本日の御題:失速するアメリカ経済
 1〜2ヶ月前に来年はアメリカ経済崩壊の年になる、と掲示板で書き、その理由をコラムに掲載するといいながら ほったらかしにしていたら、アメリカの株価が下落し始めてしまった・・・。
 ということで、遅まきながら今回はアメリカ経済の今後について記したい。

◆アメリカの株価はすでに限界
 アメリカの株価が下がっている。ダウ平均、ナスダック共に続落である。これは一時的なものだろうか?
 筆者はダウに関しては10000ドルを割ることがあっても、ズルズルと値を下げていくことはないと考えている。
 しかしナスダックについては、今後更に10〜20%の幅で下落すると予測している。

 理由のひとつは、どのエコノミストも口を開けば言う「高過ぎる株価」の調整局面に入っていることだ。
 普通、株主は企業に対して2つの期待をする。ひとつは配当金、もうひとつは株価の高騰によるキャピタルゲイン の確保である。そして前者を求められるのはいわゆる成熟した企業であり、後者は成長著しい新鋭企業である。
 実際、一般に日本より株主に対する配当が多いといわれる米国でさえ、ナスダックには配当を出さない (これを無配という)企業が少なくない。それでも株価が高騰しつづける限り、株主からはなんら文句は出ないのだ。

 しかしすでにナスダックに上場している企業は二極化が始まっている。
 ITの名の下に名実実績をあげた優良企業と、ITの看板と将来性だけで生き残ってきた赤字企業である。
 すでに「ドット・コム」の名がついた企業の倒産が新聞を賑やかし始めている米国では、日本より一足先に名前だけの IT企業は淘汰されるだろう。当然、これらのハイリスク企業に投資家をひきつけ続けるには高配当が必要だが、 彼らにその余力はすでに残っていない。
 まして米国は只今、高金利政策の真っ最中なのだ。ハイリスクな株式がローリスク な銀行預金よりも魅力があるためには、絶えず株価が上がり続けなくてはならないが、それは80年代後半の日本を見れば分かる ように不可能なのだ。
 実際、今回の米株式市場の下落は、FOMC(米連邦公開市場委員会)が利下げをしなかったことに起因している。
 ナスダックの成長が鈍化しはじめた今日、投資家たちはキャピタルゲインと預金金利を天秤にかけており、今回 利下げが実施されなかったことで預金金利に資金が流れたわけである。

◆ストックオプションと貯蓄率
 アメリカではストックオプション制度を導入している企業が多い。この制度は従業員に自社株式を一定の価格で買い取る権利を 与えるものだが、このストックオプションの権利を取得していながらさらなる株価上昇を期待して権利を行使しなかった 人が実は結構多いのだ。株価下落に伴い、含み益があるうちに権利を行使しようと殺到すると、企業にとっては大変な負担に なる。
 また、アメリカの貯蓄率はすでにマイナスであり、これも株価が上昇局面を終えた場合、一斉に売られる危険をはらんでいる。  これは同時に日本以上に消費が冷え込ませてしまう潜在的危険を帯びているのだ。
 預金がなく紙切れ同然の株券と借金だけが残ったら、消費を控えるのは当然である。
 しかも株で大損をした庶民はその反動で低リスクの銀行預金へ資金を移し変えるだろう。
 すると一度下がったアメリカの株価は早々には上昇気流に乗らなくなるわけだ。

 アメリカはここ数年、右肩上がりのバブルに酔いしれてきた。しかしナスダックの株価がピーク時の半値まで 下落していることからも分かるように、今後は成長の歯車が逆周りにならないとも限らない。

◆アメリカ好景気のけん引役、PCの時代は本当に終わる
 いつか必ず来ると予測されながらなかなか到来しなかったことがある。それがPCの時代の終焉である。
 これまで何度となく囁かれてきたが、その度に市場に否定されてきた。マイクロソフトは高収益を出しつづけ、 インテルに代表されるPC関係のメーカーも、寡占状態で繁栄を極めてきた。

 しかし時代は確実に変わりつつある。
 まずPCが家庭に必須のアイテムとは遂にはならなかったことだ。「PCを使って家計簿を・・・」などと言われて 購入した奥様方のその後を私は知っている。多くの初心者ユーザーはインターネットに繋がる環境さえあれば、 ワープロソフトも表計算ソフトもいらないのである(自宅で仕事をする人は別)。
 しかしインターネットをパソコンが独占していた時代はすでに過去のものになりつつある。日本では世界に先駆けて 携帯電話でインターネットに繋げるようになった。メールの送受信はもとより、曲のダウンロードからチケットの予約、 銀行預金の引き落としなどサービスの質はすでにPCと比べて遜色ない。
 またPDAと呼ばれる携帯端末の普及によって、PC離れはさらに進むだろう。

 加えて、PC業界はあまりに熾烈な競争の結果、すでに利益を出しづらい体質になってしまったことにも注意する 必要がある。利益を出せるのはせいぜいMPUなど基幹技術を握っているところだけであり、メモリーメーカーや HDDなど周辺機器メーカー、組み立てメーカーなどは利幅を稼げないでいる。
 しかも処理能力のベースアップによって、高性能なPCはコストパフォーマンスが合わなくなっているうえ、OSで独禁法の 疑いをもたれているマイクロソフトのWindowsでさえ、新バージョンを出しても盛り上がりに欠ける事態に陥っている。
 来年中に発売が予定されている次期OS「ウィスラー」をいったいどれほどの人が心待ちにしているだろう。
 現在のOSの利用に難がなければ、新OSをインストールするのは費用をかけてドライバを再インストールしなければならないだけの (しかも未対応のリスクを負って)、単なるお荷物に過ぎないのだ。

 これまでPCの比重が7割近くもあったLCD(液晶モニター)でさえ、来年中には携帯端末に出荷量でトップの座を 明け渡すことが確実視されている。
 マイクロソフトはPCの時代が終わることを敏感に察知して、ゲーム業界にその触手を伸ばそうとしている。

◆最悪のタイミングで来年の3月を迎える日本
 さて、掲載したいことはまだまだあるが、長くなるので最後に日本について書き記しておこう。
 日本にとって来年は試練の年になるはずだ。企業会計に時価評価が導入され、それに伴い持ち合い株の解消が今後進むからだ。 当然、株式市場に大量の株式が流れ出ることになり、株価低下の原因になる。
 しかも退職金給付会計が導入されると、企業の退職金給付不足が表面化することになり、これも株価を下落させる 力として働く。タイミング的には、なかなかどうしてまさに最悪のタイミングという名にふさわしい。
 すでに来年度の予算は真水の部分が今年度に比べて半減しており、景気後退の危険性をはらんでいる。
 それ自体は財政再建という観点から正しいと思うが、これもまたタイミング的にはどんぴしゃりで最悪である。

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