『捕らわれた太陽 7』 後日談――― 石黒の喫茶店には、明凌連(+明凌朝日奈派)の面々、そして四校同盟 の各代表(他)である、小野田正継(+弟:典仁)・白波・中城(&高里)が集 まっていた。 皆、緊張した面持ちで何かを待っている。 壁にかかった時計の秒針が、静寂の中、コチコチと時を刻み続ける・・・。 そして――― その短針が4の数字を指したとき、喫茶店の扉が外から開かれた。 カランカラーン♪と喫茶店特有の音が奏でられる。 「こ、こんにちは!」 遠慮がちに入って来たのは、朝日奈大。 やはりこちらも緊張の面持ちである。 そしてその後ろからもう1人―――。 「おら、ウッキー。早く入りやがれ!」 「イタタタッ。もうっ、足で蹴るなって・・・。」 相変わらずの傍若無人っぷりは、もちろん御堂茜その人である。 中に入った2人は、石黒に勧められるままに、皆の中心に位置する椅子に 並んで腰かけた。 「あの・・・」 一呼吸置いてから、大が口を開きかけたとき、 「朝日奈ーーーっ!!!」 急に宗近がガバッと大に抱き付いた。 「むっ、宗近さんっ!?」 大は驚きに目を見開く。 しかし次の瞬間――― 宗近の顔を見た大は、さらなる衝撃を受けた。 (な、泣いている・・・!?) そう、宗近の目からは、透明な雫が幾筋も流れ落ちていた。 「朝日奈・・・無事で良かっ・・・本当に・・・・良かった・・・・。」 途切れ途切れの声。 しかしどれだけ大のことを心配していたかは、十分すぎるほど伝わってく る。 「宗近さん・・・心配かけてごめんなさい。」 大も思わず涙ぐみながら、宗近の背中に腕を回し、ぎゅっとしがみ付いた。 ある意味、感動の場面とも言えるこのときに、堂々と水を差したのは、や はりというか暴君こと御堂茜だった。 「おら、いつまで抱き付いてやがる!?」 一言吐くと、そのまま大を宗近から引き剥がす。 宗近はあからさまに残念そうな顔をしていたが、周りの連中は、ひそかに 心の中で、『御堂、よくやった!』とか思っていたりする。 大が椅子に座り直したところで、改めて仕切り直しとなった。 「あの・・・今回は皆さんに大変ご心配をおかけしてしまって、本当にすみま せんでした。街中を走り回って俺のことを探して下さったことも聞きました。 本当に・・・・もう何て言っていいのか・・・・俺・・・俺・・・・・」 声を詰まらせて俯く大。 周りは皆、「何言ってるんだ、仲間なんだから探すのは当然だろう?」と か、「朝日奈が無事で良かったよ。」等、口々に温かな言葉を大に返した。 「ありがとうございます・・・。」 そう言って顔を上げた大は幸せそうに微笑んでいて―――皆はその笑顔 に、今までの心配や不安が全て浄化されていくのを感じていた。 「それにしても、土曜の夜中に、朝日奈自身から連絡が入ったときは、正直 驚いたよ。」 そう言ったのは、石黒だ。 大は土曜日の夜、御堂茜の手によって無事救出された。 それから茜の家に連れられ、ようやく落ち着いたところで思い出したのが、 自分を心配してくれているであろう皆の存在だった。 それまでは自分の不安や葛藤で頭が一杯だった大だが、冷静さを取り戻 したとき、真っ先に自分がどれほど皆に心配をかけているのかということに 思い至ったらしい。 このへんは、やはり大らしいところだろう。 ちなみに、茜は皆が心配していることを十分にわかっていたはずだが、そ れを大に伝えることはなかった。このへんも茜らしいと言えば、らしいかもし れない。 大は慌てて石黒と宗近に連絡を入れ、自分が無事であることを伝えた。 それから石黒と宗近の2人が、手分けして連絡網を回し、土曜の夜中のう ちには、全員が大の無事を知ったというわけである。 それは―――ちょうど皆が街中を走り回り、何の手がかりも得られないま ま焦燥感に駆られていたときから、わずか数時間後のことだった。 その日、眠れぬ夜を過ごすはずだった皆が、喜びに打ち震え、熟睡できた ことは言うまでもない。 この瞬間、翌日の『朝日奈大探索』は、もちろん打ち切りとなった。 その後――― 大の精神的・肉体的疲労を考慮して、3日後の今日、大が拉致されてから 初めて、皆は彼の元気な姿を目にすることが出来たのであった・・・。 「でも俺は、1つだけ気に入らないことがあるんだよな・・・。」 ボソリと呟いたのは、宗近だ。 「何ですか?」 大の問いかけに、宗近は一瞬口篭ってから、茜の方を向いて、こう言い放 った。 「何で朝日奈を助けたのが、御堂、お前なんだよ!?俺はそこが気に入らな い・・・。」 茜はフンと鼻で笑ってから、 「それは俺様がウッキーのご主人様だからだ。」 と言った。 「何だと!?」 「何だ?」 2人の険悪なムードを断ち切ったのは、東堂の一言だった。 「それより、御堂。お前はどうやって朝日奈のいる場所を突き止めたんだ?」 「ああ、それは俺も気になっていた。」 「俺もだ。」 「俺も。」 皆が口々に同意する。 茜は一瞬黙ってから、すぐにニヤリと笑い、 「んなもん企業秘密だ。」 と言うのだった。 その後、皆のブーイングが喫茶店内に響き渡ったことは言うまでもない。 結局――― 「どんな方法でもいいよ。助けてくれてありがとう、茜vv」 そんな大の言葉と、そのときに見せたスーパースマイルが、皆のそれ以 上の追及を押し止めたのであった。 大にはわかっていたのかもしれない。 茜が何らかの無理をしてまでも、自分のことを助けてくれたのだというこ とが。 そしてその方法が、決して人に口外できるものではなかったということが。 しかし大には、そんなことはどうでも良かったのだ。 ただあの不安なときに、茜が自分の元に来てくれた―――その事実だけ があればそれで・・・それだけで幸せだったのである。 その後も、皆がワイワイと盛り上がる中、大は輪の中心で幸せそうに微笑 んでいた・・・。 しかし――― 大の脳裏から、決して時広の姿が消えることはなく。 この先もずっと彼が残した最後の言葉が、大を縛り続けていくことになる のだった・・・。 『大君、次に会ったときは、必ず君を捕らえてみせる。そう、君は俺の獲物 だ。俺だけの―――』 (時広さん・・・) 大は気付いていた。 次に時広に会ったとき、自分が彼を拒む自信がないということに。 (俺は一体どうすれば・・・・・?) もう大は、とっくに時広に捕らわれてしまっているのかもしれない―――― 【END】 [後書き] 終わりましたーーーっ!!!いや〜長かったですねぇ・・・(しみじみ)。 ここまでお付き合い下さった皆様、本当にお疲れさまでした&ありがとうご ざいました>< 正直、書き始めたときは、こんなに長くなるなんて思ってもみませんでした。 途中、どこまでいくんだ?コレ・・・と不安になったりもしましたが、感想を下 さったり、頑張れと励まして下さったりと、皆様の優しさに支えられて、こうし て無事ENDマークを付けることが出来ましたvv本当に感謝しています>< 最後の終わり方には、ちょっとスッキリしないぞ!?と思われる方もいらっ しゃるかもしれませんが、紅月的にはわりと始めのうちからこんなかんじに しようと決めてました。この『捕らわれシリーズ』は、あくまで【時広×大】の お話ですから!!(笑) あと1話というところで、激しくアップが遅くなってしまって、すみませんでし た。本当は去年のうちにあげたか・・・(←黙れ)。 そして最終話に期待して下さっていた皆様(がもしいらっしゃれば)、期待 外れだったのではないかと非常に心配です(ビクビク)。少しでも楽しんで 頂けたらよいのですが・・・。感想など頂けたら本当に嬉しいです>< それでは、『捕らわれた太陽』全7話を読んで下さった全ての皆様に愛を込 めて――― 2004.1.11 ■紅月しなの■ [ちょこっとインフォメ] このシリーズの番外編(『もしも君を抱きしめていたなら』)収録の鬼組本を 2004年8月に発行しました。もし興味が湧かれましたら、『オフライン』のペ ージをぜひご覧下さいませ>< |