ドワーフクエスト
第六章 それぞれの道行き
「船宿にて」


●船上の冒険者

*突然だが、スキールニル、アル、フィオールの三人は今、船の上である。ミラバールから街道沿いを半日少々の距離にあるラッカポートから船に乗り、一路ラスカンを目指している。船での移動を提案したのはフィオールであったが、スキールニルとアルにとっては珍しい旅であり反対する理由もなかった。

スキールニル: いやー船って面白いな

アル: ふぅ
アル: 船旅って意外と退屈だなぁ

スキールニル: そうか?

アル: やることないんだよね
アル: スキールニルはバランス取りながら剣を振り回してれば楽しいのかも知れないけどさ

スキールニル: 二回くらい落ちそうになった

フィオール: あぶないなぁ

スキールニル: 鎧は脱いでたよ

フィオール: それに潮風にあんまりさらすのも良くないんじゃない?

スキールニル: そういやそうかも

フィオール: まあちゃんと磨いてしまっとけば平気だろうけどさ

アル: そうだね
アル: いいこと言うね、フィオールは

フィオール: 常識だって!

アル: そういうもんなんだ…

フィオール: 変なところで抜けてるんだね、あんたたち

アル: 俺はスケイルメイルだからね

フィオール: ま、いっか

スキールニル: まあ実は結構若いんだよ俺たち

フィオール: ついたみたい

*と、船旅の印象はそれぞれのようだったが…。船は特に問題なく河を下っていく。やがて日も暮れてきた頃、河岸に明かりが見えてきた。船は岸に寄って行く。どうやらそこに停泊するようだ。

フィオール: とりあえず降りよ

アル: そうしよう

船頭: 今夜はここで宿を取ってくれ。船は明日まで出ない。

スキールニル: ラスカンまではあとどれくらい?

船頭: 順調にいけばあと2日で到着できるだろう。

アル: あと2日か

スキールニル: もうすぐだな!

アル: 割りと順調だね


*桟橋に船が固定され、一行は2日ぶりに地面へと足を下ろした。目の前には大きな宿屋があり、窓からは明かりがもれ、店内の騒ぎが微かに聞こえてくる。店の反対側は河沿いに伸びる街道となっており、陸路を行く旅行者も宿泊するのだろう、大きな厩舎もあるようだ。招かれざる客を防ぐ壁に囲まれ、街道側の門はすでに閉じられていた。

スキールニル: へたくそな絵だなあコレ
スキールニル: 灰色になってら

フィオール: そうかな?


*店の看板には、白い(?)川魚の絵が描かれており「白ナマズ亭」と書いてある。一行は船宿へと足を踏み入れた。

●白ナマズ亭の夜

スキールニル: おお人間がいっぱいだ

アル: うわ、ホントだ
アル: 人間ばっかりだ


*店内は客で賑わっており、活気があった。そこかしこで談笑する声や食事中の食器が立てる音が聞こえてくる。この辺りまでくると、客はほとんどが人間である。フィオールは近くを歩いていた給仕の女性を呼び止めた。

給仕 女: ご注文かしら?

*給仕は慣れた手つきでメニューを差し出す。名物はナマズのフライらしく、香草とレモンのソースがかかったイラストもある。

フィオール: 肉と魚
フィオール: どっちにする?
フィオール: 買っとくからさ
フィオール: 席いってていいよ

スキールニル: 両方食うって手もあるなアル

アル: 何となに?

フィオール: 肉と魚!

アル: 肉!
アル: 絶対肉

スキールニル: 開いてる席はどこかな
スキールニル: お
スキールニル: ここがいいぜ


*スキールニルは開いているテーブルの一つに陣取った。少し遅れてアルがやってきて、それから注文を終えたフィオールが来た。

フィオール: おまたせ!

アル: ありがとう


*しばらく待っていると、注文した料理と飲み物が運ばれてくる。一行は思い思いに手を伸ばし食事を始めた。

フィオール: ラスカンについたらどうするの?

スキールニル: そうだな
スキールニル: 俺たちが探すのは
スキールニル: バーシル、だったな
スキールニル: 有名な傭兵だそうだから・・・
スキールニル: なんとか見つけられるんじゃないかと

フィオール: ふーん…

スキールニル: 具体的には何も考えてない

フィオール: あんたらしいね

スキールニル: どういう場所だかよく知らないしな
スキールニル: ま、何とかなる

フィオール: そうだね

アル: ほんとかなぁ

スキールニル: 今までだってどうにかなってきた

アル: まぁいいけどさ

スキールニル: 大丈夫さ

フィオール: アルも大変だね

アル: あぁ、でもフンディンよりマシだよ

フィオール: フンディン? 誰?

アル: あっ俺らの大将

フィオール: へえー

スキールニル: せっかくだから噂話でも聞いてくる


*物珍しいらしく、スキールニルはさっさと食事を済ませると席を立ってどこかに行ってしまった。

アル: 元気だなぁ

フィオール: あ…

アル: ど、どうしたの?

フィオール: なんかさ、
フィオール: ちょっと回ってきちゃった

アル: あはは
アル: 船にゆられ過ぎたのかな?

フィオール: そうかもね

アル: 結構風もあったしね


*突然、フィオールが長椅子に横になる。ちょうど、アルが膝枕してやっている格好になった。

アル: だ、大丈夫?

フィオール: えへへ…

アル: *ドキドキ*

フィオール: *ひっく*
フィオール: アルのさ、
フィオール: 弟の話、してよ?

アル: ……えっ?
アル: エルの?

フィオール: うん
フィオール: 兄弟って… どういう感じ?

アル: どういうって言われても…
アル: フィオールにはいないのかい?兄弟

フィオール: そんなのいないよ

アル: そうなんだ

フィオール: 親父とかお袋とか
フィオール: そんなのだっているかどうかもわからないしね
フィオール: あはは…
フィオール: *ひっく*

アル: ふぅん

フィオール: あたしさ、
フィオール: …ん?

アル: どうかした?

フィオール: うん
フィオール: アルはさっきから飲んでないなーと思って
フィオール: ちょっともらってくるよ

アル: あっ…


*残されたアルは少し残念そうにしていたが、すぐにフィオールはエールを手に戻ってきた。

フィオール: おまたせ!

アル: おかえり

フィオール: ハイ

アル: ありがとう

フィオール: それじゃかんぱーい

アル: かんぱーい
アル: あははは


*そして再び膝枕。

フィオール: あたしさ、
フィオール: 捨て子なんだ

アル: 捨て子?

フィオール: うん
フィオール: 物心ついた頃からずっと一人でね
フィオール: 毎日生き抜くだけで一杯だった

アル: ずっと…そう
アル: まるでスキールニルみたいだね

フィオール: 今はさ、師匠にあったおかげでこうして野伏の傭兵やってるけど

アル: うん

フィオール: だからさ、
フィオール: アルみたいに双子の兄弟がいるのってどうなのかなって

アル: 楽しいよ…いつもはね

フィオール: いつもは?

アル: そりゃ喧嘩だってたまにはするしね

フィオール: へえ!
フィオール: ちょっと意外かな
フィオール: アルってさ、おっとりしてて
フィオール: 喧嘩なんてしなさそうに見えるよ

アル: そりゃ殴り合いじゃエルには勝てないけど
アル: にらめっこなら負けないよ

フィオール: なんか… いいな…
フィオール: ふう…
フィオール: アルお酒強いね?

アル: そ、そんなことないよ

フィオール: そうかな?
フィオール: あたしもう頭がくるくる回ってるよ

アル: (緊張してるから…なんて言えないよね…)

フィオール: なんかアルのひざって…
フィオール: あったかいな…

アル: ね、寝ちゃ駄目だよ
アル: 風邪ひくよ

フィオール: あはは
フィオール: ちょっと外でない?

アル: う、うん

フィオール: 風に当たりたいな

アル: 少し冷めるかもね


*二人は外に出た。8月下旬ではあるが、北国の夜は涼しく、河を渡ってくる風が心地よい。二人は桟橋に腰掛けて足を垂らした。

アル: 空が澄んでるね

フィオール: うん

アル: 風が気持ちイイ

フィオール: アルとスキールニルってさ
フィオール: ずっと昔から一緒なの?

アル: うん
アル: いや、この旅で
アル: だよ
アル: だから2ヶ月ちょっとかな?

フィオール: その前は?

アル: その前は殆ど知らないなぁ

フィオール: へえ、そうなんだ

アル: 元々、僕とエルは別の街から引っ越してきたんだ
アル: フェルバールにね

フィオール: うん

アル: フィオールの目から見て
アル: スキールニルってもっと強くなりそう?

フィオール: うーん…
フィオール: あたしもあんまり人にどうこう言えるほど
フィオール: 腕があるわけじゃないからね…

アル: そっか…俺は戦いはからっきしだからなぁ

フィオール: やさしいんだ?

アル: そう言うわけじゃないよ

フィオール: それじゃアルはいじわるな人?

アル: そうだね

フィオール: 自分でそう言う奴に悪いのはあんまりいないよ
フィオール: 経験上ね

アル: そうかな?フンディンはよくいじめているよ

フィオール: でも嫌いなわけじゃないんでしょ?

アル: うん

フィオール: ならむこうだってわかってるって
フィオール: きっとね

アル: そうだといいな

フィオール: アルはさ、

アル: うん

フィオール: どうしてスキールニルと一緒に旅してるの?

アル: 好きだから…かな

フィオール: そっか…

アル: 見ていると…こう…ワクワクするんだ

フィオール: 吟遊詩人だもんね

アル: ははは、そうだね

フィオール: なんかわかる気がする
フィオール: あたしはさ、育ちのせいもあって
フィオール: そんな事柄にはからっきしだけどね
フィオール: 「鼻より団子」っていうんだっけ

アル: あはは
アル: うん
アル: でもさ
アル: 自分の興味のある歌ならきっと感動するよ

フィオール: そうかな?

アル: フィオールはどんな事に興味があるの?

フィオール: 興味、か…
フィオール: なんだかね
フィオール: 改めてそう考えてみると
フィオール: その日を生きることに精一杯で
フィオール: そんなこと考える余裕もなかったんだよね

アル: 今も?

フィオール: ううん
フィオール: それで師匠にさ
フィオール: あ、師匠っていうのはあたしの野伏としての師匠なんだけど
フィオール: それじゃ生きてても死んでることと変わらないぞって言われて
フィオール: 今は… そうだね、こうやっていろいろ旅をして

アル: うん

フィオール: 自分が好きだと思うことを探してる途中… かな
フィオール: だからアルとか
フィオール: それに… スキールニル…みたいに
フィオール: 自分の道をちゃんと見定めて進んでる人って
フィオール: すごく…すてきだと思う

アル: 素敵かぁ

フィオール: 変なこと言った?

アル: いや
アル: 僕のことはおいといて

フィオール: ?

アル: スキールニルは凄く素敵だよ
アル: 単純なだけにも見えるけど

フィオール: うん…
フィオール: そうだ

アル: ん?

フィオール: ねえアル
フィオール: これさ
フィオール: アルにあげるよ


*フィオールは小さな縦笛を取り出して、アルに見せる。

アル: どうして?

フィオール: あたしが持っててもさ
フィオール: ぜんぜんからっきしだから
フィオール: アルが使ってよ
フィオール: そのほうがきっと… 笛も喜ぶから

アル: ちょっと…吹いてみようかな?


*アルに吹かれて縦笛は、簡単なメロディを奏でた。

フィオール: !

アル: いい音色だね

フィオール: そんな音が… 出たんだ…

アル: あはは
アル: 僕も何かあげたいけど
アル: 特別なものってなにもないんだ

フィオール: あは
フィオール: いいよ、別に
フィオール: ちょっと冷えてきたね
フィオール: 中はいって飲みなおしてくる

アル: うん


*フィオールはそう言うと立ち上がり、酒場の中へと戻っていった。

アル: はぁ…
アル: 女の子もいいなぁ

アル: 月が…綺麗だ


*一方、フィオールが酒場に戻ると、カウンターにいるスキールニルを見つけた。

フィオール: スキールニル

スキールニル: よう
スキールニル: のんびり一杯やってるよ

フィオール: 何か飲む?

スキールニル: アルはどうした?

フィオール: まだ外にいると思う

スキールニル: どうしたんだろう

フィオール: スキールニルってさ

スキールニル: ん?

フィオール: こんな時でも鎧ぬがないんだね

スキールニル: ああ・・・
スキールニル: まあ慣れってヤツだね
スキールニル: 盗まれると困るし
スキールニル: まあ人間ばっかだしそんなやつイネえかもな

フィオール: なんかわかるな

スキールニル: ?

フィオール: あたしも昔はそうだったし

スキールニル: へえ

フィオール: いつさ、
フィオール: どこから誰かが襲ってくるかわかったもんじゃなかったからさ

スキールニル: ああ・・・
スキールニル: なるほど
スキールニル: でも今は違うのか

フィオール: うん
フィオール: 少なくとも襲ってきたら
フィオール: こうやって
フィオール: 礼儀を教えてあげられるくらいにはなったから


*フィオールは二本の短剣を引き抜いて素早くそれを空に走らせると、また鞘に戻した。

スキールニル: 確かに
スキールニル: 器用だな武器二本も使うなんて

フィオール: 師匠に仕込まれてね

スキールニル: へえ
スキールニル: ちょっと俺にはできそうにねえな

フィオール: 普通の男には負けない自身はあるけど
フィオール: それでもやっぱり女だと力じゃかなわないところもあったんだ
フィオール: だから師匠がね、その分は速さで補えって

スキールニル: そういうもんかな
スキールニル: 俺の守護神は女神だが
スキールニル: 炎の剣もって殺しまくったそうだ

フィオール: そりゃ神様だもん

スキールニル: きっとすげえ腕力だろうな!
スキールニル: 俺は「炎の剣持つ」ハイラと呼んでいる

フィオール: ハイラ・ブライトアックスか…
フィオール: なるほどね

スキールニル: 俺がこの武器を選んだのもそれさ
スキールニル: それにコレなら
スキールニル: でかい相手も倒せる

フィオール: タシカニね

スキールニル: 人間もオークも俺たちよりでかいからな

フィオール: こんなこと聞くのも変かもしれないけど

スキールニル: ん?

フィオール: スキールニルはどうして剣の修行を?

スキールニル: さあ

フィオール: あはは

スキールニル: 他になかったしな
スキールニル: 一生は短いからな・・・得意分野を伸ばさないと

フィオール: あたしは鍛冶のことにはからっきしだけど
フィオール: あんたってまるでさ…
フィオール: まじりっけのない鉄で打った刀みたい

スキールニル: へえ
スキールニル: 俺も鍛冶はわかんないけど
スキールニル: フィオールはまだ鍛えてる途中なのかな
スキールニル: いい武器になるぜキット

フィオール: あ、ありがと

スキールニル: しかしアルはどうしたんだろ
スキールニル: どっかで寝てるんじゃないだろな
スキールニル: ちょっと見てくる


*と、そこへちょうどアルが酒場に戻ってきて、カウンターにいる二人を見つけた。

アル: あっ

スキールニル: お

アル: スキールニル

スキールニル: よう

アル: やぁ

スキールニル: ドコ行ってたんだ?

アル: ちょっと外にね

フィオール: *ひっく*
フィオール: あ、アル
フィオール: おかえり

アル: た、ただいま
アル: そろそろ月も高くなってきたし


*またもや突然、フィオールがアルに触れた。

フィオール: 体すっかり冷えちゃってるよ

アル: ねねね、寝るよ

スキールニル: 部屋とるの忘れてた
スキールニル: 一応二部屋にする?

アル: そうだね


*三人は宿の主人と話す。

スキールニル: 結構たけえな
スキールニル: 俺は大部屋でいいや

アル: 僕はゆっくりしたいから小部屋にするよ

スキールニル: そうか
スキールニル: じゃあ各自好きな部屋ってことで
スキールニル: 大部屋に泊まる。

アル: それじゃおやすみ


*アルは手続きを済ませると、さっさと部屋に行ってしまった。

スキールニル: フィオールは寝ないのか

フィオール: ん…?

スキールニル: 明日もはやいぜ

フィオール: ああ…
フィオール: そうだね、そろそろ寝よっかな
フィオール: なんか酔っ払っちゃった

スキールニル: 休んどかないと
スキールニル: 船酔いするぞ


*スキールニルは雑魚寝の大部屋に泊まることにして二階へ上がる。寝る準備をしていると…

スキールニル: あれこっちでいいのか

フィオール: ん?

スキールニル: 小部屋もあったのに

フィオール: ああ、うん
フィオール: 別に慣れてないわけじゃないしね


*そして一行はそれぞれ眠りについた…。

●そして夜が明けて

アル: ふわぁぁぁぁ
アル: あっおはよう

スキールニル: 訓練開始だ

アル: さて…運動運動

スキールニル: お
スキールニル: 運動か

アル: 1、2、3…終了

スキールニル: 1.2.3・・・ハッスルハッスル?
スキールニル: 軽い・・・運動だね

アル: どっかの拳闘師がやってたんだ

スキールニル: へえ

アル: ハッスルハッス…*くしゅ*

スキールニル: 風邪かい?

アル: らいじょうぶ

スキールニル: ろれつ回ってないぞ
スキールニル: なんだかボーっとしてるな

アル: 昨日はちょっと夜風にあたりすぎたかな?

スキールニル: ああ
スキールニル: 港に吹く風は冷たいからな

アル: そうだね
アル: スキールニルは良く眠れた?

スキールニル: ぐっすり

アル: それは良かった
アル: またうなされてるんじゃないかと
アル: ちょっとだけ心配してたんだ

スキールニル: ああ・・・
スキールニル: まあ・・・誰でも悪夢くらいは見るさ
スキールニル: ああいうのは心配事が夢に出るもんだからな
スキールニル: 仕方ないことらしい

アル: 自分じゃ気が付かないかもしれないけど
アル: 時々凄い寝言言うんだよ

スキールニル: そうなのか

アル: あぁ

スキールニル: 覚えてるのと覚えてないのがあるんだよ

アル: まぁ夢なんてそんなもんだよね
アル: だけどさ…一体どんな心配事があるんだい?

スキールニル: 心配事っていうか
スキールニル: まあ腕を上げたいわけだけど

アル: うん

スキールニル: 志半ば・・・てこともあるだろ
スキールニル: そういうことが夢に出てくるんだと思うよ

アル: じゃあやっぱり戦いの夢が多いんだろうね

スキールニル: ああ
スキールニル: この前見たのは・・・なんだったかな?
スキールニル: オーク・・・?かなんかでたっけかな
スキールニル: 思い出せないな

アル: オークか…

アル: フンディン達、途中で遭遇してないといいけど

スキールニル: まあなんとかやるだろ

アル: しゃれにならないよね

スキールニル: 悪運の強いやつらだし

アル: あぁ、それは言えてる
アル: それに立派な鎧と斧もあるしね

スキールニル: まあ今頃どっちか失神してるかもしれないけど
スキールニル: 無事つくのは間違いないぜ

アル: まぁきっと何かあったら
アル: 何となく分かるさ

スキールニル: エルもフンディンもああみえて腕っ節は強い

アル: そうだねぇ

スキールニル: 普通のオークなら負けないさ

アル: うん
アル: あの2人なら大丈夫だ

スキールニル: 心配か?
スキールニル: エルのこと

アル: ちょっとだけ…ね
アル: 結構ドジなトコも有るから

スキールニル: 双子には不思議なつながりがあるらしいじゃないか
スキールニル: 何かあれば感じるさ
スキールニル: 別に何もないんだろ?

アル: うん
アル: 今のところはね

スキールニル: 今頃のんきに朝飯食ってるよ

アル: きっとそうだね
アル: さて
アル: 船の所で待ってるよ

スキールニル: 出航まではまだ二時間あるぜ

アル: なんかさ
アル: 人間ばっかりで

スキールニル: ん?

アル: 落ち着かないんだ

スキールニル: ああ
スキールニル: みんないいやつだったぜ
スキールニル: あの村とは違うよ

アル: そう?

スキールニル: 昨日結構話し込んじゃってさ

アル: へぇ

スキールニル: あそこの三人組
スキールニル: 面白かったな

アル: ふ〜ん

スキールニル: 思い出し笑いしちまった

アル: あはは


*二人は外に出る。桟橋では船員達が出発の準備をしていたが、フィオールの姿はない。

スキールニル: 積荷積むの手伝うから安くしてくれねえかな
スキールニル: フィオールはまだねてんのかな
スキールニル: アルちょっと様子見てきてくれよ


*返事なし。

スキールニル: おーい

アル: あぁごめん
アル: ぼぉっとしてた

スキールニル: なんか考え込んでたぞ?

アル: ちょっとね
アル: フィオールを見てくればいいんだね?

スキールニル: うん
スキールニル: 悪いね

アル: いや


*アルは2階に戻り、フィオールの所に行くと、まだフィオールは横になっていた。

アル: あらら
アル: フィオール、朝だよ

フィオール: ん…
フィオール: あ、おはよ、アル

アル: って
アル: 裸じゃんか

フィオール: わっ


*毛布の下は下着だけの裸同然の格好だったフィオール、慌てて毛布を引っ張り上げる。アルは真っ赤になって後ろを向いた。

アル: びびび、ビックリしたな

フィオール: あはは
フィオール: ごめん、昨日の夜酔っ払ってて
フィオール: ちゃんととまってなかったみたい


*フィオールは服を整えた。

フィオール: もうこっち向いていいよ

アル: もう気をつけないと

フィオール: どしたのアル、まだ酔ってるの??
フィオール: 顔真っ赤だけど…

アル: よよよ、酔ってないよ

フィオール: 熱でもあるのかな?

アル: ないない

フィオール: へんなの

アル: そろそろ朝御飯食べないと

フィオール: うん
フィオール: すっかり眠りこけちゃった

アル: もう大丈夫?

フィオール: なんかずいぶん久しぶりだな、こういうの

アル: こういうの?

フィオール: うん
フィオール: ぐっすり朝までってこと

アル: 随分凄い旅をしてるようだね…

フィオール: あはは、まあね
フィオール: アルはよく寝れた?

アル: うん、結構酔ってたしね
アル: もうぐっすり

フィオール: スキールニルは…
フィオール: もう起きてたんだ
フィオール: すっかり寝坊しちゃったみたい

アル: 船で待ってるよ


*フィオールの準備が出来るまで待って、二人は1階に降りるとテーブルについて朝食を取る。(アルは2回目)

アル: はい

フィオール: ありがと
フィオール: アルよく食べるね
フィオール: なんか見ててうれしくなっちゃうくらいの食べっぷりだなぁ

アル: さて…食休みしたら出ようか?

フィオール: うん

アル: 食べるのは得意なんだ


*食事を終えて宿を出る。よく晴れて、朝日が水面に反射してまぶしい。その中でスキールニルは船員に混じって荷物を運んでいた。

フィオール: おはよ、スキールニル
フィオール: それに船長

スキールニル: んでこれはあっち?

アル: 呼んで来たよ

スキールニル: やあ

フィオール: ごめん、ちょっと寝過ごしちゃった

スキールニル: 荷運びを手伝ってた

フィオール: あたしも手伝うよ

アル: えらいね

スキールニル: いや、いいぜ
スキールニル: 俺のトレーニングさ


*言っているうちにフィオールは荷物に手をかけている。

フィオール: これはこっち?

スキールニル: あーそれは
スキールニル: そっちそっち

アル: トレーニングねぇ


*出発の準備が整うと、一行は船に乗り込む。船はゆっくりと桟橋を離れてラスカンへ向けて再び進み始めた。離れていく船宿。河の流れは穏やかで、この先ラスカンで待ち受ける運命を誰一人として、予感などさせなかった…。


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