サヴェッジ・フロンティアDR1235
第一章 オーク、来る
「仲間の死」
●脱出
まだ日の昇らないような早朝。
村の北門にはPC一行とザクの姿があった。
ザク: …
ザク: …すまない、危険な任務をやらせてしまって
ダーマン: まあ誰かがやらないといけない事ですよ
ザク: 目的は時間稼ぎだ。無理に敵を倒す必要はない
リック: わかってる
ザク: それと
ザク: 村を脱出するときは北門から出るんだぞ
ザクと一行は昨晩すでに合流地点や道については話し合いを済ませている。(という事にしてある)
ザク: わしらと合流できるまで
ザク: 休む暇はないかもしれない
ザク: だから、ここで全力を出してしまっては駄目だ
ザク: 十分に余力を残した状態で
ザク: 脱出に移ってくれよ
リック: わかった
ザク: …頼んだぞ
リック: そっちのほうも
リック: 気をつけてくれよ
イノーラ: 任せておけ
ハンベイ: 気をつけてゆかれよ
ダーマン: 了解です。私も死にたくはないですしね
ザク: ああ
ザク: それと
ザク: そこらへんにある荷車だけど
グロック: これか
門の近くに置いてある荷車を指す。
ザク: 皆が使ってくれと残したものだ
ザク: もし使えたら、使ってくれ
リック: わかった、ありがたく使わせてもらうよ
ダーマン: ありがたくいただきます
ザク: それじゃ…死ぬんじゃないぞ
そう言い残してザクは村人と合流すべく去っていった。
一行はさっそく残してもらったものを確認して使えそうなものを分配する。
リック: また戻って…これるかな
リック: あまり壊されなきゃいいんだけど
ダーマン: (本当言うとオーク達を引きつけた後は全部焼き払ってしまうほうが良いんですが…言ってもきかなそうですねえ)
イノーラ: とりあえず脱出経路は確保しないとな
ハンベイ: ……あえて合流せず、本隊の位置を悟らせないという手もあるか……
そろそろ朝日が顔を出す頃合いになり、静まり返っていた村の周りに物音が聞こえ始めた。
音のするほうを見ると、木々の合間からオークの姿を見て取れる。
突撃を待っているようすだ。
リック: この音
リック: きたのかな?!
ダーマン: おそらく
イノーラ: 来るか?
ハンベイ: さて、どこからだ?
その時、オーク語で大声が響き渡る。
アーガイン : ヤロウども! おれのアニキ、そしてお前らの王"一つ目のグロウト"は"裂け耳のズオウス"の願いを聞き入れた!!
アーガイン : よって、今からあの人間の村を叩き潰す!
アーガイン : 一人残らず皆殺しにしちまってかまわねぇぞ!
アーガイン : 楽しんで来い!
オークの咆哮が響き渡る。
ハンベイ: 言葉はよくわからんが、えらく景気よさそうだな
グロック: やるきまんまんのおーくだぞ
グロック: みなごろしだ、いってる
ダーマン: ほほう
しかし今の演説とオーク達の咆哮で敵の配置が東西に分かれている事が分かった。
だがそれも無意味で、オーク達は声を上げながら突撃してくる。
一行は東西に分かれて門を使い戦う事となったが……
リック: まずい、
リック: 東が
今までの戦いで傷ついていた門はどんどん削られていく。
しかし一行も防衛戦に慣れてきている。
アーガイン : おい、なんで落とせねえんだ!お前らもいけ!
リック: きた!
敵の第二陣。
この攻撃によって西門はほとんど壊れかけ、もはや数撃で突破されそうである。
アーガイン : おい、冗談じゃねえぞ!オグログに笑われちまう!
アーガイン : おめぇら本気でいけ!
敵の大将と思しきオークの発破で奮起するオーク達。
ついに西門が突破され、東門にもかなりガタが来ているようだ。
イノーラ: ちょっと不味くないか?
イノーラ: そろそろ退却すべきだと思うが
他の仲間達も同じように思っていたらしく、撤退を始める一行。
合流して北門を目指す。
村になだれ込んできたオークたちは一行を追い回すより略奪に熱心なものも多い。
アーガイン : 十分だな…アニキに怒られなくてすむ!
アーガイン : あとはおめえらに任せたぜ。
オークたちの勝利の声を背中に受けながら、一行は村を後にした……。
●一つ目のグロウト
一行は村を脱出して合流地点を目指す。
合流地点に向かうために通らねばならない谷間へと差し掛かったとき、なんとオークが待ち伏せしていた。
リック: 突破するしかない
一行が北門から出て行く所は村のオークに見られている。
何匹かのオークが村から追撃してくる可能性もあって引き返すわけにはいかない。
一行は武器を構えて戦闘態勢を取った。
"一つ目の"グロウト : "裂け耳よ、お前の民は俺が引き受けた。だが、勝てない戦士はいらん。
"一つ目の"グロウト : お前と、お前の部族の残った戦士であいつらを仕留めてみせろ
谷の上から、一行の前方で道を塞いでいるオークに声をかけるオークがいた。
イノーラ: ザクの考えたとおりになったみたいだな?
"裂け耳の"ズオウス : 一つ目よ、感謝する。いいか、わが裂け耳が生き残る最後のチャンスだ
"裂け耳の"ズオウス : やつらを血祭りにあげてやる!
最初に村を襲ってきた"裂け耳"部族の族長らしい。
ザクの予想通り、彼らを取り込んだ部族があり、それが"一つ目"部族のようだ。
自らの生き残りを賭け、裂け耳のズオウスとその手下が一行に迫ってきた。
そのまま激しい戦闘に突入する。
一行のほうも先ほどの戦闘で治療薬などを使い切っており、双方死力を尽くした戦いになったが……
"裂け耳の"ズオウス : ま、まける
一行の力が上回り、徐々に均衡がやぶれる。
その間、この戦いを見守る一つ目のグロウトは手出ししない。
リック: このっ!
ついにリックの攻撃がズオウスを仕留めた。
ここに"裂け耳"部族は最後を迎えたのだ。
グロック: あ・・・・
グロック: あわわわわわわわ
リック: ?
勝利を喜ぶ暇もなく、谷の上を見上げたグロックはそこにいるハーフオークに気が付いた。
一つ目のグロウトに付き添うように立っている魔術師である。
グロック: お・・・おぐろく・・・
リック: グロック?
グロック: おぐろくだ
ハンベイ: ?
グロック: ・・・にげよう!
グロック: おぐろく、きけんだ
グロック: おぐろく・・・とてもこわいぞ!!!!
リック: 知ってるのか、グロック?
その時、背後から迫るオークの気配にイノーラが気付いた。
イノーラ: いいから行こう
イノーラ: 後ろから来るぞ、さっさとしろ!
一行はひとまず合流地点を目指して駆け出した。
その一行をグロウトはただ黙って見送るのだった。
●避難行
一行はなんとかオークを振り切り、村が見える最後の峠道までやってきた。
グロック: ・・・・
グロック: ・・・おぐろく、とてもきけんだ
グロック: おれより、あたまいい
リック: そうなのか…
ダーマン: おまけに一つ目を名乗る訳ですからね…
リック: 喋りたくないなら
リック: 無理に聞かないよ、グロック
グロック: ・・・
グロック: りっく、とてもいいやつだ
リック: そら
リック: これ
リック: 今日は疲れたろ
リック: もうすっかり醒めちゃったけど…
リックは持っていた食べ物をグロックに差し出す。
グロック: こおってる
グロック: しゃあべっとみたいでうまい
と、そこへザクとジグニードが姿を現した。
ザク: みんな!無事だったか…
一行の無事を喜んだ後、村の様子を見る。
村からはいく筋もの煙が立ち昇っていた。
ザク: わしらの村…この丘を降りたらもう見えなくなる…
リック: …
リック: また…戻ってこられるといいな
ジグニード: ザクがどうしてもお前らを待つというんでな…
ジグニード: だが、いつまでもここにいると合流できなくなる
ダーマン: ふむ…。あまり良い判断とは思えませんが、うれしい話です
ジグニード: ザク、もう行こう
ダーマン: ええ、残念ながら敵の主力は健在です
ダーマン: 急いだほうが良い
ザク: うむ…
リック: 行こう、ザク
リック: これでまた村に戻るまでは隠居なんかできなくなったろ?
ザク: …うむ
グロック: むら、もどれるか
リック: 今すぐは無理だけど
リック: いつかね
リック: きっと戻るさ
グロック: かためのかみ、しんでんできてたらこまるぞ
皆、村に別れを告げて峠道を進んだ。
峠を下りると、ごつごつした岩場が続く荒野になっている。
そこを越えた先の木立ちの中が村人との合流地点である。
ジグニード: 皆と合流するには
ジグニード: ひび割れた荒野を進まないといけない
ジグニード : 荒野については…イノーラがそれなりに詳しいと思うんだが
イノーラ: それなりにはな
リック: へえ
ジグニード: テリウスから、これを預かってきた。
ジグニード: イノーラの役に立つはずだ
イノーラ: ありがとう
ジグニードはイノーラに隠密に役立つ装備を渡した。
ジグニード: 聞いてくれ
ジグニード: 俺たちはあまりのんびりしていられないが
ジグニード: かといって、道中で派手に暴れると
ジグニード: 敵に追跡されやすくなる
ジグニード: だから、痕跡はなるべく残さないように
ジグニード: 敵との交戦は避けて進むんだ
リック: 見晴らしは…あまりよくなさそうだ
イノーラ: 私が偵察で先行しよう
グロック: そういうのとくいだ
ダーマン: 私とリックが足を引っ張りそうですねぇ
リック: わかった
リック: なんとか…やってみるよ
イノーラ: じゃあ、私が先行するぞ
ダーマン: まあ、頑張ってみましょう
ということで荒野を進むことになった一行。
ここは、これまで一方的な戦闘が多かったため逆に戦闘を避けて進むというシチュエーションにしたかった事と、レンジャーとしてのイノーラの本領発揮というか、偵察して一行を導くというのを見たかった事が理由で上記のような説明をしているが、別に戦闘しまくっても問題はない。
イノーラ: じゃあ、行ってくる
リック: わかった
リック: 気をつけてね
グロック: りっくざんねんだな
リック: ?
リック: なにが?
グロック: いっしょいけなくて
リック: …し、仕方ないよ
そんな話をしていると、先行したイノーラが合図を送ってくる。
一行はイノーラに従う形で先に進む。
イノーラ: こっちに
イノーラ: 私の南にコボルド
イノーラ: いいよ
何度か引き返したり回り道をしたりしつつ、進んでいく一行だが……
イノーラ: うーん。ちょっと避けられそうもないなぁ
イノーラ: どうしよう
リック: イノーラが頼りだ
リック: 任せるよ
イノーラ: 敵が多すぎる
イノーラ: 回避するのは面倒だな
ハンベイ: むしろ、あちこちで戦って、あとをたくさん残しておくという方がいいのかもしれん
リック: 一台馬車を盗めばバレるけど、十台盗めば追跡に手間取るってやつだね
リック: ただあまり時間をかけると
リック: 今度は追っ手が来る可能性があるんだよなあ
リック: 一番楽に片付けられそうなほうへ進もう
イノーラ: うーん…
ダーマン: このあたりについては全く知りませんし、皆さんに任せます
イノーラ: 待機してて
イノーラは川沿いの崖にそって進む道を選び、壁沿いを進んだ。
しかしその川の対岸にはコボルドの住処があったのだ。
対岸のコボルドがイノーラに気付いて矢を射掛けてくる。
リック: イノーラ!
リック: あぶない!
発見されてしまったので、なし崩し的に戦闘にはなったものの、それほどの脅威ではない。
一行は敵を撃退した。
リック: ぜえぜえ
グロック: たのしーなあ
イノーラ: ありがとう
リック: なんだかグロックの姿が
リック: 少しぼやけてみえる
リック: なんだろう?
グロック: うん
グロック: おれのぱわーだ
リック: へえ
リック: 何かやってるのかい?
グロック: あたまいいからできる
イノーラ: 壁ギリギリに歩いて
引き続きイノーラの先導で合流を目指す一行に、冷たい雨が降り注いできた。
ダーマン: 雨ですか。今はありがたい
リック: 足跡が消えればいいんだけど
グロック: なだれでおーくぜんぶしぬ
ハンベイ: 幸い下は雪だ
イノーラ: こっちに
一行はイノーラの先導によって荒野を抜けた。
リック: ありがとう、イノーラ
リック: 助かった
グロック: けっこう、おもしろかったな
イノーラ: 私の仕事だ
イノーラ: 手間取らせてすまなかった
グロック: いのーらにはふるーつあげる
イノーラ: ありがとう
グロック: ひえてるぞ
ザク: さあ、いこう。みんなに追いつけなくなる
ザク : こっちだ
ダーマン: 急ぎましょう
●仲間の死
一行は木立ちの中で休んでいる村人たちに合流することができた。
見渡したところ脱落者はいない。
リック: よかった
リック: みんな無事か
イノーラ: 少し休むか
ダーマン: そうですね
リック: さすがにくたくただよ
ザク: 疲れているところ、すまないが…少し休んだらわしのところに来てくれ
リック: イノーラ
イノーラ: 何?
リック: さっきのケガ…大丈夫?
イノーラ: ああ、平気だが
リック: こんなことならもっと
リック: 包帯とか薬を持ってくるべきだったな…
ダーマン: 仕方ないですよ。村中の物をかき集めてもあれしかなかったんですから
ダーマン: それよりザクが呼んでます
一行はせっかく落ち着かせた腰を再び浮かせて、野営地の中をザクがいる所まで歩く。
グロック: ばんめしまだかっ
ハンベイ: 保存食の乾し肉を煮るといい。やわらかくなるし、いい出汁も出る
グロック: やきにくくいたいぞ
イノーラ: それにお前が悔やむことでもないだろう
リック: そんなことないさ
リック: 包帯があればいざって時にみんなを助けられるし
リック: 自分のケガだって薬で治さないと
リック: 戦うこともできないよ
リック: もうすぐカヴァードホームか…
リック: ヘンベイはそっちのほうには行ったことないのかい?
ハンベイ: さて、どうだったか……
リック: ?
ハンベイ: ここにたどり着くまでは、さながら生ける屍のような有様でな
リック: はじめて聞いたよ
グロック: ししかばぶー
ハンベイ: 自分でも、どこをどう流れてきたのかはっきりせんのだ
リック: 村にいた頃はずっと変わらないように見えたから
リック: そうだったのか
リック: でもヘンベイって名前はこの辺りの名前じゃあないよね
ハンベイ: うむ
リック: どこだろう… 南のアムンのほうかな
ダーマン: 感じで言えばカラ=トーアの方の響きですね
リック: それって東の国?
ダーマン: ええ
リック: へえ…
ハンベイ: 東のほうらしいことはわかってるんだが、どれだけ離れてるのか見当もつかん
リック: かなり遠いと思うよ
一行はザクの元に赴き、村で別れてからの事情を説明したりする。
ザクのほうも、カヴァードホームまでもう少しというところで休憩している理由を一行に語った。
夜を押しての強行軍を予定していたが、思ったよりも疲弊している村人が多く断念したということだ。
ザク: …ところで、お前さんらの様子からすると、村を攻めて来たオークは例の生き残りだけじゃなかったようだな
イノーラ: ああ
グロック: !!
グロック: お、お、お
リック: 一つ目だかなんだか、
グロック: お、おぐ・・・
リック: そんなような名前の奴が
ザク: ?
ダーマン: もっと大きい部族に吸収されたようです
ザク: …
グロック: ひとつめじゃないけど、
グロック: おぐろくがいた
リック: かなり危険な奴みたいなんだ
ザク: なんだ、そいつは?
ダーマン: オークで一つ目を名乗ると言う事はそれ相当の者でしょうね
リック: よくわからないんだけど…
リック: そいつが他のオークを指揮していたみたいだった
リック: 追ってくるかと思ったんだけど
ザク: ふむ…一つ目の、というのはヤツらの神の二つ名だったような気がするな
ダーマン: ええ、グルームシュ。かの神に認められた者は目を自らえぐり、神の姿をまねるそうです
リック: 自分で…?
ザク: …
リック: ぞっとしないな
ザク: そいつの名前は覚えておいたほうがいいだろうな
グロック: じぶんで、め、だすぞ
グロック: ぐ・・ぐろうとだ
グロック: ひとつめ、ぐろうと
リック: ??
グロック: なまえだ
リック: ああ…
ザク: オグログ、とかいうハーフオークはグロックの知り合いなのか?
グロック: ・・・・
グロック: こわい、やつだ
リック: ザク、
リック: あんまりそのことは触れないでおいてあげてよ
リック: 昔なにかあったみたいなんだ
リック: とにかく危険だということは確からしい
ザク: …そうだな、今はまずカヴァードホームに入って安全を確保するのが先だ
ザク: 疲れてるところ申し訳ないんだが
ザク: 見張りを交代してやってほしいんだ
ダーマン: あと半日、頑張るしかないですね
イノーラ: わかった
リック: さっき休んだから
リック: 俺はまだいけるよ
ダーマン: 先ほど休みましたし、大丈夫でしょう
ザク: 南のほうにテリウスがいるから、リックとイノーラで交代してやってくれ
リック: イノーラ
リック: 休まなくて大丈夫?
イノーラ: さっき休んだ
リック: ならいいけど…
ザク: 東のほうにはロンとロウランがいるから、ハンベイとグロックで頼むよ
グロック: ばんめし、あれば、みはる
グロック: ひ、ひがしか
ザク: 西のほうにはジグニードとダーマンで行ってもらおう
ダーマン: わかりました
ザクの指示を受けて見張りに立つ一行。
リックとイノーラは野営地の南を探す。テリウスを見つけるのは少し難しかったが、向こうから現われてくれた。
テリウス : 交代か
リック: テリウス
リック: 交代するよ
リック: あんたは休んでくれ
イノーラ: ここにいたのか
テリウス : わかった。ありがとう、休ませてもらうよ
リック: ごくろうさま
テリウスが立ち去ったのを見送る二人。
近くに小さな泉が湧き出ているのを見つけてそこで見張りに立つ事にした。
リック: ふう
リック: なんだか
リック: 今回の件でさ
リック: いろいろ思い知ったよ
リック: 今までは別に剣の稽古なんて
リック: そりゃ、最低限はやらなくちゃとは思ったけど
リック: 別にそこまで身を入れてやることもなかったし
リック: でもやっぱり強くならなくちゃやっていけないな
イノーラ: …そうだな
リック: さっきだって
リック: イノーラがオークに追われて危なかったのに
リック: 体がズタズタで動けなかったんだ
イノーラ: 次にそういうことが起こらなければいいわけだろ
リック: うん、だから強くならなくちゃいけないなって
イノーラ: 私のせいでもある
リック: イノーラは十分よくやっているよ
リック: さっきだって
リック: イノーラがいなかったらきっとみんなここまでたどりつけなかった
リック: これまでもさ、
リック: イノーラのことは…
リック: その、
リック: そ、尊敬してたけど
リック: 今日はもっとすごいと思ったよ
イノーラ: …
イノーラ: 適材適所だ。
イノーラ: お前のほうがすごいところだってあるだろう
リック: そ、そうかな?
イノーラ: 私は近距離戦にむいてないから、
イノーラ: お前が前にいると正直助かる
リック: !
リック: 俺、もっと強くなるよ
イノーラ: そうか、がんばれ
リック: イノーラを守れるくらいに
リック: そうしたらさ、
リック: その…
リック: ええと…
リック: 一緒にさ、
リック: また村へ戻って暮らさないか?
イノーラ: …
リック: あ、
リック: いや
リック: その
イノーラへの告白に夢中だったリックは当然だが、イノーラでさえ"そいつ"の接近には気が付けなかった。
そいつは生き物ではなく、死者特有の気配を感知できるほどイノーラは経験豊富ではなかった。
リック: !
リック: 危ない!
突然飛び出してきた巨体からイノーラを庇って立つリック。
アンデット・ズオウス : ニンゲン、ゴロズゥゥゥゥ
それは村を脱出した時に倒したはずのオークチーフテンであった。
その姿は傷だらけで、生気を感じ取る事はできず、イノーラは不気味な相手からじりじりと下がる事しか出来なかった。
リック: イノーラ
リック: イノーラ、みんなのところへ行って
リック: 助けをよんできてくれ!
リック: ここは食い止めるよ!
イノーラ: わかった
イノーラは野営地に向けて走り出し、警告の声を上げた。
イノーラ: 襲撃だ!
グロック: ?
グロック: なんかきこえた
ダーマン: む!
ダーマン: ジグニードさんは引き続き警戒を!
ハンベイ: 騒がしいな?
駆けて来たイノーラと合流する面々。
イノーラ: 南が襲われてる
イノーラに従ってすぐさま南へと取って返す。
グロック: りっく!
到着したグロックが見たのは、アンデットと化したオークチーフテンの刃がリックの胸を切り裂いた瞬間であった。
リック: イノー…
グロック: りっく!
ダーマン: !!
おびただしい血を撒き散らして雪の上に倒れるリック。
一行はすぐさま目の前の怪物に攻撃を始めた。
一気に敵を打ち倒すとリックの元に駆け寄る。
イノーラ: …
グロック: くびがへんなほうこうむいてるぞ
グロック: りっく、きようだなあ
ダーマン: く…
ダーマン: …残念ですが…
グロック: りっく、おきろ
ザク : どうしたんだ?
ザク : いったい何が…?
ザク : 途中に腐ったオークの化け物がいたが…あっ!
リックは死んでいた。
ダーマン: オークのアンデッドです
グロック: おぐろく・・・
ザク : ………
グロック: あいつ、したいうごかすのすきだった
ザク : くっ……そんな
ザク : なんて…ことだ…
崩れ落ちるザク。
自責の念に駆られているのだろう。
ダーマン: なるほど。それでこんな物を付けていたのですね
奇妙な指輪を見つけたダーマンがそれを手にとって調べる。
ダーマン: !
ダーマン: ここを移動しましょう
ザク : その指輪は…?
ダーマン: これを付けたアンデッドがここに来たという事はここの場所が知れたという事です
ダーマン: 死霊術師がアンデッドを操る時に使われるものです
ザク : ……敵は死体を操れるのか
ザク : オークが?
ダーマン: オークだから魔術を使えないと言うわけではありませんよ
ダーマン: 古代には神の移し身を呼ぶ程のオークがいたとも聞きます
グロック: それに、おぐろく、はんぶんおーく
グロック: はんぶんにんげん
ザク : リック………うう、しかしリックをここに置いておくのは…
グロック: おいていく、だめだ
グロック: それくらいなら、ここでやこう
グロック: しんだりっく、おそわれる、こまる
ダーマン: そうですね
ザク : …そうだな、リックを運ぶのは今は難しい…
ザク : ここで埋葬するしか…ないのか
ザク : …みんなを呼んで来るよ…
ダーマン: お願いします
ザクはゆっくりと立ち上がり、野営地に向かって歩き出す。
その途中に立ち尽くすイノーラに、すれ違いざま声をかけた。
ザク : イノーラ、大丈夫か?
イノーラ: 大丈夫だ
ザク : …そうか、顔が真っ青だぞ
ザクは村人たちにリックの死を告げた。
そしてこの場所が敵に知られたであろうことも。
ゆっくり別れを告げることも叶わず、村人たちはリックを火葬して略式で葬儀を済ませるくらいしかできなかった。
ダーマン: せめて安らかに
グロック: りっく、さらば
グロック: おまえいいやつ
ダーマン: イノーラ、残念ですがいつまでもここに入られません
イノーラ: わかってる
ダーマン: 準備を
ハンベイ: 先のある若者から死んでいくのか
そうして村人たちは野営地を後にした。
●カヴァードホーム
急遽出発した村人たちだが、敵に追いつかれる事も遭遇する事もなく木立ちを抜けてカヴァードホーム南に広がる平野に出た。
遠くにはもうカヴァードホームの外壁が見えている。
カヴァードホームが見えた事に安堵し、自然と足も軽くなる村人たちであったが、その気持ちはホームに近づくにつれて怪しいものになってきた。
グロック: ?
ダーマン: これは?
ハンベイ: なに?
ザク : …
ザク : 待て
ザク : 何か変な様子だな
カヴァードホームへと続く道を進む。
その両側に、戦闘により死亡したと思われるオークと人間の死体が放置されているのを見つけた。
他にも大破した見張り台や破壊された小屋などが点々としている。
ダーマン: 馬鹿な!
ザク : …ここにもオークが来たようだな
ダーマン: しかもごく最近
ザク : すまん、まず4人で先行して様子を見てきてくれないか
ザク : われわれはここに残っているから
イノーラ: わかった
ダーマン: そうですね
これ以上、犠牲を出したくないと思いつつもザクは四人を偵察に出した。
ハンベイ: ひどいな
グロック: おーくだ!
しかしそいつの背中からは矢が生えている。すでに絶命していた。
グロック: ちかく、いるかな?
ダーマン: まだ生き残りがいるかも知れませんね
グロック: なにかいる!
ダーマン: む
ダーマン: 人ですね
グロック: ひとか
カヴァードホーム外壁の門まで来た一行。
激しい戦いの後を見てきたが、そこは武装した冒険者が守っていた。
ハンベイ: なんとか無事は無事か?
イノーラ: 知らせてくるか?
ダーマン: お願いします
イノーラはザクに知らせるべく来た道を戻る。
冒険者 : む
冒険者 : よかった。人か
冒険者 : …いや、オークがいるな?
冒険者は槍の鉾先をグロックに向けた。
グロック: おれ、おーくちがう
冒険者 : ハーフオークだ。見ればわかる
グロック: おれ、おーくきらいだ!!
グロック: りっくころした
ダーマン: いや、彼は我らの仲間です
冒険者 : だが、敵軍にはハーフオークがいるという話だが?
ハンベイ: だからといって、すべてのハーフオークが敵ではあるまい
グロック: おーくみなごろしだ
ダーマン: そいつなら知ってますが彼ではありませんよ
グロック: おぐろく、こわいまほうつかいだ
ダーマン: 私たちは開拓地からの避難民の先遣隊です
と、そこへ別の冒険者が進み出てきた。
冒険者B : ダーマン
冒険者B : ダーマンじゃないか! 村のほうに行っていたダーマンだよ!
ダーマン: ええ、その通り
ダーマン: どうしたのです?この有様は
冒険者B : オークだよ…大群だ
冒険者B : まだ壁の中までは侵入されていないが…外はもう駄目だ
ダーマンは最近までカヴァードホームに居て、ここにも知り合いがいたようだ。
便宜上、冒険者Bとしておく。
ダーマン: こちらもですか
ダーマン: 開拓村の方も襲われました
冒険者B : そうか…村は君たちを残して?
ダーマン: いえ、避難民はあとに控えています
冒険者B : 生き残ってここまで来るとはたいしたもんだな!
グロック: ・・・
ダーマン: …そうでもないですよ。貴い犠牲の上に成りっている命です
冒険者 : なんと…村の人間か
冒険者 : 助けにいけなくてすまなかった
冒険者 : 援軍をそちらに出す案もあったのだが…無理だった
ダーマン: そちらも大変だったようですからね
冒険者 : …本当にすまない
冒険者 : だが、ホームの中は安全だ。君たちはひとまず中に。
ダーマン: それよりも避難民の受け入れを
冒険者 : われわれで、村人を迎えに行こう
冒険者 : すぐ近くまで来ているのだろう?
ダーマン: ええ。とはいえ、敵に位置を知られているらしいのです
ダーマン: 私もついて行きましょう
冒険者 : …そうか、じゃあ頼む。
ダーマン: 早く安全を確保しないと
冒険者 : わかった。
冒険者 : いこう
こうして村人たちは尊い犠牲を払いつつもカヴァードホームに逃げ込む事が出来た。
しかしカヴァードホームもすでに戦火の中にあった。
本当の戦いは、これから始まるのだ。