ドワーフクエスト
第七章 バーミル・スラルレオの真実
「ギルフォス」
●忘れられた村
*鉱山を目指すフンディン一行は、スパイン山脈のふもとまでやって来ていた。目的の鉱山はすぐそこである。スパインの山々はもはや天までそびえる壁のように、日の光を遮っている。周囲の景観も山裾のそれに変わっていた。
アル: 森が深くなってきたな
アル: 大物には気をつけよう
スキールニル: 夕暮れが近い
*一行は狼や熊などの野生生物だけでなく、オーガ等にも注意しながら進む。この近辺には野生生物の姿は見られるが、他の危険なヒューマノイド種族はいないようだ。しばらく歩いていると、森の景色に溶け込むように建造物が見えてきた。廃墟だろうか。さらに近づくと、朽ちた壁と門が見えてきた。良く見ると何者かの手によって最近補強されたようにも見える。(フンディン達は気がつかなかったが)
フンディン: ここが… 鉱山?
アル: そのようだな
*門を押し開く…と、門のすぐ近くにある家(かろうじて居住可能)の煙突からはうっすらと煙が出てるのが見える。誰か住んでいるのかと近寄ると、家の裏手から一人の年老いたドワーフが現れた。
フンディン: !
フンディン: こんにちは
年老いたオーレン: おや
年老いたオーレン: こんなところに旅人とは
年老いたオーレン: 珍しいですな
*老人は、手にしていた弓を下ろす。
エル: へへへ
フンディン: フェルバールはムンディン・アイアンビアードの息子フンディンと申します
フンディン: おはつにお目にかかります
年老いたオーレン: わしはオーレンといいます
フンディン: こちらは私の従兄弟スキーニーと友人のウッズタイガーの双子
エル: よろしく
アル: こんにちは
フンディン: オーレンさんはここにお住まいなのですか?
年老いたオーレン: このようなところに、どんな用事ですか?それともたまたま通りかかっただけ?
年老いたオーレン: ここが、我が家です
エル: これはまた素敵なぼろや・・・じゃなくて
フンディン: 実は… この先にあるという鉱山を目指して旅をしていたところなのです
年老いたオーレン: ふむ…
年老いたオーレン: もうわし以外は誰も住んでおらん村ですから
年老いたオーレン: 自由に歩き回っても問題ありませんが
年老いたオーレン: 立ち話もなんですし、中に入りませんか
エル: 一人しか住んでないなら村じゃないね
スキールニル: この爺さんが村と呼ぶ限り村だ
フンディン: それではお言葉に甘えさせていただきます
年老いたオーレン: どうぞ
*そう言って、老人は家に入っていった。フンディンたちも後に続く。家の中は外見と同じくあまり快適には見えない。
年老いたオーレン: 適当に
フンディン: お邪魔します
フンディン: この村にはオーレンさんしかお住まいでないとおっしゃいました
年老いたオーレン: 今では、そうです
フンディン: では誰かがここを通り抜けたりするようなことはありませんでしたか?
年老いたオーレン: なぜです?
年老いたオーレン: このあたりには危険な獣やオーガしかいません。普通の旅人はこないと思いますが
フンディン: そうですか…
スキールニル: よくこんなところに住めるね
フンディン: *じろり*
年老いたオーレン: どんなところでも、その気になれば都ですよ
スキールニル: オーガが二匹もやってくれば家ごと食われそうだけどな
アル: 家は喰われてもこの人は大丈夫だろ
*オーレンを調べるとプレイヤーには強さがわかる。
年老いたオーレン: その時は、そうなるでしょうな
スキールニル: そうなったらなったで仕方ないってことか
アル: 歳の割りには筋肉が凄いぜ
年老いたオーレン: 昔は弓を得意にしておりましたが、いまでは3発が限界
年老いたオーレン: 4匹きたら、わしも終わりでしょうな
スキールニル: そりゃたいしたもんだな
エル: 4匹来たら普通は終わりだもんな
年老いたオーレン: まあ、そろそろ日も暮れます。スパインの夜は危険ですから、今日はここで休まれてはどうですか?
フンディン: …
アル: それは有り難いな
アル: お言葉に甘えようぜ、フンディン
フンディン: では…お言葉に甘えさせていただきます
フンディン: ご迷惑をかけとおしで心苦しいですが
年老いたオーレン: 今日は特別な日ですから…構いませんよ
スキールニル: 特別ってどういうこと?
フンディン: ?
年老いたオーレン: …いや、こちらの話です。
フンディン: もしかして… お誕生日ですか?
エル: 関係さそうだ
年老いたオーレン: 食事はおだしできませんが、夜露はしのげると思います
フンディン: それだけでもありがたいです
年老いたオーレン: ところで村の門は閉めてきていただけませんか
スキールニル: (雨漏りしなきゃ・・・ってとこかな
年老いたオーレン: なにか入り込むと困るので
フンディン: わかりました
*オーレンに頼まれたので、フンディンは門を閉めるために外に出た。スキールニルもなんとなく付いていく。
フンディン: 壊れかけてる…
スキールニル: 閉めようが閉めまいがあまり関係ないかもな
*とりあえず、閉める。二人はそのまま、村を見て回るために歩き出した。村の中心と思しき広場(だったと思われるところ)を越えていくと、鉱山の入り口らしきものがあった。目的の鉱山はここだろう。入り口は頑丈な扉で閉められており、見るといくつもの鍵で頑丈に閉じられていた。
フンディン: 鉱山は…この先か…
フンディン: スキーニー
スキールニル: ん?
フンディン: フィオールさんっていう人と何があったの?
フンディン: …
スキールニル: フィオールなら死んだよ
フンディン: !
フンディン: そのことと
フンディン: スキーニーがさ
フンディン: …
スキールニル: 何が言いたいんだ
フンディン: 知りたいだけだよ
フンディン: それにひとつ
フンディン: はっきりさせておきたいことがある
スキールニル: 何だ一体
フンディン: スキーニーとギルフォスという人の間になにがあったのか
フンディン: そんなに話したくないなら聞かない
スキールニル: だったら話はオワリダナ
フンディン: スキーニーがそのギルフォスという人のことを敵だと思うならそれも別に好きにすればいい
フンディン: でも少なくとも
フンディン: 少なくともスキーニーが戦うとしても
フンディン: その前にわたしの目で確かめさせて欲しい
スキールニル: 何をだ
フンディン: 手紙の通りなら、ギルフォスという人はバーミル・スラルレオのことを知るただひとつの手がかりだ
フンディン: いや、それだけじゃない
フンディン: そのギルフォスという人がなぜ…
フンディン: なんのために
フンディン: 祖父上の作品を同胞の手に置こうとするのか
フンディン: その真意を確かめる
スキールニル: ケレンヴァーの坊主なら死体とも話ができるそうだぞ
フンディン: スキーニー!
フンディン: 真面目に話しているんだ
スキールニル: だがまあそのくらいはいいぜ
スキールニル: 俺にとってはどうでもいいことだ
スキールニル: お前の一族のことだからな
フンディン: ……
フンディン: スキーニーだって従兄弟じゃないか
スキールニル: 養子だ
スキールニル: あのハゲのな
フンディン: だから何さ
フンディン: そのお父上はわたしの叔父上で
フンディン: 父上の弟
フンディン: 祖父上の息子だ
フンディン: スキーニーだって他人事じゃあない
スキールニル: ある人間が親族かどうか決めるのは血筋と
スキールニル: 気持ちだ
スキールニル: そのどちらも俺にはない
フンディン: ……
フンディン: それじゃスキーニーはミョルニル叔父上のことを
フンディン: 父とは思っていないの?
スキールニル: 師だな
フンディン: …
スキールニル: 正直父親ってのがどういうもんか俺は知らない
スキールニル: アレが父親って言うならそれはそれでいいけどな
フンディン: どういう意味さ?
*フンディンの話題は、スキールニルにとってあまり話したくないものらしい。無意識にフンディンを避けるようにスキールニルは歩いてしまう。だがそれを追いかけながら話し続けるフンディン。二人はいつの間にか、村の外れにある墓地までやってきていた。
スキールニル: ?!
*突然スキールニルは立ち止まると、一つの墓石を覗き込む。フンディンも横から覗き込んだ。そこには…
フンディン: …?!
スキールニル: ギルフォス・・・か
フンディン: どういうことだい、スキーニー?!
フンディン: 会ったって
スキールニル: まだわからん
スキールニル: だがお前だってフンディンだろう
スキールニル: 爺さんと同じ名前だ
フンディン: そうなのか…
スキールニル: その墓に眠る本人だったかもしれないけどな
スキールニル: 大体把握した
*と、そこへ戻って来ない二人を心配して探しにきた双子がやってきた。
エル: あ
アル: いたいた
フンディン: 二人とも
エル: よう
エル: 遅いからさがしに来たんだぞ
アル: どうしたんだ?
フンディン: あそこに… 墓があるんです
フンディン: ギルフォス…さんの
アル: 墓?
エル: ??
*双子も墓を見る。氏族の名前までは見えないが、確かにギルフォスと書かれている。
アル: どういう事だ?
スキールニル: わからん
アル: 爺さんに聞いてみるか
エル: ギルフォスってこないだ話してた奴だよな
スキールニル: まあ同じ名前が受け継がれることもある
エル: それに赤の他人かも
スキールニル: 亡者になれば墓があって当然
スキールニル: 赤の他人・・・コレが一番ありうる話かもな
*ともかく一行は家に戻り、オーレンに話を聞いてみる事にした。
フンディン: オーレンさん
年老いたオーレン: なんでしょう
フンディン: 少しお聞きしたいことがあるのですが
年老いたオーレン: ?
フンディン: 村にある墓地を拝見いたしました
年老いたオーレン: ああ…ずっと昔、ここに住んでいた人たちの墓です
フンディン: ではオーレンさんはその方たちのことをご存知なのですか?
年老いたオーレン: わしがまだ若かった頃…ずっと昔の話ですよ
年老いたオーレン: なぜそんなことに興味を持たれるのか…
フンディン: 少し気になる名前が墓碑に刻まれているのを見まして
フンディン: もしよかったらゆうしゃ・ろとという方…
フンディン: じゃなくて
*それはネタで仕込まれていた隣の墓だ(笑)日本人ならお馴染みの(笑)
アル: 会ったんだよ
アル: ギルフォスって名乗る男にさ
フンディン: そうです、ギルフォスという人について
フンディン: 聞かせてはもらえませんか?
年老いたオーレン: あんたたちは…よくご存知ですね、その名前
年老いたオーレン: もうとうの昔に終わったことです
アル: だから会ったんだってばさ
年老いたオーレン: そうですか…
年老いたオーレン: いずれにせよ、ずっと昔の、失われた時代の事です
年老いたオーレン: あんたたち若い者にするような話ではありませんよ
年老いたオーレン: もう終わったことです
アル: その失われた時ってヤツを再び繰り返そうとしてるヤツがいるとしたら?
年老いたオーレン: そんなものはいません
エル: ???
スキールニル: なぜそういいきれる?
年老いたオーレン: あんたらは、なにを知りたいのです?わしに聞いてばかりで自分達の事は話さないのに
エル: おっとこりゃまずい
エル: 兄者、話さないと
フンディン: わたしは・・
フンディン: 鍛冶師フンディン・アイアンビアード… 大フンディンの血を継ぐ者です
フンディン: かつてミスリルホールよりミスリル合金の取引された経緯を辿って
フンディン: バーミル・スラルレオという名にたどりつきました
年老いたオーレン: バーミル・スラルレオ…ギルフォス様もそうですが、だいぶ古い事を調べておいでだ
フンディン: (かくかくしかじか)で、バーミル・スラルレオが廃止されたこと、
フンディン: そしてギルフォスという者が追放されたことを知り
フンディン: その手がかりを求めてこの鉱山へと参ったのです
年老いたオーレン: …
アル: そして大フンディンの武器を追っているときに会ったんだ
アル: ギルフォスと名乗る男にね
アル: 全身黒の甲冑に身を包んでいた
スキールニル: ダンヒルという人間の村でそいつはフンディンの作った大鎌を手にした
年老いたオーレン: そのような昔話、する気にはなりません…残念ながら、バーミル・スラルレオについてはあなたたち以上には知りませんし
年老いたオーレン: 別の手かがりを探すのがいいでしょう…
フンディン: …
アル: そうか、残念だ
年老いたオーレン: わしはもう休みます。布団はないので適当に休んでください
*オーレンはそう言うと、話はもう終わりという風にベッドへ行き、横になってしまった…。
アル: 金で話すような人でもなさそうだしな
エル: 困ったね
*夜も更けてきたので仕方なく、一行も横になる事にした。どちらにしても鉱山は目の前なのだ。明日はそちらを調べなければならない。それぞれ適当な位置を決めて寝具を広げて横になった…。
●失われた時代の、忘れられた者たちの夢
*物音に目を覚ますと、窓から光が差し込んでいる。見回すと、それぞれが眠った場所でみな目を覚ましていた。まるで別の家のように、室内は整っている。何が起こっているのかわからず一行が戸惑っていると、頭の中に声が聞こえた。
若きオーレン: (そろそろ行かないと、ギルフォス様がお呼びだったっけ
アル: ?
若きオーレン: (でもこのパイだけ焼きあがるまでやらなきゃな
*キッチンには一人の若いドワーフが何かを作っていた。彼の心の声だろうか。どういうわけか、この若者があの老人、オーレンであると一行にはわかる。
アル: なんだぁ?
スキールニル: ・・・
アル: これ、あのじいさんだ
エル: ???
スキールニル: コレはあのボロ家か?!
*近くにあるものを手に取ろうとするが、すり抜けてしまって手に取ることが出来ない。家の外からはガヤガヤと人の声や気配がする。この村には老人一人のはずだが…
アル: 誰かの声がする
*アルがドアに手をかけようとしたがすり抜けてしまい、そのままドアを抜けて外に出てしまう。
アル: へっ?
スキールニル: 何がなんだか・・・
*と、他の面々も壁を抜けて外に出てくる。村の様子は家と同じく激変していた。確かにあの村だと思えるが建物は朽ちておらず、たくさんの村人たちが広間に集まろうとしていた。
アル: なんかの集会か?
*スキールニルが呼び止めようと村人の肩に手をかけるが…
スキールニル: ?!
スキールニル: ・・・・実体がない?!
*すり抜けてしまった。
アル: !
スキールニル: !!
スキールニル: こいつら触れないし話しかけてもダメみたいだ
*見ていることしか出来そうも無い。と、諦めた頃、村人たちは広間に集まりきったようで、壇上に一人のドワーフが立った。白銀に輝く鎧を身にまとっており、その風格から立場の高い人物と思える。
ギルフォス : みんな、よく集まってくれたな
ギルフォス : 今日はめでたき日になった
エル: おー
アル: やっぱり出たな
ギルフォス : わしの孫が生まれたんだ!
住人 : おお
住人 : おー
スキールニル: 墓がない
アル: 墓が無い
*スキールニルは広場の奥にあった墓場を見てみたが、墓はなくなっていた。(もちろん、この時には作られていないためだ)
住人 : ご子息の忘れ形見ですな
エル: めでたい!・・・のかな?
ギルフォス : うむ、まだ名前は付けていないが
ギルフォス : この子がそうだ
*といって、壇上の男ギルフォスは赤子を掲げた。村人たちは拍手喝さい、やんややんやと大騒ぎだ。しばらく騒ぎが収まるのを待って、ギルフォスは話し始めた。
ギルフォス : さて、みなには長い間
ギルフォス : 逃亡生活から、ここに落ち着くまで苦労をかけたが
ギルフォス : ここでの暮らしもだいぶよくなって来た
スキールニル: 逃亡生活・・・か
ギルフォス : この子は…それの象徴かもしれんな
住人 : めでたいことです、ギルフォス様
住人 : 何かお祝いをしないといけませんな
アル: そう言えば追放されたんだったけな
住人 : そうですな、祝宴を
住人 : ささやかなものになってしまいますが…
ギルフォス : うむ…みなに祝福されて、この子も幸せ者だのう
住人 : わはは
住人 : そうですなあ、あはは
エル: あはは
フンディン: …
住人 : !
*幸せな雰囲気を1本の矢が切り裂いた。それは一番輪の外側にいた村人の喉を貫いた。ゴボゴボと血を吹き、そのドワーフは絶命した。続いて矢が降り注ぐ、輪の外側にいた大勢のドワーフはその矢で怪我を負って倒れた。
スキールニル: こ・・・これは
住人 : なんだ?!
スキールニル: 現実なのか?
住人 : いつの間に…
*矢に続き、武装したドワーフの一団が突撃してきた。矢で動けなくなった村人たちに止めを刺していく。逃げる村人も、近くにあったものをとりあえず掴んで抵抗しようとする村人も、次々と切り捨てられていく。村は一変して、悲鳴の響き渡る地獄と化した。
スキールニル: 夢・・・か?
アル: 夢…だろうな
エル: うう
ギルフォス : こ、これは
ギルフォス : ミラバールの兵士か
ギルフォス : やめろ!わしらはここで暮らしているだけだ
スキールニル: 虐殺かよ!
フンディン: …
アル: そう…見えるね
*ギルフォスは飛び出して叫んだ。だがその言葉に耳を貸す襲撃者は一人も居ない。ギルフォスを無視して、虐殺は続く。そしてギルフォスの前に一人のドワーフが立ち塞がった。どうやら襲撃してきた一団の指揮官らしい。
ミラバールからの追撃隊 : 残念ながら、ギルフォス卿
ミラバールからの追撃隊 : あなた方が生きていられてはこちらが困る
スキールニル: ・・・・
ミラバールからの追撃隊 : ここで死んでいただきます
アル: ?
アル: 何の話だ?
ミラバールからの追撃隊 : バーミル・スラルレオの真実を知るあなたに
ミラバールからの追撃隊 : あらぬことを吹聴されてもこまりますのでね
アル: 真実?
スキールニル: どういうことだ!
ギルフォス : そんなこと…もはやどうでもよい事だ
ギルフォス : わしらはもはや何もするつもりはない
アル: ミスリルの取引以外に何か秘密があったっけ?
ギルフォス : そもそもあの事件でさえ…わしのあずかり知らぬこと…
スキールニル: わかんね
アル: 何がどうなってんだ?
ミラバールからの追撃隊 : そんなことはどうでもいいのですよ
ミラバールからの追撃隊 : われらが執政官どのは
ミラバールからの追撃隊 : たいそう心配性でしてね
ミラバールからの追撃隊 : 憂いのタネも残しておきたくないそうですよ
ミラバールからの追撃隊 : さて、こんな話ももう終わりです、黙って斬られてください
ギルフォス : …
ギルフォス : わ、わしは…
*ギルフォスを警戒してか、指揮官はすぐに斬りかかっては行かない。ギルフォスは狼狽した様子であたりを見回す。
ギルフォス : …
*虐殺は止まらない。
ギルフォス : …
*天を仰ぐ、だが、助けはない。
ギルフォス : ……
*次にギルフォスが顔を上げたとき、その形相に指揮官は恐怖した。そして手にした剣を振り上げる前に、ギルフォスに斬られて即死した。
ギルフォス : 鉱山にいるものは門を閉めよ。誰もいれてはならん!
*激しいギルフォスの声に、鉱山に逃げ込んだ者たちは急いで門を閉め始めた。
ギルフォス : 神よ!
ギルフォス : わしはもはや…
ギルフォス : 裏切りと謀略から逃げ惑うわしらにあなたは道を示してくれた
ギルフォス : あなたの教えに従って、わしらはここで新しい生活を始めた…
ギルフォス : ですが!
ギルフォス : わしは今、あなたの教えにそむきます!
ギルフォス : 神よ、わしの背信を
ギルフォス : 呪うがいい!
ギルフォス : そしてそれをわしは力にしよう!
*赤子を片手に抱えたまま、剣を掲げたギルフォスの、その剣と鎧が漆黒の色に染まり不気味なオーラがその身を包む。赤子は大声で泣いている。
スキールニル: !
スキールニル: あの剣・・・
*その剣と鎧はまさに、スキールニルが見たギルフォスのものだ。ギルフォスは赤子を抱えたまま、両手剣を片手で振るい、襲撃者たちを紙切れのように斬って捨てる。
アル: すげえ
スキールニル: ・・・
*だがそれは、立場が入れ替わっただけだ。今度はギルフォスが、襲撃者たちを虐殺しているに過ぎないのだ。歯が立たないとわかった襲撃者たちの一部は武器を捨てて逃げ出したが、ギルフォスは容赦なくバラバラにしてしまう。そして全てが再び静寂に包まれた。元がなんだったのかわからない一面の死体の中で、一人ギルフォスは立っていた。
アル: うっ…*げええええ*
若きオーレン : これは?!
*隠れていたオーレンが、のそのそと這い出してくる。異常な光景にびくびくしながらギルフォスに近づく。
若きオーレン : ギ、ギルフォスどの…
若きオーレン : これはいったい…シルバーファイアが…その色は…
ギルフォス : オーレン、生きておったか
ギルフォス : この子を…わしの孫だ
*返り血を浴びて真っ赤に染まった赤子を、ギルフォスはオーレンに渡した。オーレンは両腕でしっかりとその子を抱いた。
ギルフォス : すぐにここから逃げるのだ
ギルフォス : 今のは先遣隊にすぎない。すぐに本隊が襲ってくるだろう
若きオーレン : え?
若きオーレン : どういうことなんです?おれはどうすれば…
ギルフォス : はやくいけ!
ギルフォス : わしは…わしはみなの仇を討たずにはおれん…
ギルフォス : やつらを皆殺しにしてやる!
若きオーレン : ギルフォス様…
*その形相に、オーレンは恐怖した。
スキールニル: ・・・・
ギルフォス : ふふふ…もはやシルバーファイアも暗黒にそまりおったわ
ギルフォス : ならば一人でも道連れにしてみせよう
ギルフォス : はやくいけ、オーレン、行かねばお前も斬ってしまうぞ
若きオーレン : う、うわ
若きオーレン : うわああああ
*オーレンは赤子を抱いて逃げ出したのだった…。
●真実
フンディン: …っ
フンディン: い、いまのは…
スキールニル: (はぁはぁ
スキールニル: なんつー夢だ畜生
アル: はぁはぁ…
*目を覚ますと、そこはオーレンの寂れた家だ。
エル: おはよ
エル: 兄者、どうかしたか
スキールニル: 俺はどうやら過去の夢を見たようだ
スキールニル: 皆もいたぜ
アル: まさか…みんなもここの昔の夢を?
アル: フンディンは?
アル: エルは?
フンディン: …
*フンディンの沈黙は、YESという意味であろう。
エル: 夢?
エル: うろ覚えだなぁ
エル: 何か見たような気もするけど
アル: そうか…
アル: 俺はまるで自分で見てきたように覚えてる
スキールニル: アレは夢だが・・・現実でもあったんだ
エル: 何の話だ?
アル: そうなんだろうか?
*と、オーレンも起きてきたようだ。
年老いたオーレン: お目覚めですか…
フンディン: おはようございます
アル: 爺さん…
年老いたオーレン: 寝心地はよくなかったようですな
スキールニル: 爺さんの夢・・・だったのかな
アル: あんたが若かった頃の夢を見たよ
年老いたオーレン: ?
スキールニル: ギルフォスが夢に出てきた
年老いたオーレン: いったいなんの話を?
フンディン: あれはただの夢だったのかもしれない
フンディン: でもそうでなかったのかも知れない
スキールニル: 彼が復讐のために闇へと堕ちて行くのをみた・・・・
フンディン: ともかくオーレンさん
フンディン: いま現実に、ギルフォスと名乗る者が
フンディン: 大フンディンの武器を我ら同胞以外の者の手には渡さない、と
フンディン: レルムを渡り歩いている… らしいことは確かみたいです
フンディン: らしいというのは、そのう、わたしが実際に見たり会ったりしたわけでは、ないのですが…
スキールニル: あの剣だ・・・
スキールニル: 夢でみたあの剣
スキールニル: そしてあの鎧だ!
スキールニル: 孫か
年老いたオーレン: 夢で見た…というのは?
スキールニル: あの孫がそうなのか?!
*スキールニルはオーレンに詰め寄った。
年老いたオーレン: 待ってください。わしにはわけがわからん。きちんと話してください
スキールニル: ・・・・スマン興奮した
フンディン: (かくかくしかじか)な出来事がここであったということを…
フンディン: 昨日の夜見たのです
年老いたオーレン: !
フンディン: まるで現実のように思えました
アル: しかも3人が同じ夢を見たようだよ
エル: 俺は覚えてないけどそう言われれば見たような
年老いたオーレン: それは…それをあんたたち全員が…
年老いたオーレン: …
年老いたオーレン: そうですか…
アル: あれが現実だとしたら…ギルフォスの孫は今どうしてるんだ?
年老いたオーレン: それは亡きギルフォス様のお心か、あるいは我らが神のお心か…それがあなたたちに見せたのかもしれませんね…
スキールニル: じゃあ実際にあったことなのか?
フンディン: ……
年老いたオーレン: 全てお話しましょう。あなたたちにそうせよという事なのかもしれません
フンディン: オーレンさん…
アル: 頼むよ
アル: 俺は知りたい
スキールニル: 俺は知らなければならない
エル: 知らねばなるまい
エル: (なんつって
年老いたオーレン: この話を知ることは、あなたたちにも害が及ぶやもしれません
年老いたオーレン: よそでこの話をすることはないように
年老いたオーレン: 心にしまっておいてくださいますな
フンディン: ……
スキールニル: 約束しよう
スキールニル: 外ではもらさない
*そしてオーレンは遠い過去のことを語り始めた…
年老いたオーレン: あなたたちが見た夢のあと、わしはお孫さんを連れて逃げました
年老いたオーレン: 各地を転々としたのち、ミラバールに再び戻ったとき
年老いたオーレン: すでにあの事件は終わったものとなっていて
年老いたオーレン: わしらはそこで名前を変えて暮らすことができました
年老いたオーレン: ミラバールでは
年老いたオーレン: ギルフォス様が謀反を起こして追放されたことになっていましたが
年老いたオーレン: 真実は違います
フンディン: 真実とはいったい…?
年老いたオーレン: 当時の執政官は、やり手の男でしてね。ミラバールの全権を得ようとしていた
年老いたオーレン: やつは、肥満王と呼ばれた王を早くに追放し、傀儡を立て
スキールニル: 肥満王・・・
年老いたオーレン: まさに奴の時代が訪れようとしていました
年老いたオーレン: しかし邪魔者がひとりいた。それがギルフォス様です
年老いたオーレン: みなの信頼もあつく、熱心な信望者もいました
年老いたオーレン: バーミル・スラルレオが秘密の取引をしていたことは知っているでしょう
フンディン: はい
年老いたオーレン: その相手には…ドゥエルガーどもさえいたのです…
スキールニル: ・・・
フンディン: !
年老いたオーレン: もちろん、ごく僅かの量ですが…かれらはかわりにアダマンティンを供給しました
アル: 闇の密売人ってワケか
年老いたオーレン: それを知ったギルフォス様は、閉鎖のための運動を始めて
年老いたオーレン: けっか、バーミル・スラルレオは閉鎖になりました
年老いたオーレン: それがまた、ギルフォス様の
年老いたオーレン: 評判を上げることになった
年老いたオーレン: 執政官はあせったのでしょう。あの手この手でギルフォス様を挑発し、
年老いたオーレン: 貶めようと巧妙な手を使ってきた
年老いたオーレン: ギルフォス様は耐えていたのです。ですが…
年老いたオーレン: 熱心な信望者の中の、若者たちは耐えられなかった
年老いたオーレン: 独断で動き、執政官の命を狙ってしまったんです
アル: その中にギルフォスの息子もいたんだな
年老いたオーレン: そうです
年老いたオーレン: そしてそれは、やつの狙い通りだった
年老いたオーレン: そこからは、あれよあれよという間でした
年老いたオーレン: ギルフォス様はミラバールにいられなくなり、また
年老いたオーレン: 他の都市にも手を回されてしまい、いくところがなくなった
年老いたオーレン: そしてここに落ち着いたのです
フンディン: ・・・
アル: ひでえ話だ
年老いたオーレン: それから孫が生まれたあの日に…みなさんが見たとおり
年老いたオーレン: あのようなことが起こって
年老いたオーレン: わしは、お孫さんを連れて、
年老いたオーレン: 事が忘れられようとしていた頃に、ここに戻ってまいりました
年老いたオーレン: そして、ギルフォス様の亡骸を見つけた…
スキールニル: ・・・
フンディン: …
年老いたオーレン: 亡骸は、黒い炎に包まれていて、何者の略奪も受けなかったようです
年老いたオーレン: わしが近づくと、それも消えてしまいました
年老いたオーレン: ですから、わしは、ギルフォス様とみなの遺体を埋め墓をつくり、
年老いたオーレン: それ以来ここで暮らしているのです
年老いたオーレン: ギルフォス様の孫は、偉大な祖父にならって、わしがギルフォスと名付けました
スキールニル: やはりか・・・
年老いたオーレン: 大人になるまで、一緒に暮らしていたのですが
年老いたオーレン: ある日、祖父の汚名を晴らすと言ってミラバールに
年老いたオーレン: 行ってしまった…
年老いたオーレン: しばらくして、帰ってきた小ギルフォスは
年老いたオーレン: ひどくふさぎこんでいました
年老いたオーレン: いまさら、忘れられた時代の汚名を晴らすなど
年老いたオーレン: のれんに腕押し、のようなもの
フンディン: …
年老いたオーレン: ですがある日、しばらくして
年老いたオーレン: 小ギルフォスは立ち上がり、祖父の墓を掘り返しあの武具を身に纏いました
年老いたオーレン: わしが止めるのも聞かずに…
年老いたオーレン: そしてそのまま、出て行ってしまったのです
年老いたオーレン: あの子は…おそらく
年老いたオーレン: 神が与えた祖父への呪いを解きたいのでしょう
フンディン: …
年老いたオーレン: せめて神には、許しを得たいと。
年老いたオーレン: そんなこと、大ギルフォスが望んでいるのかどうかもわからないのに…
年老いたオーレン: あの子は…ギルフォスという名前と血に、縛られているのです
年老いたオーレン: ずっと昔の、忘れ去られた時代の
年老いたオーレン: そんなものに縛られる必要はないのに…
エル: 本人にはそうは思えないさ
フンディン: …
アル: 分かる気がするな…なんとなく
スキールニル: ・・・
年老いたオーレン: あなた方は、バーミル・スラルレオを探しているのでしたな
フンディン: はい
年老いたオーレン: ここに居を構えた理由の一つに、この鉱山がバーミル・スラルレオの入り口の一つだから、というのがあります
フンディン: やはり…
年老いたオーレン: 行くのでしたら、鉱山の鍵を渡しましょう
フンディン: !
アル: いいのかい?
フンディン: よろしいのですか…?
年老いたオーレン: ですが一つ注意があります
年老いたオーレン: わしが戻ってきたとき
年老いたオーレン: 鉱山も覗いてみました
年老いたオーレン: 中は…陰惨な事に…
年老いたオーレン: わしは怖くなって絞めてしまったのです
年老いたオーレン: それ以来、あそこを開けてはいません
スキールニル: ・・・・一体何が?
フンディン: 掃討の際には確か…
フンディン: 残った者は鉱山へ入り戸を閉めよ、と
フンディン: そうギルフォスどのはおっしゃられていた気がします
年老いたオーレン: あのような死に方をしたものたちが、安らかに眠っているとは思えません
フンディン: ……
年老いたオーレン: それは…ごらんになればわかるでしょう
スキールニル: フンディン、お前は亡者に縁があるのかもな
年老いたオーレン: それともう一つ…
フンディン: ?
年老いたオーレン: 小ギルフォスは、バーミル・スラルレオを使って旅をしています
フンディン: !
年老いたオーレン: もしバーミル・スラルレオの中で出会うことがあれば…
年老いたオーレン: …いえ、やはりいいです。忘れてください。
年老いたオーレン: どうぞ
*オーレンは鍵の束をフンディンに渡した。
フンディン: ありがとうございます
年老いたオーレン: わしが出来るのはこれくらい
年老いたオーレン: あとはこの村と共に残された日々を過ごすのみ
スキールニル: あんたと孫の他には
スキールニル: 誰も生き残れなかったんだろうか
スキールニル: ・・・その・・・虐殺を
年老いたオーレン: もしや…とは思いますが、わしは知りません
エル: さあね、他の場所に逃げたものもいるかも知れない
アル: その可能性は低いな
年老いたオーレン: 古い話をして疲れた…
年老いたオーレン: お気をつけて
フンディン: もう行こう
スキールニル: お前変わったな
フンディン: …
エル: ありがとう、おじさん
エル: それじゃな
スキールニル: よほどおふくろさんの飯がうまかったらしいや
*一行は頭を下げて家を出て行く。だがフンディンだけは振り返ると
フンディン: …
フンディン: オーレンさん
フンディン: 先ほど… 言いかけられたことは…
フンディン: ……
フンディン: わたしは先ほども言った通り、ギルフォスさんとお会いしたことはありません
フンディン: そして… わたしが一緒にいなかった間に、あのスキーニーとギルフォスさんの間に何があったのかもわからない
フンディン: けれどあれは… ギルフォスさんを「敵」と呼びました
フンディン: …
フンディン: もしオーレンさんが、ギルフォスさんに伝えることがあるというのならば
フンディン: 我が父ムンディン・アイアンビアードとオール・ファザーの名にかけて
フンディン: このフンディンが伝えましょう
フンディン: どうぞ申してください
年老いたオーレン: ただ…
フンディン: ただ?
年老いたオーレン: 血は繋がってなくても
年老いたオーレン: わしにとってはあの子が唯一の子供です
年老いたオーレン: だから、いつか目的を果たしたときに
年老いたオーレン: 戻ってきてほしいと思います
年老いたオーレン: それだけです。
フンディン: ……
フンディン: そのお気持ち
フンディン: 確かに伝えましょう
年老いたオーレン: …
フンディン: 必ず… ここへ再び戻ってきます
フンディン: どうかお体にはお気をつけて
*フンディンは頭を下げると、オーレンの家を出た。残ったオーレンは一言つぶやくのだった。
年老いたオーレン: 感謝します…
*外ではフンディンを待っている間、仲間達が話していた。
アル: 会うかもしれないんだな
スキールニル: ああ
エル: この物話の結末は近そうだ
エル: 俺たちの歌が悲劇にならないようにしなきゃ
スキールニル: 悲劇的結末になるかもしれないけどな
エル: 悲劇だと紡ぐ者もいない、なんてことになるかもな
アル: エル…もし俺が死んでもフンディンの探し物…最後まで付き合ってやってくれ
スキールニル: 馬鹿なこと言うな
アル: 馬鹿じゃないさ
スキールニル: 死ぬのは俺で充分さ
アル: スキールニルは生きなきゃ駄目だ
スキールニル: なぜだ
スキールニル: 俺はあそこで死んでたはずだった・・・
エル: 兄者が死んだら俺も生きて無さそうだけどね・・・
アル: 悲しむ者がいるから
スキールニル: そりゃ何人かはいるだろう
エル: しっかし、みんな、死にたがりの英雄か?
エル: 生きて帰ったほうが楽しいぞ
スキールニル: 2-3ヶ月も悲しんでくれりゃ上等だけどな
アル: あの子はいつまでも悲しむよ
アル: きっと
スキールニル: ・・・・・
エル: あの子??
スキールニル: (そっと懐の笛に触れる・・・
スキールニル: ・・・俺のせいだったんだ
アル: エルの知らない子だよ
スキールニル: 俺が意地でもあいつを逃がすべきだった
エル: ラスカンいってる間に何かあったんだな、やっぱり
スキールニル: ・・・ああ
エル: 失恋か・・・?
アル: フンディンには言うなよ
スキールニル: 大事な仲間が一人
スキールニル: やつに斬られた・・・
エル: ・・・
エル: やつ?
スキールニル: ギルフォスさ
エル: ・・・
エル: ってことは・・・
アル: だから俺はギルフォスを…殺す
エル: そっか
フンディン: おまたせしました
*フンディンが出てきた。
スキールニル: 遅い
フンディン: …?
フンディン: ごめん
エル: はは・・・
アル: さぁ話はこの辺にしておこう
スキールニル: 早く行こうって言ったのお前だろうが・・・
スキールニル: やっぱりかわってねえな!
*一行は鉱山へと向かう。オーレンの警告の意味を、一行はそこで見ることになる。過去を探す旅が、もう一つの過去と出会った今、それは避けて通れぬ試練の道となるのである。果たして一行は鉱山を抜け、バーミル・スラルレオにたどり着けるのか。