本日の御題:独善的な世作り〜あるソフトウェア会社の話
◆ついに発売される最先端のオペレーショシステム
 あるソフトウェア会社によれば、2001年は歴史的な年になるという。それはテロやアフガン戦争、もちろん日本で発生した狂牛病、17歳の 凶悪犯罪を指すものではない。コンピュータ、しいては人のライフスタイルを大きく変えるソフトウェアの販売がいよいよ始まるためだ。
 この新しいソフトウェアはオペレーショシステム(以後OS)と呼ばれ、人々が通常Workをこなすアプリケーションソフトの土台をなすものだ。 アプリケーションソフトはOSの機能にアクセスし、その機能を借りることで初めて正常な動作が可能になるのだ。

 さてこの新しいOSには、「体験」を意味する添え字が付加されている。平たく言えば、「ブロードバンド時代のPC体験」といったところだろうか。 ADSL等に正式対応したほか、最近普及し始めているDVD−RAMにも初めて正式対応している。エラーが発生すれば、その情報を自動的に(一応 ユーザーの承認は取っている。だが何も知らないユーザーがうっかりエンターキーを押すと「承認」したことになるというのは、なんともあるソフト ウェア会社らしい振る舞いだ)あるソフトウェア会社に送信する機能もついている。バグが発見されればサービスパックの中にその修正パッチが 含まれる仕組みだ。
 ただしこの機能を悪用したソフトウェアもすでに完成している。ユーザーまた一つ、個人情報を漏洩する危険を手にしたわけだ。

 さらに同OSはユーザーがどこにいても自宅と同じ環境で仕事ができる環境へ誘う「PassPort」機能も備えている。そこには全世界のユーザーの 個人情報を一手に集めたデータベースが日夜稼動し、我々がどこにいるかを正確に知ることができる機能を有している。
 セキュリティへの認識が甘い彼らの手に巨大なデータベースが構築されれば、次に起こることは十分予測できる。
 なお、詳細はあるソフトウェア会社のホームページを見てほしい。私はこれ以上、ここであるソフトウェア会社の宣伝広告をするつもりはない。

◆98とMeと2000
 新しいOS「体験」は、ある巨大なソフトウェア会社(そろそろこの言い回しは面倒になってきたので、略してMS社と呼ぼう)によればその安定性が 非常に高いといわれている。
 『「複数の窓バージョン98や同Me」を使っている人ならば「体験」に乗り換えるメリットはある』とMS社の幹部から 末端の営業マンまでが口をそろえて言う。
 なんでも、「複数の窓バージョン98や同Me」は設計上、システムリソースとメモリ保護が不徹底であるために アプリケーションがとまるとOSもフリーズしてしまうことが問題」だったらしい。
(MS社は体験をリリースすることになったごくごく最近、 このことに初めて気付いたのだろうか? この事実を語る彼らは雄弁な弁護士のように饒舌だ)。
 これが去年最新のテクノロジーとしてMeをだいざい的に世に出したメーカーの発言である。

 確かにMeが発売されたとき、「体験」と同等な安定性をもったOSが存在しなかったならば、そうも言えるだろう。しかし当時すでに「体験」と 同等の安定性を持ったOS「2000」を発売しておきながら、派手な宣伝を打ち出すことで安定性が低いという事実を意図的に隠し 「コンシュマー向けにはMeが最適」と謳った罪は大きいといえるだろう。
 MS社のこの宣伝の甲斐もあって、Meを購入したユーザーは「体験」へのバージョンアップという有難くないメリットを 受けることになったのだ。

 参考までにバージョンを小出しにして売上を稼ごうというMS社の体質を如実にあらわした例をもう一つあげておこう。
 MS社のOSファミリーにはもう一つ、モバイルPCやPDAと呼ばれる商品への搭載を前提として作られた「CE」というシリーズがある。 この初めのバージョンが発売されたのは英語版が1996年、日本語版が1997年のことであった。当時、MS社は「複数の窓95」を出した後ということ もあり、技術的にもグラフィカルなOSの作成に熟練していたはずだが、なんと発売されたCEバージョン1はモノクロのみ対応であった。
 手のひらサイズのPDAにしか載らないのならば当時としてはそれでも問題ではなかったろうが、モバイルPCに載せるにはあまりに貧弱なスペックである。
 その後まもなく、満を持してカラー版が出たことはいうまでもない。

◆ライバルへの誹謗中傷
 一方、MS社はライバル会社に対しての誹謗中傷も忘れない。
 私が最も最近と認識しているトピックは2001年10月1日にネットワーク・ソフトウェア・メーカーの米ノベル社(本社ユタ州プローボ)が、 MS社を提訴した件だろう。MS社の広告がノベル社とその製品の信用を不当に傷つけているというのが訴えの理由である。
 MS社がノベル社の顧客に送付した宣伝パッケージ(中にはMS社製品をノベル社製品に組み込むソフトウェアが入っている) には米国で著名な食品を擬えて次のようなことが書かれている。

「ネットウェア・プラットフォームの賞味期限切れはいつ?」

 これは明らかにノベル社の顧客に不安をもたらそうとしたものだ。

 一方、ライセンスフリーを謳うLinux(リナックスと読む)にも攻撃の手を緩めない。「ソフトウェアの無料配布はソフトウェア界の生態系を壊す」 というのがMS社の言い分だが、他社の販売しているソフトウェア製品を同社のOSにバンドルして無償で販売することがこれに当たらないのか甚だ 疑問である。
 また、Linuxが企業に導入されることを恐れるMS社は、「Linux搭載製品は確かに購入時のコストは低いが、メンテナンス等まで考慮すれば トータルでは高価になる」と発言している。もちろん、Linux陣営も、Linux製品を導入してコストダウンを実現したアマゾンコムもMS社の発言を否定している。
 真実は私にも分からない。しかし、上記青文字の発言をしているのがMS社だけであることを考慮すれば、どちらの意見が正しいのか、事情に精通していなくても想像することは難しくない。

 さらにMS社はブラウザでも他社製品を締め出すために最近、同社のウェアサイトをリニューアルした。MS社以外のブラウザ(ネットスケープの最新版を除く)で見に行くと、 「あなたがご使用のブラウザでは正しく表示できないことがあります」の表示の後に、同社のブラウザのダウンロードサイトへユーザーを誘う 新しいサービスを始めた。
 なんとも露骨な勧誘である。

 ブラウザは自分の名前やバージョンを情報としてもっている。そしてウェブサーバ側ではその情報を自由に取り出すことができる。
 ある北欧のブラウザメーカーのところにユーザーからMS社のサイトに行った所開けなかったという苦情の連絡が入った。
 そこでその会社が自社のブラウザの機能をそのままにその名前の一文字だけを変えたところ(たとえば正式名称がmiyukiだったとする。 それをmiyukoにしたとしよう)、何の問題もなくMS社のサイトを閲覧できたという。

 ユーザーを不安がらせるメッセージを出すというこのやり方は実は今回が初めてではない。例えばMS社の承認を受けていないドライバをインストールしようとすると 表示される「このままインストールを続けた場合、コンピュータが正しく動作しなくなる恐れがあります」的なメッセージが画面に出るのも 同社の体質を知る大きな一例である。

 MS社が推し進めているもの。それはすべてのユーザーが同社の製品を使い、すべての情報が同社のサーバ、サービスに繋がることである。
 その目的達成のためならば、MS社は今後も自分の意にそぐわないライバル会社を互換性という武器で排除し、 自分の地位を脅かそうとする勢力にはOSへの無償バンドルという暴挙に出るだろう。

 コンピュータ業界は過当競争もあって確実に儲からない業界へと変貌を遂げている。すでにメモリやHDDメーカーの撤退や合併が始まっている。 最後に残る会社がどこであるのか。もしかしたらその結果は我々の将来を大きく変えることになるかもしれない。

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