本日の御題:マイクロソフト社の特許訴訟制限は世界を牛耳る打ち出の小槌
◆マイクロソフト社が全世界で嫌われる理由
 公正取引委員会は今年7月13日、PCのOS市場で95%以上のシェアを誇るWindowsシリーズを製造しているマイクロソフト社に 独禁法違反(不公正な取引方法)で排除勧告した。理由は、米マイクロソフト社が日本のパソコンメーカーと基本ソフト(OS)の使用契約を結ぶ際、 メーカー側が特許侵害の疑いを将来持っても訴訟を起こせない特許非係争(NAP)条項を盛り込んでいたからである。
 前々から問題視されていた案件だが、ようやく日本でもマイクロソフト社の不正な商慣行にメスが入ることになりそうだ。

 この問題を簡潔に説明すると、パーソナルコンピュータに搭載されるOSの市場で圧倒的シェアを誇るマイクロソフト社は、同OSをインストールした パソコンを製造販売しているハードメーカー(日本であればNECやソニー、富士通や松下電器等がそれに当たる)にライセンスを供与する(パソコンに OSをインストールあるいは同梱することを許可する権利を与える)際、ハードメーカーが持つ特許に将来マイクロソフトが抵触するような製品を 製造・販売したとしても、それを訴えないという約束を、独占的な地位を利用して強要したということである。
 これはつまり、自分の知的財産は守るけれども相手の知的財産は自由に犯すことができるといったようなもので不平等甚だしいが、 Windows未搭載のパソコンを販売できない以上、ハードーメーカーはこの不当な要求を呑むしかなかったのだ。
 ちなみに、公正取引委員会が同社に排除勧告した独禁法違反(不公正な取引方法)の応諾期限は26日だが、同社は応諾を即座に拒否し、 裁判の1審に当たる公取委の審判で争う見通しである。

◆特許侵害を許すことはハイテク社会では命取り
 今では特許というものが非常に重要視されているが、元々特許がこれほど全世界的に取りざたされるようになったのは日本がアメリカの技術をコピーし、 貿易黒字を膨らませていた頃、またパーソナルコンピュータの登場によりそれまで個人が購入することはなかったソフトウェアの不正コピーを 防ぐ目的で、アメリカは特許攻勢をかけてきたのである。
 モノが主流であった場合は、製法(たとえばカラーテレビの原理や作り方)があってもそれを作るには別の技術が必要であり、特許以前に技術的な 壁が立ちはだかっていた。しかしソフトウェアは非常に簡単にコピーができるほか、パソコンの登場で利用者が一部の研究者や企業から個人に まで広まったことで、正式版を購入しているかを管理することが事実上不可能になったため、特許という考え方を全面に出して不正コピーを 防止しようとしたわけである。

 そして今や、特許は企業の利益を生む重要な武器となっている。パソコンのOSに限らず、たとえば液晶モニターやプラズマディスプレイの 製造方法や原理はその開発メーカーに多大な利益をもたらせている。競合するメーカーが自社が特許を持つ技術を使用した場合、 ライセンス料を手にすることができるほか、そもそもライセンス供与をしなければ製造差し止め及び損害賠償さえ可能であるからだ。
 昨今のDVDの書き込み方式の規格や、携帯電話の通信方法の規格などで全世界の各社が自分の陣営の技術を普及させようと躍起になっているのも、 その技術がデファクトスタンダード(業界標準)になれば他社を圧倒するパワーを持つからに他ならない。
 そしてこの特許という権利を放棄するということは、未来永劫他社に片膝を屈して接しなければならないことを意味する。

◆なぜ今、独禁法適用なのか?
 それにしても、マイクロソフト社の市場独占を支えるこの不正な商慣行は今に始まったことではなく、なぜこの時期に公正取引委員会が独占禁止法を適用した かは非常に興味を引く点だ。理由は、今後数年以内に家電がネット化されるためであろう。現在、マイクロソフト社に限らず、全世界のハイテク企業は自社の 技術を使ってネット家電のシェアを牛耳ろうともくろんでいる。というのも、ネット家電と一言で言っても、冷蔵庫やバスルーム、あるいは電子レンジやテレビ、 ステレオ、家のセキュリティ・システムに至るまで、身の回りのありとあらゆるアイテムがネットワークにつながり制御の対象となるため、 パソコンだけの場合と異なり市場規模が桁外れに大きいのだ。
 しかもネットワークで機器を繋いだ場合、各ネットワーク機器が同じ規格に対応していないとデータのやり取りができない。 分かりやすく説明すれば、電子レンジがWindowsでリモコンがMac、そしてテレビがLinuxであったならば、リモコンを使いネットワーク経由で テレビや電子レンジを制御することは不可能であるか、あるいはパフォーマンスが著しく低下することになるのだ。
 つまり、ある規格が一定の割合普及すると、それに合わせて別のネットワーク対応機器も購入されるため、圧倒的に優位な立場にたつことができるわけだ。
 マイクロソフト社の狙いもまたここにあるが、同社が他の企業と決定的に違う点は、圧倒的シェアを占めるWindowsのライセンス供与と絡めて他社の特許を 自由に使うことができる権利を得ることで、不当に他社の特許を事実上自社の製品に埋め込もうとしていることである。
 このようなことが行われれば、日本企業、いや全世界のマイクロソフト社をのぞく全企業は特許申請に大金をはたく意味を失うことになるだろう。

◆時間をかけてはいけない!
 マイクロソフト社は、Windws95発売以降、常に特許訴訟の問題を引き起こしてきた。
   結果はマイクロソフト社が勝ったものもあれば負けて制裁金及びライセンス料を支払ったこともあった。
 しかしここで問題なのは、結果的にはマイクロソフト社は全線全勝ということだ。アップルとのデスクトップ(パソコン画面)の相違性について戦い、 ネットスケープ社とのブラウザ戦争、ノベル社とのネットワーク・プロトコル戦争、あるいはサン・マイクロシステムズ社とのJava戦争と、 マイクロソフト社は裁判に時間をかけることで判決を引き伸ばし、負けると分かっているような案件でも進んで最高裁まで上ろうとする。
 仮にその結果損害賠償が発生したとしても、資金が潤沢にあるマイクロソフト社にとっては痛くも痒くもない。 裁判がされている最中にマイクロソフト社製品を販売停止に追い込むことができなければ、同社の不当な商慣行により拡販された製品が 市場に氾濫し、独占的なシェアが確定してしまうのである。
 一度形成されてしまえばそれを覆すことは国家でも難しく、仮にマイクロソフト社が敗訴したとしても、一時の損害賠償金を支払うだけで、 その後市場から確実に利益が入ってくるのである。
 つまりマイクロソフト社にとって裁判費用は先行投資のようなものであり、この悪しき商慣行(意外とこの商慣行にも同社は特許を持っているかもしれない) を無力化されるために、迅速な裁判が望まれる。

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