ドワーフクエスト
第八章 秘密の工房
「最後の真実」


●秘密の工房

フンディン: この場所…
フンディン: ……
フンディン: 鉱石のインゴット…
フンディン: もう間違いない
フンディン: ここが祖父上の仕事場だ!

エル: ほー
エル: 長かったな・・・ここまで

フンディン: …

スキールニル : 遺産相続ってところかね


*フンディンは、ついに見つけたという興奮と、旅の途中で得たさまざまな思い出が混じり合って我を忘れたように、かつて祖父の工房だった場所を見回す。非常にこじんまりとした小さな洞窟には、一行が入ってきた倉庫(兼裏口)のほかに入り口の広間があり、そこには炉と金床がある。(ちなみに誰も気がつかなかったようだが、これらの道具あまり使い込まれた形跡がない) と、フンディンの視界に一人のドワーフの姿が映った。ニルディンの小道で扉の前に見た人物である。

フンディン: !

*フンディンは声をかけようとした。が、そのドワーフはふっと消えてしまった…。

フンディン: まって!

アル: はぁ?

エル: 俺も見たぞ、フンディン
エル: 人影

フンディン: ……

スキールニル : ん?
スキールニル : フンディンはねぶそくダヨキット


*フンディンは、ドワーフの立っていた場所に行ってみた。するとそこには岩の陰になるように扉があった。フンディンはその扉を開く。その向こうは小さな部屋で、簡素なベッドと机、そして本棚があった。どれも気をつけないと崩れ去ってしまうようなものだ。本棚にある本の中から、フンディンは一冊の本を取り出した。それは他のものとは違い、日記帳のようなものだ。フンディンはパラパラとめくってみる。

フンディン: これ…
フンディン: これは…
フンディン: 祖父上の手記だ…


*フンディンは手に持って開き、それを読んでいく。仲間たちも横から内容を読んだ。

どこにでもあるような普通の本で、中は元々白紙だったものだ。著者の名前は書かれていない。

内容は手書きの、主に武器鍛冶に関する考察で、著者自身が武器鍛冶に携わる者だったらしい。自身の経験や考えなどが記されている。
実際に、この著者が武器を精錬する際の手順や注意したことなどについて詳しく書かれているものもあり、内容が理解できる鍛冶師にとっては、まさに先人の教えとなるだろう。

なかでも以下の部分については特に目を引く。

「武器というのもはいったいなんなのか。その本質について私は考える事がある。(中略)私の作った武器の品質の良さが評価され始めた時、私にとっては失敗作であっても、私の銘さえ入っていれば高額で買い取る商人があらわれ、また街では私の銘を真似て刻んだだけの偽物もあらわれ始めたと聞く。
 私は、私の作品のその性能だけを評価してもらいたいのであって、名前を売り金を稼ぐためにしているのではない。これではいずれ、私の知りたい事…武器の本質について見極めるという事…も世俗に紛れてしまいそうだ…。」

「武器というのはあくまで道具であって、それが善のために使われるか悪のためにつかわれるかという事に私は興味がない。しかし私の周囲のものたちはそうではなく、私のすぐれた武器は善のために使われるべきだと主張する。だが私の経験上、むしろ悪のために使われた時こそ武器は真の力を発揮するようにも思える。私はレルムのたくさんの人に、私の作品を使ってもらいたい。そして私の作品から、その真なる姿を見出して欲しい。だが私の名が、その妨げになることもあるだろう。善だの悪だの関係なく武器を供給すれば、命を狙われるようなこともあるかもしれない。
 (中略)今後、私は自分の作品に銘を刻むのはやめる。」

以下は本書の末尾のほうに書かれていることから晩年のものだと思える。

「カリムシャンのパシャから、自分の身を守るために武器が欲しいという依頼があった。武器とは、守るためのものでもあるのかもしれない…と考えていた私はこの依頼を受け、防御のためだけの武器を作ることに挑戦した。」

「ダンヒルという人間の村の村長からの依頼があった。敵を退けるための武器が欲しいが、しかし村に武器を使いこなせるものがいないという。敵に恐怖を与え、退かせる…なるほど、武器にはそういう性質もあるかもしれない。興味をそそられてこの依頼を引き受けることにした。」

「ずっと私は品質の優れた武器を作ろうと努力してきた。最近の二つの依頼はそれとは違う側面を持った武器を私に作る機会をくれた。しかし作り上げてみると、やはり武器とはそういうものではないような気がしてくる…。ちょうど、アドバールの王から敵を倒すためだけの武器が欲しいという依頼があった。純粋に敵を倒すためだけの武器…武器とは敵を殺すもの…これこそが武器の真の姿かもしれない。私は自分の持てる全てをつぎ込んで、一つ作ってみようと決意した。」

以下は、最後のページである。

「長年待ち望んだ時が、私に訪れようとしている。最近作った3つの武器はどれも私の考える真実ではなかったが、私の考えをまとめさせてくれる良い機会にはなったと思う。武器とは、しょせん道具に過ぎない。敵を打ち倒し命を奪うのは武器ではない。それは使い手の持つ…殺意なのだ。使い手の殺意が人を殺すのであって、武器が殺意を持つのではないのだ。つまり武器とは使い手の殺意を実行するもの、その力を与えるもの、手段となる道具に過ぎないという事だ。これが私の辿りついた真実である。
 私の最高にして最後の作品になるであろう、これから作り上げるものが、この考えを証明するものになることを期待する。」


フンディン: 最高にして… 最後の作品…

スキールニル : じゃあ祖父さんの亡霊がまだいるのかもな
スキールニル : さっきの箱にちょうど聖水があったぜ


*フンディンは、自分でも分からない感情に圧倒されて涙をこぼす。

フンディン: ……

アル: これから作る物…

スキールニル : 何を作ったんだろう

アル: 長剣だったらいいな

フンディン: 恐怖を与えて戦わずして敵を退ける鎌…
フンディン: 守りのための剣…
フンディン: それに純粋な殺害のための斧…
フンディン: …

スキールニル : 祖父さんの書いてることもわかるような気はするね
スキールニル : こんなイスだって
スキールニル : その気になりゃ武器になる

アル: 確にな

フンディン: …

スキールニル : 他に武器がなくて
スキールニル : ココで襲われたらどうするか
スキールニル : 俺はイスを振り回すだろうな


*フンディンは丁寧にその手記をしまうと、机を調べてみた。机の引き出しは引き出そうとするとぼろぼろと崩れてしまったが、中から羊皮紙が数枚落ちてきた。それはちょうど伝言メモのような使われて方をしていたらしい。

この羊皮紙の束には、いろいろと書かれていて、これが個人的なメモ書きだったり、誰かとの連絡のために書き残したものだったようだ。
筆跡には、二つの特徴があり、このメモは二人の人物が使用していたことがわかる。

内容はいろいろだが、いくつか目を通すと以下のようなものだ。

「ミスリルが明日の午後到着する。」

「弁当忘れたろ。ここにおいておく」

「今晩は帰らない。」

「家の地下のわしの部屋にルーンの本を置いてきてしまった。午後までに取ってきてくれ」

「ムンディンが寂しがってるぞ。たまには家に帰れ」

「良い鋼が手に入りそうだ。明日、マーダックの所で会う商人が見せてくれるそうだが、兄さんにも見せたほうがいいかい」

「わしに見せろ。お前が決めるな」

「食事、置いておく」


フンディン: これ…
フンディン: 祖父上と…それに大叔父上の手記だ
フンディン: 大ムンディンとニルディン…

アル: へぇ

スキールニル : ニルディンてだれだっけ

フンディン: 祖父上の弟君だよ

スキールニル : あー
スキールニル : そんな名前だったっけ

フンディン: さっきニルディンの小道って…
フンディン: その名前からつけたんだ
フンディン: でも祖父上も大叔父上も… いなくなってしまった
フンディン: なにがあったんだろう?
フンディン: 父上は… 何を見たんだろう?

スキールニル : 兄弟喧嘩でもしたのかもね

フンディン: 奥へ行こう

エル: ああ、もう少し調べてみよう


*と、一行が部屋から出ると、さきほどのドワーフが今度は洞窟の入り口に立ってこちらを見ている。

フンディン: あっ!

スキールニル : 幻じゃなかったみたいだ


*フンディンたちが気がつくと、そのまま洞窟の外にすーっと出て行ってしまった…。

エル: 追おう

●忘れられ谷

*洞窟から出る一行。

スキールニル : おいフンディン

フンディン: いない…

スキールニル : まったく
スキールニル : 困ったもんだなホント

フンディン: あの人…
フンディン: なんだか… 知らない人じゃない気がする
フンディン: なんだろう、この感じ


*洞窟の外は、小さな谷になっていた。スパインの山裾に出来た、ちょっとした切れ目。まさに隠れ谷という感じだ。洞窟は谷の中腹にあり、細い道が谷の底まで続いている。見渡してみても危険な生き物の姿は見えない。

スキールニル : アレみろよ

フンディン: あれは…
フンディン: 残骸…?


*谷の底のほう、ちょうど今の時間影になっているあたりに何か建造物の残骸らしきものが見えた。一行は谷を下りてそこに向かう。

フンディン: あっ!

*残骸の近くまで来たとき、そこにドワーフがいた。が、やはりすっと消えてしまった。

フンディン: ここは…
フンディン: 家の… あと…?


*良く見れば、そこは家の址だったとわかる。今はかつて家具だったものや壁だったものが自然に朽ちていこうとしている。

フンディン: ここ…もしかして
フンディン: 父上が祖父上と暮らしていた家…?

アル: むっ
アル: 落とし戸だな

スキールニル : あの亡霊はそこに立ってたぞ


*亡霊の立っていた場所に、アルは落とし戸を見つけた。工房で見つけたメモには地下室の存在が書かれていたが…

フンディン: なんだか…
フンディン: *ごくり
フンディン: スキーニー
フンディン: なんだか怖い

スキールニル : なんか鬼火に誘われてるみたいで気分がよくないな

フンディン: 知らないほうが… いいのかもしれない

スキールニル : そうだな
スキールニル : だけどこのまま帰って
スキールニル : お前やっていけるのか?

フンディン: ……

スキールニル : 鍛冶師になるんだろ?

フンディン: なるさ!

スキールニル : んじゃいこうぜ


*言われたフンディンは落とし戸を開くと、その中に下りていった。

スキールニル : って思い切りのいいことだね

*スキールニルたちも後を追って、下におりる。

●最後の真実

*地下室は、ドワーフが作り上げたものらしく今もしっかりとその姿を留めている。まっすぐ続く通路と両側の扉。一番奥にも扉がある。

フンディン: ……
フンディン: あの跡…

スキールニル : いやな雰囲気だ


*奥の扉から手前の扉へと、点々と染みのようなものが続いている…。

アル: 血だな

フンディン: 血…?!


*近寄ってよく調べてみても、やはり血痕だと思えた。

スキールニル : あの亡霊はここで死んだのかもしれない
スキールニル : 俺たちに何か言いたいのかもしれないぜ
スキールニル : というかフンディンに・・・かな


*フンディンはふと気配を感じて顔を上げた。南側の奥の部屋の扉が少し開いている…。誘われるようにその部屋に入った。室内にはいろいろなものが散乱しているが、床に落ちている子供のおもちゃを手にとって見る。そこには幼い字で「ムンディン」と書かれていた。

エル: これは

フンディン: これ…
フンディン: 名前が・・・

スキールニル : 名前が書いてあるな


*近くに落ちていた別のおもちゃを拾ってみるとそちらには「ミョルニル」と書かれていた。

フンディン: *涙がぽろぽろ
フンディン: やっぱり…
フンディン: でも・・
フンディン: でもなんで父上と叔父上のいた家に
フンディン: 血が…

スキールニル : こんなおもちゃ・・・おれはガキのころ存在すら知らなかったな


*再び気配を感じてフンディンは廊下に出る。すると、隣の部屋の扉が開いているようだ。血痕の続いている部屋へは鍵がかかっているようで入れないため、その部屋に入る。部屋にはたくさんの本棚と書物があり、それらはほぼ鍛冶に関する本とルーンクラフトに関する本しかない。

フンディン: ……
フンディン: ルーンクラフト… お師匠様の仰っていた通りだ

スキールニル : 珍しい本みたいだな

フンディン: 武器に魔法を付加する技は
フンディン: ずっと昔に失われて


*フンディンが言いながら熱心に本を見ていると、今度はスキールニルが気配を感じて振り向いた。すると血痕の続いている部屋の前に亡霊が立っていた。スキールニルと目が合うと、そのまま消えてしまった。

スキールニル : 消えた・・・

*スキールニルが扉の前に行く。スキールニルが部屋を出て行ったので、他の面々も後を追った。

スキールニル : ここにたってた

フンディン: 鍵… 開いてる?!


*先ほどまでは鍵がかかって入れなかった扉が、今は開いていた。そして扉を開くと、そこには…

フンディン: ああ…
フンディン: ああ…!


*大きな血痕の染みの中に、白骨化したドワーフの死体があった…

スキールニル : ここで死んだんだな・・・
スキールニル : ちゃんと埋葬してやらなきゃな

フンディン: なにが…
フンディン: なにが…あったんだ…
フンディン: ……

スキールニル : ちょうどいい聖水で清めておこうか

フンディン: ………

スキールニル : 成仏しなよ

アル: ふむ…


*部屋の本棚から、ばさっと本が落ちた。フンディンは慎重に拾ってそれを読む。横から仲間たちも覗く。

これは普通の本で、日記が書かれている。著者の名前は書かれていない。
内容は、弟の兄に対する複雑な思いと、家族との苦悩が書かれている。

「確かに、父は兄を後継者に決め、一族が伝えてきた全てを兄に受け継がせた。だが俺は…俺だって一族の血は受け継いでいるんだ。兄の助手でもなければ小間使いなんかじゃない…」

「兄は今日も仕事場に篭ったまま、食事も忘れているようだ。まったく困った兄だ。俺がしっかりしなきゃ…。父も俺に”フンディンを助けてやってくれ”と言っていた。父は兄がこういう性格だっていうことを見抜いていたんだろう。兄を守る事は、俺なりに一族の受け継いできたものを守る事になるんだ。」

「たまに、仕事場に行っても兄がいない事がある。仕事場にいるはずなのに…。そういえば一族の秘宝も秘儀を記した本もどこに隠してあるんだろうか。俺にも教えてくれない秘密の部屋があるのかもしれない。」

「今日も、俺がちょっと家に戻っている間に兄がいなくなっていた。後で問い詰めると、気にするなと言う。あいつは俺の努力がわかっているのか?俺がいなくなったらどうなると思うんだ?感謝の言葉の一つもない上に、たった一人の弟の俺にも教えない秘密を持っているっていうのか?俺は信用されてないのかな…」

「妻が、俺がムンディンばかり可愛がって実の息子ミョルニルに気を配らないと叱責してきた。そんなつもりはないのだが…妻は兄を邪魔者と思っているふしがある。だからムンディンにも辛く当たっているんじゃないだろうか。妻は一族とは無縁の者だから、俺達が大切にして来たものがわからないのだ…」

「兄のこと、家族のこと、俺がしっかりしなければ…俺がうまくやらなければ…」

「今日どうやったのかわからないが、ムンディンが仕事場に忍び込んでいた。兄に見つかる前に家に帰した。」

「兄も妻も家も、俺に流れる一族の血も全て消し去って、どこかで一人自由に生きられたら…そんな夢を密かに抱いている。でもそんなことはできないこともわかっている。」

「兄が、ついに一族の秘儀を行う時が近いと俺に告げた。聞いた時はうれしかった。兄がどんなものを作り上げるのか楽しみだった。しかし今、これを書いていて思うのは不安な気持ち…言い伝えによれば秘儀は最高のものを作り上げることが出来るが、二度と同じ高みにあるものを作れなくなる、それゆえにニ度と槌は持たなくなるという。兄がもし鍛冶を捨てたら…その時俺の家族は…どうなる」

「兄が秘儀のために、仕事場に篭って3日が経った。そろそろ完成している頃だと思う。ムンディンが寂しがって騒ぎ立てるので、明日になっても戻ってこないようなら、途中の道でムンディンを連れて待ってみることにしよう。」

日記はここで終わっている。


スキールニル : 弟のほうってことはニルディン?

フンディン: なんだか…
フンディン: おかしく…なりそう…だ…

アル: ?
アル: また出た


*今度は、アルの目にもはっきりと亡霊の姿が見えた。そして、一番奥の扉の前に立って一行を待っている。

フンディン: …………

スキールニル : 何か伝えたいんだろうな
スキールニル : フンディンお前が聞いてやらないと


*フンディンが近づくと、亡霊はやはりふっと消えてしまった。同時に、扉がすっと開いた。

フンディン: あ…
フンディン: ああ…


*その部屋は倉庫だったようだ。そしてそこには、大きな血痕の染みの中にドワーフの白骨化した死体。その手には…見たこともないような神々しい(とフンディンには思える)直剣が握られている。

フンディン: ………

*ショックのあまり、フンディンはその場に崩れ落ちた。そのおかげで、床に書かれた最後の言葉を見つけることができた。

フンディン: 血文字が…
フンディン: 「おれは なんてことを」
フンディン: …………


*フンディンの目から涙が溢れ出す。

スキールニル : 何があったんだ・・・

フンディン: スキーニー…
フンディン: これはさ…
フンディン: この人は
フンディン: 大叔父上なんだ

スキールニル : ああ・・・なるほど

フンディン: ううっ…


*この遺体はフンディンの言うようにニルディンである。ニルディンの部屋(と一行が思ったところ)にあったのは、彼の妻の遺体であった。そしてニルディンであった白骨が握っている剣こそ、大フンディン最後の作品…

大フンディンが最後に作り上げた武器は、一族の秘儀とそれをもたらした大フンディンの技術によって、伝説に謳われるであろう力を持ったものとなった。

それ自体が鋭い刃を持つ短剣で、その輝く鏡のような刃を覗き込むと、あなたの心に秘めた殺意、恨み、敵愾心を刺激する…

あなたには叶えられない復讐、実行できない殺意、乗り越えられない強大な敵…それらを打ち倒す事を可能にする力を、この武器が与えてくれるであろうことをあなたに確信させ、秘めた思い、忘れていた恨みを思い出させる。

全てはこの武器のもつ魔力によるものではなく、単に強力で純粋すぎるこの武器にあなたたちの意思が惑わされているのだ。強い意志を持っていれば、この剣は単に素晴らしい武器にしか見えない。

この武器本来の力は、使い手の闘争心や殺意によって力を変え、様々な力を発現させる。(DM:ちなみにショートソード+3で、あらゆる武器強化系呪文を無制限に使えます。それによって、この武器の特性を表現しています)


エル: なんという輝き

アル: …
アル: この武器…
アル: この武器さえあれば
アル: 俺は俺は


*エルは純粋に剣の美しさに魅入っていたが、アルの目にはまた違った光が宿っていた。

スキールニル : アル落ち着けよ
スキールニル : この骨を見ろ
スキールニル : この骨を


*しかし、アルは剣から目を離そうとしない。スキールニルはアルの頬を張った!

スキールニル : 忘れたのか・・・
スキールニル : フィオールに助けられたってことを
スキールニル : 見ろよ
スキールニル : この次元で最高の武器のひとつだろうケド
スキールニル : それを握ったこいつは
スキールニル : ここで骨になってる
スキールニル : コイツの人生は一体なんだったんだ

アル: だから?
アル: 俺はこれを手に入れるために生き残ったのかもしれない

スキールニル : 純粋な力・・・だが大きすぎる力だよ
スキールニル : あいつみたいになりたいのか?

エル: 兄者、武器なんか使わないだろ

アル: 俺は…


*スキールニルは、王殺しを知っている。王殺しはスキールニルの腕を導き、ギルフォスの急所を狙わせていた。まるで斧そのものが殺意を持っていて、スキールニルはそれに従っていたような感覚を今でも覚えている。だがこの剣は違う。それよりももっと恐ろしいものだとスキールニルは思った。

スキールニル : コレは危険な代物だ
スキールニル : 純粋で・・・意思を持たない
スキールニル : この武器は鏡なんだ
スキールニル : 使い手の意志そのままさ

フンディン: まるで自分は
フンディン: ぜんぜん興味がないみたいに聞こえるけど
フンディン: それじゃあスキーニーはこの武器が欲しいなんて寸とも思わないの?

スキールニル : いろいろことがあったな
スキールニル : 一言じゃいえないくらい

エル: スキーニーは大剣しか興味ないのだろう

スキールニル : ああ・・・俺はこれはいらない
スキールニル : 何でかな
スキールニル : コレがあれば望んだだけ・・・それ以上に強くなれるのにな

アル: 強く
アル: ヤツよりも…強く

スキールニル : だがムンディンの武器にまつわる悲劇をたくさん見てきた
スキールニル : たかが武器のために人が辛い目を見るなんて・・・

アル: 俺は…


*フンディンは、この真実に押しつぶされそうだった。スキールニルは目の前にある恐ろしい武器から一瞬、目を離した。エルには予想も出来ない事だった、彼には必要のないものだったから。だからアルが動いたとき、それを止められる者はいなかった。

フンディン: !

スキールニル : あ!!


*アルは大フンディン最後の武器をその手に掴んだ。そして走り去った。

フンディン: アルドリックさん!
フンディン: アルドリックさん!!

スキールニル : あいつ・・・
スキールニル : アル!!


*仲間たちは、アルの後を追った。

●アルドリック

*逃げたアルだったが、谷を上がったところで追いつかれてしまった。

アル: はぁはぁ…

スキールニル : アル・・・・

フンディン: アルドリックさん…!

アル: 来るな
アル: 来るな

エル: おい、兄者
エル: 冗談はそれくらいでいいよ、笑えないぜ

スキールニル : 落ち着けよ・・・

アル: それ以上近寄るなら
アル: 例えスキールニルでも俺は
アル: 俺は


*アルは剣を構えた。

エル: おいおい本気か

フンディン: その剣で…
フンディン: アルドリックさん、なにをするつもりなんです

スキールニル : お前あいつみたいだぞ・・・
スキールニル : あの娘を殺した男のように・・・なっていくのか

フンディン: アルドリックさん
フンディン: 教えてください
フンディン: その剣で何をするんです?!

アル: 決まってるじゃないか!


*剣が、アルに答えて力を発揮する。黒い炎が伸びて刀身と化す。

アル: やるのさ…ヤツを

エル: うへ
エル: 兄者が敵うわけないだろ

フンディン: 奴…
フンディン: ギルフォスさん…ですか…

スキールニル : 追放者の最後の末裔だな

エル: やめろよ、なんとか命を取り留めたっていうのに

アル: 今の俺なら
アル: いや、この武器ならやれる!

フンディン: その剣なら…
フンディン: 敵うかもしれない
フンディン: エルドリックさんにはわかりませんか
フンディン: あの剣はどんな鎧だってつきとおしてしまう


*エルには剣のことはわからなかったかもしれないが、アルのことならわかるはずだった。しかし今、兄から伝わってくるのは復讐心だけだ。

エル: 兄者、完全に自分を失っちまった
エル: スキールニル、ちょっと一発殴ってやってくれよ

フンディン: そんなに…
フンディン: そんなにフィオールさんのことが…

アル: フィオール…

スキールニル : アル

アル: フィオール…う…

スキールニル : 今のお前はアルじゃない・・・
スキールニル : あの優しいお前は何処にいったんだ?

アル: 優しい?
アル: 俺が?

スキールニル : ああ

アル: お前、俺の何をみていたんだ?
アル: 俺は子供の頃から…

スキールニル : 子供のころから、なんだ?

アル: いや…
アル: 力のあるお前には言ってもわかるまい

スキールニル : 俺がか?!

フンディン: ……

アル: とにかく俺はこの武器で…ヤツを殺す

スキールニル : それでそのあとどうするんだ?

アル: その後なんてしるか!
アル: 生きてるかどうかだって分からない
アル: 例えこの剣がヤツの鎧を切り裂いても
アル: ヤツの剣も俺を切り裂くだろう

スキールニル : それを彼女が望んでいると思うなら・・・
スキールニル : 俺はもう止めない

フンディン: スキールニル!
フンディン: いいわけないだろ!

スキールニル : お前はもうアルじゃねえ

アル: ふっ違うね
アル: お前が本当の俺をみていなかっただけさ

スキールニル : 本当のお前ってなんだ
スキールニル : お前こそそんなものわかるのか?

アル: さあね?

エル: そもそもどんな切れ味の剣でも、使い手が兄者じゃ
エル: 意味はない
エル: もうやめろよ

アル: 確かにそうだよな、エル
アル: お前くらいの力がないとな
アル: さて…
アル: そろそろ行くよ


*話は終わりというようにアルが立ち去ろうとした時、フンディンが立ちはだかる。

フンディン: だめです!

アル: 邪魔するのか?

フンディン: 誰かが誰かを殺して
フンディン: それでどうにかなるなんて…
フンディン: 絶対におかしい!

スキールニル : あいつが死んでも
スキールニル : 彼女は戻らないんだよ

エル: 今の状態で話しても無駄だ
エル: 兄者の心はどす黒い復讐の炎で一杯だ

アル: それじゃ何故フィオールは死んだ?
アル: スキールニルを…守って

フンディン: それは…

スキールニル : そうだな
スキールニル : お前は俺が死ぬべきだったと思うのか
スキールニル : 俺も何度そう思ったか知れないぜ

アル: いや
アル: それじゃフィオールが可哀想だ
アル: お前は生きるんだ
アル: そして強くなれ

スキールニル : お前ならいいのか・・・

アル: もっともっと

スキールニル : そんなわけないだろう!

アル: そうかもしれない
アル: 彼女は喜ばないだろう

スキールニル : 俺には家族はねえ
スキールニル : しいていえば・・・お前らが
スキールニル : ・・・兄弟みたいなもんさ
スキールニル : そろって故郷へ戻る気はないのか?

フンディン: スキーニー… あんたは自分が一人で生きてきたと思ってるかも知れないけど
フンディン: そんなの思い上がりだ!
フンディン: どうして王殺しが自分の手に渡ったと思う…?
フンディン: 考えたこともなかったのかい

スキールニル : なかったね

フンディン: あれはね…
フンディン: 叔父上が、スキーニーに渡すようにと
フンディン: わたしに託したものなんだよ!

スキールニル : 何のためにだ・・・?

フンディン: 決まってるだろう!
フンディン: 息子だからだ!
フンディン: 誰だって一人じゃ生きてないんだ
フンディン: みんな関わりあって生きてるんだよ
フンディン: それを壊すようなことは… 間違ってる!

スキールニル : フンディン
スキールニル : お前はどうするつもりなんだ?
スキールニル : あの武器をどうする?
スキールニル : そしてお前は
スキールニル : どんなものを作るんだ?

フンディン: アルドリックさん…
フンディン: こうなってしまったのは
フンディン: わたしにも責任のあることかも知れない

アル: 責任?

フンディン: いつも自分のことだけで手一杯で
フンディン: 一緒についてきてくれている皆のことなんてこれっぽっちも考えなかった
フンディン: アルドリックさんがあんなに苦しんで、悩んでいたのに…
フンディン: わたしは言葉のひとつもかけてやれなかった

アル: それでいいじゃねえか

フンディン: アルドリックさんが死んでしまったら…
フンディン: 悲しむ人がここに少なくたって三人はいるんだ
フンディン: それにお父さんとお母さんだって悲しむ
フンディン: ギルフォスさんだってそうだ
フンディン: オーレンさんは…ずっと長い間あんな寒い場所で…一人で…

スキールニル : フィオールが一番悲しむよ

フンディン: これ以上誰かを殺したり
フンディン: 誰かが死んだり
フンディン: そんなこと絶対にさせない!

アル: だから放っておけと言うのか?
アル: あの男を放っておいたらこの先何人死ぬんだ?

フンディン: 放っておけなんて言ってない
フンディン: 間違いは正す必要がある
フンディン: でも誰だってやり直さなくちゃいけないんです
フンディン: ギルフォスさんを止めるなら
フンディン: そんな武器に頼ったらいけない
フンディン: スキーニーだってそれがわかってるんだ
フンディン: いつも…あんな風に
フンディン: 他の人に対して何かをいったり、やったりはしてくれないけど

アル: 俺は…俺は…

フンディン: どうしてもここを通るっていうのなら、アルドリックさん
フンディン: その剣でわたしを突いてからだ


*フンディンは一歩前に出る。

スキールニル : フンディン

*スキールニルも出ようとするが、フンディンがそれを制した。そして一歩ずつアルに詰め寄っていくフンディン。

フンディン: その剣を見て…
フンディン: アルドリックさんを見て…
フンディン: 亡くなった祖父上、大叔父上を観て
フンディン: ようやくわたしにもお師匠様のおっしゃられていたことがわかりました

エル: 兄者、もうわかったろ

スキールニル : アル・・・

フンディン: いいかい、アルドリックさん
フンディン: この鎧は
フンディン: わたしの知る限りレルムで最高の腕を持つ鍛治師
フンディン: ガーリン・アイアンフォージが
フンディン: 生涯をかけてたどりついた一つの結論から作り出した
フンディン: 最大最高の傑作
フンディン: オッドアイだ
フンディン: 守るための鎧…
フンディン: 殺すための剣…
フンディン: どちらが強いか

アル: 来るな…

フンディン: さあ!


*フンディンはアルの剣の握り手を掴んだ。そして躊躇うことなく、それを自分の鎧…オッドアイに突き立てた。

エル: おわあ

フンディン: …っ…


*剣はあっさりとオッドアイを貫いた。フンディンの身体に刃が滑り込む感覚がアルの手に伝わる。一瞬、時が止まったかのように全員がその場に凍りつき、ただ剣を伝うフンディンの血だけが動いていた。それはゆっくりと剣を伝い、アルの手に達した。

アル: うおおおおおおおお

*アルは剣を落として、苦しむように頭を抱えた。

スキールニル : おいフンディン!
スキールニル : この馬鹿やろうが


*スキールニルはフンディンに駆け寄る。

フンディン: ば…ばか…
フンディン: わたしのことより…
フンディン: やることが…
フンディン: あるじゃ…ないか…!


*アルのほうはエルが見ていた。

エル: 大丈夫だ、兄者ならもう平気だ
エル: 感じるんだ


*エルはフンディンのところに戻ってきて、傷の様子を見て手当てする。

スキールニル : 助かるか?

エル: もう大丈夫だ
エル: ありがとう、フンディン
エル: バカな兄貴を助けてくれてありがとう


●継承

*アルは一人、立ち尽くしていた。

スキールニル : アル
スキールニル : 一人で行こうとするな
スキールニル : やつに挑むときは
スキールニル : 二人で挑む
スキールニル : もしかしたらあそこの物好きも二人
スキールニル : 加わるかもしれない

アル: ………
アル: フンディン…すまない
アル: 俺は…

エル: フンディン、これを


*エルが剣を拾って差し出す。フンディンはそれを慎重に包んで荷物にしまった。フンディンはふらふらと立ち上がって、オッドアイを調べてみた。

フンディン: 祖父上の剣… 思っていた以上に鋭かったみたいだ
フンディン: 鎧を突き通してこんなに大きな穴が…

スキールニル : 生きてただけもうけもんだ
スキールニル : 無茶しやがって

フンディン: …
フンディン: …あれは…


*フンディンは、祖父の工房に入っていく亡霊を見た。傷を抑えたまま、だっと駆け出す。

フンディン: まってください!

*洞窟に飛び込むフンディン。亡霊は、何もない壁に向かって、フンディンに背を向け立っている。

フンディン: あなたは…!
フンディン: ……
フンディン: あなたは…


*亡霊は壁の中にすっと消えていった。フンディンは駆け寄って、壁を調べてみるが何も見つからない。フンディンが必死になって壁を探っていると仲間たちも追いついてきた。

フンディン: なにか・・

スキールニル : 何してんだ

フンディン: この壁…
フンディン: なにか…
フンディン: なにかあるはずなんだ


*仲間たちも手伝って探してみるが…

スキールニル : なんもないぞ

*が、アルは岩の陰に取っ手があるのを発見した。(ここに来て一人だけ成功)

アル: どけ

*アルはフンディンをどかすと、その取っ手を引っ張った。すると一人通れるほどの隙間が壁に開いた。その向こうはまた小さな部屋になっているようだ。

フンディン: !!

*フンディンはその部屋に飛び込んだ。小さな空間だが、そこには確かに鍛冶の道具が一通り揃っている。ここが真の、秘密の工房なのだ。そして、亡霊が立っていた。その足元には白骨があった。

フンディン: これは…
フンディン: あ…あなたは…
フンディン: 祖父上……


*亡霊は、黙ってその白骨を指差した。

フンディン: 祖父上なのですね!
フンディン: わたしは…
フンディン: ムンディンの子です
フンディン: ムンディンの子フンディンです!!

スキールニル : 彼は知ってるさ


*亡霊は、フンディンを見てうなずく。

フンディン: 祖父…上…
フンディン: ああ…


*亡霊は地面に落ちている羊皮紙を指差し、それから部屋に置かれた宝箱を指差す。そしてフンディンを見て、深くうなずいた。

スキールニル : 彼の望みを・・・かなえてやれよ

フンディン: わたしに…
フンディン: 槌を取れと…
フンディン: そう仰るのですか… 祖父上…


*亡霊の姿が揺らいで、かすかな光を放ちながら消えていく…。その顔には安らぎが見えた。

フンディン: 祖父上!
フンディン: うっ…ううっ…


*フンディンは涙をぬぐって羊皮紙を見た。それは大フンディンの最後の言葉だった。

羊皮紙に走り書きされたもの。この羊皮紙は普通のもので、手に取ると崩れてしまいそうだ。

「ハンマーは儀式の時にのみ使え…
 本には名前を…

 願わくば神よ これが我が子孫のもとに
 一族以外のものの手に渡れば呪いを」


フンディン: こんなことって…

*だがフンディンは、祖父の願いをかなえなければならない。立ち上がり、宝箱を開くと、そこには一振りの見事なハンマーと一冊の本が収められていた。

フンディン: …………
フンディン: (本…開かない…
フンディン: (まだその時ではないと… 


*フンディンはその二つを大切に抱きしめた。

エル: フンディン・・・

フンディン: しばらく…


*と、フンディンはそれだけ言った。仲間たちはフンディンを一人残して部屋の外で待つことにした。

フンディン: 祖父上… 祖父上…

「我が子孫よ…」

*ふと、声が聞こえた気がしてフンディンは顔を上げた。

フンディン: …?

「あの剣はわしが辿りついた一つの答え、しかしそなたには別の答えがあるやもしれぬ」

*今度はよりはっきりと聞こえた。

フンディン: 祖父…上…?
フンディン: どこにおられるのです?!
フンディン: このフンディンに…どうかお姿を…


「そなたがそれを見出すとき、その一族の宝が、そなたを導くだろう」

フンディン: 答え…

「わが子孫に、それを残せてよかっ…た…」
「さら…ば………」


*そして声は聞こえなくなった。

フンディン: うっ…うう…っ
フンディン: うわああああああ!
フンディン: うっ…ううっ…
フンディン: 祖父上… 祖父上…!


*フンディンは、遺骨に突っ伏して声が枯れるまで泣いた。涙で過去の全てを洗い流そうとするかのように…。


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