: 何とどう戦うかは、それぞれだろうがな…


*スキールニルは黙ったままうなずく。そしてその後は無言のまま二人の食事は終わった。

●スキールニルの旅立ち

*アイアンビアード家の葬儀は無事に終わって、その翌日の朝、スキールニルは旅立つ事にした。装備と荷物を確認して自分の部屋を出る。もう戻ってくるか分からないけれど、振り返る事はしない。居間にはミョルニルがいた。スキールニルは一礼して家を出る。そのままフェルバールの門に向かう途中に、エルとフンディンが見送りに合流し、三人は門までやってきた。

スキールニル: じゃあいってくるぜ
スキールニル: いつ戻るかわからんけどね

フンディン: とりあえずどこへ行くつもりなの?

エル: ラスカンにネヴァーウィンターか

スキールニル: 前に言わなかったっけ
スキールニル: ラスカンだよ

フンディン: ああ…
フンディン: 本当はスキーニーもお礼参りに行くべきだったんだけど
フンディン: スキーニーが一緒じゃお礼も何もなくなりそうだから、まあ良いことにするよ

スキールニル: そうしたほうがいいな
スキールニル: だけどみんなによろしくな

フンディン: うん
フンディン: 伝えておく
フンディン: スキーニー…

スキールニル: なんだ?

フンディン: 「斧」は持ってるの?


*スキールニルはうなずく。

フンディン: そうか…

スキールニル: たぶん俺が持ってるのが一番いいんだろう

フンディン: うん…

スキールニル: なんでかわかんねえけどな

フンディン: ちゃんと行く先々では
フンディン: 礼儀正しくするんだよ
フンディン: フェルバールの名前を背負っていることを忘れないでね

スキールニル: いつも忘れてないぜ

フンディン: 本当かなあ…

スキールニル: なめられたらいけないからな

フンディン: あのねえ…

スキールニル: はじめにガツンと
スキールニル: やっとかないとな

エル: 兄者にあったらさ、
エル: 俺に会いたいときはそう思え、って

スキールニル: ああ
スキールニル: 生まれるときから一緒だもんナ
スキールニル: 離れてたって一緒さ

エル: ああ

フンディン: それからスキーニー

スキールニル: 今度はなんだ

フンディン: 死に急ぐような真似はするなよ

スキールニル: しねえよ

フンディン: 無理だと思ったら意地張らないで
フンディン: ちゃんと引くんだよ

スキールニル: あのハゲがひとついいことをいった
スキールニル: 戦士ってのは戦う心を持つものだ
スキールニル: (真似しながら
スキールニル: そういうことだな

フンディン: …

スキールニル: それさえあればどんなときでも負けじゃねえんだ

フンディン: うんうん

スキールニル: それじゃあな

フンディン: 早く帰ってきなよ!

スキールニル: おっかさんの飯くいすぎんなよ
スキールニル: また太るぞ

フンディン: 太ってなんかいないよ

スキールニル: エルまたな
スキールニル: お前の歌楽しみだ

エル: ああ

スキールニル: また会おう

フンディン: …


*スキールニルは軽く手を振ってから、門を潜って歩いていく。その背中をフンディンとエルは見送った。

フンディン: ……

*やがて、スキールニルは見えなくなった。結局、一度も振り向かなかった。

●旅の終わり

エル: フンディン

フンディン: エルドリックさん

エル: 何?

フンディン: いや…
フンディン: どうぞ

エル: いや、お礼参り、行くんだろ?

フンディン: はい

エル: いつ発つんだ?

フンディン: 来月の頭くらいに発とうと思います

エル: 半月後か

フンディン: オッドアイも直さないといけませんしね

エル: なるほどね

フンディン: エルドリックさんは・・
フンディン: どうしますか?

エル: それじゃ、親が帰るかもしれないし
エル: それに兄者が帰るかもしれないし・・・

フンディン: ……

エル: 半月はここにいる

フンディン: いまでも…
フンディン: 感じられますか?

エル: 今はわからない
エル: 何も伝わってこないんだ

フンディン: ……

エル: けどいつか会えるさ

フンディン: うん!
フンディン: 必ず会えますよ!
フンディン: それじゃ… 家へ帰りましょう

エル: ああ


*二人は街を歩いて帰っていく。夕暮れ時、家々には明かりが灯り始めた。二人はいつもの辻で手を振り、別れる。フンディンが家のドアを開けると、暖かな光がもれ、料理の香りが漂ってきた。フンディンはそれらを満喫して中に入ると、後ろ手に"パタン"とドアを閉めた。


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