サヴェッジ・フロンティアDR1235
第二章 カヴァードホームの戦い
「鉱山よりの使者」


●クロウィンと王子

前回の戦いより一週間が経った。
街は復興のため今も忙しく作業している者が多いが、戦いが専門になりつつある一行はゆっくり身体を休める事が出来た。
そんなある日、一行か泊っている宿にクロウィンが訪ねてきた。

クロウィン ケルベン: ああ
クロウィン ケルベン: ちょうどよかった

ウルテン: クロウィン?

クロウィン ケルベン: こんにちは。グロック

グロック: やあ

クロウィン ケルベン: それに殿下。おはようございます

ウルテン: うん、ここへ来るとは珍しいな
ウルテン: 何かあったのかい?

クロウィン ケルベン: いろいろとごたごたが片付いたので
クロウィン ケルベン: ちょっと二人で話を…したいのですが?

ウルテン: *うなずく*

クロウィン ケルベン: では、部屋の中で

ウルテン: ここの部屋かい??

クロウィン ケルベン: ええ、
クロウィン ケルベン: わたしは構いません

ウルテン: まあそういう話なら別に良いんだが
ウルテン: それじゃどうぞ


ウルテンはクロウィンを部屋に招き入れる。

クロウィン ケルベン: どうも

ウルテン: それで…

クロウィン ケルベン: ええ、例の件なんですが

ウルテン: *うなずく*

クロウィン ケルベン: 全然話をする機会もなく……

ウルテン: ここへ来てからいろいろあったからね

クロウィン ケルベン: しかし、逆に、好機にはなったかとも…思うのです

ウルテン: ふむ

クロウィン ケルベン: この手紙を頂いてから
クロウィン ケルベン: かなり時が過ぎてしまいました
クロウィン ケルベン: この話をした頃は、オーク騒動がこのような規模のものになるとは思っていませんでしたから
クロウィン ケルベン: 私のほうでも、準備はまったく進んでいないのです
クロウィン ケルベン: まだこの話を、各リーダーに伝えてもいない

ウルテン: ふーむ…

クロウィン ケルベン: しかし逆にいまこそ好機ではないでしょうか
クロウィン ケルベン: 同盟は、もちろん軍事的なものも含むことができるし
クロウィン ケルベン: それを期待する向きもあります
クロウィン ケルベン: さらに、現に王子がここにおられる
クロウィン ケルベン: これはまたとない機会であると思っているのです

ウルテン: しかし逆に、
ウルテン: オークの脅威がなくなるまでは、治安上の問題というのもあるのでは?
ウルテン: たとえば人が行き来するとしても…
ウルテン: 例えば、我々のように途中で襲撃を受ける可能性も、平時に比べればずっと高くなっているんじゃあないかな

クロウィン ケルベン: そこが、ポイントなのです
クロウィン ケルベン: そういうことのないように、オークに対して軍事的にも同盟する明確な動機になる

ウルテン: ふーむ… 
ウルテン: つまりきっかけとして、ということか
ウルテン: 対オークを

クロウィン ケルベン: ええ、火の粉はふりはらわなければ
クロウィン ケルベン: なりませんからね
クロウィン ケルベン: 第一歩を踏み出せれば
クロウィン ケルベン: 我々の計画も進展しやすくなる
クロウィン ケルベン: このオークとの戦い…いや、戦争も乗り切れるかどうかはわからなくなってしまいましたが
クロウィン ケルベン: だからといって、戦後の事を考えないわけにはいかない

ウルテン: …

クロウィン ケルベン: そうではありませんか?

ウルテン: 言っていることはわかるよ
ウルテン: ただ、
ウルテン: うーん…
ウルテン: こんなことを言っていいのかどうかわからないのだけど

クロウィン ケルベン: ええ

ウルテン: 野生の鳥というのは
ウルテン: 時としてお互いの生活圏が重なると
ウルテン: 縄張り争いをするものなんだ

クロウィン ケルベン: ???

ウルテン: ところが
ウルテン: そこへある時、彼らの脅威となるような肉食の獣がやってくる
ウルテン: 自身の居住権を求めてね
ウルテン: そうすると、お互いに争っている場合じゃあなくなる
ウルテン: 最初に戦っていた二つの巣の鳥たちは戦うのを止めて
ウルテン: 一緒にその獣を追い払うんだ
ウルテン: ここまでは良い
ウルテン: それが、いざ獣がいなくなると

クロウィン ケルベン: ふむ…

ウルテン: また縄張り争いを始める
ウルテン: どちらかが結局、出て行くしかないからね
ウルテン: もちろん、我々は鳥や獣とはちがう
ウルテン: 言葉を使って、お互いの…意思を伝え合うことが出来る
ウルテン: しかし、

クロウィン ケルベン: …

ウルテン: つまり、言いたいことはこれさ
ウルテン: 確かにいま、オークという外からの脅威を前にして
ウルテン: 我々と、あなたたちホームの人間が
ウルテン: 結束するための障害は、逆に低くなっているかも知れない
ウルテン: けれど、いざ脅威が去った時…
ウルテン: はたして、外敵に対して結束する意味を失ったその時、
ウルテン: 自分たちが自分たちだけのことを考えずに
ウルテン: お互いのことを考え続けていられるかということだよ

クロウィン ケルベン: …?


クロウィンは少し疑問を感じた様子で、ウルテンをじっと見つめた。
まるで兜の奥を見抜こうとするかのように。

ウルテン: 確かに、
ウルテン: 疑いだしたらキリがない
ウルテン: 長老たちは、昔からずっとそうやって何度も人間や他の種族と同盟して裏切られたドワーフの歴史を背負っているから
ウルテン: 慎重になるというのもわかる話だけれどね
ウルテン: しかしそんな彼らを説得するには、生半なことじゃ済まないんだ
ウルテン: はっきりとした、かたちが必要だ
ウルテン: 例えば、
ウルテン: 例えば、まずはホームの全体としての意思…
ウルテン: それが必要なんじゃあないかな

クロウィン ケルベン: わかりました。
クロウィン ケルベン: 王子がそのおつもりでないなら
クロウィン ケルベン: もう少し機を見ましょう
クロウィン ケルベン: どちらにしても
クロウィン ケルベン: あなた抜きでは進まない話ですからね

ウルテン: 別につもりがないとは言っていないよ
ウルテン: ただ、一部の者たちだけで話を進めてしまっても
ウルテン: 結局いつかは瓦解するかも知れないし
ウルテン: それにそもそも、頭のかたい長老たちをそんなに簡単に説得はできないということさ

クロウィン ケルベン: ……
クロウィン ケルベン: そう、ですね
クロウィン ケルベン: わかりました。
クロウィン ケルベン: では私はこれで失礼します

ウルテン: …うん

クロウィン ケルベン: そうそう

ウルテン: ?

クロウィン ケルベン: 明日のリーダー会議には、ぜひ出席してください
クロウィン ケルベン: では。


クロウィンは退出した。

ウルテン: はあ、やれやれ…
ウルテン: …


一方その頃、宿屋一階の酒場では。

グロック: ひまだなあ

ダーマン: そのほうが良いんですが

ハンベイ: 暇なのはいいことだと思うがね

グロック: おーくころしたいんだ

ダーマン: このままオーク共もあきらめてくれると良いんですが

グロック: あきらめるとおもう?

ダーマン: まあ無理ですね
ダーマン: そもそも何がしたいのかも不明ですし

ハンベイ: おそらく

グロック: いせきと、かんけいある
グロック: そんなきがする

ダーマン: アレだけの人員と物資を抱えながら、結局のところ散発的な攻撃を繰り返すだけですし

グロック: このこうげきそのものが、おとりかもしれないな

イノーラ: 指揮官がそうとうの馬鹿か、それとも何か考えがあるのか

ハンベイ: 完全な統制がとれてないとしても、まだまともな攻撃ができるはずだな

ダーマン: …遺跡から武器弾薬は補充できても食料は無理ですからね。本当に部族の領土を取りたいなら急いでしかるべきなのですが

グロック: あーがいるは、おーくにしてはあたまいいし
グロック: まあおれのほうがあたまいいな

ダーマン: はて、そう言えばウルテンは?

グロック: くろうぃんと
グロック: はなしてる

ダーマン: ふむ

ハンベイ: 見てないが、部屋じゃないのか?

グロック: おれたち、じゃまらしいぞ

ダーマン: あー。

イノーラ: これだけ暇だと、どうしていいのか分からないな

ダーマン: どうしたものですかねえ

グロック: なにかたべるか

イノーラ: 弓の手入れでもするか

ハンベイ: 買出しし損ねたものがあったかな?

ダーマン: そうですねえ。気晴らしがてら装備の再チェックしておきますか

グロック: ほう


と、そこへ二階からクロウィンが下りて来た。

クロウィン ケルベン: 長々とすまなかったね
クロウィン ケルベン: 明日は会議があるんだが、前回のアンデット騒動ならびに
クロウィン ケルベン: オーク戦の英雄として、みんなも出席してくれ

ダーマン: わかりました


そして壊れた扉を不思議そうに見ながら、クロウィンは宿から出て行った。
入れ替わりに、ウルテンが上から下りて来る。

ウルテン: 扉はどうしたんだい

グロック: こわれた

ウルテン: こわれた??
ウルテン: そんなにいたんでいたようには見えなかったけれど

ダーマン: こわした、の間違いでしょう

イノーラ: 壊した、んだろうが

グロック: こわれたのはじじつ

ハンベイ: ……した、のまちがいだ

ウルテン: …

グロック: まちがいではない
グロック: とびらがしゅごならば
グロック: こわれた、がただしい
グロック: おれをおーくとおもってばかにしてるな

ウルテン: とびらがこわされた、が正しいのかな

グロック: うけみをしっているか
グロック: やるな

ウルテン: コモンは大事だからね


そこへ宿の主人がやってきて、グロックの肩を叩いた。

ヤドリギ亭 主人: おい

グロック: ?

ヤドリギ亭 主人: で、弁償は?

グロック: いくらだ

ヤドリギ亭 主人: 50GPだ

グロック: ほきょうしとけ

ハンベイ: ……えらく高い扉だな

ダーマン: …意外とするものですね

イノーラ: …物資不足だから

グロック: おーくとおもってばかにしているんだな

ヤドリギ亭 主人: 言っておくが、金の問題じゃないんだぞ。金で済ませてやるけどな

ウルテン: こういうのは迷惑料も含まれているんじゃあないかな

ハンベイ: ああ、そういう意味ではお買い得かもしれんな

ウルテン: 「勝手に馬をとめたら罰金3万ゴールド申し受けます」っていうのと同じさ
ウルテン: それはそれとして、
ウルテン: 明日はちょっと用事があるから出るよ

ダーマン: どこに?

グロック: わかった

ウルテン: たぶん役所…じゃあないかな

ハンベイ: 行くんじゃないのか?

ダーマン: 会議は明日ですよ?

ウルテン: ん?
ウルテン: ああ、なんだ、みんなも出るのか

グロック: みなうわさしてる
グロック: おれがうらぎるってな

ウルテン: ??

ダーマン: あまりありそうにない話ですねえ

ハンベイ: そんなことはなかろう、言わせておけ

グロック: うわさはそんなものだ

ダーマン: むしろ、うちの親なんかの方が…

ウルテン: そうなのか

グロック: おーくもにんげんも、ばかばかりだ


●三つの道

翌日となり、一行は会議に出席のためシティホールに集まった。

ダーマン: ダーマン以下4名参りました

パーティーリーダー: あとはクロウィンがくれば全員だな


続いてクロウィンがやってきた。

クロウィン ケルベン: おまたせ
クロウィン ケルベン: さて、それでは今日の会議を始める前に
クロウィン ケルベン: お客人が来ているので
クロウィン ケルベン: 一緒に参加してもらおうとおもう

ウルテン: ?

ハンベイ: ?


クロウィンに招かれて入ってきたのはドワーフである。
その顔を見て、ウルテンの顔色が変わる。

ウルテン: !

ダーマン: ほう。

デリナール: わしはロックカッター氏族のデリナール
デリナール: 鉱山から参った。

ハンベイ: 知人か?

クロウィン ケルベン: いや、王子を驚かせようと思ってね
クロウィン ケルベン: 今朝、到着されたばかりだ
クロウィン ケルベン: 私も事前に知らされていたわけではない

デリナール: …
デリナール: ……
デリナール: ……王子。おひさしゅう


デリナールはじっとウルテンを見つめ、しばらくしてやっと一言挨拶をする。

ウルテン: *うなずく

デリナール: ……
デリナール: あとでお話があります。よろしいですな

ウルテン: うん…

クロウィン ケルベン: さて、会議の内容はデリナール殿にも聞いていただくことにする
クロウィン ケルベン: デリナール殿は、ウルテン王子の活躍をお聞きになり、馳せ参じたとの事。
クロウィン ケルベン: また、我々の動向を鉱山に伝える役もあるということだ

グロック: ・・・

クロウィン ケルベン: よって、会議に出てもらう事にした
クロウィン ケルベン: 異論は?

クロウィン ケルベン: ないね。
クロウィン ケルベン: では始めよう

ダーマン: 今はどんな手助けでも欲しい状況ですしね


クロウィン ケルベン: まず今までの状況で
クロウィン ケルベン: 特に私が気になっている部分
クロウィン ケルベン: それは諸君らの進言からも汲み取ったものとしてだが
クロウィン ケルベン: まず敵オーク軍が組織的になりつつあるということ
クロウィン ケルベン: 今までは、1部族がただ攻めてくるだけだったが
クロウィン ケルベン: 他部族と連合を組んでいる様子が前回伺えた
クロウィン ケルベン: これが同盟なのか、あるいは傘下に取り込んだのかはわからない
クロウィン ケルベン: また、オークの以外の種族が敵と連動した事実もある

クロウィン ケルベン: つぎに
クロウィン ケルベン: 我々は敵をあまり組織だったものとしてみていなかったため
クロウィン ケルベン: 考えなかったのだが前線で戦う諸君からの意見として
クロウィン ケルベン: 敵の装備はどこから入手しているのかということ
クロウィン ケルベン: また同時に、敵拠点の規模や位置がはっきりしていないことが問題だ

クロウィン ケルベン: 最後に……
クロウィン ケルベン: 我々に援軍はあるのか、ということだ
クロウィン ケルベン: ドワーフの方々との交渉は続けていくが
クロウィン ケルベン: それ以外の味方になりうる勢力との連携は可能なのか
クロウィン ケルベン: ということ

クロウィン ケルベン: 以上を踏まえて作戦を3つ提案したい
クロウィン ケルベン: 1、敵オーク連合拠点、規模、組織構成、装備の入手先などを偵察や潜入その他の手段で調査する。
クロウィン ケルベン: 2、ハイフォレストのドルイドとの接触。そして可能ならばエルフとの接触。これは味方に引き入れると同時に、この地に関する知識を得られる可能性に期待している。
クロウィン ケルベン: 3、雪解けしつつあるターンストーンパスを越えてサンダバールに行く。これはネザー山脈より北の情勢を知るとともにサンダバール等からの援軍が期待できるのかを調査する目的がある。
クロウィン ケルベン: また3に関しては、同時に
クロウィン ケルベン: グロックの師匠に会って敵軍師の情報を得られる可能性がある。

グロック: ・・・

クロウィン ケルベン: これは本人がいかないと無理かもしれないが
クロウィン ケルベン: 以上だ。

パーティーリーダー: 作戦そのものに異論はない……細かい方法については適時相談の必要はあるが
パーティーリーダー: 問題は、誰がどの作戦を担当するかだな
パーティーリーダー: 偵察なら、わたしのパーティーが得意なところだけど……

クロウィン ケルベン: 私としては、まず、ダーマンのパーティーに担当してもらう作戦を決めたいと思う

ダーマン: なぜです?

クロウィン ケルベン: もしサンダバールにいくなら、グロックがいたほうがよいだろうし
クロウィン ケルベン: ハイフォレストにいくなら、イノーラが役に立ちそうだ
クロウィン ケルベン: 調査に関しては……君たちの実績では未知数だな

グロック: おれは、さんだばーるにいくよ
グロック: ひとりででも

イノーラ: (エルフ…うーん、父さんのところから逃げてきたしなぁ

ウルテン: グロック…

グロック: ひつようなら、だーまんのてした、やめる
グロック: もうきめた

ダーマン: 手下ではないですが…

ウルテン: 手下だったのか

グロック: おまえ、いいぼすだったけど
グロック: おれはいかないと
グロック: りっくのことがあるからな!

ハンベイ: そういう話ならうちの選択肢はないといっていいな

ダーマン: まあ、こちらも判断材料はほとんど無いですしね。異論がなければグロックの意見を採用したいと思いますが
ダーマン: ハンベイやイノーラはどうです?

イノーラ: エルフのところじゃなきゃどこでも
イノーラ: 修行をほっぽり出してきたから…

ダーマン: どこに行ってもエルフにあう可能性はありますが…とりあえずハイフォレストは却下ですか
ダーマン: うーん

ハンベイ: 別れるなら、数の足らない方に回るだけだ

ダーマン: 今のところ特に分かれる必要はないですよ

クロウィン ケルベン: では、サンダバールに行ってもらえるのかな?

ダーマン: では私たちがサンダバー行きを担当します

クロウィン ケルベン: わかった。

クロウィン ケルベン: それでは他の作戦に関しては…


と、クロウィンたちの会議は続く。
そのうちにデリナールがウルテンの近くに寄ってきた。

デリナール: 王子。
デリナール: クロウィン殿、そろそろ王子と二人で話をしてもいいだろうか?

クロウィン ケルベン: ええ。
クロウィン ケルベン: そうですね…私の部屋を使ってもらって
クロウィン ケルベン: いいですよ

ウルテン: ありがとう

デリナール: では王子、参ろうか


デリナールとウルテンの二人は会議室から出て行った。

グロック: おれは、いかないといけない
グロック: みんなちがうとこいくなら、おれはいいぞ

イノーラ: そんなにいきり立ったりしなくても、どこでもいいんだけど、別に
イノーラ: …親戚にあわなきゃね

グロック: しんせきか・・・
グロック: あいたくないしんせき、いるよな

ダーマン: 特にこれと言った判断材はないですからね。なら、仲間といたほうが良い

グロック: じゃあきまりか

ダーマン: 今は放って置かれてますが、名が上がってきたとなると親父や兄が何か言ってくるかも知れませんしね。外に出ていた方が楽だ

ハンベイ: 親族というのも厄介だな

グロック: はんべーは、いないのか

ハンベイ: なにがだ?

グロック: しんぞくだ

ハンベイ: ……捨ててきたからな……

グロック: ・・・そーか

イノーラ: …長いな、説教

グロック: かなりおこられてるな


ウルテン以外のメンバーは、デリナールが王子のお目付け役か何かで勝手に出てきた事を怒られていると思っている。

ハンベイ: ……むしろ、捨てずに討たれたほうが今思えばよかったのやもしれん

グロック: それはどうかなあ・・・

イノーラ: 私は生きてたほうがいいとは思うが

ハンベイ: ま、詮無いことだ、忘れてくれ

グロック: いまは、さんだばーるだな
グロック: おーく、ころすのは、しばらくさきだ

イノーラ: どんなところなんだ?

グロック: ・・・いいおもいでは、ないな

ダーマン: ドワーフの鉱山要塞と聞いてますが…

グロック: おれ、すんでたのはそのちかくだし
グロック: どわーふは、おーくがきらいだ
グロック: あまりいかなかったな

ダーマン: なんでも溶岩を利用した溶鉱炉があるとか

イノーラ: ドワーフで要塞か…最悪の組み合わせだ

ハンベイ: 説教食らってる若の方が詳しいかも知れんな

ダーマン: まあ、それはそうでしょうね
ダーマン: 毎年のように攻撃を受けると聞きますしね。好きになれという方が無理かも

ハンベイ: 確かに、それは無理な話だな

ダーマン: 問題はそれよりも山脈越えですねえ

グロック: みちならあるよ

ダーマン: 溶けかかっているとはいえ、まだ厳しい雪道のはず

ハンベイ: 行き着くだけでもかなりの難問だろうな

イノーラ: 途中でオークと鉢合わせそうだしなぁ

ハンベイ: むしろ、溶けかけのほうが雪崩の危険性が高い

グロック: あんなにせっきょうされたらたいへんだ

ダーマン: …ふむ

ハンベイ: ……しかし、どれだけの不始末を責められてるのやら

ハンベイ: 日が変わるぞ、この調子じゃ

グロック: ぬすみぎきしてみるか?

ダーマン: ありそうな話です

ハンベイ: 同門に守役がいた奴がいたが、長じてからはその守役に「寝小便をしていた頃からは……」などと
ハンベイ: よく言われて閉口したそうだが

ダーマン: その点クロウィンは口が堅くて良いです

イノーラ: そのぶん、胡散臭くもあるな

ダーマン: 目の前でそう言う事をいうのはよくないですよ

イノーラ: ふむ、私も一つ賢くなったな


●デリナールと王子

途中退室したデリナールとウルテンは、クロウィンの執務室の前まで来ていた。

デリナール: 入ってくれ

そして中に入ると、鍵をかける。

デリナール: で、ウルテン
デリナール: どういう事か説明してもらおうか


やはりデリナールには一発で見抜けたようだ。

ウルテン: おじさん…
ウルテン: う…
ウルテン: *なみだがあふれでる


デリナールはウルテンの横面を叩いた。

ウルテン: ぐすっ
ウルテン: ううう…

デリナール: 泣いている場合じゃない。なにがあったんだ
デリナール: きちんと話すんだ

ウルテン: ひっく…ひっく…

デリナール: 大切なことなんだぞ。

ウルテン: こ、
ウルテン: 鉱山を出たんだ
ウルテン: アルテンに頼まれて
ウルテン: あの日
ウルテン: アルテンは、
ウルテン: ホームの人間たちと
ウルテン: おれたちで
ウルテン: 同盟を結ぶべきだって
ウルテン: それで、おれがあいつの頼みを聞いてしまったから
ウルテン: そのせいで…

デリナール: 王子はどうしたんだ?

ウルテン: …

デリナール: お前だけ生き残ったのか?

ウルテン: 山を降りるまでは
ウルテン: なんともなかったんだ
ウルテン: おれとアルテンだけじゃあなくて
ウルテン: 他にもみんながいたから
ウルテン: 山のふもとまで来たら
ウルテン: ハイリンが偵察に出たまま戻ってこなかった

デリナール: !

ウルテン: それで、おかしいと思ったんだ
ウルテン: すぐにおれたちは迂回して
ウルテン: ホームへ向かった
ウルテン: その時にはもうおそかったんだ
ウルテン: オークの軍勢が山のふもとから
ウルテン: おれたちを包囲していた
ウルテン: グラーリンもジェナールも
ウルテン: アルテンとおれを逃がすために戦って
ウルテン: アルテンは深手を負ってた
ウルテン: おれもぼろぼろだった
ウルテン: けどおじさん、おれは戦うつもりだったんだ
ウルテン: アルテンとおれは兄弟だ
ウルテン: だから生まれた日は違っても、死ぬ日は一緒だって、誓ったんだ
ウルテン: …

デリナール: それで、どうなったんだ?王子は?

ウルテン: デリンビーア川の川岸まで逃げてきた
ウルテン: そこでアルテンは…
ウルテン: おれにこのクロークと
ウルテン: かぶとをしばりつけて
ウルテン: 「これでおまえが王子だって」
ウルテン: それから、おれを川に突き落としたん
ウルテン: …あとのことはわからない
ウルテン: おれは水をたらふくのんで
ウルテン: 気が付いたら死にかけで
ウルテン: さっきの
ウルテン: あの連中に助けられたんだ

デリナール: 馬鹿な……くっ、ウルテン、どうしてすぐに鉱山に戻ってこなかったんだ

ウルテン: …
ウルテン: おじさん、こんなことがあった後でも
ウルテン: おれはアルテンが死んだとは…
ウルテン: 思っていないんだ

デリナール: あの連中に言って、すぐに王子のその後を確認すべきだったはずだ。なぜそれができなかったんだ?

ウルテン: でも
ウルテン: アルテンはおれに、王子をやれって
ウルテン: 人間との同盟を、なんとしてでも成功させろと言ったんだ!
ウルテン: アルテンはぜったいいつか見つけるよ
ウルテン: もし…見つからなかったら…
ウルテン: いや、見つからなくても
ウルテン: ぜんぶが終わったら、おれは死ぬよ
ウルテン: けどいまは
ウルテン: いまは、アルテンののぞんだとおりに
ウルテン: ドワーフと人間を繋げることこそが…

デリナール: バカもの!!
デリナール: これは!
デリナール: お前と王子の
デリナール: 問題じゃないんだぞ!
デリナール: もっと大きな問題なんだ

ウルテン: それは…

デリナール: お前達二人の個人的な感情なんて
デリナール: その問題のまえにはたいしたことではない!

ウルテン: *ムッとする

デリナール: だからお前は戻ってくるべきだった!

ウルテン: それじゃあ、アルテンはどうなるんだよ!
ウルテン: あいつがやったことは無駄だったっていうの!?

デリナール: そうだ。そしてそれを無駄にすることに加担したのもお前だ

ウルテン: そんなこと…!

デリナール: お前が門を出るときに、門番に本当のことをいうべきだったし
デリナール: 少なくとも、わしに相談していれば……

ウルテン: …
ウルテン: おじさんに黙っていたのは…
ウルテン: ほんとうに悪かったと思ってる…
ウルテン: まさかあのときは…
ウルテン: こんなことに…なるなんて…
ウルテン: *ぐすっ

デリナール: ……わしも興奮しすぎた。すまない
デリナール: ウルテン、しかしな
デリナール: これは難しい問題なんだ
デリナール: なぜなら
デリナール: ハイリンは生きているんだ

ウルテン: !
ウルテン: 本当に!?

デリナール: よく聞くんだ
デリナール: ハイリンは一人だけで鉱山に戻ってきた
デリナール: ハイリンの話では、鉱山を王子が出るところまではお前と同じ
デリナール: そして山を下りてオークに遭遇する。ここも同じ
デリナール: そのあと鉱山に戻る事をジェナールが進言したが
デリナール: 王子はなんとしてもホームに行かなければならないとして、強行突破を指示
デリナール: それに従って戦いのさなか
デリナール: お前含めて護衛は死んだと言っておる
デリナール: ハイリンは戦いのさなかに
デリナール: 沢に落ちて
デリナール: 雪のおかげで助かったものの意識を失っていて

ウルテン: …?…

デリナール: 気が付いてから戦場に戻ると王子も全員死んでいた
デリナール: と言っていた

ウルテン: 全員…
ウルテン: それは、
ウルテン: …おじさん、
ウルテン: おれも、かい…?

デリナール: ああ

ウルテン: …

デリナール: だが、ホームではドワーフの王子が先陣をきっているという噂だ
デリナール: そしてハイリンの個人的な報告では
デリナール: 敵オークの行動は待ち伏せのように思えた…といっておる

ウルテン: そんなはずは、
ウルテン: そんなはずはないよ、おじさん
ウルテン: ハイリンは…偵察に出て、それからずっと戻ってこなかったんだ
ウルテン: それで、何か危険に遭遇したんだとおれたちは思って
ウルテン: ハイリンの行った方角を避けて…

デリナール: 鉱山では今、人間側が策を弄したのではという疑いが持ち上がっている
デリナール: それどころか、オークと手を組んで鉱山を狙っているというやからもおる
デリナール: そして王子の噂。これは確かめずにはおられまい。

ウルテン: …

デリナール: ウルテンよ、なにか王子がこそこそやっていたのはわしも知っている
デリナール: 具体的には知らんがな
デリナール: それと関係があるかもしれないと思っておる

ウルテン: おじさん、

デリナール: うむ

ウルテン: おれはおじさんに嘘は… いや、今回の計画についてもついたし
ウルテン: それにこれまでも何度もついたけど
ウルテン: おじさん、おれは嘘は言っていないよ!

デリナール: ……

ウルテン: ぜんぶ本当にあったことだ

デリナール: たとえばお前が嘘をついて得すること…を考えてみれば
デリナール: お前が嘘をつく意味が無いのはわかる
デリナール: たとえ今は一時英雄になれても
デリナール: 必ずバレることだからな

ウルテン: おれがそんなものには興味なんかないってことだって
ウルテン: おじさんはよく知っているだろう?

デリナール: ……そうとなれば
デリナール: ではハイリンが嘘をついた目的はなんだろうか

ウルテン: …
ウルテン: 考えたくはないことだけれど…
ウルテン: アルテンもそれを心配していた
ウルテン: 自分がホームの近くで
ウルテン: オークに襲われて命を落としたことが事実として鉱山に知れたら
ウルテン: 人間を疑ったり責めたりする動きが起こるんじゃあないかって…

デリナール: ハイリンの証言によって現に鉱山はその向きだ

ウルテン: …

デリナール: ……

ウルテン: このままじゃ…このままじゃまずい
ウルテン: おじさん、どうしよう

デリナール: ウルテン
デリナール: さっきまでわしはお前をつれて帰るつもりだったが
デリナール: お前は鉱山に戻ってきてはならん

ウルテン: ?
ウルテン: それはどうして?

デリナール: お前の言葉が真実だとすれば
デリナール: それが都合の悪いやつが鉱山にいることになる
デリナール: となればお前が危険だ

ウルテン: おれのことなんかどうなってもかまわない!
ウルテン: むしろ…
ウルテン: 死罪はまぬがれないだろうけれど
ウルテン: おれが鉱山に戻って、陛下にすべてをお話すれば

デリナール: その役はわしがやろう

ウルテン: おじさんが…?

デリナール: 王子の噂も広まっていて、真相を知っているものならお前が王子のふりをしているのにも気が付くかもしれない
デリナール: そうなればここも危険かもしれん
デリナール: お前はここに残って今までどおり王子としておれ
デリナール: さっきの話…サンダバールに行くなら行った方がいいかもしれん

ウルテン: でも陛下は
ウルテン: 陛下や他の者たちは
ウルテン: おじさんの話を信じないかも知れないじゃあないか

デリナール: お前の話だって同じように信じないかもしれない
デリナール: それこそ無駄死にじゃないか

ウルテン: でもおれなら少なくとも、ハイリンの話がうそだって証拠にはなる!

デリナール: わしなら上手くやれる
デリナール: すこし裏を探ってみようと思う

ウルテン: おじさん…

デリナール: その時間をくれ

ウルテン: でもハイリンが…

デリナール: もしかしたら、とんでもない裏切り者がいるかもしれないって事なんだ

ウルテン: いや、もしかするとハイリンだって誰かの命令を受けて動いているのかも知れない
ウルテン: そいつがもしすでにみんなに根回しをしているとしたら
ウルテン: おじさんだってそんなことを告発したらただじゃあすまないよ

デリナール: 大丈夫だ。わしは王子の監督をしてきた者だぞ
デリナール: 王とも個人的に会うことができるし
デリナール: みんなの前でいきなり話すつもりはない

ウルテン: …
ウルテン: それじゃあ、おれはどうすれば…?

デリナール: ウルテン、兜をかぶって
デリナール: 王子として、いまの連中と一緒にサンダバールへ

ウルテン: おじさんは、公にはアルテンは生きていて、カヴァードホームで人間たちと一緒に戦っている、と伝えるのかい?

デリナール: うむ

ウルテン: …
ウルテン: …それで…

デリナール: そうなればここにも誰か必ず来る。
デリナール: わしはそいつが誰かを確認する

ウルテン: …
ウルテン: …アルテンは
ウルテン: アルテンは鉱山のはんぶんを人間に解放して
ウルテン: ドワーフとホームの人間で、仲良くやっていこうと考えていたみたいなんだ

デリナール: !

ウルテン: …おれだって、そんな都合のいいはなし
ウルテン: そうそううまくいくとは思っていないよ
ウルテン: 昔から人間は何度もドワーフと同盟しては裏切りを繰り返してきたっていうのは、長老たちが言うとおりのことだし

デリナール: 鉱山の開放か…そいつは突拍子も…
デリナール: 長老達は危険とみなしてもおかしくない……
デリナール: そうか……

ウルテン: …けど、いつかは変わらなくちゃならないって
ウルテン: アルテンはそう言ってた

デリナール: わかった。

ウルテン: 友だちは多いほうがいい
ウルテン: それはおれも思う
ウルテン: …だから、せめてアルテンのやろうとしていたことが
ウルテン: 無駄にならないようにしたいんだ

デリナール: ウルテン、いいな、とりあえず今までどおりだ

ウルテン: *うなずく
ウルテン: おじさんのほうも気をつけて

デリナール: うむ

ウルテン: そうだ、
ウルテン: 師匠にも
ウルテン: おれの師匠にも相談を
ウルテン: がんこな人だけど、師匠なら鉱山の外にいるから
ウルテン: きっと、協力をしてくれれば動きはとりやすいと思う

デリナール: わかった。考えてみる

ウルテン: …おれもそのうち挨拶に行くって、伝えておいて
ウルテン: …それから、
ウルテン: アルテンの…手がかりも…

デリナール: 行こう。兜をかぶって


ウルテンは兜を被り、再び王子に戻った。

デリナール: よし。

●新しい道

イノーラ: 戻ってきたか

デリナール: …お待たせして申し訳ない

グロック: zzzz

ウルテン: …

クロウィン ケルベン: いえ。
クロウィン ケルベン: それで王子はこちらに残れられるのですね?

ウルテン: いや、そのことなのだけれど

クロウィン ケルベン: ふむ?

ウルテン: わたしも
ウルテン: サンダバールへ同行しようと思うんだ

ダーマン: …ふうむ?

クロウィン ケルベン: ええ?

ウルテン: この前の戦いが一段落して
ウルテン: たぶんこの先、しばらくは大規模な攻撃はないかも知れないし

デリナール: サンダバールにもいずれ王子は出向かねばならんしな

ウルテン: うん
ウルテン: うまくすれば、援軍の要請もできるかも知れない

グロック: よくねた

クロウィン ケルベン: …たしかに

ダーマン: たしかにあそこは傭兵の町でもありますしね

ウルテン: …あちらはあちらのことで手一杯…かも知れないけれどね

クロウィン ケルベン: それは願っても無い…ですが
クロウィン ケルベン: ではダーマンのパーティーに今後も参加するという形で?

ウルテン: ダーマンや他のみんながいやでなければ…

グロック: いいぞ

ダーマン: 私としては問題ありません

ハンベイ: 問題はない

デリナール: うむ。王子をよろしく頼む。わしは鉱山に戻らねばならんでな。

クロウィン ケルベン: ……
クロウィン ケルベン: …わかりました。そういうのでしたら

ウルテン: すまない、クロウィン
ウルテン: …どちらにしても、例のことを進めるには、お互いにまだ時間が必要だ

グロック: ?

クロウィン ケルベン: ではダーマン、すまないがよろしく頼む

ダーマン: わかりました
ダーマン: まあ今までもうちにいたのですし残るならその方がやりやすいでしょう

グロック: あのいし
グロック: もっていっていいか

クロウィン ケルベン: ああ、では会議はこれで終了だ。
クロウィン ケルベン: みんなには準備が出来次第、サンダバールに向かってもらおう


こうしてカヴァードホーム攻防戦を終えた一行は、サンダバールへと向かう事になった。


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