サヴェッジ・フロンティアDR1235
第三章 北へ
「サンダバールの一夜」
●サンダバール
サンダバールがそろそろ見えてくる所まで辿りついた一行。その背後から土煙を上げて向かってくるものがあった。
ウルテン: ?
ウルテン: 誰かくる
ダーマン: おーい
グロック: あ
グロック: だーまんだ
ハンベイ: っむ?
イノーラ: 追いついたのか
ウルテン: なんだ、ダーマンか
ダーマン: どうにか追いつけましたか
ハンベイ: 無事だったか
ウルテン: おいついてよかったね
ダーマン: ええ、というかあなた達の通った跡はひどい有様ですよ?
グロック: ふつうだ
イノーラ: 快適な旅だったろ?
ダーマン: 確かに楽ではありましたけどね
道中の戦闘跡の事だろう。
一行が敵対する野営地や封鎖線を破壊して来たため、後を追うダーマンにとっては楽だったという事である。
ウルテン: どうもいろいろと… 厄介な事情のようでね
ウルテン: オークだけじゃあなくて
ウルテン: ノールやらなにやら、いろいろあったんだ
グロック: のーると、おーくだ
ハンベイ: 道しるべには困らんかったか
ダーマン: 死骸あさりの野犬くらいしか生きたものは見ませんでしたからね
ウルテン: …
グロック: あー、あとどわーふもころしてしまったな
ウルテン: *顔が曇る
グロック: ・・・あれは、じこだよ・・・
ウルテン: まあ、済んだことは仕方ないさ!
ウルテン: サンダバールへはいろう
ダーマン: どうやら色々あったようですね。お察しします
再びダーマンを加えた一行は、目的地であるサンダバールに向けて歩を進める。
グロック: ・・・
ハンベイ: これは?
ダーマン: む
グロック: おーくのせいかなあ
道端には激しい戦闘の跡があり、まだ片付けられていない死体さえある。
それらはサンダバールの防壁まで続いているようだ。
ウルテン: !
ウルテン: そうか
ウルテン: さっき襲ってきたあのオークたち
ウルテン: まるでサンダバールのほうから来た様に思えたのだけど
ウルテン: そういうことだったんだね
イノーラ: まるで、じゃなかったんだな
ダーマン: サンダバールにまで攻撃を仕掛けたのですか
ウルテン: *うなずく
ダーマン: 無謀な
一行は念のため周囲を警戒しつつ、オークの死体などを調べてみたが特に収穫はなかった。
グロック: ・・・
ウルテン: とりあえず、近くにもうオークはいないみたいだ
グロック: まちへいこう
一行はそのままサンダバールの門までやってきた。
ウルテン: サンダバールは、どうやら無事のようだね
ダーマン: しかしそうなると入れてもらえるかどうか…
グロック: どっちにしてもいれてもらえる、とおもう
グロック: つかまることになるかもしれないけど
サンダバール兵 : おい、とまれ
サンダバール兵 : なんだ?何者だ
ダーマン: 我々はカヴァードホームからの旅行者です
サンダバール兵: オークではないようだ
サンダバール兵: 旅行?
サンダバール兵: このご時世に旅行か……気が違っているとしか思えないな
ダーマン: こちらもオークの襲撃にあわれたのですか?
サンダバール兵: 見てわかるように
サンダバール兵: サンダバールもオークとは戦争中だ
ダーマン: もちろん、酔狂ではありません。人捜しやら目的があります
サンダバール兵: ……
サンダバール兵: いちおう、カヴァードホームから来たというのは信じてもいいが
サンダバール兵: 何か身の上がわかるようなものはないのか
同じ人間とドワーフということで、一方的に敵視はしないものの、だからと言ってすんなり入れてくれる様子はない。
特に兵士のうち一人はグロックを嫌そうに見ており、その視線に気付いたグロックとにらみ合いになっている。
グロック: おーくがもってたおのだ
グロック: せっこうがもってた、ないふだ
グロック: おーくたくさんたおしてきた
グロック: もんくがあるか
グロック: もらでぃんの、ぱらでぃんでもよんでたしかめてもいいぞ
サンダバール兵: 敵ではないようだが
サンダバール兵: 今は戦時下なため、旅人を気軽に入れるわけにはいかない。何か身分を明かしてもらわないとな
ウルテン: (問題がないようなら、とりあえずいまは何も口をはさまないほうがいいかな
ダーマン: 一応、我が生家、アマーディアスはこの町の金属ギルドとも取引がありますが…
サンダバール兵: ふむ
ダーマン: この盾が商標です
サンダバール兵: それを借りてもよろしいかな?
ダーマン: 金色の太陽紋に「輝きを尊べ」のモットーです
ダーマン: どうぞ
サンダバール兵: しばし、またれよ
そう言って兵士は門をわずかに開けて、中に入った。
ウルテン: うまく入れてもらえるかな
グロック: だいじょうぶだ
ハンベイ: 使うか?
ハンベイ: 重くてかなわん
ダーマン: ありがとう
グロック: おー、それも、おーくのぼうぐだ
ウルテン: 多少オークくさいのはがまんするしかないね
ハンベイ: 塗りなおしたりするだろうから直るだろ
イノーラ: あいつら金持ちだよな
ダーマン: この町も金持ちが多いですよ
ダーマン: 北方最大の製鉄冶金の町です
グロック: どわーふだって、みんぺいたいは、まほうのよろいは、もってないだろう
グロック: どこからてにいれたんだ
ウルテン: おれは見たことないね
一行がそんな話をしていると、一人のドワーフが兵と共に門から出てきた。
ベイリ エールハンマー: わしは南門の指揮官、ベイリ エールハンマーと申す
ベイリ エールハンマー: 盾を貸してくださったのはどなたかな
ダーマン: 私です
ダーマン: 初めまして。ダーマン・アマーディアスと申します
ベイリ エールハンマー: 間違いないようだ
ベイリ エールハンマー: 手間をかけてすまなかった
ベイリ エールハンマー: どうぞ、サンダバールへお入りなさい
ダーマン: いえ。こちらこそ感謝いたします
一人ずつ通れる程度に門が開かれたので、一人ずつ並んでサンダバールに入ろうとするが……
ベイリ エールハンマー: ん
ベイリ エールハンマー: ちょっと待たれい
ハンベイ: ?
ダーマン: なにか
ベイリ エールハンマー: 我が同胞がおられるようだが
ベイリ エールハンマー: どちらのご出身かな
グロック: うるてんのことか
グロック: うるてんはいいやつだ
ベイリ エールハンマー: ウルテンと申されるか
ベイリ エールハンマー: カヴァードホーにもドワーフが入植していたとはしらなんだ
グロック: とてもえらいやつとはおもえないくらい、いいやつだ
イノーラ: こら
グロック: あれ?
グロック: おれなんかまちがったかな
ベイリ エールハンマー: えらい、とは?
グロック: えーと、なんだっけ、うるてん?
ウルテン: *はあ〜*
逆に誤魔化すのも怪しい雰囲気になってしまったので、仕方なく話す。
どうやらウルテンは秘密にしておきたかったようだが。
ダーマン: グリムボルト氏族の族長長子、ウルテン殿です
グロック: おー、それだった
ベイリ エールハンマー: ふむ、まあサンダバールはいま大変な状況ですが
ベイリ エールハンマー: もしどこかに落ち着くなら、わしの弟が酒場をやっておるので
ベイリ エールハンマー: そこにでも滞在なさるといいでしょうな
ベイリ指揮官はウルテンの名前には反応しなかった。
ウルテン: ありがとう
ベイリ エールハンマー: では、どうぞ
ダーマン: ありがとうございます
ベイリ エールハンマー: 出る時はまた声をかけてくだされ
一行は重厚な防壁の間を抜けて、市街へとやってきた。
久々の街で、戦争中とは言え活気のある人々のやり取りや、たくさんの人の気配がする。
ダーマン: この町に来たからには「ミッドナイトレディ」に止まりたかったがねえ
ウルテン: ふー、あぶなかった
グロック: ?
グロック: なにがだ
ウルテン: あのさ
ウルテン: いちおうみんなにおねがいしておきたいのだけど
ウルテン: 何があるかわからないので、できれば
ウルテン: この町にいる間は、まだ身分のことについては
ウルテン: 秘密にしておいてもらいたいんだ
グロック: またおそわれるからか?
グロック: だいじょうぶだ、おれがまたなんとかするよ
イノーラ: あんなことがあった後だしな
ウルテン: いつか期を見て自分から明かすよ
ウルテン: …
ウルテン: ダーマンはいなかったから
ウルテン: 知らないのは無理もないけど
グロック: あれは、・・・じこだからさ・・・
ウルテン: ここへ来る途中の山の中で、少し、ね
ダーマン: ふうむ…
ウルテン: ありていにいうと…
ウルテン: 刺客に襲われたんだ
ダーマン: なるほど
グロック: ここにもいるかもしれないのか?
グロック: それはたいへんだな
ウルテン: いるかも知れないし、いないかも知れない
ウルテン: でも無駄な危険は避けておいた方が賢いだろう?
グロック: んじゃあ、ぎめい、かんがえよう!
グロック: えーと、ところてん、は?
ウルテン: 偽名…は、別に…
ウルテン: ウルテンでいいよ
ウルテン: かえってややこしい
グロック: そうか
ダーマン: まあ状況を見て…ということで
ウルテン: それで
ウルテン: これからどうするんだい
グロック: そうだ、いのーらにこれあげよう
グロックは途中で拾ったらしい罠キットやら何やらをイノーラに渡す。
イノーラ: 久しぶりだな
イノーラ: しかも唐突だ
イノーラ: ありがとう
ハンベイ: で、どこにいく?
ダーマン: まずは宿を取りましょう
ダーマン: 拠点を決めないと先の行動にも支障が出ます
ハンベイ: さっきなんとか言ってたな
イノーラ: まあ、適当に入ろう
グロック: まよなかのきふじん、てのは
グロック: なんだ、だーまん
ダーマン: 有名な宿ですよ
グロック: ほー
グロック: そこいこう
ウルテン: 門番長のベイリさんが言っていた
ウルテン: 弟さんの酒場というのもあるね
ダーマン: 何でも各種族にあった部屋を完備しているとか
グロック: かんしされるんじゃないかなあ
ウルテン: 監視? どうして?
イノーラ: ドワーフだらけはちょっと…
グロック: おれの、かんだよ
ダーマン: まあ、ああいったのはそういう意味もあるでしょうね
ハンベイ: 一応部外者だからな
ダーマン: ここは大きな鉱山があるんですよ
グロック: おれはこのへんにすんでたけど
グロック: だーまんのほうが、くわしいな、どうやら
グロック: あんまり、まちにはこなかったからなあ
一行は話をしながら市内の道を歩く。
ウルテン: だいぶにぎわっているみたいだ
ウルテン: ん、
ウルテン: すぐそこにあるじゃあないか
「エールハンマー亭」をウルテンが発見した。エールのジョッキとハンマーが描かれた看板を吊るしている。
ハンベイ: まんまの名前だな……
ダーマン: ああ…すごくストレートですね。店の名前を言わないわけだ
ウルテン: なにか変かな?
ウルテンが宿のドアを開いて中に入ると、そこそこにぎわっているようだ。
店主らしきずんぐり太ったドワーフが客と歓談している。体型を除けば顔は門の指揮官そっくりである。
ダーマン: 失礼。南門の隊長殿より紹介されたのですが、宿を取りたい
オッファ エールハンマー: ん、おお
オッファ エールハンマー: なんだ、兄貴の紹介か
オッファ エールハンマー: 珍しいな、てことは街の外から来たのか
店主オッファは一行を見定める。
ウルテン: *ものめずらしそうに店の中を見ています
オッファ エールハンマー: でも農場やってるようには見えねえ
ダーマン: 私たちはそうですね…いわゆる冒険者になりますか
オッファ エールハンマー: 冒険者、といってもいろいろだが、とにかく避難民ではない?
オッファ エールハンマー: まあ、いいや
オッファ エールハンマー: うちは今、焼け出された城壁の外の人間を受け入れてんだ
ダーマン: 南のカヴァードホームから来たんですよ
オッファ エールハンマー: ほお
オッファ エールハンマー: ネザー山脈の向こうから、オークを蹴散らしつつやってきたってわけか
オッファ エールハンマー: そりゃあすごいな
ダーマン: そうなりますが、我ながら聞いててすごく怪しいですねえ
ウルテン: そういえば、外でオークに襲われたんだけど
ウルテン: なにかあったのかい?
グロック: かヴぁーどほーむとおなじか
グロック: ほういされてたんだな
宿にいる客(というか避難民)から話を聞くと、サンダバールもつい先日までは包囲された状況にあったらしい事がわかる。
ウルテン: なるほど、道理で
オッファ エールハンマー: まあ、いまはそんな状況で避難民だらけなんだがー
オッファ エールハンマー: 部屋は適当に雑魚寝でたのむ
オッファ エールハンマー: 持ち物は自分で管理するんだぞ
イノーラ: うわぁ
ダーマン: 女性もいるのでそちらだけはなんとかなりませんか?
グロック: ざこねのほうが、あんぜんだぞ
ダーマン: まあそうですけどね。ここは町中ですし
オッファ エールハンマー: うーん、まあ、女だけの部屋もあったはずだ
オッファ エールハンマー: そこらへんで交渉してもらって、入れてもらってくれ
イノーラ: …わかった
ダーマン: わかりました
オッファ エールハンマー: 部屋は二階だが、別に一階でもかまわねえ
オッファ エールハンマー: もちろん宿泊代はいらない。まあゆっくりしていってくれ
オッファ エールハンマー: …今は、だけどな!
グロック: はらへったな
グロック: なんかくわせてくれ
オッファ エールハンマー: 飯はあまり満足なものは出せないが
オッファ エールハンマー: 厨房で聞いてみてくれよ
オッファ エールハンマー: まあ、火の通ったものはあるはずだ…いちおう
ダーマン: 十分です
ウルテン: それじゃ、おれもひといきつこうかな
一行は適当な席を確保して荷物を下ろすと、料理を頼んだり飲み物を飲んだりして一息つく。
それから戦利品の売却や、道具の補充などを求めて街に出てた。
街の人の話によるとサンダバールの包囲が解消された事に喜んでいるようだが、戦況そのものが優勢になったわけではないようだ。
サンダバール以外の北方都市と連絡を取ろうとしているようだが、街道が封鎖されているため難しく、次は周辺地域の平定が求められている。
ダーマン: しかしこの様子では援軍の要請は無理ですねえ
グロック: あっちの、もんは、へいさらしい
ウルテン: 閉鎖?
サンダバールの全ての門は閉鎖されているが、特に西門はその先に陣取るオーク軍とにらみ合いになっており、市民はそこから出る事も出来ない。
出るためには責任者クラスの人物から許可をもらう必要があるようだ。
ダーマン: そういえばグロックのお師匠はどのあたりにおられるのです?
グロック: センセイか・・・
と、西門を見る。
グロックの師匠は西門から出た先の山の中に居を構えているのだ。
ウルテン: でもオークが
ウルテン: ここを包囲していたのって
ウルテン: ただの通りすがりだったのかな?
グロック: どわーふって、とおりがかりに、まちを
グロック: ほういするのか?
ウルテン: ドワーフはしないけど、オークならやってもおかしくはないだろう?
グロック: おーくは、ばかだけど
グロック: そこまでばかじゃないとおもう
ウルテン: それじゃ何か目的があってのこと?
グロック: それが、ろんりてきとおもわないか?
ウルテン: でもどんな目的だろう
グロック: わかんね
ウルテン: さっき、傭兵団との共同作戦がうまくって
ウルテン: それで結局追い散らされてしまったという話を聞いたけど
グロック: さくせんなら、さっきの、もんの
グロック: たいちょうに、きいてみたらいいんじゃないか
ウルテン: ベイリさん?
ウルテン: 教えてくれるかな
グロック: さあ
イノーラ: 最悪その辺の兵士に聞けばいい
ウルテン: 門番の人も
ウルテン: 指揮官に許可をもらえ、って言ってきたし
ウルテン: どこかに話を通しておいた方が、なにかと動きやすいかも知れないね
ダーマン: そうですね
ウルテン: 問題はどこに、だけど
イノーラ: 一番偉いやつに突撃しようか。カヴァードホームの使節だって
ハンベイ: どうやって証明する?
ダーマン: 使節であることを証明するものがないんですよ
イノーラ: ああ、またそれか
ウルテン: うーん
ハンベイ: 入り口でされたことをまたやられないわけがない
ウルテン: こんなことなら、カヴァードホームを出る時に
ウルテン: 何か預かってくるべきだったね
ウルテン: クロウィンから
ハンベイ: ま、来てしまった以上仕方あるまい
ダーマン: まあ、そうなんでしょうが…自警団はともかく、町の中枢がそれを許すかどうか?
ウルテン: ああ、そういえばクロウィンは自警団だったっけ
ウルテン: それはともかく
ウルテン: 何にしても、情報が必要ということだね
ダーマン: そうですね
ウルテン: もしくは、ひとまず先にグロックの師父のところへ行ってみるか
グロック: ・・・
グロック: にしは、ふうさだよ
ハンベイ: 面倒なことだな
ウルテン: ともかくこうしていても仕方がないね
ウルテン: 同じ門番担当ということで
ウルテン: ベイリさんに、許可を得るには誰にあたればいいのか
ウルテン: 聞いてみるのが早そうだ
イノーラ: だな
ダーマン: どちらにせよ、まずは地下へ行かないといけないみたいですね
グロック: じゃあきいてみるか
というわけで一行は南門にやってきた。
ハンベイ: 詰め所にでもいるのか?
サンダバール兵: なにか用かな
ダーマン: ベイリ殿はおられますか?
サンダバール兵: 隊長に何か?
ダーマン: ご相談したいことがありまして、取り次ぎをお願いしたい
サンダバール兵: ……まあ、ちょっと待ってなさい
しばし待っていると、ベイリが現れた。
ベイリ エールハンマー: なにかご用ですかな
ダーマン: 忙しいところ申し訳ありません
ダーマン: まずはお教えいただいた宿で旅装を解かせていただきました。ありがとうございます
ベイリ エールハンマー: うむ。それはよかった
ベイリ エールハンマー: 弟には会えたかな
ダーマン: はい。よい御仁です
ベイリ エールハンマー: あいつは愛想がいいだけで戦闘の役にはたたんがな
ダーマン: 早速ですがご相談したいことがありまして
ベイリ エールハンマー: ふむ?
ダーマン: 実は西門を通りたいのですが、何とか許可をいただけないでしょうか?
ベイリ エールハンマー: 西門から外に出るのか?
ダーマン: はい。
ベイリ エールハンマー: 街道を旅する予定かね?
ダーマン: 人捜しと先ほど申し上げましたが、その人物がこの町より西の街道筋におられるそうで
ベイリ エールハンマー: ジャランサーがどうなっておるかは、わしらにもわからんぞ。街道がオーク軍に封鎖されておるからな
ジャランサーというのはサンダバールから西の街道を行くとたどり着く街である。
人捜しという事だったので、ベイリは街に用事があると思ったのだろう。
ダーマン: 探しているのは彼(とグロックを指す)のお師匠に当たられる方です
グロック: ・・・
ベイリ エールハンマー: ……
ベイリ エールハンマー: というと
ベイリ エールハンマー: ああ、街道外れの山の中に住んでいた魔術師のことかな?
グロック: ・・・
ウルテン: グロックは師匠に会えるのは楽しみじゃあないのかい?
グロック: え・・・
グロック: べつに、たのしくは、ないな・・・
ダーマン: 確信はないのですがカヴァードホームでの戦において重要な情報がつかめるかもしれないのです
ベイリ エールハンマー: ふーむ
ベイリ エールハンマー: どうも、あれだ
ベイリ エールハンマー: きちんと話したほうが良さそうだな
ウルテン: 詳しい話を聞かせてもらえるのなら、願ったりかなったりだ
ベイリ エールハンマー: あと…少ししたら弟の店に行こう。そこで話せるかね?
ダーマン: はい。お願いいたします
ベイリ エールハンマー: では、そうしよう
ダーマン: では後ほど…失礼いたします
ハンベイ: 時間だけは余ってるな
イノーラ: 余ってないぞ。全然全く
ハンベイ: ここから動けなければ、余ってるだろ
ウルテン: といっても差し当たってやることもないし
ウルテン: 余っていないこともないんじゃあないかな
イノーラ: 戻るのは早いほうがいい
グロック: あいかわらず、たんきだ
グロック: かわらないのも、いいことだ
イノーラ: どうも
ダーマン: 戦争そのものは一刻を争いますが、この状況は時間待ちですね
一行は南門を離れて、エールハンマー亭に戻りベイリが来るのを待つ。
ベイリ エールハンマー: お待たせした
ウルテン: ベイリさん
ダーマン: ご足労いただきありがとうございます
ベイリ エールハンマー: まず、お前さんらがカヴァードホームから来たという話しは正直あまり信用していなかったが
ウルテン: ありゃ
ベイリ エールハンマー: どうも本当のような気がする
ハンベイ: 気がするじゃどうもな・・・・
ベイリ エールハンマー: その上で、わしらの知っている限りでは
ベイリ エールハンマー: かなりの部族がネザー山脈から南に行ったというのは知っておる
ベイリ エールハンマー: ちょうどブラッドアックス傭兵団の1部隊がホームに行っていた事もあって
ベイリ エールハンマー: 気にはかけていたが、こちらもそれどころではなくなってしまった
ウルテン: …
ダーマン: こちらを襲ったのはどういう部族です?
ベイリ エールハンマー: うむ
ベイリ エールハンマー: 今の北方の状況を、まずは話しておかなければならない
ハンベイ: そういえばいたな、あの制服
ベイリ エールハンマー: 本当に知らないようだからな
ウルテン: *うなずく
ベイリ エールハンマー: 今回のオークの襲来は、少なくともわしの人生でも初めてのものだ。その規模がな
ベイリ エールハンマー: まさしく洪水のように押し寄せたオークによって、北方のほとんどの地域が飲み込まれてしまった
ウルテン: …
ベイリ エールハンマー: 各都市は個別に対応せざるを得なくなってしまって
ベイリ エールハンマー: 同盟都市とも連絡が取れない状況だ
ベイリ エールハンマー: というのも、サンダバールでは
ベイリ エールハンマー: 複数のオーク部族による波状攻撃に各個で対応しており
ベイリ エールハンマー: 後手に回ってしまったんだな
ベイリ エールハンマー: その間に、オークの部族が5つまとまって、部族連合をつくり
ベイリ エールハンマー: 一気にサンダバールを包囲してしまった
ダーマン: そもそもが複数のオーク部族が結集すること自体が特異ですしね
グロック: ・・・
ベイリ エールハンマー: うむ、そのまま包囲戦になってしまってな
ベイリ エールハンマー: だが、お前さんらの言うように本来オークの連合はそれほど長続きしない
ベイリ エールハンマー: たいていは殺し合いになって自滅するからな
ウルテン: よっぽど有能なブレインがついたってことかな
ダーマン: もしくは強力な指導者か圧制者
ハンベイ: もしくは強力な指導者、だな
ベイリ エールハンマー: そう。わしらもそう考えて密偵を放ち続けた
ハンベイ: 定石だな
ダーマン: 結果はどうだったのです?
ベイリ エールハンマー: 今回の部族連合の中心は、"三角のオヴェロッグ"という強力な指導者だった
ダーマン: ふうむ
ウルテン: 三角?
ベイリ エールハンマー: だからわしらは、ブラッドアックス傭兵団と連携して、オヴェロッグをおびき出し不意打ちで一気に倒してしまったんだ
グロック: おやだまは、しんだか?
ベイリ エールハンマー: うむ
ベイリ エールハンマー: 結果、連合は崩壊してちりぢりになり
ベイリ エールハンマー: その隙をついて追い払った状況が、今だ。
ウルテン: それはすごい
ハンベイ: 影ではなかったか
グロック: そうびが、すごく、よかっただろ?
イノーラ: 良かったな、影武者じゃなくて
ベイリ エールハンマー: ただ、敵の数自体を減らせたわけではない
ベイリ エールハンマー: また指導者が出る可能性もあるが
ベイリ エールハンマー: いまサンダバールが一番恐れているのは
ベイリ エールハンマー: 残党がそのままメニーアローズ砦の戦力に吸収されることだ
ウルテン: !
ベイリ エールハンマー: そうなればかなりの軍団になってしまうからな
ダーマン: それですね
ベイリ エールハンマー: だから我々としては、いまはアドバールと連絡をとり
ベイリ エールハンマー: …まさかあの砦が落ちているとは思えんが、無事を確認して
ベイリ エールハンマー: 連携しなければならない
ベイリ エールハンマー: そういう状況だ
ダーマン: アドバールの戦力とこちらの武器供給が結びつけば、戦況は大きく変わりますしね
ベイリ エールハンマー: お前さんらがホームから来たのなら、そちらの状況を教えてくれ
ベイリ エールハンマー: お前さんたちだけできたのであれば、ただ逃げてきただけか、そうでないなら何かすべきことがあるんだろう
グロック: おなじようなもんだ
グロック: おやだまは、「ひとつめ」だけどな
イノーラ: さらに不味いともいえるな
ダーマンはウルテンの事をそれとなく伏せつつ、カヴァードホームの状況について説明した。
ベイリ エールハンマー: …なるほど
グロック: そうびがよすぎるんだ
グロック: なんか、うらがあるとおもう
グロック: みなみをふうさしてたやつらも
グロック: まほうの、かっちゅう、きていた
ハンベイ: 確かに異常なくらい充実した装備だな
グロック: はいどあーまーや、ちぇいんしゃつ、ちがうぞ
グロック: ふるぷれーとだ
グロック: それも、まほうの!
ダーマン: それにこちらの「三角」と我が方の「一つ目」、よく似た感じなのが気になります
ベイリ エールハンマー: うむ
グロック: でも、こっちには・・・おぐろく、いないか
ダーマン: 下手をすると彼らに指令を出すものがさらにいるかもしれない
ベイリ エールハンマー: 部族連合を作るような族長はそんなに現われるものではないが……そういう意味でも特別なのかもしれない。今回の件は
ウルテン: …
ベイリ エールハンマー: それで
ベイリ エールハンマー: ホームから正式に送られてきたのなら
ベイリ エールハンマー: 何か書状なりなんなり、もっておらんのかね
イノーラ: あいにく、正式じゃないんでね
ベイリ エールハンマー: ?
ダーマン: 残念ながら自警団の判断で送られてきたのであり、正式な使節ではありません
ハンベイ: 途中で倒されて書状を奪われた上悪用されたらまずいしな
ウルテン: オークがそんなこと考えるかなあ?
グロック: わるさするときには、あたまがまわるときもある
ダーマン: 普通なら気にしなくて良いでしょうが今回のケースにおいては正解だったでしょうね。結果的にですが
ウルテン: …
ハンベイ: 末端は考えんでも、上はわからん
ベイリ エールハンマー: しかし、サンダバールに来て情報を集めるにはそれなりのつてが必要だと誰でも考えるはずだ
ベイリ エールハンマー: なにも持たされてないなら
ベイリ エールハンマー: そういうツテを持った人物がいる……というのはないのかね
ウルテン: *めをおよがせる
グロック: ・・・
イノーラ: そもそもサンダーバールが最優先の目的ではないからな
イノーラ: だったよな?
ダーマン: サンダバールは当面の目標であり、主目的は彼の師匠に会うことです
ハンベイ: 片道の博打で出してみたってのが正解かもしれん
グロック: ・・・
ベイリ エールハンマー: わかった。では
ベイリ エールハンマー: わしには援軍を出す出さないという話はできないが
ダーマン: こちらの状況次第ではブラッドアックスに増援を要請するようにも言われていたのですが…そちらは難しいでしょうね
ベイリ エールハンマー: ブラッドアックス傭兵団長にもツテはないしな
ベイリ エールハンマー: 今の話だけで、上の者と引き合わせることはできない
ベイリ エールハンマー: だが門を開けてやることはできる
ウルテン: 実際、こちらの守りを手薄にしてしまうのも、危ない気がするね
ハンベイ: 疲弊しているからな
ベイリ エールハンマー: お前さんらが出発するときには西門を開けてくれるように話しておこう
ダーマン: それはありがたい!
グロック: ・・・
ウルテン: うれしくないのかい、グロック?
グロック: ・・・ふつうだ
ベイリ エールハンマー: だが、街道を進みすぎるとオークの封鎖線にぶつかるし
ベイリ エールハンマー: 偵察も出ているかもしれないからオークには注意することだ
ダーマン: 彼らがカヴァードホーム周辺で探しているものが何か重要な鍵である気がしてならないのです
ハンベイ: ……ていうか、そろそろ師の名前くらい思い出せよ
ウルテン: そういえばあっちのオークは何かを探していたな
ダーマン: しかもその指揮をとっているのは戦闘の中枢とは別系統のようですし
ベイリ エールハンマー: では、わしはもう行こう。
ダーマン: ありがとうございました
ベイリ エールハンマー: うむ。
ベイリ エールハンマー: わしにはこれ以上のことは難しい
ベイリ エールハンマー: ……では。
ダーマン: はい。また
ハンベイ: 十分だ
ベイリは席を立って、エールハンマー亭を後にした。
イノーラ: グロック、そろそろ覚悟を決めろよ
グロック: おれ?
グロック: センセイのところには、さいしょから・・・いくつもりだよ
ウルテン: …
イノーラ: にしては歯切れが悪い
グロック: むかしをおもいだすからだ
ダーマン: はあ。覚悟が必要なのは私もですよ。また明日から金属鎧を着る生活だ
ウルテン: (下手に事情を話したら巻き込んでしまうことにもなるだろうし…
ウルテン: ともかくこれで先へ進めるね
グロック: あまりゆかいなことにはならないとおもうけど、いこう
ダーマン: しかし、この町もこの状況じゃコーヒーはないだろうなあ…
ウルテン: グロックは師匠が好きじゃあないのかい?
グロック: すききらいはかんけいない
ウルテン: そうなのか
グロック: あれはおれのセンセイ
グロック: それだけだ
イノーラ: まあ、あんまり気張るなよ
●サンダバールを後にして
翌日、一行は西門の前に集合した。
ウルテン: グロックは相変わらず浮かない顔だな
グロック: ・・・そ、そうかな
ウルテン: そうさ
グロック: はらへってただけだ
ウルテン: そうか
ブラッドアックス傭兵団: 話は聞いてる。カギはあけておいたが
ブラッドアックス傭兵団: 一つ忠告がある
ウルテン: ?
ダーマン: ありがとうございます
ブラッドアックス傭兵団: もしまたサンダバールに戻ってくるときは、
ブラッドアックス傭兵団: この門を通るのに時間がかかると思ってほしい
ダーマン: まあ、それは普通のことでしょうね
ブラッドアックス傭兵団: たとえばオークの部隊に追われているような状況でも、すぐに開けて助けるというわけにはいかないと思って欲しい
ブラッドアックス傭兵団: すまないが……現状をわかってくれ
ダーマン: わかりました
ウルテン: そんな事態にならなければいいけど
こうして一行はサンダバールを後にした。
もうここに戻ってくる事が無いとは、この時一行の誰も思っていなかったであろう。