本日の御題:アメリカの好景気に騙されるな
◆消費社会は不変
 もうだいぶ昔のことのように思えるが、僅か10年前、アメリカは財政・貿易という双子の赤字に苦しんでいた。
 その一方で円は急速に高くなり、ジャパンマネーは世界を席巻した。
 このとき、世界中のアナリストはアメリカ国民の貯蓄率の低さを問題視し、その改善を求めた。
 同時に日本の貯蓄率の高さを問題視し、その改善を求めた。
 さて、それから10年後、何か変わっただろうか?

 アメリカの貯蓄率は好景気に引っ張られる形で低迷を続けている。一方の日本では、不況からくる不安感から 超低金利政策をしているにもかかわらず、これまで以上に貯蓄率は高い値を堅持している。
 そう、つまり10年前と状況は何ら変わっていないのだ。

 アメリカは消費社会である。それは過去も現在も変わっていない。違う点は「ハイテク」と「株高」と2つの キーワードの有無である。
 「ハイテク」の代表格はコンピュータ関連であり、MicrosoftやIntelだろう。これらの企業の成功がアメリカ国民に 失いかけた自信を取り戻させた。
 そしてその結果が「株高」である。彼らは銀行への平凡な預金ではなく、バブル化の懸念が絶えず囁かれる株式に投 資することで、本業以外からの収入を得ている。これが消費意欲を刺激して、消費行動に走らせる。

 折りしもコンピュータ技術の普及・発展によりクレジット(信用)で買い物をすることが多くなった。
 日本でも最近普及し始めている「リボ払い」が一般的であるアメリカでは、利用者は利用金額をあまり認識すること なく買い物をすることが可能だ。
 そしてその付けを支払う日が、不気味に近付いていることをアメリカ国民の多くはまだ気づいていない……。

◆ブラックマンデーは突然起こるもの
 「好景気である」という自信だけを頼りに消費行動をしてきたアメリカ国民であるが、アメリカ破産研究所のデータによ れば、米国消費者の負債返済額と個人の破産申請件数はここのところ急カーブを描いて上昇している。
 たとえば可処分所得に占める負債返済の割合は、1989年をピークに減少し、1994年で一度底を打っているが、その後 上昇に転じ、1997年には不況で苦しんでいた1989〜1990年の頃とほぼ同率になっているのだ。
 つまり、これは個人の消費がすでに限界点に達していることを示している。今後、アメリカでは消費の後に来る返済が多 くの国民にのしかかり、個人消費を減速させるとともに自己破産者の救済に財政支出が必要になるだろう。
 実際、個人の破産申請件数は、1997年は1994年に比べて7割程度増えているのだ。

 一度歯車が狂うと、どうにも制御できなくなるのがグローバルな経済政策である。個人破産が増えれば、当然所有している 株式も現金化されるだろう。売りが増えれば価格は下がる。バブル化している米国の株価は必ず大幅に下落するはずだ。
 日本の例を見てもらいたい。バブル好況当時の日本では一般投資家はまだまだ現在のアメリカほど多くなかった。 にも関わらず、一度不況になったらあれだけの影響力があったのである。
 ひとたび「信用不安」が起こったならば、ごくごく一般の家庭が株式を保有している米国社会では、日本以上の大混乱に 陥るだろう。

 MicrosoftもIntelも確かに素晴らしい成功を収めた会社であることは誰もが認めるところだ。しかし米国民全てがこれら ハイテク企業に勤めているわけではない。自己破産による自信喪失が、株式投資に対する「強気」を「弱気」に変えた時、 ブラックマンデーは再来すると私は予測したい。

 そしてその時には、高すぎる優良株・ハイテク株が最も大きな打撃を受けるだろう。

劉表さんからの感想(1999.9.6投稿、9.11掲載)

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