本日の御題:大使館とはなんだ?
◆汚名を残した副領事の対応
 日本政府が外交下手である事は周知の事実ではあるが、今回の北朝鮮家族による中国における日本大使館への亡命事件は、その理由を 白日の下に晒すには十分であった。
 大使館の敷地内は治外法権が認められていることは中学校でも習う事であるが、大使館員の傲慢さと危機意識のなさは、 そんな常識さえ遠い記憶の出来事にしてしまうのかもしれない。

 子供を含む5名の北朝鮮の亡命者が大使館の門の中に入ったとき、中国人の衛兵は門の中に入り、そして女性二人を表へと引き釣り出した。 そしてその傍らには、衛兵の落とした帽子を拾い、ただただ傍観する副領事の姿がある。メディアには公開されていないが、その後まもなく、 ビザ発給の待合室まで入った亡命しようとした二人の男性も、中国の衛兵によって外へ引きずり出される事にある。
 これは由々しき事態だ。亡命者を何のためらいもなく見捨てる副領事の姿を目の当たりにすれば、たとえ日本がどんな高尚な不戦論理を展開したとしても、 外国の国民が日本国の良識を疑うことに私は何の疑念も感じない。むしろ当然であろうと思う。日本政府が語る「人権」も「民主主義」も所詮 この程度なのだと失望しはしないだろうか?

 中国の衛兵による大使館敷地内への立ち入りに関しては、それを許した覚えはないという日本政府と、許された、感謝されたとする中国政府の間で 大きな見解の相違がある。
 小泉総理や福田官房長官はテレビで、「外国の政府を信じて自国の政府を信じないのか?」などと言ってはいるが、どう考えても今回の事件では 日本の見解に信憑性が欠ける。

 理由は明白だ。門付近での治外法権の侵犯だけならば、日本政府の見解もそれほど不自然ではない。しかし、ビザ発給の待合室にまで中国の衛兵が 入り、そして亡命者を連行するというのは、大使館員の了承がなければ早々できることではないからだ。
 今回の事件は偶発的に起こったものだ。少なくとも中国政府はこのような事態を予想していなかっただろう。ということは、中国政府から衛兵に対して 「領事館の敷地に入っても構わない」という指示が影で出されていたとは考えられない。ということは、今回の衛兵の行動は特に彼らの上層部から の指示でなかったことになる。
 さて問題は、一介の衛兵に過ぎない彼らが、副領事という海外の政府代表の指示を無視して治外法権を犯すことができるだろうか? という点である。
 できるはずがない。彼らがあそこまで大胆に動けたのは上部からの指示があったためであり、それが中国政府でなかったならば(偶発的に起こったならば 中国政府は現地の護衛に指示を出す事などできなかったはず)、日本の領事館員でなければならないからだ。
 女性の亡命者が大使館の敷地から引きずり出されるシーンがあった。それをどうする事もできずに泣きながら傍観する彼女達の子供と思しき女の子がカメラには 映っていた。そして、その傍らでただただ佇む副領事の姿。なんということはない、彼がした対応は、何も判断できない5歳の子供と同レベルという事だ。

◆NGOが撮影していなかったら...
 さて、今回は向かいのビルからNGOが撮影をしていたから事が明るみに出たが、もし証拠のVTRがなかったならば事態はより暗転していただろう。 日本大使館は亡命者の存在すら認めず、仮に何らかの疑惑として取り上げられても「不審者が侵入して来たため対応した」という言い訳をするはずだ。
 尤も、このような言い訳がまかり通るわけはない。不審者が侵入して来たならばなぜ初めからそう発表しなかったのか、という疑問にぶち当たるからだ。
 しかし、外務省の官僚達の幼稚な頭脳は、そんな誰にでも分かる嘘でさえ平然と口にできる代物なのだろう。というのも、海外の第一線で国家を代表して 働いている彼らが、亡命者から手渡された手紙が、「英文であったため理解できなかった」などという言い訳をするのだから。正気の沙汰ではない。
 仮に本当に読めなかったとしても、それは理由にはならない。読める人間に手渡すべきだったのだ。

 いずれにしてもNGOによるビデオ撮影によって、北朝鮮の亡命者は少なくとも生命の当面の危険からは回避されそうだ。
 それが唯一の救いである。

◆川口外相の責任問題
 最後に、川口外相の責任問題を問う声が与野党から上がっているが、非なき者を裁くは有能な人材を見す見す失うようなものである。
 残念ながら川口外相の能力については私の知るところではない。しかし少なくとも今回の中国に対する対応は、限られた情報の中で外相という立場で あれば十分理解できるものである。そもそも現中国大使を選んだのは彼女ではなく、ましてや領事及び副領事が規則に反して勝手な行動を取ったのだから、 彼女を責めるのはお門違いも甚だしい。
 事件当時、たまたま外相をやっていたばかりに有能な人材を罷免してはならない。「運が悪かった」という言葉で、国の将来を謀ってはならない。
 浅はかな権力闘争で大臣の首を据え返るような事をすれば、ますます官僚の力は強くなるし、それは同時に政治家の官僚への依存を高め、さらなる 癒着の温床になるだろう。

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