ドワーフクエスト
第八章 秘密の工房
「ニルディンの小道」


●地上へ

*バーミル・スラルレオにあったドラゴンのホールから、宝石の扉を選んで進んできた一行。途中、特に方角を変える分かれ道のないまま2日ほどトンネルを旅してきた。

フンディン: だいぶ歩いてきたけど…
フンディン: まだ先は長いのか?

スキールニル: そんなのしらないよ

エル: 帰りも大変だぁ


*が、やがて石造りの扉に行き当たる。扉を開いて中に入ると井戸の底のような、石組みの筒状の部屋だ。

フンディン: …

*中央には機械式のリフトがあり、天井の穴から上の階層へと続いているように見える。手入れはされていないため修理が必要だが、手持ちのロープなどを使用することで動かせそうだ。

フンディン: 上へ向かっているみたいだ
フンディン: もしかして
フンディン: ここに乗って上り下り?

アル: へええ

スキールニル : 面白い装置だな


*リフトを修理して動かしてみる。リフトはゆっくりとだが、かなりの距離を上に上がっていく。地下になれた一行には、地上に出る感覚があった。

フンディン: !

アル: やっと出口か


*そこはドワーフサイズの小さな建物の中と思えた。一行の感覚はすでに地上だと告げている。

アル: 暗いな

フンディン: これは…


*部屋にある石製の扉は、フンディンの持ってきたバーミル・スラルレオの鍵で開きそうだ。フンディンは扉を開く。久々の地上の光が一行の目を焼いた…。

●その村の最後の夏に

フンディン: ここは…

スキールニル : 地上だ


*石造りの建物から外に出た。しばらく光に目が慣れるのを待ってからあたりを見回してみる。出てきた建物は半ば地面に埋もれてしまっていて、祠とか遺跡とかいう言葉が似合いそうな外見だ。他の建物は人間かエルフのサイズで、視界内には数件が見える。見たところ、人間の村だと思えるが…周囲に人影はない。

スキールニル : 誰もいないんだろうか

アル: やれやれ

フンディン: そこまで遠くには来ていないはずだけど…


*北の方角に目をやると、スパイン山脈が圧し掛かるようにそこにあった。地下を移動してきた方角や距離からして位置的にはシルバーマーチか、人間たちがサヴェッジフロンティアと呼ぶ地域だと思える。北方の短い夏の季節で、雪はすでになく風は心地よい。一行は村を散策してみたが、すでに数年は放置されたと思える家もあって人の住んでいる気配はない。すでに放棄された農村、といったところか。

フンディン: 誰もいない
フンディン: あれ?

アル: ん?

フンディン: アルドリックさん、あれ

アル: 人間か?


*村を散策する一行の前に、少女がいた。手には集めた花を握り締めており、目がこぼれ落ちそうなほど大きく見開かれている。一行と遭遇した事に相当驚いているようだ。身動き一つしない。

フンディン: こんにちは

エル: 子供のようだ


*少女はしばらく一行を見つめていたが、やがてショックから立ち直ると…

少女: おじさんたち…どこから来たの?

フンディン: おじさん…

エル: 人間は短命だからな

少女: もしかして、遺跡から出てきたの?

フンディン: 遺跡?

少女: そうなのね?

フンディン: うーん…

エル: 遺跡だろうね

少女: 村のそこにある…祠みたいなところ


*少女はフンディンたちの出てきた建物を指差す。

フンディン: 遺跡というのがどのことを示しているのかはわかりませんが
フンディン: あそこから
フンディン: やって参りました

少女: !
少女: すごいわ!おとぎばなしは
少女: 本当だったのね


*少女は目を輝かせると飛び跳ねてフンディンの腕を掴む。

フンディン: ??

少女: 来て、あたしの家に招待しなきゃ


*少女に引っ張られるままにフンディンが着いて行くので、一行も後に続く。

フンディン: おじょうさんはこの辺りにおすまいなのですか?

*しかし少女は興奮した様子で一心に歩いており、フンディンの言葉は聞こえていないようだ。やがて一軒の家までやってきた。この家にはまだ生活感があるが、家の入り口にある荷馬車には家財道具などが積まれている。

フンディン: …

少女: 入って

フンディン: おじゃまします


*一行は家に入った。典型的な人間の農家である。

お父さん: ?
お父さん: リコ、知らない人を入れちゃ駄目じゃないか!

フンディン: お邪魔します
フンディン: 私、フェルバールはムンディン・アイアンビアードの息子フンディンと申します
フンディン: そちらのお嬢さんにご招待されまして
フンディン: こうしてお邪魔させていただいた次第です

アル: はじめまして、人間

お父さん: あんたたち、なんなんだ?

フンディン: いえ、ですから…

少女: この人たちは、遺跡から出てきたの
少女: 言い伝えは本当だったのよ。あそこからお髭の人が出てきて、幸せにしてくれるって

お父さん: …

スキールニル : なんだその言い伝えは

フンディン: ??

お父さん: 本当に、あそこから出てきたんですか?
お父さん: そうですか…俺もおとぎばなしだと思ってた


*少女(リコというらしい)の父親もやはり驚いた様子で、少し考えたあと…

お父さん: ちょっとここで待っていてください
お父さん: じいさんを呼んでくるんで

フンディン: ???

スキールニル : 何がなんだかさっぱりだな

アル: 多分、あの上下する板の所為で
アル: 上からは下に降りられなかったんじゃないか?

フンディン: どういうことです?

アル: 上からは行き止まりに見えてたって事じゃないかな?

スキールニル : なるほど


*しばらくして、老人が父親と共に奥の部屋から出てきた。事情は聞いているらしいが、やはり目を丸くしている。

おじいちゃん: これはこれは…
おじいちゃん: ドワーフの方があそこからやってくる。言い伝えは本当じゃった

フンディン: はじめまして
フンディン: フェルバールはムンディン・アイアンビアードの息子フンディンと申します
フンディン: こちらは従兄弟のスキーニー
フンディン: それに友人のウッズタイガーの双子です
フンディン: お邪魔しております

エル: どうも

おじいちゃん: わしはマゾル・マーダック

アル: マーダック
アル: 聞いたことが有るぞ

スキールニル : どっかで聞いたような名前だ

フンディン: マーダック?

おじいちゃん: この村の村長をしております…といっても、今はわしらの家族しかいませんがな

スキールニル : それじゃあ村長じゃないじゃないか

アル: ムンディンさんが言ってたんだったか?
アル: それとも図書館で見付けたんだっけ?

フンディン: マーダック!
フンディン: これだよ!


*フンディンはムンディンの手記を取り出してページをめくって見せた。(第一章参照)

フンディン: そ、それじゃあもしかして…

おじいちゃん: …?

フンディン: ムンディンという名に… 聞き覚えはありませんか?

おじいちゃん: さあ…それは知りませんが
おじいちゃん: どうやら、そちらも事情がよくわかっていないようですな

フンディン: は、はい…

スキールニル : さっぱりだね

おじいちゃん: あなたたちにとっては、おそらく1.2世代の話でしょうが
おじいちゃん: わしらにとっては、古い言い伝えや伝説になるような古い話なんです

フンディン: …

おじいちゃん: ゆっくり、話しましょう。適当にくつろいでください

アル: つまり大フンディンが何か約束したって事か?

フンディン: …


*一行は勧められるままに椅子に腰を下ろす。少し考えをまとめてから、老人は語り始めた。

おじいちゃん: この村は、マーダック村と申しますが
おじいちゃん: 元々は、名もない農村でした。
おじいちゃん: この村を大きくした農家の名前を取って
おじいちゃん: 昔、マーダック村という名前になったそうです
おじいちゃん: わしら一家は、その子孫ということになりますな

スキールニル : その人のことだろうか
スキールニル : ムンディンが話してたってのは

フンディン: …

おじいちゃん: 言い伝えには、まず、わしらはあの遺跡からドワーフの方がやってきたときにしなければならない
おじいちゃん: ことが伝えられています

フンディン: しなければならないこと…?

おじいちゃん: それは、のちほど、息子にやらせましょう。

フンディン: …

おじいちゃん: 村は、ドワーフのある方…名前は伝わっておりませんが
おじいちゃん: その方とマーダックが出会い、ある取引をしたことから
おじいちゃん: マーダックは富を得て、この村を大きくして参りました

スキールニル : それにしちゃ今は随分とさびしいんじゃないか?

エル: うん

アル: 取引が
アル: なくなったからだろうな

フンディン: いまは黙って聞こうよ、スキーニー

おじいちゃん: ええ…ある時から、あの遺跡からドワーフが出てこなくなったから…と聞いていますが

スキールニル : みんな死んだわけだからな・・・

おじいちゃん: わしらはドワーフが出てきたところを見たことがありません。わしのじいさんも見ていないと言っていましたから
おじいちゃん: 本当のところ、信じてはいなかったんです
おじいちゃん: あの遺跡からドワーフがきて、わしらは約束どおりの事をする、するとドワーフがお礼に富をくれると
おじいちゃん: そういう内容でしたから、おとぎばなしみたいでしょう?

アル: そうだね

フンディン: …

スキールニル : 面白い話だね

おじいちゃん: 取引というのは
おじいちゃん: あの遺跡からドワーフが出てきたり、あの遺跡に滞在することを公言しないという事と
おじいちゃん: 宿を求められたら黙って泊めるという事
おじいちゃん: そしてもう一つは、求められたらある洞窟に案内するということです

アル: ふむ

フンディン: 洞窟…?!

アル: その洞窟が多分…

おじいちゃん: 洞窟の中にある扉の鍵はわしらに預けられていて
おじいちゃん: それをしっかりと守り通すというのも約束でした。かわりに礼はすると。
おじいちゃん: 詳しくは、そういう内容なのですが
おじいちゃん: そこまで覚えているのはおそらくわしくらいのものでしょう

アル: 礼になるような物、持ってるか?

スキールニル : 結構分捕り品があるぜ

アル: いや多分あの鉱石やあの鉱石の事何じゃないかな?
アル: まぁ売って金になるものなら何でもいいんだろうけど

フンディン: …

おじいちゃん: 他の皆は、どう伝わったのかさっきお話したような
おじいちゃん: おとぎばなしとして覚えているようです

スキールニル : まあ昔の話だからね

おじいちゃん: ですが
おじいちゃん: さきほども話したように、ドワーフが出てくるのは何年もありませんでしたから
おじいちゃん: 厳しい環境のこの場所で、農村を続けていくのも限界が来て
おじいちゃん: 一人、また一人と村を去っていったのです

スキールニル : なるほど

おじいちゃん: 今日は、みなさんがいらっしゃったのは本当に運命としか思えませんな
おじいちゃん: わしら一家も冬が来る前に、ここを離れることに決めたところです

フンディン: …

アル: そりゃ残念だね

おじいちゃん: ですがその前に、わしの代で古くからの言い伝えを果たせるのは、うれしいことです

スキールニル : ふーむ

おじいちゃん: ささ、どうなさいます。休んでいかれるか、洞窟に向かうか…遺跡に寝泊りするならそれでもいいでしょう
おじいちゃん: 洞窟までは、わしにはつらいので息子に案内させます

フンディン: わかりました
フンディン: どうします?


*と、フンディンは仲間に問う。

スキールニル : 礼には何をわたせばいいだろう?

アル: 人間の利益になるような物って何だろうな?

スキールニル : その取引がなされたのも俺達が生まれる前だしね

エル: 宝石とか少しはあるけど

おじいちゃん: お礼など…いりませんよ。古い言い伝えですし
おじいちゃん: あなたたちもそれを知ってきなすったわけではなさそうですし…準備しておらんでしょう

フンディン: とりあえず… 少し休ませて頂いてもよろしいでしょうか?

おじいちゃん: どうぞ。ベットはもう家族の分しかありませんので
おじいちゃん: この居間でご自由に

フンディン: いえ、ここでじゅうぶんです
フンディン: はい
フンディン: ではご厄介になります

アル: そうだね、洞窟の中身次第かな?

スキールニル : まあ心づけとおもって
スキールニル : 受け取ってくれ


*スキールニルは少女に宝石を渡した。

少女: きれーい。もらっていいの?

スキールニル : ああ やるよ

少女: やった

お父さん: こら

少女: やった、キレイキレイ
少女: おかーさん、これ見て

お父さん: …

スキールニル : ちゃんと加工してないから
スキールニル : 腕のいいドワーフをどこかで見つけるといいぜ

エル: 酒があると嬉しいけど
エル: ま、しょうがない

スキールニル : 水で充分さ


*アルが酒を差し出す。

エル: ありがとう兄者

スキールニル : ・・・・この酒どこから持ってきたんだ?

アル: ミラバール

スキールニル : ぶへ
スキールニル : なんだこりゃ
スキールニル : こんなのエールじゃないぜ・・・

お父さん: もし食い物とか必要なら、少しはたくわえがあるから家内に聞いてくださいよ

スキールニル : そうさせてもらうよ

アル: そうだなぁ

お父さん: 俺は、引越しの片づけがあるから外にいます

アル: 帰りの食糧が困るな

スキールニル : 少し分けてもらおう


*アルは台所に行き、母親から保存食を少し分けてもらった。(もちろん代金は払って)

アル: ありがとう
アル: 保存食を少し売ってもらったよ


*というような事をしている間に日も傾いてきた。スパイン山脈のために、かなり早い時間に陰ってしまう。ずっと気を張り詰めていた一行は、ひさびさの暖かい部屋で、今日はこのまま休ませてもらう事にした…。

●ムーンウッドの森

*翌日。

エル: ふぁああー
エル: おはよう

フンディン: ん…
フンディン: おはようございます

アル: おはよう

スキールニル : 洞窟だ洞窟だ


*マーダック家の人間は朝が早い。食事の支度やら何やらでもう動き出している。一行もそれぞれ食事を取り、さっそく旅支度をする。

フンディン: おはようございます
フンディン: 昨日はおかげさまで
フンディン: 気がついたら朝になっていました

おじいちゃん: おはようございます

アル: おはよう

フンディン: ではさっそくですが…

おじいちゃん: はい

フンディン: 洞窟へ案内願えませんでしょうか

アル: あんまり長居しても悪いしね

おじいちゃん: そうですか、わかりました


*老人は彼の息子に目で合図を送る。

お父さん: 俺がいけばいいんですよね

おじいちゃん: うむ、狼に気をつけてな

お父さん: 分かってますよ、父さん


*老人は鍵を渡した。

スキールニル : 狼が出るのか

お父さん: じゃあ、ちょっと行ってきますよ
お父さん: 案内します、こっちです


*と言って父親は家を出る。

エル: そいじゃどうもね

アル: お邪魔様

フンディン: お邪魔しました


*一行もそれぞれ軽く一礼してマーダック家を出る。家の外で、父親が待っていた。

お父さん: それじゃあ行きますかね

フンディン: はい


*マーダックに着いて行く一行。村から出るとすぐに森の中に入っていく。一行よりも彼のほうが森歩きには慣れている感じだ。時々早く進みすぎてしまって、一行を待っていたりする。一行のペースに合わせて歩くと余裕があるのか、彼はこんな話を始めた。

お父さん: いまから行く洞窟にはね

フンディン: ?

お父さん: 俺も興味があって昔いったことがあるんですよ

スキールニル : へえ

フンディン: へえ…

スキールニル : どんなところ?

アル: 中は見たのかな?

お父さん: おやじの鍵を盗み出してね

スキールニル : なかなかやるねあんたも

お父さん: だけど、扉の先には
お父さん: 行き止まりの、取っ手のないドアみたいのがあって
お父さん: それだけですよ
お父さん: それでもいくんですか?

スキールニル : まあ行ってみようぜ

フンディン: 取っ手のない扉…

アル: そのドアみたいのが開くかも知れないしね

お父さん: それに、昔からドワーフの亡霊が出るって噂もあって、
お父さん: それも確かめたかったんだけどね

フンディン: へっ?!

お父さん: でもなんにも出なかった

アル: もうゾンビは勘弁だなぁ

スキールニル : ゾンビはどこ斬っても同じだからなあ

お父さん: 不気味な場所には、そういう噂ってあるもんでしょ?

エル: そうだなぁ

アル: 確かにあるよね

フンディン: …

スキールニル : あるね

お父さん: まあ、そんなところですよ、ニルディンの小道はね

アル: その辺は人間もドワーフも変わらないのかな


*やがて木々が空を覆い始め、森はより深く、一行を包み込んでいく。

お父さん: ここらへんはもう
お父さん: ムーンウッドの森です

フンディン: へえ…

スキールニル : へえ


*今更だが、明確な地名が出てきたところでやっと距離感が掴めてきた。ムーンウッドの森はスパイン山脈の麓に広がり、位置的にはミスリルホールとフェルバールの中間くらいにある。もちろんアドバールからもそう遠くない。ただこの地域はムーンウッドとスパインに挟まれていて、あまり人の立ち入るような所でなく都市と呼べるようなものはない。

お父さん: この先の滝の裏の洞窟に
お父さん: ニルディンの小道があるんですよ


*と、父親は地面を指差す。言われてみれば獣道のような、頼りない道が森の中に続いている。それに沿って少し歩いたところで、彼は突然しゃがみこんで地面を見つめている。

お父さん: …

フンディン: ?

お父さん: 狼の足跡だ

フンディン: !

スキールニル : 狼か・・・

お父さん: みなさん、気をつけてくださいよ

フンディン: はい

エル: 武装しなくちゃいけないか

フンディン: そうみたいですね


*一行が進むと、道の上に狼の群れがうろついているのを発見した。どうやら避けて通るのは難しそうだ。

スキールニル : いるいる

フンディン: マーダックさんは下がって!


*一行にとってはすでに狼はたいした相手ではないが、野生動物は油断できない。念のためマーダックを守るような位置を維持して狼を退治した。さらにそのまま道を進むと、やがて水の落ちる音がざーっと聞こえ始めた。木々に視界が遮られていたため、すぐ近くに行くまで気がつかなかったが…

スキールニル : ああコレだ

アル: 綺麗な滝だね


*小さな滝があった。木漏れ日が反射して美しい。

お父さん: あの裏に、俺達がニルディンの小道って呼んでる
お父さん: 洞窟があるんです


*そういって、道を示す。滝の裏に回れる道を教えながら入っていく彼だったが…

お父さん: …
お父さん: ちょっと待って

スキールニル : ?

フンディン: ??
フンディン: なんです?

お父さん: 足跡が

アル: 今度は何の?

お父さん: これは…大きな熊です

アル: げっ

お父さん: この辺りには、でかくて凶暴なやつがいるんですよ
お父さん: 洞窟に向かってるな…
お父さん: いつの間にか巣になってるのかもしれない

スキールニル : やれやれ
スキールニル : 仕方ないなあ

フンディン: …

アル: 先にそいつを何とかしないとね

エル: 今の俺たちなら熊くらいそんな恐れることはないだろ

フンディン: ともかく入りましょう

アル: 普通の熊だったらな


*洞窟の中は、確かに巨大な熊の巣になっていたようだ。とはいえ強力な前足の一撃に注意すれば一行にとって倒せない相手ではない。

エル: うはあ

お父さん: こいつはでかいな

エル: こんなでかいクマとはね

スキールニル : あぶなかったぜ


*一行は熊を退治した。

スキールニル : しかしおとっつぁんには世話になるなあ

お父さん: いえ、これでも狩人ですからね

スキールニル : 腕利きだね


*そのまま洞窟を奥に進む。一見すると何も無い洞窟だが、奥の岩の隙間からさらに奥の通路に入る事ができる。よほど注意深いものでなければ気がつかないようなものだ。マーダックがそこに入って行くので着いて行くと、すぐに行き止まりになっていた。彼は行き止まりを指差す。

フンディン: …

お父さん: あの扉です
お父さん: 鍵を開けますが
お父さん: 皆さんが通った後、閉めることになってるんですよ
お父さん: でもどうします、あけっぱなしでもいいのかな

スキールニル : どうすんだフンディン

アル: それじゃ閉じ込められちまうもんなぁ
アル: まさか…こっちが閉まると奥が開くとかって仕掛けだったり?

フンディン: …

お父さん: それとも鍵、渡しておきましょうか
お父さん: 俺達が引っ越したら、言い伝えを守るやつはいなくなっちまう
お父さん: みなさんの事情はわかりませんが、昨日の話ではもうドワーフはあそこからやってこないんでしょう?

スキールニル : そうだね

フンディン: …
フンディン: ではいただいておきます


*マーダックはフンディンに鍵を渡した。

お父さん: それじゃ、俺はこれで。

アル: ありがとう
アル: 気をつけて帰ってね

スキールニル : 気をつけてな
スキールニル : 達者で

お父さん: 俺にはじいさんの、うれしいってのはわかりませんがね
お父さん: まあ、祖先の約束を果たせたんだから、悪い気はしませんね
お父さん: じゃ。

スキールニル : 俺もわかんね

アル: 俺は何となく分かるな

スキールニル : 娘さん大事にナー

フンディン: ありがとうございました


*マーダックは洞窟から去っていった…。

●ニルディンの小道

*マーダックを見送ってから、フンディンは慎重に扉を開けた。

フンディン: *ごくり
フンディン: ここ…
フンディン: しめておいたほうがいいかな?

エル: 一応な

アル: そうだろうね


*全員中に入ってから、フンディンは鍵をかける。ニルディンの小道はその名の通りドワーフサイズのトンネルで、ずっと真っ直ぐ続いている。

スキールニル : アルちょっとまてよ
スキールニル : あんまりどんどんいくなよ

アル: はいよ


*目的地の予感に、自然と足が速まるアル。

スキールニル : む
スキールニル : 傾斜してる

エル: 本当だ

スキールニル : 登ってる

フンディン: 上…?

スキールニル : む

フンディン: 山の中へ入ってるみたい

スキールニル : 岩が違うな


*周囲の壁の変化に敏感なのは、さすがにドワーフと言ったところだ。その時…

フンディン: へ?!
フンディン: す
フンディン: すき

スキールニル : ?

フンディン: すきーにー
フンディン: いま…

スキールニル : 何?

フンディン: 何かいなかった?!

エル: どした

フンディン: あの扉の前に!

アル: はぁ?


*ニルディンの小道の奥、行き止まりの扉が見える。目を凝らしても、何もいない。

スキールニル : なんもいねえよ

フンディン: おかしいなあ…
フンディン: *ごしごし

スキールニル : ほらな?

フンディン: 気のせいだったのかな・・


*一行は扉の前まで来た。

フンディン: 取っ手がついてない
フンディン: これがマーダックさんの言っていた扉

アル: 鍵穴もないのか?

エル: 押してみ

アル: 宝石かざしたら開くとか…


*一通りやってみるが開かない。

スキールニル : ドアになんか書いてあるんじゃないか

*とは言っても、ここに扉がある事を知らなければそれとわからないほど土と苔に覆われてしまっていて、半ば壁と一体化している。

フンディン: *ごしごし

*土は簡単に払い落とすことが出来た。やはり取っ手も鍵穴もなく完全な平面でぴったりとはまっており、何かを引っ掛けてこじ開ける事も出来そうにない。ドアの周囲と中心にはルーンが刻まれており、その中心には滑らかで小さなくぼみがある。

スキールニル : 何かはめ込むってことか
スキールニル : 斧の宝石とかね

フンディン: …

スキールニル : はまったりしないか?

アル: 俺もそう言おうと思ってたんだ

スキールニル : アルとは気が合うね

アル: そのままじゃ無理か?


*フンディンは斧の宝石とくぼみを比べてみる。はまりそう、だと思う。

フンディン: …

*フンディンは宝石を斧から外した。もともとアドバールのダグダが作ったものなので、フンディンには外すことは出来ても元に戻すことは出来ない。つまり斧はしばらく使えないという事になる。外した宝石を、くぼみに当てはめてみると…

スキールニル : 正解か

フンディン: !!


*ルーンが白い光をかすかに放ったと思うと、ゴリゴリ…という小さな音を立てて扉が奥に少し開いた。後は手で押し開けられそうだ。

フンディン: 斧は…あとで直さなくちゃな…

*そしてフンディンたちは扉から中に入った。中はどこかの部屋らしい。長い間閉じ込められていた空気はかび臭く不快である。

フンディン: …!

スキールニル : カビ癖えなア

フンディン: この場所…
フンディン: ……


*部屋の中にはかつて木箱だったものなどがあるが、酷くもろくなっていて簡単に崩れてしまう。どうやら倉庫だったらしい。中身を調べてみると…

フンディン: 鉱石のインゴット…
フンディン: もう間違いない
フンディン: ここが祖父上の仕事場だ!


*つづく…。


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