本日の御題:グローバリゼーションという名の火遊び
◆企業を愛さない株主の増加
 バブルというよりは自転車操業という名のほうが相応しいかもしれない。アメリカ経済の根幹を揺るがしかねない今回の米国市場の株価暴落は、 もはや誰にも止められないほど深刻な様相を呈している。
 そもそも、暴落はエンロン社の不正会計に端を発している。内容は利益の過大申告。一社でこのようなことが起これば他社も 類似したことをしているのは古今東西差がないようで、まさに人知には限りがあるということを雄弁に証明していると言えるだろう。
 ではなぜ利益の過大申告などしたのだろうか? 税金を少しでも多く支払いたいという愛国心がそうさせたのだろうか?
 いや、実はアメリカ経済のバブルを支え続けた「強い株主」こそが、結果として経営者を不正会計へ弄らせたのである。

 現在、グローバリゼーションの名の下に、多くの多国籍企業が事業の継続的拡大という至上命題を背負っている。拡大期に入っている市場で トップを走っている企業に、世界各地から膨大な資金が株式を通して流れ込む仕掛けが出来上がっているからだ。
 しかしこれが行き過ぎると実に恐ろしい事態を引き起こす。市場は決して永遠には拡大しない。必ず安定期に入る。しかし投機家たちは 成長率が鈍化する事を決して許さない。高い位置での安定さえも、である。
 結果的に、企業は常に成長市場を探しつづけ、成長市場はたちまち過当競争によって商品の価格下落に見舞われる。当然、市場の寿命は非常に短い。
 様々な規格が様々なところで乱立し、そして消えていく様は、「奢れる者も久しからず・・・」という一節を、古典が苦手だった私にさえ思い出させるほど 目に余るものがある。

 資金の流れが国家間をいとも簡単に、しかも瞬時に移動するシステムを作り上げたアメリカは金融面でこれまで多大な恩恵に預かってきた。
 アメリカは世界のカネを使って設備投資を行い、競合他社を蹴散らしてきたのだ。
 しかし、資金の流れの増大は巨大な投機筋を生み育て、ヒステリックで集団の心理に流されやすいという特徴を与えてしまった。投機家という株主は キャピタルゲインだけを求める節操のない人々であり、企業の継続的成長よりも目先の利益を追求する傾向にある。もちろん、企業に対する愛着もなければ、 忠誠心もない。あるのは貪欲なまでの金欲である。
 そしてそういった株主の増加は企業の目的を大きく変える事にも繋がった。経営者もまた、長期的な展望よりも市場が受け入れそうな方策を 選ぶようになったのである。

 私は初めに、「バブルというよりは自転車操業」であると言った。そう、企業は、解体するまで 永久に利益を増大させ続けなくては(しかも投資家が納得するスピードで)ならないという脅迫感に追われながら、決算書を作成することに 執心することになったのだ。株主ウケする決算書を粉飾してでも出さなければならなかったのは、 経営者のモラルの低下もさることながら経営環境の大きな変化のほうが影響していると筆者は考えている。

◆火消しが火元になる時
 さて、かつて日本がバブルに酔っていた頃、米国、欧州と株価が連鎖的に下落しても、日本で持ち直すということが度々あった。 当時日本は市場を落ち着かせる役割を果たしていたのだ。
 そして日本のバブル崩壊後、今に思えばITバブルに突き進んでいた米国がその役割を負うことになった。米国はコンピュータ分野のソフト・ハードで 絶対的地位を確立し、さらに自信を持った米国は会計などでも世界を牽引する役割を果たした。経済が強かった米国は自国の商品を世界中に 広げるため、80年代後半の日本の鉄鋼・自動車業界に対する不当なダンピング認定の過去も忘れ、グローバリゼーションの名の下に他国に自己流を 押し付け、互換性と特許という武器を持って席巻した。

 しかし、バブルへの警戒感があったこの時期に発覚した不正会計処理は米国への信頼を揺るがすのには十分であり、90年代から去年まで火消し役だった 米国が、突然火元になってしまった。現在は特別投資材料のない欧州や日本はそれに引きずられる形でズルズル株価を下げている有様だ。 東南アジアは経済基盤が弱く、中国も生産拠点や消費地域としては魅力があるものの、技術面でのリーダーシップを取れるまでには至っていない。
 かくして株価下落は地球を何度も回るはめになったわけだ。
 消防署が突然放火魔になったような今回の米国の豹変ぶりに、ムーディーズその他の格付け会社はどのような結論を出すのか、大いに見ものである。

戻る