『捕らわれた太陽 5』






 御堂茜は明凌高校に戻っていた。
 目的は1つ。
 唯一、大の行く先を知っていそうな人物に会うためである。
 不本意ではあるが―――。
 時刻は15時半。
 土曜日ということもあり、皆はすでに下校してしまっている時間ではあるが、
『奴』ならまだ校内にいる。茜にはそんな確信があった。
 根拠はない。
 しいて言えば、『悪だくみ』なら、人気のない放課後が1番適しているから
である。
 しばらく校舎内をうろうろして―――3階の窓からなにげなく裏庭を見下ろ
したとき、『奴』の姿が目に入った。
(いたっ・・・!)
 茜はダダダッと一気に階段を駆け下り、ものの20秒ほどで裏庭に辿り着い
た。
 目の前に突如現れた茜を見て、相手は『おや?』という顔をする。
 その飄々とした態度に、茜の中の怒りゲージが上昇する。
 しかしここでキレていては始まらない。
 どうにか1つ深呼吸をして、茜は用件を切り出した。
「おまえに聞きたいことがある。」
 相手―芹十夕凪―は、フンと鼻で笑ってから、こう言い放った。
「それが人に物を頼む態度か?」
 またまた茜の怒りゲージが上昇する。
 もはやMAXまであと一歩という状態だ。
(大のためだ・・・大のためだ・・・・耐えろ、御堂茜。)
 心の中で、呪文を唱えるように自分で自分を励ます茜である。
「チチッ。」
 茜の肩の上では、ペットのジャンガリアンハムスター『スイカ』も、旗を持っ
て応援していた。
 頑張れ、茜!!
「えーっと、教えて欲しいことがあるんだ。頼む!」
 茜はガバッと頭を下げた。
 さすがの夕凪も、そんな茜の様子に息を飲んだ。
(この『オレ様』の塊のような男が、人に頭を下げるとは!)
「わかった。で、一体俺に何を聞きたいっていうんだ?」
 茜は顔を上げ、正面から夕凪を見据えた。
 そして―――
「大がどこにいるのか教えて欲しい・・・。」




 長い長い沈黙があった。
 ようやく口を開いた夕凪は、不思議そうな表情をしていた。
「ちょっと待て、御堂。大というのは朝日奈大のことだろう?今日は確か欠席
してたと思うが、家にいるんじゃないのか?俺よりお前の方が奴との付き合
いも長いし、家くらい知っているだろう?どうも俺に聞くのは筋違いのような気
がするんだが・・・?」
 ここまで一気に言って、夕凪は茜を見据え返した。
 まるで茜の反応を楽しむかのような目付きで。
 茜はククッと不敵に笑い、こう告げた。
「そんな『表向き』の回答が聞きたくて、オレ様がわざわざ頭を下げたとでも
思っているのか?」
 夕凪の目付きが一瞬鋭くなった。
「どういう・・意味だ?」
「オレ様はおまえが何者だかは知らん。まあ興味もないしな。だが、裏で時
広と繋がってることはわかってんだ。どうやら時広が大を連れて行きやがっ
たのは間違いないようだからな。だからそれを踏まえたうえで、大の居場所
を教えてくれと頼んでるんだよ、オレ様は!」
『どーだわかったか』とばかりにふんぞり返る茜に、夕凪は微笑で答えた。
 そして、一言。
「時広って誰だ?」
「うがーっ、あくまでシラを切るつもりか!?おまえもやっぱりあのサルの仲
間だな。いけ好かねぇところなんかそっくりだぜ。」
「フッ・・・アハハハッ。」
 急に爆笑し始めた夕凪に、『おいおい、こいつイカレやがったか?』とか失
礼なことを思う茜である。
 しかし次の瞬間―――
 夕凪の口から出た言葉は、まさに茜の聞きたい言葉そのものだった。
「まぁったく、負けたよ。そこまで必死になられちゃーな。とりあえず朝日奈が
時広に拉致られたという情報は入っている。場所も先程報告が入ったところ
だ。今住所を書くからちょっと待ってろ。」
 夕凪は傍らに置いてあったカバンから紙とボールペンを取り出し、サラサラ
とそこに書き付けていく。
 そして―――
「ほらよ。」
 その紙を茜に手渡した。
「恩に着る。」
 茜は受け取った紙をしっかりと握りしめ、その場を後にした。
 と思ったら、一度途中で振り返り、
「おいっ、オレ様は別に必死こいちゃいねぇぞ?ただ、大はオレ様の下僕だ
から、オレ様以外の奴にいいようにされるのは我慢ならんだけだ!そこんと
こ間違えんなよ?」
 大声で怒鳴る。
 夕凪は目を丸くして―――
「ああ、わかったわかった。そういうことにしといてやるよ。」
 とさらに爆笑しながら返すのだった。




(まっ、時広も俺の仲間じゃなく、飼い犬にすぎないんだけどね。)
 心の呟きは、もちろん茜には届かない。
「こういうのを飼い犬に手を噛まれるっていうのかな?・・・どう思う?阿鬼、
吽鬼。」
 一体どこにいたのか、スッと夕凪の傍らに、2匹の片角の鬼が現れた。
「はい、まことに腹立たしいことですが。」
「はっ、右に同じく。・・・あの野郎、どう処分いたしますか?」
「まあとりあえず俺の前に連れて来い。無傷で、だ。処分は奴に言い分を聞
いてからでも遅くはあるまい?」
「「ははっ!」」
 綺麗に重なった返事の後、2匹の鬼の姿は掻き消えていた・・・。
 後に残ったのは、白い鬼が1匹。
 ククククッと不気味な笑いの奥で、一体何を考えているのか?
 それは誰にも窺い知ることはできない――――。



                       ☆



 その日―――
 明凌連の面々は、誰一人として朝日奈大の行方について、手がかりすら
得ることはできなかった。
 広範囲に渡り、走り回った皆の顔には、色濃く疲労の跡が滲んでいる。
 何の手がかりも得られぬまま、石黒の喫茶店に集まった皆の空気は、や
はりというか重かった。
 石黒が何か言葉をかけようとして、結局口を噤んでしまう。
 さすがの石黒もかける言葉が見つからなかった。
「朝日奈・・・。」
 涙目で呟くのは、宗近だ。
 もはや彼は、半分放心状態に陥っていた。
 隣りの松尾も、やはりかける言葉が見つからず、俯いて唇を噛み締めるこ
としかできない。
「これだけ探しても何の手がかりも得られないなんて―――お手上げってか
んじ?」
 ちょっと茶化したように言う壱茶に、照宇のゲンコツが飛ぶ。
「イッテェーッ、何しやがる!?」
「空気を読め、空気を。」
「・・・わりぃ。」
 しばらくの沈黙の後、重苦しい空気を振り払うように口を開いたのは、明凌
連頭(ヘッド)こと東堂だった。
「とりあえず今夜はもう遅い。幸い明日は日曜だし、もう1度朝9時にここに集
まって、どうすべきか考える・・・というのでどうだ?」
「東堂の言うとおりだな。」
 女房役の四方が言えば、
「仕方あるまい。」
「まあ他にどうしようもねぇしな。」
 照宇、壱茶が答える。
 後藤が「わかりました。」と頷き、神南が無言で首を縦に振る。
 そして松尾が、
「明日は、他の同盟3校にも協力をお願いしてみませんか?もしかしたら目
撃者が見つかるかもしれない。・・・こうなったら、正直藁にも縋る思いです。」
 と提案する。
「ああ、そうしよう。」
 東堂他、全員がコクリと頷いた。
 ただ1人、放心状態の続く宗近を除いて、だが。
「じゃあ今日は解散っ!」
 東堂の号令で、その日の捜索は打ち切りとなった。
 後に残るのは、不安とほんの少しの希望。
 そして止め処もない焦燥感だけ――――。






                                        【6へ続く









[途中書き5]
まだ続くのか・・・とかそういうことはもはや何も言うまい(苦笑)。
えーっと、今回は茜ちゃん&夕凪ちゃんが主役・・・ですか?(聞くな)
今回初登場の夕凪ちゃんは、ケムマキ様に捧げます(勝手にお名前出してし
まって申し訳ありません。夕凪×大ではありませんが、お許し下さいませ)。
今回の内容についての最大の疑問(かも?)である「茜ちゃんは何故夕凪ち
ゃんが時広と繋がりがあると知っていたのか?」につきましては、皆様のご想
像におまかせします・・・ということで御了承下さいませ〜(逃亡)←コラ
長いこの『捕らわれシリーズ』(笑)も、これで少し終わりが見えてきたような
気がします(多分)。もうあと少し、お付き合い頂ければ幸いですv
というか、今回大君の出番がなかったよ〜(泣)←紅月は大君スキーです

注.今回ちょこっと登場した片角の白鬼さんですが、『うんき』の字が原作と
異なっているのは、うちのパソでは漢字が出なかったからです(汗)。すみ
ませんがお見逃し下さいませ〜。




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