サヴェッジ・フロンティアDR1235
第一章 オーク、来る
「襲撃」
●始まりの朝
ミルズ農場から戻ってきて眠りに付いた次の日の早朝。
雪に覆われた白い平原の彼方が徐々に白み始めるような時間。
ザク: ?
窓から見張りをしているログウッドを、うつらうつらしながら見ていたザクが何かに気付いた。
ザク: …!
がた、とイスから立ち上がる。
ダーマン: どうかしましたか?
ザク: もう起きてたのか
ザク: 早いな
イノーラ: 普通だろう?
ハンベイ: 何事だ?
ダーマン: 独り者ですからね。早く起きないと時間が足りません
ザク: うむ…見張りに立っているログウッドが合図を送ってきた
ザク: とりあえず二人とも起こしてくれ
二人=リックとグロック。
ハンベイ: 起こしたほうがよさそうだな
ダーマン: 起きて下さい
グロック: ?!
グロック: ごはん?
ダーマンに起されたグロック。
イノーラ: 朝だぞ
イノーラ: 起きろよ
一方、リックを起こしに行ったイノーラは声をかけても起きないので蹴りを入れて起こす。
リック: わっ!
リック: な、ななななんだ?
ダーマン: (せっかく気を利かせたのに色気ないなあ…)
グロック: おー
グロック: はげしー
リック: いてて…腰が痛い
イノーラ: 朝だって
リック: へっ?!
リック: あ、な、なんだ、イノーラか
リック: びっくりした、何かと思った
ザク: …おいおい、静かにしろ
ザク: こっちに来てくれ
リック: ん、まだ外は暗いようだけど
リック: ふわ〜あ…
グロック: ごはんだー
のんきな様子で二人もザクのところに集まる。
ザク: 見張りから合図があった
ザク: オークが現れたようだ
リック: !
ダーマン: ふうむ
グロック: きょうのあさごはんはみはりか
グロック: あんまうまそうちがうな
ハンベイ: 見張りは食えんぞ
グロック: じゃあおれのごはんは・・・・
ザク: いいか、良く聞いてくれよ
ザク: すぐに突撃してくる感じではないが、恐らく攻めて来る
リック: ザク、オークはどれくらいいるんだい?
ザク: 詳しい数はまだ確認してないな
ザク: とりあえず、お前さんたちはミルズのところでオークと戦っている
ダーマン: 普通に合図だけ、と言う事は現時点では深刻ではなさそうですね
ハンベイ: 静かでもあるしな
ザク: 補給が必要だろうから倉庫にいって
ザク: 適当に、必要なものを拾ってきてくれ
リック: わ、わかった
ザク: えーと鍵は…ダーマンに渡しておくか
ダーマン: お預かりします
ザクはダーマンに鍵を渡した。
特に一行のリーダーという認識ではないが、村で唯一のクレリックという事で普段から信用されていたのだろう。
ザク: 終わったら戻って来るんだぞ
ザク: 急いでな
村の倉庫にやってきた一行。
今回のキャンペーンでは序盤に買い物をする場所がないので、こういう形でアイテムを補給する。
ダーマン: どうぞ
村の倉庫と言っても普段から気軽に入れるわけではないので、村の人間と言えるPC達でも何がしまわれているか知らなくても不思議ではない。
積み上げられた木箱や、武器棚、防具箱などを開けて中を確認する。
ダーマン: 治療薬が結構あるな
グロック: いろいろあるな
リック: まあ必要になったらあとで取りに戻れるから
リック: 全部持って行く必要はないかな
ダーマン: ハーフプレートも
ダーマン: 以外に物持ちがいるんですね…
グロック: ぜんぶ、もってくいいぞ
グロック: むらぜんめつしても、こまらないぞ
リック: エンギでもないこと言わないでくれよ
ハンベイ: 困るだろう
リック: とりあえず水と食糧があればいいか
グロック: ごはんいっぱいだ
ダーマン: 勢いで着てみましたが、このマントはイノーラさんのほうが良いかな?
イノーラ: ありがとう
イノーラ: じゃ、これは戻さないとな
ダーマン: 鎧もサイズが合うならリック君と交換するべきですね
リック: へっ?
リック: い、イノーラの鎧を???
ダーマン: いえ、わたしのとです
ダーマンは取り出したハーフプレート一式をリックの目の前に置く。
リック: あ、ああ、なんだ、これか…
リック: 確かにこっちのほうが頑丈そうだけど
リック: ダーマンはいいのかい?
ダーマン: 私はあなたよりは一歩引いた位置にいますから
リック: わかった、それじゃ
グロック: 矢 いるか
イノーラ: ああ、ありがとう
ダーマン: ブレーサーはハンベイさん
ハンベイ: そうか、ありがたく使わせてもらう
こういう装備品の分配中はDMって見てるだけなんだけど、楽しそう。
そうこうしているうちに装備が整ったようだ。
リック: それじゃ戻ろうか
ダーマン: では戻りましょう
一行は集会場に戻る。
ザクは窓の定位置にいて、独り言をつぶやいている。
ザク: あまりのんびりしている時間はなさそうだな…
そこへ一行が戻ってきた。
リック: 準備はOKだ
ダーマン: お返しします
ダーマンは倉庫の鍵を返そうとするが…
ザク: 鍵は持っててくれていい
ザク: わしが戦いに倒れるかもしれんからな…手分けして持っておこう
リック: そんな…
リック: 縁起でもないこと言わないでくれよ
このキャンペーンでは村人のような名前と設定のあるNPCであっても、不死身設定にしていない。
つまり普通にHPが減り、0になれば死んでしまう。(同様に蘇生も可能だが、新規キャラクターでのスタートなので事実上不可能)
この事はPCにも伝えてある。
ただし、NPCの挙動はDMからしても不可解な行動をする事もあり、一人で全て管理は難しいので死ににくいようにHPは増強してある。
グロック: おーくいっぱい
グロック: さくせん、あるか?
グロック: ないとむらはもえるな
ザク: では次の準備だ
ザク: まず外にいる連中にオークの事を警告してきてくれ
ザク: ついでに村の地形も…いまさらだが覚えておくんだぞ
リック: みんなはどこかに避難させるのかい?
ザク: そうだ。家の中に入るように伝えてくれ
ダーマン: わかりました
ダーマン: ここではなく各自の家ですか?
ザク: オークに
ザク: こちらが悟っていることを気づかれないようにな
ザク: 適当に、近くの家ならどこでもいい
ダーマン: ああ、なるほど
ザク: 終わったら、また戻ってきてくれ
ザク: あまり時間がなさそうだから急ぐんだぞ
リック: わかった
ザク: わしらも準備する
リック: それじゃ
リック: みんなで手分けして行こうか
ダーマン: 手分けしますか
グロック: てわけ?
イノーラ: 時間もないしな
リック: グロックはおれと一緒に来てくれよ
グロック: きょうなにたべる、りっく
リック: その話はまたあとで
ダーマン: 私は北西の方を
リック: それじゃ南西を
ハンベイ: と、南東か
イノーラ: あまったほうだな
一行は手分けして外にいる村人に警告していく。
農場から避難してきた人々は、外でキャンプを張っている人も多い。
警告するとそれぞれ不審に見えないようにゆっくりと近くの家に入っていく。
リック: いざとなったら
リック: (この囲いはオークを誘い込むのに使えるかも…?)
ついでに村の地形を確認していく。
村が戦場になる可能性は高いためだ。
リック: ん
リック: こらグロック
リック: いたずらしてるヒマなんてないよ!
グロック: いたずらちがう
グロック: おーくはばか
リック: ?
グロック: このさくせん、いける
リック: ああ、なるほど
リック: みんなばかってことかい?
グロック: たまにあたまいいの、いるよ
グロック: ぐるーむしゅの、そうりょ
グロック: きけん
グロック: あたまよくて、まほうつかう
リック: そんな奴が今回の敵の中にいなければいいけど・・
グロック: おーくいっぱいいる
グロック: まずいる
グロック: そうおれおもう
リック: たくさんいっぱいいる?
リック: 僧侶がかい?
グロック: そうりょはすくないけど、
グロック: とてもつよい
リック: ああ、なるほど
グロック: おれのせんせい、むかしいった
一方イノーラは村のはずれにあるロンの牧場へと来ていた。
牧場ではロンがヤギたちを囲いに入れようとしている。
ロン: どうした?
イノーラ: オークが来てる。まだ準備してないのか?
ロン: あー…ラークが来て、準備しろと、言った。オレ、ヤギたち守るよ。
イノーラ: ヤギより自分を守れよ。
ロン: …うん。
ロンは巨漢で力もあるが頭が弱い、という設定のNPCで、当初のプロットでは裏設定もあり後半には重要な役割を担う可能性のあるキャラクターの一人だった。
しかしグロックとキャラが被っているため登場させにくくなり、実際にはそうならなかった。
イノーラ: 大体終わりかな
ダーマン: そのようです
イノーラ、ダーマン、ハンベイの三人は集会場の前に戻ってきた。
リックとグロックの二人は見張りのログウッドがいる丘の上に上っているのが見える。
イノーラ: 遅いなあいつら
ダーマン: ふう。やはりこの季節だとサーコートなしでは冷えてきますねえ
ハンベイ: 心頭滅却すれば、といいたいところだがな
ハンベイ: その境地には至れん
イノーラ: 先に中に入ってようか
一方、その二人はログウッドの所まで来ていた。
リック: 本当にオークが?
ログウッド: ああ…木々の間にちらほら見えるんだ…ほら、今横切ったろう?こちらの様子を見ているようだが、あれは攻めてくる気だと思う。
リック: え?どこ?全然見えないよ。
ログウッド: 見張りの訓練を受けてない君には見えないかもしれないが、確かにいるんだ…さぁ、早く準備を。
リック: 敵の数はどれくらい?
ログウッド: ここから見えた限りでは…30ってところかな。
リック: !
リック: 30匹か…
リック: どうしたらいいんだろう?
ログウッド: ザクの指示に従って、迎え撃つ準備をするんだ。さぁ、行って。
ログウッドはザクの友人という設定のNPCで、レベル的には村人で最も高い戦士である。
戦闘によってザクが死んでしまった場合の控えという役割もあった。(ゲーム的にも、設定的にも)
リック: ふう、だいたいこんなところかな
イノーラ: 遅いぞ
リックとグロックの二人も戻ってきて一行に合流した。
リック: 念のため見回りしてたんだよ
リック: 人が残ってたら大変だ
イノーラ: 中に入ろう
ダーマン: では戻りましょう
●戦いの前
集会所に戻る一行。
イノーラ: 終わったぞ
ザク: よし、良さそうだ
ザク: それじゃあ迎え撃つために
ザク: 配置につくことにしよう
リック: ログウッドの話だと少なくとも三十匹くらいいるらしいよ
ザク: …30か
ハンベイ: 難儀だな
ザク: そのくらいならなんとかなる
グロック: ごきぶりとおなじだ
ザク: いままでもオークの襲撃はあったことだ。
ザク: そうだろ?
ダーマン: そうらしいですね
ザク: いつもと同じようにやればいいんだ
ザク: リックは訓練の時、筋がいいって
ザク: ラークも言ってたぞ。自信をもてよ
リック: まあなんとかやってみるよ
ザク: じゃあ行こう
戦闘力のない人々を残し、戦える人々は武装して外に出る。
グロック: りっく、いのーらに
グロック: いいとこみせろ
リック: へ?
グロック: りっく、いのーらきらいか
リック: そんなこと言ってる場合じゃないんだよ、今は
リック: 村を守らなきゃみんな死んじゃうんだから
外に出ると、戦える村人が集まっている。
そこに加わる一行。
ザク : よし、いいか
ザク : 集まってくれ
ザク: 北門はわしとサリーナ、テリウスで守る
ザク: 東はジグニードたちとロン
ザク: 西はログウッドにラーク、それにお前さんたちに頼む
イノーラ: わかった
ダーマン: わかりました
ザク: 西に主力が来ると思うから
ザク: そこを厚くするわけだが
ザク: もし他のところがピンチになったら呼ぶから援護してくれ
リック: わかった
ザク: あとは…ログウッド、頼んだぞ
西門を、という意味だけでなくPC一行を頼んだぞという意味もある。
ログウッドはうなづいた。
ダーマン: 降り始めましたか
イノーラ: 指がかじかむな…
冬の終わりという時期なので、まだ雪がちらつくことはある。
実際にはエリア設定で降雪確率を指定しているだけなので、降ってくるかどうかをDMがコントロールしているわけではない。
ザク: 彼の指示に
ザク: したがってくれれば大丈夫だ
ダーマン: 了解です
ザク: じゃあな、生き残れよ
リック: *ごくり*
リック: いくよ、グロック
リック: あ、こら
リック: 勝手に動き回ったらだめだって
一行は西門で配置に付く。
門は切り立った崖になっている丘の切れ目を利用して作られているため、天然の高台を利用できる。
グロック: こっちけっこういいばしょだぞ
ダーマン: そうですね。高台から狙ってみるのも良いかも
ログウッド: よし…じゃあ
ログウッド: みんな、こちらに
ログウッド: 飛び道具があれば、
イノーラ: あるな
ログウッド: 門が壊れるまでは敵を的に出来るぞ
リック: (こんなことならちゃんと練習しておけばよかったなぁ…
たぶん、弓のこと。
ログウッド: で、良く聞いて欲しいんだが
ログウッド: 門はすこし壊れても修理することができるが
ログウッド: 完全に破壊された場合、修理する材料がない
ログウッド: つまり、門がなくなってしまうんだ
ダーマン: 困りますね
この門を挟んでの戦いは初めてなので仕様を説明しておく。
ログウッド: この門の鍵はラークが預かっているはずだが
ログウッド: 必要なら彼にいって、開けて中に引き込むのも手だ
ログウッド: 門が完全に破壊される前にな
リック: 中に引き込む…か
続いてヒントを出しておく。
門の開け閉めをしながら戦う必要があるのはゲーム的な理由で、遠隔攻撃のない人が門が壊されるまでぼーっとしてしまうのは退屈だからだ(笑)
ログウッド: 俺は上から弓で戦う。
ログウッド: 上から攻撃するものはついてきてくれ
イノーラ: 私もそうしよう
ダーマン: こちらで待機しておきます
リック: うーん…
リック: ハンベイはどうする?
リック: あんたは見たところ飛び道具は持っていないようだけど
ハンベイ: 上に行ってもすることがない
リック: それじゃ…おれもここにいようかな
ダーマン: スリングくらいはありますが、下で治療役をしていたほうが良いでしょうね
というわけで、高台にはログウッド(NPC)、イノーラ、グロックの三名。
下にはリック、ハンベイ、ダーマン、ラーク(NPC)の四名という態勢。
グロック: ここ、けんぶつさいこうだ
イノーラ: 見物じゃないと思うが
リック: それにしても、二人とも落ち着いているね
二人とは一緒にいるダーマンとハンベイのこと。
ダーマン: まさか。これはシアモーフ神殿で習う態度ですよ。内心怖くてたまらない
リック: そ、そうなのか…
ハンベイはレベル的に他の皆と一緒だが、設定を考えるとそれなりに修羅場を潜って来ていると思われるので取り乱すのも変だ。
グロック: おーく、こわいぞ!
グロック: りっく、がんばれ
リック: あ、ああ、グロックもね!
リック: 足元にはきをつけるんだぞ!
グロック: おれ、がんばるけど
グロック: おーくちがうから
イノーラ: きた!
グロックが何か言おうとしたが、それを遮ってイノーラが西を指差した。
●戦い
木立を飛び出したオークたちは身を隠すものがないので、盾を構えたまま戦いの咆哮をあげて村に向かってくる。
ダーマン: 来たようですね!
高台にいるログウッドとイノーラがびゅんびゅん矢を放つ。運の悪いオークが二体、門にたどり着けずに死んだ。
グロックは魔法で援護するつもりなのだが、魔法には限りがあるので様子を見ている。
リック: まずい
リック: 門を殴ってるよ
リック: グロック
リック: 何匹くらい外にいるか見えるかい?!
グロック: いっぱいだ!
ハンベイ: どのタイミングで開けるか、だな
グロック: でもいっぴきしんだ
リック: 門のすぐ手前には??
イノーラ: 数は多くない
リック: それじゃ…いまのうちに一度門を開けて
リック: 片付けておいたほうが良くないかな
ラーク : 数が少ないならあけてしまおう
ダーマン: そうですね
リック: わかった、それじゃラークたのむ
ラーク : いいか、あけるぞ
門を開くと、戦いの熱に浮かされたオークが四体、獣のように襲い掛かってきた。
先頭に立ってラークがそれを受け止め、リックとハンベイが横から止めを刺す。
ダーマンも戦いに巻き込まれるが、自衛出来るのでそれほど問題がない。
そうして敵の第一陣は片付いた。
リック: ふう…
ラーク : よし、警戒をおこたるなよ
再び門を閉める。
そのまま警戒していると四体ほどのオークが第二陣として攻めて来たが、門の前に到達したところでグロックのスリープが発動。
リック: !
グロック: ねた
ダーマン: お見事
リック: ?
リック: (静かになったな…
全員眠らせたので止めを刺して撃退。
続く小規模な攻撃も最初と同じ戦法で撃退した。
ダーマン: こっちが妙に順調なのが逆に不安ですね
ハンベイ: 波状に攻めて各個撃破か
リック: 上は大丈夫かな…
ハンベイ: 大丈夫そうではあるな
リック: ラーク、一度門を開けて
リック: 外へ出て戦ったほうが良くはないか?
ハンベイ: この波状攻撃が続くなら、出たほうがいいかもしれん
順調ではあるが、少しずつ門へのダメージは蓄積しているためだ。
ラーク : タイミングを見てあけるぞ?いいな
ダーマン: ええ
リック: ちょっと待って
リック: 俺と
リック: ダーマン、ハンベイも一緒にいいかい?
ダーマン: もちろん
さて話がまとまり、ラークが門の鍵に手をかけたとき…
ログウッド : 待て! あけるのはまずいかもしれん
リック: ?!
ログウッド : あいつは…ちょっとやばそうな奴がいる
リック: 一度開けて、俺たちが出たらしめてくれればいいんだ
ハンベイ: む?きたか?
ログウッド : 他の奴より一回り大きいぞ!
イノーラ: あてやすそうだな
ダーマン: オーガかオログですか
ログウッド : ぎりぎりまで矢で戦う
リック: それじゃログウッド、
リック: 門を開けるタイミングを上から指示してくれ
ログウッド : できれば…な
敵の姿を見ていないリックには状況がつかめないが、向かってくる敵の集団は明らかに本命と見える。
身体の大きなリーダーらしきオークの戦士に率いられて、射手やシャーマンを含んだ小隊が向かってきていた。
ログウッドとイノーラが射程に入るなり矢を放つが、かすり傷を与えた程度で門に取り付かれてしまった。
リック: !
敵の攻撃により門が大きなダメージを受けてガタガタと揺れる。
リック: まずい
リック: ラーク、開けてくれ! はやく!
ダーマン: 開けて下さい!
門が限界と見て、ラークが開放する。
門の向こうにいた敵の主力と思しき集団が一気に突入してきて、いきなり乱戦になってしまう。
しかしグロックの魔法による援護が効果的に働き、なんとか撃退することができた。
ラーク : やった
リック: みんな、大丈夫?!
ハンベイ: 術士がいたか
イノーラ: かすり傷だ
リック: グロックとログウッドも大丈夫かい?
グロック: まほーいたいな
グロック: ぐるーむしゅそうりょこわいな
ログウッド: 心配ない
ログウッド: 呪文は…驚いたが
ダーマン: 治療に行ってきます
そう言ってダーマンが丘を登り始めた時、敵の死体を調べていたラークが何か見つけた。
ラーク: おう、こいつ何か…違うな
ラーク: 装備が
ハンベイ: 盾か
ハンベイ: 得体が知れん盾だな
普通の品物でないのはわかるが、正体までは分からない。
鑑定スキルのチェックに失敗したという事だが、ハンベイは知識系ではないので成功しないほうが普通だ。
リック: (他の門は大丈夫かな…
と、リックが思ったその時。
ザク : 誰か来てくれ!北門だ!
というザクの叫び声が木霊する。
実際には叫んだくらいで声が届くような狭い村ではないけれど、ここはゲームと言うことで。
リック: !
リックはすぐさま駆け出した。
他のメンバーもリックを追いかけるが、ハンベイは西門に残ってリックたちを見送る。
全員で行ってしまっては西門が手薄になるという判断である。
ザク : 門が持たない!開けるしかない
ザク : 門…あけるぞ、テリウス、サリーナ、頼む敵の数を減らしてくれ!
ザクが門の鍵を外して、開け放つ。
オークの集団がなだれ込んできたところに、ちょうどリックたちが到着した。
リック: ザク!
ザクは敵の集団に囲まれていて、なんとか決定打を避けているように見える。
治療のためザクに近づいたダーマンであったが、クレリックであることを見抜かれたのか、オーク戦士が数体、近づいてきたダーマンを迎え撃つ。
魔法のために精神集中していたダーマンはその攻撃を食らって倒れた。
敵の武器が届く範囲を通過しようとしたり魔法を使うなど隙のできる行動を取ると、機会攻撃というものを誘発するシステムがD&Dにはあるのだが、ゲームの場合キャラクターが固まってごちゃごちゃすると押し出されたり押込まれたりしておかしな位置に移動させられて、この機会攻撃にさらされる事がある。
乱戦らしいと言えばそうなのかもしれないが、TRPGでは不意に起こることはない。
リック: ダーマン!
リックが駆け寄って治療を施す。
ゲームなので治療道具を使用すれば一発で回復する。(回復薬のような扱い)
誰が誰に対して治療をするか、というような作戦をリアルタイムで進行中のゲーム内では相談できないので、こういう時はポーズして作戦会議しても良い事にしている。
今回はリックが治療に行く事に決まり、ポーズを解除した。
リック: 大丈夫?!
ダーマン: ええ、なんとか
しかし、このピンチに再びグロックのスリープが発動。
敵オークはばたばたと倒れた。
リック: ??
リック: なんで寝てるんだ?
グロック: ねてるねてる
グロック: いいぞお
リック: ね、寝不足のオーク…??
グロック: おーく、ばかだからきくなあ!
リック: *息をつかせながら首をかしげる*
リックはまだグロックが魔法使いという事を説明してもらってない。
ザク : 危なかった…助かった
リック: ここはもう大丈夫かい、ザク?
イノーラ: 私は戻ったほうがよさそうだな
ダーマン: 持ち場に戻りましょう
一方その頃、西門に敵の残存兵力が不意打ちを仕掛けていた。
ハンベイ: きたぞ
ラーク : 仕方ない…こちらも門を開くぞ
ラーク : ハンベイ、いけるな?
ハンベイ: 承知!
ラーク : いくぞ
門を開けて打って出るラークとハンベイ。援護はログウッドの弓のみだ。
リック: ヘンベイ!
西門の異常に気が付いたリック達が走って戻ってきた。
リック: 敵は?!
ハンベイ: 大したことがなくて助かった
リック: そ、そうか、よかった・・・
すでに敵は撃退した後だ。
グロック: おーい
グロック: げんきかー
ほとんど呪文を使い果たしたグロックが合流する。
自身の呪文はほとんど残っていないため、使い魔であるアイボールを召喚して戦わせていたのだが、リックには怪物にしか見えない。
リック: !
すぐに送還するグロック
リック: ??
リック: ん、
リック: 気のせいかな…
一方、周囲を見張っていたログウッドが報告する。
ログウッド : 敵の姿は…見えない
ログウッド : 後続はなさそうだ
リック: ほっ…
ハンベイ: こいつが使えるなら使ったほうがいいんじゃないか?
こいつ、とはさっき見つけた盾のこと。
リック: ?
ハンベイ: 得体が知れんが
リック: なんだろう…何か書いてあるようだ
リックにも鑑定は出来ないので、ひとまず拾って持っていく事にした。
●一時の勝利
戦いが終わって、皆、集会場に戻ってきた。
リック: ふう
グロック: ねむい
グロック: おれねる!
イノーラ: 休むか
ダーマン: 全くですね
それぞれ、思い思いに休息を取って数時間が経過した。
リック: (やっぱり何か浮いてるものが見えるような…
リック: (疲れてるのかな)
リックはグロックが従わせている使い魔が気になるようだ。
グロック: りっく
リック: ?
グロック: これおれのともだちだ
リック: へっ?
リック: そりゃ、俺はグロックの友達だよ
クロニィ : いえ私のことですよリック殿
クロニィ : はじめまして
リック: へっ?!
リック: しゃ、シャベッタ?!
ダーマン: …
ダーマン: ま、いいでしょう
クロニィ : 私クロニィと申します
クロニィ : 粋なアイボールとして親しまれておりましてね
リック: ぽかーん
イノーラ: (肩をすくめる
ハンベイ: 粋なのか……
リック: ク
リック: クロニイ??
クロニィ : はい
クロニィ : それが私の名前でございます
リック: ま、まあ、よろしく… 俺、リック
クロニィ : 以後お見知りおきを
リック: グロックにこんな友達がいたなんてずっと知らなかったよ
ザク: その気味の悪いものをしまってくれ
彼はもとよりハーフオークであるグロックをそれほど信用しておらず、まして魔法使いとなれば嫌悪感を表すほどである。
グロック: くろにーおとなしいぞ
グロック: とてもかわいいやつだ
リック: か、かわいい…?
グロック: りっくをきにいったみたいだぞ!
グロック: くろにーをよろしくなみんな!
ダーマン: ええ、よろしく
イノーラ: 貴重な戦力だしな
グロック: くさったにくでもよろこんでたべる
グロック: いいやつだよ
リック: でもあれ… 家に連れて帰ったらきっと母さんは怒るよ
グロック: くろにーはそともすき
グロック: だいじょうぶ
リック: まあグロックがそれでいいならいいけど…
グロック: うん
ダーマン: 他にけが人はいませんか?
そんなやり取りの最中、呪文の回復したダーマンは怪我人の治療に忙しい。
ザク: とりあえず皆を呼んで被害の状況を確認しよう
というわけで、他の村人たちを集めて状況を確認するザク。
ザク: …ふむふむ
ザク: 門はすべて無事か…いまのところ
ザク: 怪我人はいるが治療可能な怪我だ
ダーマン: 酷い人がいたら私に見せて下さい
リック: よかった…
ザク: なんとかなったな
ハンベイ: 東は問題なかったようなのがなによりか
ジグニード: 東はほとんどこなかったんだ
ジグニード: そっちに援護にいこうかと真剣に考えてたくらいさ
ザク: 思ったよりもずっと数が多くて驚いたが
ハンベイ: 総数が把握できてないのがきついな
リック: ダーマンがいてくれてほんとうに助かったよ
グロック: だーまん、とてもえらいそうりょ
グロック: ぐるーむしゅのそうりょとおなじくらい
グロック: こわいな
ダーマン: まだまだ見習いも同然ですよ
グロック: はらへったな
グロックは食料を取り出すと食べ始める。
グロック: んまい
グロック: おれそうこのごはんぜんぶもってきた
グロック: むらやけてもへいきだよ
ザク: しかし本当にお前さんら若いのがいなかったら
ザク: 危なかった
ザク: わしも死んでいたかもしれんな…
リック: な、なんだよ、珍しいなそんなこと言うなんて
リック: いつもはひよっこ扱いばかりしてるくせにさ
ザク: いや、正直駄目かと思ったところに、リックとエノーラが走ってくるのが見えて
ザク: 勇気付けられたのは本当だ
ダーマン: 今は大変な時機です。今あなたに死なれたら村の存亡に関わりますよ
ザク: …さて、これで皆、家に帰れるな…
グロック: いえでごはんだなあ
テリウス: ちょっと待ってください
ハンベイ: 早計では?
テリウスとハンベイがほぼ同時に言う。
テリウス: 私もハンベイと同意見です
テリウス: 今回のが第一波という可能性もある
ラーク: そうだ、リック
ラーク: あれを見せたらどうだろう
リック: あれ?
ハンベイ: さっきのあれだ
ラーク: あのオークが持っていた斧と盾
ダーマン: ああ、あの盾ですか
リック: あ、これか
リック: 何か書いてあるんだ
リック: 裏に
ラーク: あいつが族長だったんじゃないだろうか
ハンベイ: 斧はそれだ
テリウスは盾と斧を受け取ると、じっと観察する。
その表情はみるみる険しくなった。
テリウス: …
テリウス: …なんてことだ
リック: ?
テリウス: この紋章…オークの部族を表しているようだが
テリウス: 私はこれを見たことがない
ザク: つまり…
リック: つまり…どういうこと?
イノーラ: またややこしい事になるわけだな
ザク: テリウスが知らないということは
ザク: この部族はこの地域のものではない
ザク: ということになる…
リック: それってつまり…
リック: わざわざ遠くから来たってこと?
テリウス: 私はネザー山脈の北…メニーアローズ砦までのオーク部族はだいたい把握している
テリウス: 少なくとも
テリウス: 今回の規模くらいの大きさの部族なら
テリウス: 知っているはずなんだ…
ログウッド: 新興部族の可能性は?
リック: けどなんだってわざわざこんな村を襲いに遠くから…?
ハンベイ: どこから来たのか、もしくは、あんたが覚えてもいないような弱小部族をまとめる器が現れたか
テリウス: …ずっとそれが気になっていて…
イノーラ: 何にしても殺すだけだろ
ダーマン: …それだけの部族が余所のテリトリーを何事もなく抜けるというのもありえないはずですしね
ロン: 俺、それ、しってるよ…
テリウス: えっ?
黙っていたロンがぼそりとつぶやく。
ロン: おれ、それ、しってるよ
リック: ?
ロン: この紋章、おれのなまかの敵
ロン: …なかまだったものの敵…
ダーマン: つまり、ウスガルの近隣に住む部族ですか
テリウス: ロンはどこの部族の人間なんです?
テリウスはザクに問うが、ザクは首を横に振った。
ザク: 知らないんだ
ロン: スパインの山の中に、こいつらの家がある
ロン: その家、ずっと前からあった
ダーマン: ロン、あなたの最初のご先祖様はなんですか?
ロン: ……
ロン: 思い出したくない…あたまいたい…
ロンは黙ってしまった。
リック: スパイン山脈って…
リック: ずいぶん北じゃない?
ダーマン: その先にはほぼ人がいませんね
グロック: すぺいん?
テリウス: …ありえない
テリウス: スパイン山脈から来たってことはだ、リック
テリウス: 途中にあるドワーフのアドバール城砦や
テリウス: ブラッドアックスのサンダバール砦を越えて来たってことなんだぞ
テリウス: ありえない、そんなこと
リック: それってつまり…
ハンベイ: 抜け道でも見つけたか?
ダーマン: そんな事件があればここにも話は届いているでしょう
テリウス: オークがドワーフを出し抜いて抜け道を見つけて冬のネザー山脈を越えてきて
テリウス: この村を襲った…ということか?
テリウス: とても信じられない…
リック: でも何のために??
ダーマン: しかもそこまでする意図が全く不明
ハンベイ: とはいえ、砦を二つも落としてここまでたどり着いた、よりはありえそうな気がするが?
ダーマン: そうですね。あるいはアンダーダークならドワーフを出し抜く抜け道があるかも
テリウス: …
グロック: あんだーーーだあく?
グロック: なんだそれ
リック: 地底の世界だよ
ハンベイ: 出し抜いたとすれば、オークだけの集団ではないということもありうる
グロック: ちてー?
リック: グロックの足の下さ
イノーラ: ダークエルフの住んでるところだよ、フン
グロック: !!
グロック: だーくえるふ、おーくよりこわいぞ!!!
グロック: にげなきゃ・・・・
リック: グロック
リック: グロック
リック: ほら
リック: おちつけって
ザク: この件はあとにしよう、みんな
ザク: 今は村を守るのが先決…
ザク: そうだな?みんな
村人たちに同意を求めると、みな一様にうなづく。
ザク: テリウス
ザク: …
ザク: テリウス!
テリウス: は、はい
ザク: まず、もう村が安全か知りたい。一回り偵察を頼みたい
テリウス: わかりました。すぐに参りましょう
ザク: 他の皆は修理と警戒を
無駄な不安に囚われないようにザクはテキパキと指示を出していく。
ザク: お前さんたちには別の頼みがある
リック: ?
ダーマン: なんでしょう?
ザク: 気がついてると思うが
ザク: トラン家のものが一人も村に来ていない
リック: ?!
ザク: 君らの友達のロウランもだよ
ダーマン: 言われてみれば!
グロック: りっくのともだちか
グロック: ろーらんも
グロック: いのーらすきだってさ
リック: なに言ってるんだよ
ザク: 彼らは森で暮らしているから、こういう事態には慣れているはずだが
ザク: あの数のオークがうろついてるとなると危ない
ザク: 様子を見に行って欲しいんだ
ザク: もし窮地にあるようなら
ザク: 救ってほしい
ザク: まだ生きているなら、村まで避難させてほしいんだ
リック: わかった
ハンベイ: 手遅れでなければいいが
ハンベイ: 早々遅れをとるとも思えんが、数が数だ
イノーラ: (ついでに狩り小屋の様子も見ていくか
ザク: …たのむ。オークがどこからなんのために来たのかなんてことは二の次だ
ザク: さあ、みんな、仕事だ!
手を叩いて皆を送り出すザク。
人々は指示に従って動き出した。
グロック: むら
グロック: だめになったら
グロック: どこにげる?
グロック: とてもしりたい
リック: 駄目になんかならないよ、グロック
グロック: ほんと?
グロック: りっくさすがだな!
グロック: おーくぜんぶやっつけて!
村人にとって間違いなく始めての、村の存亡を賭けた戦いにひとまず勝利はした。
しかし謎を残したままの勝利は、それが一時のものである事を暗に示している。
不安を押し殺したまま、一行はトラン家の様子を見に森へと向かう事となった。