ドワーフクエスト
第五章 別離
「さらば今一時の別れ」
●対決の朝
*早朝6時。
スキールニル: ・・・
*スキールニルはすでに目を覚ましていた。が、目を閉じたまま動かずにいた。
フンディン: ふう
フンディン: (スキーニーはまだ寝てるのかな…)
エル: ・・・ん
フンディン: おはようございます
アル: おはようおはよう
エル: おはよう
*と、他の面々も起きてきた。
フンディン: ではごはんにしましょう
フンディン: スキーニーはまだ寝てるのかな…
フンディン: 大事な日なのに
フンディン: スキーニー
スキールニル: うるさい黙れ
フンディン: 起きてたのか
フンディン: 腹が減っては戦はできないよ
フンディン: ほら、ちゃんと食べな
*フンディンは用意した朝食を差し出す。
スキールニル: お前から貰う気はない
スキールニル: せっかく瞑想していたのに・・・
フンディン: まったく…
フンディン: 寝起きだからってまるで子供みたいな駄々のこね方
スキールニル: 準備はできた
アル: あんまり神経質になりすぎても良くないと思うよ
スキールニル: なってはいない
フンディン: まだだいぶ早いよ
フンディン: さすがに今から行ったら迷惑だと思うけど
スキールニル: どこかの豚がうるさくてイラついただけさ
*スキールニルは一人で出て行った。
フンディン: いっちゃった
アル: ははは
アル: 1人になりたいみたいだな
フンディン: …
エル: うむ
フンディン: まだだいぶ早いですから
フンディン: ちょっと朝の散歩でもしてくることにします
*と、フンディンも出かけてしまう。
アル: まだ6時か
エル: うん
アル: おう
エル: 俺たちはどうするか、兄者
アル: 外に出てもまだ店はやってないだろうしなぁ
アル: でも、散歩もいいかな
*双子も外に出た。定期市はまだ始まっていないが、目覚め始めた商人たちやキャラバンの人間たちが朝食の準備や後片付け等をしており久々に生活感のある朝の風景を見ることができる。そのまま散歩を続けていると、フンディンが何やら立て札の前に立っているのが見えた。
フンディン: へえー
フンディン: あ、アルドリックさん、エルドリックさん
フンディン: 見てください、これ
アル: ん?
*立て札には張り紙がしてあり、こう書かれている
「ミラバール定期市から南のロングサドルに向かう途中の街道に出没する強盗団について、この問題の解決のためにミラバールから戦士を派遣する事に決定しました。
この仕事の詳細と報酬について興味のある戦士・傭兵・冒険者の諸君は、外市街にある赤銅亭まで来られたし。
この仕事は非常に重要であるため、当方の責任者が直接面接を行います。」
フンディン: 強盗団がどうしたとか
フンディン: 昨日言っていましたが
フンディン: ずいぶん困っているみたいですね
エル: こりゃスキールニルが見たら喜ぶだろうな
アル: そうだな
*一方そのスキールニルは、アイアンハンマー鍛治店のまえにいた。
スキールニル: (そろそろいいかな)
*周囲が朝日に照らされて明るくなってきたのを見て、スキールニルは扉を叩く。昨日と違い、すぐに扉は開かれた。
スキールニル: やあ
ギブノー アイアンハンマー: ふあぁぁぁ
ギブノー アイアンハンマー: ん
ギブノー アイアンハンマー: ああ、お前かー
スキールニル: 君の兄さんに用があるんだが
ギブノー アイアンハンマー: 兄貴なら奥にいるよ
スキールニル: 今行っても平気かな
ギブノー アイアンハンマー: んー
ギブノー アイアンハンマー: 出てくるまで待ってたら?
*眠いらしく、ギブノーはあくびをしながら適当な返事だ。
スキールニル: ではそうしよう
*スキールニルは店の隅に腰を下ろしてじっと待つ。そうしてしばらく待っているとフンディンたちも店にやってきた。
フンディン: おはようございます
ギブノー アイアンハンマー: おはよう
アル: おはよう
フンディン: ギブノーさ… ギブノー
フンディン: うちのスキーニーが
フンディン: 来ませんでしたか?
ギブノー アイアンハンマー: そこにいるよ
*ギブノーは部屋の隅を指差す。
フンディン: ?
フンディン: ほんとうだ
*フンディンがスキールニルに声をかけようとした時、店の奥の扉が開いた。
●スキールニルvsブルード
フンディン: おはようございます
アル: おはようございます
*ブルードが姿を現す。
ブルード アイアンハンマー: …来たのか
スキールニル: 当たり前だ
フンディン: 朝早くから押しかけ申し訳ありません
*スキールニルが来たことに驚いたような言葉だが、ブルードもすでに武器と鎧を身に着けている。
ブルード アイアンハンマー: 仕方ねえ、ここでやるわけにもいかねえな
スキールニル: どこでもいいぜ
ブルード アイアンハンマー: じゃあ場所を変えよう
ブルード アイアンハンマー: お友達も来るのか?
アル: 是非
フンディン: 見届けさせていただきます
エル: 立会い立会い!
ブルード アイアンハンマー: …
ブルード アイアンハンマー: じゃあ、ついてきな
*ブルードが歩き出し、後を追う一行。
アル: 少しくらいの怪我なら治療も出来ます
エル: 少しくらいの怪我じゃすまなそうだけど
*一行は村外れの人気のない空き地にやってきた。ギブノーは眠いらしく付いてこなかったが、アリベスは黙ってついてきていた。少し離れた木にもたれ掛かって様子を見ている。そしてブルードとスキールニルは適当な距離をとって対峙する。
スキールニル: 誰か合図を
フンディン: では
フンディン: スキーニーが嫌でなければ
フンディン: 私ムンディン・アイアンビアードの息子フンディンが
フンディン: この果し合いの立会人をつとめさせていただきます
スキールニル: はやくしろ
ブルード アイアンハンマー: …いっておくが
ブルード アイアンハンマー: おれの技は我流だぞ
ブルード アイアンハンマー: あまり参考にならん
*ちなみに、基本はネヴァーウィンターの学院で学んでいるので完全にそうとは言い切れない。
スキールニル: 俺も似たようなもんだ
スキールニル: 俺が見たいのはあんたの技じゃない
スキールニル: あんただ!
ブルード アイアンハンマー: それにおれの技は殺しの業だ。それでもかまわんな
スキールニル: 戦の技はもともと殺すためのものだ
*事実、ブルードの得意技は打ち倒しから両手の斧による連続急所攻撃なのだ。
ブルード アイアンハンマー: …最後に一つ聞いておこう
ブルード アイアンハンマー: おれと戦って、腕を磨く、なんのためだ?
スキールニル: 俺自身に勝つためだ
スキールニル: 俺自身を試すためだ
スキールニル: 俺が俺であるためだ
ブルード アイアンハンマー: …それじゃ、おれには勝てないな…いつでもいいぞ
*ブルードは言いながら、ちらりとアリベスを見た。
フンディン: スキーニー
フンディン: そしてブルード・アイアンハンマーどの
フンディン: お互いに正々堂々と
フンディン: 戦うことを誓ってもらいます
フンディン: では略式にて
フンディン: 構え!
フンディン: いざ尋常に
フンディン: 勝負!
*フンディンの声と共に弾かれるようにスキールニルが飛び掛る!だが気合ののった一撃は、いとも簡単にかわされてしまった。スキールニルはそのまま気合と共に両手剣を振り続ける。一行から見ればどれも必殺の一撃であるにも関わらず、ブルードは涼しげな顔でそれを受け流す。
エル: むぅ・・・
*と、そのとき、スキールニルの剣がブルードの鎧に当たり火花を散らす。
アル: おぉ
フンディン: あたった!
*鎧を利用して弾かれたのだが、命中したことに代わりはない。だがその瞬間、ブルードは体重を乗せて一気にスキールニルの懐に飛び込むと、体当たりでスキールニルを吹き飛ばした。たまらずスキールニルは転倒する。ブルードの得意技である。次の瞬間には武器を持った両手も、その首さえも繋がってはいないだろう…スキールニルは覚悟した。が、次の攻撃は来なかった。
ブルード アイアンハンマー: やめておけ
ブルード アイアンハンマー: 勝負ありだろう
*その言葉に、カッとなってスキールニルは立ち上がり、がむしゃらに剣を振り回した。もはや完全に喧嘩の勢いだ。
エル: フンディン、止めたらどうだい?
*諦めて、ブルードはただ一度だけ、両手の斧を振るった。あっ、とフンディンが思った時、スキールニルは倒れていた。
フンディン: …!
エル: わ!
アル: ああああ
フンディン: (とめられなかった…)
フンディン: スキーニー!
エル: 兄者
*駆け寄る仲間たち。すぐに治療を施す。実際には打ち身程度で大したケガではない。
アル: 大丈夫か?
*仲間たちの声を無視して、スキールニルはブルードを睨みつける。
スキールニル: なぜ手加減した
スキールニル: 最初に踏み込んだときに決められたはずだ
スキールニル: 俺が未熟だから侮辱しているのか
ブルード アイアンハンマー: お前はおれの敵じゃない
ブルード アイアンハンマー: 敵以外は殺さない
フンディン: …
エル: くそ!次はムンディンの息子、フンディンが相手になるぞ!
フンディン: …
*まあ、エルの事は置いておいて…
スキールニル: 俺が言ってるのはそういうことじゃない
スキールニル: ・・・わかってはもらえなそうだな
*言葉の足りないブルードを補足すると、あくまで最初の約束どおり"訓練として試合した"のであり、殺し合いではない…という事らしい。単純に人に実践形式で戦いを教えた事がないのも原因だろうけど。
フンディン: それじゃスキーニーは
フンディン: ブルードさんに全力で戦って殺してもらいたかったっていうのかい?
スキールニル: 試合だから手加減するのは構わんが
アル: それは違うって言っただろ、スキールニルは
スキールニル: 勝負は勝負だ
スキールニル: なぜ俺が踏み込んだときに決めない
フンディン: 手加減するのは構わんって…
フンディン: 手加減するなって言ったばかりじゃないか
フンディン: 自分でさ
スキールニル: 俺が申し込んだのは試合だが
アル: 殺しあいじゃないって意味だよ
スキールニル: 俺は本気だった
スキールニル: それを遊びと呼んで軽蔑するのもまあいいだろう
スキールニル: だがあそこで決められただろう
*と、その瞬間、木の下に立っていたアリベスの周囲に突然光と共にリザードマンに似たヒューマノイドが出現した!手にはそれぞれ武器を構えておりアリベスに襲い掛かる!
フンディン: ?!
スキールニル: なぜ・・・?!
アル: へっ?
エル: ???
フンディン: ど、どこから??
スキールニル: なんだこいつら?
アル: な
*アリベスは腰に下げていたロングソードを抜くと、敵の存在を知っていたかのように応戦する。すぐにブルードも怒りの咆哮を上げ敵に襲い掛かった。両手の斧がまるで意思を持っているかのように別々に動き、あっという間に血風を巻き上げ敵を減らす。フンディンたちも慌てて武器を構えたが、そのころにはすでに戦いは終わっていた。唯一スキールニルが敵(?)に一撃加えられた程度だ。
ブルード アイアンハンマー: アリベス、大丈夫か
スキールニル: ただのトカゲじゃないみたいだな
アル: 何が起こったんだ?
エルフの女性: 私は平気
エルフの女性: …また、来てしまったわね
ブルード アイアンハンマー: …
ブルード アイアンハンマー: 戻ろう
*ブルードはアリベスを促す。
スキールニル: ちょっとまった
スキールニル: 6秒ですむ
フンディン: ?
スキールニル: もう一度試合を
スキールニル: 今度は様子見なんかしないでくれ
フンディン: スキーニー
スキールニル: 頼む
エル: スキールニル、いくらなんでも
エル: しつこいんじゃないか
フンディン: あのね
フンディン: 君は負けたんだよ
フンディン: あれだけ手加減されて
フンディン: わかってるのかい?
スキールニル: 俺はそういうことを言ってるんじゃない
フンディン: その上また勝負して何の意味があるって言うのさ
スキールニル: お前は黙っててくれ
フンディン: あのさ、
フンディン: 本当に全力で戦ってもらいたいと
フンディン: スキーニーが思っているのなら
スキールニル: 黙れ
フンディン: まずは全力を相手が出さざるを得なくなるくらい
フンディン: 自分が強くなればいいんじゃないか
エル: そのとおり
スキールニル: 今はお前と話したくない
フンディン: 黙らないよ
スキールニル: 俺は勝ち負けを言っているんじゃない
スキールニル: 死にたいわけでもない
フンディン: それじゃ何だって言うのさ
ブルード アイアンハンマー: …どいてろ、フンディンとやら
*ブルードはスキールニルの真剣さを理解したらしい。先ほどは違い、ブルードの目には真剣な光が宿っている。
フンディン: …
フンディン: ブルードさんがそう仰るなら
スキールニル: ありがとう
スキールニル: 合図はいらんな
ブルード アイアンハンマー: いらねえ
*スキールニルは初撃に全てを賭けた。全身全霊を込めた両手剣の一撃はしかし、ブルードの片手斧の表面を滑っていく。そのまま後ろに受け流される間に、ブルードの斧はスキールニルの鎧の隙間を3度、的確に捉えていた。初撃の勢いのまま、スキールニルは前のめりに倒れこんだ。
フンディン: …
エル: おわ
*スキールニルの傷は全て致命傷になりかねない位置にあった。もしブルードが本当に本気で斧を叩き込んでいたのなら。慌てて3人がスキールニルを治療する。
スキールニル: ありがとう
*仲間ではなく、ブルードに対してスキールニルは礼を言った。
フンディン: ……
スキールニル: 得る物は大きかった
スキールニル: あんたには迷惑だったろうな
スキールニル: すまなかった
フンディン: (なに言ってるんだか…)
スキールニル: あの人を・・・まもってやってくれ
スキールニル: 俺はこいつらと行くよ
*決着はついた、スキールニルにとっても。ブルードは無言のままだったが、スキールニルの言葉を受けてから背を向けると、アリベスを連れて村に戻っていった。
●はじめてのお店番
*一行はスキールニルの怪我を治療してから、店に戻ってきた。スキールニルは少し休んでから戻るという事で、一緒ではない。店ではギブノーが店番しており、一行はなんとなしに店にいる。
フンディン: そうだ、ギブノー
ギブノー アイアンハンマー: ん
フンディン: 昨日の話なのですが
ギブノー アイアンハンマー: うん
フンディン: 母君はどうでした?
ギブノー アイアンハンマー: ああ…忘れてた
アル: あららぁ〜
フンディン: うう・・・
ギブノー アイアンハンマー: 昨日は遅かったから、すぐに寝ちゃったんだ
フンディン: そ、そうでしたか…
*がっくりきているフンディンを見て、悪いと思ったのか。
ギブノー アイアンハンマー: もし、ここで
ギブノー アイアンハンマー: 店番しててくれたら
ギブノー アイアンハンマー: 聞いてくるけど
フンディン: !
ギブノー アイアンハンマー: 戻ってくるのは午後になるかも
フンディン: やります!
ギブノー アイアンハンマー: たぶん、客は来ないけどね
アル: フンディンに任せたら安売りしそうだけど…
フンディン: そんなことはないですよ
フンディン: ちゃんと相応の代価は支払っていただきます
フンディン: それが鍛冶屋の仕事です
ギブノー アイアンハンマー: うん
ギブノー アイアンハンマー: 急いでるみたいだし
ギブノー アイアンハンマー: それでいいなら、頼むよ
エル: 俺たちはどうする?
アル: 面白そうだから見てる
フンディン: それじゃお願いします、ギブノー
ギブノー アイアンハンマー: 行ってくるよ
*と、ギブノーは出て行ってしまった。
エル: じゃあ俺はぷらぷらしてくるよ
エル: あとで少し代わるよ
*と、エルも出て行ってしまった。店にはフンディンとアルの二人だけが残っている。
フンディン: といったものの…
フンディン: やっぱり少し緊張しますね
アル: 売り物でも磨いてたら?
アル: 少しは落ち着くだろ
フンディン: そうします
アル: お客が来たら呼ぶよ
*といっても客は来ない。エルも遊びに行ったまま戻ってこない。なんとなく話題はスキールニルになった。
アル: スキールニル、暴れたりしないといいけど
アル: 意外とスッキリした顔だったようにも思えたけど
フンディン: そうですか?
アル: あぁ
フンディン: いっつもああだ
フンディン: 一人で悩んで、一人で解決して
フンディン: 周りのことなんて考えやしないんだから
アル: そういう育ち方してきたんだよ
フンディン: ・・
アル: 逆に言えばいつだって自分のことで精一杯だったってことさ
フンディン: スキーニーの昔の話
フンディン: なにか聞いたことがあるんですか?
フンディン: アルドリックさんは
アル: 少しだけね
アル: 図書館で2人だったときとかに
フンディン: わたしはフェルバールに来る前のことは知らないんです
*と、そこへスキールニルとエルが二人で戻ってきた。一緒だったらしい。
スキールニル: 何だ客がいないな
フンディン: …
アル: おかえり…ってのも変だけど
スキールニル: 何だ眉間にしわ寄せて?
スキールニル: そろいもそろって・・・
アル: だって暇なんだ
スキールニル: 変な看板があったぞ
フンディン: ?
スキールニル: 立て札ってのか
*朝方にフンディンが見ていた強盗団に関する立て札の事。
アル: いらっしゃいませ〜!
*突然アルが声を上げる。見ると一人の人間の男性が扉を開けたところだった。
人間: ここは…武器など扱っているのかね
フンディン: こんにちは
*慌ててフンディンも挨拶をする。
フンディン: ど、どどどど、
フンディン: どのような武器をおさ、おさ、おさ、お探しでしょうか?
アル: おいおい
アル: しっかりしろよ
人間: …そうだな
人間: せっかくミラバールまで来たんだし
人間: 何か質のいいものがいいな
フンディン: といいます、と…
人間: 私は剣を使うので、何か剣がないかと思っているんだが
フンディン: 長剣ですか? 短剣ですか?
人間: どちらでも
フンディン: 曲刀、それに両手剣などもありますが
人間: 直刀だな
フンディン: 長さはどのていどがよろしいですか?
人間: 両手よりは片手がいいが、どちらもあるかね
フンディン: ちょっと在庫を見てまいります
フンディン: しばらくお待ちください
*フンディンは倉庫に行って戻ってきた。
フンディン: あったみたいです
フンディン: ええと、
フンディン: 品物を実際に見て決めたほうが…
フンディン: よろしいですよね
人間: そうだな
フンディン: ではこちらになります
フンディン: あっ
*フンディンは剣を取り出そうとして…落としてしまった。
アル: あぶねっ!
人間: …
フンディン: どうぞ
フンディン: 手にとって確かめてみてください
人間: ふむ
人間: 作りはしっかりしているが…普通の品だな
フンディン: どのような品をおさがしですか?
人間: もっとこう…わざわざここまで来たのだし
フンディン: わかりました!
フンディン: では少しお待ちください
*フンディンは最後まで聞かずに、その剣を持って鍜治場へと走っていってしまった…
アル: …まさか
*フンディンは鍜治場で剣を前に少し考えたあと。
フンディン: といっても…
フンディン: やれるだけやってみよう
フンディン: お師匠様は怒るかも知れないけど…
*と、作業を開始した。(そんなすぐにどうこうなるのか、という部分に関してはゲームなので気にしないように!)
アル: すみませんねぇ、お待たせして
人間: いや、構わんよ
人間: 市はあと3日あるしな
スキールニル: (素直に別の店紹介するのがあの客のためかもナ・・・)
アル: そりゃどうも
*作業を終えたフンディンが出てきた。
フンディン: お待たせ致しました
フンディン: こちらでいかがでしょう?
人間: …
アル: 良い形だね
アル: 色々使い道がありそうだ
スキールニル: 予算次第じゃないかな
フンディン: お、お気に召しませんか
人間: うーん、まあ…
人間: いくらになるかね、これは
フンディン: えええと
フンディン: 30ゴールドで如何でしょうか?
アル: まぁそんなトコだろうね
人間: 30か…
人間: まあそのくらいなら買っておいても損はないかな…?
アル: (小声で)カスタマにかかった費用はおまけか…
フンディン: うう…
人間: うーん…
*お客は悩んでいる。
アル: 普通の品よりはずっとお買い得ですよ
*というわけでアルが説得で判定。結果はなかなか。
人間: ふむ
フンディン: いかがでしょう?
スキールニル: この市じゃ長剣は60はするよ
人間: まあ確かに相場と変わらんしな
アル: 如何ですかぁ?お客様
スキールニル: 30ならお買い得だね
人間: 他の店よりは安いな
アル: そうそうチャンスですよ
人間: いいだろう、頂いておこう
フンディン: あ、ありがとうございます!
エル: 暖炉の上に飾るにゃ最高ですよ
スキールニル: 金貨15000枚積むとかできなきゃ
スキールニル: なかなか名剣てわけにはいかないぜ
人間: それでは、これが代金だ
フンディン: またのお越しをお待ち申し上げております
アル: ありがとうございます!
*客は剣を購入し、去っていった。
アル: 良かったな
フンディン: ふうっ…
スキールニル: 魔法の武器くらい扱わないとココ潰れるんじゃないか?
フンディン: そう簡単に言わないでくれよ
アル: でも…そんしてるんだよな…
フンディン: うう
スキールニル: 一番安いやつでも3500枚はするんだよな
アル: まぁ経験として
アル: 良かったじゃないか
エル: 1700くらいじゃなかったかい?魔法の斧は
スキールニル: ココは割高だよ
エル: ふうん
アル: そうそう、そう言えばスキールニルも見たんだよね
アル: あの立て札
エル: あ、そうそう
スキールニル: 見た
エル: それを言おうと思って忘れてた
アル: もし手掛かりが少ないようなら
スキールニル: 路銀も乏しくなってきたし一丁やってもいいかもな
アル: なっ
フンディン: ・・・
アル: 俺もそう思ってさ
エル: どんどん悪者退治してくれなきゃ困るよ。調べ物ばか・・・
*その瞬間、再び朝に見たのと同じ魔法の光と共にリザードマン?が店の中に出現した!
アル: げっ!
フンディン: えっ?
エル: わわわ
フンディン: な、ななんあ
*慌てる一行。最初に反応したのはスキールニルだった。手近な相手に剣を振るって牽制しつつ声を上げる。
スキールニル: ブルード!やつらが!
*そのままなし崩しに戦闘に突入する。出現した相手は明らかに敵意を持って襲ってきているのだ。
フンディン: この!
フンディン: スキーニー
エル: 兄者、離れろ
*一行は、なんとか現れた敵を撃退した。そこへ武器を手にしたブルードが奥の部屋から飛び出してくる。
フンディン: !
*だが、一行が無事で敵を撃退したことを見て取ると武器をしまった。
フンディン: ブルードさん
フンディン: いったいこれは何なのです?!
フンディン: 教えてください
スキールニル: ずいぶん珍しい友達だね
ブルード アイアンハンマー: すまねえ、迷惑をかけた
スキールニル: いや・・・
フンディン: このリザード
フンディン: 転移してきたように見えました
*ちなみに、プレイヤーは知っていたと思うけどこのリザードマンみたいなやつらは創造種である。
アル: なんでこんな奴等に
ブルード アイアンハンマー: そうだ、こいつらは呪文で飛んでくるのさ
フンディン: いったい何故あなたを狙うんです?
エル: どう考えても、ドアはとおってないな
スキールニル: ねらわれてるのは
スキールニル: ブルードなのか?
ブルード アイアンハンマー: …
フンディン: そうでなかったら
スキールニル: あのひと・・・ではないのか
フンディン: …
ブルード アイアンハンマー: …
フンディン: 私たちもこうして襲撃をこうむった以上は
フンディン: 知る権利があるはずです
エル: だね
フンディン: お聞かせ願えませんでしょうか
ブルード アイアンハンマー: …
*フンディンの説得判定。一応成功。ただし今回は相手があまり親切な物言いをしないブルードである事と、DMのある思惑(奮闘記参照)のためにきちんと説明して展開を誘導したりはしない。
ブルード アイアンハンマー: …こいつらは…俺達を追っかけてくるんだ
フンディン: なぜです?
ブルード アイアンハンマー: 想像はつくが…本当のところはわからん
ブルード アイアンハンマー: とにかく、俺達にはあまり近づかないことだな
フンディン: …
ブルード アイアンハンマー: 今夜にもここを発つ
*そう言ってブルードは部屋に戻っていった。
アル: ・・・・・・
アル: 大変だな…
フンディン: (うまくはぐらかされたような…)
*ふと、店内を見ると…当たり前だが戦闘の影響で大変なことになっている…
アル: うわちゃああああ
フンディン: かたづけないと・・・
アル: 急げ
アル: もう三時だ
スキールニル: もう遅いよ・・・
スキールニル: トカゲの血と内臓でこのとおりだしな
フンディン: 掃除するんだよ!
*ギブノーが帰ってきたら大変である。一行は大慌てで掃除と片付けを始める。
フンディン: ほらほうきもって!
フンディン: 雑巾も!
アル: うひ〜重い〜
フンディン: 少しはきれいに…なったかな…
*と、ここで掃除判定(笑)結果はフンディンが成功したものの双子は失敗。スキールニルは判定すらしない所を見ると手伝っていないらしい。
フンディン: お二人とも…
フンディン: …いや、いいです
フンディン: ごくろうさまでした
アル: 悪い思ったよりも怪我がさ…
スキールニル: エルが片付けたものを
エル: もっとやることないかい?
スキールニル: アルがまたもどしてるし
フンディン: あとはわたしがやりますので…
スキールニル: その逆も・・・
アル: うっ…
エル: しょぼん・・・
フンディン: スキーニーをつれて先に宿舎に
アル: あっお帰り
*と、ギブノーが帰ってきた。
ギブノー アイアンハンマー: えーと…
ギブノー アイアンハンマー: これは…なんかあった?
*掃除はフンディンのみ成功だったので、完全には片付いていない。よってギブノーはすぐに気が付いたわけだ。
スキールニル: ああ
スキールニル: ココでトカゲ人間と一戦するはめになっちゃってね
フンディン: 実は…
ギブノー アイアンハンマー: トカゲって…
アル: あ〜でも剣は1本売れたよ、うん
フンディン: リザードマンが転移して
フンディン: 襲ってきたんです
スキールニル: ブルードに恨みがあるみたいだよ
ギブノー アイアンハンマー: …
ギブノー アイアンハンマー: 兄貴!
*ギブノーは怒鳴りながら奥の部屋に行く。
アル: あちゃ〜
*部屋に入ると…
ギブノー アイアンハンマー: うわっ
ギブノー アイアンハンマー: 死体が
ギブノー アイアンハンマー: そのままになってる!
アル: えっ?
フンディン: …
スキールニル: それで変なにおいがしてたんだ
アル: こっちにも出たのか…
*ブルードのいた部屋にも敵は現れていた。だからすぐに店のほうに出てこなかったのだ。まあ片付けくらいはしておくべきだと思うけど…
ブルード アイアンハンマー: 心配するな。明日には発つ
ギブノー アイアンハンマー: …まったく
ギブノー アイアンハンマー: なんなんだよ、いきなりエルフ連れて帰ってきて
ギブノー アイアンハンマー: それでこれかよ!
エル: むぅ
エルフの女性: ごめんなさい…わたしのせいだわ
ブルード アイアンハンマー: すまねえな、ギブノー
ブルード アイアンハンマー: もうこんなことは起こらない
フンディン: …
ギブノー アイアンハンマー: せっ、説明はなしかよ!!
ギブノー アイアンハンマー: …
ギブノー アイアンハンマー: くそ
*ブルードは話し合う気はないという様子。ギブノーは乱暴に部屋の扉を閉めた。
アル: あちゃ〜
フンディン: ギブノー…
アル: 多分ブルードさんは余計な心配させたくないんだと思うとかなんとか
アル: 言ってやったら?
スキールニル: キットわかってるさ
*しばらく店でたたずんでいたギブノーだが、ふと思い出したように言う。
ギブノー アイアンハンマー: 片付けしなきゃ…
*そして手近なところから片付け始める。一行も手伝おうとし始めると…
ギブノー アイアンハンマー: 悪いけど、今日はもう帰ってくれない?
フンディン: そうします…
エル: えー?店番したのに??
フンディン: 帰りましょう
エル: 手伝うからさ
エル: それより情報も気になるな
ギブノー アイアンハンマー: ああ、そうだった
ギブノー アイアンハンマー: お袋から手紙が
*ギブノーは懐から手紙を取り出した。
フンディン: ?
ギブノー アイアンハンマー: これ、持って行ってくれ
*手紙をフンディンに渡す。
アル: それで遅かったのか
アル: でも遅くて良かったかな…
フンディン: ありがとうございます
ギブノー アイアンハンマー: …それじゃ、また…
エル: ああ、また明日にでも
フンディン: いろいろ… お世話になりました
アル: トカゲ
アル: 気をつけて
*黙々と片付けをするギブノーを残して一行は店を後にした…
●手紙
*外に出ると、すでに日も落ちて真っ暗になっている。
フンディン: ふう
フンディン: …
フンディン: なんだか疲れました…
エル: みたいだね
エル: 今日は早いとこ寝るか
*フンディンとエルはまっすぐ宿舎に直行し、今夜もそこに泊まる事にした。
フンディン: そうだ、手紙…
*フンディンは思い出して手紙を取り出し、エルと回し読みする。手紙の内容はこのようなものであった。
「バーミル・スラルレオ、その名を聞くのは何年ぶりでしょうか。
ミラバールの重要な取引に関わっていたわたしの父が、晩年にバーミル・スラルレオについてわたしに語ったのが最後でした。
もうずっと昔のことなので、わたしの記憶もあまりはっきりとしませんし、それほど詳しく聞いたことはないのですが、あなたたちの旅の役に立てばと思い手紙をしたためます。
あなたたちはバーミル・スラルレオという人物を探しているようですが、まず、バーミル・スラルレオというのは人ではありません。それは場所の名前なのです。
かつてバーミル・スラルレオは、ミラバールを経由する秘密の取引をするための場所であり、同時に流通路であったと聞いています。
この取引には、すこし後ろ暗いものも含まれていたようで、それに関する記録は一切残っていません。ミラバールの暗部とも言えるでしょう。
それに関わるものはすべて、それを記憶として持っていて形に残すことは禁止されていたようです。
バーミル・スラルレオはある時期に、ある人物の反対によって議論がなされた結果、封鎖されたと聞いています。
ですから、ミラバールからバーミル・スラルレオへの道は完全に隠蔽されふさがれているでしょう。また、それに関わった人物で今も生きている者もいないでしょう。ずっと昔のことですから。
バーミル・スラルレオの封鎖を提案した人物はその後、ミラバールの他種族との取引もすべて中止すべきだと訴えたのですがそれは通らず、最終的に武力蜂起まで起こした結果、ミラバールから追放されたと言っていました。
その人物と彼を支持する者たち、その子供たちがもしまだどこかで生きているなら、バーミル・スラルレオの場所を知っているかもしれませんね。
すこし、父の残したものを調べてみようと思います。
追伸。
それと、私の夫があなたの祖父について調べていたことがあるようで、その中から役にたつかもしれないものを見つけたので同封します。
夫は、あなたの祖父の人柄にではなく、その作ったものにしか興味がなかったようなのでお役にたつかどうかわかりませんが。」
フンディン: !
フンディン: 場所…?!
エル: ふうん
エル: ミラバールのアナグラムってことは感じていたけれど
フンディン: えっ?
エル: 並べ替えるとさ
フンディン: かえると?
エル: ミラバールって言葉が含まれてるだろ?
フンディン: な、なんだってー!
エル: のこりは、オ、レ、ル、スか
フンディン: …
フンディン: なにかの予言でしょうか?
エル: 意味が通らないけどね
フンディン: …
エル: うーん
エル: 今日は寝よう
エル: 明日少し皆で話し合おう
フンディン: そうですね…
エル: おやすみー・・・
*一方その頃、スキールニルとアルはキャラバン隊の焚き火で食料を分けてもらい、一緒に食べていた。
アル: 色々有って疲れたね
スキールニル: そうだなあ
スキールニル: ブルードってのは・・・ヘンなヤツだったな
アル: スキールニルに似てると思ったけど(くすっ)
スキールニル: そ・・・そう、かもなあ
アル: でも大変だよなぁ
スキールニル: ああ
アル: どこにいたってあんなのが出てくるんじゃ
スキールニル: 未だどう受け止めていいかわからないんだけど
アル: うん
スキールニル: でも何か判ったような気がする
アル: それなら試合したかいがあったね
スキールニル: ああ
アル: ふわあああ
スキールニル: 俺この旅が終ったら
アル: ん?
スキールニル: また旅にでようと思う
アル: そう…
スキールニル: フェルバールにはしばらく帰らない
フンディン: …
アル: それってミョルニルさんに
アル: 勝てる自信がつくまで?
スキールニル: そういうのとは違うな
アル: ふ〜ん
スキールニル: ただ・・・帰るのはずっと先になりそうだ
アル: いつか頭の中で考えがまとまったら話してね
スキールニル: まとまる日が来るかな
スキールニル: 考えるのは苦手だ
アル: ははは
*二人は宿舎に向かった。部屋に入るとエルはすでに熟睡しており、一方フンディンは手紙を前にう〜んと唸っている。
フンディン: アルドリックさん
フンディン: それにスキーニー
フンディン: この手紙を
アル: ん?
*二人は手紙を読んだ。
フンディン: どうやら
フンディン: ギブノーの祖父上が
フンディン: ミスリルの取引相手だったようですね
フンディン: たぶん…?
フンディン: いや、ちがうか
アル: ふ〜ん
アル: 場所ねぇ
スキールニル: 憶測だけでは何もならない
スキールニル: 調べよう
フンディン: ともかく「バーミル・スラルレオ」の正体はわかりました
アル: てっきり名前だと思ってたよね
フンディン: これが
フンディン: ギブノーの父上が
フンディン: 調べた事柄です
*フンディンは手紙に同封されていたメモを取り出す。手紙の追伸に書かれていたものだ。
「フンディン・アイアンビアードが晩年に製作した武器には、変わったものが多い。それまではこれといった特徴はないが、高性能の武器を作っていた彼が晩年突然そういったものを作ったのは、依頼主の注文もあるだろうが、それ以外に何か心境の変化があったのではないだろうか。
王殺し
アドバール王が注文したもの。現在行方不明。
サイズ
ダンヒル村の村長が注文したもの。今も村長かその子孫が持っていると思われる。
グレートソード
ディフェンダーという名前で知られるこの剣がフンディン作であることを知る者はごく僅かだろう。
調べたところ、現在はルスカンの有名な傭兵、護り手バーシルが所持しているらしい。」
アル: う〜ん
スキールニル: コレだけではなんとも言えないなあ
アル: サンダバールにルスカンにダンヒルかぁ
フンディン: 明日もう一度だけ
フンディン: ギブノーの家を訪ねてみよう
アル: あぁ
フンディン: 母君が何かその後見つけられたことがないかどうか
フンディン: 伺いにね
スキールニル: ルスカンは戦やらなにやらでぼろぼろだそうだな
フンディン: それが済んだら…
アル: ふう…傷が痛むんでもう寝るよ
*アルはベットに横になってすぐに寝息を立て始めてしまった。
フンディン: スキー
フンディン: ニー…はもう寝ちゃったのか
*見るとスキールニルもすでに熟睡してしまっているようだ。
フンディン: 仕方ない、わたしも寝ようかな…
*一人になったフンディンもまた、ベットへと潜りこんだ。
●月下のアリベス
エル: (うーむ、目がさえちゃったな)
*ベットの中で、エルは天井を見ながらもう一度眠ろうと努力していたが無駄な努力だった。かなり早く眠りについたため、まだ夜が明ける前に目が覚めてしまったのだ。
エル: (ひとまわり)
*エルはベットから起き出して、宿舎の外に出た。定期市は満月に煌々と照らし出されているものの、自分以外に起きている人物はいないかのような静けさだ。
エル: (ん、あれは・・・)
*ブルードのところにいたエルフの女性、アリベスの姿を見かけたエルは思わず隠れた。物陰から窺うと、どうやら旅支度である。
エルフの女性: …
エルフの女性: あなたは…
*隠れ身に大失敗。エルはもっとよく隠れようとしてバケツに足を突っ込み、ひっくり返って転がりながら道に出てしまった。
エル: イテテ
エル: やあ、こんばんは
エルフの女性: …
エル: いい夜だね
*とりあえず挨拶。しかしアリベスは怪訝な顔のままエルを見ている。少しの間があり、アリベスがつぶやく。
エルフの女性: …今晩の間
エルフの女性: 私のことは黙っていて
エル: って言われてもな
エル: うへ
*アリベスはすらりと腰の長剣を引き抜いて見せた。月下に長剣を構えたエルフの女性は、エルには不気味なものに思えた。
エルフの女性: お願いするわ
エル: 脅迫に聞こえるけどね
エルフの女性: いい?
エルフの女性: そう取られても構わない覚悟よ
エル: そりゃ、俺には関係ないし
エル: 別にいいけどさ
エルフの女性: それでは、ついでにもう一つお願いしたいことがある
エル: なに?
エルフの女性: この手紙を、明日の朝になったらブルードに渡して欲しい
*そう言って、アリベスは手紙を差し出した。エルは腰を引いたまま(アリベスを恐れている)手を伸ばすとその手紙を受け取った。
エルフの女性: ごめんね、お願いするわ
*エルが手紙を受け取ると、剣を腰に戻しながらアリベスは定期市から外に出る門をくぐって行ってしまった。
エル: なんなんだ、一体・・・
*しばらくエルは呆然と立ち尽くす。やがて空が白んできて、我に返ったエルは宿舎に戻る。
アル: あれ?
*戻ると、アルが起きていた。
エル: おはよう兄者
アル: どっかでかけてたのか?
エル: ちょっと散歩
アル: ふ〜ん
エル: 歩いたらお腹空いたな、兄者みたいになっちゃう
アル: おいおい…
エル: 兄者、ちょっと来て
エル: 散歩に付き合ってくれよ
アル: ん?
*他の二人に気をつかってか、アリベスとの約束があったからか、エルはアルを誘って宿舎の裏に出た。
アル: どうかしたのか?
エル: あのエルフの女のヒトさ
エル: 昨日一人で旅立ったよ
アル: へっ?
アル: ブルードをおいて?
エル: ブルードに手紙を預かった
アル: そんな…
アル: あんな細っこいのに…
アル: すぐに知らせに行こう!
エル: まあ、俺は脅されてさ
エル: 怖かったよ
アル: そうか、それで目が覚めたんだな、俺も
エル: たぶんね
アル: とにかくすぐにブルードに知らせようぜ
エル: 今ごろ、出奔に気づいてるかもしれないしな
エル: 行こう
アル: あぁ
アル: まだ出てなきゃいいけど
*エルとアルがアイアンハンマー鍛治店に向かっている頃、宿舎では目覚めたフンディンがスキールニルの異常に気が付いていた。
フンディン: スキーニー
フンディン: スキーニー?
フンディン: スキーニー
*スキールニルがうなされている。フンディンの呼びかけにも目を覚まそうとしない。何度も揺さぶってみるが覚醒する気配はない。
フンディン: ス キ − ニ −!
フンディン: …
フンディン: スキーニー
フンディン: ???!
*スキールニルはまた悪夢の世界にいた。徐々にその夢から抜け出すことが難しくなってくる。戦い、友人の死、守れなかった自分、力への渇望…しかしそれに囚われかけた時、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。それはフンディンの呼び声だったのか、それとも…
スキールニル: またか
*スキールニルは目が覚めた。もううんざりといった感じだ。
フンディン: ???
フンディン: なんだっていうのさ??
フンディン: スキーニー
フンディン: あせびっしょりだよ
スキールニル: 熱かったんだろうな
フンディン: 嫌な夢でも見たの?
*しかし、スキールニルは答えてくれない。
スキールニル: (あいつらが死ぬのは俺が死ぬとき・・・そうさ)
フンディン: スキーニー…?
スキールニル: なんだいたのか
フンディン: ……
*スキールニルは何も答えてくれない。自分の知らないところでいろいろな事が起こっている、という当たり前のことに、細く脆い糸のようなわずかなてかがりを辿る旅に、フンディンは耐え切れなくなりつつあった…
●別れの朝
*一方、店に到着した双子は…
エル: まだ閉まってる
*アルは乱暴にドアを叩く。
エル: あのヒトどっから出たんだ?窓かな?
エル: それとも閉めていったのか
アル: あぁ、もう
*と、ドアが開いてギブノーが顔を出す。
エル: お
ギブノー アイアンハンマー: おいおい乱暴だな
アル: 悪いね、朝から
エル: ブルードは?
*言いながら二人は勝手に店に入る。ギブノーは大あくびしながら二人を見ている。双子はそのままブルードの泊まっている部屋まで行くと、ブルードはちょうど物音に目が覚めたところのようだ。
アル: 大変だ
エル: おっさん、コレ
*エルは手紙を渡す。
ブルード アイアンハンマー: ん…
ブルード アイアンハンマー: アリベス…
ブルード アイアンハンマー: なんだこれは
エル: 昨日の夜さ
エル: 目がさえちゃって、散歩してたら門のところで会った
エル: 朝になったらあなたにこの手紙をと
*手紙を読み終えたブルードは、手紙を放り出しベットから飛び出すとそのまま走って行ってしまった。
エル: おーい
*残された手紙を双子はついつい覗き見する。そこにはこう書かれていた。
「ブルードへ
これはわたしからあなたへの最後の手紙になるでしょう。
あのリザードフォークたちは、わたしの中に残されたモラグの力を求めている。
あなたは強いし、わたしも自分の身を守ることはできるわ。だけど、あなたの弟や…わたしたちが訪れた場所にいる人たちは、そうではないわ。
だから今のまま二人で旅を続けても、少し休んで襲撃を受け、また旅立つ…この繰り返しの中でどれだけの人を不幸にするかわからない。
やつらの目的はわたし。だから一人で決着をつけに行く。
フェイルーンには…いえ、このトーリルにはあなたの助けが必要な人がたくさんいるはず。あなたは、ネヴァーウィンターとわたしを救ったように、そんな人たちを救ってあげて。あなたにはその力がある。
いままでありがとう。」
アル: !
*双子も店を出てブルードを追う。
エル: おーい
*エルが先にブルードに追いついた。ブルードは衛兵と何か話している。
エル: 出てったのはたっぷり5時間は前だ
ブルード アイアンハンマー: 馬か…馬を借りていったのか…
エル: ココを出るときは馬は引いてなかったけど
*ブルードはすぐに店に取って返した。やっとアルが追いついてきたがブルードと入れ違いになってしまった。さらに、そこへスキールニルとフンディンもやってきた。
スキールニル: ??
スキールニル: 何かあったのか?
エル: うん
アル: アリベスが書き置きを残して…
スキールニル: そうか・・・
アル: 迂闊だった
スキールニル: どこへ行ったんだろう
エル: あのヒト、追うつもりかね
アル: そうだろうね
スキールニル: 追わないはずがないさ
アル: そしてきっと見付ける
アル: 俺は…そう思う
スキールニル: だけど再会するのは当分先なきがするな
フンディン: もう会うこともないかもね
スキールニル: ・・・・かもな
アル: いや、会えるさ
フンディン: …
*そんな話をしていると、鎧を着込んで旅支度をしたブルードが走ってきた。一行のほうをチラと見たものの、そのまま行こうとする。
スキールニル: ブルード
*スキールニルが呼びかけると、一瞬立ち止まる。
ブルード アイアンハンマー: なんだ
スキールニル: 感謝している
スキールニル: そしてすまなかった
ブルード アイアンハンマー: そうか
スキールニル: 祈ってる
*お互いに短い言葉だったが伝わったらしい。ブルードは目で答えると、そのまま走っていってしまった…
アル: 行っちゃった…
フンディン: 結局さ、
フンディン: あっちにとっては
フンディン: …なんでもないよ
アル: なんだよ?らしくないぞ
*フンディンの変化にアルが気が付いたようだ。そこへギブノーが手紙を握り締めてやってきた。
ギブノー アイアンハンマー: あ、兄貴は?
スキールニル: いっちまったよ
アル: あぁ、たった今ね
ギブノー アイアンハンマー: …一人で?
アル: そう
ギブノー アイアンハンマー: おいおい、一人で行かせたのか?
フンディン: …
スキールニル: 一人で行きたがってたんだよ
エル: ついて行っても仕方ないしね
*ギブノーが何か言おうとした時、フンディンが声を荒げる。
フンディン: それじゃどうしろっていうんですか
フンディン: こっちには何の事情の説明もなし
フンディン: 眼中にないんですよ
フンディン: 最初から!
アル: おいおい、カラんだって仕方ないだろ?
フンディン: そんな我々がついていくなんて言い出したところで何になるんですか
ギブノー アイアンハンマー: 事情はたぶんこれさ
*ギブノーはアリベスの手紙を差し出す。だがフンディンは…
フンディン: 知りません
*と、手紙には見向きもせずに宿舎に向かって歩き出してしまった。
アル: なんだよ、あいつ
アル: 時々変だよな
スキールニル: いつもヘンだ
アル: いや、そうだけどさ…
アル: じゃなくて
ギブノー アイアンハンマー: どうしよう…
*相談できる相手も失って、ギブノーは立ち尽くす。
ギブノー アイアンハンマー: 兄貴がどれだけ強いか知らないけど
ギブノー アイアンハンマー: 一人で行って平気なのか?
スキールニル: わからないな
ギブノー アイアンハンマー: あんた、兄貴と戦ってたよな
ギブノー アイアンハンマー: どうなんだい
スキールニル: ブルードは強い
エル: ケチョンケチョンにされてたぞ
スキールニル: だが何より
スキールニル: あの人を想う気持ちが強いんだと想う
スキールニル: だからこそ彼は負けないのさ
ギブノー アイアンハンマー: …
スキールニル: あんたのことも気にしてたけど
スキールニル: 巻き込むわけには行かないってさ
ギブノー アイアンハンマー: …
ギブノー アイアンハンマー: いつだってそうさ、オヤジも兄貴も
ギブノー アイアンハンマー: おれは蚊帳の外…
*ギブノーはトボトボと店に向かって歩いていった…
アル: ちょっとフンディンを見てくる
*アルはフンディンのあとを追う。残りの二人もアルの後を追った。フンディンは宿舎にいた。
アル: いたいた
アル: どうしたんだよ?
フンディン: アルドリックさん
フンディン: 別に… どうもしてないですよ
アル: なんか変だぞ
フンディン: …
アル: まぁ無理に話さなくてもいいけど…
スキールニル: なんかあったのか
アル: 俺はそう思うんだけど
フンディン: …
フンディン: 早く発ちましょう
アル: 本人は何でもないってさ
スキールニル: なら何でもないってことにしてやれよ
アル: お、おい
アル: いや、フンディンはスキールニルと逆で考えすぎる感じがするからなぁ
スキールニル: あいつのことはワカラン
アル: だから余計に心配なんだ
アル: 1人で抱え込んでる気がする
*フンディンは黙々と荷物を片付けている。
エル: 鎧着込んでどうした?
フンディン: 出発します
フンディン: 支度を
エル: どこへ?
フンディン: ラスカンでもどこへでも行きますよ
フンディン: ここにいたって何も意味はない
エル: ふーん、じゃ、荷物まとめるから待っててくれよ
アル: ・・・・・・
エル: お待たせ
フンディン: …
フンディン: ラスカンへ行きます
アル: そ…そうか
スキールニル: ココを調べなくてもいいのか?
フンディン: なにを調べるって言うのさ
フンディン: もう手がかりは少なくともここには残っていないんだよ
エル: あとさ
エル: 南は盗賊が出るけれど
スキールニル: ボスが行くって言うんだから仕方ないだろう
エル: はいはい
アル: っていうかラスカンまでどのくらいだ?
アル: 飯買わなきゃ
スキールニル: 調べても見ないでそれでいいのかね
スキールニル: まあ俺はいいけど
フンディン: ここからミスリルホールまでと同じくらいの距離ですよ
アル: うわ〜駄目だ、もうちょっとしないと店が開かない
フンディン: あとは途中で調達します
アル: なんでそんなに…
スキールニル: まあ5日くらいは持つからいいか
アル: 仕方ないなぁ
*一行は釈然としないまま、あわただしく宿を出る。と、突然フンディンが立ち止まった。
フンディン: …
エル: どうした?
フンディン: だめだ
フンディン: やっぱりこんなうわっついた気持ちでは…
フンディン: ……
アル: ・・・・・・
フンディン: 一度
フンディン: フェルバールへ… 戻りたいと思うのですが
エル: ???
エル: さっきから何を言ってるんだ
フンディン: すみません
アル: フェルバールが心配になったのか?
エル: 変なもの食べたか?
フンディン: オークの話を聞いてからずっと心配で心配で
アル: 襲撃の噂か
アル: まぁ、それもありかな?
スキールニル: 俺はどうするかな・・・
アル: いいじゃないか、軽く戻るくらい
エル: と、いうかさ、出るときにオークに襲われただろ?
エル: こちらに伝わってるのは、あれのことだと思うけどな
アル: えっと…そう言えば
アル: 俺は大丈夫だと思う
フンディン: ……
フンディン: 嫌な夢を見たんです
アル: 夢?
フンディン: オークが… フェルバールの軍勢に襲い掛かってきて
フンディン: 本陣に父上と… 叔父上が
フンディン: そうして、なぜか叔父上が父上に「王殺し」を…
スキールニル: それじゃあ心配してやらなきゃ・・・オークを
アル: はぁ…
フンディン: あれがそんなところにあるわけはない
フンディン: それはわかっているんだけど
フンディン: どうしても嫌な予感が離れないんだ
スキールニル: ムンディンは別に王じゃないだろう
エル: じゃあ、一度戻るかい?
フンディン: ……
フンディン: 皆が賛成しないのなら
フンディン: このまま旅を続けても… 構いません
エル: ただ、戻ったら親父さんに怒られるんじゃないのか?
フンディン: 一目
フンディン: ご無事を確認できればそれで良いんです
エル: なるほど
エル: 急ぐわけじゃないし、そもそも俺と兄者はあんたにくっついてるだけだし
エル: 戻ってもいいけど
アル: そうだね
アル: 期限のある旅じゃない
アル: …とは思うんだけど
スキールニル: 戻るのに何日かかるんだっけ
*急げば2週間、普通に帰っても3週間はかかる。ということをスキールニルは計算してみる。
スキールニル: 結構かかるな
フンディン: …
アル: そりゃここまでだって結構かかってるからね
スキールニル: 戻ってまた旅立つとなると2ヶ月くらいかなあ
スキールニル: どうしても戻るって言うんならそれでもいいんじゃないか
アル: スキールニル
スキールニル: ん?
アル: …も戻るよね
アル: そう決まったら
スキールニル: どうしようかと思ったが一度戻ってから
スキールニル: ウォーターディープにでも行こうかな
アル: ・・・・・・
アル: 駄目だよ…
スキールニル: 駄目なのか?
アル: もうこの旅はこの4人で続けなきゃ
スキールニル: そんなもんなわけ?
アル: そう…思う
スキールニル: じゃあそうかも知れないけど
スキールニル: 戻ってからもう一度考えるさ
*スキールニルのどうでもいいという風な態度、フンディンの突然の態度にアルはオロオロとするしかなかった。
フンディン: ……
スキールニル: じゃあ戻るのか?
フンディン: 皆は
フンディン: 戻らないべきだと
フンディン: 思いますか?
エル: フンディン、決めろよ
エル: 戻らないべきと言うか、戻る意味が見出せない。ただ、フンディンが戻るなら付いてくだけさ
アル: フンディンの気持ちは分かるけど…
アル: 今はまだ戻るときじゃない…と思う
スキールニル: ただの夢だろう
フンディン: …
スキールニル: 俺はね
スキールニル: もうどっちでもいいのさ
アル: ななな、なんなんだよ!
アル: どうしてこんな話になるんだ?
スキールニル: どうしてだろう?
アル: なんだかんだ言いながらも
アル: 今まで一緒に頑張ってきたのに
フンディン: ……
アル: ごめん…取り乱して
スキールニル: 戻ると決めたのか?決めかねてるのか?不安な気持ちを聞いてもらいたかっただけか?
*フンディンは決断した。それは前向きなものではないかもしれないが、ひとつの選択ではあった。
フンディン: 戻ります
アル: そっか…
フンディン: でも付いて来るつもりがないなら
フンディン: 無理に来なくても良いです
アル: ………
フンディン: わたしの弱い気持ちに決着をつけるというだけのことですから
フンディン: スキーニー
スキールニル: ?
フンディン: もしフェルバールへ戻るのが嫌なら
フンディン: この手紙を持って
フンディン: ラスカンへ行ってくれないか
フンディン: ここに書かれている
フンディン: 剣について調べて欲しい
アル: おい…戻らないとは言ってなかったじゃないか、スキールニルは
スキールニル: (面倒なことになってきたな)
フンディン: ごめん
フンディン: このまま探索を続けるべきだということはわかっているんだ
フンディン: だけどどうしても
フンディン: わたしの心は弱くて
フンディン: それに
フンディン: これまでにわかった情報を父上にお知らせすれば
フンディン: また新たな糸口が開くかも知れないとも思うんだ
フンディン: アルドリックさん
フンディン: エルドリックさん
エル: うん
アル: え…え?
フンディン: お二人は好きになさってください
フンディン: でも出来ることならば
フンディン: どちらかはわたしと
フンディン: どちらかはスキーニーに付いてラスカンへ
エル: !!!
フンディン: 行っていただけませんでしょうか
エル: 兄者とバラバラで???
アル: ちょっと待てよ、スキールニルがどうするか、まだ決まってないだろ?
スキールニル: 俺はね
アル: あぁ
スキールニル: アイアンベアード一族の養子だけど
スキールニル: でも結局は他人なのさ
スキールニル: 俺がこの剣を手に入れられるわけでもなし
アル: でもこの旅に同行することに承諾したんだろ?
スキールニル: したけど
スキールニル: 世界を見て俺も変わったよ
スキールニル: 俺はもっとあちこち見て歩きたいんだ
スキールニル: だからこそ一緒に旅してきたし・・・苦労もともにしたさ
アル: それはこの旅を終えてからでも遅くないだろうがよ
スキールニル: そう思ったよ
スキールニル: でもフンディンが戻るというなら
スキールニル: 俺は必要ないんじゃないか
フンディン: 戻るといっても
フンディン: この探索を放棄するという意味ではないよ
アル: ラスカンにも行かないって事か?
スキールニル: いや
スキールニル: ラスカンに行くのは面白そうだ
アル: 分かった…
スキールニル: 俺が考えてるのはここで路銀稼ぎに傭兵の真似事をして
スキールニル: 傭兵から情報を・・・まあついでだな
スキールニル: 仕入れようかとも思っていたんだ
アル: 分かったよ
アル: 俺も手伝う
アル: それじゃ俺はスキールニルに着いていく
フンディン: この覚書
フンディン: いま写しを取っておくよ
エル: 兄者、大丈夫かな・・・
アル: 俺は…大丈夫
スキールニル: 大丈夫だ
スキールニル: 俺が死なない限りはアルは無事さ
エル: そっか
アル: 無茶するのは性に合わないしね
スキールニル: そうだな
エル: それならイイケド
アル: エルの方が心配だよ
エル: スキールニル、食料は多めに持ってくれよな
スキールニル: 俺はいつもそうしてるよ
エル: 君のぶんまで食っちゃうからさ
スキールニル: 慣れてるって
スキールニル: 結構付き合い長いだろうが
アル: ………
エル: ・・・ほんとに大丈夫か
アル: だといいけどね
スキールニル: ミョルニルによろしく言っといてくれ
スキールニル: いつまでもお前の時代じゃねえぞってな
スキールニル: それとなフンディン
フンディン: ?
スキールニル: こないだ言い忘れたが
スキールニル: いい一撃だったぜ
*第四章「小さな砦」での事。
フンディン: スキーニー…
フンディン: それじゃ、スキーニー
フンディン: それにアルドリックさん
フンディン: 今日から
フンディン: 五十日後に
フンディン: ここ、ミラバールで会いましょう
スキールニル: 分った
アル: あぁ
アル: (ぼそっ)生きてたらな
フンディン: スキーニー、これさ
フンディン: いらなかったら路銀の足しにでもしてよ
*前回、フンディンが作った剣。
スキールニル: あんまりいいセンスじゃないが・・・
スキールニル: まあコレはコレで悪くないかもな
エル: じゃあ兄者、あんまり食べ過ぎるなよな
アル: エル、フンディンを頼む
エル: ああ
アル: ダイエットしとくよ
エル: それじゃスキールニル、またここで
スキールニル: ああ
スキールニル: 必ずだ
フンディン: ラスカンは海賊の町と聞いています
フンディン: くれぐれもお気をつけて
スキールニル: 戦のあとだっていうしな
アル: そうするよ
フンディン: スキーニー、ところ構わずけんかを売って歩かないようにね!
スキールニル: 一応相手は選んでる
*そして、そのままフンディンとエルはフェルバールへの帰路についた。スキールニルとアルは二人を見送る。
アル: ………
スキールニル: 双子が離れるのってはじめてかい
アル: そう…だね
スキールニル: 大丈夫さ
スキールニル: 双子って離れててもお互いに・・・なんていうか
スキールニル: 「わかる」んだろ?
アル: なんとなく…ね
スキールニル: まあ市が開かないと・・・
スキールニル: あとは路銀も稼ごう
アル: そうだね、包帯も欲しい
スキールニル: 盗賊がのさばったままだと旅もしにくいんじゃないかな
アル: 取り敢えずこれ売ろう
スキールニル: トカゲが着てた奴だけどね
*襲ってきた創造種の装備を拾っておいたらしい。
アル: お?
スキールニル: ん?
スキールニル: どっかで見た歩き方だな
*見ると、鎧を着込んで旅支度のギブノーが歩いてくる。
アル: ギブノー
アル: まさか兄貴を追いかけるとか言わないよね?
ギブノー アイアンハンマー: 昨日片付けた死体に
ギブノー アイアンハンマー: 魔法の指輪があって、これが東を指してる
スキールニル: 追う気なのか・・・
ギブノー アイアンハンマー: たぶん、ここに兄貴とエルフがいる
*ちなみに敵が正確にアリベスの周囲に転移してきたのは、この指輪で追跡していたから。だからギブノーの言うとおり、指輪に従えば追いかけられる。
ギブノー アイアンハンマー: フンディンは?
スキールニル: ヤツはいったん家に帰ったぜ
ギブノー アイアンハンマー: …
スキールニル: ホームシックってヤツかもね
ギブノー アイアンハンマー: 兄貴が何も言わずいなくなって、すぐにフンディンかよ
アル: 多分その影響もあったんじゃないかな?
ギブノー アイアンハンマー: どいつもこいつも、おれの事なんか気にしないのな
スキールニル: そんなことはないだろう
アル: 逆だよ
ギブノー アイアンハンマー: とにかく、もう何も知らないのはいやなんだ
アル: それは…分かるなぁ
ギブノー アイアンハンマー: 兄貴の行方くらい、知っているべきだろう
スキールニル: そうだな
スキールニル: 気をつけてな
アル: お母さんにはちゃんと言ったの?
ギブノー アイアンハンマー: 手紙は、届けてもらえるように言っておいた
ギブノー アイアンハンマー: 急がないと、追いつけなくなる
スキールニル: じゃあな
アル: 気をつけて
*ギブノーもまた、定期市の門から出発した。
アル: 引き止めたいけど…
スキールニル: 引き止めないほうがいいと思う
アル: うん、彼にとってはその方が良さそうだね
アル: 彼にとっては…ね
*ブルードとアリベス、ギブノーそしてフンディンたち。ミラバールは彼らにとって別れの地となった。果たして彼らは無事再会を果たすことができるのだろうか。それぞれの旅路に待つものは何か。続きは次章で…