本日の御題:狡狐(こうと)が正論を語るとき
◆まずは外堀を埋める
 しばらくコラムを書かないうちに、日本の国会はだいぶ様変わりしてしまったようだ。 人気絶頂だった小泉人気はやや下降局面に入り、狡猾で謀略好きな野中陣営は 小泉内閣を正論で追い詰めようとしている。

 誰にも分かっていたことではあるが、選挙後の自民党内の雰囲気は確実に変わろうとしている。
 「当確」直後、それを自分の実力と勘違いし、小泉改革に真っ向から反対するコメントを残した 元郵政官僚の姿は目に余るものがあった。一部のファンを除いた大方の有権者の意思を無視し、 改革への期待票を自分への信任とはきちがえた愚か者が跋扈する国会で次に何が起こるかは大 よそ見当がつくだろう。
 野中を中心とした反小泉派(旧主流派、いや国会議員の数では今でも主流派である)は、 小泉内閣を少しずつ揺るがそうと躍起になっている。

 まず手始めに狙うのは田中外相だ。前橋市での選挙妨害としか思えない選挙応援が槍玉にあがっているが それは口実に過ぎない。自民党政権を維持しつつ、橋本派への政権交代を狙う人々にとって 田中外相こそ反小泉の錦の旗なのである。
 周知のとおり、小泉内閣の高い支持率に田中外相は大きく買っている。もしこれを潰すことが できたなら、小泉内閣の支持率は20%は下がるだろう。党内の少数派である森派出身の同氏にとって、 支持率の低下は直接指導力の低下に結びつく。
 舵取りがより操縦しやすい舵を求めるものだ。野中の戦略も当然である。

◆田中外相への疑問と不満
 もっとも田中外相は森元首相以上に言葉遣いに気を払わない人だ。外野からの野次(やじ)であれば 受け入れられた彼女の歯に衣を着せない言葉も、外相という「内野」に入ってから飛び出せば 問題発言に他ならないことに彼女はまだ気付いていない。
 そう考えると彼女への高い支持もそう長くは続かないだろう。国民は外務省と戦う彼女を応援しつつも、 あまりの非常識な「おだぶつ発言」から始まる奇行に、心の奥底では外相の政治家としての資質に疑問を 抱き始めている。こういった目に見えない部分はすぐには表れない。しかし何かのきっかけで、 疑問が不満一色へと塗り替えられることは、集団の心理では決して珍しいことではないのだ。

◆夫婦円満か?
 一方、人気を二分する小泉総理の対応も徐々に変化を始めている。組閣当時の政界の夫婦気取りは姿を消し、 今回の田中外相の選挙妨害に対する処分についても自らが手を下さないことによって批判をかわしつつ、 心中では辞任を期待している。でなければ、窮地に立たされている外相を自民党の党紀委員会に 渡したりはしない。既に二人三脚の時期は終焉を迎えているのである。
 気付いている方もいるだろうが、最近の二人は非常に離れて立つことが多くなった。

 そしてそれこそ、小泉総理を反主流派へ陥れる野中陣営の策略である。
 追っかけができるほど人気の高い小泉氏であるが、靖国神社や教科諸問題への対応などでは外交問題を 引き起こしている。これは野中陣営にとっては非常に都合のいいことで、親米派の首相に新中派の田中外相が クレームをつける度、総理の意思に従わないことを批判しつつ、同時にアジア関係諸国と摩擦を生み出した 小泉総理を批判する材料になっている。
 今回の北方領土近辺での韓国船の操業なども関係悪化がその底辺にあることは間違いない。
 なんとも見えすぎたことではあるが、連立与党である公明・保守も慎重な対応を望んでいる以上、 もし小泉氏が参拝し連立政権にひびが入れば、さらに強い追及が可能になるだろう。
 残念なことに、その時には小泉内閣の母であり政界の妻であった田中外相の姿は閣僚にはない。

◆外交スタンスが決定的亀裂の原因
 すでにお気づきの方も多いだろうが、小泉氏が田中氏を外相に選んだのは「間違いなく間違い」である。 なぜならば小泉首相は親米派であり、田中外相は親中派なのだから。彼らの外交スタンスは決定的に 地軸がずれているのだから。
 もしこれが狙ったものならば相当バランスの取れた人事であるといえる。つまりアメリカに対しては 小泉首相が親米派を全面に出し圧力をかわすと共に、中国に対しては田中外相を送り込んで懐柔を図る。 交渉をする場合、どの国でも自分に近い人間(自分たちの意見を日本の国会で代弁してくれる政治家) には無理難題は言わないものである。それによってその親しい政治家が窮地に立たされれば国益に 反するからだ。
 しかし、靖国神社参拝では「熟慮」を繰り返す小泉首相も、組閣人事ではそれほど深く考えなかったのかもしれない。 彼らは結局のところ、「国民の人気」というただ一点で結びついただけの仮初めの夫婦だったのである。

◆追記:靖国参拝は必ず行くだろう
 最後に、「熟慮」という言葉を頻繁に使う小泉総理が、はたして靖国神社に参拝に行くかどうかであるか、 ここで占いたい。単刀直入に言って、「必ず行く」。今迷っている 振りをしているのも、昨夜幹事長クラスと会談したのも(この時も意見を聞いただけで自分の意見は殆ど言わなかったとか)、 単なる引き伸ばし作戦に過ぎない。彼の腹の中はとうの昔に決まっているのだ。
 ではなぜ「参拝する」と明言しないのだろうか? それは単に8/15まで日にちがあり、早々に断言してしまうと 8/15までの数日間、話題がすべてそちらに取られてしまうからだ。取材合戦もさることながら、外圧も数日間 受け続けなければならない。
 だから彼はあえて明言は避け「ただ今考え中です」というとてもありふれた言葉を使っているに過ぎない。
 今でも参拝の有無を熟慮しているなんて本気で考えているとしたら、日本のマスコミは相当平和ボケしている といえるだろう。

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