本日の御題:テロに屈してはいけない
◆スペイン軍撤退の衝撃
 初めにひとついっておかなければならないが、テロに屈してはいけないと言ったからといって、 私は決してあのアメリカの独裁者ではない。
 さて、スペイン軍が6月の予定を前倒ししてイラクから撤退を始めた。現政権(サパテロ首相)が発足するきっかけになった選挙の直前にスペイン国内で 列車テロ事件が起こり、それが結果的に政権交代を促したことを考えれば、確かに撤退も不可思議な行動ではないだろう。
 しかし、タイミングが非常に悪いと言わざるを得ない。就任当初、彼が公言していたことは、6月30日までに国連がイラクで主要な 役割を果たしていなければイラクから撤退するということであった。しかしイラクからの早期撤退が実施され始めたのは、4月18日のことである。
 これは外国人の誘拐事件が多発した直後のタイミングだ。サパテロ首相はこの前倒しについて6月末を待たずして要求しているレベルの国連の関与が期待 できないためと説明しているが、折りしも4月16日に米英首脳がホワイトハウスで会談し、「国連の役割拡大」という従来の抽象的な方針から大きく 政策転換を発表した二日後でことである。
 スペイン軍は1300人を派遣していたが、彼らの撤退はスペイン軍指揮下にいた南米諸国軍の撤退をも意味している。数の上ではたいした事はないが、 国の数としてはアメリカも南米の小国も同じ「1」である。
 米国はイラクを一国で治めることに限界を感じており、だからこそ国連という名前を前面に出す戦略に出たが、同盟諸国の撤退は、結果的にイラクでの 米軍の役割を増大させ、さらなる米国色の強い統治へとなるだろう。

 こうなれば、テロリスト達の思う壺で、同盟諸国へのテロ行動を強化することでさらなる離脱者を誘い、米国を孤立させようとするに違いない。 そして最後にもし米国が撤退すれば、それこそイラクはイラク人同士の内乱の時代が幕を上げるのである。
 今は「反米」として手を結んでいる各宗派も、共通の敵がいなくなれば争い始める可能性は十分高い。内部にいがみ合いがあるとき、外国に戦争を 仕掛けて結束を固めるというのは、政治の世界では常套手段であるのだから(国内経済の悪化から国民の目を逸らすために、戦争を仕掛けた、世界で名前の 通っている国もあったはずだ...)、その逆も真ということである。

◆壊した以上は・・・
 私は今回のアメリカの侵略戦争、でなければ身勝手戦争、自己中戦争を決して正当化するつもりはないし、自衛隊の派遣も賛成しなかった。 しかし一度派遣してしまった以上、正しいか間違いかは別として撤退には大義名分がなければならないのが政治の世界である。 それは、「撤退」という行動以上のシグナルを与え、結果をもたらすからである。
 イラク人は各国軍隊の撤退と民間企業の誘致を求めているが、同国には今、外国の民間企業が進出できるほどの治安はない。今回の誘拐事件の多発により、 世界各国の企業はさらに不安を強く感じたことだろう。イラク人の言い分では、軍隊ではなく民間人によるイラク復興を望んでいるというが、 治安が悪い以上、その国の軍隊が去るということは民間企業も去るということであり、まさに鶏が先か卵が先かという議論になってしまう。

 既に町を壊し、治安を壊してしまった以上、彼らの職を奪ってしまった以上、現状での最善の策はアメリカ色を少しでも弱めるために多くの国が (まさに国連の名に相応しいほど)軍隊・警察を派遣し、イラク人民と密接に関わりながら破壊された町を少しでも早く戦前の状態まで 直していくことである。
 勿論その前提となるのは、アメリカに自国企業の優遇処置を止めさせることであり、タカ派の某大統領に慎み深い「徳」という教育を施す ことであろうが。

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