本日の御題:世界平和にとって、敵は誰?
◆国家と国民のコントラスト
 ブッシュ大統領はどうしてもイラクで戦争をしたいようだ。国連査察団がイラクがもつことを禁止している射程距離の長いミサイルを見つけたため、 国連安保理で圧倒的に少数派であるにもかかわらず、武力行使やむなしと声高に叫んでいる。

 確かにフセイン大統領の経歴は血なまぐさいものがあり、またクェートへの侵攻も決して許さざる行為だ。しかし、だからといって、 一国に戦争を仕掛けるには相当するだけの理由がなければならない。安っぽい平和主義と一緒にされたくはないが、 理由なき宣戦布告は、帝国主義、植民地主義の汚名をきさせれてもやむをえないだろう。
 戦争は何も軍人だけがやるものではなく、一般国民に大変な犠牲を強いる事になるからだ。

 ブッシュ大統領は今なお強気だが、ブッシュの愛人とまで言われたブレア首相の治める、最もアメリカに友好的な国イギリスでさえ、 「世界平和にとって最も危険な人物は?」の質問に「サダム・フセイン」と「ジョージ・ブッシュ」が同率でトップ(この二人の割合をあわせると、なんと90%に上る) を飾っている。
 イタリアと並んでアメリカ寄りの発言を繰り返すスペインなどはもっと深刻で、約85%の国民が武力行使に反対し、さらに武力行使を支持している政府に対する 不信任は75%にものぼる。
 イタリアもスペインも、欧州の覇権をめぐってフランス・ドイツが力をもつことを恐れているため、過度のアメリカ支持を打ち出したが、国民には決して支持されなかった。

 さらにブッシュ大統領は足元にも火がつき始めていることをもっと自覚すべきだ。
 ロス、シカゴを始め、フィラデルフィア、デトロイト、サンタモニカなど全米約90の都市で国連決議のないままの武力行使に反対する決議を採択している。
 テロ以来、反戦がタブーとされてきた国内外の世論は、今、あまりに強硬なブッシュ政権に対して危機感を抱いているのだ。

 日本に目を向ければ、小泉内閣は最近になってアメリカ支持を打ち出したが、これも北朝鮮の核問題があるため、一種の踏絵と考えるべきだ。
 ロシアの勢力から逃れない東欧諸国、欧州での覇権争いを続けるイギリス、スペインなど一部の限られた国を除けば、この時期にイラクを攻撃することなど、 ありえないことだ。
 そう考えると、各国政府と国民が異なった意見をもっていることも決して不思議な事ではない。

◆戦争こそ合法的な人体実験場
 湾岸戦争以降も、アメリカは軍拡に突き進んできた。地下施設まで破壊する小さな核や、ミサイル遊撃システムなどである。
 しかし、どれもまだ実戦を経験した兵器ではないのだ。そこで言葉は悪いが「試し撃ち」がしたくなる。
 今から薬60年前、日本に落とされた原爆がその後の原爆製造の貴重な情報となったように、アメリカは戦後開発した未使用の兵器が、 カタログどおりの性能を本当に有しているのか確かめたくて仕方がないのである。
 それは軍事アナリストの間では常識となっている。

 その白羽の矢が立ったのが悪の枢軸イラクである。キリスト教徒国家である欧米からの批判も少なく、北朝鮮に使用した場合のように同盟国韓国の反米感情を 煽ることもない。何より彼らは、テロの温床にもなっている「イスラム教徒」の国である。
 これほど条件が整っている国は他にないのではないだろうか? たとえばこれが同じイスラム国家であってもサウジアラビアであったら、 あるいは核開発をしているインドやパキスタンであったらどうだろうか? もっと大きな抵抗にあったはずだ。
 辛うじて、イラク攻撃がアラブ国家からも強い反発を受けていないのは、イラクが同胞であるクェートを攻めたことをまだ各国政府が覚えているからだ。
 逆を言えば、今、アメリカが戦争をしようと思ったら、イラクしかないのである。

◆権力は神から授かるものではない
 ブッシュ大統領は熱狂的なキリスト教徒である。大統領に当選したときも、所信演説でもキリストの名前を出しているほどだ。
 そのときの発言は、取り様によってはとても危険なものであった。私は忠実なキリスト教徒であり、聖書と共に歩く、といった発言をしている。
 これはキリスト教徒が聞けばなんでもないことだが、伝統的に敵対関係にあるイスラム教徒が聞けば、見も毛もよだつことだろう。
 アメリカは多国籍国家であり多様な文化を認める国家でもあったはずだが、公の場でキリスト教を布教する行為は明らかに政教分離に反する。

 ブッシュ大統領は今、何を頼りに戦争への道を突き進んでいるのだろうか? キリストが戦争好きだったかどうかは無信教の私には想像もつかないことであるが、 ただひとつ言えることは、彼を選んだのはキリストでもなければ神でもない、アメリカ国民であるという事をブッシュ大統領はもっと自覚すべきだろう。
 国内で起こっている反戦ムード、時間が立てばたつほど大きくなる事を彼は間違いなく警戒しているはずだ。
 そのために戦争を急ぐというのは本末転倒だが、戦争が「支持率工場」になっている現状からすれば、ブッシュ大統領は間違いなくイラクを攻撃するだろう。
 しかし、今回は必ずしもうまくいくとは限らない。国連安保理の採決なくアメリカが単独で武力行使に踏み切れば、支持率工場は突然不採算事業になるだろう。
 そしてその時下される審判によって、初めて彼は自分の手の中にあった権力の意味を知るのである。


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