2000年衆院選挙大予測 に対する投稿
地域経済分科会さんの感想
 総選挙までいよいよ2週間を切りました。「神の国解散」などといわれています。
 有権者からは政策論争が無い、などの不満が出ています。

 しかし、そもそも小渕内閣自体が将来へのビジョンを欠いた内閣でした。目先の景気にはなんとか目処がついたものの 長期的には行き詰まることが明白でした。財政や社会保証に関しては野党の政策議論に対して有効な反論ができなかったことも 明らかです。心労が祟ってか、小渕さんは志半ばで亡くなりましたが、これが結果として政策論争から外れたリングでの戦いを 引き起こしました。

 それに争点がないと言うのも実はマスコミの報道不足であり、有権者の勉強不足でもあると愚考致します。
 争点は厳然としてあります。一見みな、社会保障や教育、経済の改革を訴えていて相違はないようにみえますが、 実はどの階層の利益を代表する文脈でそれを主張しているか、与野党間で、また与党の自民、公明の間でも大きく異なっています。
 自民党は、乱暴に言えば、農村部(の有力者)及び、高級官僚、銀行、ゼネコンの利益を代表する文脈で、改革を主張しています。  森総理が教育勅語などを持ち出したり、「神の国」発言をしたのは、国民がごしゃごしゃいわずに高級官僚や 有力者の言う事を聞いてくれるような社会が都合がよいと考えている面があるからだと推測致します。
 最近の住民投票などの草の根民主主義への反発のようなものもあると思います。いわば、「愚民観」が今でも根強く存在します。

 もう一つは、経済的閉塞や社会矛盾から目を逸らせるため国家とか、家族とかいう価値を為政者は持ち出す傾向があります。
 例えばかつて新保守主義者は経済効率を追求し、市場経済化を進め、競争を激化させた。 労働者の人権も切り下げられた。が、市場経済が浸透したため家族や地域社会が崩壊し社会の荒廃などさまざまな矛盾が現れたのです。
 そこで彼らは「家族の価値」を持ち出したのですが、そもそも市場経済化は家族を解体させる機能がありますから、無理です。

 いまの日本でも市場経済化が進み、(すなわちなんでも金がものを言う割合が社会生活で比重を大きくする)、父親も残業で会社に 残ってこどもとの対話などできませんから、暴走族が増えたり、モラルが低下する弊害が出る。
 経済のあり方をいじらずに、教育勅語や神を持ち出す事で、誤魔化そうと言うのが自民党のやり方です。
 残業規制も消極的、環境保護も口先ではいうでしょうが、根本的に例えば道路特定財源を廃止し、燃料税は環境税組み替える、といったことは できないでしょう。民主党や共産党ならできるでしょうが。

 ただ、かつての自民党支持層は、高級官僚やゼネコン、銀行にくわえ、サラリーマンや 中小企業経営者もけっこう多かったので、単独政権でよかったのですが、現在はサラリーマンは社会保障改革(改悪?)で生活を直撃され、 中小企業も、いわば、97年以降の橋本内閣の金融ビッグバンや規制緩和の中で貸渋りや 大企業の攻勢にあって(大店法がよい例)、自民党支持をやめつつあります。
 むろん、マクロ的に見れば経済成長率が低い今、ある階層を満足させようとすると 他の階層を切り捨てざるをえないということを示していますが。

 98年参議院選挙ではこのために東京、埼玉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫で 議席を失い、民主党や日本共産党に対して惨敗しました。たとえば兵庫では 自民党53万票に対して民主93万、共産58万と、大阪では、民主、共産、公明に おくれを取り「第4党」に転落しました。
 そこで仕方が無いので公明党と組んでかろうじて首がつながっているのです。 しかしそうすると、保守層の反発を買うので、「神の国」発言でリップサービスしようとする。
 あの発言は「複合的失言」とわたしは見ています。森総理の政策能力の無さ の象徴であり、また、自民党が本音では目指す(しかし、今のところ 国民の反発が怖くて出来ない)「従順な国民」「銀行・ゼネコン、農協、高級官僚には都合の良い 政治・経済システム」の確立を目指す事と軌道を一にしており、決して「言葉尻」ではないと思います。

 一方、野党は民主党にせよ、日本共産党にせよ、社民党にせよ、上記のような自民党政治を転換する事、 すなわち安心できる社会保障システムの確立、公共事業依存体質の転換などを以前から主張してきておりそれは変わりません。
 また字面は違いますが、官から民へ、ないし中央から地方へ、行政から市民へ、 という点は共通しています。(自由党がやや国家権力重視でこの点はむしろ自民党より「右」)

 公明党も、公約を見れば野党とかわりはないですが、自民党と組んでいて構図を非常にややこしくしています。 社会保障システム改革でも、社会保険庁の改組、職域から地域への社会保障システムの移行など(おそらく、年金の官民格差、 サラリーマンと自営業の不均衡の是正などを狙っての事と思う)、私でも賛成できることが多いのですが、 どうも、それが自民党と組んでいるのがおかしい。有権者が、不満を感じる責任の一端は 公明党にあります。本人たちは政策を実現するためやむをえないといってますが、 村山社会党の二の舞にならなければ良いが、と愚考致します。
 支持者の一部が競合する共産党などにながれる可能性が大きいと思います。

 ただ、問題は野党に「実績が無い」こと。とくに地域経済をいかに 活性化するかと言う具体案が民主党に無い事です。もしあれば、地方自治体の 首長選挙でとっくに独自候補をだして戦っていますが、いまのところそれが出来ていない。
 自民党の尻馬に乗っているだけというのが現状で、共産党だけが対抗馬を出している。
 結局、自民vs民主の対決であるべきものが自民vs共産の対決にしてしまって 「保守層」からはだらしがないと思われ、「革新層」からは信用できないと 思われ、大損をしています。

 結局、政策的な足腰の弱さを露呈しています。「21世紀に飯を食わせてくれる」という 信頼感」がない。まだ自民党の若手のほうが脈があるかなと思ってしまうでしょう。

 せっかく自民党からこころが離れかけている地方の中小企業の人を 結局自民支持にとどまらせたり、一部を共産支持に回らせたりして しまうのがいまの民主党ではないかと思います。

 自民党は票は減らすでしょうが、民主党が伸びないと結果として投票率が下がります。
 すると、中小企業など保守層の一部も取り込んだ共産党が善戦し、公明党も敗北を最小限に押えるでしょう。 自民は大敗しても、公明と併せれば政権を維持する可能性も大いに残っています。

管理人より
 選挙を間近に控えたこの時期に、様々な考察をありがとうございました。

 自民党が利権集団であることは否定できない事実で、それは"地盤"と呼ばれる地域を見れば明らかですね。
 多くは米どころや以前は新幹線が通っていなかった過疎地です。自民党幹部も地方出身者が多い。
 理由は明確です。都市部出身者は地元に持って返る利権がないからです。払っている税金のほうが、得られる行政サービスよりも 大きい都市部では、彼らは逆に弱い。
 それでも経済成長が続いていた頃は「社会主義への嫌悪・恐怖」と「目に見える生活レベルの向上」が自民党支持者を作り出していましたが、 もはやその構図はどちらも崩壊してしまいました。
 よってそれまでなんとなく自民党を支持していた層が無党派層という流動的な層に流れていったわけです。

 もちろん、初めから無党派層に流れてのではなく、初めは有力な野党に対する期待から始まりました。
 もう10年以上前になりますが、社会党、民社党、公明党、連合など野党各党が連合し、社会党が大躍進したことがありました。
 いわゆるマドンナ旋風です。土井氏の存在が際立っていた選挙です。しかし過半数に至らず政権は取れなかった。
 社会党はといえば、議席が増えただけで言ってることやってることは、選挙前となんら変わりませんでした。
 ここで一度国民は失望しますが、しかしまだ諦めたわけではなかった。
 日本新党の細川氏とさきがけの武村氏が起こした旋風は、遂に自民党を野党に落とすことに成功します。
 国民は皆、この政権を期待をこめて見ていたのでは。

 しかし結果は最悪でした。短命であったことはいうに及ばず、スキャンダルが表ざたになったときの「私だけがクリーンだとは言わない」 という細川氏の弁明にどれほど多くの人が失望したか。選挙中から「そんな先のことはまだ分からない」とファジーな態度をとりつづけていた 男は、最後まで明確な政策を発表することなく、国民に失望だけを残して政界から消えていったわけです。

 それでも国民はまだ期待することをやめなかった。それが1998年の参院選挙です。参議院であることが悔やまれますが、過半数を超えること ができた。国民の熱い期待がそうさせたわけです。
 しかし民主党中心の野党連合は僅か数ヶ月で崩壊し、自由党・公明党の離脱と菅氏のスキャンダルで国民の期待は見事に踏みにじられました。

   自民党の悪政は明確であるにもかかわらず、ここに及んでついに国民も野党に期待しなくなってしまった。
 もはや日本の政治は変わらない、と。口から出る不満も、訴えではなく愚痴になりつつある。
 二大政党制の議論が一時期されていましたが、最大政党である自民党ですら世論調査では20%の支持率です。これではとても政権交代可能な 2つの政党が育つはずがない。

 私は今月行われる衆議院選挙の結果を危惧しています。一部では民主党有利という話も出ていますし、議席は解散前に比べて伸びるでしょう。 しかし、社会党が躍進したマドンナ選挙のときを思い起こして欲しい。"躍進"では政治は変わらない。むしろ国民の失望を買うだけ。
 今回は"勝たねばならない選挙(議席を伸ばすのではなく過半数を獲るという意味)"にしては、民主党内の危機感は薄い気がします。
 延々と繰り返される普通の選挙とは違うのです。
 今の民主党のスタンスは死に物狂いでがむしゃらに訴えるというより、クールで理知的です。
 それでは政治に無関心な人々の共鳴をどこまで得られるか、私は不安でなりません。

 それでは次の更新は選挙結果が出てからということにしましょう。
 今回はご投稿、うりがとうございました。

戻る