ドワーフクエスト
第六章 それぞれの道行き
「ラスカンの悲劇」
●到着
スキールニル: 着いた
フィオール: 結構かかったね
アル: そうだねぇ
スキールニル: だいぶ船の上にも慣れたけど
スキールニル: もう陸だね
フィオール: で、これからどうするか当てはあるの?
スキールニル: 当て?
スキールニル: そんなのあるわけないだろ
フィオール: 出たとこ勝負ってことか
フィオール: まっ、そっちのほうが… あんたらしいかもね
スキールニル: ただ有名な傭兵らしいんで
スキールニル: 「護り手」バーシルってヤツ
フィオール: ふーん
スキールニル: そいつを探せばいいのさ
フィオール: OK
スキールニル: とはいえラスカンには無法者や傭兵は多いだろうから
スキールニル: そう簡単じゃないのかもナ
*とりあえず船を下りる一行。スキールニルは荷物の上げ下ろしをしている船頭に話を聞く。
船頭: 長い船旅ご苦労さん。ラスカンに到着だ。
スキールニル: ラスカンについて教えて欲しい。
船頭: 何も知らないのか?噂通りの街さ。だが、噂話程度で知ったつもりになってると痛い目を見る。気をつける事だな。
アル: やれやれ…
スキールニル: どんな噂話があるんだ?
船頭: 海賊の町。悪党の巣。ホストタワーのアークメイジは怪しげな実験をしていて、街で消えた人間の何人かはそれに使われている…
スキールニル: 魔法使いがいるのか
船頭: いろいろあるが、つまらん格好付けは必要ない自由な気風の街とも言える。
スキールニル: 宿屋を紹介して欲しい。
船頭: 桟橋を降りて少し進んだ右手に通りがある。本当の名前は別にあるんだが、海賊通りという呼び名のほうが有名だな。その名のとおりの場所だから、海賊通りで宿を探すのは止めたほうがいい。
フィオール: ふーん…
スキールニル: 海賊通りかあ
船頭: 外からのお客さんたちには港より少し高い位置にあるカモメ亭を薦めてる。
スキールニル: ありがとう。それじゃ
*一行は船に別れを告げて港へと出た。
スキールニル: 海賊通りのほうがその手の情報は集めやすいかもしれないが
スキールニル: とりあえず
スキールニル: かもめだな
フィオール: アル
アル: ふわぁぁぁ
*あくびをしながらアルはてくてくと歩いていってしまう。フィオールは追いかけてアルの腕を掴んで引き止める。
フィオール: ちょっと待ってったら
フィオール: 離れたら危ないよ
アル: そうなの?
フィオール: もう…
*フィオールはアルのおでこを指で弾く。
アル: いてっ
スキールニル: 宿くらいは安全な場所にとろう
フィオール: そうだね
フィオール: ほら、いくよ
アル: 意外に効いた
フィオール: 次はもうちょっと手加減するよ
アル: 頼むね…
*港から街を望むと、港は街の中でも低い位置にあり内陸方面に向けて少しずつ高くなっていくようだ。といっても背の高い建物も多く、見渡せるわけではない。港に響く荒々しい声も、活気があるだけのように感じられ危険の気配はそこにはない。しかし少し歩くと、所々に破壊の跡が見受けられる。戦争でもあったかのようだ。
スキールニル: この右手が海賊通りだったな
アル: そんなこと言ってたね
スキールニル: すりとかもいっぱいいそうだなあ
アル: 物騒だなぁ
フィオール: 平気平気
フィオール: そしたらあたしがすりかえしてあげるからさ
アル: 人間ってそういうもの?
スキールニル: 人間だからってわけじゃないよ
スキールニル: そういう場所なのさ
フィオール: ドワーフにだっていい奴もいれば悪い奴もいるだろ?
フィオール: そういうこと
アル: 悪い奴ばっかりが集まる街ってワケだ
アル: って噂でそのくらいは知ってたけどね
*船頭が海賊通りと呼んでいた通りは左右に酒場や宿、それ以外の店が軒を連ねる細い横丁である。少し覗いて見れば、そういった場所になれているフィオールや心得のあるスキールニルには、"只者でない"誰かの視線を感じることができる。恐らく入り口付近にはいろいろなグループの監視役がどこかにいるんだろう。一行はとりあえず素通りする。
スキールニル: どのへんだろ
スキールニル: 高い場所っていってたな
フィオール: 少し閑散としてるね
スキールニル: こっち見てみよう
スキールニル: おー人間がいっぱいだ
*と、近くにいた一行を見て男が声をかけてくる。
人間: こっちには倉庫くらいしかないぜ。
フィオール: そっか
スキールニル: 倉庫街か
フィオール: じゃあっちだね
*倉庫に用はないので、一行は再び港方面に戻りつつ登っている道を探す。
スキールニル: 運河とかが結構あるな
アル: そうだねぇ
*港と倉庫のある区画は水路を使った水運で繋がっている。水路を渡る大きな橋を越えると、衛兵が立っている門が見えた。どうやら港と市街を隔てているようだ。
スキールニル: 衛兵もちゃんといるんだな
スキールニル: 昼ならそんなに危なくないかもナ
アル: 僕は盗賊かと思ったよ
フィオール: ?
*アルには衛兵が盗賊に見えたらしい。
スキールニル: まあネヴァーウィンターで略奪したヤツも
スキールニル: 混じってるかもよ
*スキールニルが意外にタイムリーな話題を知っているが、旅の途中スキールニルは各所で情報収集(というか単に一緒に飲んでたのかもしれないが)をしているのでこの辺の話を知っていてもおかしくは無い。ちなみに時間設定としても間違っていなくて、無印NWNの公式キャンペーンが終了した直後にこのキャンペーンはスタートしている。
フィオール: アル…
フィオール: 食べるのは宿に行ってからだって
アル: ん?
アル: 歩くと腹が減るんだよ
フィオール: くいしんぼうだなぁ
*一行は微妙な坂道になっている市内を歩いている。狭い道がくねくねとした迷路のような街だが、ソードコーストの都市では市街戦を想定してそのような作りになっているのが一般的だ。だから一行はさっきから迷っているわけだが…
フィオール: おっ
フィオール: あったよ
フィオール: ここだね
スキールニル: かもめの絵だったのか
*一行は薦められた宿を発見した。
●カモメ亭
宿屋の主人: いらっしゃい。カモメ亭にようこそ。この宿はラスカンで一番の安全性を誇っています。安心して泊まっていただけますよ。
スキールニル: (だといいけど
フィオール: 部屋を借りたいんだけど…
宿屋の主人: うちは2人部屋のみになっています。1部屋一晩5gpになります。
フィオール: 二人部屋かぁ
スキールニル: 2人部屋二つとろう
フィオール: …
フィオール: う、うん、そうだね
アル: そうだね
*ということで、部屋を二つ借りてそれぞれ鍵を受け取った。ついでにスキールニルは主人に話を聞く。
スキールニル: 聞きたいことがあるんだ
スキールニル: 最近のラスカンの状況について
宿屋の主人: 戦争と、その直前に起こった混乱から街はほぼ立ち直っていますが、いまだ再建中のところもあります。まあ、街自体の体質はそれ以前と変わってはいませんよ。
スキールニル: 戦争と混乱?
宿屋の主人: ネヴァーウィンターとの戦争です。指導者を失ったラスカン軍をホストタワーのアーチメイジが率いてネヴァーウィンターに攻め込んだことになっていますが、ホストタワーのメイジたちは否定しています。
フィオール: へえ
スキールニル: ほう
スキールニル: ホストタワーのメイジは否定している?
宿屋の主人: ええ、ホストタワーも攻撃を受けていて、メイジたちは防戦に忙しくそんな陰謀を企てている余裕はなかったということなんですが、この北ソードコーストでホストタワーに攻撃をするような力のある勢力がいるんですかね?
スキールニル: 指導者を失ったとは?
宿屋の主人: 戦争の直前に、ラスカンの街を動かしている商人たちが突然仲違いしましてね、お互いに相打ちになってしまったんですよ。…まぁ、本当のところは、どこか別のところで聞いてみてくださいよ。
*この辺の話は無印NWN公式キャンペーンの出来事。一般的にはホストタワーのアーチメイジが黒幕とされているが、実際にはホストタワーも乗っ取られていて、本当の黒幕はカルトだったという事まではプレイヤーは知っていてもキャラクターは知らない(笑)
スキールニル: 護り手バーシルって傭兵を知らないか?
宿屋の主人: その名前は聞いたことがありますが、会ったことはありませんね…。ブレッドにでも聞いてみてください。
スキールニル: そのブレッドはどこに?
宿屋の主人: おそらくカウンターにいるでしょう。
スキールニル: ありがとう。
*宿の一階部分は食堂兼酒場兼ロビーになっているのはこの世界では一般的。この宿は結構大きいので酒場(というかバー)部分は奥に別になっているようだ。
スキールニル: ブレッド?
スキールニル: あいつかな
フィオール: みたいだね
*バーカウンターの隅に一人の男が座っている。酒を飲んでいるわけでもない。雰囲気的に裏事情に通じていそうだ。ちなみにブレッドは、この宿の用心棒だが腕力に訴えるのではなく、所属している組織に根回しして面倒事を解決するために雇われている。(そしてもちろん、宿はブレッドとその組織両方に金を払っている)
ブレッド: …何か?
スキールニル: 護り手バーシルについて聞きたいんだが
ブレッド: …海賊通りにある赤葡萄亭のバーテンに聞いてみるんだな。
フィオール: …
スキールニル: 赤葡萄亭か
スキールニル: ラスカンには王様とかいるのか?
ブレッド: …ラスカンの指導者は表向き、商人組合のそれぞれの長という事になっているが、実際は5人のハイキャプテンによってなされている。誰でも知っている秘密というやつだ。
スキールニル: ハイキャプテン?
ブレッド: …それについては、この辺で話す話題じゃないな。海賊通りででも聞いてみるんだな。
スキールニル: ありがとう。
スキールニル: ナンかいろいろ複雑みたいだな
フィオール: うん
アル: そうだねぇ
スキールニル: とりあえず飯にしよう
*一行はカウンターで料理と飲み物を注文して適当なテーブルに付く。昼食にしては遅すぎて、夕食にしては早すぎる時間なので一行のほうには先程のブレッド以外の姿は見えない。ロビーのほうには何人かいたが。
フィオール: それじゃいただきます
フィオール: 海賊通りかぁ
スキールニル: やっぱり海賊通りに行かないと駄目みたいだな
アル: う〜ん、焼き肉は今イチだ
スキールニル: 魚はいけるよ
フィオール: 虎の子供を捕まえるには… ってやつだね
スキールニル: 墓穴をほらずんば墓地を得ずってやつか
フィオール: あはは
フィオール: お墓に入ってどうするのさ
スキールニル: ちょっと違ったかな
フィオール: スキールニルでも冗談なんか言うことあるんだ?
スキールニル: 結構言うよ
スキールニル: 特に今はうるさいやつがいないしな
フィオール: ちょっと意外
*一行は食事を終えた。
フィオール: それじゃそろそろ行こうか
スキールニル: おう
フィオール: 暗くなる前に動いた方がいいと思うし
フィオール: ほらアル
フィオール: いい加減食べ過ぎだってば
アル: ん…
スキールニル: だいじょぶか?
アル: *もごもご*
アル: 平気だよ
スキールニル: 暗くならないうちにいったん赤葡萄に行こうぜ
スキールニル: 夜のほうが人はいそうだけどな
アル: そりゃそうだね
フィオール: そうするにしてもさ
フィオール: 明るい安全なうちに下見はしておいたほうがいいよ
*というわけで一行は宿を出た。
●海賊通り
スキールニル: 確かに戦後って感じはするな
フィオール: どしたの?
スキールニル: 広場だと思ったら
アル: 家の跡なのか…
スキールニル: うん
フィオール: ああ、
フィオール: どこか懐かしい感じがするな…
スキールニル: 俺も生まれ育った場所を思い出すね
*一行は海賊通りに足を踏み入れた。暗がりから視線を感じ、自分たちが"よそ者"である事を強く意識させられる雰囲気である。
アル: うっ…人間臭い
スキールニル: (しっ!
フィオール: あんまりやたらめったらに
フィオール: 目を合わせたら駄目だよ
スキールニル: (野良犬と同じだ
アル: わ…分かったよ
*と、アルと話していたフィオールは、前方から歩いてきた少年が突然駆け出したために激突してしまった。
少年: 気をつけろよ!おっさん!
フィオール: おっさん…
*おっさん(笑)このNPCはセリフとか動作とか作ってあったイベントNPCなんだけど、フィオールが踏む可能性は考えてなかった。まあ、いいか、おっさんに見えたんだろう(笑)
フィオール: ごめん。
スキールニル: (すられてないだろうな?
フィオール: すられたよ
フィオール: まあはした金だし
フィオール: 通行料だと思っとく
*フィオールは3gpほどスられたのに気が付いていたが、特にとがめずそのまま行かせた。
スキールニル: あいつもアレで少しは
スキールニル: 食いつなげるわけだ
*そのまま赤葡萄亭を探して通りを歩く。途中、陽気な船乗りの一団とすれ違う。
スキールニル: (あの船乗りただもんじゃなかったな
フィオール: (あれは海賊だよ
スキールニル: (やっぱりそうか
*一行はそのまま、海賊通りの外れまで来てしまった。反対側からでも横丁を出ると港へと続く道に出るようだ。
アル: あの…赤葡萄亭ってどの辺ですか?
*海賊通りの出入り口で衛兵を見かけて、アルは声をかけるが衛兵はちらっと見ただけでアルを無視した。
フィオール: やめなって
アル: ちぇ
スキールニル: (あまり信用できそうにないな衛兵も
フィオール: あのねえ、アル
フィオール: ここではそんなにあけっぴろけに
フィオール: 人に話し掛けたら駄目だよ
フィオール: こっちが道を知らないって向こうがわかったら
フィオール: どんな罠にはめられるかわかったもんじゃないんだから
スキールニル: 歩きながら話そう
スキールニル: 目立つぜ
アル: 相手は衛兵だよ…
スキールニル: その衛兵が信用できないんだよここは
フィオール: 衛兵だって金をもらえば何だってするんだ
アル: 最低…
スキールニル: フェルバールの「守護者」たちみたいなのとは違うんだ
*と、通りに戻って話しながら歩いていた一行だったが、いつのまにかアルがいない…
フィオール: アル!
フィオール: あの子は…
スキールニル: いねえ
*慌てて周囲を見て回すと、葡萄の絵が描かれた煤けた看板が、軒先に隠れるようにぶら下がっている店を発見した。二人が店に近づくと、中でアルの声がする。
スキールニル: あーよかった
アル: ん?
*どうやらここが赤葡萄亭らしい。補強が打ち付けられた窓からは、隙間から光がわずかに差し込んでくるだけで店内は薄暗く、パイプの煙が影を作るほどに濃い。店内にはカウンターにバーテンと、客が三人―ハーフオークの男、海賊らしき男と(最低限の部分しか隠していない服装の)人間の女の連れ―しかいない。アルはカウンターでバーテンに挨拶していたが、バーテンはちらりとアルを見た後、すぐに興味を手元のカードに戻してしまった。どうしていいかわからずにアルはオロオロしている。
アル: ここじゃないのかな?
スキールニル: ここだろうけど
スキールニル: 明らかに相手にされてない
*とはいえ、叩き出そうというものでもない。スキールニルはとりあえず厳ついハーフオークに声をかけてみた。
ハーフオーク: なにか用か?
*意外にもハーフオークは気さくな雰囲気で話してくれる。スキールニルはラスカンの現状について聞いてみた。
スキールニル: ハイキャプテンってどうなったんだ?
ハーフオーク: 前のハイキャプテンは突然トチ狂って殺し合いをはじめ、3人は共倒れ、残りの2人はネヴァーウィンターの英雄とやらがぶっ殺しちまったんだ。
ハーフオーク: ハイキャプテンのいない時期は3ヶ月ほど続いたが、今は、4人の力ある人物がハイキャプテンに納まってる。
スキールニル: 残りの1人は?
ハーフオーク: その残りの1席を巡って、いまケニスとブラッツェンていう二人がそれぞれ率いている組織が争ってる。
スキールニル: ケニスはどんなやつ?
ハーフオーク: ケニスは見た目優男だし、態度も話し方も悪くねえ。だけどそれは表面上だけで、とんでもないクソヤロウさ。自分に歯向かうやつは子供でも容赦しねえ。それどころか、子供を殺るのが趣味って噂もある。
フィオール: …
スキールニル: ブラッツェンはどんなやつ?
ハーフオーク: ブラッツェンは古い海賊気質の男で、実際もう腹の出たジジイさ。いまだに「血の兄弟」とか「血の報復」とか古い掟を守ってる。つまり裏切り者には死を、血は血で贖え、奪い取る時は容赦するな、そんな感じさ。
ハーフオーク: 血を見るのが好きで、目の前にある金には手を出さずにいられない…正直、絶対に権力を持っちゃいけないタイプだと思うね。
スキールニル: ありがとう。
スキールニル: どっちもだめじゃん
フィオール: ふーん…
*スキールニルが二人のハイキャプテン候補の争いについて話を進めようとすると、ハーフオークは隣にいる細身の男を指差す。男はそれに気が付いて顔を上げる。
ジプシー・ローグ: なにか用か?
スキールニル: ケニスとブラッツェンの争いについて聞きたい。
ジプシー・ローグ: 二人はドッグウィル地区の支配権を巡って争ってる。そこを抑えられれば、ハイキャプテンの椅子はほぼ確実だからだ。
ジプシー・ローグ: だからドッグウィル地区の連中は今はほとんど他の地区に逃げ出してる。他のハイキャプテンの目もあって、表立って街中を戦場には出来ないが裏路地には死体がゴロゴロしてるからな。
ジプシー・ローグ: まあ、そんな状況もあと3日ってところだがね。
スキールニル: どういう意味?
ジプシー・ローグ: 5日後に、ハイキャプテン5人による話し合いがあるらしい。それまでにハイキャプテンの椅子を自分のものにしないと、4人で勝手に取り決めされる可能性がある。場合によっては5人目はいらない…ということにもなりかねないからな。だから、ギリギリでも3日後には決着をつけておく必要があるってことさ。
スキールニル: ありがとう。
フィオール: なるほどね…
スキールニル: この三日・・・ラスカンは荒れそうだ
フィオール: 厄介な時期にきちゃったなぁ
スキールニル: あまりありがたくないときに来ちまった
アル: そうだねぇ
フィオール: まだ三時か…
フィオール: 一度宿に戻って
フィオール: 夜を待ってから出なおそっか
スキールニル: それしかないか
アル: あのぉバーシルって人探してるんですけどぉ
*しつこく話しかけてくるアルに、バーテンはうんざりした様子で顔を上げた。
バーテンダー: …
バーテンダー: バーシルに何か用でもあるのか?
フィオール: これでどう?
*フィオールは3gpをバーテンの手元にそっと置いたが…
バーテンダー: …3ゴールドじゃつまらないな
フィオール: そうかな?
バーテンダー: 暇してたところだ、一つ勝負しないか?
フィオール: いいよ、何?
バーテンダー: カードを3枚引いて、大きい数が出たほうの勝ちだ。簡単だろ
*バーテンは慣れた手つきでカードをシュッシュッと切りながら申し出る。
アル: そりゃ簡単だね
スキールニル: (カード得意なのか?
フィオール: (これでも視力と手つきには自信があるんでね
スキールニル: (じゃあ任せる
スキールニル: (俺は一応まわりを警戒しよう
バーテンダー: 1勝負で20ゴールド
スキールニル: 20?!
アル: 勝てばいんじゃん?
バーテンダー: あんたらが勝ったら、金と情報を渡す
バーテンダー: おれが勝ったら金はいただきだ
バーテンダー: どうだ?
フィオール: いいよ
バーテンダー: よし
バーテンダー: さて、始めるかね
*というわけでカード勝負。実際には3d6で出目の合計が大きいほうの勝ちという事にする。フィオールはイカサマを警戒していたようだったが、このバーテンは(他の客もそうだが)それほど悪人ではない。こちらはイカサマなしだ。フィオールもイカサマなしで勝負する事にしたらしい。結果16対11でフィオールの勝ちだった。出目いいなあ。
バーテンダー: …
バーテンダー: ち、俺の負けだな
フィオール: OK
フィオール: それじゃ約束通り
フィオール: 話してもらうよ
バーテンダー: 海賊通りに、カリムっていうハーフリングの女がやっている小さなバーがある
バーテンダー: カリムは唯一バーシルに渡りを付けられる女だ
バーテンダー: 彼女の店を探してみるんだな…
アル: バーシルもハーフリングなの?
フィオール: そうとは限らないよ
バーテンダー: カリムに聞けばわかる…
バーテンダー: …いってみりゃあわかるだろう。
フィオール: ありがと
*バーテンは再びカードを弄り始めた。
スキールニル: 両手剣持ってるらしいからそれはないんじゃないか
アル: 会員制のお店で入れないとかって落ちじゃないよね?
フィオール: アル
アル: 呼んだ?
フィオール: …なんでもない
*ひとまず一行は店を出た。とりあえずカリムの店の場所は教えてもらえなかったので、適当に開いている酒場を覗いてみるしかない。手近なところで一軒の酒場に入ってみる。
スキールニル: (なんだここは
フィオール: (ちっ
アル: 暗い…
フィオール: 出よう
*入った店はテーブルとバーカウンターにある蝋燭の明かりだけが全ての薄暗い店だ。フィオールはすぐに危険を感じて二人の胸をドンと押して外に出る。ちなみにこの店は本当に危なかった。DMとしては上手く逃げられたという所だが。
●カリムという女。
*一行はカリムの店を探す。すると、細い裏道の行き止まりの小さな看板に「カリムの店」と書かれているのを発見した。中に入ると、なるほど小さな店でカウンターしかない。その中に小柄だが艶っぽい雰囲気の女性がいる。彼女がカリムだろう。一行はカウンターに着いた。
カリム: …いらっしゃい
スキールニル: エールを一杯
カリム: はい
*カリムは慣れた手つきでエールを樽から注ぐとスキールニルの前に滑らせるように置いた。
フィオール: バーシルに用があるんだけど
スキールニル: あんたなら繋ぎをつけられるそうだね
カリム: バーシルになんの用があるの?
スキールニル: バーシルに
スキールニル: たいした用事じゃないぜ・・・聞きたい事があるだけだ
カリム: 仕事の依頼かしら?
スキールニル: 特にそういうわけじゃないが・・・そんなに手間は取らせない
カリム: 仕事以外では、人付き合いはしない人だけど…
カリム: 今は、聞いてみることもできないわね
アル: あら…
フィオール: どうして?
フィオール: たてこんでるってこと?
*自分の店の客というわけではないと分かり、カリムは椅子に座ると自分のために酒をついで、軽く飲んだ。
カリム: ええ、そう
カリム: 今は仕事中なの
アル: ハイキャプテンの関係かな?
スキールニル: あー権力争いか
カリム: 彼は護衛をしているから
カリム: 仕事中は、依頼人のもとを離れないわ
スキールニル: じゃあことが終わったら会うこともできるわけか
アル: 依頼人が分かればそれより前に会えるかもね
カリム: 話しても問題ないから言うけど
カリム: バーシルはいまケニスに雇われている
スキールニル: ケニスか
フィオール: ケニス…
カリム: 彼に会うには、仕事が終わるのを待つか
カリム: ケニスに雇われて近づくか
フィオール: (腹黒いほうの奴か
アル: もう1人はブッシュだっけ?
カリム: ブラッツェンに雇われてケニスのところまで押し込むかでしょうね
*と言ってカリムはグラスを口を運び、笑う。
アル: 物騒なことを言うねぇ
フィオール: なるほどね
スキールニル: ラスカンらしいといえばらしいね
カリム: 仕事の期限は決まってないけど、3日後には決着がつくでしょうね
カリム: まあ幸い、ケニスのところはまだ兵隊を募集してる
カリム: よければ紹介してあげてもいいけど?
フィオール: どうするスキールニル?
アル: スキールニルとフィオールには向いてる仕事じゃない?
スキールニル: (正直噂どおりの男なら雇われたくねえな
フィオール: うん
スキールニル: 問題は・・・ケニスが負けてバーシルまで死ぬとか行方不明になる可能性だな
スキールニル: そうなっちまうと無駄足になるな
フィオール: 抗争の中へ入るっていうのがそもそも気に入らないけど
フィオール: 他に手はなさそうだしね…
カリム: …まあ
カリム: 仕事を主義主張で選ぶなら、ラスカンでの仕事はオススメしないわ
カリム: バーシルは金さえつめばどんな悪党でも守る。そういう人じゃないと
カリム: ここでは名を上げられないわね
スキールニル: なるほど
スキールニル: 少し考えてみる
フィオール: どっちかにつかなきゃいけないってんなら
フィオール: あたしはケニスよりはもう一人の方がいいな
アル: それじゃバーシルと戦うことになっちゃうかもよ
フィオール: 腹黒野郎は信用できない… 気がついたらこっちの背中に短剣が刺さってるかも知れない
スキールニル: どっちもろくでもないやつらしいじゃないか
フィオール: 海賊には違いないだろうけど
フィオール: 聞いた話じゃ、ブラッツェンのほうは約束は守るって男みたいだよ
アル: ろくでもないヤツじゃないと名を上げられない街なんじゃないの?
スキールニル: そうかもしれない
フィオール: まあスキールニルに任せるよ
スキールニル: 3日経てば事は終わるわけだから無理に首突っ込むこともないわけだけど
アル: フンディンがいたら凄い事になりそうだよ…この街
スキールニル: もう死んでるかもナ
フィオール: でも全て終わるまで待ったら
フィオール: 文字通りあとの祭り…なんてことになったらまずいんでしょ?
スキールニル: ああ
フィオール: それじゃ選択肢は二つしかないと思うけど
スキールニル: だがフィオールは気に食わないんだろうケニスが
フィオール: あんたが決めたことなら…ついていくけどね
カリム: …もし、あなたたちがケニスに雇われるなら頼みたいこともあるのだけど…どうかしら?
*カリムが口を挟む。それまでとは違い、多少真剣みがある。
アル: 頼みたいこと?
スキールニル: なんだいそりゃ
カリム: ええ、ブラッツェンのところにケニスの幹部の首を土産にして
カリム: 雇われた腕利きがいるらしいの
カリム: バーシルがドジを踏むとは思わないけど
カリム: 人知れず消されているのは、困るわ
スキールニル: 確かに
スキールニル: どんな強いやつでも眠るし物を食う
スキールニル: 殺す方法はいくらもあるな
カリム: だからバーシルがどうなったか、だけを見ててほしいのよ
カリム: もちろん、無事に戻ってくればそれでいいんだけどね
スキールニル: 決めた
スキールニル: ろくでなしに雇われよう
フィオール: どっちのこと?
スキールニル: バーシルに接触するためだ
アル: バーシルがどんな人か聞いておかないとね
スキールニル: フィオールの嫌いなやつだ
カリム: なら、あたしの仕事も受けてもらえるのかしら
スキールニル: 勿論
スキールニル: バーシルに死なれると困る
アル: 素直に名乗ってくれたり紹介してもらえるか分からないし
カリム: それなら、もう一つ約束して欲しい
アル: まだあるの〜
*今度は、さっきよりも真剣にスキールニルを見る。
カリム: バーシルに、あたしから様子を見るように頼まれたことは言わないでほしいの
スキールニル: いいよ
スキールニル: 約束する
アル: なんで?
カリム: 先に、金は渡しておくわ
*カリムは金貨の入った袋を渡す。スキールニルは受け取ると中を確認し始めた。
スキールニル: お・・・ずいぶん払いがいいな
フィオール: 余計な心遣いさせたくないってことでしょ
スキールニル: なんか断然興味がわいてきたなバーシルってヤツに
アル: 好きだけど、それを知られたくないってこと?
*ぷっ、と急にカリムは演技掛かって吹き出して見せると、先ほどの真剣さが嘘のように笑った。
カリム: あは、好きとかそんな安っぽいロマンスがお好きなのかしら?
アル: 違うの?
カリム: 違うわね。バーシルのプライドを尊重しているのと、死なれるとあたしの仕事に差し支えるだけ
アル: ふ〜ん
スキールニル: 契約金は3人で金貨100枚
スキールニル: 33枚ずつわけとくぜ
アル: えっ?ってことはさ
アル: 僕も行くわけ?
スキールニル: あれ行かないの?
フィオール: アル…?
スキールニル: 余った金貨でここで飲もう
*心得た様子で、カリムは奥に酒を取りに行く。
フィオール: まあ確かに危ない仕事だから
スキールニル: アル一人置いていくのは不安だ
フィオール: 納得してないのなら行かないほうが良いかもしれないけど…
フィオール: アルはスキールニルとずっと放れないんじゃないかと思ってたよ
スキールニル: まあ宿にいれば大丈夫かな
アル: いや、納得するとかしないとかじゃなくて
アル: 僕向きの仕事じゃないでしょ?
スキールニル: 護衛が主な仕事ならそうでもないだろう
*奥からカリムが三人分のエールを持って戻ってきた。
カリム: ケニスに雇われるなら
カリム: レッドパイソンていう酒場を探して
カリム: そこにトマッシュという男がいるわ
カリム: あたしからの紹介だと言えば、雇ってもらえるはずよ
アル: 場所は?
カリム: この通りにあるわ
アル: この通り?
アル: 分かった
カリム: ちなみに、仕事は兵隊だから
カリム: 戦いに使われる覚悟は必要ね
アル: …
フィオール: まあ仕方ないね
スキールニル: ああ
*しばし一服した一行。
フィオール: それじゃいこ
スキールニル: アル・・・気に入らなかったら宿で待っててもいいんだぜ?
アル: ん?
アル: いいよ…僕も行く
アル: とにかくカリムさんのプライドは尊重するね
スキールニル: そうか
スキールニル: よしいこう
*一行はカリムの店を出て通りに戻る。先ほどから酒場を探していた事もあって、目的のレッドパイソンは目星がついていた。早速店内に入ると…
フィオール: (ここか
スキールニル: (ドイツもコイツも鎧着てやがる
*時間も遅くなってきたせいか、店内には活気がある。と、突然の怒号。見るとお互いに掴みかかって今にも殴り合おうという客がいる。目が合ったスキールニルに男の一人が絡んでくる。
酒場の客: 横から口を挟むんじゃねえよ。テメエはこいつらの仲間か?
フィオール: (相手にせずっと
スキールニル: 邪魔して悪かった。さ、続けて。
*あっさりかわしてしまった。海賊通りはそこらじゅうに人間の罠が仕掛けてあってこれもその一つ。店の中の客はどちらかの仲間になっていて、手を出すと、酒場の客を二分した戦いに巻き込まれる。もちろん攻撃した相手の相手は味方になる。見事にかわされてしまったけど。
スキールニル: みろ
スキールニル: あいつは雰囲気が違うぜ
*店のカウンターの隅で、一人涼しげにグラスを傾ける男がいる。荒々しい雰囲気とは無縁な感じだが…。ちょうどその時、喧嘩していた男の一人が派手に倒れる。
アル: うへっ
スキールニル: (ひでえもんだな
フィオール: アル!
フィオール: ぼさっとしてないで
*巻き込まれては困るという風にフィオールはアルを遠ざける。
フィオール: ほらこっち
アル: だってさ…
*一行はカウンターの隅の男の近くに腰を下ろした。それに気が付いて、男は独り言のように話す。
男: まったくうるさいな
スキールニル: 全くだな
男: スマートに飲める酒場はここにはないのかねえ
スキールニル: はやく静かになって欲しいもんだ
アル: いったい何が原因で?
アル: いつも殺しあいしてたら客がいなくなっちゃうよ
男: さあ…いつものことだから
男: いちいち気にしないさ
スキールニル: 例のごたごたが原因じゃないのかい?
*例のごたごた=ハイキャプテンの座を争う二人のことだろう。
男: 違うねえ
男: さて、あんたら、俺に何か用なのかい
スキールニル: 俺たちカリムに言われてきたんだが
スキールニル: あんたはトマッシュか?
男(トマッシュ): そうだが?
トマッシュ: ああそうか
トマッシュ: ケニスさんにやとわれに来たんだな
スキールニル: ああ・・・手を貸せるかもしれない
スキールニル: (ま・・・そんなとこだ
アル: 察しがいいんだね
トマッシュ: じゃあビジネスの話といこうか
*トマッシュは一行に向き直ると、髪をかき上げてニッと白い歯を見せた。
トマッシュ: 仕事は、今回の争いにけりが付くまでの期間
トマッシュ: 傭兵として戦ってもらったり警備してもらうことだ
トマッシュ: 寝床と食事はこちらが出す
スキールニル: 報酬は?
トマッシュ: 報酬は前金で50
スキールニル: 悪くないな
トマッシュ: そのあと、働きに応じていくらか出す
トマッシュ: ケニスさんはそこらへんちゃんとやってくれるから
トマッシュ: それなりの働きをすれば、いい金もらえると思うよ
アル: 噂とイメージ違うね
トマッシュ: ブラッツェンについたら悲惨だよ。戦闘報酬は一晩宴会とかだぜ?(ニヤリ)
スキールニル: 包帯に血にじませながらか?
アル: それも魅力的だけど…
スキールニル: よし雇用条件はわかったぜ
スキールニル: あとはそっちが俺たちを雇う気があるか・・・それだけさ!
トマッシュ: カリムの紹介なら、信用するさ
スキールニル: わかった
スキールニル: じゃあ話は決まりだな
トマッシュ: それじゃあ前金を渡しておこう
アル: ありがとう、頑張るね
トマッシュ: 準備が出来たら、戻ってきてくれ。
スキールニル: ちょっと腹ごしらえすりゃ
スキールニル: 俺はいつでもいける
トマッシュ: そうだな…遅くても2時間後までに
トマッシュ: 武器や道具はこちらから出さないからそろえておくことだ
スキールニル: ああなるほど
スキールニル: わかった
アル: この辺で包帯が買えるところはあります?
トマッシュ: 防波壁の上にある通りに
トマッシュ: 雑貨屋がある
アル: ありがとう
トマッシュ: そこで買えると思うよ
アル: 行ってみます
スキールニル: 少し補充しておくか
アル: うん
*というわけで治療道具などの買出しに出る一行。その間にもう一人のプレイヤー(ずっとDMで観てもらってた)に用意しておいたキャラクターでログインしてもらう。PC一行同様に傭兵という設定で、合流後は一緒に行動してもらう。ちなみに特に裏設定などはない(笑)
スキールニル: 用意はできたぜ
トマッシュ: 準備はいいのかい
トマッシュ: じゃあ案内するから付いてきてくれ
*トマッシュは一行を連れて酒場を出ると、そのまま歩いていく。一行は彼の後を追った。
●ケニスの傭兵
*一行はトマッシュに着いてドックウィル地区へと足を踏み入れる。抗争の中心地であるが、今は不気味に静まりかえっている。道には乞食らしき男が座り込んでいるだけだ。トマッシュは道を選んで進んでいるように見える。わき道や建物の間の隙間には何が潜んでいるかわからない。一行ははぐれないように付いていく。
スキールニル: (ナカナカ厳重だな
トマッシュ: ここだ
*トマッシュはパッと見たところ、普通の小屋の前で止まると、扉を叩く。開いた小窓で何か合図をすると扉が開かれた。そのまま中に入ってしまうので、一行も慌てて着いていく。
トマッシュ: ここが玄関だよ
*と、中は意外に広く綺麗で花なども飾ってある。入ってすぐの所にテーブルがあり、そこに数人の傭兵らしき人物が座っている。入り口の護衛だろう。
アル: 綺麗な花だね
トマッシュ: 彼らとは一時的にでも仲間なんだから、挨拶しておくといい
ケニスのローグ: よろしくな。
ケニスの戦士: よろしくな。
ケニスの弓兵: よろしくな。
アル: よろしく
*トマッシュも軽く手を上げて挨拶すると、奥の扉を開く。部屋の中は広間になっており、今入ってきた扉のほかに4つも扉がある。中は外見と違って広いようだ。
トマッシュ: こっちが君たちも含め
トマッシュ: 傭兵たちの寝泊りするところだ
スキールニル: そういえば傭兵の指揮官は誰になるんだ
トマッシュ: 傭兵に明確な指揮官はいない
スキールニル: そういうものか
フィオール: ケニスが
フィオール: 直接指揮をとるってことだろうね
フィオール: 大まかには、だけど
トマッシュ: 自分の判断で動いてもらってかまわない
スキールニル: じゃあアジトは自由に動き回っていいのか?
*と、そこに一人のハーフリングが会話に割り込んできた。やっと登場できた最後のPC、リアド・バリーズだ(笑)
リアド: おやあ
リアド: トマッシュ、また新入りかい
トマッシュ: やあ、戻ってたのか
トマッシュ: そうさ。よろしくしてやってくれ
アル: 彼は?
*トマッシュが答える前にハーフリングのほうから声を掛けてきた。
リアド: よう
アル: こんばんは
アル: 僕はアル
スキールニル: 今日雇われた
スキールニル: よろしくな
リアド: 補充かー
リアド: こないだのいざこざで大勢死んだからなぁ
スキールニル: そんなに死んだのか
トマッシュ: そうさ。そのかわり金はもらってるはずだよ
トマッシュ: もし死んだら、金を渡してほしい人がいるなら遺書に書いておくんだね
スキールニル: ああ問題はない
スキールニル: 大丈夫だ死なないから
リアド: おほ、全員ドワーフじゃないか
リアド: なんかオモシロイな
アル: そういう君はハーフリングかな?
スキールニル: ここは長いのかあんたは
リアド: いやいや
リアド: ついこないだ雇われたのさ
スキールニル: そうか
リアド: 逃げ足だけは速いから
リアド: まだ生きてる
スキールニル: へへへ
スキールニル: そりゃ貴重な才能だな
トマッシュ: さて、寝泊りはここのどの部屋でも自由に使ってくれて構わない
トマッシュ: 館の中も、周りも自由に見て回ってもらって構わないが
スキールニル: ああ見ておこう
トマッシュ: ケニスさんの部屋には入らないように。
トマッシュ: それと、扉はきちんと閉めてくれよ
トマッシュ: また何か指示があれば、俺が伝えにくるから
アル: そのケニスさんの部屋が分からないよ…
トマッシュ: 鍵がかかってるところには入らなければいいのさ
アル: なるほどね
トマッシュ: それじゃあね
アル: ありがとう
リアド: ほいよ
*トマッシュは最後に自慢の笑顔を見せると部屋を出て行った。
リアド: オレはリアドだ
リアド: あんたら、名前は?
スキールニル: 俺はスキールニル
スキールニル: フィオールに
スキールニル: アルだ
リアド: よろしく
フィオール: まあ短い付き合いになるだろうけど
スキールニル: よろしく
フィオール: よろしく
リアド: アルに、フィオールにスキーニーか
スキールニル: スキールニルだ
リアド: ああ、ル、ね
スキールニル: スキーニーではない
リアド: わかったよ
スキールニル: ここであったのも何かの縁
スキールニル: ちょいとここら案内してくれ
リアド: よしきた
*というわけでリアドが一行を案内する。寝室、廊下、食堂など…。要所要所に傭兵かケニスの一味の者かが立っていたり、それとなく座っていたりする。スキールニル、フィオールは軽く目で挨拶しながら案内してもらう。途中で飽きたのかアルは一人でさっさと行ってしまった。
スキールニル: ドアは閉めろって言われたのに
スキールニル: アルのやつ
*ドアを開けっ放して行ってしまうアルの後を通って、一行が閉めていく。やがて一つの扉の前でリアドが立ち止まる。なんの変哲もない扉に見えるが、よく観察すると非常に良く強化されており魔法の武器でもなければ破る事はできなさそうだ。
スキールニル: ここがボスの部屋か?
リアド: ケニーおやびんの部屋だ
*続いて一行はそのまま奥に進む。本当に外観とは違い、中は広い。一番奥の倉庫まで行くと、アルが先に到着していた。
スキールニル: お
スキールニル: アルここだったか
アル: やほ
フィオール: 一人でうろうろしないほうがいいよ
リアド: 食い物があるとこだ
リアド: あんた鼻が効くね
スキールニル: これは?
アル: 脱出口かな?
アル: それとも下水に通じる穴?
リアド: 知らないのかい?
フィオール: ?
リアド: ドワーフさんはオーブン知らないのか?
スキールニル: ちがう
スキールニル: この落し戸はなにかってことだ
*スキールニルは床にある重そうな鉄製の落とし戸を指差している。
リアド: ああ、これね
リアド: 死体を流すんだ、下水にね
フィオール: ああ…
スキールニル: ああ・・・
アル: 最悪…
リアド: 生きてるうちも流れる事もあるかもね
スキールニル: 敵がここに死霊術使いでも送り込んだら大変だな
リアド: 流しちゃってるから平気さ
スキールニル: そうか
リアド: ゾンビが動き出しても、既に汚水の中
リアド: ってな訳さ
スキールニル: 結構腕のいい傭兵もいるのか
リアド: そりゃオレの事だね
フィオール: ふーん……
スキールニル: あああんたは勿論のこと
スキールニル: 腕っ節の強いやつとか
リアド: 大木を素手でへし折る奴がいたよ
リアド: こないだのケンカで死んだけど
*とりあえず一通り見て回ったので、一行は自分達の部屋に戻る。
フィオール: (例の奴さんはいなかったね
フィオール: (直属の護衛、ってことかな
スキールニル: (ボスにずいぶん信用されてるんだな
スキールニル: (会うのは大変かも知れねえ
スキールニル: (ことが起これば機会があるかもな
*やっこさん=バーシルのこと。とかなんとかこっそり話しながら部屋に戻ると、テーブルの上に食べ物の配給が置いてある。
リアド: まあ、楽にしろよ
スキールニル: お
スキールニル: 食い物だ
アル: わおっ!
*テーブルに着くと早速食事。
スキールニル: ボスは閉じこもっちまってるのか
リアド: ああ
リアド: つか会ったことねえわな
スキールニル: 一人で?
リアド: 女とじゃないかな
フィオール: ふーん
スキールニル: 女が殺し屋だったらどうすんだか
リアド: そりゃあれだよ
リアド: 本望って奴さ
スキールニル: へへ
スキールニル: 面白いこというね
リアド: これから忙しくなりそうだ
スキールニル: そうなのか
リアド: でもな
リアド: 死んだら元も子もねえ
リアド: 忠義を尽くす、なんてえな騎士様にでも任せておいて
リアド: 程ほどにやればいいのさ
スキールニル: ああ
スキールニル: ようはボスが死ななきゃいいんだろ
スキールニル: あとは俺たちも
アル: リアドはバーシルって人知らない?
リアド: バーシル?
リアド: 聞いたこと無いな
*食事を終えて話していたところへ、トマッシュが入ってきた。
アル: あっトマッシュさん
トマッシュ: 歓談中悪いね
リアド: ほいよ
スキールニル: いやいいんだ
トマッシュ: 君達4人で、ちょっと屋敷の周りを見回りしてきてくれないかな?
トマッシュ: 一回りするだけでいいよ
スキールニル: わかった
トマッシュ: 今晩の仕事はそれで終わりだと思うよ
アル: は〜い
リアド: ほいほい
*一行は装備を手にとって立ち上がる。
スキールニル: おっと
スキールニル: 出入りするときの
スキールニル: 合図教えてくれよ
アル: あぁそうか
アル: リアドは合図知ってる?
トマッシュ: 君らは必要ない
スキールニル: あーいらないのか
アル: なぁんだ
トマッシュ: いつも見てるからね(ニヤリ)
リアド: だそうだ
スキールニル: よしじゃあいってくる
*一行は館を出た。館の周囲の地形も把握してもらうという意図もあるのだろう。
アル: 時計回り?
フィオール: どっちでも良いんじゃない
リアド: へへへ
スキールニル: あの路地に立ってるのもたぶん味方だよな
*ただの住民にも見えるがそんな事はないんだろう。一行が通っても反応しない所を見るとすでに連絡は行き届いているようだ。トマッシュの「見ている」というのはこういう事なのだ。一行はそのまま館から少し離れたところにも足を伸ばしてみる。館の裏の階段を上って、高台に上がった。この地域の住居のある場所を見渡す事ができるが、建物が混みあっていて見通しの良いものではない。
リアド: お
フィオール: !
*と、二人が同時に物陰に潜んでいる者を察知して警戒した。その直後、男が飛び出して一目散に駆けていく。
スキールニル: おいおまえ!
*スキールニルの呼びかけにも答えない。追いかけようと走り出した一行だったが、風を切って飛んだフィオールの矢が男の背中に深々と突き刺さり、男は絶命した。
フィオール: ふん
フィオール: 一人だけみたいだね
スキールニル: きてやがったか
リアド: なんだこのアホは
フィオール: ただの斥候ってとこかな
スキールニル: 偵察かもしれん
*男が駆け出した方向は住居がある地域とは反対側で手すりがついている。手すりから下を覗き込むと水路が流れていた。この高台は水路を作るためのものらしい。ドックウィル地区は港から、街の反対側までの水路が通る地区であり、それゆえに重要性も高い。だからここの支配権がハイキャプテン選出に影響するのだろう。
スキールニル: 運河か
スキールニル: ここから来ようと思えばこれるか
*さらに身を乗り出してみると、下水とつながっているのが見えた。
アル: 来られそうだね
フィオール: 攻めづらそうだけどね
スキールニル: まあ可能性は低いかな
アル: 斥候とか奇襲にはいいんじゃない?
*というわけで見回り再開。その後は特に異常もなく館付近まで戻ってきた。
フィオール: 異常はなし…かな
スキールニル: 一回り・・・ってこれでいいのかね
アル: 死体だ
リアド: ここらじゃ珍しくも無いぜ
スキールニル: 誰も葬ってやらないのか
アル: 持ち物からすると盗賊だね
*おそらくこの地区で抗争しているどちらか―位置的にはケニス側と思われるが―に手を出して失敗したんだろう。
リアド: 一緒に飲んだ奴が次の日にゃ死体、ってなご時世だ
スキールニル: まあいい戻ろう
スキールニル: 斥候が来たと報告しよう
*一行は館に戻る…と、アルが来てない。
フィオール: アル?
*フィオールが外に戻ってアルを探すと、入り口から少し離れたところにいる乞食の所にいる。
アル: なに?
フィオール: なにやってるの
フィオール: ほら、行くよ
アル: うん
*ところで館に戻ったスキールニルとリアドは、早速トマッシュに報告をしていた。
スキールニル: トマッシュ
トマッシュ: どうだった?
スキールニル: 斥候らしきヤツがうろついてて
スキールニル: 誰何したら襲ってきた
スキールニル: とりあえず殺したよ
トマッシュ: そうかい、そりゃご苦労
スキールニル: 本番があるかもしれないぜ
リアド: さすがにドワーフサン達は頼りになるぜ
リアド: 鮮やかなもんだった
スキールニル: 一人でうろついてたからな
トマッシュ: 毎晩お互い、斥候を送りあってるのさ
*トマッシュは肩をすくめて、やれやれという風だ。いちいち芝居がかっている。そこへアルを連れてフィオールが戻ってきた。
アル: 物乞いしてる人間がいたから1ゴールド上げてきた
フィオール: ああ…
スキールニル: ありゃただの物乞いじゃないんじゃないか
アル: えっ?
スキールニル: 通りの要所要所に配置されてるし
スキールニル: 目の動きが素人じゃねえ
トマッシュ: よくわかってるようだね
*トマッシュはうんうんとうなずく。
アル: じゃお金上げなくて良かったのか…
スキールニル: 功徳だとおもえよ
アル: そうする…
トマッシュ: まあ今日の仕事はこれで終わり
トマッシュ: さあ休んでくれ
*トマッシュは立ち去った。
スキールニル: そうさせてもらうか
フィオール: ふう
アル: おやすみ〜
*と、早速ベットに飛び乗ったアルだったが…
フィオール: ねえアル
アル: えっ?
フィオール: あのさ…
アル: うん
フィオール: 疲れてるかも知れないんだけど
フィオール: ちょっといいかな?
フィオール: 話したいことがあるんだ
アル: なに?
フィオール: その…
フィオール: あのさ、
アル: なにさ?
*フィオールは赤い顔をしている。
アル: どうしたの?
フィオール: ちょっとついてきてくれない?
フィオール: もうちょっと… 静かなところで
フィオール: 二人だけで話したいんだ
*というわけでベットから連れ出されたアル。二人はそのまま黙って部屋を出た。
●フィオールの告白
*フィオールと、彼女に連れ出されたアルの二人は部屋から離れた廊下の隅のところまで来た。フィオールはあたりに誰もいないか確認している。
アル: ?
フィオール: アル…
フィオール: あのさ… 私さ…、
アル: うん(ごくり)
フィオール: す…
アル: す?
アル: どどど、どうしたのさ?
フィオール: 好きになっちゃったの!
アル: えっ!?
フィオール: …スキールニルのこと…
アル: スキールニルを!
フィオール: しーっ!
フィオール: そのさ、こんな気持ちになったのって
フィオール: 初めてなんだ
フィオール: だからどうしていいかわからなくて…
フィオール: それで、その、アルはさ、
フィオール: 何だか話していて安心するっていうか
フィオール: 何でも話せちゃうんだ
フィオール: それで… その、こんなこと…
フィオール: ご、ごめん! 迷惑だったかな?
*フィオールは顔を真っ赤にしている。
フィオール: でもさ… あの人って
アル: 聞いてみようか?
フィオール: えっ?!
フィオール: き、きききききき
フィオール: 聞くって何を?!
フィオール: だ、だめだよ!
フィオール: そんなの
フィオール: あの人ってさ、自分の道のこと以外は
フィオール: あんまり… その、考えていないっていうか…
フィオール: ……
フィオール: 見えていないところがあるよね
フィオール: そういう一途なところが… きっと好きになっちゃったのかも知れないんだけど
フィオール: …でもきっと…
フィオール: うん…
フィオール: 私の入る余地ってない気がするんだ…
アル: でも困ったねぇ
アル: そう言うところが好きなんでしょ?
アル: どうすればいいんだろう?
フィオール: うん… アルなら何かわかるかなって…
アル: いや
アル: 何て言うか
アル: 嬉しかった…かな?
フィオール: アル…
アル: 僕もスキールニル好きだよ
フィオール: うん…
アル: いい奴だ
フィオール: やっぱり何とかしてみる
フィオール: アルと話したら気が楽になったよ
アル: うん、応援するよ
フィオール: …ありがと
フィオール: それじゃ、今日はもう寝るね
フィオール: おやすみ
アル: おやすみ
*一方その頃、部屋に残っている二人は…
スキールニル: うーむ
スキールニル: こんなのでいいのかホントに
リアド: こんなもんだ
スキールニル: まあ楽でいいけどな
スキールニル: 俺たち下っ端はあまり信用されてないってことか
リアド: しかしさっきの戦い振りをみると
リアド: あんた相当場数踏んでるね
スキールニル: 俺が?
スキールニル: いやいや
スキールニル: まだ未熟さ
スキールニル: さっきのも・・・あまりよくなかったな
リアド: ドワーフってのは謙虚なのかな
スキールニル: いやいや
スキールニル: 俺はもっと強くなるつもりだからかな
リアド: ほー
リアド: じゃ、ま、傭兵も訓練のつもりか
スキールニル: まあそんなとこさ
スキールニル: リアドは戦士ではないのか
リアド: そんなかっこいいもんじゃない
リアド: おれはそうだな・・・、いってみればこそ泥だよ
スキールニル: あんたも身のこなしは軽かったな
リアド: ああ
スキールニル: 結構場数踏んでそうだな
リアド: 手先の器用さを買われてる
リアド: そこらの錠前なんかちょちょいっとね・・・
スキールニル: それだけ器用なら
スキールニル: ボスの部屋のぞいてみたりしたことはないのか?
リアド: まさか!
リアド: ボスがどんな女と乳繰り合ってようがしたこっちゃねえし
スキールニル: まあそんなことしたらスパイと間違われるしな
リアド: そのとおり
リアド: 命は大事にしなきゃな
スキールニル: そうだな
リアド: 寝る前に酒でものみてえな
リアド: 切らしちまったよ
スキールニル: お
スキールニル: 酒が残ってた
リアド: おほ!!
リアド: 一口貰ってイイか?
スキールニル: 飲んでいいぜ
リアド: !
リアド: あんた話せるな!!
スキールニル: なに
スキールニル: 傭兵仲間が交流を深めるってのは大事なことだ
リアド: 一口一口・・・
スキールニル: へへへ
スキールニル: 俺にも少し・・・ぐび
*と、二人で一口と言いながら何度も飲む。あっという間に一瓶が消えた。
スキールニル: へへ・・・すぐなくなっちまうな
リアド: ふーい
スキールニル: いい飲みっぷりだな
スキールニル: ドワーフでもなかなかそうはいかねえぜ
リアド: もう酔った
スキールニル: ははは
リアド: そういやさ
スキールニル: ん?
リアド: あんた、ずいぶんボスの事気にしてるな
スキールニル: いや・・・ボスはどうでもいいんだ
スキールニル: 実はな
リアド: *ヒック
リアド: ああ
スキールニル: ボスの護衛に会えねぇかとおもってな
リアド: 護衛??
スキールニル: バーシルってやつがそうらしいんだけど
リアド: ああ
リアド: さっきいってたにゃあ
リアド: バーする、バーシル??
リアド: だっけか
スキールニル: バーシルだ
リアド: なんでそいつをしゃがしてんだ?
スキールニル: そいつの持ってる剣がな
スキールニル: あるドワーフの鍛冶師の作で
スキールニル: その鍛冶師の足跡をたどってるわけなんだが
スキールニル: まあそのバーシルと会わないと話が進まないというわけさ
*と、そこへアルとフィオールの二人が戻ってきた。フィオールはそのまま寝室に行ってしまった。アルはリアドとスキールニルのいるテーブルに相席する。
スキールニル: よう
アル: やあ
リアド: ようよう
アル: ねぇスキールニルさぁ
スキールニル: ん?
アル: 結婚とか考えた事…ある?
スキールニル: まだないな
アル: そっか…
スキールニル: どうした急に
アル: 好きな人は?
スキールニル: あー
スキールニル: フェルバール出るときに振られたのがいるぜ
アル: へぇ
アル: どんな子?
リアド: お?お?
スキールニル: 「旅に出る」ていったらひっぱたかれてそれっきり
リアド: アルは思春期か
アル: 思春期って…
スキールニル: まあ俺もそれほど真剣じゃなかったかも
アル: 気が強い子が好きなのかな?
スキールニル: どうかな
スキールニル: アルは誰かいるのか
アル: いないよ
アル: って事にしておく
スキールニル: アルはもてるじゃねえか俺と違って
スキールニル: 歌も上手いし顔もいいしな!
アル: そんなことは無いよ
スキールニル: 俺なんかはほら
スキールニル: がさつだってよくいわれるよ
アル: そう言うのが好きだって子も世の中にはいるってば
スキールニル: まーそうかもね
アル: あっもうこんな時間か
アル: おやすみ
スキールニル: ああ
スキールニル: よし寝よう
リアド: うう
*アルとスキールニルは寝室へ向いベッドに入る。リアドもふらふらと寝室に向かい、そのまま眠りについた…
●二日目の朝
アル: ふわぁ
リアド: ふわぁぁぁ
スキールニル: よし素振りだ
アル: 僕は朝御飯
フィオール: お、お、
フィオール: おはよ
リアド: おはようさん
アル: おはよう!
アル: 今日は何かな?
*朝食のこと。
スキールニル: 素振りは朝飯前に・・・やる!っと
スキールニル: 左足がもう少しこうだなあ
スキールニル: こう!
アル: まだかな朝御飯
フィオール: ……
スキールニル: 違う
スキールニル: こうか!
スキールニル: あ・・・コレだ
スキールニル: よし素振り終了
*ちょうど朝食が来たので、揃って食事をする。
アル: 食後の運動〜
アル: 1
アル: 2
アル: 3
アル: 終了
スキールニル: 他の傭兵にもバーシルのこと聞いてみるか
アル: そうだね
フィオール: う、うん
スキールニル: むしろトマッシュにきいてしまうか
アル: その方が早そうだね
*食事が終わって、フィオールはすぐに席を立つと寝室へと戻ってしまった。アルはフィオールを追って寝室へと向う。
アル: あのさ
フィオール: …ん、
アル: スキールニル、今は付き合ってる子いないってさ
アル: フェルバールを出る時に振られたらしいよ
フィオール: な、なに?
フィオール: えっ?!
フィオール: き、聞いたの、アル?!
アル: うん
フィオール: わた、私のことは
フィオール: 絶対言わないでね!
アル: そう簡単には言わないよ
*怪しいな。普通にばれそう。
フィオール: うん、そう、そうだよね…
フィオール: ごめん、ありがと、アル
アル: うん
アル: フィオールが言いたくなったら
アル: 自分で言う方がいいと思う
フィオール: そうだね…
フィオール: あの剣一筋の男に
フィオール: いつかあっちから「好きだ」って言わせてみせるよ
アル: 難関だね
*と、二人が話している間、部屋のほうでは…
トマッシュ: おはよう
スキールニル: やあ
スキールニル: トマッシュはバーシルを知ってるかい?
トマッシュ: 護り手バーシルだろう?
スキールニル: ああ
トマッシュ: 有名じゃないか
スキールニル: ここで雇われてるって噂を聞いたんだが
トマッシュ: 四六時中一緒さ
スキールニル: そうか
スキールニル: それじゃあ安心だな
トマッシュ: ?
スキールニル: いや有名な傭兵に護られてるなら
スキールニル: 安心だってだけの話
トマッシュ: そう
スキールニル: 実は一度あってみたいと思ってたんだが
スキールニル: 仕事が終わるまで待ったほうがいいかな
トマッシュ: まあ、今会うのは無理だろうね
スキールニル: そうだな
スキールニル: 今は仕事に専念するぜ
*トマッシュは部屋を出て行った。入れ替わりにアルとフィオールが寝室から出てくる。
アル: どうだった?
スキールニル: やっぱりケニスに付きっきり
スキールニル: 仕事が終わらないとあえないかもしれない
アル: そっか
フィオール: そろそろ抗争のほうも動きがあってもおかしくなさそうだけど…
スキールニル: そうだな
アル: まぁ何事も無ければ会えるよね
スキールニル: 夜明け辺りが危ないかと思ったが
スキールニル: 無事夜明けを迎えたな
スキールニル: 今晩あたりあぶないかもしれないけどな
アル: あの落とし戸から来たりしなければ
アル: 平気でしょ
スキールニル: ああ
スキールニル: だがケニスが魔法使いを雇ってるのを見たろう?
スキールニル: 敵も・・・
*そこへ再びトマッシュが戻ってきた。
アル: おはよう
トマッシュ: さて、今日の仕事だけど
アル: うん
トマッシュ: スキールニルとフィオールは屋敷の出入り口のすぐ近くの坂の辺りを
トマッシュ: 見張ってくれ
フィオール: !
フィオール: OK
スキールニル: 今からってことでいいのか?
トマッシュ: 別命あるまではそうだ
スキールニル: 了解
アル: 頑張ってね!
フィオール: うん!
トマッシュ: 残りの二人は、落とし戸のところを警備だ
アル: あら
リアド: ほいよ
スキールニル: じゃあ今から配置に着くぜ
フィオール: それじゃ
アル: いこっか、リアド
トマッシュ: 何かあればまた連絡が行く
フィオール: アルたちも気をつけてね
アル: うん
リアド: おうよ
*スキールニルとフィオールは外に、アルとリアドは中の警備につくため、それぞれ移動した。
●ふたり
スキールニル: あの坂か
フィオール: ふう
フィオール: この辺を見張ればいいのかな
*スキールニルとフィオールは、館の裏手から高台へと上がる坂までやってきた。先日、ブラッツェン側の斥候が潜んでいた場所、そして下水道の出口に近いほうだ。
フィオール: ……
スキールニル: ふむ
スキールニル: 俺はこのあたりにいる
フィオール: ん、う、うん
スキールニル: フィオールはもう少し下がるか?
フィオール: いや…ここでいいよ
スキールニル: 反対からくるかもしれないから
スキールニル: いざって時のために
フィオール: でも来るならこっちからしかないんじゃない?
スキールニル: まああらゆる状況を考えないとナ
フィオール: そうだね
スキールニル: まああの物乞いもいるからなんとかなるかな
フィオール: …
スキールニル: このへんにしとくか
フィオール: うん
スキールニル: 下もよく見える
*二人は場所を定めると、警戒にあたる。少しの間、黙って辺りを見ていたが…
フィオール: あのさ、
スキールニル: ん?
フィオール: 前に聞いたかもしれないけど
フィオール: スキールニルは今の旅が終わったらどうするの?
フィオール: 旅っていうのは…つまり、その、
フィオール: バーシルに会って
フィオール: 剣のはなしを聞いた後。
スキールニル: バーシルにあったら
スキールニル: ミラバールだな
スキールニル: それが終われば・・・どうするかな
スキールニル: そうだな・・・あまり考えてないな
フィオール: そっか…
スキールニル: ウォーターディープとか・・・いろいろ行ってみたい
フィオール: ウォーターディープか…
スキールニル: 世界は広いからな
フィオール: そうだね・・・
スキールニル: いくらでもいける所がある!
フィオール: 東のほうにずっと行くと
フィオール: コザクラっていう国があるんだって
スキールニル: 初耳だな
スキールニル: どんな国なんだ
フィオール: 変わった剣を使うんだって
スキールニル: ほう
スキールニル: 面白そうだな
スキールニル: そういやフィオールはどうすんだこのあと
フィオール: えっ?
フィオール: あ、あたし?
スキールニル: ああ
フィオール: あたしは…
フィオール: 前も言ったけどさ、
フィオール: 身よりも何もないし
フィオール: やりたいことも…ないんだよね
スキールニル: そうなのか
フィオール: 昔はそれで結構荒れてさ
フィオール: 野良猫みたいな生活してた
スキールニル: すごい野伏になるとかそういうのないの?
フィオール: そうだね…
フィオール: 今はこういう生き方が楽しいってことを師匠が教えてくれたからそう生きてる
フィオール: でも腕をあげて…
フィオール: それからどうするんだろう?
フィオール: っていう疑問はあるかも知れない
スキールニル: そうなってから考えるよ俺は
フィオール: はは…
スキールニル: そうなってからでも遅くないしな
フィオール: そう、かもね
スキールニル: 逆だったら悲惨だぜ
スキールニル: 何もせずにある日突然
スキールニル: ああコレがやりたかったのに・・・ってさ
フィオール: でも…
フィオール: 強くなるためには何かを
フィオール: 犠牲にしなきゃいけないときもあるんじゃない?
フィオール: そういう時…
スキールニル: そうなのか?
フィオール: 自分は何のために、って思わないかな?
スキールニル: 俺は全然考えたことないな
フィオール: そっか
スキールニル: まあ俺は昔からよく考えないで動くからね
*しばしの沈黙。
フィオール: 誰も来ないね
スキールニル: 真昼間だしな
フィオール: アルとハーフリング
フィオール: 大丈夫かな
スキールニル: 大丈夫さ
スキールニル: リアドは思ったよりずっと信用できそうだ
フィオール: そう?
スキールニル: ああ
フィオール: でもあの男はきっと自分が危なくなると
フィオール: 逃げ出すと思うよ
スキールニル: それは誰だってそうじゃないか?
フィオール: ああ、こういえばいいかな
フィオール: 自分が危なくなると「真っ先に」逃げ出す
フィオール: だから少なくとも…背中は任せられないね
スキールニル: まあ俺だって任せたりはしないけどね
スキールニル: だがここラスカンで
フィオール: !
*スキールニルが何かを言おうした時、隠れながら水路を上がってきた男をフィオールが見つけた。男は気付かれた事に気が付いて、すぐに身を翻すがその背中にフィオールの矢が刺さる。駆け寄ってみると、男の死体が水路を流れていくのが見えた…
スキールニル: 斥候かな
フィオール: 一人だけ…?
スキールニル: 俺が見たのはね
スキールニル: 隠れる場所もそうはないし
フィオール: うん…
スキールニル: ただの斥候であって欲しいが
スキールニル: とりあえずは平気そうだな
フィオール: (なんか肩透かし食っちゃったな…
*と、館のほうからトマッシュが歩いてくるのが見えた。近くまで来ると手を振ってくる。
スキールニル: トマッシュ
スキールニル: 一人来たぜ今
トマッシュ: ん
スキールニル: そこに死体がある
トマッシュ: ああ、一人だったろう
スキールニル: 斥候か?
フィオール: みたいだったけど
トマッシュ: ハイキャプテンが4人決まったときに
トマッシュ: 街中での戦闘は基本的に禁止されているんだ
スキールニル: そうなのか
トマッシュ: だから街中をゾロゾロとは来ないさ
フィオール: あっちもおおっぴらには仕掛けて来れないってことか
スキールニル: てことはかえって怖いな
トマッシュ: あはは。こちらの斥候も、指とか頭だけになって毎日帰ってくるよ
フィオール: はっ
スキールニル: ラスカンの裏街道の戦いとなると俺もからっきしだ
トマッシュ: まあ、続けてよろしく頼むよ
スキールニル: いずれにしても今はこうやって斥候をしとめるしかないんだな?
トマッシュ: 期限はあと2日。もうやることは決まってるんだよ
トマッシュ: お互いにね
スキールニル: わかった
*トマッシュはニッと微笑むと、館に戻っていった。その後姿を見送りながら…
フィオール: でも…
フィオール: こんな散発的に戦力を小出しにしてきて
フィオール: あっちは本当に勝てるとは…思ってないよね
スキールニル: わからないな
フィオール: 何を狙ってるんだろ
スキールニル: こういう戦いははじめてだ
スキールニル: なにか・・・企みがあると厄介だな
フィオール: …
スキールニル: この坂に意識を集中させる罠・・・にしてはお粗末だしな
スキールニル: お互い膠着してるってことなのかもナ
フィオール: でも泣いても笑ってもあと二日…
スキールニル: 長くなりそうだ
フィオール: そろそろなりふり構わずに攻めてきてもおかしくはないよ
スキールニル: なりふりかまわないってのは怖いな
フィオール: ……
*時間は戻って、一方、アルとリアドの二人は…
リアド: ようよう
リアド: 今日の見張りはオレっちと
リアド: アルだ
*と、廊下の警備に挨拶しながら落とし戸のある倉庫へと向う。
アル: ふう
アル: 扉が多くて大変
*倉庫に入ると、落とし戸が見張れる位置に陣取る。
アル: ここから忍び込んできたやつって今までいるのかな?
リアド: 知らないな
リアド: けどな
リアド: アル、実はな・・・
アル: なに?
リアド: この下水ってさ
アル: う、うん
リアド: ブラッツェンのアジトと繋がってるんだぜ
アル: えっ!?
リアド: へへ
リアド: うちのボスと、ブラッツェンはさ
リアド: 昔は仲間だったんだ
リアド: だから隠し通路があるって話さ
アル: そうなんだ
リアド: どうだ、アル
リアド: いっちょここからやつのアジトに忍び込んで
リアド: 首を取ってコイよ
アル: そんなの無理だよ
アル: 僕はコロシヤじゃないからね
アル: それにきっと向こうだってこんな感じの所に出るんでしょ?
リアド: たんまり褒美もらえるぜえ
アル: そりゃ褒美は貰えるかもしれないけど
アル: 命がなくなるよ
リアド: 違いない
アル: それにしても…
アル: そんな穴なら
アル: 塞いだ方がいいのにね
リアド: まあイロイロと役に立つんだろうさ
アル: 死体を捨てる?
リアド: そういうこともあるな
アル: はぁ…ホント、物騒な街だねぇ
リアド: だから稼げるのさ
リアド: こないだのネヴァーウィンターなんか、すごかったからな
アル: へぇ
アル: ネヴァーウィンターに行ったの?
リアド: いたさ
リアド: 滅茶苦茶だったぜえ
アル: 大変だったんでしょ?疫病で
リアド: ああ、ひどいもんだったよ
リアド: 散歩歩けば死人にぶつかる、ってなもんさ
アル: 良くそんなところに行く気になったね
リアド: 閉じ込められたんだよ
アル: うへっ
リアド: けど、おかげで仕事にはありつけたぜ
アル: 良く生きて出られたね
アル: 運がいいんだ、リアドは
リアド: 町の守備を預かる女パラディンがさ
アル: う…うん
リアド: 敵に寝返って攻めてきたんだぜ
アル: そうらしい…ね
リアド: そのときに傭兵として参加したんだけどさ
リアド: もう戦いはそこそこにしてさ、・・・まあ、いろいろと・・・
アル: へぇ
アル: 両手に斧を持ったドワーフは見た?
リアド: ドワーフは沢山いたけど
リアド: あんたの言うのはもしかしてあれか?
アル: そう”英雄”の事
リアド: アイアンハンマーか
アル: そうそう
リアド: あいつの財布をくすねる気にはならなかったな
アル: 面白い冗談だね…
アル: 凄い人だよね
リアド: あんたもドワーフなんだから、あのくらい斧振るえるんじゃないのか?
アル: 無理無理
リアド: ほう
アル: あの人は特別さ
アル: 別次元の人だね
リアド: ほー
アル: スキールニルが全然かなわないんだもの
リアド: スキーニー
リアド: のダンナ、やりあったのかい?
アル: 練習試合だけどね
リアド: そりゃすげえや
*と、突然ドアが開いてアルはびっくりしたが、現れたのはトマッシュである。
アル: あっトマッシュさん
アル: 何かあったんですか?
トマッシュ: こちらは異常なし…か
リアド: なしなし
アル: えぇ
トマッシュ: いつもの斥候合戦さ
トマッシュ: 今日はこちらは1人、向こうも一人
トマッシュ: きりがないな
アル: どの程度向こうの状況を掴んでいるんです?
トマッシュ: 状況ねえ
トマッシュ: 正直、こちらも向こうも同じ事を考えていると思うよ
アル: 同じ事?
トマッシュ: ああ、街中での戦いは他のハイキャプテンの手前できないんだ
アル: つまり奇襲作戦…ですね
トマッシュ: そうなると、使えるのは一つしかないだろ
トマッシュ: あのおとし戸の下…
アル: やっぱりこちらもここから送り込むつもりなんですか?
トマッシュ: そうなるだろうね
アル: だから塞がない…
トマッシュ: まあ俺は戦闘要員じゃないから戦いはしないけど
アル: はぁ…
トマッシュ: それじゃ、続けてここを頼むよ
アル: は〜い
リアド: ほいよ
トマッシュ: いきなりワラワラ上がってくることはない。この下にも人はいるんだから
アル: うへっ
アル: この下にいるんだ…
リアド: 死体かも知れないけどな
アル: その仕事は受けたくないね
●下水道の中の戦争
*そのまま時間は過ぎて、夕暮れ時。
アル: このまま何もないといいなぁ
*倉庫を警備するアルとリアドの所へトマッシュがやってきた。
アル: あっ
アル: どうも
トマッシュ: さて
トマッシュ: 予想通りの動きが出たよ
アル: *ドキ*
トマッシュ: 君らはこのままここに待機しててくれ
リアド: 予想通り
リアド: ほいよ
*言いつけてトマッシュはすぐに外に出て行く。
アル: く、来るのかな?
リアド: なにやらあわただしいな
アル: *ぶるぶる*
リアド: アル
アル: ななな、なに?
リアド: オレ達チームとしてはな
アル: ううう。うん
リアド: オレはさ、手先も器用だしさ
アル: そのようだね
リアド: さくっと首を掻っ切ったり出来る訳よ
アル: ひぃ…
アル: 物騒なこと言うね
リアド: でもそれにはさ、敵の注意をひきつけてくれる、いわゆる壁役がいると、より、やりやすいんだよな
リアド: だから、あんたにゃそれをお願いするぜ
アル: わわわ、分かったよ
アル: やってみる
*アルとリアドがそんな話をしている間、外では…
スキールニル: いい時間になってきたな
フィオール: もう日が暮れるね…
スキールニル: 攻めるのにいい時間か
スキールニル: 昨日も夜に偵察が来たな
*スキールニルとフィオールの元に、突然トマッシュが現れた。どうやって来たのかはわからないが。
トマッシュ: 二人とも来てくれ
フィオール: ?
スキールニル: どうした?
フィオール: どうしたの、血相変えて
トマッシュ: ここは彼らにまかせてくれればいい
*彼ら=見張りの人たち
トマッシュ: 向こうで説明する
*トマッシュに付いて倉庫に向かう二人。倉庫で何かあったのかと不安になったが…
フィオール: 二人とも!
フィオール: よかった、大丈夫だったね
スキールニル: 何があった?
アル: 良かった無事だったんだね
トマッシュ: さて、お互い手詰まりのままこの時期になって
トマッシュ: やることは一つしかないってわけさ
スキールニル: 暗殺か?
アル: 少数精鋭による…ね
トマッシュ: ブラッツェンが下水道に兵隊を集結中だ
アル: 規模は?
トマッシュ: かなりのもんだ
アル: げっ
アル: 力押しか
フィオール: どうするの?
トマッシュ: ま…お互い最終決戦ってわけさ
トマッシュ: 下水道で、殺し合いなんて最高だな!
*トマッシュは肩をすくめた。
スキールニル: 罠を仕掛けて防ぐわけには行かないのか
トマッシュ: それもいいが
トマッシュ: ともかく君らには下水道に降りて
アル: !
トマッシュ: ブラッツェンの手下を皆殺しにしてもらいたいんだ
スキールニル: なるほど
アル: 一番最悪の命令が来ちゃったね…
トマッシュ: 下にはうちの傭兵もいる。彼らと相談して上手く戦ってくれ
フィオール: 館に入られたらもう終わったも同然…
フィオール: となれば行くしかないか
スキールニル: そうだな
アル: 行きたくは無いけどね
トマッシュ: 4人だけで突破しようなんてするんじゃないよ
スキールニル: そこまで馬鹿じゃないぜ
アル: はぁ…
アル: 綿頂戴…鼻に摘めるから
フィオール: ?
アル: 外でもあんなに臭うのにさ
フィオール: ああ
スキールニル: まあしかたないな
アル: そのまま入ったらマジに戦えないよ
スキールニル: いっちょ「汚れ仕事」といくか
フィオール: うまいこと言うね
トマッシュ: 下に行った後は、傭兵の君たちに任せる
トマッシュ: ボスの命令は一つだけ
トマッシュ: 敵を皆殺しにして、ブラッツェンの屋敷の入り口を押さえることだ
アル: へ〜い
トマッシュ: 抑えたら、その場で待機してくれ
トマッシュ: 攻撃部隊が突入する
スキールニル: わかった
トマッシュ: じゃあ下に下りよう
スキールニル: よし
トマッシュ: おっと、そうそう
フィオール: ?
トマッシュ: 俺は戦闘は専門外だから、戦力として期待するんじゃないよ?
スキールニル: わかったよ
アル: 一緒に行くんだ
アル: 働き者だね
*一行は落とし戸を開いてハシゴを使い下に降りていく。下からは人の気配や話し声が聞こえてくる。思ったよりも大人数がいるようだ。下に下りると、そこはパイプや水道を調整する機械などがあるものの比較的広く、テーブルや椅子などもあってニオイさえ気にしなければ待機できるようになっている。その部屋と、隣の部屋には戦士、射手、魔術師などが集まっていた。
トマッシュ: さて、まず
トマッシュ: ここを取られたらここでの戦いは負ける
スキールニル: ここを護りながら攻めればいいんだろ
トマッシュ: おれはここに残るから、援軍が必要なら
トマッシュ: 上から連れてくる
トマッシュ: ただし
トマッシュ: 当然、上の護りは弱くなるから
トマッシュ: 注意してくれよ
スキールニル: なるほど
トマッシュ: 下水道の地図を渡す
*トマッシュは全員に地図を渡す。DMが全員の地図表示を公開にしたというわけだ。
トマッシュ: あとは彼らと相談して上手くやってくれ。
*彼ら=他の傭兵やケニスの部下達、今下水道に集まっている味方の事。ここでトマッシュは戦闘要員じゃないから出て行かないという事になっているのは、まあゲーム的な展開というやつ。ここは待機しているNPCをPCが「説得」する事によって自分を追尾させたり、移動先で待機させたりできるので、うまく味方NPCを誘導しつつこの部屋に向かってくる敵NPCと戦うという仕掛けになっているわけだ。もちろん下水道内は一本道ではない。今回の仕掛けについてトマッシュのセリフだけでは理解しにくいと思うので、DMとして仕掛けを説明する。
スキールニル: (皆腕はいいようだが・・・装備はそうでもないな
フィオール: 過度の信頼はできないってことか
スキールニル: さて作戦会議といこう
スキールニル: 中央に橋が二つあるようだな
アル: うへっ
スキールニル: まずそこを抑えたほうがいいな
フィオール: そうだね
スキールニル: まずは様子を見ないと仕方がないな
フィオール: そうだね
スキールニル: 魔術師と射手は
スキールニル: 俺じゃないやつが指揮してくれ
スキールニル: 歩兵は俺が指揮する
フィオール: アルいいかな?
アル: なに?
フィオール: 射手と魔術師の指揮
アル: うん
スキールニル: リアドはローグを
*というわけで作戦について他の傭兵(味方NPC)に話す。納得した者は従うようだが、(説得に失敗すると)ここに残るという者もいる。
フィオール: OK
フィオール: いつでも行けるよ
スキールニル: よし
スキールニル: まず偵察を出して様子をみるか
スキールニル: リアドも偵察に出れるか?
リアド: うへぇ
リアド: やれない事は無いぜ
スキールニル: んじゃ南側を
スキールニル: フィオール北側
フィオール: 行く?
スキールニル: 罠があるなら南の橋あたりにしかけて
スキールニル: 味方をその後ろに配置したいところだな
アル: 僕は?
スキールニル: 俺とアルはとりあえずは本隊として待機
スキールニル: 少し前に出るくらいかな
スキールニル: てところだ
スキールニル: あまりちゃんと作戦立ててる余裕もナイしな
フィオール: そうだね
フィオール: こうして話してる間にも敵は準備を整えてるだろうし
スキールニル: では偵察頼むぜ
リアド: おうよ
スキールニル: 危なくなったらさっさと逃げてきてくれ
*というわけで戦闘開始。敵は要所を防衛する部隊を配置しつつ、攻撃隊がケニス側の陣地に攻めて来る、という作戦。ちなみにステルスしたローグが単体でも本部を狙って移動している。うまく見つからず遭遇もしなければローグが突然陣地に現れてトマッシュがやられるという仕掛けもある。
フィオール: 結構出てきてるな
*北側を偵察するフィオールは敵の集団を発見した。一方、中央部の橋手前まで移動したスキールニルとアルは敵の防衛部隊を発見する。ここが要衝なのは明らかなので、敵も大きな部隊を配置しているようだ。
スキールニル: 来てるな
スキールニル: アルはここで待機
アル: 分かった
スキールニル: 南はどうだ?
リアド: おおっと
リアド: ゴキブリどもの登場だぜい
スキールニル: ゴキブリ?
リアド: だいぶ遠くだけどさ
リアド: ごっついやつが歩いてた
リアド: 警戒してるだけみたいだ
スキールニル: そうか
*南側を偵察していたリアドは敵の攻撃部隊を発見してスキールニルに知らせる。一方、フィオールは数人の味方を説得して北側の敵部隊の進入に備えたが、角を曲がったところで敵攻撃部隊と鉢合わせてしまった!そのまま乱戦に突入してしまう。
フィオール: くそっ
フィオール: 狭い道に
フィオール: 密集しすぎだよ
*敵味方入り乱れる乱戦になってしまい、集団戦に慣れないフィオールは苦戦してしまう。北側での戦闘が味方不利の報を受けたスキールニルはアルを援護に向わせる。中央は睨み合いが続いている。
スキールニル: アルは進軍
アル: どっちに?
スキールニル: フィオールのほうだ
スキールニル: リアドこちら側は罠も使おう
*と、その時、アルの部隊が移動したのを見た中央の敵部隊は進軍を開始する。
リアド: ひゃっほう
リアド: 敵さんのお出ましだ
スキールニル: ここを俺が抑える
スキールニル: ここから南に罠を大量にたのむ
リアド: ほいよ
*南側は現状、味方が数人防衛しているだけだ。敵が侵入してきた時、罠で時間を稼げれば…というところか。しかし味方の分散によって敵に中央突破の可能性を考えさせてしまったため、中央橋付近も激しい戦闘に突入する。一方アルの向った北側では…
アル: うわ
アル: 全滅?
フィオール: うん…
*敵は北側で有利と見たか戦力を大量に投入していた。アルの部隊が合流したものの…
フィオール: きた
フィオール: 二人
*と、次々に部隊を差し向けてくる。アルとフィオールは厳しい状況だったが、その分中央付近では援軍が少なく、また罠を仕掛け終わったリアドが戻ってきて弓で援護するようになってからは有利に戦いが進んでいた。
スキールニル: よし
スキールニル: いいぞ
*結果、中央橋付近ではケニス側の勝利となった。こちらの被害も甚大ではあるものの…。スキールニルの部隊とリアドはそのまま中央と南側を制圧に掛かる。
リアド: 魔術師らしき奴だ
リアド: こわいぜい
スキールニル: 魔術使いか
スキールニル: 取り巻きはいたか?
リアド: 見てくる
リアド: 一人だ
リアド: 一気にやっちまうか
スキールニル: 殺す
*一方、北側はギリギリの戦いではあるものの、少しずつ進軍していた。
フィオール: この!
フィオール: アル!
アル: 平気
フィオール: はあ…はあ…
フィオール: もう包帯が一つしかないよ
アル: 僕もだ…
*その頃スキールニル達とリアドのほうは、リアドが偵察して敵をおびき寄せ、部隊(といってもだいぶ戦線離脱してしまったが)で倒すという形で順調に進んでいた。
スキールニル: ちょいと兵がへっちまったか
リアド: 扉の前に二人だ
リアド: おっと3人
スキールニル: ちょっとまっててくれ
リアド: おうよ
スキールニル: なんとかいけるかな
リアド: 向こうにもいるな
スキールニル: そいつらやろう
リアド: 挟み撃ちにされるぜい
スキールニル: ち
スキールニル: それはまずいな
スキールニル: 誘い出せるか?
リアド: やってみよう
*アルとフィオールの部隊はほぼ全滅した状態となってしまっていた。フィオールが先行して敵がいないか注意深く警戒していると…角から人影が現れた!フィオールは準備していた弓を引く!
フィオール: !
リアド: 敵じゃないぜ!
リアド: 射掛けないでくれよな
*というわけで合流。違うルートを進んだ二部隊が合流したという事はほぼ制圧したということだ。
フィオール: ふう…
アル: 良かった
フィオール: スキールニル
フィオール: そっちは無事?
スキールニル: 上手くいったようだ
スキールニル: あぶなかったけどね
フィオール: まったく…割に合わないわね
スキールニル: 一気に行こう
*残すはブラッツェン邸への進入路があると思われる部屋だけだ。事前の偵察で、かなりの人数が立てこもっているらしい事がわかっている。一行は一気に突入した!ケニス邸の地下と似たような作りの部屋に敵が5.6人いる。扉で戦士が待ち構えており、その奥に魔術師がいる。セオリー通りだが、部屋で戦うには効果的な布陣である。激しい戦闘の結果、アルが酷くやられてしまったものの、なんとか勝利する事ができた。
フィオール: なんとか… かたづいたみたい
リアド: 上へのはしごだ
スキールニル: ふう・・・・
スキールニル: アル大丈夫か
アル: あんまり…
リアド: うへ
フィオール: いま
フィオール: 包帯巻くよ!
リアド: 頼むぜい
*フィオールは矢も尽きてしまい、全員傷だらけだ。一行に付いてきてくれた味方も3人を残すのみとなってしまった…。上から敵が降りてくる可能性を考えてハシゴから離れて取り囲むような位置に陣取ると各自、自分の怪我の具合や装備を確認する。そうしているうちに…
トマッシュ: 上手く行ったな
*と、満面の笑みでトマッシュがやってきた。
アル: もう駄目…
アル: へとへとだよ…
スキールニル: 危なくやられるところだった
*トマッシュは一行を見回して少し思案してから、スキールニルとフィオールにポーションを手渡した。飲むと一気に体力が回復し、怪我が良くなった。相当貴重なポーションに違いない。
トマッシュ: 二人分しかないんだ
トマッシュ: スキールニルとフィオールは
トマッシュ: 上の館に戻ってくれないか
スキールニル: アルひどい怪我だな
アル: 血が止まらないんだ…
リアド: 矢が刺さっちまってるな
スキールニル: 俺の包帯使うぞ
アル: 有り難う!
フィオール: 上の館?
トマッシュ: この戦いはこちらの勝利だと思うが
スキールニル: ああなるほど
スキールニル: わかった
スキールニル: あっちを護るぜ
フィオール: 守りにつけってことだね
スキールニル: 包帯がたりなくなっちまったな
フィオール: 仕方ないよ
トマッシュ: もしかしたら、少数精鋭で街中を来る作戦があるかもしれない
トマッシュ: 今日頼んだ坂を警護してくれ
フィオール: わかった
スキールニル: わかった
フィオール: それじゃいこ、スキールニル
トマッシュ: 残りの二人はこのままここを抑えてくれ
アル: ひえ!
トマッシュ: すぐに援軍をよこすよ
アル: なるべく早くね…
リアド: ほいよ
フィオール: アル…無理しないでね
スキールニル: じゃあ坂に向かう
アル: うん
アル: 生きてたらまた会おうね
フィオール: ははっ
フィオール: 縁起でもないこというもんじゃないよ
スキールニル: 生きてるに決まってるだろ
アル: もう魔法も包帯も無いんだよ…
フィオール: 大丈夫
フィオール: スキールニルの…
フィオール: 背中はさ、あたしが守るから!
アル: 頼むね
スキールニル: 頼もしいな
スキールニル: リアド
スキールニル: 危なくなったら逃げるんだぜ
リアド: おうよ
リアド: 言われなくても逃げる事に関しちゃ一流よ
スキールニル: 勇敢だよあんたは
スキールニル: さっきも見せてもらった
フィオール: 正直ここまできつくなる前に
フィオール: あんたは逃げると思ってたよ
フィオール: 悪かったね
リアド: これから逃げるのさ
*スキールニルとフィオールの二人は部屋を出て行った。
トマッシュ : 残った連中をこっちによこすよ
トマッシュ : 上から敵が降りてくるかもしれないからさ
トマッシュ : はしごから離れて
アル: コナイといいなぁ
アル: 休みたいけど休めそうにないね…
*トマッシュは言ったとおりに、すぐに残った戦力を連れて部屋に戻ってきた。
トマッシュ : じゃ、おれは離れたところにいるから、頼んだよ
*トマッシュはそう言い、さわやかな笑顔を残して、部屋から出て行った…
アル: *むっ*
●フィオール
*スキールニルとフィオールは指示のあった坂にやってきた。外の空気は冷たく澄んでいる。すでに時刻は深夜を過ぎ、あと少しすれば、空も白み始めるだろう。さっきまでの下水道での戦いが嘘のように街は静まりかえっている。
フィオール: この仕事が終わったらさ、
フィオール: スキールニル
スキールニル: ん?
フィオール: あたしも…一緒に行ってもいいかな?
スキールニル: いいよ
フィオール: 本当?!
スキールニル: ああ
フィオール: ありがと…
スキールニル: 旅は道連れってね
スキールニル: 頼りになるしな
フィオール: まだぜんぜん修行中だけどね
スキールニル: それなら俺だってそうさ
フィオール: ふふっ
フィオール: …静かだね
スキールニル: ああ
フィオール: さっきまでの喧騒が嘘みたい
スキールニル: ここもそうなるかもしれないし
スキールニル: 油断はできねえ
フィオール: ……
フィオール: スキールニルのさ
スキールニル: ん?
フィオール: その…友達って
フィオール: どんな人?
スキールニル: 誰のこと?
フィオール: いつも「あいつ」って呼んでる人のこと
スキールニル: あー
スキールニル: フンディンか?
スキールニル: 俺の義理の親父の甥だな
フィオール: つまりいとこってこと?
スキールニル: まあそういえなくもないね
フィオール: その人も…剣士なの?
スキールニル: そうだなあ・・・戦士としてはまずまずじゃないか
スキールニル: 腕だけ言えばね
フィオール: どういうこと?
スキールニル: でもまあどこか抜けてるというか
スキールニル: おぼっちゃんというか
フィオール: ああ、そういうの
スキールニル: 頭が固いって言うか
フィオール: そういうスキールニルも十分頭が硬いんじゃない?
スキールニル: そうか?
*外の新鮮な空気と、白み始めた空が二人の気分を軽くしていた。しかしその空気を鋭いささやきが切り裂く。
物乞い: しっ
スキールニル: ん?
物乞い: 誰か来るぞ
フィオール: ?
フィオール: !
スキールニル: !
スキールニル: あの鎧は!
*漆黒の鎧に身を包み、同じように漆黒に染まった大剣を担いだドワーフがいた。物乞いは素早く駆け出して、そのドワーフに斬りかかる。だが漆黒の大剣が一閃すると、物乞いは崩れ落ちた。
フィオール: !?
フィオール: (つ、強い…!
スキールニル: あんた・・・ギルフォスか
ギルフォス: スキールニル
ギルフォス: お前もやはり来ていたか
スキールニル: こんなところで何を?
スキールニル: ディフェンダーか?
ギルフォス: 今のおれはブラッツェンに雇われているが
ギルフォス: 正直どうでもいい
スキールニル: あの剣が狙いなんだろう?
ギルフォス: さて、どうするんだ?スキールニル
スキールニル: アンタは何者なんだ
ギルフォス: おれと一緒に行くか?バーシルに会えるぞ
ギルフォス: おれの目的は剣だけだ
スキールニル: なぜフンディンの作品を集めてる
ギルフォス: 我が種族の宝、人間が持っているなら殺してでも奪うだけだ
ギルフォス: ケニスに雇われているのか?スキールニル
スキールニル: 雇われている
ギルフォス: なら、やつを裏切っておれにつけ。そうしたら剣をお前に預けても良いぞ
フィオール: あんたのやり方… 気に入らないね
スキールニル: それにディフェンダーはまっとうに人間の手に渡ったんじゃないのか
スキールニル: だったら人間のものであってもいいはずだ
ギルフォス: なぜ、我が種族が誇るべき宝が人間なんぞの
ギルフォス: 手に渡らねばならんのだ
スキールニル: 所詮モノだろう
ギルフォス: 結果、こんなくだらない殺し合いに使われているんだぞ
スキールニル: そうまでして護るほどのものか?
ギルフォス: そうだ。
スキールニル: あんたとは戦いたくないんだ
スキールニル: ここは引いてくれ
ギルフォス: ならばお前が引け、スキールニル
フィオール: …
ギルフォス: おれもお前と戦うのは本意ではない
ギルフォス: おれは引く気はないぞ?
スキールニル: そうか
スキールニル: 俺も戦士だ
スキールニル: 引けといわれて簡単に引けるはずもない
ギルフォス: お前が引かないのなら、仕方ない
ギルフォス: 俺の剣は呪われし剣、傷つけば唯ではすまんぞ
スキールニル: (フィオール逃げろ
スキールニル: (危険だ
フィオール: 私は逃げないよ
ギルフォス: 人の心配をしている場合か…行くぞ、スキールニル
スキールニル: 通りたいのなら通れ・・・黙って通すかどうかは別の話だ
スキールニル: いくぜ
*スキールニルは吼えながらギルフォスに突進した。スキールニルの大剣は弧を描きながら振り下ろされる。そのまま行けば、ギルフォスの肩から入って心臓にまで達するであろう一撃。ギルフォスの体勢と剣の軌跡、スキールニルの剣の軌跡が、その時、フィオールにははっきりと見えた。そしてその結末も…自分にできる唯一の事も…フィオールは理解した。
フィオール: スキールニル!!
*二人の剣の軌道が交差し火花を散らす。剣を跳ね上げられて体勢を崩したのはスキールニルのほうだった。無防備になったスキールニルに対して、ギルフォスはすでに剣を引き戻し突きの体勢に入っている。
フィオール: やらせない!
*スキールニル、ギルフォス、そしてフィオール。三人の影が交差した。
ギルフォス: …
スキールニル: !
*ギルフォスの大剣は飛び込んできたフィオールの体に深々と突き刺さり、突き抜けた剣先はスキールニルに届いてはいなかった。
ギルフォス: …まさか…飛び出してくるとは…
スキールニル: フィオール!
*スキールニルはフィオールに駆け寄った。フィオールを抱き抱えながら言葉を搾り出す。
スキールニル: ギルフォス・・・お前の勝ちだ
*だからスキールニルは気が付いていなかった。その時ギルフォスはそのフルフェイスヘルムの奥で、ひどく狼狽していた事に。その声が微かに震えていた事に。
ギルフォス: その女に免じて、留めはささん。スキールニル
*ギルフォスは立ち去った。スキールニルはフィオールの傷の状態を調べたが、どう見ても絶望的だった。
スキールニル: ・・・・
フィオール: ス…
フィオール: スキール…ニル…
スキールニル: フィオール!しっかりしろ
スキールニル: 大丈夫だ・・・傷は浅い
フィオール: もう…何も…
フィオール: 見えない…
フィオール: スキールニル…
スキールニル: 大丈夫だ・・・俺はここにいる
*スキールニルはフィオールの手を取ったがまるで力がない。
フィオール: あたしさ…
フィオール: あなたのこと…
スキールニル: なんだい?
フィオール: 好き…だった…
スキールニル: ああ・・・
スキールニル: だった・・・じゃねえだろ馬鹿
*目に涙が滲み、視界が揺れる。
フィオール: ……
スキールニル: 好きなんだろうが!
フィオール: はは… そうだ…ね…
スキールニル: 俺もお前が好きだぜ
スキールニル: 一緒に旅するって言ったろうが!
フィオール: 一緒に…さ…
スキールニル: ああそうさ
フィオール: うん…ウォーター…
フィオール: ディープ…
フィオール: 行くんだよね
スキールニル: ああ・・・
スキールニル: その・・・なんだっけ
スキールニル: 東の国
スキールニル: そこにも行こう
フィオール: うん…
フィオール: あのさ…スキールニル…
スキールニル: もうすぐ助けが来るから・・・がんばれ
フィオール: ひとつだけ…
スキールニル: なんだ?
フィオール: お願いしても…いいかな…?
スキールニル: ああ何でもきくよ
フィオール: キス…して…
スキールニル: なんだそんなことか
*スキールニルは、フィオールにくちづけを…しかし、唇が触れ合う前に、フィオールは永遠の眠りについていた。
スキールニル: うおおおおおおお
*スキールニルの叫びが、白んだ空に響き渡った…
●さようなら、フィオール
*ケニス側の攻撃部隊がブラッツェンの館に侵入した頃、ケニスは勝利を確信した。黒い鎧のドワーフが自分の部屋の扉を破壊して現れるまでは。バーシルのディフェンダーに手こずったギルフォスだったが結果としてディフェンダーは奪われ、背を向けて帰ろうとしたギルフォスに隙ありと向ったケニスは返り討ちにあう。ケニス死亡の報は、ケニス一派を駆け巡り、頭を潰された集団は散り散りになって逃げ出した。その混乱の中、リアドに導かれたアルは館からの脱出に成功する。そしてスキールニルとフィオールの元に向ったのだが…
アル: えっ?
アル: フィ…フィオール?
アル: どういう事?
スキールニル: ホントは・・・俺がこうなってるはずだったんだ
スキールニル: フィオールは・・・俺をかばって・・・
アル: 嘘…
アル: しんでないよね?
アル: 気絶してるだけなんだよね?
スキールニル: 休んでるよ・・・モラディンのもとで
アル: フィオール、起きてよ
アル: ねぇ
アル: フィオール
スキールニル: ・・・もう、起きないんだ
アル: フィオールゥ!
アル: 嘘だよ…こんなの
アル: こんなのってないよ
アル: 折角仲良くなったのに
スキールニル: 嘘じゃねえんだよアル・・・すまん・・・
リアド: ここじゃこれが日常なんだ・・・
アル: 謝らないでよ…
スキールニル: 俺が・・・ヤツに負けた所為だ
リアド: ・・・
アル: 謝ったら僕…
スキールニル: あいつがきやがったんだ
スキールニル: ギルフォスがな
アル: スキールニルを責めちゃうよ
スキールニル: 責めてもいい
スキールニル: 責められて当然だからだ
アル: ギルフォスがやったの?
アル: なんで?
スキールニル: 俺とやつは戦い・・・俺は負けた
アル: ギルフォスなんて関係ないじゃん!
スキールニル: やつは・・・バーシルの剣を狙ってたんだ
アル: なんであの男がここに…
アル: !
スキールニル: 最初からそういうことだったんだ
スキールニル: やつが何者かは知らん・・・どういうつもりなのかも・・・
アル: それで…それでフィオールは…しん…しんだって言うの?
スキールニル: ・・・・・
アル: フンディンのじいさんが作った武器の所為で
アル: その所為でしんだの?
スキールニル: 武器の所為じゃないさ
スキールニル: 武器には意志がないからな
アル: じゃあなんでさ!?
スキールニル: ・・・俺にもわからなくなってきたよ
アル: なんでこの子が死ななきゃいけないんだよ…
アル: あんまりだよ…
スキールニル: ああ
アル: なんで…なんでスキールニルがついていながら…
スキールニル: すまん
スキールニル: あの男に全く歯が立たなかった
アル: だからって…だからって…!
アル: あんまりだよ!
アル: もっといっぱい色んな事話したかったのに
スキールニル: そうだな・・・
スキールニル: 一緒に・・・一緒に旅したいって言ってたんだよ
スキールニル: だから俺は・・・いいよ・・・っていったんだ
アル: スキールニルが好きだっていってたのに!
スキールニル: ああ
スキールニル: 逝く前に・・・聞いたよ
アル: そう…
アル: 良かった…
アル: 想いは伝えられたんだね
アル: そうなんだね…フィオール
アル: くっ…
アル: うわああああああああああん!
*アルはスキールニルを力いっぱい殴った。スキールニルは避けなかった。
アル: ごめんね、スキールニル
スキールニル: いやいいんだ
スキールニル: むしろ必要だった
スキールニル: 俺はヤツを斬らねばならない
アル: うん…
スキールニル: だが今はまだ駄目だ
アル: うん…
スキールニル: もっと力をつけないと
スキールニル: フィオール、見ててくれ
スキールニル: 必ずやつの首を・・・君にささげよう
スキールニル: どれだけかかるかわからないが
スキールニル: 必ずやる
*混乱の最中とはいえ、いつまでもケニスの館の近くにいては何に巻き込まれるかわからない。リアドは抜け道を案内するという。フィオールをそのままにして行くのは忍びなかったが、ここで死んではフィオールの死が無駄になってしまう。せめて…とフィオールの腕を組ませると、アルはフィオールにもらった笛で一曲奏でるのだった。
スキールニル: さようなら…フィオール
●新たな旅立ち
*脱出した一行は一晩、リアドの隠れ家で身を隠し、翌日トマッシュからの連絡を受けてレッドパイソンへと来ていた。
トマッシュ: いやあ、散々な目にあった
*トマッシュは一行に、事の顛末を語った。ギルフォスによるケニス殺害によってケニス一派が壊滅した。抗争に勝利したブラッツェンであったが、下水道での戦いで敗北した影響でほとんど戦力が残っておらず、その隙を突いた第三の勢力によってブラッツェン一派も壊滅。結局、ハイキャプテンには漁夫の利を得た第三勢力がその座についたのだった。
アル: ……
スキールニル: ・・・・・・
トマッシュ: ブラッツェンが死んでくれたのがせめてもの救いだよ
トマッシュ: もしブラッツェンがハイキャプテンになっていたら
トマッシュ: 俺たちはこうしてのんびりしていられなかっただろうね
リアド: 殴りこんだかい??
トマッシュ: いや、俺たちは狩り出されて始末されてただろうね
スキールニル: いずれにしても・・・無駄に大勢死んだわけだな
スキールニル: これほどの生贄を要求するなんて・・・どんな呪いだ
スキールニル: 呪われた街だな
アル: それが…ここの当たり前なんだね
トマッシュ: わかりやすくて、おれは好きだけどね
トマッシュ: ま、俺は次のボスを探すだけさ
トマッシュ: この口とさわやかスマイルで生き残ってきたんだしね
スキールニル: 仕事は終わりだ
アル: ここは…僕達がいるべき場所じゃないってよく分かったよ
スキールニル: ああ
スキールニル: すぐにでもここを立ち去る
トマッシュ: そうそう、逃げてくるときにケニスのところからいくらかくすねて来たんだよ
トマッシュ: 苦労の分、もらっても構わないだろうと思って
*トマッシュは、自慢の笑顔を見せると懐から宝石の詰まった袋を取り出した。
スキールニル: アンタは長生きするよ・・・
アル: したたかですね
リアド: ま、俺も似たようなもんだけどな
*と、リアドはポケットからいくつかの高価な指輪を取り出してニッと笑う。
トマッシュ: 君たちにも、いくらか分けてあげるから
トマッシュ: おれがケニスの下にいたのは秘密にしといてくれよ
スキールニル: 勿論だ
アル: 大丈夫ですよ、僕達はすぐにでも発ちます
アル: 多分2度と来ないと思います
トマッシュ: カリムのところに寄ってから行くといいよ。
スキールニル: ああ
トマッシュ: それと金を上手く使えば、こっそり出してくれる船もあるだろう
スキールニル: ・・・気が重いけど行かなきゃ
トマッシュ: 上手くやるんだね
*トマッシュは宝石の入った袋を渡した。
スキールニル: リアドにも世話になったな
アル: お元気で
リアド: いやいや
トマッシュ: それじゃあ、もう会うこともないだろうけど
トマッシュ: おれのさわやかな笑顔と人柄だけは広めておいてくれよな
アル: リアドも
スキールニル: 二人とも達者で
リアド: あんたたち、結構骨あったよ
リアド: さすがドワーフだ
スキールニル: あんたたちのことも忘れないぜ
スキールニル: さわやかな人間と逃げ足の速いハーフリング
アル: ……
リアド: 気をつけてな
*二人に見送られて、スキールニルとアルはレッドパイソンを後にした。その足でカリムの店に向う。店に入ると、カリムは一人グラスを傾けていた。
スキールニル: もう聞いてるかもしれないけど・・・
カリム: 話は聞いたわ
スキールニル: コレは返すよ
*コレ=仕事の前金
カリム: あのバーシルがドジ踏むなんてね
スキールニル: いや・・・
スキールニル: バーシルを殺したのは
スキールニル: 只者じゃない
カリム: 金はもっていきな。仕事は仕事だろ?
アル: 伝えられなかったから…
スキールニル: そうだな
スキールニル: だがおいていくのも勝手だろ
カリム: まったく面倒くさいね
アル: 会ってもいないんだ
スキールニル: 頑固なモンでね
カリム: あんたたち、バーシルの剣について知りたかったんだろう
アル: うん
スキールニル: ああ・・・だが剣は
スキールニル: 持ち去られたし
カリム: あたしも少しは聞いてるんだ
スキールニル: そうなのか?!
カリム: あの剣は、バーシルがまだ駆け出しの傭兵だった頃に
カリム: 全財産をはたいて手に入れたもので
カリム: それ以前に誰が持っていたかはわからないね
スキールニル: そうか・・・
カリム: あの剣は、剣の形をしているけど
カリム: 武器じゃないんだ
スキールニル: 武器じゃないのか
アル: どういうこと?
カリム: そう。盾として使うものなのさ
スキールニル: ダンヒルの鎌に似てるな
スキールニル: あれも武器としては役に立たなかった
アル: そう…だね
カリム: だから切れ味はまるでない変わりに
カリム: 扱いやすさと硬度は抜群らしいよ
アル: ありがとう
カリム: バーシルはあの剣を手に入れてから、護衛専門の傭兵になったのさ
スキールニル: なるほど
カリム: あの剣が、バーシルの運命を決めたわけだね…結局さ
アル: 会ってみたかったな…
カリム: どこでもいるような男だったよ。バーシルは
アル: そういう風にいうのもカリムさんのプライド?
カリム: …
*カリムは黙ってグラスを傾けた。
スキールニル: 俺たちの種族にとんでもないクソ野郎がいただけだ・・・
スキールニル: あの野郎は必ずぶち殺す
スキールニル: バーシルの敵も討つ
カリム: あんたたち、ここに来るときに世話になった船長がいたろう
スキールニル: あの船長か
カリム: あの船長が、船を出してくれるそうだよ。100もつめば
カリム: こっそり出してくれるよ
スキールニル: それは助かるな
スキールニル: 早速会いに行こう
アル: ありがとう
スキールニル: 世話になった
カリム: しけた客はお断り。もう来るんじゃないよ
*カリムはシッシッと手を振った。
アル: さようなら…
スキールニル: じゃあな
*二人はカリムの店を後にした。もうここにいる理由もないし、早く離れたかった二人はすぐに港に向う。話が通っているらしく、船は出港の準備をしていた。
船頭: 来たか
アル: うん
スキールニル: また頼むぜ
船頭: 事情があって、誰にも知られずに出たいなら、それなりの苦労賃がほしいもんだな
スキールニル: 金なら出すぞ
アル: これで…お願いします
*二人は100gpずつ払う。
船頭: ふーむ…
船頭: よし、早く乗りな
船頭: 船底の荷物の間に隠れているんだな
アル: うん
スキールニル: (ある意味で夢は現実になったな・・・
*こうして二人はラスカンを脱出した。暗い船倉で荷物の間に身体を押し込めながら、二人はまだフィオールの死という現実を受け止めきれずにいた。刻まれた心の傷が自分にとってどうのような意味を持つのかも…この時の二人にはまだわからなかった。