本日の御題:泥沼化するイラク情勢
◆容易く挑発に乗るブッシュ
 それにしても、アメリカ軍のモスクへの空爆は常軌を逸している。元々、バクダットを含むスンニ派トライアングルにはフセイン残党が多く、 終戦宣言後も米国の支配に武力で抵抗してはいた。しかしそれはスンニ派以外の地域へ波及することではなかった。
 外国部隊の展開を快く思う国民はいないものの、元々人口では多数でありながらスンニ派に迫害されてきたシーア派 (全人口の6〜7割)にとって米国軍は解放軍であり、表立った抵抗はしてこなかったのである。
 しかし、モスクへの空爆は、スンニ派よりも信仰が深いシーア派までをも敵に回す結果となった。
 これは何を今するか? イラクではまもなく選挙によってイラク人による政権が立てられる予定であるが、選挙になれば人口的に多い シーア派が圧倒的有利であるにも関わらず、彼ら戦後イラクを担う政権をアメリカは敵に回したことに他ならない。
 モスクに反米組織の人々が集まっていたためその好機を突いたのは戦術としては素晴らしいが、戦略としては明らかに間違っている。まんまと アメリカはイラクの反米組織の挑発に乗ってしまった格好だ。反米デモが各地で起こり混乱が続いている状況で、どこまで公正な選挙が全国規模で できるか疑問である。
 正直、私にはブッシュ大統領が攻めることしかできない愚かな将軍にしか見えない。特攻だけの猛将は流れ矢に当たってあっけなく戦死するのが 世の常である。ブッシュ政権も意外とあってけなく崩壊するかもしれない。

◆撤退は出兵よりも難しい
 朝鮮戦争、ベトナム戦争は、湾岸戦争に至るまで米国民のトラウマとなっていた。アメリカが参戦して勝利できない戦争はないと第二次世界大戦以降 自負していたからだ。アメリカは湾岸戦争によってその自信を回復したが、それはまた新たな変化を彼らにもたらした。つまり、強力な武器を 持ったがゆえの傲慢さであり、外交とは程遠い力技一辺倒の諸外国との接し方である。

 アメリカは確かに東欧諸国という新たな支持者を得たが、それは旧ソ連からの開放を確実にするための踏絵であって心底アメリカの方針に 賛同しているわけではないだろう。古いヨーロッパでアメリカが最も軸足を置くべき西ヨーロッパ諸国との関係は、ブッシュ大統領になってから 険悪の一途をたどっており、これは外交という点では明らかに失敗だ。
 イラクへの強硬姿勢は北朝鮮の不信感を増大させ、核開発への大きな動機付けにもなるだろう。

 諸外国との関係悪化に続いて、イラク統治の失敗はブッシュ大統領にとって致命傷になりかねないが、しかし、もはや後の祭りである。 ネオコンは今でもイラク統治に関しては強硬路線を取っているが(兵員増派の計画もある)、山は登るときよりも下るときのほうが危険であり、 戦争は出兵するときも撤退するときのほうが、難しいものである。国家が軍隊を動かすということは、必ず成果をあげなくてはならないということであり、 引き分けというものは軍事的にはあっても政治的には存在しない。
 どんな恐ろしい兵器を使ったところで、そこにいる全ての人を殺し尽くさない限り、戦車の数が増えるだけ反感は増し、銃声の数だけテロという 報復が待っている。まもなく、アメリカ国民の間でこの言葉が流行り始めるはずだ。
「リメンバー・ベトナム」

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