本日の御題:Microsoftに騙されてはいけない
◆意義の薄いバージョンアップ
 巷ではOfficeXPのキャンペーンが始まった。OfficeXPとは6/8に発売されるMS Officeの最新バージョンである。
 さて、今回のバージョンからWindowsとOfficeでは新しいライセンス契約が誕生した。使用ライセンスのレンタルである。
 これまでソフトウェアは買取が基本であった。顧客は一度購入してしまえばその所有権を半永久的に所有する。
 しかしマイクロソフトにとっては困ったことが起こった。新しいバージョンをリリースするたびにバージョンアップする ユーザーの割合が確実に低下していることだ。ソフトウェアはハードウェアと違って時間の経過と共に故障するわけではないため、 老朽化による買い替え需要は期待できないのである。
 それでもソフトウェアの完成度が低いうちは新しいバージョンを出すことで顧客の購買意欲を掻き立てることができた。 しかしバージョンアップを重ねるにしたがってWindowsにしろOfficeにしろユーザーは不満は残るものの使用に耐えうる レベルにまで機能が追加され、もはや最新のバージョンでなくても業務の殆どをカバーできるようになった。
 実際、Windows95OSRからWindows98、Windows98SEに至るまでで何がどう変わったのか明確に言える人は少ない。 Office95からOffice2000に至るまでも同様だ。 Windowsのバージョンアップの内容を乱暴に説明すれば、サポートされる周辺機器が追加されたぐらいの違いだろうか。 確かにWindows95ではUSBやDVD、IEEEをサポートされていない。
 もちろん、OS発売以降に出された製品のドライバも組み込まれていない。当然である。
 Officeに至ってはさらに悲観的な言葉を吐かねばならないだろう。Word98はWord97のバグフィックス程度の価値しかないし、 Word2000とWord98の違いを思い浮かべるのは多くのユーザーにとって至難の業である。
 かろうじてEXCELやACCESSなどVBAを多用するソフトはVBAのバージョンの違いによる差異を指摘できる程度だ。

 そこでマイクロソフトが考え出した新しい仕組みが、ソフトウェアのレンタルである。

◆ソフトウェアのレンタルは何を意味するか?
 マイクロソフトはOffice、Windows共に古いバージョンが未だ現役として使われていることに危機感を抱いている。 日本では比較的買い替えも起こっているが、欧米ではOffice95の使用率は企業ベースで20〜30%と試算されており、 ソフト界の巨人も座視できない状況にあるのだ。
 そこでマイクロソフトは大口顧客に目をつけた。大口顧客は数千台のPCを保有・管理しているが、使われるOSや アプリケーションのバージョンがまちまちだと管理者の負荷は大きくなる。
 そこでこれまで買取だったWindowsやOfficeをレンタルとし、新しいバージョンがリリースされるたびにまとめて移行 させることができれば、システム管理者の労力は多分に軽減されるというのがマイクロソフトの見解だ。
 その一方で、マイクロソフトは飴と鞭の使い方もよく知っている。ソフトウェアをバージョンアップする際は、フルパッケージを 購入するよりも安く購入価格を設定される。そして1年おきにバージョンあったした場合はこれまでよりも低コストで 製品を購入できる一方、優良ではない顧客、つまり3〜4年に一回しかバージョンアップしない顧客に対しては これまでよりもコストがかかるように価格を設定する模様だ。アナリストの計算によれば、4年後にバージョンアップをしようものならば、 アップグレード版ではなく量販店でフルパッケージ版を購入したほうが安上がりになる。

 また、特に企業にとって重要なのは、レンタルの打ち切りである。古いバージョンのOfficeやWindowsのサービスをマイクロソフトが 突如停止すると伝えてきたらどうだろう? 悪夢としか言いようがない。顧客は自分の意志とは無関係にマイクロソフトに言われるがまま バージョンアップをせざるを得なくなる。でなければすべてのPCがただの箱と化し、そして過去のすべてのデータが何の意味ももたなく なるからだ。

 さらに問題が深いのは、ハードウェアとの絡みだ。たとえばWindows XPについて考えてみよう。 Windows98の搭載されているPCの多くはデスクトップならPentium400MHz〜程度だろう。 メモリーは32MBから64MBへと標準が移行した時期である。
 このハードウェアに載っているOSをレンタル期間が切れたからといって、果たしてWindows XPがストレスなく動くだろうか?
 しかもシステム管理者はBIOSや周辺機器、後に記すOffice製品以外のソフトウェアの対応状況などを調査する必要に迫られる。 マイクロソフトの見解とは裏腹に、システム管理者の頭痛の種は確実に毎年起こることになるわけだ。
 驚くべきことにハードウェアのコストまで含めたコスト計算をしているアナリストは少ない。

◆総合的なコストは確実にアップする
 しかもハードウェアにまで話を掘り下げた場合、OSの問題は予想以上に困難を極める。
 中堅以上の企業であれば、どこでも業務支援ソフトと呼ばれる販売支援・顧客管理ソフトを使っていることだろう。 そしてそれらはパッケージとして販売されているものの、各社の販売形態にあわせてカスタマイズされていることが 少なくない。
 しかしここで問題にぶち当たる。これらのソフトは通常クライアントPCだけでなくサーバにインストールされる形態をとるが、 これらのプログラムはOSに依存するコードを持っていることが多いため、OSが変わると動作しなくなることが多々起こる。
 するとOSをバージョンアップするたびに、ソフトウェアにも手を加える必要に迫られるが、もともとカスタマイズとは オーダーメイドなのだから、手を加えるにも膨大な費用が発生する。数百万から数千万、規模によっては億の単位に行くことさえ 決して珍しくない。
 マイクロソフトの都合で新しいバージョンのOSが発売されることは構わないが、半ば強制的に移行させられることで発生する これらの費用を快く払う企業はよほど業績がいいか、でなければ無知であるとしか言いようがない。

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