ドワーフクエスト
第一章 フェルバールを発って
「旅立ち」


●フェルバールのある朝

*フェルバール城砦のいつもの朝。空はよく晴れ、冷たく澄んだ空気が気持ちいい。北方では6月でもまだまだ朝は冷えるのだ。街はいつもどおり目覚めて動きはじめる。例えば最近越してきたウッズタイガー家では…

エル: 今日もいい調子

エル: 兄者、飯にしよう

アル: そう言えば腹減ったな


*ウッズダイガー家の双子は、両親が旅で留守にしていてもいつもどおりだ。慣れているのだろう。

アル: めし何処だ?

エル: テーブルの上

アル: (ぱくぱく)

エル: (パクモグ)


*ちょうど同じ頃、双子の家の近くにある”フェルバールの盾”ムンディン・アイアンビアードの家で、その息子フンディンが二階の自室でベットから起き上がっていた。ベットから外に出ると、冷たい空気にぶるっと震えがくる。フンディンは深呼吸した。

フンディン: ふー…

*それから、日課の祈りを捧げる。

フンディン: (偉大なる全ての父よ…
フンディン: (今日も一日、つつがなく暮らせますように…


*それから、フンディンは二階から一階の様子を伺う。今日は父に言いつけられた戦闘訓練の日だが、そちらをサボってガーリンの工房に行くつもりなのだ。一階からは母親の朝食を準備しているいつもの音と、ベーコンの焼ける良いニオイがただよってくる。

フンディン: 母上はもうお目覚めか…

*フンディンには、やはり黙って訓練をサボることに罪悪感があるのだ。出来れば顔をあわせずに出掛けたいところだったが、いつもどおり母親は起きている。フンディンは意を決して一階へと降りていった。

フンディン: おはようございます、母上

*居間の扉を開け、挨拶する。

ジェミリ : おはよう、フンディン
ジェミリ: 今朝も早いのね

フンディン: いえ、母上よりも遅く起床してしまうなど男子としてこのフンディン、修練が足りません
フンディン: 父上は…もうお目覚めで?

ジェミリ: ええ
ジェミリ: ところで…お父さんがあなたを呼んでいるわよ

フンディン: そうでしたか

ジェミリ: 何かやったの?

フンディン: いえ… 特に、これといっては…

ジェミリ: 少し怒っているような感じだったわ

フンディン: うう…
フンディン: すぐに参ります

ジェミリ: お父さんの自室にいますよ


*フンディンは父の自室の前に立ち、息を飲むと、扉をノックする。

ムンディン: 入りなさい

フンディン: 父上、おはようございます

ムンディン: おはよう


*父ムンディンの顔は、フンディンには不機嫌そうに見える。

フンディン: 母上から何かご用事があると
フンディン: 伺って参ったのですが…

ムンディン: お前は…その、

フンディン: このフンディン、何か不始末をしたでしょうか?
フンディン: その、昨晩遅くまで木彫りに取り掛かっており
フンディン: つい就寝時間が遅れ、今朝も寝坊してしまったことについては
フンディン: 言い訳も…

ムンディン: そのことではない
ムンディン: わしは、お前の本当の気持ちが知りたいと思う

フンディン: 本当の気持ち?

ムンディン: お前はいつもどこに出かけているのだ?

フンディン: う、

ムンディン: 先日も、訓練にでかけて
ムンディン: しかし訓練場にはいかなかったそうだな

フンディン: !…


*フンディンはびくっと身を固くした。しかしすぐに、父に頭を下げる。

フンディン: も、申し訳ありません!
フンディン: 決して、父上をあざ向こうなどという気持ちは…

ムンディン: お前は…戦士の訓練よりも
ムンディン: 物作りのほうが好きなのか?

フンディン: うう…

ムンディン: 正直にいいなさい。怒ったりはしない


*とはいえ、ムンディンは険しい顔をしており、やはりフンディンには怒っているように見える。

フンディン: どちらも…
フンディン: どちらも等しく好きです

ムンディン: …そうか

フンディン: 父上…

ムンディン: なんだ?

フンディン: わたしは
フンディン: わたしは、フェルバール城砦の英雄ムンディン・アイアンビアードの息子として、父上を誇りに思います
フンディン: その気持ちに嘘偽りはありません

ムンディン: …

フンディン: しかし… 祖父上は
フンディン: 聞けば祖父上は偉大な鍛冶師だったとのこと…
フンディン: 以前父上にその事をお尋ねした時は
フンディン: ひどくお怒りのご様子でした


*祖父の話をすると、父の顔はますます険しくなる。

フンディン: しかし父上
フンディン: フンディンもまもなく成人を迎えます

ムンディン: …

フンディン: わたしにも本当のことを教えては頂けないでしょうか?

ムンディン: 本当の事とはなんだ?
ムンディン: 祖父の…父の話をしろ、と?

フンディン: 父上は… 父上は、なぜ鍛冶を嫌うのですか?

ムンディン: それは…
ムンディン: ……
ムンディン: それは…だな

ムンディン: わが一族は古より
ムンディン: 鍛冶師としてやってきたが
ムンディン: 祖父はまさに一族の血の結晶ともいうべき腕だったと聞く
ムンディン: 父を失って、弟と二人きりになってからわしは
ムンディン: どこにいっても、父の話ばかり聞かれていたものだ

フンディン: 父上は…
フンディン: 祖父上の… 大フンディンの鍛冶の仕事を
フンディン: 直に目にされたことはないのですか?

ムンディン: わしの覚えている父はそんなに優しい人物ではなかった
ムンディン: こと、鍛冶に関してはな
ムンディン: わしにそれを継ぐ才能があるかどうか
ムンディン: それを見極めるまでは仕事場すら
ムンディン: 連れて行ってもらったことはない

フンディン: そうでしたか…

ムンディン: わしも、一族の名を継ごうと
ムンディン: 鍛冶に精を出したこともあった

フンディン: !

ムンディン: だが…わしにはできなかった…
ムンディン: もしかすると
ムンディン: 鍛冶仕事を、憎んで…いたのかもしれん…

フンディン: そ、そんな…
フンディン: 憎む、とはどういうことです?

フンディン: 父上は鍛冶がお嫌いだったのですか?

ムンディン: だからわしは、別の道を探した
ムンディン: そして戦士になった

フンディン: …

ムンディン: だがお前は違うようだ。フンディン

フンディン: !

ムンディン: 聞けば、どうやらガーリンのところで鍛冶を学んでいるようだな

フンディン: う…

フンディン: …はい
フンディン: 父上は何もかもお見通しでしたか…

ムンディン: ガーリンは弟子はとらんと聞く

フンディン: …はい

ムンディン: だが、お前に教えているということは、ガーリンに認められたということか…

フンディン: いつもわたしと師匠の二人だけでした

ムンディン: わしは
ムンディン: 自分の…気持ちに固執してお前の道まで潰したくはない

フンディン: ち、父上…

ムンディン: フンディン、お前にひとつ頼みがある
ムンディン: お前のためにもなる事だと信じている

フンディン: 頼み…?

ムンディン: まずは、信頼できるお前の友人を集めてくるのだ
ムンディン: お前が信頼する人物ならば誰でもいい。わしは口は挟まん
ムンディン: 全員揃ったら、戻ってくるのだ

フンディン: 父上、いったいわたしは何をするのですか?

ムンディン: その話はあとでする
ムンディン: さあ行け!

フンディン: わ、わかりました
フンディン: それでは行って参ります

ムンディン: うむ…


*と、扉の前でフンディンが振り返る。

フンディン: はっ!
フンディン: 父上
フンディン: ご朝食はお済みでしたか?

ムンディン: うむ

フンディン: そうでしたか
フンディン: では行って参ります


*と、再び扉の前で振り返る。

フンディン: はっ!
フンディン: 父上

ムンディン: どうした

フンディン: 今日の午前の教練の御仕度はお済みですか?

ムンディン: 今日は休む!さっさと行け!

フンディン: こ、心得ました!

ムンディン: 時間を無駄にするな!

フンディン: では行って参ります


*フンディンは父の部屋を後にした。

フンディン: ふう…

ジェミリ: 部屋の外まで聞こえたわよ…

フンディン: 母上…
フンディン: フンディンは親不幸者です…
フンディン: *グスッ

ジェミリ: さ、お父さんの雷がもっと落ちる前に
ジェミリ: 言われたとおりにしなさい

フンディン: はい、母上…
フンディン: では行って参ります

ジェミリ: そういえば食事まだだったわね

フンディン: は、はい…

ジェミリ: もって行きなさい


*母は出来たてのミートパイをフンディンに包んで渡す。

フンディン: !
フンディン: うう、母上、ありがとうございます

ジェミリ: のんびり食べてると怒られそうだから、外で食べたほうがいいわね

フンディン: は、はい、そうします!
フンディン: では行って参ります

ジェミリ: いってらっしゃい


●仲間
*フンディンは父の言いつけのとおりに、仲間を探しに街に出た。とはいえ、フンディンには同世代の友人はほとんどいない。いとこのスキールニルと仲が良く、何度か顔を合わせたことのある双子をフンディンは誘う事にした。双子の家は向かいの集合住宅の一つだ。

アル: よう

*双子の兄、アルがドアを開ける。

フンディン: おはようございます

アル: おはよう

エル: よー

フンディン: アルドリックさん、それにエルドリックさん
フンディン: 実は、お二人に
フンディン: お願いしたいことがあるのです


*フンディンが抱えている包みを解き、ミートパイを見せる。そして事情を話そうすると…

エル: 飯なら、もう食ったってば

アル: てば

フンディン: !

エル: 自分ちで食うといいぞ

アル: いいぞ

フンディン: わかりました…
フンディン: お邪魔しました

エル: おいおい

アル: じゃな


*肝心な話が出来ないまま、フンディンは双子の家を後にした。他に誘う人物は決まっている。フンディンが唯一心を許して話す事が出来る、いとこのスキールニルだ。フンディンは自宅の隣にある叔父の家に向かった。

*叔父の家に着き、ノックする。扉を開けたのはスキールニルだった。

フンディン: あっ、スキーニー

スキールニル : なんだフンディンか

フンディン: おはよう

スキールニル : 何しに来た

フンディン: ど、どうしたんだい?

ミョルニル : フンディンが来たのか?


*玄関の様子が聞こえたのか、家の奥からフンディンの叔父でありスキールニルの養父であるミョルニルの声がする。

スキールニル : はい父上

*二人は家の中に入る。

フンディン: 叔父上

ミョルニル: 挨拶くらいしろ

フンディン: おはようございます

ミョルニル: ああ…

フンディン: 叔父上におかれましては今日もごきげんうるわしく

ミョルニル: ご大層な挨拶はいらん
ミョルニル: さて、何のようだ。偉大なフンディン?

フンディン: 実は… スキーニーに用があって参ったのです

スキールニル : 俺に?

ミョルニル: なんだ、模擬戦でもやるのか?

スキールニル : ソレはともかくその呼び方はもうやめろ

フンディン: うう…

スキールニル : 俺はもう子供じゃないんだ

ミョルニル: スキールニルには勝てないだろうがな…

フンディン: ごめんよ、スキーニー

スキールニル : フン、まあいい
スキールニル : で、なんのようだ

フンディン: ちょっと一緒に
フンディン: 家まで来てくれないかな?

スキールニル : ・・・なぜ

ミョルニル: …?

フンディン: 父上が… お話があると仰って
フンディン: スキーニーに

スキールニル : 俺に?


*ミョルニルは実はフンディンがあまり得意ではない。ミョルニルから見れば、フンディンの甘さは兄ムンディンの子供として相応しくない弱さに思えるからだ。しかし話の内容には興味があるようで、テーブルでお茶を飲みながら聞いているようだ。

スキールニル : わけがわからんなあ

フンディン: そうなんだ

スキールニル : 俺は父上の教えを受けているし
スキールニル : おまえの父には武術を習ってるわけでもなんでもないし

ミョルニル: 行って来い、息子よ。偉大な英雄どののお呼びだぞ
ミョルニル: もっとも、今は杖なしでは歩くこともできん英雄だがな…

フンディン: うん

スキールニル : しかし・・父上

フンディン: そういうわけだからスキーニー
フンディン: 一緒に来て欲しいんだ

スキールニル : 私は父上のほうが戦士として偉大だと確信しております

ミョルニル: 気にするな、行って来い

スキールニル : わかりました
スキールニル : いってやるとするか

フンディン: それじゃ行こう!

スキールニル : 正装したほうがいいのか?

フンディン: うーん…

スキールニル : 最も鎧しか持ってないが

フンディン: そのままでいいと思うよ
フンディン: それでは叔父上
フンディン: 失礼致します

ミョルニル: …ふん


*二人はミョルニルの家を後にした。

フンディン: スキーニーの父上って
フンディン: なんだかいつもご機嫌が悪いみたいだね

スキールニル : ちゃんと理由はあるんだけどな

フンディン: 何かお悩み事でもあるのだろうか?

スキールニル : でもまあ知らないほうがいい

フンディン: 何かわたしでお助けになれることはないかな?

スキールニル : ない

フンディン: そうか…

スキールニル : 世界中だだれが一番助けにならないか
スキールニル : わかるか?

フンディン: ?

スキールニル : おまえだよ

フンディン: ??

フンディン: あっ!

スキールニル : なんだ一体

フンディン: 大事なことを忘れていた…
フンディン: スキーニー
フンディン: 朝ご飯はもう食べたかい?

スキールニル : それがどうかしたか
スキールニル : 朝の訓練中に呼び出されてまだだが

フンディン: それじゃ一緒に食べよう!
フンディン: 母上が作ってくださったパイがあるんだ

スキールニル : 母上か・・・

フンディン: はい


*フンディンはパイを一欠差し出す。

スキールニル : いや腹が減ってない

フンディン: 朝ご飯はちゃんと食べたほうがいいよ


*フンディンは差し出したパイを渡そうとする。

スキールニル : 減ってないといったろう!

フンディン: うう…
フンディン: それじゃ一人で食べるよ…

スキールニル : あーそうしろ


*スキールニルを連れて、フンディンは再び双子の家を訪れた。

フンディン: おはようございます

エル: あ、また来たな

アル: お?

フンディン: アルドリックさん
フンディン: エルドリックさん

スキールニル : よおお二人さん

エル: 腹減ってるなら、非常食があるよ

スキールニル : そうかありがたい

エル: よお

フンディン: いや、ご飯はもうお腹一杯食べました

スキールニル : こないだの歌よかったな

エル: 堅くて上手くないけど
エル: お!!

エル: ウレシイ

フンディン: あれ、スキーニー
フンディン: お腹減ってないって…

スキールニル : 急に減ったんだよ

フンディン: そうか!
フンディン: 歩き回ったからね!

スキールニル : 新作はないの?

エル: さすがスキーニーは芸術がわかるな!

アル: わかるな!

エル: 実は、面白いの考えてる

スキールニル : 笑い転げちゃったぜあの歌
スキールニル : 腸ねん転の豚の真似だろアレ
スキールニル : 傑作だよな

エル: ・・・

フンディン: ?

アル: …


*双子は一気にテンションが下がった様子だ。

スキールニル : ・・・・アレ?

スキールニル : 違うの?

アル: いや、そうだ
アル: そうだとも

エル: (妖精の魔術で恋に落ちた乙女の歌なのに・・・)

フンディン: ところでアルドリックさんとエルドリックさん
フンディン: 今日はお二人は忙しいですか?

アル: 全然!

フンディン: それじゃちょっと一緒に来て欲しいのです

スキールニル : 芸術家は忙しくちゃだめだよな

フンディン: 父上が
フンディン: お二人にお話があると

アル: へぇ
アル: 珍しいね

エル: へぇ
エル: 珍しい

スキールニル : この2人にも?!

フンディン: それじゃ行きましょう!


*双子の返事を待たずに連れ出すフンディン。双子の家を出ると、雨が降り出してきた。

フンディン: 天気がよかったと思ったのに
フンディン: これでは洗濯も大変そうだなあ

スキールニル : 男が洗濯の心配をするなよ・・・

フンディン: わたしではなく
フンディン: 母上のお洗濯の心配をしたんだよ、スキーニー


*とかなんとか話しながら、4人になった一行はフンディンの家へと向かった。

●父の話

アル: お邪魔しま〜す

エル: しま〜す


*フンディンは皆を居間に案内する。

フンディン: ちょっとここで
フンディン: 待っていてね
フンディン: お二人も

スキールニル : 一体なんなんだろう

フンディン: 母上
フンディン: フンディン、ただいま戻りました

ジェミリ : おかえり

フンディン: それで、その

ジェミリ : ええ

フンディン: お客人のために何か
フンディン: そのう…

フンディン: 食べたり飲んだりするようなものは余っていないでしょうか?

ジェミリ : わかりました。用意しておきますよ

スキールニル : (どいつもこいつも食ってばかりだな)

アル: (次は豚の恋を書こう)

スキールニル : (脂肪が多すぎるとすばやく動けんのに)

エル: 豚か・・・良くないぜ、兄者

アル: !?
アル: まったく迂闊に考え事出来ないんだから


*考え事をすると、なんとなくどんな事を考えているのか伝わってしまうことがある。二人は雷の祝福を受けた雷の双子なのだ。

スキールニル : 豚の歌はよかったよ
スキールニル : みんな笑い転げてたな

アル: そうだろ?

エル: 次作も豚らしい

スキールニル : あんな面白いコントはないね

ジェミリ : はい


*そうこう言っているうちに、軽食がテーブルに並んだ。

フンディン: あ、ありがとうございます、母上!

アル: おいおい、前回のを書いたのはエルだろ?

エル: そうだっけか

フンディン: おまたせしました

アル: そうだよ!

フンディン: どうぞ
フンディン: ここにかけて

フンディン: スキーニーもほら、そんなとこに立ってないでさ

スキールニル : 俺は飯を食いに来たんじゃない

アル: おっジュースだ

スキールニル : 伯父上に呼ばれたから来ただけだぞ

フンディン: それじゃごゆっくり

*フンディンは父の部屋に向かった。

エル: 頂くよ

スキールニル : さっさと案内してくれ


スキールニル : (何が母上自慢のパイだ・・・くそ!)

アル: (じぃ〜)
アル: (パイうまそう)

エル: 食べちゃえよ

アル: めっちゃうま〜

スキールニル : しかし・・・
スキールニル : たいして動いてもいないのにそんなに食うから
スキールニル : そういう体型なんだぞ

エル: こりゃ、筋肉だぜ

アル: いいじゃんか別に

アル: 確かにエルのは半分は筋肉かもね

エル: それにおいらは兄者と違って、甘いものはそんな好きじゃない

アル: 美味しいのになぁ

スキールニル : 半分だけか・・・
スキールニル : 俺は無駄な贅肉一切ないぞ


*フンディンは父の部屋をノックする。

ムンディン : 入りなさい

フンディン: 失礼します

フンディン: 父上
フンディン: フンディン、只今戻りました

ムンディン : うむ
ムンディン: 信頼できる仲間は揃ったかね?

フンディン: はい!

フンディン: それで父上、お話とは…

ムンディン: これからする話は、とても大切な事だ


*ごくりとつばを飲み込むフンディン。

ムンディン: お前の仲間にも聞いておいてもらいたい
ムンディン: 呼びなさい

フンディン: わかりました


*フンディンはテーブルを囲んで体型の話をしている皆を呼ぶ。

フンディン: みなさん
フンディン: 父上が
フンディン: お話があるそうです
フンディン: こちらへ

アル: (ごくり)

フンディン: スキーニーもほら

スキールニル : いいよ

フンディン: こっちだよ

スキールニル : その名で呼ぶな


*全員がムンディンの部屋に入る。

スキールニル : 失礼します

エル: こんにちは

アル: こんにちは

ムンディン: スキーニルか…ミョルニルは元気か?

スキールニル : はい
スキールニル : 足腰もしっかりしており
スキールニル : いまだ武器を振るってはわたくしを打ち負かします

ムンディン: そうか、あいつも戦士としてはいっぱしのものだからな

フンディン: スキーニーもすごいけどね

スキールニル : いや俺は・・・
スキールニル : いえわたくしはまだまだ

ムンディン: ただ統率力、協調性に欠けるが…まあそんな話はどうでもいい

スキールニル : (むか)
スキールニル : (・・・抑えろよ、俺)

ムンディン: これからする話は少し長くなるが
ムンディン: フンディンのためと思って聞いて欲しい

アル: 長くなるなら座ってもいいですか?

ムンディン: うむ

アル: よいしょ

ムンディン: フンディンはこれから旅に出る。君たちにはフンディンと一緒に行って欲しい。旅は一人では出来ないし、フンディンが君たちなら信用できるというからな。

フンディン: ?!

アル: 旅?

スキールニル : 1つ聞いておきたいのですが

フンディン: 旅?

ムンディン: なんだね?

スキールニル : それは砦きっての戦士である
スキールニル : ムンディン・アイアンビアードの
スキールニル : 命令でしょうか

ムンディン: 違う、これはむしろ頼みだ

スキールニル : お話を伺うことにします
スキールニル : それから決めます

ムンディン: 君たちを選んだのはフンディンだ。わしは自分の息子を信じている

フンディン: 父上…


*フンディンは目を潤ませる。

スキールニル : 中断させてしまったことをお詫びします

ムンディン: 長い話になる…ずっと昔の、古い話だからな…
ムンディン: わが一族は、代々鍛冶師として成功してきた一族だ
ムンディン: わしが子供の頃、母と父フンディンと父の弟ニルディン、そしてわしミョルニルと共にここではないところに住んでいた

フンディン: …

ムンディン: どこか山の中の…場所ははっきり覚えていないが…
ムンディン: 街ではなかった

アル: (小声で)エル、あくびなんかしてると怒られるぞ

ムンディン: わしの家の近くには、離れた所に人間の農家があるだけの場所だった

エル: (年寄り、話長い)

ムンディン: 父は、その家の近くに仕事場を構えていた
ムンディン: わしは連れて行ってもらったことがないから場所はわからん

フンディン: ……

ムンディン: ある日、父は夜中に突然、仕事場にでかけていった。ニルディン叔父と一緒にな
ムンディン: 数日は戻らないと言っていた
ムンディン: 母とわしはずっと家で待っていたが
ムンディン: ある晩に……
ムンディン: ……思い出せない……

フンディン: ?

アル: (お〜い、爺さん…)


*ムンディンは頭痛でもするかのように頭を抑えて必死に思い出そうとしているようだ。口からは微かに良くわからない単語がこぼれている。

ムンディン: 風と雨と…
ムンディン: 何か…赤い雨?

フンディン: ??

ムンディン: ……とにかく、気が付くとわしとミョルニルは二人きりで山の中にいた


*ムンディンは無理に思い出すのを諦めて、顔を上げる。

アル: (赤い雨だってよ)

エル: (血の雨か)

フンディン: 祖母上は… 祖母上はどうなされたのです、父上?

ムンディン: それから知人を頼ってアドバールまでいったのだ
ムンディン: わからない…思い出せないんだ…
ムンディン: おそらく、死んだのだろう。でなければわしら子供を放り出したりはすまい

フンディン: !


*フンディンはまたもや目を潤ませる。

スキールニル : (何をいってやがるこの爺・・・)

アル: (ちょっとイッちゃってるのかも…)

ムンディン: わしはそう思っているが、わからない
ムンディン: アドバールで暮らして、旅にも出た
ムンディン: そしてある時エメラス王に出会って…あとはみなも知っての通り
ムンディン: わしは鍛冶師としては成功しなかったし、やる気もなかった
ムンディン: だからずっと忘れていたが
ムンディン: 我が一族には代々、伝えられているものがある

フンディン: 伝えられているもの?

アル: (わくわく)

ムンディン: 父から聞いた話だけだが
ムンディン: 鍛冶に使う道具だったと思う

フンディン: !

アル: (がっくし…)

ムンディン: わしは一族の歴史になんの興味もなかったが
ムンディン: いまになって、それを失うことを申し訳ないと思っている
ムンディン: 偉大な先祖たちにな

フンディン: ……
フンディン: しかし父上

ムンディン: なんだね

フンディン: 我がアイアンビアード一族に伝わるものだとして
フンディン: それは今父上のお手元にはないのですか?

ムンディン: 残念ながら、ない

スキールニル : 幼いころに失われたわけか

フンディン: ??

アル: (つうかどこ探せばいいんだよ)

ムンディン: あの時…おそらくあの場所に

スキールニル : 話聞いてたか

フンディン: どういうこと、スキーニー?

スキールニル : 伯父上が生き残ったあのときが怪しいだろう
スキールニル : 今の話にあっただろう

フンディン: そ、そうなのですか、父上?!

ムンディン: わしの考えでは、おそらくそれは父の秘密の仕事場にあると思う

フンディン: !!

アル: (秘密ってなんかいいな)

ムンディン: フンディン、我が一族の名を継ぐならば、それを見つけ出さなければならない。わかるか?

フンディン: …わかります、父上

アル: (歌の題材になりそうだ)

ムンディン: お前を探索の旅に出そうと思う
ムンディン: だが一人では旅は出来ない。仲間が必要だ

フンディン: …

エル: 旅は道連れ・・・か

アル: 世は情けってね

ムンディン: だから、信頼できる友人を集めさせたのだ

フンディン: そうでしたか…

ムンディン: 君達、フンディンと一緒に旅し、助けてやってくれないだろうか…

フンディン: ありがとう、スキーニー!

スキールニル : まだなにもいってねえ!

フンディン: それにお二人も

アル: 俺はいくぜ

エル: いやいや

スキールニル : 砦開放の戦にも若輩ゆえに参加を許されませんでしたし
スキールニル : わたくしはまだ半人前
スキールニル : 父上に伺ってみなければ
スキールニル : 返答いたしかねます

ムンディン: むろんだ
ムンディン: そうすべきだな

フンディン: それじゃ待ってるよ、スキーニー

エル: おいら達はどうする?

アル: 準備のことか?

エル: そそ

ムンディン: 今晩は家で休んで、また明日来なさい。考える事もあるだろう

アル: そうだなぁ、旅支度しなきゃな

エル: それじゃ一度戻るか

アル: そうしよう

フンディン: 父上
フンディン: ひとつお尋ねしたいことがあります

ムンディン: ん…

フンディン: この探索行… 何か行く宛はないのでしょうか?

ムンディン: わしは、昔いろいろと書き記した事がある

ムンディン: 今晩、それを読み返してみようと思う

フンディン: 心得ました

ムンディン: 何か思い出せればいいのだが

スキールニル : ・・・それでは・・・


*スキールニルは退出した。

フンディン: また明日ね、スキーニー

アル: おじゃまさま〜


*双子も続いて部屋を後にする。

フンディン: 父上…
フンディン: フンディンは果報者です…
フンディン: *ちーん*

ムンディン: そこの箱を
ムンディン: 開けてみなさい

フンディン: ?

*フンディンは父の指し示す箱を開けてみた。

フンディン: !

ムンディン: わしの斧と兜だ
ムンディン: それを持っていきなさい。お前を守ってくれるはずだ

フンディン: 父上…
フンディン: このフンディンのごとき若輩者には勿体のない
フンディン: すばらしい道具です…

ムンディン: 使いこなすのは難しいだろうが
ムンディン: お前は我が一族の男だから
ムンディン: やりとげると信じている

フンディン: はっ!
フンディン: 日夜怠ることなく修練を積み
フンディン: 父上の名に恥じぬよう
フンディン: この仕事をやり遂げることを
フンディン: オール・ファザーに誓います!

ムンディン: さあ…もう行きなさい。わしもやる事がある

フンディン: それでは失礼致します


*フンディンは深く礼をすると、部屋をあとにした。

フンディン: ふう…

●ミョルニルとスキールニル

*一方、家に戻ったスキールニルはミョルニルに事を報告していた。

スキールニル : ・・・というわけです

ミョルニル: 兄貴は忘れているのか…
ミョルニル: いいかスキーニル、これは大切な話だ

スキールニル : はあ

ミョルニル: お前はわしの養子だから、わしら一族の人間だ

スキールニル : ・・・はい
スキールニル : (ソレをいうな・・・クソが)

ミョルニル: 一族の宝は、お前が継いでもいいわけだな

スキールニル : (養子! うんざりする言葉だ)
スキールニル : はあ・・・

スキールニル : しかし鍛冶の道具だそうで
スキールニル : 私に使える代物でもなさそうですが

ミョルニル: それは問題じゃない
ミョルニル: いいか、スキーニル、おれはその話はよくしらん
ミョルニル: まだ幼かったからな…
ミョルニル: 話してくれた事もない
ミョルニル: だがずっと気になっていた。自分の身の上を
ミョルニル: 一族の宝よりも、俺は知りたいと思う。なにがあったのか

スキールニル : ・・・では私に旅に出よと?

ミョルニル: お前はフンディンについていって、そこを探すのを手伝うんだ

スキールニル : はい

ミョルニル: そして俺に教えてくれ。
ミョルニル: …もし旅の途中、フンディンが…事故にでもあったら
ミョルニル: それを継ぐのはお前か俺か

スキールニル : ・・・・・

ミョルニル: まあ、行って来い。腕も磨けるだろう

スキールニル : ・・・
スキールニル : 今の私は
スキールニル : 武術の修行のことのみ考えています
スキールニル : いずれにせよこの旅は
スキールニル : 私にとって益になりそうですね
スキールニル : さっそく支度をします

ミョルニル: それに、だ

スキールニル : はい?

ミョルニル: 祖父は武器職人だったそうだ
ミョルニル: 鎧は作らなかったと聞いている

スキールニル : それが・・・?

ミョルニル: もしかしたら、その仕事場にはすばらしい祖父の武器があるかもしれないぞ

スキールニル : なるほど・・・

ミョルニル: 宝に目を奪われず、それを探すのを忘れるな

スキールニル : はい

ミョルニル: そして取ってくるんだ

スキールニル : 必ずや

ミョルニル: もしフンディンが欲を出して渡さないようなら……
ミョルニル: …

スキールニル : ・・・・

ミョルニル: さあ、行け。楽しみに待ってるぞ

スキールニル : はい


●旅立ちの朝

*次の日の朝、全員はムンディンの元に集まった。

ムンディン: さて、昨晩のうちにいろいろと手配はしておいた
ムンディン: まずはアドバール城砦に向かえ

フンディン: !

ムンディン: アドバールは北方でも古いドワーフの城砦だ
ムンディン: 何か記録があるかもしれない

ムンディン: それと…一つ思い出したことがある

フンディン: ?

ムンディン: マーダックという人間に、わしは子供のころ会ったことがある

フンディン: マーダック?

ムンディン: 確か母に連れられて買い物ついでにでかけた…と思う
ムンディン: マーダックというのは姓だったはずだ

フンディン: しかし恐れながら父上
フンディン: 父上がお若い頃にお会いした方では
フンディン: 今ではもうお亡くなりになられているのでは…

ムンディン: もしかしたらまだ子孫がいるかもしれないし…なにか手かが利にはなるかもしれん

フンディン: …

アル: そうそう、手がかりは多いほどいいよね

スキールニル : 仕事場のあった場所は近くに人間の集落があったとか
スキールニル : そこの人間でしょうか

ムンディン: おそらくな…

スキールニル : つまりその子孫をさがしだせば
スキールニル : 手がかりが得られると・・・

フンディン: !

ムンディン: それと、わしは戦士だが武器にはそれほど詳しくない
ムンディン: 武器に詳しい人間ならば、何か祖父の事を知っているかもしれない
ムンディン: ガーリンに話を聞いてみるといい。それに、師匠には挨拶していくものだぞ、フンディン

フンディン: はっ!

ムンディン: アドバールに行くには山を越えなければならないが
ムンディン: 今、山脈の下を抜けてアドバールに通じる地下道を建設中だ
ムンディン: そこを通してもらえるように頼んでおいた

スキールニル : ほー

アル: らっき〜

フンディン: !

スキールニル : それはすげえ

ムンディン: また、武具工房にも話をしておいたから、そこで装備がもらえるはずだ

スキールニル : (っと、こんな口調はまずいか)

ムンディン: 買い物も、工房区で出来るだろう

アル: 金はあんまり持ってないけどな…

ムンディン: 他に質問はないかね?

フンディン: 父上

ムンディン: うむ

フンディン: そのマーダックなるもの
フンディン: アドバール城砦の近隣でお会いになられたのでしょうか?

ムンディン: わからんが…おそらく北方のどこかなのは確かだろう

フンディン: 心得ました

スキールニル : (それが全然珍しくない姓だったら・・・)
スキールニル : (・・・まあいいか)

ムンディン: 手がかりが少なく、困難な探索になるだろうが
ムンディン: 期待しておる

アル: (はぁ…めし)

フンディン: 過分なお言葉…
フンディン: 必ずや期待にお答えします!

エル: (腹減ったよな・・・)

アル: (期待はいいから、めし)

スキールニル : (何てかたっくるしいんだ・・・この一族)

フンディン: ?
フンディン: どうしたの、スキーニー?

スキールニル : ・・・いやなんでもない

フンディン: では行って参ります!

アル: (その前にめし!)

スキールニル : (お坊ちゃまは・・・まったく)

ムンディン: まずは工房区、それを忘れるなよ

エル: ほんじゃ行ってまいります

フンディン: 心得ております、父上


*一行はムンディンの部屋を後にした。

ジェミリ: フンディン

フンディン: 母上…

ジェミリ: 行くのね?

フンディン: …はい…

ジェミリ: 身体に気をつけて…

フンディン: 母上の方こそ
フンディン: お体を大事になさってください

ジェミリ: みなさん、フンディンを助けてやってください

エル: 心配ご無用ですよ
エル: 昔から言うでしょ

アル: それは、もう

エル: 井の中の蛙、大海を知らずって
エル: ・・・アレ、なんか違う

アル: それって俺達のことじゃんか

エル: なるほど、さすが兄者

ジェミリ: フンディン、好物のパイを作っておいたから

フンディン: !

ジェミリ: 釜から出して行きなさい

フンディン: 母上… かたじけない

ジェミリ: 台所にあるものは、必要なら持って行って

エル: 甘くないパイは無いんですか?

アル: 神よ、感謝します

ジェミリ: ありますよ

フンディン: *ぐすっ*

スキールニル : ・・・・

フンディン: *べそをかきながらやけ食い*

アル: フンディン!

フンディン: *もぐもぐ*

スキールニル : みっともないぞおまえ

フンディン: ?

スキールニル : ひげに食べかす

フンディン: なんですか、アルドリックさん?

アル: 俺達の分は?

エル: おいら達の分は?

フンディン: ??

スキールニル : 涙のあと・・・

アル: まさか全部…

フンディン: すでにフンディンの腹の中に…

アル: (むき〜)

エル: (ムカー)

フンディン: うう…

フンディン: なんだ、お腹が空いていたのでしたら
フンディン: そう言っていただければ

アル: もういいよ…


*一行はアイアンビアード家を後にして、工房区に向かう。

スキールニル : (旅か・・・ )
スキールニル : (旅もいいな)
スキールニル : (余計なこと考えなくてすみそうだ)


●フェルバールのマスタースミス

*一行はフェルバール工房区へとやってきた。ここは製品を売るための店と、そこに供給するものを作る工房から成っており、作業の音が鳴り響いている。

フンディン: 今日もやっているなあ

*それぞれに、旅に必要なものを買うために分かれて店へと足を運ぶ。フンディンはまず師であり、マスタースミスであるガーリンの工房を訪れた。ガーリン・ファイアフォージはマスタースミスとして工房を与えられているものの、すでに現役は引退しており、この工房はほとんどガーリンが趣味(あるいは感傷)で槌を握るための場所になっている。

ガーリン ファイアフォージ: ほ…今日は遅かったな、ぼうや

フンディン: お師匠様
フンディン: じ、実は…

ガーリン ファイアフォージ: うむ、聞いておるよ

フンディン: !
フンディン: …そうでしたか…

ガーリン ファイアフォージ: 偉大なクエストだ…成し遂げれば
ガーリン ファイアフォージ: ぼうやの株も上がるってもんだな

フンディン: と、とんでもありません
フンディン: 恐れ多いことです…
フンディン: 旅の間
フンディン: 鍛冶の修行も出来ないことが悔やまれます
フンディン: お師匠様にはこのわたしのごとき若輩者をここまで仕込んで頂き…
フンディン: 感謝の言葉もありません

ガーリン ファイアフォージ: そうだな、まあ、ハンマーは時々振るってみることだ

フンディン: はっ…!

ガーリン ファイアフォージ: うーむ、ぼうやはどうも固くていかんな

フンディン: そ、そうでしょうか…?

ガーリン ファイアフォージ: 礼儀は大切だが、それが人との垣根を作ることもある
ガーリン ファイアフォージ: 覚えておくといい

フンディン: 肝に銘じておきます!

ガーリン ファイアフォージ: それがいかんと言うとるのに


*ガーリンは優しく微笑む。現役の頃はまさに修羅の形相で槌を振るったものだが、すでにそれは遠い過去になったようだ。ガーリンはフンディンの鍛冶の才能と同じくらい、その人柄も気に入っている。

フンディン: 申し訳ありません…

フンディン: あ、スキーニー

スキールニル : ん?

フンディン: それにエルドリックさんも


*工房にスキールニルとエルが顔を出した。

フンディン: お師匠様
フンディン: こちらは
フンディン: わたしのいとこ、スキーニー
フンディン: それに友人のエルドリックどのです

スキールニル : スキールニルです

ガーリン ファイアフォージ: ミョルニルの息子かね?

スキールニル : そうだけど
スキールニル : 父を知ってるようですね

ガーリン ファイアフォージ: あいつは武器の使い方がなっとらんね
ガーリン ファイアフォージ: すぐ駄目にしちまう

スキールニル : (むか)

ガーリン ファイアフォージ: 大切に使えと言っておいてくれ

スキールニル : 武器は壊れるものです
スキールニル : 勇猛果敢な戦士なら当然のこと
スキールニル : それに壊れなかったら商売にならんでしょうが

ガーリン ファイアフォージ: 確かにそうだ!


*ガーリンは一本取られたという風に、がははと豪快に笑った。

フンディン: あ、アルドリックさんも来たのですね

*そこへアルも顔を出す。

アル: アルでいいよ

フンディン: ?
フンディン: なにがですか、アルドリックさん?

アル: アルって呼んでいいって

ガーリン ファイアフォージ: 最近は双子も増えたもんだな。わしの若い頃には見たこともなかった

アル: ふ〜ん
アル: そうなんだぁ…じゃなくて
アル: そうなんですかぁ

スキールニル : 双子って片方死ぬともう一人も死ぬって噂だよな

フンディン: それは迷信だよ、スキーニー

アル: エル死ぬなよ

ガーリン ファイアフォージ: さて、小僧っ子が集まったところで、わしに聞きたいことでもあるのかね?

フンディン: あ!

フンディン: そ、そうでした、お師匠様
フンディン: 実は、此度の探索行において
フンディン: 求める我がアイアンビアード一族に伝わるという鍛冶に関する秘宝について
フンディン: お師匠様のお知恵を拝借しろと父上が
フンディン: 何かご存知ないでしょうか?

ガーリン ファイアフォージ: そなたの祖父、大フンディンが有名とは言え
ガーリン ファイアフォージ: それでも一部のものしか知らんのはなぜかしっとるかね

フンディン: 祖父上のことをご存知なのですか!

ガーリン ファイアフォージ: 会ったことは、残念ながらない

フンディン: そ、そうでしたか…

ガーリン ファイアフォージ: その創造物には何度かあるがね

フンディン: !

スキールニル : 作品はあまり多くなかったりするのかな
スキールニル : たくさん作ってりゃ有名になるな

ガーリン ファイアフォージ: 普通、鍛冶師といえども名誉を求めるものだ
ガーリン ファイアフォージ: 自分の自信作には必ず銘を刻むものだ

アル: いい物つくってれば尚更ね

ガーリン ファイアフォージ: だが大フンディンは一つも名を刻んだ事はないんだよ

アル: なんでだろうね?

フンディン: ?

ガーリン ファイアフォージ: 見るものが見れば、その武器の素晴らしさに大フンディンのものだとわかるがね

フンディン: ……

ガーリン ファイアフォージ: 理由はわしにもわからん
ガーリン ファイアフォージ: 知っているのは
ガーリン ファイアフォージ: 大フンディンは武器以外作っていないということだ

フンディン: 武器以外… ということは
フンディン: 鎧兜はないのですか?

ガーリン ファイアフォージ: そうだな
ガーリン ファイアフォージ: 聞いた事もない

フンディン: ??
フンディン: なぜでしょうか?

ガーリン ファイアフォージ: さあな…わからんが

アル: 極めてたんじゃないの?

フンディン: 極めた?

アル: あれこれとやるより

ガーリン ファイアフォージ: つまり一生かけて武器を極めようとしていたのかもしれん

フンディン: …

アル: そうそう

ガーリン ファイアフォージ: なぜ、銘を刻まないのか、武器以外作らないのか、この謎も有名だな

フンディン: それではお師匠様は
フンディン: 祖父上がご存命の折に、どの辺りにお住まいになられていたかということについてはご存知ないのでしょうか?
ガーリン ファイアフォージ: 全く知らん

アル: あらら

フンディン: そうでしたか…

ガーリン ファイアフォージ: ああ…そうだな…もう一つ

フンディン: ?

アル: ってここで分かるくらいなら苦労はないわな

ガーリン ファイアフォージ: わしが見たことのある大フンディンの武器は全てミスリルで作られていた

フンディン: !!

アル: へぇ

ガーリン ファイアフォージ: 金属に詳しいものなら、ミスリルから何かわかるかもしれんな

フンディン: ミスリルというと… あのミスリルですか!

ガーリン ファイアフォージ: うむ

スキールニル : 他にどのミスリルがあるんだよ

アル: 見てみたいなぁ

ガーリン ファイアフォージ: 一般的な素材ではないな
ガーリン ファイアフォージ: そうそう、わしの弟子が一人いるんだが
ガーリン ファイアフォージ: そいつが…えーと、いまどこにいるんだっけかな

スキールニル : 忘れちゃうのか・・・

フンディン: つまりわたしにとっては兄弟子にあたるお方ですね

ガーリン ファイアフォージ: とにかくそいつは、素材とか魔法の武器にとても詳しくてな

エル: (忘れっぽい人が多いぜ)


*ガーリンのは、単に気にかけてないせいだろう。

ガーリン ファイアフォージ: 腕前より知識が上
ガーリン ファイアフォージ: わしは腕を鍛えろと言ったが、きかんかったな
ガーリン ファイアフォージ: やつなら、もっと詳しいかもしれんよ

フンディン: お名前はなんと仰るのですか?

アル: 忘れたとか?

ガーリン ファイアフォージ: イランディル・バングスティールというやつだ

フンディン: その、イランディルどのは
フンディン: 我らと同じモ−ディンサマンの子なのでしょうか?


*モーディンサマンとは”高きドワーフ”という意味で、その子供たちというのはドワーフのことだ。

ガーリン ファイアフォージ: ふむ、そうだよ

アル: どこにいるん?

フンディン: なるほど…

アル: いや、いらっっしゃるんですか?

ガーリン ファイアフォージ: えーと、確かアドバールだったかなあ…

フンディン: !

スキールニル : ならちょうどいいな

アル: だな

スキールニル : とりあえずアドバールに行くわけだし

ガーリン ファイアフォージ: もしそこにいなくても、やつの名はそれなりに知れておるから
ガーリン ファイアフォージ: すぐに見つかるさ

フンディン: 心得ました
フンディン: それではお師匠様…
フンディン: 名残惜しいですが、そろそろお暇しなければなりません

ガーリン ファイアフォージ: あー待て待て、これを餞別に持っていけ


*ガーリンは、近くの箱に丁寧に仕舞われていた鎧を取り出す。それは光の加減で赤にも青にも見え、その中間を行き来する。一目見て、普通の品物ではないことがわかる。

フンディン: ?
フンディン: これは…!?

ガーリン ファイアフォージ: ある意味、わしの最後の作品だ

フンディン: !!

アル: 最後?

エル: 最後?

ガーリン ファイアフォージ: わしはもう真剣にハンマーは振るわん。いや、ふるえん

フンディン: お、お師匠様…

ガーリン ファイアフォージ: ある時、疑問に思った事がある
ガーリン ファイアフォージ: その鎧を作る前にわしは一振りの剣をこさえた事がある
ガーリン ファイアフォージ: 鍛えるたびに、そいつはどんどん鋭さを増していく
ガーリン ファイアフォージ: わしの最高傑作になる予感がしていた

フンディン: …

ガーリン ファイアフォージ: わしは憑かれたように鍛えたよ
ガーリン ファイアフォージ: そして、ふと眺めてみたとき
ガーリン ファイアフォージ: わしはぞっとした
ガーリン ファイアフォージ: あまりの鋭さにな

フンディン: …

ガーリン ファイアフォージ: そして…そこで手が止まってしまった
ガーリン ファイアフォージ: いまもその剣はあるが、そのままになっておる

スキールニル : 勿体無い・・・

ガーリン ファイアフォージ: 剣はなんのためにあるのだろう…と思ってしまったんだよ

フンディン: …

エル: どれほど鋭い剣よりも、人の心を動かすのは歌さ

スキールニル : 殺すためだよ

フンディン: それは違うよ、スキーニー

スキールニル : いや

フンディン: 剣はものを切るためにあるんだよ

スキールニル : アホか・・・
スキールニル : 大根切るのに剣使うやつがいるか・・・

フンディン: 大根を切るのにスキーニーは剣を使うの??
フンディン: 普通は包丁を使うと思うんだけど…

スキールニル : だから使わないって・・・

ガーリン ファイアフォージ: 剣は、残念ながら敵を倒すために生まれるものだ

フンディン: スキーニーはやっぱりかわってるなあ

フンディン: お師匠様…

ガーリン ファイアフォージ: どのような敵と戦うために使うかは使い手次第だがね
ガーリン ファイアフォージ: だが、あの鋭さは…


*思い出し、ガーリンは身震いしたように見えた。

フンディン: その剣は…

スキールニル : そんなに鋭いのか

フンディン: 今でもここにあるのですか?

ガーリン ファイアフォージ: あるよ

フンディン: ……

アル: さっきそういったじゃんか

ガーリン ファイアフォージ: だがおまえたち小僧っ子には見せられん

フンディン: ……やはりそうですか…

ガーリン ファイアフォージ: あれは…あの剣はなにかこう…

スキールニル : (小僧小僧ってこの・・・)

エル: (ほんとは、失敗作だったりして)

ガーリン ファイアフォージ: 純粋に切るために存在していた

フンディン: お師匠様、それでは
フンディン: 鍛冶はもうできないと仰ったのはどういうことなのですか?

ガーリン ファイアフォージ: そういうのもなのはわかっとるし、そうであるべきなのだが

アル: 切りたくなっちゃうとか…無性に

ガーリン ファイアフォージ: そこに何か迷いが出てしまったのだ

フンディン: …

ガーリン ファイアフォージ: だから、それ以来わしはその剣にハンマーを打てずにいる
ガーリン ファイアフォージ: そして最後にその鎧を作った

フンディン: そのような大切なものを、わたしごとき者に…

ガーリン ファイアフォージ: もしかしたら、鍛冶を極めるということは、その迷いの先にあるのかもしれんな…

フンディン: お師匠様…

アル: フンディン、俺にも見せてくれ

スキールニル : すごい・・・

アル: これは…いいものだ


*そのオッドアイと名づけられた鎧は、赤と青二色のミスリルチェインで編まれたチェインメイルで炎と冷気の二つから装備者を守り、強度も高い。

フンディン: (な、なじむ…)

*ドワーフのために作られたその鎧は、フンディンにはぴったり合った。

ガーリン ファイアフォージ: 鎧はいいさ…人を守るためだけに作るのだからな

フンディン: お師匠様…

ガーリン ファイアフォージ: 作り手の心を込める…それが鍛冶には必要だ

フンディン: このフンディン、若輩者ゆえ鍛冶の道もまだ歩み始めたばかり
フンディン: 故にお師匠様のおられる境地などまだまだはるか彼方先のことのように感じられます
フンディン: ですが今は…

ガーリン ファイアフォージ: そうだな…まだぼうやにはわからんだろう

フンディン: 目の前にあるこの一時に専心しようと思います
フンディン: そのために… この鎧、ありがたく承り頂戴いたします

ガーリン ファイアフォージ: もし、大フンディンの仕事場を見つけて、わしの問いの答えを見つけられたら
ガーリン ファイアフォージ: 教えてくれんか

フンディン: 必ずや…!
フンディン: オール・ファザーの名にかけて!

フンディン: それでは行って参ります!

ガーリン ファイアフォージ: うむ…いっといで…

フンディン: くれぐれもお体にはお気をつけて
フンディン: ご自愛下さい

ガーリン ファイアフォージ: ぼうやもな

フンディン: はっ!


*目に涙を溜めて、フンディンはガーリンの工房を後にした。

スキールニル : 日が暮れるぞ・・・準備済ませないと

*一行はその後、武具工房に向かい、そこにある武器防具から使えるものを譲り受けた。代金はムンディンからあとで受け取るとの事だ。さらに食料や旅に必要な雑貨を買い求め、ついに旅立ちの準備は完了した。これから、4人の長い旅は始まるのだ…。


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