本日の御題:戦争をしたいアメリカの常套手段
◆防衛のための戦争
 たとえどんな殺戮者であったとしても、戦争をする時は美辞麗句を並び立てて自らの行為の正当性を主張するものだ。
 そしてそれが世界で唯一の超大国となった国であるならば、「勝てば官軍」の言葉どおり、正義の戦いとして 世に語り継がれることになる。

 さて、アメリカのブッシュ大統領はとても親孝行息子ならしく、父親が果たせなかったイラクでの偉業を自ら引き継いだようだ。
 戦争をしても決して負けない国というのは、「脅し」というカード一枚があれば何もいらない。アフガニスタンで行なったように、 今回もきっとうまくやるだろう、というのが大方の見方である。

 アメリカはイラクが大量破壊兵器を保有しており、しかもそれが同盟国、しいては自国にも大きな脅威になることを主張している。 その言葉には一定の説得力があるのは事実だが、これまで大量に同国・同地域に対して兵器を売りさばいてきた国の元首が口にする言葉として 適当であるかは疑わしい。
 さらに、国連という国際協調の枠組みを自ら作り、その常任理事国となりながら、世界の警察を自称する彼らは超法的に戦争をしようと している。
 今回の大量破壊兵器の査察についても、本当にそれだけが目的であるかは疑わしい。アメリカの狙いがフセイン大統領の打倒である以上、 査察にかこつけて大量破壊兵器とは関係のない、例えば大統領警護の部分にまで手を伸ばそうとするかもしれない。
 それをフセイン大統領が拒めば、それを理由に戦争を始めることもできるし、もしフセインの近辺まで汲まなく査察、つまり情報 収集できれば、クルド人などを使ったフセイン大統領暗殺というシナリオも御伽噺ではなくなる。
 アメリカにとってはどちらに転んでもいいわけである。

 問題は、ベトナム戦争で失われたアメリカの自信が、湾岸戦争・アフガニスタンでの戦争によって回復したことになる。もはや今の アメリカは戦争をすることに何のためらいもない。ソ連は崩壊しロシアは欧米の顔色を伺った外交を繰り返している。

◆北朝鮮は50年前の日本と同じ
 ここで一度、あなたの時計を20世紀前半に巻き戻してはもらえないだろうか。
 1941年12月、日本はアメリカに戦争を仕掛けたことがある。太平洋戦争だ。当時の日本は国際的に孤立していた。満州事変から 始まる中国への侵略に欧米各国は自分達の既得権益が奪われることを恐れ、侵略を続けるならば原油の輸出を止めるという 最後通告を日本に突きつけるに至った。
 当時の日本にとって、原油の輸入がなくなるということは国家・民族としての独立を揺るがすほどの大きな問題であり、 欧米の言いなりになり戦わずして負けるか、あるいは原油の備蓄があるうちに戦うか、二者択一の極限状態に置かれてといって いいだろう。
 結局日本政府は後者を選択し、資源の豊富な太平洋、ことさらインドシナ方面へ大攻勢を展開したのである。

 さて、それではあなたの時計の針をもう一度21世紀に戻してはほしい。今、東アジアの小国北朝鮮は、 KEDOという枠組みで合意された原油の輸入を事実上失うことになった。それは北朝鮮のエネルギー使用量の1/3とも 言われており、これから冬を迎える同国にとっては甚大な問題となるだろう。
 確かに、北朝鮮の拉致問題から始まる核兵器開発、化学兵器開発の問題は決して無視できないし、それをおざなりにして 原油を供給しつづけることは問題かもしれない。
 しかし、日本人はこのやり方がどんな結論を導き出したか、よく知っているはずである。北朝鮮がエネルギーが枯渇して 戦えなくなる前に、核兵器・生物兵器その他を使って攻勢に出てこないと果たして本当に言えるだろうか。
 これまで辛うじて夜中の停電だけで済んだ首都平でさえも、今年の冬を越すのは一苦労かもしれない。お膝元でもし生活不安が 起こりそれが偉大なる首領への反感へと変わろうとしたならば、次に独裁者が取る行動は決して予想が難しくない。
 外国に矛先を向けるということだ。

 北朝鮮首脳部にしてみれば、拉致問題で日本側に譲歩したつもりだったはずだ。アメリカの強硬な姿勢をかわす目的で、 日本に譲歩しアメリカを間接的に揺さぶろうとした戦略は見え見えであるにしても、ここに来てKEDOからの支援中止は 想定していなかったに違いない。

 この状態はあまりにもかつての日本と酷似している。当時も欧米による包囲網があった。現在、それに対応するのは 日米韓だろう。また、エネルギーを止められ国家としての危機に面している。さらに軍事国家、権力の一極集中という国家組織も 似ている。
 このような国は、往々にして誇り高く、鷹派が幅を利かせるものである。しかも核開発という最終カードを北朝鮮は持っているのだ。
 安易に戦争に突入することはないとしても、今後何があってもおかしくない状況に突き進んでいく危険は決して否定できない。
 さらに、米国、いやブッシュ大統領は最近になって核兵器の先制攻撃も辞さないと言い始めている。これは冷戦時代には全くなかった 発想で、大きな政策転換と言えるだろう。
 専門家の話によれば、これはかつての核爆弾のような町そのものを破壊する規模のものではなく、地下施設など通常の爆弾では 破壊することができない設備に対して利用するためのものだと言われている。
 がしかし、結果としてこれが核兵器の使用解禁となれば、北朝鮮が悪夢として考えている「米国による核兵器による攻撃」 に現実味が帯びてくるのだ。
 これは明らかに誤ったシグナルであり、北朝鮮は今後、国家防衛のために核開発を死に物狂いで進めることになるだろう。

 今回のKEDOの決定の際、日本はアメリカ追従の外交を脱っせなかった。この選択が今後の日本にどのような影響をもたらすか、 予断を揺るさない。ただひとつ言える事は、力の弱い国が強い国に戦いを挑もうとする場合、(日本がアメリカに対してかつてしたように) 奇襲攻撃に出ることは間違いなく、その際戦場がどこになるのかも、我々は認識するべきである。

 もちろん、過去の日米と比べて決定的な違いがないわけでもない。当時の日米の国力の差もさることながら、現在の米朝の国力の差は 明らかにそれ以上の開きがある。そのために北朝鮮側から安易に戦争に突入するとは考えにくい。
 しかしもう一度、イラクの事を思い出して欲しい。アメリカはイラクに大量破壊兵器の査察を受け入れさせるために、どんな努力も惜しまないという 姿勢を一貫して取ってきた。そして核査察を過去に受け入れながらなおその疑惑を払拭できていないのが北朝鮮なのである。

 米朝の戦争は何も北朝鮮側から行われるとは限らない。アメリカが望むシナリオ、それは核不拡散・大量破壊兵器の撤廃という軍縮の名の下に、戦争をすることなのである。

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