サヴェッジ・フロンティアDR1235
第四章 ウルテン
「王子の秘密」


●遺跡の輝き

※今回よりウルテンのプレイヤーが参加していないため、ウルテンはDMが操作している。話し方など真似てはいるが、完全にNPCとしてシナリオを作っているのでそれに合わせたキャラクターになっている。

カヴァードホーム地下の遺跡でオグロクを倒した一行は、部屋の中でオグロクが完全に死んでいるのを確認した。

ウルテン : しかし敵軍の将を一人倒したんだから、お手柄だったよ
ウルテン : サンダバールから援軍を呼ぶことはできなかったけど…
ウルテン : これで戦局も多少かわるはずさ

ハンベイ: そうならいいが

グロック: ・・・

ウルテン : とにかく地上に戻らないとね


そして部屋を出て、地上に向かうが……

ウルテン : この変な光、ついたままなんだ

ダーマン: ふうむ…


遺跡のあちこちにある輝きはそのまま、なんら変化がない。

グロック: うえどうなってるか

イノーラ: 既に時遅し、なんてことになってなければいいな

ハンベイ: さぁな

グロック: おーくだらけかもな・・・


そして一行は街に出た。
どうやら街の中まではまだ戦場になっていないようだった。
守備兵たちの姿もあるが、サンダバールに出発した時よりも疲弊した雰囲気である。

グロック: そとか
グロック: まだおーくいない

ダーマン: あれだけ倒したのにまだ数がいるのですか

ハンベイ: とりあえず、処分だな


戦利品の処分、の意。

ウルテン : オーク以外の敵もいるかもしれない

グロック: おーくいがい?

ウルテン : 以前に北門で戦闘があったとき
ウルテン : トログロダイトがいたのを覚えてるかい

イノーラ: あの爬虫類か

グロック: あれか・・・
グロック: くさかった

ハンベイ: とろぐろだいと、だったか?

ウルテン : とにかく、シティホールに戻って状況を確認しよう


●クロウィンの疑念

ダーマン: ただいま戻りました

突然シティホールに現れた一行に、作戦室にいたクロウィン達は驚きを隠せない。

クロウィン ケルベン: これは驚いたな。どうやって戻ってきたんだ?
クロウィン ケルベン: ここへの出入りは敵軍が見張っていたとおもうが

ダーマン: そのあたりはややこしいのですが…


ダーマンがいままでの経緯を説明する。

ダーマン: …ということでポータルがこの街の地下に繋がっていたのです

クロウィン ケルベン: ふーむ
クロウィン ケルベン: 何はともあれ、敵の魔術師を倒せたのはお手柄としかいいようがないな

ダーマン: それで、こちらの状況は?

クロウィン ケルベン: 残念ながら、我々は今包囲されている

ハンベイ: 変化なしか

クロウィン ケルベン: もともとうってでる戦力はあまりなかったからね

グロック: にげるか?

ダーマン: とはいえ、敵も異常な数ですね

クロウィン ケルベン: 敵がほぼ全軍を動かしてくれば
クロウィン ケルベン: 包囲されてしまうのはやむなしというところか
クロウィン ケルベン: 敵軍にはオーク以外にもオーガやゴブリンの姿が確認されている

ダーマン: ふうむ…

クロウィン ケルベン: オーク以外の戦力も取り込んでいるらしいな

ハンベイ: 勢力拡大に余念がないと見える

クロウィン ケルベン: サンダバールに行ってもらった件だが
クロウィン ケルベン: あそこからの援軍は期待できないようだな……

ダーマン: 厳しいでしょうね

クロウィン ケルベン: もし来てくれるなら今すぐにでも動いてもらわないと
クロウィン ケルベン: 我々もいつまでここに篭っていられるか…
クロウィン ケルベン: 君たちのパーティーとは別のパーティーにハイフォレストに行ってもらったんだが
クロウィン ケルベン: そちらにもオークが入り込んでいるようだった

ダーマン: 一体、どのくらいの数がいるというのですかね

クロウィン ケルベン: 現地のドルイドと接触して、エルフにとりなしてもらったようだが
クロウィン ケルベン: 彼らは、彼らの事情があってこちらには手を貸せないそうだ

ダーマン: あそこは元々永年戦争をやっているような所ですしね

クロウィン ケルベン: ここ、我々がカヴァードホームと呼んでいる遺跡を毛嫌いしている様子だったとも聞いた
クロウィン ケルベン: ここ、から来た人間にはなおさら手を貸す気にならない、ということだ

ハンベイ: 何かいわれでもあるのか?

ダーマン: 遺跡に住み着いた我らをではなく、遺跡の方を、ですか?

クロウィン ケルベン: 理由は調べてもらったが、わからないようだった
クロウィン ケルベン: なにかあるのかもしれないな

ダーマン: でしょうね

クロウィン ケルベン: 遺跡の地下で魔力の高まりを感じたが、それが君たちの見たようにオグロクとかいうやつの仕業として
クロウィン ケルベン: それが今も停止していないのは
クロウィン ケルベン: 早急に調べる必要がある……

グロック: ・・・

ハンベイ: なんかあやしい仕掛けでもあるんだろうか?

クロウィン ケルベン: 私はこの遺跡、もともとエルフのものだと思っていたが
クロウィン ケルベン: 今回の話を聞くに、どうも違うようだな

ダーマン: そうですね。エルフの遺跡ならエルフが嫌うわけもない
ダーマン: あのミス=ドラノールですら彼らは哀惜を持って語る

クロウィン ケルベン: ……しかし、いますぐにどうにかしなければいけない問題はオークのほうだ。
クロウィン ケルベン: もはや我々に味方してくれる可能性があるのはドワーフしかいないが……

ウルテン : …

クロウィン ケルベン: 王子
クロウィン ケルベン: お願いがあります。どうか鉱山に戻ってドワーフに援軍を出してもらえるように頼めないでしょうか

ウルテン : それは…
ウルテン : …難しいと思う

クロウィン ケルベン: しかし我々が倒れれば
クロウィン ケルベン: 次に狙われるのは鉱山では?

ウルテン : オークごときに見つけられるものか

クロウィン ケルベン: しかし存在することはばれてしまっていますね

ウルテン : ……

グロック: ふぁいんどざぱす
グロック: これがやつらにあれば、おわりだ

ハンベイ: 楽観はできんのではないのか?

ダーマン: ゴブリンまで勢力に取り込んでいる以上、地下であるから安全とは言えますまい


ウルテンはじっと考え込み、しばらくして結論を出した。

ウルテン : ……わかったよ。なんとかしてみるしかないようだ
ウルテン : 確かにこのままでは共倒れの危険はあるし
ウルテン : 私も逃げてばかりもいられない……
ウルテン : 準備するので先に失礼するよ

クロウィン ケルベン: よろしくお願いします…

ウルテン : わかっている


そう言い残してウルテンは部屋から出て行った。

グロック: ・・・

イノーラ: あまり帰りたくないみたいだな

ダーマン: 我らも準備を
ダーマン: 必要な装備の補給をしましょう

クロウィン ケルベン: ちょっと待ってくれ
クロウィン ケルベン: 君たちには別に話があるんだ
クロウィン ケルベン: 君たちにはもちろん、王子の護衛として着いて行ってもらうが
クロウィン ケルベン: それは異存ないだろうね?

ダーマン: まあ、適任でしょうね

ハンベイ: ま、順当な人選だろう

クロウィン ケルベン: 王子を鉱山まで無事に送り届けてほしいんだが
クロウィン ケルベン: 気をつけてほしいことがある

ダーマン: むしろ気を付けないですむことの方が今は少ないでしょう

クロウィン ケルベン: あの王子……はっきり言って私はニセモノではないかと疑っている

ダーマン: ええ、そうですね

クロウィン ケルベン: 気が着いていたのか?

グロック: にせもの・・・

ダーマン: とはいえ、以前に来た使者、彼は事を荒立てなかった

ハンベイ: いわくがあるのか?

ダーマン: だから、向こうなりの事情があるのでしょう

グロック: がけにおちたあいつは・・・なんだったんだ
グロック: にせものって、どういうことだ
グロック: あいつが、おうじじゃないということか
グロック: うるてん、そのものがそんざいしないのか
グロック: どういういみなんだ?!

クロウィン ケルベン: ……どうも君たちも巻き込まれ始めているようだからはっきり説明しておく
クロウィン ケルベン: まず私と王子はかねてから連絡をとりあい
クロウィン ケルベン: ある計画を進めていた
クロウィン ケルベン: それはホームと鉱山が同盟すること
クロウィン ケルベン: 同時に鉱山の所在を明らかにして両者が行き来できるようにすること
クロウィン ケルベン: つまりドワーフ側が鉱山開放というリスクを負う

ダーマン: ふうむ?

クロウィン ケルベン: 我々には得することしかない
クロウィン ケルベン: という虫のいい話だが

ダーマン: ですね。なぜそんな話にのったのか

クロウィン ケルベン: れいの王子はその考えを気に入っていた

ハンベイ: 交易で益がでるだろう?

ダーマン: 基本的にドワーフの交易は向こうから売りに来るのですよ
ダーマン: もう少しの南の諸都市などには専用の地下通路で秘密裏に通商するとか

クロウィン ケルベン: いままで以上の商売はできるだろうけれど、そのリスクを負うほどの価値はない。たしかに。

ハンベイ: 流通量が増えれば、利益は上がる

クロウィン ケルベン: ハンベイの言うことも一理あるが、しかし私は正直に言ってあの若い王子を利用したのだ
クロウィン ケルベン: 彼は鉱山での生活に息苦しさを感じていたようだった

ダーマン: ほう…

クロウィン ケルベン: そこに未来が開けるような提案をしてみせた
クロウィン ケルベン: そして彼は乗ってきた
クロウィン ケルベン: この話を
クロウィン ケルベン: いまさっきまでここにいた王子にもしてみた
クロウィン ケルベン: しかし彼の反応は微妙だった。むしろ話の内容がわからないという雰囲気もあった

ハンベイ: ふむ

クロウィン ケルベン: もし彼がニセモノだったとして
クロウィン ケルベン: 何が目的なのか注意していてほしいんだ
クロウィン ケルベン: もし本物だとしたら
クロウィン ケルベン: なぜ心変わりしたのかしりたい

ハンベイ: 発見した状況を考えると、打ち所が悪かった可能性もないではないな

ダーマン: 間諜も兼任ですか
ダーマン: まあ単純に影武者というのがあり得そうな話ですかね

クロウィン ケルベン: そこでこれを
クロウィン ケルベン: こっそり作っておいた
クロウィン ケルベン: 王子の兜は本物だった。彼の兜を探知できるようにつくっておいた


クロウィンは魔法の指輪を取り出して見せた。

グロック: ひとつききたい
グロック: それはそんなにだいじなことなのか
グロック: えんぐんをつれてくるよりも?

ダーマン: んー、今の状況としてはあまり?

ハンベイ: まぁ、話がすんなりいくかどうか、の差だろう

グロック: くだらんゆびわつくってないで、かつための、ほうほう
グロック: かんがえたらどうなんだ

クロウィン ケルベン: 大切なことだ。もちろん
クロウィン ケルベン: もしニセモノ王子一派が
クロウィン ケルベン: 我々の壊滅をのぞんで動いていたら?
クロウィン ケルベン: 彼の行動、たとえばサンダバールとかその道中で
クロウィン ケルベン: 援軍を呼ぶのに積極的でない態度などなかったかい

グロック: だとしたら、えんぐんはのぞみうすじゃないか

ダーマン: ははあ、なるほど。ここがどういう用途の施設なのかわからない以上その可能性もあると言うことですか

クロウィン ケルベン: まあ、あくまで最悪の場合だ
クロウィン ケルベン: 私が今考えているのは正直なところ
クロウィン ケルベン: いつ撤退するか、だ

ハンベイ: 遺跡とオークごと吹っ飛ばす、なんて可能性もないわけじゃないか

グロック: ・・・

クロウィン ケルベン: どうやって一人でも多く生きて逃げ帰るか、を考えている

イノーラ: まあ、現実的だな

クロウィン ケルベン: そのためにはドワーフが味方にならなくても
クロウィン ケルベン: 敵にならないようにしたいし
クロウィン ケルベン: 敵ならそのつもりでいないといけない

ダーマン: オークの方の目的も見えてないですしねぇ

クロウィン ケルベン: うむ
クロウィン ケルベン: 彼らがここを征服するつもりなのは間違いないがね……
クロウィン ケルベン: とにかく、この指輪を
クロウィン ケルベン: 持って行ってくれ

ダーマン: 本当に飢餓解消ならここまで来ずともサンダバールを全力で攻めるでしょう。…勝っても負けても飢餓は解消する

ハンベイ: そうだな

クロウィン ケルベン: ところで、この指輪
クロウィン ケルベン: もし王子が鉱山まで行った場合、その場所を見つけられてしまう
クロウィン ケルベン: だから絶対に失くさないでほしい


ダーマン: ふむ

クロウィン ケルベン: もし君たちが知らせるべきでないと思うなら私にも秘密にしてかまわない

グロック: おれはせいじなんて、どうでもいい
グロック: おぐろくは、ぶっころした、かたきはとった
グロック: あとはどれだけ、そのなかまをぶっころすかだ

ダーマン: 彼らはリックの敵でもありますしね

ハンベイ: ま、そういうことだな

クロウィン ケルベン: これは卑怯な手というのは承知している。
クロウィン ケルベン: …よろしくたのむ。君たちの報告で今後が決まる

ダーマン: では準備を

グロック: てったいするときは、おしえてくれ
グロック: りっくのはかを、あらされるのはゆるせん

クロウィン ケルベン: わかっている

イノーラ: ゆっくり寝る暇もないなんてな


一行は次なる旅路のため、すぐに準備へ取り掛かった。

●ウルテンの正体

準備を整えた一行は、早速街の地下から抜け出て、ウルテンの案内で鉱山に向かっていた。

ウルテン : さて、もうだいぶ歩いてきたけど
ウルテン : もう鉱山も近い。みんな注意してくれ

グロック: だいぶあったかくなったかな?

ウルテン : こっちだ
ウルテン : ?

ダーマン: む

ハンベイ: いるな


ウルテンが気配を感じて立ち止まると、茂みや木立の影から数人のドワーフが姿を現した。

グロック: お
グロック: でむかえか?

ドワーフ戦士 : これはこれは
ドワーフ戦士 : 奇遇ですな

グロック: ?

ダーマン: というと?

ドワーフ戦士 : ちょうどこの辺りを巡回中に王子に出会うとは

ウルテン : …

ダーマン: 警らの方ですか

ドワーフ戦士 : そうです
ドワーフ戦士 : まああなた方の事はだいぶ前から気が着いておりましたから
ドワーフ戦士 : ちょうど話しやすい場所で待っていたわけですが

ダーマン: なるほど

ドワーフ戦士 : さて、王子共々どちらに向かわれる?

グロック: ・・・

ダーマン: あなた方の元へと向かおうと思っていたところです

ウルテン : …

ドワーフ戦士 : なるほど……あなた方はホームから王子を護衛してきてくださったということでよろしいので?

ダーマン: それもありますが、援軍の要請もかねております

ドワーフ戦士 : 援軍…ああ、なるほど
ドワーフ戦士 : オークのことですな

ダーマン: ええ

ドワーフ戦士 : どうやらあなた達の街は大変な事態になっておるようす
ドワーフ戦士 : デリナール殿から伺っております

ウルテン : デリナールの知り合いなのか?
ウルテン : あ、いや、知り合いなのですか?

ドワーフ戦士 : もちろん。
ドワーフ戦士 : さて、王子の護衛ということであれば、あとは我らで引きつぎましょう
ドワーフ戦士 : 援軍の要請の件も、必ず王に伝えると約束します
ドワーフ戦士 : というわけで、あなた方はお引取りを

ダーマン: それはかまいませんが、いずれにせよ要請への返答をいただきたい

ドワーフ戦士 : ふむ、返答あるまで待つと?

ダーマン: そうすべきでしょう
ダーマン: 事態は一刻を争います。また、礼儀の上でもそうでなければ特使など出しません

ドワーフ戦士 : ここいらはそれほど安全な場所ではない。あまりオススメできませんな

ダーマン: ふむ。野営で待機せよと言うことですか

ドワーフ戦士 : わかりました。ひとまず我々の中で話し合いたいのですが

ダーマン: もちろんです

ドワーフ戦士 : では王子の意見も伺いたい。こちらへ来ていただけますかな

ウルテン : …

ハンベイ: 気が進まんのか?

ウルテン : いや…いいだろう。では私も共にいく

グロック: ・・・

イノーラ: またあとでな

ウルテン : 日が落ちるまでに一度戻ってくる
ウルテン : それまでこの辺りで待っていてくれ

ダーマン: はい、よろしく

ドワーフ戦士 : では

グロック: ・・・


ウルテンはドワーフ達に囲まれたまま歩き去った。

ダーマン: やれやれ。予想通りとは言え気分の良い物ではないですね

イノーラ: どうやら公認の偽王子みたいだな

ダーマン: そのようです

グロック: おれたち、むだあしなのかもな
グロック: こうざんがぶじなら、どうでもいいんだろう

ダーマン: まあ、待つしかないでしょうね
ダーマン: 三冠帝国以来
ダーマン: あまり諸種族が手を組むというのはないことですしね

イノーラ: 今日の野営地を探しておいたほうがいいかもな

グロック: ここは、やえいにむかないか?

ダーマン: 安全かどうかはともかく、あまり離れるわけにはいかないですしね


一行はあまりその場を離れずにウルテンの帰りを待つが、やがて夕日が落ちて山肌は影に入った。

グロック: このままもどってこなかったら
グロック: どうする?

イノーラ: とりあえず食事して寝る

ハンベイ: そろそろか?


さらに数時間が経過。

ダーマン: ま、考えてみれば石のベッドよりは野営の方がましかもしれないですよ。ハンベイやグロックだと天井につえるだろうし

グロック: そういえばそうか
グロック: ちいさくなるじゅもん、おぼえればよかったな
グロック: すっかり、くらくなった
グロック: めしにしよう

ダーマン: そうですね

ハンベイ: 遅いな

グロック: もどってこないかもしれないな

ダーマン: 一応、討議はしてくれているんでしょう

イノーラ: 朝になってもこなかったら、ホームに戻るか?

ダーマン: そうですね

グロック: ほーむは、もうないかもしれない

ハンベイ: 手ぶらで、ともいくまい
ハンベイ: 足跡でもたどれれば、な
ハンベイ: 特に気にして移動していた様でもない、可能だろうとは思うんだが

イノーラ: ・・・

グロック: かりうどなら、できるなあ

イノーラ: その前に、指輪を使うべきじゃないか

グロック: すくらいんぐ、のまほうか?


ダーマンはクロウィンに渡された指輪を使ってみた。
頭の中に、ウルテンの兜がある方角や距離が感覚的に伝えられる。

ダーマン: 徒歩で1時間くらいですかね

グロック: そんなにとおくないんだな

ダーマン: 移動はしてないようです
ダーマン: 向かってみますか

グロック: そうするか

一行は暗闇の山中を歩き始めた。

グロック: よるでもみえるの、おれだけかあ

ダーマン: 北のようです

グロック: ふとおもったけど
グロック: かぶとだけおいてあったら
グロック: どうなるんだ
グロック: きけんだな

ダーマン: どの辺ですかね…


指輪に導かれるまま進むと、岩肌の露出した崖に突き当たった。
指輪はそのまま前方だと告げているので、目の前の岩山の中という事になる。

ダーマン: この向こうですか

イノーラ: 山沿いに探しながらあるけばいいかな


崖に沿って進むと、洞窟の入り口を発見した。

ダーマン: これかな
ダーマン: さて、どうしたものか

ハンベイ: そうだな

ダーマン: …

グロック: はいったらまずいのか?

ダーマン: ずいぶん無防備ですね?

ハンベイ: 見張りでもついてるもんだろうと思うが

ダーマン: オオカミニオソワレタノデニゲテキマシタ
ダーマン: ってことで


そう言ってダーマンは洞窟に入り、一行もそれに従う。

ダーマン: むう?

グロック: どした

イノーラ: どうした?

ダーマン: 罠ですね

イノーラ: 外からチラッと見ても解らないようになってるのか?

グロック: なんかきにくわないな
グロック: わなか

ハンベイ: 右の壁側にもか

グロック: しかけてある

ダーマン: うーん
ダーマン: こっちは無理ですね
ダーマン: いますね


あまり大きな洞窟という感じではなく、少し進んだところでドワーフの歩哨が立っているのを見つけた。

ダーマン: というか、何かの施設ですかねこれ

ハンベイ: さてな?

グロック: あいつにきいてみるか?

ダーマン: 罠がなければそれでも良いんでしょうけど

グロック: くろにぃに、かいじょしてもらうか?
グロック: すこしはなれたほうがいいかもな

クロニー: では私めにお任せあれ


グロックは使い魔を召喚すると、罠に突っ込ませる。わざと起動させて解除する作戦である。

ハンベイ: ……そういう解除か

イノーラ: 解除っていうか…

罠の起動には、さすがに歩哨も気が付いたようでクロニーに矢を射掛けてくる。
さらにその奥にいる一行にも気が付いたようだ。

グロック: やられたからにはやるぞ

ダーマン: せざるをえないでしょう
ダーマン: 極力無力化にとどめてください

ハンベイ: 承知


一行はドワーフと戦闘になった。
殺さないように手加減していると、さらに奥から2名のドワーフが駆けつけてくる。

グロック: こうふくしろ!
グロック: しょくしゅでしぬぞ


相手もドワーフ語で何か言ってくるが、一行には理解できない。
しかし降伏する様子はない。

グロック: こうふくしないようだな
グロック: じゃあしょうがない


一行は3人のドワーフを気絶させると縛り上げた。

グロック: いきなりおそってくるって、なんだ?
グロック: どわーふって、そういうれんちゅうか
グロック: おれだけねらうならわかるが!

ダーマン: さて…

ハンベイ: さて?

ダーマン: ドワーフ語はあいにくわかりませんので


洞窟の中には粗末なテーブルやベッドがあり、さらに頑丈そうな扉がついている。
その扉についた格子窓から聞きなれた声が響いた。

ウルテン : おい、どうしんだ?
ウルテン : 誰もいない
ウルテン : !

ダーマン: おや

ウルテン : そこのカギでここを


ウルテンが指差したところに下げられていた鍵を取り、扉を開ける。

ダーマン: ふうむ

グロック: なんでつかまってる?

ハンベイ: 何があった?

グロック: おうじのしごと?

イノーラ: なるほど、帰ってこないわけだ

ウルテン : いきなり捕まってしまって
ウルテン : ここに……

ダーマン: 問題はデリナール殿もつかまってると言うことですね

グロック: でりなーるって
グロック: だれだっけ
グロック: ひげがにてるからおぼえてない

ウルテン : そうなんだ

ハンベイ: こちらもか

ダーマン: 以前に来た特使の方です


しかしデリナールはだいぶ衰弱しており、ウルテンが肩を貸さないと歩くのも大変という状態である。

デリナール : …助かった。ありがとう

ダーマン: と言うわけでもないですね。なぜこのようなことに?

ウルテン : とにかくまずはここを出よう
ウルテン : 話はあとだ

ダーマン: そうですね

ウルテン : 俺の荷物がどっかにあるんだ。

ダーマン: ありました

グロック: これだったりする?
グロック: なんだか
グロック: ろうやみたいなばしょだな

ハンベイ: みたい、じゃなくてそのものじゃないか?

グロック: そのものかやっぱ

ウルテン : 裏口から外に
ウルテン : このへんは良く知っている

グロック: どこにでる?

ウルテン : 大丈夫だ
ウルテン : 山の中に出るだけだ

ダーマン: 安全なところに移動しましょうか

ウルテン : うん。


二人を救出した一行は、そのまましばしウルテンの先導に従い山中を移動する。

ウルテン : とにかく助かった。例を言うよ
ウルテン : 少し辺りを探ってくる
ウルテン : ちょっとここにいてくれ


ウルテンは慌てた様子でデリナールを残し、走っていった。

イノーラ: 手伝おうか…って言おうとしたんだが

ハンベイ: 内紛でも起こってるのか?

グロック: ないふん・・・

ダーマン: デリナール殿も素手では心もとないでしょう
ダーマン: これを
ダーマン: 旅の用途のものですがよかったらどうぞ


ダーマンはデリナールに杖を渡した。

デリナール : すまない…ごほごほ

ハンベイ: で、なにがあった?

デリナール : まさかここまでするとは…思っていなかったが
デリナール : ……あなた方には事情を話したいが、王子が…

ダーマン: 先ほどの方ですか?本物の王子のほうですか?


と、そこへウルテンが戻ってきた。

ウルテン : こちらのほうに洞窟がある。少し休めそうだ
ウルテン : とりあえずそこへ

ダーマン: わかりました

グロック: そとに、くまがいたぞ

ウルテン : デリナールはだいぶ弱っている。すこし休みながら行かないと……

イノーラ: どっちにしろ皆少しは寝たほうがいい

グロック: だーまんになおしてもらえ

ダーマン: お二人ともどこか具合の悪いところは?

ウルテン : 俺は大丈夫だ
ウルテン : あ、私は……

ダーマン: ああ、お芝居はもう結構ですよ。こうなったからには

デリナール : ウルテン…

ウルテン : ……


一行はウルテンが見つけた洞窟に隠れると、腰を落ち着けた。
そうして少ししてから、ウルテンが口を開く。

ウルテン : 皆には事情を話したほうがよさそうだな
ウルテン : 君たちが俺の命の恩人であることには変わりないし……
ウルテン : それも二度

ダーマン: そうねがえますか

ウルテン : 叔父さんはどこまで知っていたんだ?

グロック: おじさんだったのか

デリナール : わしは……王子が
デリナール : 鉱山開放の思想を持っていることは知っていた
デリナール : その反対勢力が当然存在するのもな
デリナール : だが表立って、ここまでの行動に出てくるとは思わなかった
デリナール : 王子が鉱山を抜け出す……というような行動にでるのも予想できなかったことだ

ウルテン : 俺は王子、アルテンというんだけど、とは友達だった
ウルテン : だからあいつが鉱山を出るのに協力するように言われて
ウルテン : それを手伝ったんだ

ダーマン: やはり襲撃のときに入れ替わったのですか

グロック: しゅうげきのとき?

ダーマン: 彼に最初出会ったとき
ダーマン: 元から影武者だったのですね

グロック: そうか

ウルテン : ……入れ替わったというのは正確ではないかもしれない

ウルテン : アルテンと俺、そしてアルテンの信頼していた友人たち3人は
ウルテン : 上手く鉱山を抜けられた
ウルテン : 目指すはホームだが
ウルテン : 途中にオークと遭遇するのを警戒していたんだ
ウルテン : そのため偵察を出しながら少しずつ進んでいった
ウルテン : もし偵察に出たものが戻らなかった場合、そちらは危険という判断になると思うんだけど
ウルテン : 現に、戻ってこない者が現われた

グロック: ・・・・

ウルテン : だから俺たちは偵察が出たルートを避けたんだ
ウルテン : だけど今思えばそれが……誘導されてたってことなのかも……

デリナール : その時偵察に出たものは、実際生きて鉱山におる

ダーマン: ふうむ?

デリナール : そいつは王子が抜け出すところまでは正確に話したが
デリナール : その後、自分以外全員死んだと語った
デリナール : ゆえに鉱山では王子は死んだことになっておる

ハンベイ: ……近習の選び方に問題があるんじゃないか?

ウルテン : 実際には
ウルテン : 俺たちが安全と思ったルートでオークの待ち伏せを受けて
ウルテン : 俺とアルテン以外は……殺されてしまった

グロック: あるてんはどこなんだ

ダーマン: まあ、王子のほうにも問題があるとは思いますがそれはまた後で

ウルテン : 俺たち二人は河をさかのぼって逃げたけどオークに追いつかれてしまって追い詰められた
ウルテン : その時……おれは命にかえてアルテンを生かそうと考えた
ウルテン : ……けど、あいつも同じ事を、考えていた
ウルテン : 俺にホームにいってドワーフは人間の味方だと証明しろと
ウルテン : この兜とマントを押し付けて河に突き落としたんだ
ウルテン : 雪解けで増水した流れに飲まれて俺は死んだと思ったけど、気が着いたらみんなに助けられていた

デリナール : ウルテンはそのあと、アルテンを探しに戻るべきだった

ウルテン : ……

グロック: まだ、ゆくえふめいか?


ウルテン : 助けられてホームに行ったあとに
ウルテン : 一度俺も含めてみんなでネザー山中を通っただろう?サンダバールに向かうときだ
ウルテン : あの時、じつはアルテンと分かれた場所を通ったんだ
ウルテン : でもアルテンはそこにいなかった……死体もなかった

ハンベイ: あの騒動は?

グロック: あのそうどう?

ウルテン : ああ……


サンダバールに向かう途中、ネザー山脈でウルテンが襲われた件のこと。
ウルテンはその事を思い出して、ぶるっと身震いした。

ウルテン : あいつは、俺と同じレンジャーだ。同じ師匠のところで訓練した。
ウルテン : そしてデリナールの名前も出して、事情は知っていると言ったんだ
ウルテン : だから安心した……けど
ウルテン : 俺に王子を辞めてウルテンに戻って鉱山に帰れと言った
ウルテン : そして王子はここで死んだ事にしろと
ウルテン : 俺はそれはできないと答えた
ウルテン : そしたら斬りかかってきたんだ……仲間だって信じていたのに……

グロック: そいつは、むくいをうけたけどな!

ダーマン: 忠告自体はもっともな感じですが、切りかかるのが解せませんねえ

ハンベイ: 生死は向こうも掴んでない、ってとこか?

デリナール : わしは人間の街で王子が生きているという噂を聞いて
デリナール : 確かめるためにお前さんらの町にむかった
デリナール : そこで王子を名乗るウルテンを見た。
デリナール : なにか事情があろうと思い、二人で話したが
デリナール : そこで王子の最後を聞いた
デリナール : わしは鉱山開放の反対勢力が王子を殺したという事実を、王に伝えるべきと考えたのだ
デリナール : そしてウルテンはその真相を知っているがゆえに
デリナール : 鉱山に戻れば命が危ないと考えた
デリナール : なにせ、王子を、罠にはめて殺すような連中だからな……
デリナール : 信じられんことだが……
デリナール : だからサンダバールに行くように言いつけて、わしは鉱山に戻った

ハンベイ: 継承者が複数いれば、別に不思議でもなかろう

デリナール : 人間と一緒にしないでもらいたい。ドワーフの子供は人間ほど簡単に生まれない

ダーマン: ドワーフ族の場合はそういうときに備えて王位を禅譲するシステムがあるのですよ
ダーマン: そのせいでお家騒動が起きることもあるそうですが

デリナール : 王の元へ向かったが、当時は王子死亡の話が出回っていたあとだ。王は自室におられるとのことだった
デリナール : そのため王と話が出来るまで長老会議の部屋で待っていたのだが……迂闊だった
デリナール : 今回の騒動の規模を考えれば長老のうち何人かが黒幕である可能性が高かった

ダーマン: そうでしょうね

グロック: だーまんの、すきそうな、めんどくさい、はなしだなあ

デリナール : わしはその場で取り押さえられて……そのあとはずっとあそこだ

ダーマン: ふうむ
ダーマン: ずいぶんと原理的な勢力がいるのですね

ウルテン : 今回のことは……つまり鉱山内に二つの勢力があるということだ

ハンベイ: 内紛じゃないか、結局

グロック: おーくは、いつでもそんなことばっかしてたぞ

ウルテン : 王子率いていた解放派と、その反対派
ウルテン : 王子が自らホームに行くという動きに出て、彼らもそれを止めるため究極的な手段を使った……
ウルテン : ということなんだろう
ウルテン : これは君たちにも関係のある話だ

ハンベイ: 望む望まざるにかかわらず、だが

ダーマン: そうですね。こちらの政治的な動きがそちらを刺激したとも言える

ウルテン : 解放派は人間との同盟はもちろん視野に入れている人達だが
ウルテン : 反対派はドワーフだけ、鉱山だけ維持できればホームはどうでもいいはずだ
ウルテン : 俺は……人間というやつはよくわからなかったけどホームやサンダバールでの生活を見て
ウルテン : 共にやっていける可能性はあると思ってる……

ダーマン: まあそうなるでしょうね。シールドドワーフの崩壊の原因を人間に求めるドワーフは多いですし
ダーマン: 彼らにはオークほどでないにしろ人間は敵です

ハンベイ: 単に好機であった、とも言えると思うがな

デリナール : 反対派が王子を殺すほどの強行に出たのは
デリナール : わしらの歴史にも理由がある
デリナール : わしらはかつて故郷を失って流浪しておった民だ。それが今の鉱山を得た。同じようにまた故郷を失いたくないと考える気持ちもわかる

ウルテン : 俺やアルテンは鉱山で生まれたから、そういうのは実感として持ってないけど……

デリナール : ともかく
デリナール : やつらが王子を殺したのは事実。それは王に伝えねばならん

ウルテン : 俺はアルテンは生きてると思ってるけど……
ウルテン : いや、信じてないだけだけど……

グロック: したいをかくにん、したわけじゃないのか?

ウルテン : 見てないんだ

グロック: だったら、しんだと、だんげんはできないぞ

ダーマン: 回収されたという話はないんですね?

ハンベイ: 見つかってれば、死んだ事にしろ、なんて話にはならんと思うが?

ダーマン: ふむ

グロック: おうじを、ころしたかったれんちゅうは、よろこんで、したいをひろうとおもうんだ

デリナール : ともかく事の沙汰を王に任せる必要がある。わしらは王に会わねばならんが……

グロック: たどりつけるのか?

ハンベイ: 王も体よく幽閉、なんて可能性もあるな

デリナール : ウルテンはハンターの一人だ。ハンターは鉱山を守る目だ

ウルテン : …
ウルテン : 確かにハンターには緊急時に鉱山に入る道がある

グロック: てきにも、おなじようなのがいるかも

ウルテン : そう。それは別に俺専用じゃない

ダーマン: 防備はするでしょうね
ダーマン: とはいえ、道はそれしかないでしょう

グロック: じゃまものは、しまつすればいいんじゃないの

ハンベイ: 正面から行くよりはましだろうな

イノーラ: …この話の流れだと、私たちも行くんだな。

ダーマン: 我らとしてはなんとしても同盟を勝ち得ないければならない

ウルテン : ……

グロック: おーく、ぶっころしたいんだ
グロック: ゆうりに、なっておきたいだろ

ダーマン: 王に直接会うのが一番でしょう

ハンベイ: このままホームごと潰されたいなら、別だが

ウルテン : 確かに、確実に抜け道で待ち伏せがあるはずだ……
ウルテン : そこに皆を連れて行くことは、俺には……

デリナール : しかし、わしら二人だけで突破は不可能だろう、ウルテンよ

グロック: ひとりでいくのは、しぬのとおなじじゃないのか

ダーマン: というか、私たちは私たちの目的で行くんですよ
ダーマン: 方向同じなら協力しても問題はないでしょう

ハンベイ: 本物の捜索にかかるわけにもいくまい
ハンベイ: 時間もない
ハンベイ: 生きてる事を願って、時間が早くできるように準備するのが最良だろう

ウルテン : ……

グロック: おうじの、てがかりでもあれば
グロック: べつだけどな

ウルテン : ……わかった。
ウルテン : じゃあ、頼む……
ウルテン : 抜け道はこの近くにあるんだ
ウルテン : 少し休んだら、行こう


ウルテンは目に涙を滲ませてそう言ったのだった。


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