本日の御題:北朝鮮は大丈夫か?
◆北朝鮮は試している
 4月1日、北朝鮮は再び地対艦ミサイルを発射したという情報が入った。
 場所は日本海とは反対側に着弾したという。
 その日付からして、初め私は、あることないこと書き綴る日刊紙の悪質なジョークかと 思ったほどであった。
 現在のところ、真相はわからない。
 ただひとつ言えることは、これがこれまでの一連のミサイル発射とは性質が異なるという事だ。

 3月末、日本は初めて偵察衛星なるものを打ち上げた。
その性能は1m四方の物体を判別できるという。その仕様から推測するに、 数年前のアメリカの偵察衛星と同等と言っていいだろう。

 当初、北朝鮮はこの衛星打ち上げに非常にナーバスになっていた。
 ミサイル等での威嚇こそなかったが、打ち上げ直後、防衛庁に小規模ながら 爆破事件があったことは何とも不気味な事実である。

 問題はなぜ「この時期に?」という点に尽きる。
 ある評論家は「従来同様、米国の目をこちらにむけさせるため」と説明していた。
 しかし、もしアメリカを交渉のテーブルにつかせるためだったならば、 もし日本や韓国を威嚇する意味があったならば、なぜ日本海ではなく黄海にミサイルを 打ち込んだのか? それを疑問に思わない某評論家に、私は思わず失望してしまった。

 北朝鮮の真の狙い、それはおそらく日本の偵察衛星の能力を測るためであろう。
 打ち上げられた衛星が、前評判どおりの性能を有しているか?
 北朝鮮首脳部の関心はそこに尽きるはずだ。

 そして結果は彼らの心を和ませるには充分であった。日本と韓国は独自の能力では 北朝鮮のミサイル発射の事実を把握できないことが明らかになったからだ。
 今後、北朝鮮は韓国の太陽政策をうまく利用していくことになるだろう。
 アメリカと韓国の同盟関係にひびが入れば、韓国を取り込むことも不可能ではないからだ。

 日本には悪い癖がある。「仏造って魂造らず」
 たとえハイテク装置を手に入れたとしても、それを運用するソフト面、具体的には 人材やシステムがなければ、高度な衛星も鉄の塊でできた風船に過ぎない。
 まして偵察衛星ともなれば、それを運用するためには基本的な情報が不可欠になる。
 1m四方の物体を認識できるとはいっても、北朝鮮全土を1m四方に区切りその全セルを 監視できるわけではない。
 具体的には北朝鮮へスパイ等を送り込み、事前にどの場所を監視すべきなのか、 いつ発射されるのかなど「当たり」を付けておかなければならないのだ。

 この分野において、日本政府が全くの素人であることは言うまでもない。

◆今後の北朝鮮問題は・・・
 さて、イラクと共に悪の枢軸と名指しされた北朝鮮であったが、反米の同朋が米軍に 侵略されていることをどう考えているのだろうか?
 確実に分かった事は、アメリカは戦争に正当な根拠を求めず、やる気になれば国連を 無視してでも実行するということだ。
 その傲慢さを同盟国である西欧や日本でさえ脅威に感じているのだから、北朝鮮首脳部が 危機意識をもたないはずはない。

 では北朝鮮の今の政権は今後イラクのフセイン政権と同じ運命を辿るのだろうか?
 そこには「核開発」というジョーカーの使い方にかかっているように思える。
 ご存知の通り、ジョーカーはトランプ至上最も強力なカードだが、同時に最後まで持っていると プレイヤーを敗北へ導くカードでもある。
 北朝鮮は今、交渉の1カードとして核開発をちらつかせているが、これを最後までもち続けていたならば、 おそらく結果は同じようなものになる。

 こういうと、アメリカやロシア等の常任理事国のほかにも、インドやパキスタン、あるいはイスラエル までもが保有しているという核兵器を、自国防衛のためになぜ北朝鮮がもってはいけないのか? という議論になる。
 私は教室でその理論を聞いたならば首を縦に振るだろうが、実際の国際社会の中では「No」と言わねばならない。
 政治の世界において「公平」や「正論」は時として最悪の事態を招くからだ。
 北朝鮮が自衛のために核をもつ。それを許すという事は、世界各地で紛争が絶え間なく続いている現在の地球にて、 核が拡散するという事を意味している。
 核兵器の抑止力を期待するならば、保有する国は1国ではダメだが多すぎるのもよくない。

 その上で、私はブッシュ政権を批判したい。クリントン政権までのアメリカ政府の立場は、「核による先制攻撃はしない」 というのが通論であった。それは核をもつ国への無駄な刺激を避けるほか、核をもたない国に対しても自前で核兵器を 開発したいという衝動を抑える効果があった。
 しかし、核による先制攻撃を辞さないとなった場合、アメリカと緊張関係にある諸国に残されるのは、ロシアという 対極が頼りにならなくなった以上、自前で核の抑止力を持たなければならないということになる。

 たとえば、冷戦の勝利者がアメリカではなくソ連であったらどうだろう。ソ連は北方領土に核兵器搭載可能な軍船の基地を持ち、 さらにその使用をちらつかせて日本の原発の阻止、あるいは不条理に思えるような高圧的な態度で 交渉を迫ってきたらどうだろうか?
 日本国内で、「核をもとう」という議論が全く起こらないと言えるだろうか?

 ブッシュ大統領は、自分が必要以上に相手を刺激している事に気づいていない。
 武器を持っていない人間は、たとえ相手が警官であっても拳銃をちらつかせながら話し掛けてくる人に対して 脅威を感じてしまうものなのである。ましてその警官が自分を日ごろから憎んでいて、(世界)市民の言葉に耳を貸さない 傲慢な男であったなら、そして銃による先制攻撃もあると日ごろから風潮しているとしたら、 あなたは安心して眠る事ができるだろうか?
 鈍感な男を大統領にしてはいけない。私はブッシュ大統領を選んだアメリカ国民に忠告したい。

◆北朝鮮が崩壊するとしたら・・・
 最後に、東アジア地域で共通の脅威になりつつある北朝鮮の金政権が崩壊するかどうかについて考えたい。
 結論から言えば、それはとても難しいだろう。
 というのも、ソ連崩壊時に同時に崩壊した東欧諸国とは大きく性格が異なるからだ。

 北朝鮮の政権は世襲制である。金日成から金正日に政権が移った時点で、もはやその流れを止める事は できなくなった。
 世襲制であることの意味は大きい。彼ら特権階級は、改革をするよりも自分の地位を守る事に執着する。
たとえば南北朝鮮の統一を考えた場合でも、国王級の地位が失われるような形での統一など金一家には 考えられない事だ。
 彼らの思想は、米国によって分断された祖国を偉大な金将軍様によって統一することであり、韓国の太陽政策に のり、自分達の既得権益を失ってまで統一を図ろうとは考えないはずだ。

 北朝鮮高官の海外への亡命が政権末期の現れだという見解もあるが、そのような高官でさえ金一族に立ち向かえない、 つまり逃げざるをえないというのは、逆に金一族の支配の強固さを物語っているといって良いだろう。
 もちろん、国民の5人に1人がスパイという国である。国民の蜂起など期待してはいけない。高官も国民も、 戦わずして逃げるしかないのである。

 さて、だからといって金ファミリーの独裁政権を揺るがしかねない問題が1つだけある。
 それは「跡目騒動」である。世襲制の独裁国家にとって、元首になるか元首の家族になるかでは その後の人生が大きく異なる。まして自分と国家主席を争ったほどの人物となれば、跡目騒動に破れた場合、 残されているのは「死」以外の何物でもない。
 それは単に「皇太子」たちだけの問題ではなく、彼らに付き従う取り巻き達にも同様のことが言える。
 後継ぎになるかならないかでは雲泥の差が出るのだ。

 命かげの戦いである。当然、熾烈を極めるだろう。政治家たちで決着を付けられなければ、 軍や秘密警察といった組織をいかに掌握しているかが勝敗を左右するだろう。
 そこに軍などの付け込む隙が生じるわけだ。政権は不安定にならざるを得ない。
 その時、東アジアで何が起こるか、現状では私には予測できない。


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