2002年4月

カタクリの花を覗いて 4月14日  顔を見せて―カタクリ

いつも楚々とした風情で下を向いている花を
ちょっと意地悪して下からのぞいてみた。
隠れていた顔は思いのほか色濃くて
少し悩ましくもある。
こんなしたたかさを隠し、ひっそりと咲いていたのか。
どんな寒さにも耐え、まだ寒いうちから花開かせる、
そうだ、か弱い花のはずがない。
可憐なふりをした野のカタクリ。

桜満開 4月17日  爛漫

見上げるほどにさらに圧倒される
これほどの存在は他の花には許されない
ほんのいっときだけの華に凝縮される人たちの夢
託す 試す 賭ける 許す そして無心に
見上げる人の思いはそれぞれだけれど、
花は誰の思いも黙って受け止め、
いっそう美しく乱舞する
花は桜 時は春
4月20日  静かな森で

世は桜に一喜一憂。
そんな事はよその話とばかりに
静かに木苺が花開く。
陽もあまり射さぬ森の中、
それでも日なたを求め枝を伸ばし、
小さな白い花開く。
いずれは綺麗なつぶつぶの小さな宝石になる、
今は純白の花嫁に似た、
ひっそりとしたたたずまいの木苺の花。

蝶々の木 4月21日  蝶々の木

殺風景な山の中に、決して群生しない一本の木。
遠くからでも目を引く木。
だって木いっぱいに真っ白な蝶々が止まっている。
無数の白い羽が幻のようで、
ずっと「蝶々の木」と呼んできた。
それが「辛夷の花」だと知ったのはまだ最近のこと。
ああ、これが辛夷なのか、と今更ながらうなずき、
でも、やっぱりこれは「蝶々の木」。
ひらひらと純白の羽根をはためかせ、
幻の蝶が集まる木。
八重桜が空に映えて 4月29日  青い青い空を見上げて

まるでお話の世界にいるかのような青い空。
まるでおとぎの国のような華やかな花。
5月が来るよ、と浮き立つ心そのままに、
空いっぱいに広がるかのような、八重の桜。
軽やかにスキップして、その間を走りたい。
荘厳さはないけれど、
はちきれそうな明るさが爆発してる。
林檎の花満開 4月29日  りんご

りんご、林檎、リンゴ。
どの字を当てても甘い香りがつんと立ちのぼる。
秋の収穫のために、今可憐な花がお陽様に向かう。
枝いっぱいにたくさんの花をつけても、
そのどれもが大きな実になるわけではないけれど、
今はただ、精一杯光を浴びて、
甘い実になる夢を見る。
顔を寄せれば、甘い果実の香りがしたような気がした。


music by Sora Aonami