本日の御題:踏絵とかした自衛隊派遣
◆現代の世界事情
 イラクへの自衛隊派遣が取りざたされて久しいので、ここは簡単におさらいをしておこう。
 米国は自国だけでも戦争を始めると言い、実際国際社会の努力をほぼ無駄にする形で戦争に突入した。
 イラク軍の士気低下もあり、アメリカ軍のワンサイドゲームになったが、イラクという国が複数の民族・複数の宗教に分かれているため、 フセインという悪玉を一人倒したからといってすぐに纏まるようなことはなかった。
 しかしブッシュ政権は圧倒的な軍事的優位を背景に、戦争終結後のイラク傀儡政府アメリカの後押しによって(主導という言葉は似つかない)で作りあげた。
 イラクの人々はフセインを倒してくれたアメリカに一定の賛辞を送ったが、次の政権についてまで口を出してほしいとは 言わなかったはずである。当然、強引なアメリカの行動に抵抗する。まともに戦っても勝てない相手にテロ(奇襲攻撃)をすることは 古今東西決して珍しい戦法ではない。
 困ったアメリカは国連の名前を出し、この戦争の勝ち組に乗るか、負け組に組するか、世界の首脳を脅しにかかった。そして勝ち組に組するならば、 それ相応の協力を軍事、経済面でするようにというわけである。石油を中東に頼り、米国の同盟国である日本が、「戦争はよくないことだ」と言って中立的な 立場を取れるはずがない。
 小泉首相は、自らの野心もあるのか、自衛隊の(部分的とはいえ未だ戦争状態にある)海外への派遣という前例を作ることに、外圧を利用して熱心に取り組んでいる。
 もちろん、北朝鮮が暴発したときにアメリカに頼るしかない、というお国事情もあることは否定できないが。

◆日本政府の思慮とは
 私が問題にしたいのは、アメリカ的正義を信条にすることで他の要素について盲目になっていることである。
 たとえば、イラク派兵について無能な官僚たちは「生活物資を届け、社会インフラを整えようとする国連や日本の自衛隊がテロの標的にされるはずがない」と当初 考えていた。しかし現実には、警備の手薄だった国連の施設が狙われてしまった。
 なぜそのようなことが予測できなかったのか? それはアメリカ的考え方一辺倒であるからである。
 イラクでテロ行為を繰り返している人たちのことを考えてみよう。イラクの人々に生活物資を援助し、病院を建てる行為そのものはすばらしいことだ。
 しかしそれが傀儡政権の手先が行っているとしたらどうだろう。放置しておけば国民の支持は傀儡政権に向き、自国のことを本気で考えている (イスラム教徒のためのイスラム国家という)自分たちの居場所がなくなる。しかも時に貧困こそが欧米への反抗の原動力であり、テロリストの受け皿でもある。
 ならば国内がまだ纏まらないうちに奴らの活動の妨害をしよう、と考えるのではないか?

 しかも彼らにとって外国の軍隊が自分たちの土地の中で我が物顔に通っていることは、絶対に許せないことなのである。それはアメリカの同盟国であるサウジアラビアに 米軍が駐留するというだけで、サウジアラビア国内だけでなく国外からも激しい抵抗を受けるほどである。米国に多くの基地を提供している日本なら分かりそうなものだが、 少なくとも霞ヶ関の官僚たちにはそれが理解できない。沖縄県民の声も届かなければ、県知事の訴えにも耳を貸さない。それが沖縄返還後の日本政府の伝統的、かつ恒久的な 政策なのだから。

◆北朝鮮問題
 アメリカが北朝鮮問題で恐れていること、それは日本に核が落ちることではない。北朝鮮という国を認めることがそのまま核拡散につながることを何よりも恐れている。
 何かの拡散を禁止しようとする場合、抜け道がひとつでもあるとそれは機能しないものだ。北朝鮮が核技術を持つということは、反米的な国へ技術が移転される危険を はらんでいる。しかもロシアからの技術協力と日本の検閲のお粗末さが相まって、弾道ミサイルの開発にもほぼ成功している(精度はともかく)。
 つまりアメリカ的国際社会にとって、北朝鮮は決してあってはならない国なのである。
 しかし、日本政府はそんなアメリカ政府の事情に対しては盲目だ。北朝鮮がいる限り、アメリカ一国追従政策(Look UnitedKingdomとでも 言うべきだろうか?)をしなければ、ドイツやフランスのように関係がたちどころに悪化し、もはや国際社会から見捨てられるとさえ考えているようだ。
 しかし果たして、ブッシュは日米同盟を解消することができるだろうか? 全世界でアメリカ軍が活躍するためには、日本は必要な国である。韓国のように 伝統的に反米的な国と違い、中国のように大国意識もない、日本は非常に都合のいい国である。日米同盟は決して日本の片思いではないのである。
 まして経済的な結びつきも大きい。日本がもし北朝鮮によって軍事的に征圧されることがあったら、あるいはそこまで行かなくとも社会が混乱し、経済が麻痺したら アメリカ経済もただではすまないのである。しかもその結果、一国平和主義の殻に閉じこもっていた日本が眠りから覚め、軍備増強・核開発などという道を 辿るようなことがあれば、アメリカ大統領にとって歴史的な政治的失敗になる。

 恋愛でも一方的に追ったり、盲目的に服従したりすると、意外と相手は無責任な行動をとるものである。
 日本政府は決して片思いではないことを自覚し、時には一歩身を引いて相手に「あれ?」と思わせることも大切である。
 それが属国ではなく同盟国という姿であろうから。
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