◆極端に神経質な社会
アメリカという国はおかしな国だと思うことがしばしばある。イメージでは自由奔放なのだが、かつては禁酒令(成人も含めてだ)が出た事もあるほど神経質な社会なのだ。
最近では、「結婚しているの?」と職場で男性に尋ねられた女性がセクハラで訴えて勝訴してみたり、コーヒーを股に挟んで車を運転していた
女性がコーヒーをこぼして火傷をすれば、「高温なので注意してください」という表記がなかった事が悪いと訴えて勝訴する。
しかも、とても些細なこれらの事で発生する慰謝料が、大企業の経営を傾ける危険があるほど高額なのである。損害賠償にしても、懲罰的な意味合いが強い事から、
実際の損害とはかけ離れた額を支払う事にもなる。極めつけは有名人が離婚したときの慰謝料で、僅か1年程度の結婚生活で離婚した場合でも、
相手がハリウッドの有名人なら何十億円という額の慰謝料を受け取る事ができるのも異様な光景だ。確かに内助の功というものはあるだろうが、正直数十億円の内助の功とは
如何なるものなのかと尋ねたくなる。もちろん、長年連れ添った夫婦ならば財産分与で半分持っていくのも理解できるのだが。
さて、今回の更新は決してそんな私の疑問をぶちあけることが目的ではない。今、アメリカで進められているとあるプロジェクトについて報告したいと思う。
国防総省は今、「タロン(Talon)」と呼ばれるシステムの構築を模索している。目的は、テロリストや犯罪者の発見および監視である。
タロン・システムは、空軍特別捜査局(OSI)が開発したテロ対策プログラム「イーグル・アイズ」から発展したものだと考えられている。
OSIのサイトによると、2002年4月に始まったイーグル・アイズとは、「テロとの戦いにおいて空軍の軍人および市民の目と耳を借りる」という、隣人を見張るプログラムだ。
その主な働きは、「不審な事例を憂慮する市民や軍人から寄せられる」報告を集め、迅速に共有できるようにすることである。もちろん、一般の人間に見られないよう
セキュリティをかけるわけだが、この仕組みは古くは江戸時代の「五人組」、最近では北朝鮮の相互監視システムを髣髴させる。
平たく言えば、市民に互いを監視させ、不審に思ったら国防省にメールを送れ、というわけだ。人権擁護団体からは当然反対の声があがっているが、
このようなシステムがテロ対策として挙げられていることに注視したい。
イラク戦争のときもそうであったが、今のアメリカには「テロとの戦い」という言葉を用いれば、どんな過激な法案さえも
通ってしまう土壌がある。
今回のようなシステムも、もし9.11がなかったならば、決して語られることのなかった話だろう。このシステムが採用されるかどうかは分からないが、
少なくとも公然とはばかることなく語られていることに私は驚きと戸惑いを感じている。
アメリカは今、テロリストという言うなれば透明人間と戦っているのであろう。それは傍から見ればタントマイムにもひとり相撲にも見えるが、本人は
いたって真剣である。
獅子身中の虫を駆除するためには、戦いが起こってから活躍するハイテクを駆使したピンポイント爆撃ではなく、戦いを未然に防ぐ
情報のほうが重要であるという理論は分かるのだが・・・。
アメリカの極端に振れる性格を他人事として傍観してはならない。アメリカに「対テロ」という御旗があるように、日本にも「アメリカ追随」という御旗が
あるからだ。アメリカでもしこのようなシステムが導入されれば、必ず日本でも導入が検討されるだろう。
日本人は昔から外国に弱い。初めての試みには抵抗する保守的な国民性も、「かの国で導入されているシステムです」と言われると不思議と抵抗感が希薄になるのである。
◆各種データベースに政府がアクセスする
実はこのような「対テロ支援システム」へのアプローチはひとつではない。
例えば、『全情報認知』(TIA)プログラムはクレジットカード取引や旅行の予約などの膨大な個人データを調べることで、テロリストの動きを発見しようとしている。このような政府の監視プログラムに対し、アメリカ議員、市民団体、メディアなどからはプライバシーへの懸念が提起されている。
議会やプライバシー擁護団体が問題にしているのは、政府が収集する情報が広範囲にわたり、しかも手当たり次第、相互に参照できてしまうことのようだ。
しかし、個人の市民的自由とは別のプライバシー問題も浮上している。情報機関もまた、自分たちの作成した監視リストにプライバシーがあるのだ。
政府の監視リストにとって最大の問題は、作成者がそれを誰にも、たとえ相手が政府機関であっても公開したくないと思っていることだ。
こういった監視リストが渡されるときは、秘密保持が確約される場合が多いが、しかしたとえば、政府がテロ容疑者リストを多数の企業に開示した場合、
秘密を守るという条件をつけたとしても、情報が漏洩する可能性は無視できない。
実際、9.11後に米連邦捜査局(FBI)が作成したテロ容疑者の監視リストは特定の企業に配布されたにもかかわらず、インターネットに流出し、
リストに載った人々の無実が証明された後もかなりの期間、公開されたのだ。
セキュリティにうるさいアメリカでさえこのありさまなのだから、日本でこのようなシステムが導入されたならプライバシーの欠片もなくなるだろう。
日本のお役所はある意味異常だ。ここ1〜2年の間に無線LANは一気に広まったが、霞ヶ関では暗号化されていないデータが飛び交っていると聞いたことがある。
つまりお役所に導入された無線LANシステムが、裸の状態でビルを突き抜け、公道を飛び交っているというわけだ。
このずさんな管理能力からしても、政府の手に集められたデータベースが無事そのままの状態で保持・管理されるとは考えないほうがいい。
補足)蛇足になるが、実は有線/無線LANの有無を問わず、モニターから発せられる電磁波を特殊な装置で受信する事によって、
屋内のパソコン画面を窓の外で見ることも可能である。電磁波が壁を突き抜けるという性質があることを思い出せば決して驚く事ではない。これを妨げる装置もあるが、
導入例は極めて少ないそうだ。