『捕らわれた太陽 6』 ドンッ、ガシャン・・・ 「っっ!?」 人と人が揉み合うような音が聞こえ、大は意識を取り戻した。 「な、なに?」 ベッドの上に起き上がり、大はオロオロと周りを見回す。 しかし部屋の中は真っ暗で、何も見えない。 どうやら音は、隣りの部屋から聞こえているようだった。 大が手探りで立ち上がろうとしたとき、ガチャリとドアが向こう側から開 かれた。 「誰っ!?」 大が叫ぶのと、部屋の電気のスイッチが入れられたのは、ほぼ同時だ った。 パッと部屋が明るくなり、大は眩しさに何度もまばたきをする。 ようやく目が慣れたとき、大が見たものは――― 両脇を2匹の鬼に抱え上げられている時広の憐れな姿だった。 「時広さんっ!?」 訳がわからずうろたえる大に、片方の鬼がやんわりと言った。 「大丈夫だ。我々はこの外道から、君を保護しに来た。」 「ほっ、保護?」 「ああ、そうだ。」 「一体どういうことですか?あなたがたは時広さんのお仲間じゃないんで すか?」 大はだいぶ落ち着きを取り戻しつつあった。 鬼のもう片割れがフンと鼻で笑って、 「仲間か否かと問われたら、答えは『否』だ。こいつはあくまで所詮飼い犬 にすぎない。」 「阿鬼っ、喋りすぎだぞ。」 「―――すまん。」 「飼い犬・・・?」 大は不思議そうに2匹の鬼を交互に見た。 まあ耳慣れない言葉に戸惑うのも無理はない。 「―――お前の荷物はリビングに置いてある。中身も全て無事だから、安 心しろ。」 また片割れの鬼が言う。 大は思わず笑顔になって、「ありがとうございます!」と律儀に頭を下げ る。 「!?」 まともに大の笑顔を見た鬼の顔が、うっすらと赤くなった(かに見えた)。 「おい、吽鬼。何照れてやがる!?」 「て、照れてなどない。」 ここで、2匹の鬼に抱え上げられ、ずっと黙っていた時広が、フッと初め て笑みを見せた。相変わらず皮肉げな、そしてどこか余裕のある笑み。 「おいっ、何がおかしい!?」 途端に気色ばむ阿鬼に、時広はさらにクスリと笑う。 そして――― 「大君に惚れないで下さいよ?まだ俺が口説いてる途中なんですから!」 などとのたまう。 「ええっ!?」 ここで奇声を上げたのは、大だ。 (俺って、時広さんに口説かれてたのか・・・?) 真剣に悩んでみたりして。 「あれぇー?もしかして気付いてなかったの?大君。ショックだなぁ。」 おどけたように言う時広に、 「・・・はい////」 何故か顔を真っ赤にして照れる大。 「おい、コラ!勝手に話を進めてんじゃねぇっ!!」 阿鬼の怒鳴り声で、ようやく我に返る大であった。 「時広・・・まだ自分の立場がわかっていないようだな?」 吽鬼の低く澱んだ声に、時広が一瞬肩を竦める。 「へいへい、わかってますよ。」 しおらしくなった(ように見える)時広にケッと吐き捨てて、阿鬼が大に目 を向けた。 そして、一言。 「じゃあな、坊主。」 続けて吽鬼も、 「俺たちが去ったら、適当に出て行くといい。」 と言う。 大は少し複雑そうな表情をしながらも、 「はい。」 と素直に返事をするのだった。 「あ、あの・・・1つだけいいですか?時広さんは・・・その・・・・大丈夫なん ですか?」 「!?」 大の言葉に、時広は驚きに目を見開いた。 そして―――クスリと笑うと、 「大君、やっぱり君って面白いよv自分を誘拐したうえ、こんなところに監禁 してたヤツのことをわざわざ心配するなんて、ね。」 「で、でも・・・」 それでも何かを言い募ろうとする大を制して、 「俺のことなら心配いらないよ♪」 時広はいつもの飄々とした態度で言った。 大が頷くのを合図に、2人の鬼が時広を連れて行こうとする。 最後の抵抗とばかりに振り返った時広が、 『××××××××××××××××××××××』 最後の言葉を残す。 その言葉が、この先ずっと大の心を捕らえて放さないとは、このときまだ 気付く由もなかった―――。 どれくらいの時が経ったのか――― 片角の鬼2匹が時広を連れて行ってから、大はベッドの上に腰かけたま ま、茫然自失状態に陥っていた。 今までの色んな出来事が、走馬灯のように駆け巡る。 (動かなきゃ!) そうは思うものの、なかなか体は言うことをきいてくれない。 それに不安もあった。 (ここって一体、どこなんだろう・・・?) 見知らぬマンションの一室に独りぼっち。この状態がさらに大の不安を煽 っていく。 (動きたいけど・・・動くのが怖いっ!) いっそここで目を瞑ってしまったら、次に目覚めたときは、自分の家で自 分のベッドにいる―――そんな・・・全ては夢だったというオチだったりはし ないだろうか・・・? 埒もないことをグルグルと考えてしまう大の精神状態は、限りなく危うい ところにあった。 (助けてっ・・・誰か・・・・・誰か・・・・・茜っっ!!) と、その時――― ガチャリと玄関のドアが開く音がした。 大の心臓が音を立てて跳ね上がる。 そのまま誰かが部屋に上がり込む気配がして・・・大は恐怖のあまり声も 出せず、ただじっと息を潜めていた。 (もしかして、またあの片角の鬼が戻って来たのだろうか・・・?) 想像が嫌な方へ嫌な方へと流れていく。 時間にすれば、ほんの数秒。 しかしその数秒が、大にはとてつもなく長く感じた。 「大っ!」 (あれ?茜の声・・・?) 「大っ、どこだ!?」 (やだなー、ついに幻聴まで聞こえてきちゃったよ・・・。) 「大っ!!」 バターンッと大のいる部屋のドアが開け放たれた。 そして。 目の前に立っていたのは――― (茜!?) 大は一瞬、自分が都合のいい夢を見ているのではないか?と思った。 しかしこれがすぐに現実なのだとわかったのは、大の姿を見た瞬間に茜 が大を抱きしめてきたから。 その茜の力強い腕が、温かな胸が、そして広い背中が―――その全て が大にこれは現実なのだと伝えていた。 「あか・・ね・・・?」 「大っ、無事で良かった!!」 「茜〜〜っ!!」 大はとうとう泣き出してしまった。 安心したことで一気に涙腺が緩んだのだろう。 「大・・・もう大丈夫。大丈夫だ。」 「うん・・うん・・・」 茜の胸にしがみ付いて泣きじゃくる大。 その間ずっと茜は大の背中を、髪を、優しく撫でていた。 そしてずい分と経った頃――― 「大、お帰り。」 「ただいま、茜。」 2人はようやく笑顔で言葉を交わし合ったのであった・・・。 【7へ続く】 [途中書き6] え〜っと、もうすぐ終わりというところで、だいぶ間が空いてしまって、すみま せんでした>< 久しぶりの「捕らわれシリーズ」続編、いかがだったでしょ うか?(ドキドキ)今回のメインテーマは、「祝☆大君救出!」・・・でいいんで すよね?(←誰に聞いてるの?)そして主役は、片角の鬼さん’sでした(違)。 もとい、茜ちゃんかもしれない・・・(笑)。結局美味しいところをぜ〜んぶ茜ち ゃんが1人で持っていっちゃいましたねぇ(と人事のように言ってみる<また か)。白馬の王子様は茜ちゃんだったんだ(ププッ、赤髪に白馬・・・似合わな い←暴言)。 時広さんの最後の台詞、『××××』の×の数には特に意味はありません ので、お気になさいませんように。ようするにちょ〜っとばっか長ゼリフという ことです(苦笑)。大君も救出されたし、これでなんとかハッピーエンドに近づ いた気がするのですが・・・これって時広×大よね?というツッコミがどこから ともなく聞こえてくるような(屍)。アハハハ。こ、こんな6話でしたが、ご感想 など頂けましたら嬉しゅうございますv そしてそして、次回の7話がいよいよ最終回になりますので、あともう少しお 付き合い頂けましたら幸いです>< |