◆利害が一致する日米
日本の国連の常任理事国入りという熱望は、何も今に始まったことではない。しかし、たとえ首相が小泉氏でなくても、今ほど
常任理事国入りをしやすい状況はないと考えるのは然であろう。
折りしも、アメリカはイラク戦争の大義名分であった「大量破壊兵器」を見つけることができなかったことを、最近になって公に認めた。
そのせいもあって、ブッシュ米大統領の国連での演説はたとえどんな名文の書かれたメモが彼の手元にあったとしても、
多くの国の指示を受けることはできなかった。イラク、パキスタンの民主化という彼にとっては偉大な自己評価も、笑顔と拍手では
迎えられなかったのに対し、イラクからの撤退を公約にして当選したスペイン首相のアメリカのテロ対策を暗に批判した演説は、
拍手によって迎えられた。
国連のアナン事務総長までが名指しこそ避けたがアメリカ・ブッシュ大統領の行為を「国連を無視した行為」として批判し、
誰もそれに異議を唱えなかった。
識者の意見を聞くまでもなく、アメリカは国連の中で確実に居心地の悪い立場にあると言えるだろう。
それでも、ブッシュ氏には心強い友好国がいる。イギリスと日本だ。ドイツやロシア、フランスと違って小難しいことは言わないし、
中国のように制御できない国でもない。アメリカが右と言えば右を向き、アメリカが「りんごは白い」と言えば「ハイ、白いです」
と答える国をブッシュ氏は友好国と呼んでいるのである。
この友好国のうち一国は常任理事国ではないために、安保理決議をする際に議決権を持たない期間が最低2年ごとに訪れる。
イラクへの「なんくせ戦争」開戦時にも安全保障理事会にこの国がいなかったため、アメリカは票の取りまとめに苦心したいきさつがある。
折りしも、日本は憲法を無視してまで自衛隊をイラクに派遣し、さらに旧社会党議員を多く含む野党第一党民主党の党首までが
憲法改正(つまりは憲法9条改正に他ならない)に肯定的な発言をした(参院選後の渡米時)。元々日本にアメリカ軍の一部を担ってもらおうと
(友軍ではない、アメリカ軍の地方防衛軍というほうが適切だ。なぜならば、いざ共同戦線を張ることになれば、間違いなく米軍の指揮下に
入るのだから)いう魂胆があるため、アメリカ政府の期待は大きいだろう。
そして彼らが散々口にしてきたことが「日本は経済的には大きいが、常任理事国入りするためには軍事的行動が取れないことがネックになっている」ということである。
つまり、世界の平和を守るために行動しなければならない常任理事国に名を連ねるためには、強制力をもった軍事行動が必要だ、ということだ。
事実、ブッシュ政権の一人アーミテイジ氏は「日本が常任理事国に入るためには憲法9条改正が必要」とまで断言している。これは決して彼のうっかり発言ではない。
米国政府の真意である。
◆各国の思惑
それに対し、中国の反応は冷淡だ。「常任理事国を拡大するのであれば、先進国よりもむしろ発展途上国にすべきだ」と
名指しこそ避けたものの日本の常任理事国入りを牽制している。これを聞いて「流石は中国だ。弱者のことをしっかり考えている」などと考えるのは間違いである。
中国にとって日本の常任理事国入りは日本の大国化という懸念があるため、決して好ましいことではない。さらに経済成長が著しい中国にとって、その援助対象国である
発展途上国が常任理事国入りすることは、相対的に地位の向上を促す。まだまだドルベースでの援助額は日米には及ばないものの、第三国への援助額は急増しており、
今後もその傾向は続くだろう。もし、中国の顔色を伺う国が常任理事国の一角を占めるようになれば、アメリカにイギリスがいるように、孤立することを避けることが
できる。大きなメリットだ。
◆日本の取るべき方向
では日本は今後、どう舵取りをすればよいだろうか? 結論から言えば、日本はこの機を逃さず常任理事国入りすべきである、
と私は考える。政治の世界では悲しいかな、正論よりも実利が優先されることが珍しくない。日本の国連への分担金はバブル崩壊後も突出しており(世界第二位)、
その貢献度から考えて敵国条項撤廃は言うに及ばず、安全保障理事会の議席を常に持ち続ける権利があるはずである。
平和憲法が常任理事国入りの障害になっているというのはアメリカの考え方であり、むしろ私は平和憲法こそ国連に持ち込まなければならない思想であり、
それを安全保障理事会に大きく掲げるべきだと考えている。安全保障理事会にて、常任理事国として「平和」を訴え、あるいは「核の悲惨さ」を訴えることが
どれほど今日の日本が過去の歴史を反省しているかを示す場所はないはずだ。
また、暗黙の了解として「常任理事国≡核保有が許される国」という図式がこれまではあった。日本は常任理事国へ手を上げる際、
真っ先にこの恒等式を崩すべきだ。イニシアティブを取るべきポイントなのだ。「核は持つ事も難しいが、一度手にした核を捨てることはもっと難しい。
しかし国連憲章に平和への誓いが謳われ、それを期待し、同意し国連の議席を持っている国家ならば、核兵器及び地雷その他の兵器がどれほど人類にとって有害なもの
であるかご存知のはずである」ということを、被爆国である日本は訴えるべきである。
単にアメリカの後押しで常任理事国になろうとするのではなく、日本のスタンスを明確にしてこそ、多くの国の賛同を得ることができるのである。
冷戦時代、日本はアメリカに「沈まない空母」「リトル・アメリカ」と呼ばれたことがあった。
しかし、独立国家として一議席、しかも今までよりも遥かに重い一議席を得るというならば、「リトル・アメリカ」のままでよいはずがない。